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熈代勝覧 絵巻

 

 

10212

10210  熈代勝覧 江戸時代 文化二年 1805年頃  ベルリン東洋美術館蔵
Kidai Shoran (Excellent View of our prosperous Age)    2020・1・1エントリー 尺八

 

 

 

 

 のカデンツ

 

近頃 めっきり 郵便が活用されなくなり

↑ この絵葉書は 作夏 めずらしく 友人から届いたのですが

楽器もないようだし そのままに。

明けて新年 年賀状を受け取ったついでに 

去年の郵便物も 整理していた時

よくよく見たら おおっ! 

なんと 楽器があるではありませんか!!

だから この絵葉書 送ってくれたの?

   ちゃんと 文面用に 白地の部分がデザインされてるのに

わざわざ 宛名書きの方に メッセージを書いてくれたのは

コレクションにエントリーするための 心遣いだったのね。

気が付かなくて ごめん!

これが 代勝覧(きだいしょうらん)絵巻との 初めての出会いでした。

さて 楽器は ど〜こだ? 

 

 

 

天下の豪商 三井越後屋が店をかまえる  賑やかな駿河通りを 

虚無僧が 深編笠(あみがさ)をかぶり  尺八を吹きながら 

 托鉢中♪

 

  画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 

カード情報の 代勝覧(きだいしょうらん) って 作家さんの名前でしょうか?

ベルリン東洋美術館蔵 なんですね。

さっそく  検索開始!

 

あらら  熈代勝覧(きだいしょうらん)とは

この絵巻物の名前で

輝ける御代の勝れたる大江戸の景観 という意味だそうです。

 

 

1995年 大学教授であり 中国美術収集家でもあったハンス・ヨアヒム・キュステル夫妻が

親戚の屋根裏部屋で発見。

キュステル氏死後 ベルリン国立アジア美術館に寄贈された。

日本橋から今川橋までの大通り(現在の中央通り)を東側から俯瞰した絵巻物は

沿道にある88軒の問屋や店に加え 行き交う人1671人(内女性200人)

犬20匹、馬13頭、牛4頭、猿1匹、鷹2羽

ならびに屋号や商標が書かれた暖簾、看板、旗、などが克明に描かれており

江戸後期 文化文政時代を最盛期として 江戸を中心に発展した町人文化を知る

貴重な資料とされる。

2003年 江戸東京博物館の 『江戸開府400年展』に初来日。

2006年 三井記念美術館開館記念特別展 『日本橋絵巻展』に出展。

二度の里帰りを果たし

2009年11月 東京メトロ『三越前』駅 地下コンコース内に

約17メートルにわたる「熈代勝覧」の 1・4倍の複製絵巻が 設置された。

 

 

 

 

なんだか 面白そう♪

虚無僧の尺八以外に 江戸後期 日本橋界隈で 奏でられた楽器は 

他にも あるのでしょうか?

さっそく 図書館で

小澤弘 小林忠著 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 

を 借りてきました。

あります あります!

43.7 X 1232.2 cm の 絵巻が

すべて網羅され 詳しい解説もあって とても勉強になりました。

さっそく 本に沿って 楽器をご紹介しましょう。

 


 

 

 

絵巻は 神田今川橋からはじまり 日本橋までの大通りの西側

すなわち 日本橋通りを 東側から俯瞰する構図で描かれている

のですが

まず 石町新道を超えた 寿しや 玉酢 の向かい側に

錫杖をもった 托鉢のお坊さんが見えます。

 

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 

ウィキペディアによると

錫杖とは 杖の先に錫製の輪が付いているもの。

主に 修行僧が持ち

巡業するときに ゆすって音をたてながら歩いた。

身にふりかかる危険や煩悩を振り払い

己の身を守るために使われる法具。

また ブリタニカ国際大百科辞典によると

錫杖は 体鳴楽器 とあります。

杖の頭部の金属製の環に 数個の小環をつけ

振り鳴らす。

祭文語り 手古舞にも 用いる。

 


 

 

通石町少し手前には 自身番屋があり 鳶(とび)たちが います。

 『熈代勝覧の日本橋』 から 

自身番屋詰めの 鳶職は 町雇いの自警団にして 町火消し。 

揃いの股引(ももひき)に 手に 錫杖。

夜回りには シャンシャンと打ち鳴らす。

喧嘩と聞けば すっ飛んでいって 仲裁。

そのうち 自分も熱くなる江戸っ子気質。

普段は 普請現場で 足場の上を飛び歩く。

 

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 

 


 

 

通石町に入ると 二人組の 尺八を吹く虚無僧が います。

 

 

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 


 

 

本町二丁目 傘・雪踏問屋 伊勢屋の前にも

やはり 二人組の虚無僧がいますが 少し 雰囲気が違います。

 

 

東京メトロ三越前駅地下コンコース複製絵巻

 

『熈代勝覧の日本橋』から   

粋な二人の虚無僧

黒塗りの下駄を履いた この虚無僧

喜多川歌麿の絵に出てくるような風情で

なにやら 艶っぽい。

二人一組になっての門付け。

歌麿の没年は 文化三年

まさに この絵の舞台は 歌麿の時代。

普化宗(ふけしゅう)という宗派を作り

尺八を吹いての門付けで

布施を集めた。

 

 


 

 

 

本町三丁目入口手前 呉服白粉問屋 近江屋の前には 獅子舞が。

東京メトロ三越前駅地下コンコース複製絵巻

 

 

 


 

 

 

室町三丁目から2丁目あたりには こんな人が。

『熈代勝覧の日本橋』から

禰宜(ねぎ)

伊勢の大神宮のお札売りと思われる。

鈴を持っているのは

神降ろし のためか。

江戸の人々の憧れの地 お伊勢さんのお札を出張販売。

江戸には 伊勢屋の屋号にみるごとく

伊勢出身者が多かった。

三井越後屋も そのひとつ。

新川に大神宮があった。

 

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 

 

 

 

もう一人 禰宜(ねぎ) 発見!

もう少し 先に進んだ 三井越後屋の前です。

画像 三越駅地下コンコース壁画パンフレットより

 

 

 


 

 

すこし戻って 瀬戸物町入口手前には 金毘羅参りが。

 

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

『熈代勝覧の日本橋』から

背負って歩くは 金毘羅大権現のシンボル 天狗の面。

歌川広重の 「東海道五十三拾三次 沼津」 に見える。

金毘羅のPRと お参りに行けぬ人からお布施も貰える 一石二鳥のしくみ。

路銀に困れば 加持祈祷の門付け。

 

 


 

 

 

金毘羅参りの すこし先には

三井越後屋が 店を構えています。

頂いたカードは この駿河町通りの虚無僧。

『熈代勝覧の日本橋』から

表通りの間口は狭いが 駿河通りの両面に

半町くらい延びる店先。

店内には ありとあらゆる反物と切地。

最新流行の着物を 二刻(四時間)で誂える急ぎ仕立てもあり。

ただし 支払いは現銀掛値なし。

 

 

江戸一番の大店で 呉服と両替を商売にする 三井越後屋。

駿河通りの左側が 京糸物や袈裟を扱う問屋

右側が呉服を商う江戸本店(ほんだな)

もともとは 伊勢松坂出身の 三井高利ってお人が

京都で成功して 今から約百二十年ほど前の天和三年(1683)

ここへ江戸店を出したのですが 現金掛値なし ってんで大評判。

ここは 日本橋の通りの中でも 一番賑やかなところですから

一日に 千両万両の金が落ちる。

現金決済で儲けた金を元手に 両替商も 幕府御用も。

この通りをまっすぐ行った本両替町には 幕府の金座があります。

江戸の金融業の中心で 両替屋もたくさんあったところです。

 

 

↓ こちらは 広重の 東都名所 『駿河町之図』

同じ 駿河通りが 描かれていますが (現在の江戸桜通り)

そこから 富士山が 見えたのですね♪

国立国会図書館蔵

 

 


 

 

 

三井越後屋の少し先には こんな人たちが。

解説では 触れられていないので 確証は持てませんが

でもお婆さんはベルのようなものを打ち

他の二人も なにか叩いています。 

三人とも 音を楽しんでいる様子なので エントリー♪

 

 

 

 

 


 

 

 

四軒並んだ木屋の先には 太神楽

『熈代勝覧の日本橋』から

 

太神楽(丸一)

傘や撥を使った曲芸や 獅子舞 籠抜けなど

寿ぎの芸をする門付け芸人。

そもそもは 熱田神宮の神官の子弟が

獅子頭を持って各地を回り

お札を配ったのが始まり。

次第に 神事としての宗教色が薄れ

余興であった曲芸で人気を博すようになった。

(丸一)という社中が 江戸では有名。

現在でも 十三代目 丸一仙翁が 江戸大神楽の家元として活躍中。

 

東京メトロ三越前駅地下コンコース複製絵巻

 

 


 

 

 

『熈代勝覧の日本橋』から

琵琶法師は 平安時代から見られた琵琶を街中で弾く盲目の僧。

のちには琵琶演奏を専業とする盲人の俗称として用いられた。

 

この絵巻で 最初に登場する楽器です。

 一人で歩く 琵琶法師。

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 

 

 

↓ 室町一丁目 品川町入口付近には  三人連れの琵琶法師

 

画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

 

 


 

 

琵琶法師の近くに 門つけ芸人

 

東京メトロ三越前駅地下コンコース複製絵巻

 

 

門付け芸人とは 大道芸、巷間(こうかん)芸能の一つのようで

人家の門口に立って芸能を見せ、報酬を受ける芸能と芸能者の総称だとか。

後ろ姿 右側の人が 三味線を弾いています。

 

 


 

 

室町一丁目の先には

六十六部

 

 画像 『熈代勝覧の日本橋』 小学館 より

 

『熈代勝覧の日本橋』から

 

仏像を入れた逗子を背負い

「南無妙法蓮経」 と唱えながら

書写した法華経 六十六部を諸国の札所に奉納する回国聖。

信心より 罪を犯した者が 村を出るため 六部の姿となる場合もあった。

路銀が無くなると 祈祷して

勧進柄杓(かんじんびしゃく)で喜捨を受けた。

 

コトババンクによると

六十六部は 法華経を66回書写して 一部ずつを

66か所の霊場に納めて歩いた巡礼者。

室町時代に始まる。

江戸時代には 仏像を入れた厨子(ずし)を背負って

鉦(かね)や鈴を鳴らして米銭を請い 歩いた。

とあります。

この人は 錫杖を持っていますね。

 

 


 

 

以上

ただでさえ活気のあった日本橋界隈に

鳴り響いていた(あるいは鳴り響くであろう)楽器は

今のところ 14事例。

ものぐさな 

結構 根気のいる この絵巻物の作業に取り掛ったのには 訳があります。

今年に入ってからの 新コロナウイルス騒動。

できるだけ外出を避け 自宅待機で暇を持て余していたからこそ。

時間をかけた割には カードが たった一枚だけなのが 残念ですが

終息したあかつきには 熈代勝覧カードを求めて 

また 江戸の町を 探し歩きましょう! 

 

 

<追記>

提供してくれた友人からの返信

 

へぇー覚えてないわっ!

楽器があると判れば 白紙(?)で渡すから 気が付いてなかったよ!

どんな図柄か まったく分からん。

まぁ でもエントリー出来て 良かったぁ!

 

 

 


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