アレンジ考(2)
私のアレンジに関する考えの一端を述べましたが、そんな生意気なことを言えるように
なったのはつい最近のことで、とにかく無我夢中で五線紙におたまじゃくしを埋める日々
でした。
アレンジを始めた70年代はまだまだビッグバンドが勢いのあった時代で、テレビの歌
番組もバックはフルバンド。ショーやレビューの音楽も当然フルバンド。歌手のリサイタ
ルもバックはフルバンド。地方へ営業に出かけるにも今ではカラオケでしょうが、当時
は「持ち譜」といってレコーディングした曲をフルバンドにアレンジした譜面を、トランクい
っぱいに詰めての旅でした。《フルバンド=ビッグバンドというのはグレン・ミラー、カウ
ント・ベーシー、ディユーク・エリントンのような形態のバンドで、5本のサックス、4本の
トランペット、4本のトロンボーン、4人のリズムセクション(ピアノ、ギター、ベース、ドラ
ムス)からなるバンドの事です。》
当然アレンジの仕事もフルバンドアレンジが多かったわけですが、サウンドは聞いた
事があっても管楽器に関してはど素人。幸いH氏、M氏の写譜をしながら勉強させても
らったおかげで、何とかフルバンドの譜面が書けるようになったのでした。
そう、前回の雑感でアレンジャーにとっての必要な事に、追加させてもらうと、楽器や
声の音域、特性を知ることも大変重要な事になると思います。
そんなことに関してチョット興味ある話を。
ラヴェルがオーケストラに編曲した「展覧会の絵」の中で、フルートの最低音のCより低
いB♭の音が出てくる箇所があります。ラヴェルといえば管弦楽法の大家。まさかフル
ートの音域を知らなかった訳はなし。今もって疑問は解けないでいます。
ところで実際にどのように演奏するかをあるフルート奏者に聞いたところ、ハガキを筒
状に丸めてその箇所で、フルートに差し込むそうです。管の長さを延長してB♭の音を
作る訳ですね。
以前は五線紙と2Bの鉛筆でスコアを書いていましたが、最近はほとんど手書きをし
なくなりました。パソコンという便利なツールが進歩してきたため、つい便利な方を選択
してしまいました。なにしろ楽器(パート)ごとの音を聞きながらスコアが書けますし、ス
コアから簡単にパート譜まで作成できるのですから。
しかし便利な反面、どうも想像力が欠如していくような気もするのです。手書きの頃は
現場で実際に音を出すまでは、どんなサウンドになるか、はらはらドキドキ緊張感があ
りましたが、今はサウンドの完成形に近い状態が見えている訳ですから。
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