もっと楽しく写真講座(2006)
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2006年に行った、写真講座の講義録です。デジタル写真に関する内容が中心になりました。


ミニミニ写真講座(1)

八月になって暑い日が続いています。写真講座も、お盆の一休みです。五月から四回の講義がありました。お復習いのポイントを書いてみます。

●写真はどのように写るか
写真は、「光で描く絵」です。必需の道具は、カメラとレンズ、フィルムかCCD(デジタルカメラに内蔵されています)が必要です。

今回からは、デジタルカメラを中心に説明します。カメラは、サイコロのような形をした暗箱と思ってください。そこに穴をあけて、適当なレンズを取り付けます。レンズを被写体に向けると、光がカメラ(暗箱)に導かれ、レンズ後方の壁に外の画像が写ります。

画像が写る位置にCCDを置いておくと、光の強弱に応じた電流がCCD内に発生します。それを、コンパクトフラッシュ(CF)やSDカードと呼ばれる記録メディアに保存します。写真(画像)が写る原理は、とても簡単なものです。

カメラ内に入る光の量を調節するには、シャッターと絞りがあります。シャッターは、写す時にシャッターボタンを押して、ごく短い時間開閉します。構造は、ガレージのようなものです。一般には上下に動きます。開閉時間が短いと、たとえば1/1,000秒、光の量は少なくなります。長い時間をかけて開閉すると、たとえば3秒、沢山の光をCCDが受け取ります。

絞りは、レンズ内に組み込まれています。人間(猫でもいいのですが)の目の瞳と同じ構造です。光をたくさん取り込みたい時は、大きく開きます。逆の場合は、閉じるように操作します。

このように、カメラに入る光の量を調節するには、シャッターと絞りを組み合わせて操作します。光の量が一定であれば、絞りを小さくするとシャッタースピードは遅くなり、シャッタースピードを速くすると絞りは開かなければなりません。両者には、反比例の関係がありますので、ご注意下さい。

手振れを防ぐには、絞りを開けてなるべく高速のシャッタースピードにします。絞りを小さく(絞る)して画面全体をシャープに撮りたい時は、シャッタースピードが遅くなりますので、三脚を使うなどの工夫も必要でしょう。

フィルムは24mm×36mmの大きさ(面積)ですが、デジカメCCDの多くはAPS-Cサイズというもので、24.5mm×15.7mmくらいです。メーカーによって若干の違いがあるようです。あまり気にしないでください。

●レンズは写真の命
写真という絵を描いてくれるのはレンズである。これが写真の核心です。画家にとっての絵筆、版画家の鑿、小説家のペン、音楽家の楽器、イチローのバット、ジダンの右足、みたいなものです。

写真を撮る最初の動機は、人間が目で物を見る動作、それにによって引き出される心の感動です。とかく誤解されているのは「目で見た通りに写真は写る」という迷信ではないでしょうか。人間の目とレンズは、構造だけみればきわめて似ています。ほとんど同じです。が、働きはまるで違っていることを確認してください。

人の目は、近くから遠くまで写る範囲(画角)を一瞬のうちに変化させ、見えている物・視野に在る物の大半にピントを合わせています。実際にはボケていても、過去の経験と記憶から、大脳の中でピントを調整して、事物を明瞭に認識します。ボケ(ピントが合っていない)を意識する人は、いないはずです。

一方レンズは、焦点距離によって画角とボケが大きく変化します。とくに、ボケは、レンズ特有の性質です。絵画にはない、写真独自の表現であることを頭の中心に置いておいてください。「写真レンズを使う技術は、ボケをコントロールすること」、このように断言してもよいくらいです。

一眼レフカメラには、豊富な交換レンズがあります。超広角から超望遠まで、多彩な焦点距離のレンズがあります。それだけ表現力に優れたカメラです。今後本格的に写真を、という人は一眼レフカメラとレンズを購入することをお勧めします。

デジタルカメラの標準的な焦点距離は、35mmです。写したものが、おおむね人間の視感覚に近い画像になる、と言われています。35mmより焦点距離が短いものを「広角レンズ」(10mm,18mm,24mmなど)、長いものを「望遠レンズ」(70mm,135mm,200mmなど)と呼びます。

広角レンズは、「画角(写る範囲)が広く、ボケ量が少ない」のが特徴です。望遠レンズは、「画角が狭く、ボケ量が大きい」のです。具体的には、広角レンズは、広い範囲を写しながら、画面全体にピントが合ったように見えます。ボケが少ないからです。望遠レンズは、狭い範囲を切り取り、ピントを合わせた位置以外はボケて見えます。

以上がレンズの持っている基本的性質です。さて、レンズには「絞り」が付いています。絞りは、入射する光の量だけでなく「ボケの量」をコントロールする働きがあります。絞る(絞りを閉じる)と、ボケは少なくなります。開くと、逆にボケ量が大きくなります。

このように、写真画像のボケに影響する要素は、「レンズの焦点距離と絞り」なのです。両者を組み合わせて、画像表現にさまざまなバリエーションを作り出すことができます。とても大切、この講座の核心です。

大きなボケを作りたいときは、望遠系のレンズを選択して、絞りは開く。ボケよりも画面全体にピントが合ったような(パンフォーカス)シャープ感のある画像には、広角系のレンズで絞りを絞る(閉じる)のが定法です。

文章を読んでいても、ピンと来ないかもしれません。実践するのが最も理解しやすい早道です。ズームレンズなどお持ちでしたら、広角側から望遠側へズームしながら、画像の変化(画角とボケ)をゆっくり確かめてください。

マクロレンズという、超近接撮影ができる特殊レンズがあります。これもボケを作るには最適の武器です。花の撮影などをする人には必需レンズです。

レンズを攻略すれば、写真も大上達。これが合い言葉です。

●携帯デジカメ活用術
登場当初は、E-mailに添付できる程度の小さな画像しか撮れなかった携帯デジカメです。現在は、200万画素、300万画素という実用上まったく問題のないレベルになりました。葉書や2Lサイズなら、何の心配もなくプリントできます。この講座では、画素数が200万以上の携帯を使うことにします。

画素数200万以上の機種なら、たいてい記録メディア(ミニSDカードかmicroSDカード)を挿入するスロットがあります。256MBとか500MBの大容量カードを買えば、何百枚も写真を撮れます。フィルムなしで。

フィルムカメラの時代から発売されている「コンパクトカメラ」がありますが、もはや携帯デジカメは、それに取って代わるような便利さと性能を持っています。生来無精な私は、コンパクトカメラを購入することもなく、いつも身につけている携帯一本槍になってしまいました。

使い方は、従来のコンパクトカメラと同じです。ピントや露出(CCDにどの程度光を導き、画像の明るさをどうするか)など、ほとんどが自動設定でかまいません。技術の細かいことは無視して、構図を決めてシャッターを押すことに集中することです。スナップカメラ、という感覚でしょうか。

ほとんどの人が、どこへ行くにも携帯を持っています。出先で、ちょっと面白いと感じた物、気になった物、記憶しておきたい物、何でもその場で撮影できます。カメラを持っているという感覚が無いのがよい。目にした物で、興味をそそられたものを、気楽に映像にしてみましょう。写真に対する視野が広がり、表現が豊かになること、請け合いです。

カメラの特徴は、CCDが一眼レフに比べてずっと小さなものが使われていますので、レンズは広角系です。大きなボケを作るような表現には限界がありますが、広がりのある画面構成ができます。また、近接撮影に強いので、意外に花の撮影もできるのです。説明書を読んで、お持ちの携帯の性能・特徴・使い方を確認してください。

広角系レンズの使い方のコツは、被写体に思い切り寄って寄って撮影すること。画面の真ん中に、写したい物をドーンと配置してください。画面からはみ出すくらいの勢いで寄ってください。

パソコンでプリントするのが面倒という人は、街のカメラ屋さんに自動プリント処理機があります。記録メディア(ミニSDカード、あるいはmicroSDカード)を持ち込めば、簡単に写真プリントになります。

写真機を持っていなければ、あるいは「撮るぞ」と気合いを入れなければならなかった写真も、携帯という超現代的道具で、その向き合い方や撮影にも変化が現れています。講座に持ってくる写真を撮る暇がなかった、という言い訳もだんだん言えなくなってきましたね。


ミニミニ写真講座(2)

ニュースレターの原稿を書く時期が来た、ということは06年の講座も終わるということですね。春、新緑の撮影会が心地よかったのが、つい先日のよう。もう雪とともに暮らす日々となりました。

何を書こうかと迷いましたが、講座のなかで説明が不十分だった写真の基礎知識について、一筆の補いをしたためることにしました。

今年の講座は、デジタル写真一本に絞って講義してきました。写真は、フィルムとデジタル(CCD,CMOS)という二つの「光を記録する方式」があります。どちらかに対して甲乙をつけたり、無理に軍配を上げることもできません。ですが、普通の人や初心者が手がけるには、デジタル方式が手軽です。そんな訳で、06年はデジタルに集中した講義内容となりました。

●デジタル画像処理の基本システム
(1)2002年度の講義で、ノートパソコンはパワーが足りない、と書きましたが、事情が変わりました。現在店頭で販売されているものなら、ノートパソコンでもまったく問題ありません。データー処理の中心であるCPUは、ペンティアムのCore Duo,Core Solo,Mなどの名称が付いたものならどれでも合格です。

Celeron,Celeron Mという低価格のものもありますが、どうせ買うなら上記のCPUが乗ったものをお薦めします。メインメモリーも想像以上に高速になりました。DDR(PC2100,PC2700)という高速メモリーが出て、仰天していましたが、現在は、DDR2という更に高速のタイプになりました。現時点でのノートには、このDDR2が常識のように使われています。メモリーの容量は、最低でも1GBに増設しておきましょう。端から1GBある、という製品もありますが。

ノートパソコンなら、場所も取らず、節電にもなり、持ち運ぶこともできます。私は、FMV LOOK T70Rという機種を使っています。メモリーは、1GBです。画像処理には、モニターの善し悪しが問題になります。液晶よりも、昔からあるCRT(ブラウン管)の方が画像の確認には向いています。画像処理のために、低価格のもので十分なので、手に入れておいてください。必要なときだけ、ノートパソコンに繋げば良いと思います。

(2)プリンター事情
プリントには、インクジェット式のカラープリンター。エプソンとキャノンはこの業界の双頭です。それぞれ独自の色を持っていて、エプソンはやや温和しく自然な描写を好む人向きです。キャノンは、微妙にマゼンタに偏った明るい色調で、彩度がはっきりしています。メリハリのある表現が好きな人に向いているでしょう。

マット紙や画材用紙で水彩絵的な表現が得意なのは、エプソン。モノクロのプリントにも拘りがあるメーカーです。光沢紙でフィルムの持っているような明快なコントラストを作りたいなら、キャノンでしょうか。メーカーによって持ち味が違いますので、自分に合ったものを選択してください。

四つ切り以上、半切程度まで大きくプリントするなら、A3ノビ対応の大きな型を購入しましょう。葉書や六切りなら、A4対応型で十分です。使うインクは、写真を展示することを考え、耐光性のある「顔料インク」にしましょう。購入時に、顔料タイプか染料タイプか、しっかり確認のこと。

(3)スキャナーも欲しい
過去に撮ったフィルムをプリントしたい、こんな時にはスキャナーが便利。2002年の講義録に、フィルムスキャナーについて詳しく説明してあります。配布のテキストを再読してください。当時は、高画質を得るにはフィルム専用のスキャナーがベストだったのですが、今は「フラッドベッドスキャナー」と呼ばれるA4サイズのもので申し分ありません。

解像度は4000dpi前後ありますし、アナログ/デジタル変換の精度が見違えるようになりました。さらに、「デジタルICE」という自動でキズや汚れを除去する機能もあります。フィルムスキャナーは、一枚ずつの処理となり、とても時間がかかります。フラッドベッドスキャナーなら、A4の平らなガラス面に何枚ものフィルムを乗せて、同時に一気にデジタルデーターに変換できます。

価格が安いのも魅力。エプソンのGT-750(4800dpi、デジタルICE)は、27,800円という、さほど驚かない値段です。フィルム専用スキャナーなら、安いもので6〜12万円します。今なら、反射原稿と透過原稿(フィルムなど)両方が読み込めるフラッドベッドスキャナーを推薦します。

(4)その他、外付けのHDD(ハードディスク)があったら便利です。パソコンのHDDだけでは、いずれデーターで一杯になってしまいます。また、故障する可能性もあります。写真データー専用のHDDを是非買っておきましょう。

卓上型のやや大きめの物と、持ち運びに便利な携帯型があります。卓上型は、独自に電源を必要としますが、容量が大きく、500Gとか1000GB(1TB)などという超巨大倉庫です。携帯型は、7cm×11.5cmくらいの小型。パソコンにUSBで接続し、電源を必要としません。その代わり、容量は40GB〜120GB程度。値段は1万円から2万円強です。

私は、外で撮影をすることと、機械に場所を占領されたくないので、携帯型を使っています。ただ、大量に撮影する人は、卓上型が良いでしょう。

●デジカメ補足
(1)デジカメの分類
デジカメと一口に言っても、とても種類が多く、初心者なら、店員さんに聞いても「うん…〆?◎‖&∞*$♂Ωζ」というカンジでしょうか。大雑把に分類すると、次のようになります。

〇一眼レフ型  〇コンパクト型  〇中間型

一眼レフは、昔からあるもので、知らない人は珍しい。ペンタプリズムを体の上部に入れて、レンズが写す画像を直接モニターできます。光を受光するCCDは、35mmフィルムと同じかAPS-Cサイズ(17.3mm×13.0mmくらい)です。レンズ交換が出来、多彩な表現能力があります。写真を趣味としている人は、ほとんどがこのタイプを使っているようです。

コンパクト型は、デザインも大きさも画素数も盛りだくさんで、説明するのが不可能なくらいです。一般的には、小型であること。画素数は、500万から800万と一眼レフに引けを取りません。が、CCDの面積は、一眼レフの10から20分の1程度しかありません。残念ながら、画質(写りの良さ)は一眼レフに遥かに及びません。デジカメの画質は、CCDの面積で決まると言ってもよいのです。

使い道は、記録に止まらず、芸術的な表現ができるのは当然です。しかし、内蔵している暗いズームレンズでは表現方法に制約があり、画質にも限界があります。とりわけ「レンズのボケ」は、一眼レフに比べると、かなり少ないですね。この点を十分理解したうえで積極的に利用することでしょう。

お薦めしたいのは、携帯に付いているデジカメです。画素数200万以上であれば、A5くらいは平気で伸ばせます。コンパクトカメラに、「小型である」メリットを求めるのであれば、カメラだけを別に持つ必要はない、というのが私のカンジです。いつも手にしている携帯は、写真表現の強力な味方なのです。

最後に、中間型です。如何にも一眼レフのようなファインダーが付いていますが、レンズに映る像を見るものではなく、液晶モニターが内蔵されています。操作感覚を一眼レフにした「コンパクト型」と理解すればよいでしょう。CCDも、一般のコンパクトよりは大きな面積のものを使用して、画質はなかなかのものです。欠点は、液晶モニターが、被写体の動きに追いついていけないこと。一眼レフのように、一瞬のシャッターチャンスをモノにするには向いていません。ピントも合わせづらいですね。

とはいえ、どうしても大きなカメラは持てない事情にある時は、抜群の威力を発揮するでしょう。一眼レフ的な操作性と画質を確保しながら、コンパクトさを実現しているのは貴重な存在です。特に風景撮影に向いています。富士フイルムのFinePix S6000などは、代表的なカメラです。

(2)画像形式を覚えよう
日常コンパクトカメラしか使っていない人は、無条件にJPG(ジェイ・ペグ)形式の画像で写真を撮っています。一眼レフの人は、RAW(ロウ)とかTIF(ティフ)を知っているに違いありません。

RAWとは、CCDが受けた光情報を生のままデジタルデーターにしたもので、カメラメーカーによってデーターファイルの拡張子が違います。したがって、そのままではPhotoshopなどの画像処理ソフトで扱うことは出来ません。

現像という作業をして、TIFやJPGという一般的な画像ファイルに変換する必要があります。RAWは、「生データー」ですから、無限の情報と表現可能性を秘めたものです。撮影時の光の情報を余すところなく保存したい、と思うなら、RAW形式に設定することが絶対条件です。

RAWの現像は、カメラに付属している「現像ソフト」を使います。パソコンにインストールして、指示に従えば、誰でもできます。慣れない人は、最初戸惑うかもしれませんけれど。現像と呼ぶのは、フィルムの現像になぞらえているだけで、やっている内容はまったく異なります。

TIFは、Photoshopで処理する一般的で最適の画像形式です。基本的に画像の劣化は無く、RAW形式の情報がそのまま反映されています。良質、高画質のプリントを作るには、TIF形式の画像を用意しましょう。データー容量が大きいので、保存にはHDDが必要です。

JPGは、ホームページや簡単な印刷物など、実に幅広く使われています。TIFのような高画質の画像を、特殊な技術で「圧縮」して、データー容量を小さくしたものです。当然、圧縮の比率を高くするほど画質の劣化があります。しかし、実用上問題の無い画質を保ちながら、データー容量を小さくしたいときに便利な画像形式なのです。世界中で使われている標準的な形式です。

高画質を要求されないコンパクトカメラ(携帯含む)は、無条件にJPG形式の画像で撮影・保存されます。もちろん、Photoshopで画像の加工をしても構いませんが、TIFに比べると劣化が目立ちます。そういう意味からも、JPGの画像は、大伸ばしには耐えられないと理解して下さい。

●写真の楽しさ・面白さ
写真に限らず、自分の感じた心の動き・感動を形にすること、面白さの本質はこれに尽きるのではないでしょうか。写真好きの人は、音や文章よりも、図形や色に敏感なのです。視神経が先に反応するタイプですね。

写真にデジタル技術が入る以前は、カメラにフィルムを詰めてシャッターを押すまでが、写真愛好家の楽しみ喜びでした。フィルム現像とプリントは、原則として現像所にお任せするしかありません。モノクロ写真は、これらの行程を自分で行うのが可能ですけれど、自室内で適切な場所(暗室)を確保できる環境があるでしょうか。

私が迷わずデジタル派に転身したのは、パソコンとプリンターさえあれば、撮影から作品プリントまで、誰の手も借りず納得いくまで一貫して作業が出来るという理由からです。フィルム時代は、現像所の仕事や表現に口を差し挟む余地がほぼ皆無でしたから、まあ諦めていました。

デジタルデーターとパソコンを手にした時は、舞い上がるような嬉しさがありました。やっと自分の思い通りに出来る、不満やストレスがなくなり、写真生活四半世紀にして表現の自由を獲得した気分を文字にするのは、魚が木に登るのと同じ程度に難しいです。

写真の画像をモニターで見つめている時、閃光が脳髄を切り裂きました。眩しい光の中に、「写真も二次元の映像にすぎないじゃないか」、という文字が浮かんでいました。私のような年代の人間は、「写真は、真実を記録し社会的大義があるべきだ」との思弁的形而上的観念に少なからず囚われています。 私は、好きな表現と大義の狭間で、いつも揺れていたのですれけど。

直裁に言えば、写真も絵も版画も同じ範疇に入ってしまうものなのです。そんな単純で常識の事実に気づくのに、ずいぶんと長い時間を費やしてしまったものだと、我ながら呆れ返っている次第です。フォトジャーナリストとか戦争写真家などという人たちが、写真界のヒーローに扱われる時代が戦後から続いていたわけで、その雰囲気に影響を受けるのはやむを得ないことだったのかもしれません。

私は、デジタル技術のお陰で、二重の意味で自由を獲得したと思います。自分の心が反応したもの、美しいと思ったもの、好きなもの、興味を持ったもの、びっくりしたもの、可笑しいもの、愛するもの、それらに素直に従ってシャッターを押せば良いのです。思弁や観念に拘束されず、目の前の事実を有りの儘に受け入れるのが創造の原点だ、と心から感じています。

人間の感情と感性は、時代や民族を越えて、人類が存続する限り生き残っていきます。

表現技術では、パソコンの力で制作過程が自由になったのに加え、作品プリントに印画紙しか使えなかったのが、マット紙など紙質の選択も多様に自由になりました。フィルムの時代には考えられない、大袈裟に言えば明治維新に比肩する革命なのです。

芸術活動は人間だけが獲得した奇跡のような能力です。であればこそ、心の中に芽生えた感情を我が子のように大切にし、自由に形にする。写真上達と楽しみのコツは、それ以外にないと思います。

(写真講座講師 村岡ひろし)