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110.世代交代の瞬間

納会でこみ上げてきた寂寥感

寮に戻ると納会が始まった。
毎年楽しいはずのこの会が、今年はなんだか寂しい。騒ごうと思っても騒げない。酔っ払おうと思っても酔っ払えない。
うちらの時代は終わった……
その気持ちが、どこかでセーブをかけていたのだろう。
新キャプテンに慎之助が任命されると、在学生の背筋がピンと伸びるがわかった。

「こいつらは、まだまだこれからなんやな。責任て、そういうことやねんな」
僕らは後輩に対して置き土産を残すことができた。
来年の春のリーグ戦は、神宮球場でプレーすることが確定している。
どれだけいい伝統がつくれたかはわからないが、長く2部で過ごした暗黒時代からの脱却へのきっかけにはなったといえよう。
後輩たち一人ひとりの手を取り、そして抱擁を交わす。
明日から野球のことは考えなくてもいい。
世代が変わる瞬間だった。

仲間たちと過ごす最後の酒宴

納会が終わり、例年のごとく吉祥寺に繰り出した
4年間過ごしてきた仲間と、最後の酒盛り
寮生活の苦しみや、特別ハードな練習はなかったので、高校のときとはまた違った雰囲気を感じた。
この先、みんながみんな野球を続けられるわけではない
野球から離れる……すなわち、それは社会に出ることを意味する。
これからは「野球だけをやっていればいい」というわけにはいかなくなるのだ。
   
入寮した頃は、まだ子どもだった。右も左もわからなかった。東京に来てまず感じたのは、故郷のことだった。
そして在学中に20歳を迎え、大人になった。
そんな僕が今日引退する。もちろん、今ここにいる一緒に過ごしてきたみんなと共に。
野球という名のもとに集まったこの仲間こそ、僕にとってかけがえのないものだと言い切れる。
   
「誰が一番に結婚するんやろな」
「ちゃんと卒業しろよ!」
「社会人野球の練習はめちゃめちゃしんどいらしいで」
たわいもない話は朝まで続いた
最高に楽しい夜を過ごした。
「みんな、ありがとう……」

当時の仲間へ一筆啓上

〜中大のみんなへ〜
   
それぞれ歩む道は変わるけど、みんなと共にした4年間は一生の宝物です。
人生のなかで一番楽しい時間をみんなと共有できてホンマに幸せでした。
ありがとう。
そして、これからもよろしく。

111章につづく

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