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17.食を進ませるPLのアイデア

食事が全然進まない

強化合宿が終わった。
季節はだんだんと暑くなりはじめ、体力の消耗も早くなってきた。
当時、練習中は一滴の水さえ飲むことは禁じられていたので、意識を朦朧とさせながらも練習を続けるしかなかった。
水を飲める唯一のチャンスは、食事のとき。このときとばかりに、誰もが水をガブ飲みした。
けれども、水分でお腹がいっぱいになってしまい、ご飯が全然進まなかった。
62kgあった体重は、いつのまにか56kgにまで減っていた。

伝統メニュー「PLチャーハン」

食事のメニューも、決しておいしいといえるものではなかった。
そこで、体重をキープするために、ご飯が進むような工夫が代々引き継がれていた。
その代表的な存在が「PLチャーハン」だ。
特別にレシピを紹介しよう。

  1. まず卵を炒めて、いったん別の皿にあげる。
  2. 強火のフライパンにマヨネーズをしき、ご飯を入れる
  3. 調味料の中華味、塩こしょう、テーブルガーリックで味を調える。
  4. あげていた卵を入れて醤油を加え、混ざりきるまで炒めたら完成。

是非お試しいただきたい。

PLチャーハンを調理するのも仕事

基本的に、食事は用意されているメニューがあった。
ところが、付き人の先輩がひとたびPLチャーハンが食べたいと言えば、1年生は押っ取り刀で調理場へ向かわなければならなかった。
「阿知波さん、本日の晩ご飯はいかがなさいましょうか?」
「今日なに?」
「ハンバーグです」
「ハンバーグかぁ、どうしようかなぁ……よし、チャーハン作って!」
「はい!」
そんな付き人とのやりとりは、日常茶飯事だった。
また、この年は記録的な冷夏になり、戦後最大の米の不作となった。翌年にかけて深刻な米不足に見舞われ、輸入されたインディカ米が出回った。
PLも例外ではなかった。
インディカ米の混ざったご飯は、白米のまま食べると、日本人の食感にあわない。
そのため、必然的にPLチャーハンを作る機会が増えることとなったのは言うまでもない。

マヨネーズと砂糖は必須アイテム

その他のご飯を進ませる工夫は、「マヨネーズ&ソース」。
これは調理というより、単にマヨネーズとソースをミックスしただけ。それを、どんな料理にもつけて食べるというアイデアだ。
こってりとした濃い味で、食欲を増進させようというのが狙いで、見事に全員が全員、そのようにして食べていた。
醤油とソースは寮に常備されていたが、マヨネーズは2週間に一度しかない買い物のときに、入手しなければならなかった。
言うまでもなく、強制的に買わされた。しかも一人2本もだ。切らしたら大事件になるぐらい、マヨネーズは重要なアイテムのひとつだった。
ちなみにこのマヨネーズ、PLでは「マヨP」と呼ばれていた。
あとは、「砂糖&醤油」も特筆しておくべきだろう。
鶏肉や豚肉など、明らかに砂糖と醤油で炒めた方がおいしいとわかるときの調理法だ。
砂糖もマヨネーズと同様、寮には常備されていないので、買い物の際に1年生が買わなければならない
他にも色々とメニューはあるのだが、この3つが比較的多かった。
当然ながら1年生は用意されているメニューしか食べられないので、先輩方が食べている姿を、指をくわえて見ているしかすべがなかった。

自分のために買えるのは便箋だけ

買い物に関しても、ここで少し触れておきたい。
買い物は2週間に一度、PLの敷地内にある小さなスーパーに、全員揃っていく。
所持金は2000円
先輩方は、お菓子やアイスクリーム、ウインナー、カップラーメン、卵、ジュースなど、好きなものを買えた
しかし1年生はマヨネーズ、塩こしょう、テーブルガーリック、砂糖などを、必ず買わなければならないのがルール。そうなると、1年生が自分のために買えるのは、便箋くらいだった。
携帯電話はともかく、ポケベルさえなかったこの時代、外部との連絡方法は手紙しかなかった。
3年生は寮の電話を使えるが、1年生は使えるわけがないので、便箋は必須アイテムだったのである。
両親や中学時代の友達にせっせと手紙を書いては返事を心待ちにし、届いた手紙を心の拠り所として日々の励みにしていた。

18章につづく

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