家に着いた僕を、家族が出迎えてくれた。
真っ黒に日焼けした僕の顔が、一瞬にしてほころぶ。
「ただいま!」
この2年半で、僕の表情はどう変わっていったのだろう。少しは、たくましい顔つきになったのだろうか。
両親も一番の笑顔で応えてくれた。
「おかえり。お疲れさん」
家のテレビは高校野球の中継ではなく、PL学園のビデオが映し出されていた。
息子の野球以外は興味がなかったのだろう。非常にわかりやすい親である。
実際のところ、僕の中では甲子園は終わっていたので、もはやどこが優勝するのかはどうでもよかった。
ちなみに準決勝の結果は、第1試合は星稜が、第2試合は帝京が勝ち進み、優勝に王手をかけていた。
帰省した僕を待ち受けていたのは、応援してくれた方々への「お礼回り」だった。
小学校・中学校時代の同級生、八尾フレンドの事務所など、その反響は予想以上のものだった。
地元では親戚に囲まれ、大宴会の主役になった。
なんと、大阪予選から全試合に応援に来てくれた人もいたことが判明した。
そんな人たちを目の前にするのだから、こんなに嬉しいことはない。
「応援ありがとうございました。みなさんのおかげで、ここまで夢を叶えることができました。天国のおじいちゃんの分も含めて、今日はひっくり返るまで飲んでください」
僕はそのようなコメントを残した。
まさか20歳前の僕がお酒を飲めるわけがないが、大いにこの場の雰囲気に酔った。
甲子園は、僕を取り巻く人たちをも幸せにしてくれた。
この日のみんなの笑顔は、忘れられない一生の思い出だ。
夏の甲子園は、帝京高校が6年ぶり2度目の栄冠を手にした。
主力が抜けた中で、2年生エースの白木を中心に、粘る星稜に競り勝った。
こうして15日間にわたる戦いが幕を閉じた。
この大会から、福留(日本生命→中日→シカゴ・カブス)をはじめ、同じくPLの前田(東洋大→近鉄→楽天→阪神)、辻田(東洋大中退→元中日)、前川(近鉄→元阪神)、石川・星稜の山本(慶大→近鉄→オリックス)、千葉・銚子商業の沢井(元ロッテ)、岡山・関西の吉年(元広島)、福岡・柳川の花田(中大→ヤクルト)など、多くのプロ野球選手が巣立っていったのである。
充実のオフを過ごした僕は、9月からのバラ色の学園生活を過ごすため、再び寮に戻った。
引退するのは寂しいけれど、残された高校生活を目一杯楽もうと、すでに気持ちは切り替わっていた。
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