慣性に関わるニュートン力学の矛盾

 
 

(2015年5月6日)


 慣性(inertia)とは物体(または物質)の一つの性質です。物体は力を加えない限り運動状態を変えません。このことを物体には慣性があると言います。宇宙におけるあらゆる物質が共通に持っている性質であると考えられています。

   ニュートンは上述の慣性から運動の第一法則として、「力を加えない限り静止している物体は静止したままであり、運動している物体は等速直線運動を続ける」としました。ニュートンの運動の第一法則は慣性の法則とも呼ばれる由縁です。

   ここで思考実験です。

   今、あなたは窓の無いエレベータのような個室に閉じ込められて宇宙空間のどこかにいるとします。あなたはどの壁にも触れずに浮かんでいるでしょう。(注1)

   このとき、室内にいるあなたは静止しているのか等速直線運動をしているのか全く判断できません。

   全く判断できないということは静止しているエレベータの個室中での物理法則が等速直線運動をしている個室中での物理法則と全く同じでなければならないということです。(注2)

   さらにこの窓の無いエレベータの個室が自由落下している場合も静止または等速直線運動をしている個室と同じ状態にあるのです。自由落下している物体は加速度運動の状態です。(注3)

   a) ニュートン力学では、物体が自由落下で慣性運動をするのは重力と称する力が加わっているからだと説明されます。すると自由落下は慣性運動ではないことになります。

 地球をまわる人工衛星も常に自由落下の状況にあります(注4)が慣性運動ではないと言わざるを得ません。ロケットが推力停止をすると「慣性飛行に入った」と言いますがこれは間違っているのでしょうか。人工衛星はエネルギーの補給をしなくても何時までも地球を回っていることができます。これも慣性飛行だからと言うと間違いになります。

   b) ニュートン力学では、自由落下中の物体には重力と称する力が加わっているが常に慣性力と釣り合っている、だから自由落下をしている物体に力は加わっていないのであるとも説明されます。この説明であると加速度運動も慣性運動に加えなければなりません。するとニュートンの慣性の法則に矛盾することになります。自由落下では力が加わっていないのに運動が変化していますから。

  ニュートン力学では、a)とb)のどちらの説明でも、慣性の定義と重力による運動に矛盾が生じています。矛盾がないように定義を変えることは容易い事ですが自然をより良く説明できることが肝心です。すると次のように書けるでしょう。

  慣性とは物体が重力による運動(自由落下)を維持する性質をいう。重力がない場合には力を加えない限り運動状態を変えない性質をいう。そして、重力は力でない。(注6)、(注7)

  はじめに慣性は物体の性質と書きましたが、ここまで考えると慣性とは時空の性質のような気もしてきます。如何でしょうか。そして、重力が力でないことを認識することがアインシュタインの思想を辿る第一歩であることは間違いありません。

(完)

(注1) 上下がありませんから浮かんでいるという表現は必ずしも適切ではありませんが他にうまい表現方法はありません。

(注2) このこと(等価原理)と「光の速度が観測者の運動に関わらず一定である」という原理(光速不変の原理)から特殊相対性理論が導出されました。

(注3) 自由落下している個室内も静止している個室と同じ物理法則が成立しなければならないことにアインシュタインが気が付いたのは1907年のことでした。この発見をもとに導出されたのが一般相対性理論です。

(注4) 自由落下にあって何時までも地上に落ちないのは人工衛星の速度が大きいことと地球が丸いからです。

注5) 物理学者が重力を「力」と説明していることも多いが、正確には相互作用であるというべきところを、素人に判り易くとの考えからのようです。「力」の根源が相互作用であることは確かです。

注6) 重力が力であることは実証されていません。キャベンディッシュの実験がありますが、その実験も地上の物体間にも重力があることを実証しただけで力であることは実証されていません。星の運動を観測したデータは力の実証ではないのです。

(注7) 一般相対性理論では慣性運動を静止、等速直線運動、自由落下の3種類とすると説明している本もありますが、ニュートン力学の範囲でも矛盾を直す必要があるのです。

(了)


戻る