秘伝、長谷川式作曲法
長い間サボっていたお詫びに、「秘伝、長谷川式作曲法」を本邦初公開いたします。
とは言ってもそんな大げさな事ではなく、いかに短時間に、大量の曲を作り上げるかと
いう、苦し紛れのテクニック? なのです。
多分80年代の終わりから90年代にかけての頃ですが、私の人生の中で最も忙しい
時期だったと思います。レコード会社2社からそれぞれ3枚と5枚のオリジナルCDアル
バムの制作依頼がありました。納期は両社とも同じ、与えられた期間はわずか2ヶ月。
どちらかを断ればよかったのですが、そこはソレ、若さゆえ(今よりは17,8才は若かっ
た)マア何とかなるだろうと引き受けてしまったのです。
引き受けたもののサア大変。CD8枚といえば単純計算で80曲位。60日間でレコー
ディングまで終わらせるためには、1日最低2曲は作るというノルマを自分に課したの
です。
この時ほど自分の才能の無さを恨んだ事は無く、イメージした瞬間に完成形が頭の
中に出来上がるモーツアルトをなんと嫉ましく思った事でしょう。
なにしろ本格的? な作曲は始めたばかり。まともな方法では到底納期までには出
来上がらないと思い、長年のアレンジャーの経験を生かした作曲法で曲作りをするこ
とに決めました。
以前にも書きましたが、歌謡曲やポップスの世界ではアレンジャーがイントロや間奏、
コード進行を考えたり、対旋律を書いたりする事が多いのです。
そこで、先ずコード進行だけを先に決めて、メロディや対旋律をはめ込む曲作りを
考え出した?のです。
白玉のコードをシーケンサーに打込み、それを延々とループさせながら、メロディを
考えていったのです。
とはいっても「循環コード」「黄金コード進行」ばかりではすぐネタが尽きてしまいます。
そんな時悪魔が耳元でささやきました。「盗作!盗作!」
勿論、盗作などと言う意識は無くとも、曲作りをする場合、自分の中にしみこんでい
る過去に聞いたフレーズの断片が現れることは、誰にでもあることだと思います。
ですから、この曲は、誰それの何の曲の盗作と騒がれることが多いのもわかるよう
な気がします。
私の場合は苦肉の策で、自分の気に入った曲の、コード進行の一部を頂くことにし
ました。そして極力その曲とかけ離れた雰囲気のメロディを模索していったのです。
一応弁明はしておきますが、全部の曲をそうして作ったわけではなく、リズムパター
ンから作った曲もあれば、メロディ先行で作った曲もありますので。
けれどついに、盗作といえば盗作といえる曲を作ってしまいました。
誰の盗作? 恐れ多くもバッハ大先生の曲をそのまま頂いてしまいました。
それも、長谷川武の作曲として。
皆さんは「グノーのアヴェ・マリア」という歌曲をご存知ですよネ。あの有名な名曲は
グノーが「バッハの平均律クラヴィーア曲集」の第1曲を伴奏にして、その上に美しい
メロディを乗せたものなのです。それも堂々とグノーの作曲として。
ならば私もグノーにあやかりたいと、「バッハの無伴奏チェロ組曲第1番」の前奏曲
を伴奏にして美しい? メロディを考えたのです。
まあ、そんなこんなで2ヶ月間飲まず食わず? 眠らずで何とかCD8枚分の楽曲を
作り上げたのです。
勢いと怖さ知らずとは恐ろしいもので、自分自身で最高傑作と思っている曲もこの
苦しい時期に生まれましたし、消せるものなら消してしまいたい駄作もこの時作って
しままいした。
余談ですが、この仕事が終わった途端、体調を崩してしまいました。
常に気持ちが悪く、食欲もまったく無く、無理して食べても戻してしまう始末。
体重は落ち、歩くのもフラフラ。
ついに病院のハシゴと相成りました。脳のCTまで撮ったり、色々検査しても原因不
明。とどのつまり「ストレスが原因でしょう」と片付けられてしまいました。
ストレス解消のための音楽を作って、自分がストレスに悩まされるとは笑い話ですが
、何とか立ち直れたのは、妻の愛情あふれる、きつい叱咤激励があったからだと思っ
ています。感謝!
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