力と相互作用  

(2015年3月14日)


  一般的に自然界には4種の力があるとされています。それらは、重力、電磁力、弱い力、強い力です。第5の力もあるのではないかと研究している人もいるようですが、今のところは確認されていません。

  物理の解説書によっては4種の力と言わずに、重力、電磁力、弱い相互作用、強い相互作用があるとしているもの、さらに4種の相互作用があると書いてある本もあります。

  何故、力であると言ったり相互作用であると言うのでしょうか。まったく同じなのでしょうか。人は自分が一度判ってしまえば、どちらで表現しても構わないと考えるのでしょう。解説書を書いている物理学者もあまり気にしている様子はありません。

  最初に、この二つの用語の意味を明らかにする必要があります。

  相互作用という言葉は相互に作用するということですから、二つの物体がお互いに影響を及ぼすことです。作用の実態はいろいろ考えられるでしょうが、相互作用の意味は相互に作用することで良いとしましょう。

 二つの物体として二個の電子を考えると、この二個の電子は同じマイナスの電荷を持っていますからお互いに離れようと運動します。この場合、相互作用が表す影響は運動の変化です。作用するという言葉は二つ以上の物体を想定しています。一つでは変化することはあっても作用することはありません。

 一方、力という用語は広く使われていますが物理の用語は明解です。力とは物体に次の二つの影響を及ぼす作用です。

  1. 力が物体に作用するとその物体に加速度運動を生じる。つまり、物体の運動に変化をもたらす。

  2. 力が物体に作用するとその物体に応力・歪を生じる。

 物体に力を及ぼすとその物体は加速度運動を生じるとともにその力に釣り合う慣性力が発生するのです。その慣性力の大きさは物体の質量に発生する加速度を乗じた量に等しいのです。なぜなら、これは質量の定義そのものなのです。質量とは物体の動きにくさの尺度に他なりません。

 力は物体の表面から2次元的に作用し、慣性力は物体内部全体の総和としてつまり3次元的に発生します。慣性力を生じている物体内部には応力・歪が発生しています。ひずみの大きさを測定することで力の大きさを知ることができます。力は物体の外部から作用しますから外力とも言います。

 この力の定義から、二つの物体に働く力があればそれは相互作用でもあります。しかし、二つの物体間に働く相互作用があるからといってもそれは必ずしも力ではありません。つまり、相互作用の意味は広く、力を含むということです。

 弱い力と強い力は原子核を構成する陽子、中性子に対する説明の中で必要な力ですから応力・歪の概念はありません。従って、これら二つは力の概念から外れているので相互作用と言い表した方が適切なのです。

 原子レベル以下のミクロの世界では応力・ひずみの概念が成立しません。応力・ひずみを考えることが出来るのは分子以上の大きさのマクロの世界でしょう。力はマクロの世界、つまり分子以上の大きさのある物体を対象とする概念です。

 例えば、ミクロの世界で電子と電子はマイナスの電荷同志ですから反発します。これは力でしょうか相互作用でしょうか。電子1個を考えたミクロのレベルでは応力・歪が考えられませんから相互作用というのが適切です。

 電気で動くモータは大きな力を発生させることができます。電磁力はマクロのレベルでは力となりますが、ミクロのレベルでは力でなく相互作用なのです。電磁力も根源はミクロの世界の相互作用です。

 相撲で二人の力士が相手に力を及ぼす状況も、相手に接触している部分を分子レベルで見ると分子同士が反発しあうことにありますから、この力の根源は電磁力です。

 H−UAロケットの1段エンジンは1基で100ton重以上の大きな推力を発生します。その力の発生原因をみると燃焼ガスの分子や原子が燃焼室の壁にぶつかって12MPaもの高い圧力を発生しているからです。この圧力も燃焼ガスの分子が壁にぶつかることによる反動ですから、やはりエンジン推力の根源も電磁力です。

 それでは最後に重力はどうでしょうか。重力は重い力と書きますがGravityの訳語に過ぎません。物体が地面に向かって落下する現象をGravityと言うのであって、重力という力が作用していると説明されたのはニュートン以後のことです。

 重力は万有引力に自転による遠心力を加味したものですが、簡単には自転の無い場合を想定し、万有引力と同義と考えて構いません。

 自然界には二つの質量がお互いに引き合う現象があります。ニュートンは、ケプラーによる惑星の運動法則を解析し、万有引力があるからだと説明しました。地上にある物体同志でも万有引力があることはキャベンディッシュの実験で確かめられています。

 ニュートンの万有引力の式は力の次元の式になっています。良く考えるとこの式は仮説であって、力が存在していることは実証されていないのです。ケプラーの方程式から演繹的に導けるのは重力加速度の式までです。

 言い換えますと、万有引力の式は力の次元の式になっていますが、この式で表される力は、力の定義における(1)は実証されていますし何時でも確かめることができますが、(2)は実証されていないのです。

 キャベンディッシュの実験ではねじり秤で力を測定しましたから、力であることが(2)の意味でも実証されていると思われるかもしれません。しかし、この実験でも物体同志が引き合うときの加速度運動を停止させるために必要な力を測定しているのであって、二つの質量同志が引き合う現象に力が働いているからだと示しているわけではありません。

 同じことが地上の重力測定でも行われています。例えば質量1kgの物体をばねばかりで計ると9.8N(1kg重)の力で下に引っ張られていると考えられています。そして、このことから1kgの質量には重力という9.8Nの大きさの力が働いていると説明されています。しかし、この説明は正確でないのです。

 質量1kgの物体も地上ではg=9.8m/s^2の加速度で運動すべきところを、ばねばかりにより停止させられているので慣性力が発生しているということなのです。キャベンディッシュの実験も同じことですから力としての万有引力が存在していることを実証したわけではないのです。

 結局、重力はマクロのレベルで見ても力であるとは実証されていませんから相互作用というしかありません。以上の考察から、自然界には4種の相互作用があるとするのが適切な表現です。

 力と運動の関係はまとめると簡単です。

 「マクロのレベルで見ると自然界には慣性運動がある。慣性運動とは、静止、定速運動を含めて重力加速度に従った運動である。慣性運動に逆らうには外力が必要で、この外力と慣性力が釣り合う。この慣性力の元は物体内部に発生する応力・ひずみである。外力の根源はすべて電磁力である。」

 通常、慣性運動とは静止または定速運動のことを指しています。慣性運動に重力加速度運動を加える時は「相対性理論では」という前置きを付けることが多いのですが、逆です。アインシュタインは重力による運動が力による加速度運動でないことに気が付いて(1907年)、一般相対性理論を確立した(1916年)のです。

(注)
 質点系力学では全ての質量が1点に集中していると簡略化しますから、その時点で応力・ひずみの概念を無視しています。このことから質点系力学では力をベクトルとして解析できる利点がありますが、簡略化したものであることを忘れると力についての正しい理解を見失うおそれがあります。力を定義どうり表現するにはベクトルでなく2階のテンソルとすることが必要です。

(了)


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