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34.夏の予選への下準備

3年目の強化合宿

いよいよ最後の強化合宿
「3大名物」と呼ばれるトレーニングとしても、最後の項目だ。
これを乗り越えれば、もう極端に苦しい練習はない。
強化合宿のときは、3年生の母親の方々が「研志寮」の厨房に入り、昼食を作ることになっていた。
最後の夏にかける想いは、選手も親も同じというわけである。
この慣わしは、毎日の食事に飽きてしまっている僕らにとって、とてもありがたかったが、それだけではなく、驚くほどの相乗効果もあった。
やはり、母親の顔を見ると安心するのである。現金なもので、地獄のような練習も、そんなに厳しいと感じなくなるから不思議だ。
あらためて、親の力は偉大だと実感した。
強化合宿が無事に終了する頃には、誰もが甲子園出場を誓いあい、その実現を信じて疑わなかった

「遠征」という名の息抜き

夏の予選まで、あと1ヵ月余り。
PL学園では毎年この時期、遠征があった。僕らのときは、沖縄静岡だった。
沖縄では、名門・沖縄水産との対戦があった。
次の日は、首里城に行って、観光と記念撮影。束の間の休息だ。飛行機に乗ったのも、このときが初めてである。
静岡は、バスでの移動で少し疲れたが、試合にはたくさんの方が観に来てくださり、歓迎ムードが伝わって嬉しかった。
帰りのバスもリラックスムードにあふれ、この遠征でも僕らは命の洗濯をすることができた。
最後の大会を前にしての緊張感から、ついピリピリとした雰囲気になってしまう時期だけに、いい意味で息抜きになった。
しかし、遠征が終われば、夏の予選はすぐそこだ。いつまでも楽しかった思い出にばかり浸っている場合にはいかない。
こうして遠征から戻ってきた僕らは、予選に向けてスイッチを入れ直すのであった。

学校行事「記録会」での快挙

ここで、学校行事である「記録会」について、少し触れておこう。
PL学園では、暑くなり始めたこの時季に「記録会」がある。
地域別対抗戦で、出身地ごとに6地域くらいのチームに分かれて得点を競っていく方式だ。
ちょっとした運動会をイメージしていただくと、わかりやすいのかもしれない。
種目は以下の8種目。

野球部もこれに参加するのだが、はっきりいって誰も自分の地域の勝ち負けになど興味はない
そんなことよりも、別の野望があった。
8種目のうち、野球部から5種目で1位を出せば、その日の練習は休みになるというのが、PL野球部いにしえからの伝統だ。
僕らにとって、これほど食指が動かされるニンジンはない。
満願成就に向けて、野球部の実力者どうしでエントリーがかぶらないよう、各々が得意とする種目に割り振りを決めていった。
ただし、当然ながら体育会系は野球部だけではない。そうそう簡単には、勝たせてくれるはずもなかった。
僕は100m走にエントリーした。
この種目は陸上部のエースがエントリーしているので少々気が引けたが、100m以上の距離ではバテてしまって戦力にならないため、やむをえなかった。
そして迎えた当日。
決勝まで勝ち進んだ僕は、大金星をあげた。あろうことか、彼に勝ってしまったのだ。
勝てるとは思っていなかったので、かなり嬉しかったのはもちろんだが、それ以上にこの脚力が武器になるという自信を再認識できたのは大きかった。
100m走の勝利で波に乗った野球部は、他の種目でも次々にトップをとり、最終的には6種目を制覇した。
練習こそ休みになったが、よくよく考えてみたら、予選を間近に控えている僕らに休んでいる暇などなかった。
全員が自覚を持って自主練習に励んだのは言うまでもない。

35章につづく

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