初回の攻防で、試合の流れは完全に智辯学園に傾いた。
2回裏、この回先頭の長島が2塁打を放ち、早くも前川がノックアウト。
2番手・前田に対しても手堅く犠打で送り、1死3塁のかたちをつくった。
ここで中本の打ち上げた飛球を、ライトの本同がまさかの落球……。
これで4−1。
この後、さらに犠打と内野安打に盗塁を絡められ、2死2、3塁のピンチを迎えた。
ここで3番・西川にセンター前へ運ばれ、2者が生還。6−1と大きくリードを広げられた。
このチームになってから、5点差の劣勢をつけられたことは今までなかったので、誰もが焦燥感に駆られていた。
それ以上に、ミスがきっかけで奪われた失点だけに、苛立ちを隠しきれないのがありありと見てとれ、そのことが点差以上に重く僕らにのしかかっていた。
しかし、優勝を視野に入れている僕らには、意気消沈している暇などない。
「取られたもんはしゃあない。まだまだ序盤戦や、がむしゃらに1点ずつ返していこうぜ!」
PLのお家芸でもある逆転勝ちを信じ、みんなで再度気合いを入れ直した。
5点を追いかける3回表のPLの攻撃――。
先頭の3番・福田がフォアボールを選び、次の4番・福留が1、2塁間を破るヒットでチャンスを広げた。
さらに5番・出井が死球で出塁し、無死満塁の大チャンスが訪れた。
そして続く6番・前田の打球はレフトへ飛んだ……。
ここで、まさかの足を滑らせたレフト・庄田が追いつけず、幸いにも2点タイムリーヒットとなった。
3点差としたところで7番・浦田の犠牲フライが飛び出し、これで6対4。
尚も2死3塁から、8番・本同のツーベースヒットが生まれ1点差に迫ると、9番・早川もつまりながらセンター前へ落とし、6対6の同点。
あっという間に試合を振り出しに戻した。
「いける、いけるで!」
ベンチは大盛り上がり。「逆転のPL」の本領発揮だ。
なんと1イニングで5点のビハインドを追いついた。
この流れからしても、僕らは安易にPLペースで試合が進むかと思ってしまった。
そこに、思わぬ落とし穴が待ち受けていようとは、このときは夢想だにしていなかった。
4回裏、智辯学園の攻撃――。
2つのフォアボールとバントヒットで満塁のピンチを背負うと、当たっている3番・西川に勝ち越しの2点タイムリーヒットで再びリードを奪われてしまった。
8対6と、またしても追いかける展開になったPLは、守りのリズムが悪く、なかなか攻撃に流れを作れない。
5回表の1死2塁、7回表の無死2塁のチャンスを潰してしまい、嫌な雰囲気がベンチに漂っていた。
「ここにきて2点が重い……ワンチャンス、ワンチャンスでええんや……」
誰もが反撃のチャンスをうかがっていた。しかし、その機会が訪れないまま、試合は遂に9回表へ――。
この回で最低2点が入らなければ、今までの努力が灰燼に帰してしまう。
僕らは絶体絶命の窮地に追い込まれた。
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