蒸発するブラックホール


Last Update: 11/15/2012

 ブラックホールからは光さえも逃れられません。このためブラックホールは物質をはきだしたりはせずに、物質を吸い込む一方です。つまりブラックホールは「太る」一方のように思えます。しかし量子力学を考えると、ブラックホールは温度を持ち、蒸発していきます(ホーキング放射)。ここではブラックホールが蒸発する様子を見ることにしましょう。

 最初はブラックホールはゆっくりと小さくなりますが、ブラックホールが小さくなるにつれて次第に高温になり、このため急速に蒸発します。ブラックホールの温度は、ブラックホールの大きさによって変わるので、いくつか大きさを変えてムービーを作成してあります。

 ムービーにはブラックホールの温度、蒸発を始めてからの時間、長さの目安も描かれています。ムービーを見るにはコントローラーをクリックしてください。

(1)太陽程度の重さの場合 

 ブラックホールが温度を持つと言っても、このようなブラックホールの温度は微々たるものです。ムービーからもわかるように、

ブラックホールの温度:絶対温度で100万分の6度
ブラックホールの寿命:約1059億年

程度であり、とても観測できるものではありません。現在の宇宙は約140億歳ですが、このようなブラックホールの寿命は宇宙の年齢と比べても桁違いに長いです。

ムービーのポイント:大きなブラックホールは温度が低く、蒸発はゆっくり始まります。しかし蒸発が進みブラックホールが小さくなっていくと、徐々に高温になっていきます。そうすると蒸発は激しくなり、ブラックホールはますます小さくますます高温になって、さらに蒸発が進みます。このようなわけで、蒸発は加速的に進みます。

(2)大きな小惑星クラスの重さの場合 

(3)小山程度の重さの場合 

このようなブラックホールが存在していると、大きさは原子核程度(約10-13cm)しかありません。

より詳しいコメント:これはシュワルツシルト・ブラックホールの蒸発の様子です。色がついているものは、ブラックホールの色、温度をあらわしています。ただし明るさは正確ではありません(放射の強さをあらわしていません)。熱放射の強さは温度とともに急激に変化するので、このような図で書くことはできません。なお、この色は、青(400nm)緑(560 nm)赤(700nm)3色での熱放射の強さから決めています。あまり正確なものではありません。またこのムービーはブラックホールの半径の変化を描いただけであり、蒸発が実際にこのように見えるわけではありません(一般相対論の光学的効果は考慮に入れていません)。 

シュワルツシルト

 


荷電ブラックホール(ライスナー・ノルドストリューム・ブラックホール、超対称ブラックホール)の場合

 

 超ひも理論で理論的に扱いやすいブラックホールは、電荷を持ったブラックホールです。電荷を持った場合は、そうでない上の場合と比べて大きく違います。下のムービーは、電荷を持った場合(左)と電荷を持たない場合(右、シュワルツシルト)で蒸発の様子を比べたものです。

 始めは電荷の効果が小さいため、どちらも同じように蒸発していきます。しかしブラックホールが小さくなると、電荷の影響が大きく効き始めます。ある時点からブラックホールの温度は上がるのではなく下がり続けていきます。このため、ブラックホールの蒸発もゆっくりしたものになります。そして完全に蒸発しきることはなく、適当な大きさのブラックホールへと近づいていきます(ムービーで「最終的な大きさ」の横にある灰色のシミがそうです)。この極限の場合で、ブラックホールの温度はゼロになります。超ひも理論で理論的に調べやすいのは、この極限に近い場合です。


より詳しいコメント:このムービーでは、適当な単位系でブラックホールの質量が電荷の10倍の場合を考えています。 (このムービーであらわれる数値は、適当な単位系を基準にしてあらわしたものであり、普通の秒などであらわしたものではありません)かりにこのような電荷を帯びたブラックホールが実際の宇宙にあったとしても、荷電粒子を吸い込んで急速に中性化し、上のシュワルツシルト・ブラックホールになります。したがって、このようなブラックホールへの興味はあくまで理論的なものです。また超対称性が保たれているような宇宙では、中性化は容易には起こらないため、このムービーに近い発展をします。

 
 ライスナー ノルドストリューム 


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