【マンドリンオーケストラの編成】=管楽器の使用について=】
1962年全国で個々に活動している大学マンドリンクラブを全国的な組織
として、マンドリン音楽の普及発展、相互の交流意見交換などを目的として、
1962年(昭和37)4月21日に全日本学生マンドリン連盟が発足しました。
常任理事校は、慶応義塾大学、早稲田大学、明治大学、関西学院大学、同
志社大学、神戸商科大学の5校、理事校は北海道大学、日本大学、名古屋
大学、大分大学でした。
そして全国を東日本事務局(北海道支部3校、関東支部16校)、西日本事
務局(関西支部16校、西日本支部8校)という組織でした。
この全日本学生マンドリン連盟の機関紙が『トレモロ』です。
第2号に掲載されている連盟顧問 宮田俊一郎先生の文章です。
機関紙『トレモロ』第2号
1963年(昭和38)11月発行 37頁
表紙 裏表紙
【マンドリンオーケストラの編成 =管楽器の使用について=】
1963年(昭和38)11月
全日本学生マンドリン連盟顧問 宮田俊一郎
最近、町を歩いていて、マンドリン、ギターを持って歩く人の姿を多く見かけ
るようになった。それが学生であろうが、ビジネスガールであろうが、十年の
知己の如く感じられ、ふと声をかけたくなる。一人一人に声をかけていたら大
変だが。
我国のマンドリン・ギター界もここ数年、プレクトラム音楽愛好者の激増に
ともない発展をとげ、昨年は"全日本学生マンドリン連盟"の誕生と、その所
属校の合同大演奏会、今年はその学生マンドリン選抜メンバーの渡米演奏、
又、各会社に於けるマンドリンクラブの誕生と、最近のマンドリン・ギター界は
とみに活況を呈し、黄金期に突入した感がある。小は五、六人の小人数の集
いから、大は100名〜200名以上の部員を持つ大所帯の学生マンドリンに
至る迄、それぞれ立場こそ違うが、学業の余暇、仕事の合間に、好きなプレ
クトラム音楽の研究に余念がない。そして又、演奏も非常に内容的にも立派
なものになってきた。マンドリン・ギターの愛好者は年齢を問わず、男性女性
の別なく誰にでも容易に楽しむことができ、最近は特に女性の進出が著しい。
演奏される曲目もマンドリンオリジナル曲、民謡、ポピュラー、ラテン、クラシ
ック音楽等多種類にわたっている。
第一部マンドリンオリジナル曲(又はクラシック曲)
第二部 クラシック曲(又はマンドリンオリジナル曲)
いずれも若き学徒の情熱のこもった好演奏、連日の練習、合宿での猛練習
がにじみでている。
第三部ゲストを迎えてのラテン音楽、民謡、ポピュラー等のような傾向が
強い。
従って、プログラムの内容も変化にとみ、編成もそれに応じて作られている。
例えば最近の曲のようにリズムの強烈な音楽を演奏する場合には、ボンゴ、
コンガ、マラカス等の打楽器が必要となり、これなしでは曲にならない。又、
クラシック曲の中にティンパニのほしいものも出てくるし、その他、トライアン
グル、カスタネット、タンバリン等、必要に応じこれを加えている。
その昔、大正から昭和にかけてプレクトラム音楽盛んなりし頃のマンドリン
オリジナル曲を多く演奏していた頃とは曲目も編成も変わってきているようで
す。
編成は各大学とも第一マンドリン、第二マンドリン、マンドラ、ギター、ベース
(最近ではギターローネがないのでベースが多い)、それに部員の多いクラブ
はそれに比例して、マンドチェロ、リュート、フルート(ピッコロ)、クラリネット、
オーボエ、マンドローネ、ギターローネが加わっている。その他必要に応じて、
アコーディオン、ボンゴ、コンガ、マラカス、トライアングル、タンバリン、ティン
パニ等の打楽器属、ファゴット、ホルン等が加わり、楽器の種類も多彩なもの
になってきた。
だがここで注意しなければならないことは、マンドリンオーケストラが他の楽
器を使用する場合「ひさしを貸して母屋をとられる」の例にもあるように、いろ
いろの楽器のマンドリンオーケストラでの効果について、よくその楽器の正確
を検討して使用すべきで、乱用は避けたい。
マンドリンの音は、歯切れよいスタカット、そして愛らしい甘美なトレモロの響
き、又それによく調和するギターの音色。プレクトラム音楽はストリングオー
ケストラであり、そこには管弦楽と違った良さがあります。
ここに管楽器を入れた場合はどうか?
私はプレクトラム楽器以外の楽器を多く入れることは、特別の効果をねらう
場合以外賛成できません。特に金管楽器の場合など、使用法を誤るとデリケ
ートなマンドリン音楽の良さが失われる結果になります。特に小編成の場合の
管楽器の取扱いは極めて慎重であらねばなりません。
又、金管楽器トロンボーン、トランペット、サキソフォンなどは特別な効果を
ねらう以外は必要としないでしょう。今迄もマンドリンオーケストラには殆ど使
用されておりません。
奇をねらうも結構ですが、あの鋭い音はプレクトラム楽器に調和するとは考
えられません。
ホルンは、表現力に富み、雄大かつ荘厳なる音色により、時と場合によっ
て優秀な奏者及び取扱いに注意して使用すれば大いに効果があります。
バスーン(ファゴット)はやわらかく軽い感じの音色でやはり使い方次第では
良い効果が得られると思われます。
オーボエは、昔カラーチェの楽団が使用していた記録があり、外国ではしば
しば使用されていたようです。東洋風のメロディー、田園風、牧歌調などに使
用すると面白いでしょう。
フリュートは、マンドリンオーケストラでは現在よく使用しています。その明る
い華やかな音色はマンドリン合奏は用いてもよく溶け、又トリル、アルペジオ、
レガート、スタッカート、軽快な音符、半音階の複雑な動き、高音部の急速な
動きなどを自由に出すことの出来る点、現在大抵のクラブで使用し、重宝が
られています。
ピッコロは、フルートより八度高く、フルートの演奏困難な高音域に使用出
来、スタッカート、トリルは容易で、軽快なもの、行進曲風な曲に使用出来ま
すが、あまりに高い鋭い音ゆえ、どの曲にもむくという訳にはいきません。
クラリネットは、現在フルートに次いでマンドリンオーケストラで活躍中の楽
器で柔かい甘い音色はプレクトラム楽器に出せない点を補っている。用途も
広く、アルペジオ、レガート、スタッカート、全音階、半音階など、木管最高の
能力を持っています。
振り返ってみますに、マンドリンオーケストラの中で使用する場合、フルート、
クラリネット、オーボエなどの木管類はマンドリン系楽器を助け、非常に効果
の上る場合もあり、トランペット、トロンボーンなどの金管類は特別な時以外
は、使用を控えた方がよいということになります。
尚、ホルン、ファゴットのようにマンドリン系で出すことの出来ない音色を持
ち、非常に効果の上ることも想像され、いずれの楽器でも使い方いかんによ
り、その内容もうんと違ったものになるでしょう。
その場合、マンドリンオーケストラの美しさを壊さないように、慎重なる取扱い
が必要です。
各人各様それぞれ好みがあり、コーヒーの好きな人、アルコールの好きな
人、肉の好きな人、野菜の好きな人と、いろいろな人がいるように、音楽の場
合も同様で、一概になんとも言えませんが、要するに管弦楽と又違った味の
あるマンドリンオーケストラであり、マンドリン、ギター系以外の楽器を多く使
うことは、純粋なるマンドリンオーケストラだけが持ったところの美しさを失わ
せることにもなり、プレクトラム楽器による音楽美追求に反するものでありま
す。
唯、徒ら交響楽団の模倣はプレクトラム音楽の破滅を招くものであります。
従って乱用をさけ、管楽器各々の性格を良く研究した上で、マンドリンオーケ
ストラに加え、その向上発展を計りたいものである。
最後に、プレクトラム音楽愛好者の一人として、その演奏に際しては、各自
が技術を練磨して正確なるダウン・アップ・トレモロにより、スラー、強弱、ア
クセントを注意して各楽器の性能を生かした演奏をするように努め、プレクト
ラム音楽の良さを充分に発揮できるよう、お互いにその向上に努力しましょう。
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