超弦理論と時空


Last Update: 04/01/2005

  共立出版より出版

本のアウトライン(「はじめに」より):


 一般相対論は実験的には大変成功しているものの、理論的には様々な問題を抱えており、理論としては十分ではない。特に、ほかの基礎的な相互作用とは違い、一般相対論は現在までに量子化に成功していない。
 現在のところ、超弦理論以外に知られている量子重力理論はない。しかも、超弦理論は全ての力を統一する統一理論の最有力候補でもある。このため、一般相対論では十分に答えられなかった問題に対して、超弦理論がどういう答えを出すのか大変興味深い。本解説では、重力理論としての超弦理論に焦点を当てて、これまでに得られた成果を俯瞰してみたい。
 この解説では、ある結果を詳しく導出することはしない。第一に、後で見るように現在の超弦理論は十分に定式化できていない。このため、将来超弦理論が定式化された時に、現時点でのある結果の導出に何か教育的価値があるかどうかは疑わしい。第二に、超弦理論の分野では流行が頻繁に(一年程度のスパンで)移り変わっている。したがって、現時点、あるいは過去の一時期に流行であったテーマも、読者がこの解説を読まれる時点で中心的なテーマであることはまずない。
 しかし、超弦理論における重力一般は、常に超弦理論の中心的なテーマであり続けた。そこで、ここでは超弦理論における重力について、何がわかっていて何がわかっていないか、そして一般相対論の抱える諸問題のうち超弦理論のさまざまな段階で何が解けるか、何が解ける可能性がないのかについて考えてみたい。
 本稿では一般相対論や場の理論について初歩的な知識を仮定しているが、超弦理論についての知識は仮定しない。2章では一般相対論でのブラックホールについて簡単に触れ、3,6章では超弦理論の基礎をまとめる。ただ本解説は超弦理論の解説自体が目的ではないので、超弦理論の解説は多くの場合表層的なものにとどめる。
 この解説では、主にブラックホールにまつわる2つの未解決問題をあつかうことにする。(宇宙論的問題や宇宙項問題なども興味深い問題であるが、本稿ではあつかわない)。4章ではそのうちの1つ、一般相対論の特異点問題を超弦理論がどう解くかについて、様々な特異点の例を用いて議論する。また5章でも特異点問題に関連した問題をあつかう。7章ではもう1つの未解決問題、ブラックホールの量子論的問題を議論する。ここでは特に、近年の重要な発展であるブラックホール熱力学の超弦理論的な導出や(7.4 節)、これに関連した最大の未解決問題であるインフォメーション・パラドックスについて解説する(7.2 節)。最後に 7.5 節でブラックホールそのものの量子化や、量子重力理論の構築にむけての議論も簡単におこなう。これらの問題を通して、超弦理論にとって時空とは何かを考えてみたい。

 

目次:


1.はじめに
2.一般相対論におけるブラックホール
3.場の古典論としての超弦理論
 3.1 超重力理論
 3.2 等価原理とディラトン
 3.3 BPS ブラックホール
 3.4 ゲージ場と広がりを持ったブラックホール:ブラックブレーン
 3.5 超重力理論に対する補正
4.特異点問題
 4.1 特異点定理とエネルギー条件
 4.2 超弦理論における特異点のある時空
 4.3 高次元への埋め込み
 4.4 双対性と特異点
 4.5 その他の特異点
 4.6 量子重力効果
 4.7 禁止される特異点
 4.8 まとめ
5.その他の特異点に関連した問題
 5.1 トポロジー変化
 5.2 宇宙検閲仮説
6.重力理論としての超弦理論
 6.1 曲がった時空上の超弦理論
 6.2 ブレーンの超弦理論的記述
7.ブラックホールの量子論的問題
 7.1 一般化された第2法則
 7.2 インフォメーション・パラドックス
 7.3 パラドックスの解決方法
 7.4 エントロピーの微視的導出
 7.5 パラドックスの解決、あるいは量子重力理論の構築にむけて
付録:より進んだ解説

 


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