力を基本単位に  

(2017年6月24日)


 国際単位系(SI)では7つの基本単位が定められている。力は組立単位とされていて現在のところ基本単位ではない。それどころか基本単位の候補に上がったこともない。これを承知の上で基本単位に昇格すべき理由を述べたい。

 力の単位はニュートンの功績から[N] で国際単位系では表すことになっている。日本では長らく[ kg・重] が用いられ、[kg・重] を略して単にkgと書いて力を表す慣習が、大人の世界では今でも続いている(注1)。kgは質量の単位であって力の単位ではないのだから明確に区別すべきなのだが、悪習はなかなか治りそうもない。

(注1) 現在の中学高校の理科では質量と重さを明確に区別している。

 力には[N]という単位が与えられながらもなお組立単位とされている理由はニュートンの運動の第2法則にある。物体に力が作用するとその物体は加速度運動をするというものである。ただし、ニュートンの著したプリンキピアでの表現は異なっている。力をF、物体の質量をm、加速度をαで表すと、F=mαが成立するというものである。この式はニュートンの運動方程式とも呼ばれる。

 ニュートンの運動方程式から1[N]の力は1[kg]の物体の質量に働いたとき、1[m/s^2]の加速度を与える大きさと定義されている。つまり、力の単位[N]は三つの基本単位である質量[kg]、長さ[m]、時間[s]を使って、[N] =[kg・m/s^2]と表すことができるので組立単位であるとされている。

 ここで力が物体に作用するとはどういうことか考えてみる。比喩的に用いる文学的な力を除いて純粋に物理的な実際の力には、次に示す6種類ある。理論物理学では自然界に存在する四つの力という表現もあるが、この場合の力は我々が日常の生活で使う物理的な力とはかけ離れているので自然界に存在する四つの相互作用という学者もいる。こちらの方が適切である。

 @ 生物の発生する力
 力士は土俵上で力を出し合っている。象は大木をなぎ倒すこともある。これら生物が発生する力は筋肉の収縮であろう。筋肉の収縮がどうして生ずるかは生物学の問題であり深入りしない。究極は四つの相互作用のうちの電磁気力相互作用に行き着くであろう。

 A ガス圧の反動力
 ロケット・エンジンは燃焼室で発生した大量の燃焼ガスがノズルから噴出するときの反動が力となってロケットを前に進める。ミクロに見れば燃焼ガスを構成する分子が燃焼室の壁に衝突している。
 ジェットエンジンも推力発生機構はロケットエンジンと変わらない。
 蒸気機関車も石炭を燃やして加熱した水が水蒸気になり、その水蒸気がピストンを押すことにより力がでる。
 ガソリンエンジンもジーゼルエンジンも燃焼ガスがピストンを動かすことにより、力を発生させている。
 これらはミクロにみれば分子間の反発力であるから究極的には電磁気力相互作用である。

 B 電磁力
 直流モーター、交流モーター、同期モーター、DCブラシレス・モーター、などますます応用範囲を広げている。これらは電磁力による力を回転力に変えているが、回転力に変えずに使うリニアモーターもある。
 電磁石や永久磁石を使ったものも、究極的には電磁気力相互作用である。

 C 物質の弾性力
 ゼンマイで動く時計はスプリング(ばね)を巻くと緩むときに力を発生する。
 弓は矢をつがえて引き絞り、弓がもとに戻る時に矢に力を与える。
 一般的にすべての個体の物質は力を加えて変形させると元に戻ろうとする傾向があり、その時逆に力を発生する。個体の物質はそれを構成する分子間で自然に決まる距離があって、伸縮させて力を貯めることができる。究極的には分子間の相互作用であるから電磁気力相互作用である。

 D 重量
 重力場にある物体は加速度運動を行う。その加速度運動に抵抗すると、その質量により重量、または重さと称する力が発生する。質量をm、重力加速度をgで表すと重さはrに等しい。重さも力として作用が現れるときは電磁気力相互作用である。
 重さの発生する理由は地球という大きな質量によるできる重力場の作用、つまり重力相互作用である。

(注2) 現行のニュートン力学では自由落下時も、rを重力という力として扱っている。しかし、これは間違いであり、自由落下時は加速度gで運動しているだけで力が働いているのではない。自由落下時に、その加速度に質量を乗じた量は力の次元ではあるが、見かけの力に過ぎない。それでも運動解析に絞れば問題はない。

 E 慣性力
 物体に力を作用させるとき、その力は表面を通して作用する。つまり、2次元的に、言い換えると、圧力として作用する。するとその物体は加速度運動を行う。この加速度の大きさと物体の質量を乗じたものが慣性力であり、外から加えた外力と釣り合う。慣性力は物体内部のすべてに働く。つまり3次元的に働く体積力である。慣性力も究極的には分子間の力であるから電磁気力相互作用である。

 以上のように、力としての源泉は究極的にはすべて電磁気力相互作用である。ただ一つ、重さ、重量という力が現れる根源に重力相互作用があるだけである。他の相互作用二つは分子より小さい原子の構造におけるものであって、我々が日常的に認識できる相互作用ではない。

 ここでもう一度、物体に力が作用したときのその力と慣性力の関係を見ていこう。
  物体の1面から力Fを加えると、物体は加速度αの運動を行う。このとき、物体内部には応力・ひずみが発生している。応力・ひずみは力の作用した面に触れる部分が一番大きく、反対側の表面ではゼロである。物体の質量をmとすると、F=mαの関係は常に成立している。

 ここで物体の質量mが非常に大きい場合、物体は動かず、αはゼロに極めて近い。F=∞×0となり決まらない。しかし、力Fは決まっているのである。物体として、非常に長い棒のようなものを想定し、力をその棒の片方から負荷した状態を考えてみる。物体の質量が大きければその物体の重心は動かないが、力が加わった側の棒には応力ひずみが発生している。このことは実際に測定できる。

 このことから、力の大きさは応力ひずみの関係から定義した方が良いのである。単に理想的な力原器を想定すれば良いのである。実際には定義どうりにする必要がないことは基本単位の一つ電流[A] の定義(注3)に見るとおりである。力の大きさの定義は次のようになろう。

  1[N]の大きさとは力原器に加えた時1[m]の伸びを生じる。

 この力の定義は基本単位として昇格させるべき明確さを持っている。実際、現行でも力の測定はほとんどすべて応力・ひずみの関係であるフックの法則を利用している。

(注3)電流の基本単位[A] :真空中に1メートルの間隔で平行に置かれた無限に小さい円形の断面を有する無限に長い2本の直線状導体のそれぞれを流れ、これらの導体の1メートルにつき千万分の2ニュートンの力を及ぼし合う直流の電流

 質量の大きさの単位はキログラム原器を1[kg]とするというものであった。現在、廃止されて新定義が検討されている最中である。しかし、力を基本単位に昇格できれば、質量は基本単位から組立単位に降格させることができる。

 質量の持つ唯一の特性は力の作用に対して運動に抗することである。1[kg]の質量の定義は次のようになる。実際にこの定義で質量を測る必要はないことは他の単位と同じである。

  1[kg]の質量がある物体に1[N] の力を加えるとその物体は1[m/s^2]の加速度を生じる。

(了)


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