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椎間板ヘルニアについて(とくにダックスの胸腰椎部の椎間板ヘルニアについて)
腰骨と腰骨のあいだには、骨同士がぶつかって欠けてしまうことがないようクッション剤がある。ちょうど電車の連結部のゴムのようなもので、「椎間板(ついかんばん)」といわれている。この病気は実はいまはやりの「ダックスフント」にこの病気が多く、その理由については、遺伝的に椎間板の髄核が石灰化を起こしやすい(つまりもろくヘルニアをおこしやすい)犬種であるためと言われている。ダックスを飼っている以上、ヘルニアの可能性ととなり合わせということになる。発症年齢は4−6才がピークであるが、ダックスだと2才ぐらいから発症する。症状は大きく2つにわけられ、時間をかけて少しずつ進行するパターン(この場合は痛みのせいか、どことなく元気がない、散歩に喜んで行かないなどの漠然とした症状が多い)と突然腰が抜けたり、後ろ足が動かなくなった、ひきずるなどの症状がみられるパターンがある。はじめの場合だと2−3日で痛みがおさまることがあり飼い主さんは病院にいくほどではないかもしれない。このときに大事なのは「絶対安静」が必要で、散歩に行かないのはもちろんのこと、ケージの中でずっと安静にし嵐がすぎさるのを待つしかない。この場合でもサークルの中で立つことができるのか、歩けるのかを必ず観察してほしい。運悪く、もろくなった椎間板がいっきにつぶれ神経(脊髄)を圧迫すれば(後者の場合)、一気に足が動かない麻痺となる。簡単にいえば座禅をくんだときの足のしびれのようだが、あしの先の細い神経とは違い、おおもとの神経の束である脊髄だと致命傷になりかねない。一時的なものであれば後述の手術でよくなることがあるが、神経細胞が完全にやられてしまうと車椅子生活を余儀なくされる。また排尿がしずらくなったり足先の皮膚が炎症をおこしたり厄介になる。麻痺になった場合、治療(手術)は早ければ早いほどよい。明日やあさってではなく、数時間以内の対処が必要なことがある。神経病のエマージェンシー(緊急疾患)と考えてほしい。
胸腰椎部(ちょうど背中の真ん中くらい)の椎間板ヘルニア(この場所に85%がおこる)の場合、症状の重症度によって病院では1-5段階(グレード1-5)に分けている。1段階(グレード1)は痛みがあるため歩いたり走るのを嫌がる場合だがまだ歩くことはできる、2段階(グレード2)になると酔っぱらいのように歩くが少し歩くとすぐに座ってしまう、倒れ込んでしまう状態である。3段階(グレード4)以降になると、専門的に獣医師がみないとどの段階かわからないが、犬は完全に歩くことはできない。とくに4段階(グレード4)は表在痛覚(あしの指の皮膚を強い力でつねるときに痛がるかどうか)5段階(グレード5)は深部痛覚(足の指の骨を強い力でつねるときに痛がるかどうか)がなくなる悪い状態である。ただしここで注意しないといけないのがつねると足をひっこめてまるで「痛がっているようにみえる」ということでこれは本当に痛みを感じているかを表しているものではないことだ(顔をこちらにむけ怒る、キャンとなくなどがみられれば正常)。この悪い状態というのは、緊急で手術をしても治る(歩ける)確率がどんどん低くなること、さらには6-7%の確率で「進行性脊髄軟化症」を合併することだ。この軟化症というのは発症から10日以内に首の方にまで脊髄の病気が波及し最後には呼吸が止まって死に至る恐ろしい病気で、現在は予防法も治療法もない(かわいそうだが手術する、しないに関係なく発症してしまう)。
もし、飼っているワンちゃんの後ろ足が動けない、引きずるまたはふらつく、力が入らないようならすぐに受診してほしい。病院では、歩行の様子をよくチェックし、専門的な神経学的検査やレントゲン検査などで「椎間板ヘルニア」の疑いがあるかどうか、またさきほどのグレード分けでどれぐらい悪いのかをただちに診断する。グレード1や軽度のグレード2であれば安静と内科治療から様子をみることが多いのだが、3以上は手術適応と考えられることが多い(特に4.5であれば緊急手術が必要)。グレード5の場合、48時間以内に手術をうけないと回復率が大きく低下してしまうため要注意で、(しつこいようだが48時間待っても大丈夫という意味ではなく、早めに受診、手術を受けた方がよい)手術が必要と判断した場合は、ただちにCT検査やMRI検査などの画像診断をうけてもらい、診断、ヘルニアの場所、脊髄の状態などの把握をおこなう。手術は、椎体とよばれる骨を削り、脊髄を露出し、脊髄を圧迫している椎間板物質を取り除く大がかりのものである。手術後はしばらくの間、安静入院が必要で、また入院中に神経の回復を促すためにリハビリを徹底しておこなう。大変な病気であるが、歩行可能になること、排尿が自分でできるようになること、生活の中での痛みがなくなることなどを目標に入院のなかで看させていただいている。
今、自宅でできること(諸注意について)
人でも立つ姿勢に比べて前かがみの場合、1.5-2倍の腰への負担があるといわれている。
前かがみの姿勢、たとえばソファーやベットにジャンプする、階段をのぼる、散歩で走り回るなどは日頃から気をつけましょう。また、下半身に体重がかかるため、後ろ足がぶらぶらするようなだっこ(人間の赤ちゃんをだっこするような姿勢)は避けて下さい。あとは太ると背骨や腰に負担がかかるため食生活を注意しスリムな体格で維持できるようにしましょう。


ヘルニア1.JPG         正常.JPG
飛び出した椎間板                            正常位置の椎間板(骨を削って脊髄を見やすくしている図)     
中谷マロ3313術中椎間板物質拡大.jpg          中谷マロ3313術中摘出後.jpg
飛び出した椎間板物質(手術所見)                  手術終了時