力の単位とその定義  

(2017年11月12日)


 物理量の単位は世界で共通なものとするべく国際度量衡委員会(CIPM)が定め、SI単位と呼ばれています。

力も物理量の一つですからSI単位で決められています。力は組立単位とされ、力の単位1Nは次のとおりです。
「1ニュートン[N]は、1キログラム[kg]の質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒[m/s2]の加速度を生じさせる力と定義される。」

この単位の定義は長らく使われ、力学の教科書にも載っていますが、実は次の二つの理由から極めて不適切なのです。このためか、構造力学や材料力学の教科書ではこのSI単位としての力の定義が無視されているようです。

(1) 物体の両側から同じ力が作用すると力が作用しているのに加速度を生じない。
(2) 加速度運動をしているのに力が作用していない場合がある。

(1)はともかく、(2)のようなことがあるのかと思われるでしょう。それは自由落下状態です。自由落下とは重力に逆らわない状態の運動です。真下に落ちるだけでなく投げたボールが放物線を描いて落ちているときも自由落下であることに変わりありません。

自由落下は重力の作用であるから、重力という力が作用していると考えるのがこれまでのニュートン力学(古典力学)の教えるところです。そして、自由落下中に無重力状態になるのは重力と慣性力がつり合っているからという説明です。

しかし、自由落下中の物体が力のつり合い状態にある証拠はありません。物体に作用する力がつり合っていたらその物体には(1)のように加速度は生じません。

このことに最初に気が付いたのはアインシュタインで1907年のことでした。アインユタインが名声を得てから各地で講演した際に、一般相対性理論に取り組んだきっかけはこの発見であり、自身で「生涯で最大の発見」であるとまで言っているのですが、古典力学では未だに重力が力であるとしたままなのです。

それでは力をどのように定義すれば良いのでしょうか。そのためにはまず力よりも基本的な2,3の物理量の単位を見てみましょう。

まずは基本単位の一つとされている時間です。時間のSI単位1s(秒)は次のとおりです。

「セシウム133原子の基底状態の2つの超微細構造準位(F = 4, M = 0 および F = 3, M = 0)間の遷移に対応する放射の周期の 9 192 631 770 倍の継続時間。」

昔は1日の長さを24時間と定め、その24分の1が1時間でさらにその3600分の1が1秒でした。地球の自転の長さは安定していないということから、安定していてかつ実測できることからセシウムの振動が利用されることになった次第です。

もう一つ基本単位で長さがあります。長さの基準は半世紀前まではパリの度量衡局に置かれたメートル原器でしたが、現在は1983年に長さの単位1m(メートル)は「1 秒の 299 792 458 分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さ」となっています。

光の速さをcと表すと、cが普遍的に変化しないことを利用され、時間をt、長さをlで表すとl=ctの関係を使って定義し直したわけです。長さの単位に時間の単位を使っていますから、組立単位というべきかも知れませんが長さの単位は基本単位とされたままです。基本単位と組立単位との呼称の区別は重要でないということなのでしょう。

それでは力の単位をどのようにすべきだったかの問題に戻ります。これまでも加速度を測定して力の大きさを決めたということはまず無かったのですから、実測できるか否かが重要でなく、まず物理的意味の正しさが重要です。

このことを示しているのが電流です。電流のSI単位(A)アンペアは基本単位の一つですが定義どうりに実測できないことは明らかです。

力の単位を簡単に決める方法は力原器を作ることです。現在ではニュートン秤というものがあります。これは力の単位[N]でメモリをつけたバネばかりです。もし、メートル原器のように精度が保たれて時間変化がないような力原器が作れるなら最も良い方法でしょう。



力原器はフックの法則を使っていることになります。力をF,バネ定数をk、伸びをxとすると、F=kxの関係があるというのがフックの法則です。伸びは長さですから、単位は[m]です。この場合も力の単位は組立単位と言うべきでしょう。

力が作用するとはどういうことかをもう少し考えてみますと、力は点でも線でも作用できなくて常に面で作用していることに思い当たります。すなわち、力が作用するということは圧力として作用していることに気が付きます。

圧力の単位は[Pa]パスカルで、SI単位では組立単位として単位面積当たりの力として定義されています。力をF、作用している面積をA、圧力をPで表すと、定義によりP=F/Aだとされているのです。

この定義を逆にすると、F=APです。面積Aにわたって圧力Pが作用したとき力Fが決まるのです。
このように考えれば、力の単位[N]の定義は[Pa・m^2]で表すことができます。

圧力原器なるものは作れるでしょうか。これは力原器よりも難しそうですが、定義は物理の意味が重要であることを考えれば一番良いのではないでしょうか。結論として力の単位の新定義を提案いたします。

新定義: 1Nの力とは単位面積1m^2に単位圧力1Paが作用したときの合力を言う。

                                 [N]=[Pa・m^2]

(了)


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