6月には、PLに入って2回目の「強化合宿」が始まった。
約2週間の日程で行われる強化合宿は、「新チーム練習」「冬の練習」と並んで、PLの3大名物といわれる程、厳しいトレーニングが課せられる。
ところが、1年前に比べるとキツさは半分になっていた。
「仕事」がなくなったおかげで、精神的にも体力的にも余裕が出てきたからだ。
気持ちも野球に専心できていた。
「今年こそ甲子園に行く。必ず去年の借りを返してやる!」
そんな雰囲気が、チーム内を支配していた。
結局、夏の予選メンバーにも選ばれず、またしてもスタンドからの応援となった。
しかも、応援団長としてである。
「こんなことをするためにPLに来たんやないっ!」
盛り上げるのは得意な方だったが、そういう気持ちの方が強かった。
メンバー外の2年生には、応援以外にも役割がある。データの収集だ。
次の対戦相手の情報や、ピッチャーの癖などを分析しなければならない。
データをとるためには、相手が試合をしている球場まで足を運ぶ必要があった。
データ収集は、「外の空気」が吸えるという恩恵があって、いい息抜きになっていた。
やはり注目は近大付属だ。総合力は抜けていた。北陽や上宮もさすがに強い。
大阪のレベルは、やっぱり高かった。
大村さん(現ロッテのサブロー)や、宇高さん(元近鉄)らの活躍で、この年も順当に勝ち上がった。センバツ大会ベスト4の実力をいかんなく発揮していった。
迎えた準々決勝、野球の神様の粋な計らいによって、リベンジの舞台が整えられた。
相手は1年前の決勝で夢を打ち砕かれた近大付属。チーム全体が「打倒、近付」で燃え上がった。
一進一退の攻防戦。一球一球に力が入った。
同点のまま最終回にまでもつれ込んだが、結果はサヨナラ負け。
2年連続で、同じ相手に甲子園への道を断たれた。
しばらく茫然として誰も動けない。早すぎる夏の終わり……。
泣き崩れる先輩方が痛々しい。
1年前と同じ光景が、僕の目に映っていた。
寮に戻ると、ミーティングが行われ、3年生の労をねぎらった。
引退する3年生からも、1、2年生に向けて、叱咤激励の言葉が交わされていた。
「おまえらがんばれよ。夏行かな意味ないぞ。こんな悔しい気持ち、2度と味わったらあかんぞ」
僕らは、そのひと言ひと言を、深く肝に銘じた。
熱戦から一夜明けると、意外にも3年生は清々しい顔で夏休みに入っていった。
きっと、3年間やりきった充実感が、穏やかな表情を作り出していたのだろう。
「本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました」
心を込めて先輩方を送り出した。
ひとつの時代が終わり、ひとつの時代がまた始まる……。
この年の夏、一世を風靡した「ジュリアナ東京」も閉店するという。バブル時代も終わりを告げ、世の中には新しい価値観が到来しつつあった。
そして、まさにこの日こそが、僕たち2年生にとって新時代の幕開けであった。
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