振動するストリングと光


Last Update: 11/15/2012

 

 具体的にストリングの振動の様子を見てみましょう。ここでは「端のあるストリング」の振動を考えてみます。

 ストリングの一番単純な振動は

「箱」は単に3次元での振動を見やすくするために描いたものです。ややわかりづらいかもしれませんが、ストリングが振動する方向には2つあります。これが大切な点です。ストリングの振動する方向は、左右方向(左のムービー)と上下方向(右のムービー)の2種類あります。

 超ひも理論によると、これは光をあらわします。(より正確には、光子という粒子をあらわします。光子が大量に集まったものが光です。)光も上下方向と左右方向に振動する2つの波からできているからです。自然の光ではこの2種類が混じりあって、光はいろいろな方向に振動しています。しかし、一方向だけに振動する光のことを「偏光」と言います。

 私たちは普段偏光を意識したりはしませんが、「偏光フィルター」を使えば光が二種類の振動からできていることを確かめることができます。偏光フィルターは、光を人工的に偏光に変えるフィルターです。もともとは2種類ある波を、スリットのようなもので一つの方向をブロックしているようなものです。

 偏光フィルターは、身のまわりでたくさん使われています。注意していれば、偏光フィルターを手に入れるのは難しくありません。偏光フィルターを二枚重ねて一枚を回すと、明るさがあまり変わらなかったり、暗くなったりします。明るさがあまり変わらないときは、フィルターの向きがそろっている場合です。最初のフィルターで一方向に並んだ光が、そのまま次のフィルターを素通りしているのです。

 

 


 一方、暗くなったときは、2つのフィルターの向きが直角になった場合です。一つの方向に並んだ光が、次の偏光フィルターの向きと違うため完全にブロックされたのです。

 

 

 

 このように、光も二種類の振動からできています。超ひも理論では、光がこういう振動をするのは、ストリングが2種類の方向に振動するからだと考えます。

 同様にして、「ループ上のストリング」の振動で、重力(グラビトンという素粒子)があらわされます。実は「偏光」は光だけが持つ性質ではありません。素粒子はみんな同じような性質を持っています。(もちろん「偏光」と書けば光のことになってしまいますが、素粒子に一般的な性質として、「偏光」と書くことにします。正式には「スピン」と呼ばれます。)重力も例外ではありません。重力の「偏光」は、ループ状のストリングの振動で説明できます。ただし、重力の偏光は光の偏光よりも複雑で、なじみもないと思われるので、ここでは詳しくは説明しません。

 


身の回りの偏光

 電球や太陽光など、たいていの光源からの光は、特定の方向に偏光していません。しかし、そのような光でも、反射したときに偏光した光になります。ガラスで反射したときも起きますし、はげ頭で反射したときだって起こります。(実を言うと、なにもはげ頭に限らず、皮膚のどこでも起こります)

 偏光フィルターは、身のまわりでたくさん使われています。注意していれば、偏光フィルターを手に入れるのは難しくありません。偏光になじみをもってもらうために、ぜひどこかで手に入れて下さい。いろいろと遊ぶことができます。

  • サングラス:サングラスのなかには、偏光サングラスと言って偏光フィルターを使っているものがあります。光が反射すると偏光すると書きましたが、雪からの照り返しも同じです。だからフィルターの向き次第で、照り返しをブロックできるわけです。
  • カメラ:またカメラに詳しい人なら、カメラに使う偏光フィルターを持っているかもしれません(一枚1500円程度から)。これも水などを撮るときに、キラキラした反射光を消すために使うものです。
  • 3D映画:3Dメガネにも偏光フィルターが使われているものがあります(ワーナーマイカル系やテーマパークのアトラクションなど)。
  • 実験キット:近年、いろいろ簡単な実験キットがおもちゃ屋などでも売られています。このような実験キットのなかにも、偏光フィルターを使ったものがあります。
  • 液晶:実はわざわざ探しまわらなくても、どの家にも必ず偏光フィルターはあります。電卓、パソコン、薄型テレビ、携帯電話などの液晶です。だから偏光フィルターを液晶の前で回すと、偏光フィルターが2枚あることになるので、やはり明るくなったり暗くなったりします。どれも試してみましょう。(したがって、屋外で偏光サングラスをかけながら携帯を操作していると見えにくくなってしまい、携帯の角度の調節が必要だったりします)

偏光フィルターの遊び方

 もっとも偏光は、なにも偏光フィルターで人工的に作るだけのものではありません。自然界のなかにいくらでもあります。実際に自然界にどれだけ偏光が満ちているかを知るために、偏光フィルターを手に入れたら覗いてみましょう。一見すると、風景にたいした変化があるようには見えません。単に全体的に薄暗くなったようにしか見えないでしょう。しかし、注意深く観察すると、特定の場所だけが極端に変化します。たとえば、

  • ガラス
    光がガラスに当たって反射すると、反射光は偏光になると書きました。そこで偏光フィルターを通して、ガラスの反射光を眺めてみましょう。偏光フィルターを二枚重ねたときと同じように、偏光フィルターを回すと反射光の明るさが変わります。偏光とフィルターの向きが直角になると、反射光は消えてしまう。ただ反射光が完全に消えるかどうかは、光が反射した角度次第です。たとえば垂直に反射した光では、反射光は消えません。垂直に反射した光は、偏光していないのです。
  • 青空
    光が反射すると偏光が起きますが、青空でも同じことが起こります。なぜなら、日光が空のちりに当たって反射して、私たちのところにやってくるのが、青空の光だからです。そういうわけで、青空も偏光しています。そこで偏光フィルターを回しながら、空を眺めてみましょう。とくに、太陽からの角度によって偏光はどう変わるでしょう? ガラスのときと同じく、強く偏光しているのは、太陽から特定の方向を見たときです(夕暮れの場合、偏光が強いのは南北方向からくる光です)。
     人間は偏光を感知しませんが、多くの生物は感知できます。たとえば、ミツバチは太陽に雲がかかっていても、青空の偏光を使うことで太陽の位置がわかります。ミツバチはこの偏光の角度を感知することで、太陽の位置を知るようです。ちなみに、昆虫が偏光を感じるのは、眼のなかの構造が偏光フィルターと同じ役割を果たすからです。

  • 月の光は日光が月で反射されたものです。光が反射して偏光が起きるなら、月の光も偏光しているはずです。偏光フィルターで月を見たらどうなるでしょう? 三日月・半月・満月のうち、偏光が強いのはどれでしょう?

  • 虹も偏光しているはずです。光がプリズムを通ると、七色に分かれます。光の色によって、光が屈折する角度がわずかに違うからです。同じことは虹でも起きています。虹が見えるときは、大気中に小さな水滴が浮かんでいます。この水滴がプリズムの働きをすることで、光を七色に分けるのが虹です。
     光は屈折して水滴の中に入ります。そして水滴のなかで反射されて、ふたたび屈折して大気に戻ります。しかし、色によって光が屈折する具合は違います。このため、それぞれの色は特定の方向にしか戻りません。それを遠くから見ると、虹になるのです。
     しかし、虹の光は色に分かれているばかりではありません。虹でも反射が起こっているので、虹の光も偏光もしています。

 


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