日本大学マンドリンクラブOB会
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長谷川武の音楽雑感 第6〜10号

第10号(2007年2月)

プロとアマ (1)

 音楽の現場へ足を踏み入れて感じたのは、プロとアマには圧倒的な差があると言う
ことです。勿論プロといってもアマチュアに毛の生えたような方もいれば、アマチュアで
もプロ顔負けの素晴しい演奏をする方も大勢いるわけで、一概に決め付るのはどうか
とも思いますが、私の感じたことを少し。
 
 演奏といってもソロからオーケストラまで色々な形態があるわけですが、皆さんに参
考になりそうなオーケストラを中心としたプロとアマの違いを。
 まず第1点は表現力の差です。まあこればかりは個人個人の音楽性の違いと言って
しまえばそれまでなのですが、とにかくプロは譜面から読み取る情報がアマより何倍
も多いような気がします。よく「楽器は弾くな(吹くな)、楽器で歌え」という言葉を耳に
しますが、このフレーズはどう歌うかを楽譜から読み取り、表現する能力には感動す
ら覚えます。特に大勢のアンサンブルで一糸乱れぬ演奏をされると、もうこれは涙も
のですネ。
 もう20年以上も前でしょうか、サイトウ・キネン・オーケストラが誕生した時のコンサ
ートで、モーツァルトの「ディベルティメント ニ長調 K136」が演奏されました。
 その様子を生ではなく、自宅の小さなTVで観た時の事です。
 当然モノの小さなスピーカーから流れ出る音にもかかわらず、私は全身に電流が流
れるのを感じました。何という見事なアンサンブル、気が付けば私の目からは涙がこ
ぼれ落ちていました。それ以来私はこのオーケストラの弦の響きは世界一と、勝手
に決め付けているのです。
 この感動をどこかで表現したい。その思いを叶えてくれたのが、35周年の演奏会
でした。半ば強引に合同ステージで「ディベルティメント」を演奏させてもらいました。
 中々「感動の涙」の演奏にはなりませんでしたが、感動の冷や汗を流させてもらい
ました。

 違いの2点目は「指揮について」の項でも述べましたが、先ほどの表現力にも通じ
る事で、圧倒的にフレーズや1音1音のリズムが揃っている事です。
 よくアマチュアの演奏はダーダー弾きとかダーダー吹きと評されるように、見切り発
車で音を出す事が多いようですが、上手いプロ集団はどれだけ大人数になっても見
事に粒の揃った音を出すものなのです。(スコアの)縦の線をきちっと揃えての演奏
は一人一人の意識に関る事なので、皆さんにもその気にさえなればきっと素晴しい
アンサンブルができる筈です。

第3点目は音程の問題です。
これに関しては、色々ありますので次回に。
 

第9号(2007年1月)

指揮について (2)

 指揮者になるためには、どんな勉強が必要なのかは良く分かりませんが、何より大
切なのは、自分のイメージした音楽を的確に演奏者に伝え、最良の演奏を引き出す
事にあると思います。練習やリハーサルでは言葉で、イメージを伝えることが出来ま
すが、本番では声を出すことは出来ないので、体だけを使っての表現になるわけで
す。
 勿論「棒振り」などと言われるくらい、音の出だしやテンポ、強弱などを指揮棒や腕
を使って伝える事は非常に大切なテクニックですが、もっと大切なのは目から「音楽
ビーム」を演奏者に向けて発射することだと思います。
 演奏者全員と指揮者がどれだけアイコンタクトを取れるかが、命のある音楽になる
かどうかの鍵のような気がします。
 皆さんも練習中は良く指揮者から「指揮を見て!」と何度も言われながら演奏した経
験があると思いますが、「指揮を見て!」と言うのは指揮棒を見ろと言うことではなく、
指揮棒越しに指揮者の目を見、更には体全体の動きを感じることなのです。指揮棒
ばかり見ていると目を回してしまいますからね。更にこれが究極だと考えるのが、指
揮者の呼吸を感じ、一緒の呼吸をすること。これに尽きると思います。

 指揮者にとっての一番緊張する一瞬は、曲の始まりです。
 アウフタクト(予拍)に、これから始まる曲のテンポ、強弱、表情のすべてを演奏者に
伝えるよう棒を振らなければいけないからです。
 ところが演奏者を見渡し、準備の出来たことを確認しながら、これから演奏する曲を
イメージし、心の中でせーのソレと棒を振り下ろしても音が出てこない事があるのです。

 ある有名な指揮者が、オーケストラを指揮して、一番嫌なのはウイーンフィル(ベル
リンフィルだったかもしれません)だ。と言っていたそうです。
 つまり棒を振り下ろしてから、音が出るまでが世界で一番遅いオーケストラらしいの
です。伝統のあるオーケストラほど頑なに自分たちの音楽を守っているもので、指揮
者が棒を振り下ろしても、自分たちの呼吸が合わなければ音は出さないのです。
 皆さんもオーケストラのコンサートやテレビなどを見て、マンドリンクラブの指揮にな
れた身には、どうして音の出が遅いのだろう?と感じられた方は少なくないはずです
が、前述したとおりの理由からなのだと思います。
 変な例えですが、軽自動車からF1カーまで100台の違う車が横一線に並んで、青
信号になったら一斉にスタートするとします。絶対に揃ってスタートは出来ないはずで
す。
 それをやらなくてはならないのが、オーケストラなのです。いかに車ではなく仲間や
楽器を理解し気持をそろえてから、音を出さなければいけないかがお分かりいただ
けると思います。
 
 私が初めて、その恐怖体験をしたのはもう30年も前になるでしょうか、初めて演歌
のオリジナルアレンジをして、スタジオで棒を振った時の事です。
 録音編成は4リズムに4パートのストリングスセクションそれにソロ楽器といった20
名位の編成だったと思います。
 つい最近まで、○○交響楽団のコンサートマスターだった方とか、名だたるスタジオ
ミュージシャンを前にしての指揮は緊張するなといわれても無理というもの。
 ましてや自分の父親程、年の離れた腕っこきミュージシャンから「センセイ、ここの
フレーズは…」などと言われ(もっとも名前も知らないアレンジャーなので、センセイと
呼ぶしかなかったのでしょうが)、緊張も極致。
 だがそこは心臓にうぶ毛の生えている身。ドンカマに合わせて下手な指揮をごまか
そうとしたのです。
 だがついに恐怖の時が来たのです。私が勝手に演歌大 rit. と称しているエンディ
ング部分。ドンカマは当然 rit. はしてくれないので rit. の手前でストップ。
 全員の視線がこちらを注目する中、最後の2小節の棒を振り下ろしました。
 だが音が出てこない。やや遅れて見事に寸分の狂いも無く tutti の和音が鳴り響
いたのです。最後のフェルマータに到達するまで、どんどん rit. しながら棒を振り下
ろすたびに、わずかの遅れを伴いながらピタリと揃った見事な演奏をしてくれたので
す。

 なれとは恐ろしいもので、ドンカマ無しで指揮先行の棒を振る事が、今では恐怖から
快感に変わってしまいました。
 

第8号(2006年12月)

指揮について (1)

 私は大学4年生の時、マンドリンクラブで指揮をさせてもらいました。
小、中、高と合唱等で指揮の真似事をしたことはありますが、自分で音楽を作り出す
本格的?な指揮を経験したのはこの時が初めてです。
 先輩指揮者や宮田俊一郎先生のアドバイスを受けながら、自分なりの指揮法や音
楽を作り出す方法を勉強、体験出来た充実した1年間でした。

 編曲の仕事を始めた頃は、舞台の音楽が中心で、演奏も指揮者やバンドリーダー
がいるフルバンドが中心でしたから、ほとんど自分で棒を振ることはありませんでした。
 しかし、スタジオでの録音の仕事が増えてくると、どうしても自分で棒を振る機会が
多くなってきます。
たぶん初めて自分のアレンジで棒を振った、レコーディング時の話を。

 コロムビアの仕事ではなかったのですが、コロムビアのスタジオを借りての録音の
仕事がありました。(今はありませんが、有名な通称ひばりスタジオが造られる以前
のスタジオで、2トラック、ステレオの一発録りでした)
 バンドは「8時だよ全員集合」でおなじみのバンド。当然、指揮のバンドリーダーが
棒振りに見えると思っていたら揃ったのはメンバーのみ。急遽私が棒を振る羽目に
なってしまいました。マルチトラックの録音でなくても当然、ドラムスやピアノは専用ブ
ースに閉じ込められ、ヘッドフォンを着けなければ全員の音が聞こえない状態です。
(このヘッドフォンというのが必要悪で、本来アンサンブルというのは全員がお互いの
音を聴きあいながら演奏すべきものなのに、マイクが極力他の楽器の音を拾わない
ように、出来る限り楽器毎に、あちこちの別室へ閉じ込められ、自分の出す音さえも
そのヘッドフォンの中から聞かなければならない状態で演奏するわけです。)
 まあ嫌でも仕事だからしょうがない。なんとか4、5曲取り終え最後の曲。スティビ
ー・ワンダーの「サー・ディユーク(愛するディユーク)」の録音で、あの有名な間奏が
ありますよネ。(実に素晴しいシンコペーションだらけのフレーズで、トランペットから
ベースまで、全員がユニゾンで同じフレーズを演奏するアレです。)全員が初見にも
かかわらず、見事な演奏に聞きほれて、ついつい指揮がよたってしまったのです。
 「しまったドンカマを使えば良かった」と思っても後の祭り。最初に「今日の録音はド
ンカマを使わないでやりますので、宜しく」と宣言してしまったのです。
 ドンカマ(指揮者の譜面台の上に置いてあるリズムマシーンで、主にカウベル等の
音色で、メトロノーム代りにカウントを刻むために使用する。最近ではクリックと呼ば
れることも多いが、ドンカマとは最初にリズムマシーンを発売したコルグの製品名が
ドンカマチックという名称からそう呼ばれるようになったらしい。)
 指揮のよたった原因は、ヘッドフォンの中で、つい全神経がシンコペーションのメロ
ディに集中して、ただ一人チーチッキ、チーチッキとリズムを刻み続けるドラムスを意
識して聞かなかったことにありました。まあなんとなくごまかして、本番はうまくいきま
したが、私の中では忘れられない汚点として残っています。
 ヘッドフォンもドンカマも必要悪と割り切って仕事をしていますが、ドンカマに合わせ
て演奏するのなら指揮者は必要ないのでは?という意見もあろうかと思います。

 その辺の事は 又 次回にでも。
 

第7号(2006年11月)

写譜について

 パソコン上で譜面を書く便利なツールが発達してきたおかげで、手書きの譜面は本
当に書かなくなってしまいました。
 以前にも書きましたが、スコアにしても手書きのスコアの方がなんとなく良いアレン
ジ出来上がるような気がすると同様に、それなりの技量を持った人の書いたパート譜
からは、一見しただけで素晴しい演奏が聞こえてくるような気がします。

 何の仕事でもそうですが、最終的には体力勝負となるのも編曲や写譜とて例外では
ありません。音出しの日時が決まっている以上、何があってもそれまでにミュージシャ
ンが演奏出来る状態を創らなければなりません。
写譜ペンを握ったまま1日、2日の徹夜は当たり前。ペンを持つ指も腕も腫上り、間
違ってはいけないプレッシャーと睡魔との闘いの日々を過ごしてきました。
 アレンジを始めるようになってからも、基本的には写譜も自分でやっていましたので、
締め切り間際でどうしても間に合いそうになくなると、先輩風をふかし、18期の内藤君
や19期の村岡君達に写譜をさせていました。(その節はお世話になりました)

写譜に関して、今まで実践で培ったノウハウをこのページで紹介しようと思っていた矢
先、ホームページ上で実に詳しく面白く解説してあるページを見つけましたので、興味
のある方は是非覗いてみてください。(茶色文字をクリックして下さい)
ジャズ通り裏 【実戦的 楽譜の書き方講座】

 そこには書かれていない基本的な事を1つ2つ。
 まず必要なのが写譜ペン。ご存知でしょうが写譜ペンの先端は普通の万年筆と違い
平たくなっているので、そのまま普通の書き方をすると縦線は太く横線は細くなり、と
ても見やすい譜面とは程遠いものになってしまいます。
 ではどうするか?ペンの軸と五線が平行になるように手首を寝かせて書くのです。
 こうすると音符の玉は一筆できれいな楕円形に、縦線は細く、旗の書き出しは太く跳
ねた部分は細くと、自動的に美しいおたまじゃくしが出来上がる訳です。
 しかし、手首を寝かせ、ひねった状態で長時間書き続けることはかなりの負担を手
首や腕にかける訳で、もしこれから写譜を始めるのであれば、私が師匠から教わった
持ち方をおススメします。
 普通ペンを持つとき、ペン軸の上部は親指と人差し指の間にありますよネ。
 そのペン軸の上部を人差し指と中指の又で挟んでしまうのです。後はペン先に近い
部分を親指、人差し指、中指のペンだこの部分で支えるのです。慣れるまでが大変で
すが、こうすると無理に手首をひねらなくても、自然に美しい譜面が書ける筈です。

次に必要なのがインク。譜面である以上ブラックインクが必要です。
しかし私の経験では、国産のブラックインクはNGです。スス(カーボン?)が入っている
せいか、インクの出が悪く、最悪なのはインク消しで消えないことです。
人間の手で書く以上ミスは必ずあります。簡単に修正するにはインク消しで消えるイン
クは必需品です。ペリカンとかモンブランのブラックインクがおススメですが、厳密には
ブラックと称してもやや青みがかっているのが気になります。(マア妥協するしかないで
すネ)
後は五線紙。しかし五線紙はどうしてあんなに値段が高いのでしょう。
勿論、製造元から直接買っていましたが、それでもかなり必要経費としてのウエイトを
占めていました。なぜ高いか。それは紙の大きさがA判でもB判でもない、規格外の大
きさであることと、紙の質が悪いことではないかと考えます。
何で質の悪いものが高いのか?
つまりそれは世の中の需要と供給のバランスの問題なのです。
世の中に数多く流通している印刷物の多くは上質紙。つまり手書きに適した五線紙は
表面がツルツルきれいな紙ではなく、需要の少ない、ある程度質の悪い中質紙らしい
のです。
ですからつい安いコピー用紙にプリント出来る、パソコンを使ってしまうのかもしれませ
ん。

写譜に関しては、いくらページがあっても足りませんので、今回はこの辺で終わります
が、質問のある方はメールフォームからどうぞ。可能な限りお答えします。

 音楽に関する職業には色々な職種がありますが、作曲家、作詞家、演奏家とかと言
うように家をつけて尊敬?される職種もあれば、写譜屋とかインペグ屋(Inspectorの略、
演奏家の派遣業)とか、やや侮蔑をこめた呼び方をされる職種もあります。
 何で、…屋と称したり呼ばれたりするかは定かではありませんが、一流の写譜ヤは間
違いなく立派な音楽家なのです。
 スコアからパート譜を書き写しながら、睡眠不足でモウロウとしたアレンジャーのスコ
アミスを瞬時に見抜き、そ知らぬふりして、メロディやリズムやハーモニーの間違いを修
正し、書いて行くのですから。
 

第6号(2006年10月)

アレンジ考(チョット脱線)

 前回、スコアを書くのに2Bの鉛筆を使って、と書きましたが、その訳は、消しゴムで消
した時きれいに消すことが出来るのと、硬い芯より長時間使用しても手に負担が少ない
からなのです。

 書いたり、消したりを繰りかえしていると鉛筆跡がどうしても残りますし、ついには紙
に穴が開く事にもなりかねません。そんな訳でアレンジを始める前の用意として、まず
十数本の鉛筆削りは欠かせない儀式でした。
 しかし、やがてそれもシャープペンシルに変わり、パソコンを前にしてのアレンジをす
るようになってからは、小節番号とコードネームをメモ書きする道具と成り果ててしまい
ました。

 けれど、楽譜を前にして演奏する人たちにとっても、2Bの鉛筆は必需品であると言
う事は、今の若い人たちにとっては以外に知られていない事かもしれません。
 現在のオーケストラの譜面事情は良く分かりませんが、昔は演奏会のプログラムが
決まると、貸譜といって管理団体から譜面を借りてきて、その譜面を使って練習し演
奏会が終われば、又返却するというシステムになっていました。
 皆さんも練習中は指揮者の指示を書き込んだり、オリジナルの表情記号を書き込
んだりと、譜面に書き込むことは意外と多いはずです。
 そんな書き込みだらけの譜面をそのまま返却する訳には行かないので、消しゴムで
きれいに消える2Bの鉛筆は必需品だった訳です。
 サインペンやマジック、ボールペンで書き込むなどもってのほかと言うわけです。
 赤ペン、青ペン、蛍光ペン、変更があったら修正ペンというのはチョット行き過ぎと思
うのですが、如何でしょうか?
 
 そのパート譜ですが、今はコピー機が普及したおかげで、ずいぶん楽になりましたが、
我々がマンドリンクラブに入部した頃は各自が自分のパート譜は手書きで書き写した
り、せいぜい半透明の五線紙に書いたものを専用紙に焼付ける、いわゆる青焼きした
譜面を使っていたものです。その青焼きというのも曲者で、時間とともに薄く見えなくな
って行くと言う代物でした。
 したがって大事な譜面は手書きする以外になく、その経験が写譜で飯を食うことが出
来た基礎になったのです。
 ところが実際に写譜でお金を頂くということはそれは又大変なことで、その辺の事は
気が向けば、次回にでも…。
 

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