「解散」が終わり、再び東京へ――。
そろそろ学校にも顔を出さないと単位が取れなくなってしまうので、この時期は徹底的に授業に出た。
相変わらずクラスメートは、ノートを見せてくれたり、バーベキューに誘ってくれたり、家に招いてくれたりと、キャンパスライフを楽しませてくれた。
しかしその反面、遊びに夢中になって頻繁に門限を過ぎて帰ったり、朝の掃除をサボってしまったり、楽な環境に甘えることが多くなり、次第に先輩から目をつけられるようになってしまった。
PLで締め付けられた分、そのリバウンドが大きく跳ね返っていたのだと推測できる。
大学でも、もちろん上下関係はある。
個人的にしごかれる分にはなんの苦にもならないのだが、やはり1年生の連帯責任になってしまう。
基本的に正座をさせられるぐらいだったが、上下関係のない環境で過ごしてきた1年生もいたらしいので、今思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
この時期の野球部の練習は、昼の部と夜の部が分かれていた。
昼間に授業がある1部生は夜の練習、夜に授業がある2部生は昼に練習をする。
夜は練習時間が昼に比べて短い。それに上級生の大半が2部生だったため、精神的にも夜の練習に出た方が楽だった。
リーグ戦直前のときや、卒業を諦めている上級生は、昼の練習に出るケースが多い。
僕を含めたほとんどの1年生が1部生だったので、その点でも恵まれていたのかもしれない。
秋のリーグ戦に向けた戦いは、すでに始まっていた。
春のリーグ戦では、1部と2部との差を、まざまざと見せつけられた思いだ。
1部のチームは、技術や意識のレベルで、とても高い次元でプレーしていると感じた。
「絶対2部には落ちてなるものか!」
そういう気迫とプライドを持って戦っている姿が印象的だった。
それを目の当たりにしてしまったので、僕はますます1部で野球がしたくなっていたのである。
夏休みに入るころ、ひとりの男がグラウンドに現れた。
どうやら、来年に中央大学に入学が決まっている高校生らしい。
夏の予選で敗退して、早くも次のステージへ気持ちを切り替えていこうということか――。
この時期は、このように練習に参加する高校生が例年多いらしい。
――ガシャン!
火の出るような打球が、ライトフェンスを直撃した。
「誰やねん、あいつ」
ポジションはキャッチャーみたいだ。ノックでも、とんでもない球を投げている。
「何者やねん、こいつ」
衝撃的だった。なぜプロに行かないんだと、率直に思った。
僕もそれなりの環境で野球をしてきたが、間違いなく今まで見てきた中で、ナンバー1のキャッチャーだ。
「ホンマに高校生か」
「はい……」
これが僕と阿部慎之助との出会いであった――。
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