(作成:2012年8月8日) ウエットスーツを着て潜るスキンダイビングでは腰のベルトに1個1Kgの鉛のウェイトを数個つける。ウエットスーツの浮力を打ち消さないと体が浮いてしまって潜ることが難しいからである。浮力をうまく調整すると息を吐くだけで静かに沈み、タンクから空気を吸って少し肺を膨らませると浮き上がる状態になる。丁度よくバランスさせると浮き上がりも沈みもせず水中にじっと留まることができる。
この状態を中性浮力(Neutral Vuoyancy)と言う。人間の体は比重が殆ど1に近いので呼吸を調整するだけで中性浮力の状態にすることができる。この状態は少し泳げる人なら誰でもプールで経験することができる。
宇宙飛行士の無重量状態を模擬しているとして、宇宙飛行士の地上で訓練の一部にも採用されている。地上の水中における中性浮力の状態と宇宙ステーション内の無重量状態とはどちらも水中または空中に漂っているようで見かけは似ているが無論異なる。
見かけ上最も異なるのは、水中では動くときに抵抗があるということである。実際、宇宙服を着て船外活動をした宇宙飛行士は地上での訓練の方が疲れると証言している。
ところが、単に水中では抵抗があるからという理由で異なるのではない。水中の抵抗の差だけならば、水槽ごと宇宙に持ち込んだ鯉やめだかの実験は殆ど宇宙で実験する意味がなかったであろう。
地上における水中浮力の状態は、浮力と重量の釣り合い、つまり力の釣り合い状態にあるのに対し、宇宙ステーション内の無重力状態は、重力が消えている状態、つまり力が作用していない状態なのである。
ニュートン力学では、宇宙ステーション内の無重力状態は重力と遠心力が釣り合っているから、という説明がなされるが、これは間違いである(アインシュタインの1907年の閃きと本質的に同じこと)。
思考実験として、地上のプールの中で中性浮力をしている人を、プールごと宇宙ステーション内に運んで無重力状態にしたらどうであろうか。力の釣り合い状態から力が働いていない状態になるのである。物理的な状態が異なるのである。実際には人間の感覚はあまりすぐれていないから、この差は判らないかもしれない。しかし、感度の高い圧力センサを体に取り付ければ判るであろう。魚で何かこの環境の差が見つかるのではないか考えたのが宇宙メダカであり宇宙鯉の実験であった。
プールの中で中性浮力の状態にある人間はどのように力の釣り合い状態にあるのであろうか。 人間の受ける浮力は、体の下面から受ける水圧が上面から受ける水圧より大きい、つまり水圧の差を体全体に積分したものである。中性浮遊の状態が水面近くであっても100mの深海であっても浮力の正体は圧力差である。 重力は力でなく、物体に加速度運動を起こすものであるが、これに抗すると慣性力が働く。丁度動かない程度に抗するときの慣性力を重量と呼ぶものである。従って、浮力と釣り合っている力は重量である。(空を飛ぶ飛行機が揚力と釣り合っている力は重量である。)
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