よくわかる量子力学


Last Update: 09/21/2012

  夏梅誠、二間瀬敏史著「よくわかる量子力学」ナツメ社

 

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本書の構成について

1章:不思議な常識と量子

なぜ星は見えるのか、なぜ日焼けするのか、といった身近な現象を使って、量子力学の初歩を導入する。

2章:身の回りのもので調べる量子と原子の世界

量子力学は原子より小さい世界を説明する理論なので、初心者にはなじむのが難しい。本書の目的の1つは、自宅で比較的容易にできる実験などを通して、量子力学になじんでもらうことである。ここでは誰にでもできるCDを使ったスペクトルの観察を通して、量子と原子の世界を調べる。しかし、この章までの初歩的な説明には不十分な点が多いことも確認する。

3章:量子力学のルールと重ね合わせ

2章までの不十分な点に答えるために、3章以降では本格的に量子力学を説明する。量子力学に特徴的な概念を(ほぼ)1章につき1つずつ取り上げる。そしてこれらの概念を理解してもらうために、応用例を考えながら説明していく。いずれも、将来の応用が研究中のものばかりである。本章では重ね合わせの原理について紹介する。

4章:重ね合わせ、量子コンピュータ、暗号解読

3章の重ね合わせの原理を応用しているのが、量子コンピュータだ。量子コンピュータが実現すれば、ある種の計算は従来のコンピュータよりはるかに効率よく計算できるようになる。その一例は暗号である(現代的にはセキュリティと言った方がいいかもしれない)。量子コンピュータが実現した暁には、現在の暗号は解読されてしまうことを説明する。

5章:不確定性関係と量子暗号

不確定性関係を紹介し、その応用として量子暗号を取り上げる。これまでの暗号は量子コンピュータで解読されてしまうが、量子暗号は原理的に解読できない暗号だ。

6章:量子からみ合いと量子テレポーテーション

量子からみ合いを紹介し、その応用として量子テレポーテーションを取りあげる。量子からみ合いは、遠く離れた粒子同士に瞬間的に働く不思議な作用だ。しかし光より速く情報を送ることはできない、という相対性理論に反しているわけではない。量子からみ合いを利用すると、量子世界でのテレポーテーションが実現する。まるでSFのような話だが、残念ながら人間のような大きな物体が転送できるわけではない。

7章:量子論に謎を突きつけるブラックホール

最後の章は、一般相対論が予言する物体、ブラックホールを取りあげる。これまでの章で学んだ概念を総動員して、ブラックホールが量子論に突きつける謎、インフォメーション・パラドックスを考える。量子力学の現代的な応用、またはブラックホールの謎のどちらかだけを取りあげた本は多いが、どちらも取りあげているのは本書の大きな特色である。

 

目次

1章:不思議な常識と量子

1. 身のまわりの量子力学
2. なぜ日焼けするのか1
3. なぜ日焼けするのか2
4. なぜ星は見えるのか
5. 星は見えないはずなのだが…
6. なぜ遠くの明かりが見えるのか
7. 何がおかしいのだろう?
8. 光の粒子性
9. 光子のエネルギーはどれくらい?
10. 光は波なのか粒なのか
11. 長さのスケール
12. 量子力学のあつかう世界
コラム:原子の「子」ってなに?

2章:身の回りのもので調べる量子と原子の世界

1. 原子を調べる
2. からっぽの原子
3. ガラス職人だったフラウンホーファー
4. 星を近づけたフラウンホーファー
5. 簡易分光器を作ろう
6. スペクトル線を見る
7. フラウンホーファー線を見る
8. 電子の振るまい
9. 物質と光の作用
10. 前期量子論
11. 前期量子論で理解するスペクトル線
12. バルマーと数遊び
13. 前期量子論でバルマーの公式は理解できる
コラム:量子は「どれほどの大きさか?」

3章:量子力学のルールと重ね合わせ

1. これからのあらまし
2. 量子力学を理解するとはどういうことか?
3. 量子力学のルール1
4. 量子力学のルール2
5. 神童ヤング
6. ヤングの実験
7. それがどうした?
8. 手軽にできるヤングの実験1
9. 手軽にできるヤングの実験2
10. ヤングの実験のバリエーション
11. ヤングの実験と重ね合わせ
12. 本当にどちらのスリットも通ったのか?
13. ヤングの実験と量子力学メーター
14. 「波」と「粒子」の意味
15. 重ね合わせとシュレーディンガーの猫
16. シュレーディンガーの猫の解釈
17. 測定とデコヒーレンスの関係
18. 光の反射
19. 粒子も波
コラム:干渉を使って騒音を消す

4章:重ね合わせ、量子コンピュータ、暗号解読

1. 限界に近づきつつあるコンピュータ
2. 量子コンピュータ
3. ビット
4. 量子ビットと重ね合わせ
5. 量子コンピュータで計算結果を読み取る
6. 身のまわりの暗号
7. 暗号の基本
8. 暗号の種類
9. 素数をめぐって
10. 素因数分解
11. 素因数分解のむずかしさと公開鍵暗号
12. 公開鍵暗号の安全性
13. 量子コンピュータで簡単に解ける問題
14. ショアのアルゴリズムの威力
15. 解けない暗号
コラム:知らないうちに暗号を使っているかも…

5章:不確定性関係と量子暗号

1. 光の偏光
2. 自然の偏光
3. 光の偏光を確かめる
4. 不確定性関係と偏光
5. 不確定性関係
6. 不落の量子暗号
7. 量子通信の方法
8. 古典通信の役割
9. 量子暗号は盗聴できないし、盗聴はばれる
10. いろいろな不確定性
11. 電子の「軌道」と不確定性関係
12. 時間とエネルギーの不確定性
13. 粒子の対生成
コラム:さまざまなモノの不確定性

6章:量子からみ合いと量子テレポーテーション

1. 1357年:カステルガール、フランス
2. 『タイムライン』
3. ふつうのからみ合い
4. 量子からみ合い
5. 量子からみ合いはふつうのからみ合いとどこが違うのか?
6. 量子からみ合いは相対論に反しないのか?
7. 量子からみ合いと量子力学メーター
8. フィクションのなかのテレポーテーション
9. 注意を1つ…
10. では量子テレポーテーションは?
11. 量子論には反しない
12. 相対論にも反しない
13. これは3Dファックスか?
14. 朝永の電光掲示板
15. ファックスとのもう1つの違い
16. クローン禁止定理
17. 人間は転送できるか?
18. 『タイムライン』の疑問点
19. エラーを防ぐ
20. エラー訂正と量子力学
21. エラーをみつける1
22. エラーをみつける2
23. 量子テクノロジーのこれから
コラム:テレポーテーションのルーツ

7章:量子力学に謎を突きつけるブラックホール

1. ダブリンにて
2. ブラックホール
3. 典型的なブラックホール
4. 蒸発するブラックホール
5. ホーキング放射のからくり
6. からみ合っているホーキング放射
7. 長生きのブラックホール
8. インフォメーション・パラドックス
9. 情報が消えると何が困るのか?
10. パラドックスの受け止め方
11. クローン禁止定理とパラドックス
12. ブラックホールのなかで量子テレポーテーション?
13. 負けを認めたホーキング
コラム:そのほかの賭け

 


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