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40.終盤に直面した大ピンチ

8回表に訪れた最大のピンチ

7回裏にも、PLは内野ゴロの間に1点を追加して、8対4のスコアになった。
いよいよ勝利が目の前までやってきた。
だが8回表、市岡も意地を見せる。
先頭の丹羽がヒットで出塁。1番・神垣が倒れたあと、2番の中島がファーストのグラブを弾き飛ばすヒットでつなぎ、1死1、3塁のピンチを背負った。
ここで迎えるバッターは3番・井上。最も警戒すべきバッターに回ってしまった。
ここまで4打数4安打。準決勝でもホームランを放っている。
絶好調なこの強打者に一発が出ると、たちまち1点差に迫られる。しかも、主砲が打てば、市岡は再び息を吹き返してしまうだろう。
僕らは、最大のヤマ場に直面したことを肌で感じとっていた。

ピンチを救ったダブルプレー

浮き足立つ僕らのもとに、ベンチから伝令が走ってきた。
内野陣がマウンドへ集まり、まずピッチャーを落ち着かせた。そして、守備態勢など、一つひとつ再確認していった。
場面としては、ランナーをためるわけにはいかないので、もちろん勝負だ。
「打たれたら打たれたで仕方ない」
こうなったら、割り切っていくしかないのだ。
意志を確かめ合い、それぞれのポジションへと散らばっていった。
   
タイムがとけ、主審が「プレー」を宣告した直後の初球、それは起きた。
――カキン!
快音を残した打球が、ショート・福留の真っ正面に。6-4-3とボールが渡り、ゲッツーが完成した。一瞬の出来事だった。
PLナインが吠える。ガッツポーズを作って喜びを爆発させた。足早にベンチに戻り、ハイタッチを繰り返した。
絶体絶命のピンチを最高のかたちで切り抜け、勝利をグッと手繰り寄せたのである。

悔しさをバネにした相手のエース

PLの8回裏の攻撃――。
マウンドには、先のチャンスでダブルプレーに打ち取られた井上が、依然として上がっている。
しかし、この回の井上のピッチングは、鬼気迫るものがあった。
8番・前田をショートゴロ、9番・早川を見逃しの三振、そして1番・渡辺を渾身のストレートで空振り三振。
ベンチに戻っていく井上の眼には、キラリと光るものが見えたような気がした。
オール直球勝負の全力投球。先のチャンスでの凡打が、よほど悔しかったのだろう。気持ちがボールに乗り移っていた。
その負けん気の強さといったら、敵ながらあっぱれであった。

41章につづく

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