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23.2番サードで私学大会出場

心にゆとりができた2年目の春

無数に広がる満開の桜並木が、今年はなんだかやけにきれいに目に映っていた。
入寮したての1年前は、その美しさにも気付かない程、心に余裕がなかったということだ。
PLで迎える2度目の春……。
地獄のような1年が過ぎ、遂に僕らの下にもいよいよ新入部員が入ってくる
「仕事」に追われる毎日に別れを告げられる喜びと、苦しい1年間を乗り越えてきた自信が、僕らを包みこんでいた。
しかし、2年生は中途半端な位置付けだ。基本的には自分のことだけをやっていればいいが、1年生がたるんでいれば真っ先に怒られるのが2年生。
気持ちにゆとりができたせいで、何かに気付くことも、1年生より2年生が先である。
怒られたくないから、その前に注意したり、場合によっては自ら雑用を買って出たりすることもあった。
この1年で、場の空気を読む力が格段に成長したのだろう。
その能力は、社会人になった今でも大いに役立っている。

新チームを見据えたレギュラー争い

2年目からは、メンバーと同等の練習をさせてもらえた。
首脳陣からも、手取り足取り教わる機会が増えてきた。
「今のチームで出られなくても、新チームではレギュラーをつかんでやる!」
そのための争いは、すでに始まっていた。
新チームを想定したとき、僕は1ケタの背番号をもらえるか、2ケタの背番号なのかの当落線上だった。
「仕事」から解放されたのも束の間、今度はそこはかとない焦りと不安が、僕の胸を締め付けるようになった。

久しぶりの実践でアピール

名古屋空港での中華航空機墜落事故とアイルトン・セナの死亡事故で、世間が騒然としている中、春の大会は始まった。
僕は2軍戦の私学大会に参加していた。
僕にとっては久しぶりの実戦だ。試合に出られる喜びよりも、アピールすることだけを考えた。
そのときのポジションはサード、打順は2番だった。
僕の持味は守備と足。バッティングに関しては、僕より力のあるバッターがゴロゴロいるので、普段の練習ではまるで目立たない。
「力で勝負してもあかん。俺は守備と足なら誰にも負けへん」
ただ、内野ならどこでもこなせるという選手は、守備要員でメンバーには入りやすいが、その器用さが仇となり、定位置が確保できないというケースが多く見られる。
だから、僕がレギュラーを勝ち取るには、実戦で打つしかなかった
「あいつは実戦向きやな」
そう思わせることが、何よりも大事だった。
僕はこの大会で、派手さこそなかったが、ある程度の結果を残すことができた。
首脳陣がその辺りをどう見てくれていたかはわからないが、僕の中では満足感がみなぎっていた。

24章につづく

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