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鈴虫は横笛だけじゃない

 

2792

2792 国宝 源氏物語絵巻 鈴虫二 平安時代後期 12世紀
源氏物語 第38帖 鈴虫の二番目の場面 八月十五日の夜、月見の宴に招かれた光源氏が
弟の冷泉院(源氏と継母藤壺との不義の子)と対座し語りあう。
満月が頭上にのぼり、公達のひとりが横笛を奏でる
 
(縦 21.8cm)     五島美術館        2003・10・10入手  
横笛

 

 

 のカデンツ

 

↑ このカードに 『公達のひとりが横笛を奏でる』 とあります。 

なので ずっと 楽器ジャンル・横笛 にファイルしていました。

が 2007年3月 偶然 通りかかった横浜そごう美術館の 

NHK開局80年記念 『よみがえる源氏物語絵巻』 という展覧会で

あでやかに復元された源氏物語絵巻を鑑賞した時

この 鈴虫(二) の絵の前で 

一瞬固まってしまうほどびっくりな 発見をしました。

横笛のカードとばかり思っていた この絵には

なんと もうひとつの楽器が描かれていたからです。

スクープ!  鈴虫(二) は 横笛だけじゃない!! 

では それは一体 なんの楽器でしょう?

 

佐野みどり著  じっくり見たい「源氏物語絵巻」  小学館から 

鈴虫・二 の場面の解説を。

(鈴虫一と)同じ夜 冷泉院からの急なお召しに

源氏は六条院に集まっていた殿上人たちを引きつれ 参上する。

更け行く月夜 源氏は若き公達たちに、笛をそれとなく吹かせるなどして

風流な参上の趣きであった。

画面は 平行線を繰り返す、すっきりとした構図をとり

冷泉院と対面する源氏を中心に、蛍兵部卿宮や公達を配している。

横笛を吹いているのは、夕霧であろう。

画面右上には銀色の月が浮かび、庭も一面銀色に彩られ 

月光が冴え渡る夜の風情を醸し出す。

 

  源氏は 若き公達たちに 『笛をそれとなく吹かせるなどして』 とあります。

では 横笛の他にも楽器があるとしたら

一体 それは なんの楽器でしょう?

ヒントは 蛍兵部卿宮(ほたるびょうぶきょうのみや)や

公達(きんだち)のなかの誰かが 奏でています。

この復元模写で明らかになった その もうひとつの楽器 とは

↓ こちら

一番手前の この公達です。

 

 

はい 笙 でした。 

 

オリジナルは  ↓ こちら。

 

 

剥落がひどいため まったく判別できません。

 

公達たちに笛をそれとなく吹かせ・・・

 

の たち は複数ですし  笙の笛とも いいますから

 公達たちに 笙や横笛を それとなく吹かせ

という意味だったのですね。

先ほどから 

 『それは なんの楽器でしょう?』  と 

しつこく書いたのは 

なんの楽器で 笙 

ってダジャレだったんです(汗)

 

↓ その笙が復元された全体図カードは こちら。

4292

4292  源氏物語絵巻 鈴虫(二) 復元模写 加藤純子筆 平成17年作 縦22.0cm 横48.2cm 五島美術館 
  2007・3・2入手   
アンサンブル

 

 

この展覧会のパンフレットから 抜粋します。

『鮮やかによみがえった平安絵巻』

平安時代後期(12世紀前半)に製作された国宝 『源氏物語絵巻』 は 

現存最古の物語絵巻といわれている。

源氏物語の華やかな舞台が描かれていたはずの絵巻ですが

色褪せ剥落が進んでいます。

近年の科学の進歩により、平成10年には

X線撮影や顔料分析など高度な技術で科学分析が行われ

失われたはずの図柄・模様・色彩が明らかになり

さらに、平成11年からはじまった 源氏物語絵巻復元模写プロジェクトでは

19面の絵が復元され、

約900年前に描かれた当時の色鮮やかな絵巻がよみがえった。

本展では、この 平成復元模写 とともに

江戸時代からこれまで製作されてきたさまざまな模写作品などを

あわせて紹介し、華麗なる王朝絵巻の魅力に迫ります。

 


 

 

<追記>

が  ↑ この展覧会を観て 8年経った 2015年 に 

 NHKBS プレミアムカフェ 2003年放送 

よみがえる源氏物語絵巻 〜平安絵師との対話〜

という番組が 再放送されました。 

2007年に ↑ 展覧会に出会ったのも 偶然でしたが 

この再放送を知ったのも 偶然。

復元模写プロジェクトのことを 詳しく紹介してくれたので 

番組にそって 書き加えておこうと思います。

 

12世紀はじめに 世界最古の大長編小説 源氏物語が作られ

その100年後 平安の絵師たちによって 現存する日本最古の絵巻物に仕上げられた。

宝石のような原石を砕いて あふれんばかりの色で描かれ

詞書にも 金銀の箔が ちりばめられた 贅沢な絵巻。

しかし900年たった今 その豊かな色彩は 剥げ落ち 変色してしまっている。

本来の姿は どんなものだったのか?

平成11年(1999年) 所蔵美術館を中心に 東京文化財研究所の協力を得て 

全巻分析復元プロジェクトが たちあげられ 徹底した化学調査が行われた。

蛍光X線分析装置で 元素レベルの絵具の分析を行い

X線撮影で 絵具の重なりや厚みを調べ 

蛍光撮影法で あせた色をよみがえらせた。

これらの分析測定によリ 顔料や有機染料を特定し 当時の色を推定 

馬場弥生氏 宮崎いず美氏 両画家による 復元模写である。

当初 源氏物語絵巻図は どのくらいあったのか不明であるが 現存するのは 全部で19図。

昭和のはじめ 巻いたり開いたりして 傷むのを防ぐため これらは切り離された。

縦 22cm 横 49cm の小さい画面に 驚くほど細密に描かれた絵の 復元模写。

2001年までに 柏木(三) 宿木(三) が

2002年から 竹河(一) 東屋(二)の復元が 開始された。

 

この番組は2003年放送なので 冒頭の鈴虫(二)の復元は まだ着手されていません。

でも  この徹底した化学調査で 鈴虫(二)に 笙が 発見されたのですね!

この絵巻図は さまざまな特徴がみられ

たとえば 

@ 屋根を取り払い 空中から描いたような 不思議な立体感のある 

吹抜屋台(ふきぬけやたい) という技法

であったり  ( 例えば 鈴虫(二) )

A 引目鉤鼻 (ひきめかぎばな) 技法

などが あげられるそうです。

源氏物語絵巻 全19図は それらの作風により 

これまでは四つくらいのグループに分かれるとされていました。

そのグループ別に 絵師たちが それぞれ役割分担し

リーダーの指示にしたがって構図や色を塗る作業をしていた 

と考えられてきました。

ところが 今回の化学分析で 

これら平安の絵師たちの個性を探り出そう  との試みは

新たな発見により

  ますます謎の部分が明らかになってしまったのだそうです。

たとえば ↓ こちら。

どちらも 最も確かな技術をもち名作揃いといわれる 

柏木のグループ に属する絵ですが

一見 同じような描きかたをしているように見えますが 

化学分析を行うと

顔の部分の塗りが 薄塗り と 何度も塗り重ねた厚塗り になっていて 

明らかに描き方に違いがあるそうです。

 

 

 

また ↓こちらは もうひとつのグループに属する絵ですが

これも 化学分析を行ったところ 

顔の色がそれぞれ 水銀主成分の白 と 鉛の白 で 

なんと 使用した絵具そのものが異なっていたことが判明したのです。

 

 

 

つまり これまでの単純な 4つのグループ分けでは 

説明しきれない多様な違いが見つかり

絵師たちは この小さな画面のなかで 

それぞれの技法を駆使しながら 互いに しのぎを削っていた 

と考えられるそうです。

 

 

橋姫 の オリジナルカードは ↓ こちら。

佐野みどり著  じっくり見たい「源氏物語絵巻」 小学館 から

引用しながら ご紹介しましょう。

橋姫

宇治の山荘に隠棲する八宮(はちのみや)には、二人の姫君がいた。

薫は 山里の聖めいた生活にあこがれ

八宮を仏法の師と仰いでいる。

晩秋 宇治を訪れた薫は

樂の音に誘われて 透垣(すいがい)から、姫君姉妹を垣間見る。

琴と琵琶を弾く大君と中君。

大君が弾いているのは箏(箏の琴)で 十三弦で現在の琴に近い。

 

4019

4019 源氏物語絵巻   橋姫(部分)  平安時代   徳川美術館蔵  2006・5・21入手  アンサンブル

 

 

 

↓ もう一枚

 

宿木(三)

右大臣家のもてなしに、匂宮は六条院の六君のもとで過ごすことが多い。

妊娠中の中君は宇治を離れて京に移り住んだことを悔やんでいる。

だが後見役としてなにかと心遣いしてくれる薫に対しても その恋慕がうとましく

中君は匂宮の愛を頼みとするしかない。

琵琶はどちらかというと男性向きの楽器とされていたようである。

宿木Vで 匂宮が弾くのは四弦の琵琶であり

中世の琵琶法師の場合と違って琵琶を横にして弾いている。

  

4018

4018 源氏物語絵巻  宿木V(部分)  平安時代  徳川美術館蔵   2006・5・21入手  琵琶

 

 

 

前述の復元プロジェクトの 宿り木(三) の模写は こちらです。

 

TV画面より

 

TV画面より

 

オリジナル

TV画面より 

 

 


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