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7.中学2年でPLへの進学を決断

野球観が一変した恩師との出会い

1991年の夏、3年生が引退し、僕にとってボーイズリーグ最後のシーズンが始まった。大阪桐蔭が初優勝を飾ったあの夏である。
新チームになって、僕は小学部のときと同じ副キャプテンに就任した。
主力として頑張らなければならない。身の引き締まる想いだった。
初日の練習が始まる前、1人のコーチを紹介された。
僕が初めて恩師と呼べる人に出会った瞬間である。
名前は小池兼司さん。
東都大学リーグの専修大学の全盛期を支え、南海ホークス黄金期の名ショート、ゴールデングラブ賞も獲ったことのある人だ。
結構な年齢になっておられたが、スタンディングプレーはさすがにうまい。
細かい連携プレーや、サインの出し方、野球に対する姿勢、心構え、そして知識など、あらゆることを教わった。
僕の野球観は変わった
ボーイズリーグから先のことはあまり考えたことがなかったが、高校野球だけがゴールではないと教えられたし、強い高校に行かないと大学へも行きづらくなると、体験を通して話してくれた。

捕球して素早く投げる技術

小池さんとのことで、僕が最も印象に残っていることをここで紹介したい。
本来、多くの指導者は基本に忠実な教え方をする傾向にあり、またそういうプレーヤーを好む。
基本があるから応用ができる
確かにそうなのかもしれないが、もっと肝心なことがあるよ、というのが小池さんの流儀なのである。
具体的に説明すると、例えば守備において、基本に忠実にきれいな形でプレーをした結果、それがセーフになったとしよう。
この場合、仕方がないようにも思われるのだが、それではダメなのだ。どんな状況でも、アウトにしなければならないのである。
捕球して態勢を整えている間に、ランナーは走っている。どんな態勢からでも捕球したらすぐに投げることで、アウトにできる可能性が高くなるというのが理論だ。
そのためにはスナップスロージャンピングスローバックトスなどの技術も必要になってくる。
小池さんは、そういうことを僕らにやらせた。中学生にこんなことを教えるのかと疑問視される方も多いと思うが、僕にとってはこの方針が合っていたと思っている。
捕球して素早く投げる技術を身につけていることが重要なのだ。余裕があるときにはゆっくりアウトにすればいい。それができなければ、きっと間一髪のプレーで慌ててしまうだろう。
現に、僕らはダブルプレーをいっぱい取ったし、イニング間のボール回しも他のチームが感動するくらい速かった。
走塁と同じくらい守備にも自信がついた。

高校の選択肢

2年生の冬、ぼちぼちと各高校のスカウトが動きだした
僕のもとにも、何校からか推薦がきた。
僕が行きたかったのは受験に失敗した近大付属高校。自転車で通えるし、やっぱり強い。
僕の中での最優先は、甲子園に出られるかどうかということだ。
「きっと声をかけてくれる……」
そう信じていた。
そんな中、真っ先に声をかけていただいたのは上宮高校
母親の伯父さんも通っていたところだ。元木大介をはじめ、数多くのプロ野球選手を排出している。
「大阪3強のひとつにスカウトされる程、僕は成長したのだろうか」
不安ながらも嬉しかった。
次に誘っていただいたのは、夏の甲子園大会優勝大阪桐蔭高校
学校とグラウンドまでの距離がネックだが、人気は絶頂だった。周りのボーイズリーグの選手にも積極的にアプローチしていたようだし、気持ちは揺れていた。
そして、次に声をかけていただいたのがPL学園だった。
「PL」と聞いただけで、色々な思いが込み上げてきた。

僕は混乱した。
PLだけは格が違う
PLの野球部というだけでステータスだし、PLのユニフォームを着て、甲子園のグラウンドに立っている自分を想像したら鳥肌が立ってくる。
とは言ってみたものの、試合に出られる保証はない。自信ははっきり言ってなかった。
それに僕が行きたいのは近大付属高校だ。
決めるのは近大付属から声をかけてもらってからでもいい……
そう考えていた。

PL学園に決めた!

そんな矢先、チームメイトでありキャプテン諸麦健二が僕のもとへやってきた。
小学校3年生からずっと、彼がキャプテン、僕が副キャプテンとしてチームを引っ張ってきた大親友である。
彼は、僕らの代で一番にPL入りが決まっていた。
その彼と、このような会話をしたことを覚えている。
「イナリちゃん、高校どないするん?」
「まだ決めてへんわ。近大付属行きたいねんけどなぁ」
一緒にPL行こや。ずっと一緒やんけ
「PLかぁ……」
「せや、一緒に甲子園行こうぜ
「わかった。PLに決めた
彼の言葉で、僕は吹っ切れた。
人生最大の決断といっていいだろう。腹を決めた瞬間だった。
彼には本当に感謝している。
近大付属から声をかけていただいたのは、その2か月後だった。

8章につづく

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