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53.準々決勝・智辯学園戦開始

ベスト4を賭けた戦いの舞台へ

8月19日。夏の甲子園も残すところあと3日。
前日の逆転勝ちで勢いに乗るPL学園の準々決勝の相手は、奈良の智辯学園
2校しか残っていない近畿勢が、なんの因果かここで激突することとなった。
連戦で体は疲れていたが、もうすぐたどり着けるであろう「てっぺん」に向かって、精神的には気鋭に満ちていた。
第1試合は、帝京創価の東京勢対決。強打の帝京が好投手の大木を攻略し、8対3で勝利。
第2試合は、星稜の2年生エース・山本省吾(慶大→近鉄→現オリックス)の好投で秋田の金足農業を下し、準決勝進出を決めていた。
そして第3試合――。
地元、PL学園の登場に、観客の盛り上がりはピークを迎えた。
この夏、甲子園でプレーできるのもこれで4回目
最初は圧倒され、地に足がついていない感じがしたが、今は違う。
勝ち進むにつれて、甲子園特有の雰囲気を完全に自分たちのものにしていた。
試合前ノックの動きも軽快だ。
「この試合に勝利して、早く準決勝に行こう」
ナイン全員が、必ず勝つものだと信じて疑わなかった。

鮮やかな攻撃でPLが先取点

先攻は1塁側、PL学園の攻撃――。
初回、渡辺が相手のエラーを誘って無死2塁のチャンス。
2番の僕が送りバントを決めて3塁にランナーを進めると、3番・福田のライト前ヒットで瞬く間に1点を先制した。
チームの勢いを象徴するような鮮やかな先制攻撃だった。

まさかのトンネル!?

1回裏、智辯学園の攻撃――。
PLの先発は日大藤沢戦に続き、左腕の前川
その立ち上がり、いきなりフォアボールをあたえてしまい無死1塁
2番・佐藤が送りバントでサードの僕の前に転がした。
ここで信じられないことが起きた――。
捕球体勢に入ったそのとき、ピッチャーの前川が僕の前を横切った。一瞬ボールが視界から消えた……。
気がついたときにはボールは僕の股をすり抜け、転々と後方へ。
「……まさかのトンネル!?
頭の中が真っ白になった。
「この俺がトンネル!? なんでや……」
ただその場に茫然と立ち尽くすしか、すべがなかった。

ノーヒットで3失点の悪夢

これでノーアウト1、2塁――。
守備位置に戻るときの、3塁側・智辯学園のアルプスの光景だけは、今でもくっきりと覚えている。
「C」の人文字が踊り、黄色いポンポンが飛び上がる――。
今日のPLのベンチは1塁側。
これまでは3塁側に味方がいたことに、あらためて気づかされた。
3塁側アルプスから発せられる違和感が、見えないプレッシャーとなって僕に降りかかっていたのだろうか――。
   
さらにPLのミスは連鎖する。
続く3番・西川のバントを処理した前川が、3塁へ悪送球。労せずして同点にされてしまった。
尚も無死2、3塁のピンチ。
4番の小坂には犠牲フライを打たれ、あっさり勝ち越しを許すと、続く庄田(明大→シダックス→阪神)には意表をつくスリーバントスクイズを決められた。
僕らは、なんとノーヒットで3点を失ってしまったのだった。

54章につづく

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