決勝戦翌日の8月1日は、教祖祭。
言わずと知れたPL花火芸術の日である。
この一大イベントに、全国から続々と会員の方々が集まってきていた。
野球部が8年ぶりに夏の甲子園に出場することは、みなさんにもすでに知れ渡っていた。
すれ違う方のほとんどが、「甲子園、がんばれよ」と嬉しそうに声をかけてくださり、僕らはこそばゆかった。
これは滅多に味わうことのできない体験である。それこそ8年ぶりの誇り高きことなのだ。
「見ず知らずの人たちが、こんなにも喜んでくれるなんて、本当に昨日勝っていてよかった……」
今さらながら、PL野球部に所属しているという責任の重大さが心に染み渡ってきて、僕は思わず身震いした。
――ドン! ドーン! パチパチパチッ!
夏の夜空に、盛大な花火が次々と打ち上がる。
両親や親戚もPLを訪れ、世界一といわれる花火を堪能していた。
大人たちはビールを片手に、会話にも花を咲かせていた。
「ようがんばったな。ホンマにおめでとう」
「オマエに甲子園連れてってもらえるなんて、夢にも思わんかったわ」
「甲子園でホームラン打ったら、家建てたるわ」
「甲子園行かんでええから、今すぐ阪神入れ」
テンションが上がり出すと、どこまでもしゃべるのが大阪人の悪い癖である。それぞれが好き勝手に、きつい冗談を言い出す。
だが、このような会話を聞いているだけで、気分が落ち着いてくるから不思議だ。
これが肉親や身内のありがたさなんだと、あらためて実感した。
みんなの嬉しそうな顔をみるにつけ、ホッとする思いとともに、苦しい中がんばってよかったなと、しみじみ感じるのであった。
お腹にまでズドンと響いてくる花火の音が心地いい。
「あと1ヵ月もないんかぁ」
花火と花火のわずかな幕間、火薬の煙がたなびく空に向かって、そう独りごちた。
甲子園が終われば、もう引退である。
「時間よ、もう少しゆっくりと時を刻めんのか……」
今までの苦労を考えると、この充実感をもっと長く味わいたい。このまま時間が止まってもいいくらいの心境だ。
煙が流れ去った夜空には、夏の大三角形がうっすら輝いて見えた。
過去2年は、まともに花火など見られやしなかった。ましてや、僕らが甲子園に出られることになり、こうしてじっくり腰を落ち着けて花火を鑑賞できるなんて考えてもみなかった。
だが今は違う……。
――ドン!
夜空のキャンバスには、再び色とりどりの花が描かれはじめていく。
花火と甲子園――。
2つの夏の風物詩に想いを馳せる自分が、確かに今ここにいる。
夢を追い続ける僕の表情を、夜空に輝く花火が優しく照らしていた。
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