(作成:2018年1月5日) はじめに ニュートン力学(古典力学)では重力を力として扱っています。表題の「重力が力でない」ということを見て戯言かと思われた方も多いでしょう。キャッチフレーズは多少大げさにしないとなりませんから今しばらくご容赦願います。 重力を力であるとしたのはニュートン以後です。このことで天体力学や運動解析では少しも不都合はありません。しかし、アインシュタインの一般相対性理論を学んだ多くの人は気が付いていることと思われますが、自然を正しく理解するという観点からみれば間違いです。ニュートン力学の範囲でさえもこの間違いは分かります。アインシュタインはこのことに気が付いて一般相対性理論にとりくんだのです。 アインシュタインの思考実験ではロープが切れて自由落下するエレベータが使われます。ここでは、重力が力でないことを、ロケットの例で順を追って説明します。ソユーズに乗って国際宇宙ステーションに向かう宇宙飛行士でも思いう浮かべながらお読みください。数値を出していますが言葉より分かりやすくするためですので数値の大きさは気にしないでください。 発射を待つロケット (1)
ロケットが発射台に直立し発射の時を迎えています。このロケットの発射直前の総質量が250トンであるとします。すると、発射台は250トン重の重さを支えています。 (2)
発射台には2.5MNの力が掛かっています。ロケットは発射台からの反力が丁度2.5MNで、力が釣り合っていますのでロケットは地上空間で静止したままです。 エンジン点火 (3) ロケットのエンジンが点火されますとエンジンの燃焼室は高温の高圧ガスで満たされ、その高圧ガスがエンジンのノズルスカートから排出されることにより、燃焼ガスが燃焼室の壁を押す力に不釣り合いが生じ、推力が発生します。エンジンが出す推力は燃焼室とノズルスカートの壁にかかる圧力の総和です。推力[N]は圧力[Pa]×面積[m^2]なのです。 (4) エンジンの発生する推力が2.5MNより大きいとロケットは上昇し始めます。このとき、エンジンに供給される燃料と酸化剤のバルブを上手くコントロールして、推力が丁度2.5MNになるようにできるとします。燃焼が進むと燃料と酸化剤が消費されますからロケットの質量は減少します。このロケットの質量減少に合わせて推進薬配管のバルブを調整し、常にロケットが少し浮いた状態を保つようにするものとします。(実際の発射でこのようなことをすることはありません。あくまでも思考実験です。) (5) このようにしてエンジンを1分間作動させたとし、そのときロケットの質量は200トンに減少したとします。一分後の推力は2.0MNです。この1分間の時間に対するバルブの絞り方を記録します。この1分間でロケットは発射台から少し浮いただけで静止したままです。ヘリコプターを空中で静止させるホバリングのような状態です。ロケットに宇宙飛行士が乗っていたとしても静止を続けているだけでエンジンが作動したことに気が付きません。この理想的なエンジンは振動を発生しないのです。 慣性空間とは (6) 次にどの星からも十分離れた宇宙空間を想像します。太陽からも十分離れていて何もない空間ですと真っ暗でしょうが、物体の存在がわかる程度の明りはあるものとします。そして、目印が何もなければ自分が動いているのか静止しているのかも分かりませんから、動きが分かるような目印はあちこちにあるものとします。つまり、座標系を想定します。この空間を慣性空間と名付けます。 (7) この慣性空間で先ほどのロケットを作動させたとします。1分間の作動を記録したのと同じようにバルブを絞ってエンジンを作動させるのです。するとこのロケットは推力を2.5MNから2.0MNになるまで1分間作動します。ロケットは1分間だけ1g(=10m/s^2)の加速度を生じていますから、一分後には600m/sの速度を得ます。 (8) この慣性空間で1分間作動させているときのロケットの状態は地上で1分間作動させているときのロケットの状態と全く同じなのです。ロケットに乗った宇宙飛行士には違いが全く分かりません。
(9) 慣性空間でロケットが作動しているときエンジンが発生する2.5MNから2.0MNの推力はロケットを加速度gで運動させます。このとき、エンジンの推力は慣性力と釣り合っていると説明されています。ニュートンの運動方程式(F=mα)が正しく成立しています。推力は燃焼室の圧力として面で作用し、慣性力は3次元質量分布による力として推力と釣り合います。 (10) 地上で発射台から少し浮いているときは推力がロケットの重さと釣り合っているのでした。つまりロケットの重さは加速度がgの時の質量分布に基づく慣性力であることになります。重さは慣性力であることが分かります。 (11) 次に慣性空間で1分間のエンジン作動を終えた途端にロケットは600m/sの速度で運動を続けますが、中に乗っている宇宙飛行士は無重力状態になり、ロケットの中でぷかぷかと浮いています。エンジン推力が途絶えると慣性力も働かないからです。このときロケットには何も力が働いていない状態です。 再び地上空間で (12)
地上でロケットを1分間作動させてエンジンを停止させますと、ロケットはその瞬間から自由落下を始めます。このロケットに乗っている宇宙飛行士は途端になかでぷかぷかと浮き始めます。この状態は慣性空間でロケットを作動させていないときと全く同じなのです。 自由落下状態とは (13) ニュートン力学では自由落下で無重力状態になっている理由が重力という力と慣性力が釣り合っているからという説明がされます。国際宇宙ステーション(ISS)も常時自由落下していますので無重力状態になっています。 (14)自由落下中の物体が無重力状態になっているニュートン力学での説明は上述の(11)と(12)から考えればおかしいことになります。アインシュタインが「自由落下中の物体には重力が消えていることに気が付いた」ということはこのようなことなのです。彼はこのことを生涯最大の発見であるとまで言っているのです。 (15) それでも、「重力という力は3次元的に働き、慣性力も3次元的に働いている。つまり、分子レベルで釣り合っているから外部には力が働いていないように見えるだけなのである。」という説明ができるでしょう。しかし、このことを実証する方法はありません。実証できることを対象とすることで物理学は発展してきました。 (16) 自由落下の状態と、慣性空間で力が何も作用していないときの状態を区別する方法はないのです。見分けられないものは同じとするのがライプニッツの等価原理です。つまり自由落下中の物体には何も力が働いていません。重力とは物体に加速度運動を起こす自然現象であって、物体に力を及ぼしているのではないのです。 終わりに Gravityは重さという力(慣性力)を発生させる要因である自然の落下性(落花生ではありません)のことであるとの理解が行きわたれば重力と訳しても何もこまりません。落下性に抵抗したときに慣性力が発生します。これが重さと呼ばれる力です。 Gravityとは何でしょうか。アインシュタインによれば大きな質量が周囲の空間(時空)を歪ませた時空のひずみです。これを重力場とも言います。重力場に置かれたすべての物体はその物体の質量によらず同じ加速度運動をします。運動の方向は重力場の中心です。 注)重さは重量とも呼ばれる力(慣性力)です。昔は地表の重力加速度がどこでも同じ値のg=10m/s^2でしたから質量はどこでも同じ重さ=rを示しましたから質量と重さを混同して使っても支障はなかったのですが、月の表面に持っていけば重さは1/6になりISSの中では重さはゼロです。従って、現在の理科の教科書では質量と重さを厳密に区別しています。 注)用語「慣性力」の使い方も本によっては異なっていますから注意する必要があります。 注)ニュートンの運動方程式が力の定義に使われていますが、力の定義は圧力×面積で定義すべきであり、ニュートンの運動方程式は質量の定義に使うべきなのです。この件は別稿で説明します。 (了) 戻る
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