各種記録


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☆研究が進展中のテーマを教えることは難しい(2012.4.29)

  教員になりたてのころから痛感してきたことなのだが、自分で研究したことではないことを講義で教えなければならないのはつらい。ことに研究が進展中のテーマはなおさらである。求められる講義は学生が基本として身につけなければならない知識の伝授である。それはこれまで先学が築き上げてきた知識の集大成である。しかしその知識の体系は常に書き換えられつづけている。ことに重要な学説が批判の俎上にあげられ、問題点が列挙されて批判されている場合には、それらを教えることは適当でない。それでは批判的な新説を教えればよいのかといえば、必ずしもよいとは言い難い。そのような講義をすれば、学生は混乱するばかりだろう。各種試験に新説らしきものを書けば、正解として受け入れられるかどうかわからない。

 一般経済史の概論を久しぶりに教えてみてそのようなことを改めて痛感している。概論といえば自分の研究内容以外の知識が大部分であり、先学の研究成果を伝えるということが主要部分を占める。自分の頭にあるのは学生時代以来しみこんだ知識であり、しかもそれらが新しい研究により克服されつつあることも伝わってきている。それらは自分の研究テーマとして研究したわけでもないので、各学説の当否を直ちに判断することが出来ない。こうして、概論の講義準備は簡単ではない。もちろん優れた教科書もあるのだが、自分の講義計画とは隔たりがあるので使いにくい。そしてまた発行年次が古い教科書は新しい研究成果が盛り込まれていない。従ってそれらを祖述することは適当でない。

 それでは自分でテキストを作ればよいということになる。しかし、概論の内容をすべて研究し尽くすことは不可能であり、先学の学説をレビューせざるをえない。そうした作業をする研究者には敬意を表するが、自分でそれを行うことは困難が多すぎる。講義のたびにこのようなことを考えている。おそらく正解は、数名の研究グループを作り、議論の上、研究した内容を分担執筆してテキストを作成するということなのだろうが、これが難事である。概論にふさわしい理論的な内容を自分で研究してみるというのももう一つの解答であるかもしれない。