鳴釜神事の実際と考察  13

鳴釜神事の実際と考察
この方は、先代が始めた製造業がこの人の代になり、近年の海外から入って来る安い品物に押され、此処2年間は、全く仕事が入って来ない状況でした。

 この方の工場だけではなく、製造業全体が良い状況ではないのですが、このままでは先代が創業したものを、自分の代で無くすのは忍びがたい思いがし、何か良い方法はないものかと思い、私の所に来られました。

 この家には、先代が事業繁栄を祈念してお祀りした御稲荷様の御社が、三社有ります。最初は一社だけだったと思われますが、次々にお祀りして三社になったのでしょう。一つは伏見稲荷様です。後の二社は、この地方でお祀りされているお稲荷様です。

 先代と同じく、この方も大変信仰深い方です。

 相談の電話がかかって来た時点で、白いお稲荷様が一体、姿をお見せになりました。それと同時に、白い蛇も姿を見せました。この家の地所(家屋敷)の神様です。巳神です。

 私はその方に、巳神が一体、姿を見せていますが、その土地でお祀りしているのですか、と聞きました。

 その方は、その様な事はしていませんと言われます。

 私が見る限りでは、男の巳神です。その上、その姿からかもし出すものは、相当の力が有りそうな巳神です。

 おそらく、先代からの丁重で熱心な気持ちで御稲荷様をお祀りして来たものに、昔からこの屋敷にいる巳神も同調(稲荷は巳に通じます)して強くなっていったものと思えます

 私はその巳神に聞きました。

 「これからこの家の土地に、御社を置き、正式にお祀りさせてもらったら、この家の家業を、以前の様に忙しい状態にしてくれるか、お金を入れてくれるか」と聞きました。

 そうすると巳神の姿が一瞬大きくなりました。

 忙しくしてやる、という意味です。

 この旨を、この家の人に伝えますと、巳神を地神様として正式にお祀りしたい、と言われます。

 後日祈祷の為に、この工場に行きました。

 伏見稲荷の白狐様が迎えてくれます。巳神も姿を見せています。

 私の方の巳神は左斜め上にいます。

 先ず、この家の御先祖様に挨拶をします。続けて御稲荷様の御社、三社に挨拶をします。

 しかし、何か違和感が有ります。

 伏見稲荷様は最初から姿を見せていますが、後の二つの姿が有りません。

 私はこの二社のお稲荷様に、姿を見せてくれる様に頼みました。

 そうすると、後の二つのお稲荷様も姿を見せてくれましたが、何処かしっくりとしていません。

 白い、神様の狐ですが、どうやら伏見稲荷の白狐様に押されて、居心地が悪そうです。

 私はこの事を家の人に話し、伏見稲荷様以外の御稲荷様は、元の所に御帰り願って、伏見稲荷様、一体だけをお祀りする様に進言しました。

 この家の方も、私の進言を受け入れてくださいましたので、伏見稲荷様以外のお稲荷様を、時間をかけて説得し、お帰り願いました。

 次は、私がこの場所に来た、本来の仕事です。

 事前に、地神様の御社は家の人によって用意されていましたので、最適な場所を決め設置しました。

 私はこの屋敷の巳神に、今から鳴釜の神事をもって、正式に、この家、この家族、この地の守り神として御迎えする旨を伝えました。

 巳神は大きくくねっています。

 「了解した」という表示です。

 御社の前に、巳神をお祀りするのに必要な品を並べます。

 祝詞を上げ、今回の事の表白、願文を述べます。

 この家の巳神が一体、姿を見せています。
 
 釜に火を入れます。

 お湯が沸騰し出します。

 洗い米を入れます。

 釜を大きな音で鳴り出しました。

 今まで一体で姿を見せていた巳神が、二体になりました。夫婦で姿を見せています。

 嬉しいのでしょう。普通は一体で見せますが、もの凄く嬉しいのでしょう。



  
 私は、再度巳神に言いました。

 「これから、しっかりとお祀りするから、この家にお金の縁を付けてあげてくれよ」「この家族を守ってやってくれよ」

 巳神はくねっています。

 伏見稲荷様にも言いました。

 「これからは、ここの地神様と力を合わせて、この家をもう一度盛り上げてくれよ」


 その後、一ヶ月もしない内に、この工場は創業以来初めてという位、忙しくなり、それが今日まで続いています。

 経営者の嬉しい電話が有りますが、私はその方に言います。

 「神様は試します」「今は貴方を試している時ですので、いくら忙しくなっても、祀り事は気を抜かない様に」「今は忙しくして、貴方を試している時で、又、今度は商売を暇にして試す事が有るかも知れないので、絶対にその時は、神様に愚痴を言ったりしない様にしてください」
今回は、新たに地神様をお迎えし、事業が立ち直った例です