北海道の森を歩いて
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私が住んでいる北海道の森について、その概要を記してみます。自然全般にわたる知識を持っているわけではありませんので、きわめて限られた範囲の話しです。専門の話しではなく、軽いエッセイと思って、読んでください。

●北国の森の概要(1)

北海道は、大ざっぱに分類すると、落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の二大勢力が共存しています。道南から道央(札幌、苫小牧、空知地方など)そして道北、道東の海岸線は、落葉広葉樹林が広がっています。日高山脈、大雪山系、道東や道北の高山帯は、常緑針葉樹林の天下です。

ところが、こう簡単に言えない森があります。「針広混交林」です。字のとおり、針葉樹と広葉樹が混在して生育している森です。このような森が出来るのは、北海道が冷温帯から亜寒帯に移行する地域・特殊な気候であるのが大きな理由であろうと想像できます。

一般的には標高の低いところでは広葉樹、高いところでは針葉樹が勢力を広げます。 そして、その境界に当たるところに「針広混交林」がよく発達するのです。日高や大雪の山々に登山をすると、高度を上げるに従ってこのような森を見ることが出来ます。

気軽に見られるのは、札幌と喜茂別町の間にある「中山峠」です。トドマツやダケカンバなとが織りなす紅葉は、とても美しい。無限の色が、山全体に塗り込められているようで、毎年その色の輝きに圧倒されます。


●北国の森の概要(2)

道南地方から北では、ミズナラなどを中心として落葉広葉樹が目立ちますが、必ずトドマツやエゾマツなどの針葉樹も混じっています。純粋な落葉樹林は、ほとんどないでしょう。しかし、エゾマツやトドマツの針葉樹が優占する森は意外と少なく、大雪、日高山系と阿寒湖周辺に大規模なものがあるだけです。

もう少し詳しくみると、黒松内町以南の道南は東北地方と同じ冷温帯林地域、そこから北・東部を広葉樹と針葉樹の混交する汎針広混交林地域と言えます。ただし、汎針広混交林は冷温帯に属するもので、亜寒帯と呼ぶには無理がありそうです。

北海道全体では、落葉広葉樹の勢力が強く、その中に針葉樹がよく混交する、と言えます。特筆すべきは、ダケカンバです。針葉樹は、比較的高山帯に森を作りますが、さらにその上、あるいは同じ標高のところに生育します。

ダケカンバは落葉広葉樹の典型的な陽樹であり、悪環境への適応力は驚くべきものです。ダケカンバの優占林が現れたら、森林限界が近い、と判断して間違いないでしょう。その上に生育するのは、ハイマツとごく限られた低木落葉樹です。


●北海道の落葉広葉樹森(1)

落葉樹林の素晴らしさは、見た目の美しさだけではありません。秋になると紅葉して、大量の葉を地面に落としてくれる事です。何十年、何百年、何千年という繰り返しの結果、地面に積み上げられた葉が昆虫や菌類によって少しずつ分解され、肥えた土壌になります。森の中を歩くと、ふわふわした落ち葉の感触が伝わってくるのは、落葉樹林の特徴です。

肥えて豊かな土壌には、沢山の昆虫・菌類が棲息しますが、その虫たちをエサにする鳥類や小型のほ乳類も集まってきます。豊かさが、さらに豊かさを生み出してくれるのです。落葉樹林は、生物の多様性という観点からも貴重な存在ではないでしょうか。

●北海道の落葉広葉樹林(2)

私が、主に撮影対象にしているのは、札幌以南の森です。とはいえ、北は日本海、南は太平洋にはさまれるかなり広範囲な地域です。とくに、黒松内町以南は、ブナが主力を占めるような所で、東北地方とあまり変らない森を形成しているのです。

どのような森なのかは、「北限のブナ森」を読んでいただきたいと思います。ブナがあるか無いかの違いで、ほぼ似たような植相です。ブナが無い場合は、ミズナラが中心の森になります。私の印象ですが、ミズナラはブナほど森の中で優占種にはなりません。そのためか、他の木たちがとてものびのびしています。共存共栄を守り、自分だけが圧倒的に強くなるような様子はありません。エゾマツやトドマツのような針葉樹とも一緒に暮らしています。

撮影していて楽しいのは、沢山の色が森中に散りばめられていること、木肌や幹の形が色々で、いつ見ても飽きないことです。春から夏、夏から秋、季節季節の変化は目を見張るものがありますし、森がとても軟らかく優しく感じられるのです。


●森を創ろう(1)

「自然を守ろう」とか「森を守れ」、といった声があがり始めて、どれほどが経つでしょうか。

自然保護団体がたくさん結成され、運動は着実に成果を上げているようです。行政の姿勢も、開発一辺倒とは行かないようです。世界の流れは、人間と自然の関係がどうあるべきかを真剣に考え、<自然と人間の共存>への道を探ることにあります。

さて、いま現在「守るべき自然」はどれぐらいあるのでしょうか。毎年のように熱帯雨林の消失が問題にされますが、もはや「守ればよい」という段階を超えてしまっているような気がするのです。

日本の自然も同じです。私の住む北海道も、人の手が入らない山など皆無に等しく、伐採されて丸裸の禿山が、あちこちにあります。原生林などは、ごく限られた場所にしかありません。

●森を創ろう(2)

私は、森を撮りながら、これからは「森を創らなければ」と考えています。ほんの少しの雨で、普段は静かな川が濁流となり、国道に土砂が崩れ落ちたりします。もはや、守るだけでは私たちの自然環境は復活できないほど打撃を受けています。みんなで森を創る仕事をする時代です。

日本は幸いにも、世界でも稀な気候条件(温暖で雨が多い)がありますので、とくに落葉広葉樹は、ちょっと人間が手助けすると短期間に復活する可能性があります。

あまり難しく考えないで、まずカバの木(シラカバなど)をたくさん植えてはどうでしょう。成長が早いシラカバ林に、ミズナラやカエデ、ホオノキが芽を出すはずです。やがて、本来の極相林に近い森が回復するのでは、と夢に見ています。

ただし、針葉樹のカラマツを無闇に植えるのはいけません。カラマツは、本州から持ち込まれたもので、北海道本来の極相林を形成する木ではありません。