(2018年1月19日) 物理の一般向け解説本で質量については慣性質量と重力質量の用語が出てくる。そして、実験的にもこの差はほとんど認められないから、「等価原理として慣性質量と重力質量は同じと認める」のであると説明されている。 しかし、重力質量という概念はそもそも持ち込む必要がなかったものであるいから、実験で差は認められないのは当然であるし等価原理とする必要もないのである。 このことを記載した物理学者は殆どいなくて、私が調べた限りでは小野健一だけである。小野健一はアインシュタインの考えと断ってはいるが次の本の中(p.182)で「そもそもアインシュタインの解釈では、自由落下は慣性運動であり、物体には重力など働いていないのであるから、重力質量なおというものは、そもそも持ち込む必要がないのである。」と書いている。 「アインシュタインの発想」、小野健一、講談社、1981年 すべての物体に保有する性質が質量である。「質量とは何か」と問われたとき、「重さのことである」という回答で50年前まではほとんど間に合っていた。実際、質量の単位であるkg(キログラム)を重さでも今でも混同して使っている。重さとは地上置かれた物体の質量が発生する力であるから単位はN(ニュートン)である。実際、国際宇宙ステーションの中ではすべての物体に重さはないし、月面上では地表に比べ1/6の重さしかない。 質量とは慣性の大きさを示す量なのであって、慣性質量の名でも呼ばれる。慣性とは力に対する運動変化の起こりにくさである。力をF、物体の質量をm、加速度をαで表すとF=mαの関係がある。F=mαはニュートンの運動方程式でもある。この式のmが慣性質量である。 一方、重力質量はニュートンの万有引力の式で表された質量を指している。 万有引力の式: ・・・ (1) ここで地球表面に置かれた物体の重力を考えると、(地球の自転による遠心力を無視すると)重力は万有引力に等しくなる。Fは地球表面での万有引力、Gは万有引力定数、Rは地球の半径、Mが地球の質量、mが地球表面上の物体の質量 ニュートンはハレ―に対して、(1)式によりケプラーの3法則が導けることを示したのである。ニュートンがこの式をどのようにして考え付いたかは二通りの説明が考えられる。 @ ケプラーの法則から導いていた。 ケプラーの法則はチコ・ブラーエの観測データの中から特に惑星である火星と木星のデータから導かれた3法則である。これらの法則は星の観察データであるから、時間と位置のデータである。これらの次元のデータには力も質量も入っていない。従って、3法則から導ける物理量は加速度までであって力ではない。万有引力の式が力の次元の式になっているのは、誘導の途中で加速度をF/mに置き換えているからである。この置き換えはニュートンによる仮説であったことになる。 F/mで置き換えたということはmが慣性質量であったことを示している。また、万有引力の式はmとMが相互に対等であるからMもまた慣性質量であるとしなければならない。 A 天下りに逆二乗則を考えた。 当時、電磁気力の逆二乗則はできていなかったが、考え方は同じである。半径rの球の表面積が4πr^2で示されることから電気力線が距離の二乗で力が弱くなることは容易に理解できる。重力についても電気力線と同じような重力線のようなものを考えると逆二乗則になるのではないかとの考えられた。 比例定数として仮にAであると仮定するとF=A/R^2になる。ニュートンの偉大なところはこの力は星の質量に比例するに違いないと考えA=GMmとしたことである。ニュートンは重力質量と慣性質量の違いを考えなかったと思われるが、仮に重力質量は慣性質量のγ倍であると仮定すると、F=G’γ^2Mm/R^2となる。そこでG=G’γ^2とおけば(1)式となる。 つまり、重力質量が慣性質量と違うと仮定しても万有引力定数にその違いは吸収されてしまう。 @であると万有引力の式の名はケプラー・ニュートンの万有引力の式という名で呼ばれたであろう。従って、Aであろうが、こちらであっても重力質量の概念は当初から不要であった。違う理由がないのであるから等価原理で同じとするまでもなく不要の概念である。 (了) 戻る
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