各種記録


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☆不況の時代(2012.7.17)

   不況の時代が長く続いている。バブルがはじけて以来、久しい。バブル崩壊後、私はある程度の不景気はやむをえないものであり、インフレが昂じて一般庶民が家を買うことができないような時代より、不動産価格がそれほど高くない時代のほうが好ましいと感じていたこともあり、そのようなことを人前で公言したこともあった。そういうときに私の意見を聞いた人の反応は、あきれたような表情をするものが大半であった。そんな表情を見ながら、私はバブルが止まったことのメリットを強調したものであった。

 たしかに私はバブル時代に一部の人々に見られた浪費の気風や、それに伴う文化的、倫理的な退廃や社会的な風潮に疑問を感じ、バブルの崩壊をなにがしか歓迎したい気分を持っていた。しかし、今現在、不景気の状態があまりにも長く続くと、何とかしなければならないような気になってくる。それは緩慢なインフレを期待する気分であり、景気の上昇を願う気分である。私は長らく教員生活を続けているが、バブル崩壊以後、数年前までは学部の指導学生が少なく、就職活動の困難さを自分の問題として身にしみて感じることが多くなかった。しかし、今、多くの学部学生を相手にする立場に立ってみると、学生の就職活動をめぐる環境の悪さを痛感するようになった。そのため、不況に対する考え方も変わらざるをえなかった。

 しかし現在、緩慢なインフレが望ましいとは言っても、そうした状態を意図的に作り出すことが難しいことがわかる。特に国際化時代の今日、景気動向を国内のみで変動させることが不可能であることは自明である。こうした時代においては通常の投資行動により高額の利益を得ることも難しい。カントリーリスクを考慮しつつも、ほぼ固定された為替制度を取る中国に資本を移動させ、日本国内以上の利潤を得るという企業行動が多く見られるのは尤もだといわざるをえない。

 こうした時代状況の犠牲者は各世代に存在するが、特に若者の受難が問題である。以前であれば容易に定職を得られたであろう青年たちが就職困難な状況に陥っているのは深刻な問題であり、何らかの対応が不可欠である。幾分か残る不況克服の方策を模索して提示することを経済学に携わるものは求められているように思われる。