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2016年 下水道技術のメッセージ (15) 11月8日 「梅花藻/バイカモ」

(下水処理場で育成中の梅花藻、長岡技科大姫野研究室提供)

長岡技科大学の姫野先生に「梅花藻(バイカモ)」という絶滅危惧種水草を下水道環境を利用して栽培する研究をうかがった。

梅花藻は低温で急流な水環境で生息していてCO2濃度が濃いほど生育がよい。

そこで、新潟県の西川浄化センターに実験施設を設けて梅花藻の生育に挑戦した。

まず、低温水環境には下水処理水を冷熱源にしてヒートポンプで冷水を供給した。
CO2は消化ガスから膜分離で抽出して供給した。

ところが、急流という条件は工夫が必用であった。
姫野先生は、水草には急流という条件を感じるセンサーがあるはずはない、と考えた。
急流でなければ生息できない関係をいろいろと考えてみると、流速から生じる異物付着を防ぐ効果ではないかと仮説を立てて室内実験で試してみた。

すると、流速が遅くなるとほかの藻が梅花藻の根に付着して成長をさまたげることを発見した。
その結果、梅花藻が必要とする流速もおおよそ確認できた。

CO2は水温が低いと水の飽和溶解濃度は高くなるので、大気中のCO2濃度上昇と水温低下とは相補的である。

なお、残念ながら流水は現在は下水処理水ではなく水道水に微量の肥料を滴下して使っているそうだ。
その理由は、取水位置の関係もあるが塩素が入るともたないらしい。
将来的には下水処理水にも挑戦していくそうだ。

以上の考察の中で、流速については興味深い。
急流という条件を根に異物が絡みつかないという条件に読み替えることによって必ずしも急流でなくてもよいという結果が得られる。

このような考察は、自然界を分析的に考えることで見えないものが見えてくる科学的アプローチである。

以上の実証実験は新潟県の植物園スタッフと議論しながら進めてきたそうだ。
下水道の専門家と植物学の専門家が梅花藻を前にして議論を重ねて得られた成果だそうで、これからの下水道の展開する道筋を示唆しているようで興味深い。

下水処理水には、微量な栄養塩類が含まれているが、この成分量、成分比がサンゴ養殖に適しているという研究がある。
この研究は東京都三河島水再生センターで進められているが、サンゴと下水道の関係も学問的にはハイブリッドだ。


2016年 下水道技術のメッセージ (15) 11月8日 「外国人観光客」

(パリのシャルルドゴール空港、フランスの年間外国人観光客数は8400万人で世界一。日本は16位。)

今年の水道展は11月に京都市で開かれます。

京都といえば、この時期は紅葉シーズンで多くの観光客でにぎわっています。
特に、最近の外国人観光客の増加は著しく、今年は10月末時点で2000万人を達成しました。
各月の昨年比増加率は20%を超えていて、驚異的な伸び率です。

政府は2020年までに4000万人という目標を掲げていますが、2020年に東京オリンピックがあることを考慮するとゴールが見えてきたともいえます。

ところで、外国人観光客の増加を水需要、下水道使用人口という視点でとらえると興味深い関係が現れてきます。
4000万人の外国人観光客が1週間日本に滞在するとすれば、1年は約50週ですから80万人の大都市が1年間に消費する水需要、下水道使用人口に匹敵します。

水道や下水道のインフラは、電気やガス以上に需要変動に対応しにくい硬直的なものです。特に、需要が減少していく日本の人口減少現象にはランニングコストの高止まりや更新工事の不十分という現実があります。

 そこで、水需要、下水道使用人口の増加を期待したいところですが、なかなか妙案はありませんでした。
そこで、この問題を外国人観光客増加を関連付けてみたらいかがでしょうか。

観光客の形態は季節別にピーク、ボトムがありますから水需要、下水道人口の増減は数字以上に大きくなります。このため、先進国の都市では、ホテル税を徴収しているところもあります。東京でも、一定金額以上のホテルではホテル税を徴収していますが、ニューヨークやロンドンに比べればその額はわずかです。

このホテル税のいくばくかを水道インフラ、下水道インフラに振り分けることが考えられます。

外国人観光客は、観光地を回る周遊型から地域に滞在する体験型に変わっていくと見られています。
年間平均して外国人観光客が日本を訪れることになれば、結果的に人口増にも貢献することになります。

水需要、下水道使用人口も社会の変化に対応していかなければいけないということです。


2016年 下水道技術のメッセージ (14) 10月11日 「心を静める」

(「生き残る判断生き残れない行動」アマンダ・リプリー著、光文社刊)

大事故や大災害に遭遇したときに、誰でも足がすくみ判断力が停止するとされている。
その時、自分自身の命を守り、周りの人の命を救うためには想定外の環境の変化に対して心の平静を保たなければならない。

そのためには、日ごろから訓練と準備をしておくということになるが、その具体事例がある。
「生き残る判断生き残れない行動」アマンダ・リプリー著によると、米国グレインベレーの戦闘時の恐怖反応訓練やFBIの犯罪捜査時の恐怖反応訓練の一環として、関係者に次のような訓練をしているそうだ。

 「四つ数える間に息を吸い込み、四つ数える間息を止め、四つ数える間にそれを吐き出し、四つ数える間息を止める」これを数回繰り返すと心が静まりパニックや過呼吸を防げるそうだ。

 本書によればこの理由は、「呼吸は体神経系(意識的に制御できるもの)にも自律神経系(容易に意のままにできない心臓の鼓動やほかの活動を含む)にも存在する数少ない活動の一つである。」としている。

 自律神経系は交感神経と副交感神経に支配されているが、アドレナリンや副腎皮質ホルモン、成長ホルモンの分泌が増えると交感神経の働きを促進する。
 インスリンや性ホルモンの分泌が増えると副交感神経の働きを促進する。

 これらのホルモンのバランスを失った状態が自律神経失調症だが、一般的にはストレスがかかるとアドレナリンなどのホルモン分泌が促進して交感神経の働きが活発になり、瞳孔の拡大、心拍動の増加、血圧の上昇、呼吸が増加し白血球数が増加する。

 このような傾向は戦いに臨む体調に移行することを意味しているが、行き過ぎると足がすくんだり恐怖で身動きができなくなったりする。長期間続くと体の抵抗力が落ちで病気になりやすくなったり疲労が蓄積する。

 そこで、交感神経の働きを抑制して副交感神経の働きを促進する手っ取り早い方法は呼吸法である、ということである。

 まずは、各ご自身で試していただきたい。


2016年 下水道技術のメッセージ (13) 10月1日 「安否確認」

(画面中央水路がハドソン川。手前はマンハッタン島で島の左側のひときわ高いビルが新しい貿易センタービル。島の右側に長四角のセントラルパークが見えるが、飛行機は黄色い線のようにラガーディア空港を離陸して左旋回し、セントラルパーク付近右側からハドソン川上空に入り、貿易センタービル付近で着水した。)

9月下旬クリント・イーストウッド監督の映画「ハドソン川の奇跡」を見ました。
これは2009年1月にハドソン川に不時着した旅客機の機長の物語です。

大型航空機は、片方のエンジンが故障しても飛行を続けられる性能を持っています。
しかし、この時は機体がたまたまカナダ雁の群れに突っ込んで両方のエンジンが破損してしまい、飛行不能となりました。

マニュアルにはない想定外の事態が発生しました。
このため、機長はとっさの判断でハドソン川への不時着を決断し、乗客155名を無事生還させたという話です。

映画では、一躍ヒーローになった機長に国家安全運輸委員会が疑問をもつ、というところから展開していくのですが、これから先はネタバレのなってしまうので映画をご覧ください。

ところで、この映画では危機管理上幾つもの重要な点が出てきました。
着水寸前に客室乗務員が客席に向かって「Brace for impact(衝撃に備えろ)」「Head down! Stay down!(頭を下げて、姿勢を低くして)」と叫び続けていました。
このことは、危機管理の教科書によると大きな金切り声の連呼は緊急時に自分を思い起こさせる効果があるということを地で行くものです。

着水直後に機体後部から浸水が始まり乗客は我先に外に出ようと急ぎました。
非常口近くの乗客は扉を開けてそれを海に投げ込み、スライドラフト(脱出用滑り台兼救命ボート)を膨らませました。
そこに次から次へと乗客が乗り移り、最後は機長が乗り移ってスライドラフトと機体とを切り離しました。

2人の乗客は厳寒の海に飛び込んだがすぐに救難ヘリコプターに救助されました。
こちらは少しでも遅れると低体温症で生命の危険がありました。

結局、ハドソン川にはいくつものフェリーボートが運航していたので、その何台かが駆けつけて、スライドラフトや機体主翼に避難した乗客・乗務員153名をわずか25分で救出しました。
こちらは、米国同時テロの9・11の経験が役に立ちました。

救助された乗客が陸に上がってまず行ったことは、家族や会社に安否確認を報告することでした。
機長も短い時間だが家族と連絡をとったあとで自分の仕事に戻っていきました。
映画では、この場面を感動的に伝えていました。
安否確認については、映画のパンフレットによると、「ニューヨーク市の担当者が携帯電話を山ほど抱えて「家に電話する人はいませんか」と訪ねてまわり、警察と消防は身元確認をした」とのことでした。

大事故や大災害に遭遇した時は、自分の命を守ることが最優先ですが、その後に行うことは安否確認です。
安否確認は電話やメールで行うことができます。
安否確認については、9月29日に米国ニュージャージー州で起こった列車事故で、現地に住んでいる友人から興味深いことを聞きました。

彼はニュージャージー州にある会社に勤務していますが、たまたまWEF(米国水環境協会)の年次会議でニューオリンズに出張中でしたが会社から安否確認の電話やメールが何度も来たそうです。
彼の会社では、大事故や災害があったときは色々の手段で安否確認を取ることになっていますが、最後の手段は本人が会社に空メールを送ることで一応の安否確認をしたことになるそうです。

確かに、大事故や大災害の時は回線が輻輳してつながりにくくなります。
東日本大震災の時は、仙台市内では発災直後は携帯電話の通話もできたがすぐにつながらなくなり、メールだけはしばらくの間つながっていたという事実がありました。 携帯電話のなかでもPHS電話はしばらくは使えたという話もありました。

このような状況を考えると、とりあえず空メールで家族や会社に安否確認をしておくということは賢い方法です。
空メールを送れば、その時点での安全であったことを確実に伝えることができます。

ただし、この関係は日頃から訓練、準備しておかなければ機能しないでしょう。
時々、訓練もかねて空メールのやり取りする習慣をつけることが大切です。

「ハドソン川の奇跡」を鑑賞していろいろなことを考えてみました。


2016年 下水道技術のメッセージ (12) 9月23日 「映画 君の名は」

(新海誠監督のサインの入ったポスター)

 アニメ映画「君の名は」が大ブレイクしている。
 現時点で興行収入が100億円を超えて、700万人の観客を集めた。

 公開から26日目に横浜桜木町のシアターで観たが、館内は満員で人気の高さを示していた。

 しかし、ストーリーは分かりずらい。
 東京に住んでいる若い男性と山間部に住んでいる若い女性が精神だけ入れ替わる。
 すると、山間部で大災害が起こり、若い女性は死んでしまう。
 はずだったが若い男性の活躍で生き残り、ある日東京で偶然すれ違う、というストーリーだが、時間軸が分かりにくい。

 奇想天外なストーリーだが、アニメの絵が美しい。
 特に、湖面のさざ波や紅葉の鮮やかさは写真以上の出来であった。

 冒頭の東京の場面では、見覚えのある桜マークの東京都下水道マンホールが一瞬映った。
 その後、107分の上映時間中に合計4回マンホールが出てきた。

 都市を象徴する街の絵の中にマンホールが忠実に描かれていることは大きな驚きであった。

 下水道は認知されているのだろうか。
 それとも、特別のメッセージは込められていないのだろうか。

 帰り際に、おもわず映画のポスターを撮影してきた。
 ポスターには、「新海誠」のサインが入っていた。
 きっと、初日に舞台あいさつに来たのだろう。


2016年 下水道技術のメッセージ (11) 9月20日 「ロンドンのフェルメール」

(ナショナルギャラリーのフェルメール作品「バージナルの前に座る女」)

光の魔術師と呼ばれている17世紀オランダの画家ヨハネス・フェルメールの作品は、生涯37点しか現存していない。

その中で最も人気のある「真珠の首飾りの少女」はオランダのマウリッツハイス美術館所蔵であり、平成24年に来日した。
希少なフェルメール作品は米国(11点)、オランダ(6点)、ドイツ(6点)、イギリス(5点)、フランス(2点)、アイルランド(1点)、と米国およびヨーロッパ各国の美術館および個人収集家に所蔵されている。()は美術館所蔵数。

これらの作品のうち、イギリスを除く各国美術館の所蔵品は日本でも時たま特別展を開催しているが、著者の知るかぎりなぜかイギリスの作品は日本へ来たことがない。
そこで、ロンドンに出かけたついでにナショナルギャラリー(2点)、ケンウッドハウス(1点)の2か所でフェルメールの作品を鑑賞した。

その他、バッキンガム宮殿にあるクイーンズギャラリーの作品はオランダの美術館に貸し出し中、もう1点はロンドンから離れたエジンバラのスコットランド美術館所蔵で見ることはできなかった。

ナショナルギャラリーはイギリス国立の大美術館で「バージナルの前に立つ女」と「バージナの前に座る女」の2点のフェルメール作品が展示してあった。
ここでいうバージナルはハープシコード(ピアノの原型)のことで、当時は少女が弾いたことからこのように呼ばれていた。

ナショナルギャラリーは国立で入場料は無料である。

館内はたくさんの客であふれていて、時々模写をする学生の姿も見られた。

(ケンウッド・ハウスの外観)

.一方、ケンウッドハウスのフェルメール作品は「ギターを弾く女」1点だけだが、ロンドン郊外のハムステッドという地区にあり、貴族邸宅風の美術館でいかにもイギリス風の施設の中にあった。

大きな庭の中にある白亜の邸宅の中に、レンブラントやターナーの作品に混じって、一番奥の部屋の一番良い位置に展示してあった。

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(ケンウッド・ハウスの「ギターを弾く女」)

フェルメールの作品には絵の中に別の絵が描かれているものが多い。「ギターを弾く女」の中にも他の絵が描かれていたので、部屋にいたスタッフにその由来を聞いたところ、絵の中の絵はフェルメールの同僚または友達のJan Wynantsという作家の絵で、その人の作品はこちらにある、といってその部屋の別の絵を教えてくれた。

その二つの絵を見比べると、なぜか「ギターを弾く女」の絵に親近感がわいてきた。

説明してくれたスタッフは、明らかにリタイヤーした英国紳士で、ゆっくりとした分かりやすい言葉で、ていねいに優しく説明してくれた。
言葉の端はしに上品さ、英国文化を感じさせてくれて、ケンウッドハウス美術館の懐の深さを感じさせた。

ケンウッドハウス美術館はギネスビール創始者エドワード・セシル・ギネスが邸宅と土地を購入して私立美術館にしたが、彼の死後に絵画コレクションとともに国に寄贈したものである。
現在は、イングリッシュ・ヘリテッジという国の特殊法人が管理していて入場無料、説明員の大部分はボランティアである。

この美術館では、コンサートなどのイベントも開催していることで知られていて、ケンウッドハウスという古い貴族の邸宅を、実際に結婚式やコンサートに使いながら保存する、というコンセプトの美術館であった。
映画「ノッティングヒルの恋人」では邸宅がロケに使われた。

なお、ケンウッドハウス美術館は地下鉄とバスを乗り継いでいかなければならず交通の便はよくないが、年間約15万人が訪れている。


2016年 下水道技術のメッセージ (10) 9月4日 「テートモダン美術館」

(石炭火力発電所を近代美術館に作り直したテイトモダン美術館)

英国、ロンドンでテートモダン美術館を訪れた。

ここは西暦2000年に古い火力発電所を近代的な美術館リニューアルしたロンドンの新しい名所である。
写真のようにレンガで作られた高さ99mの巨大な煙突や建物は、1947年にロンドンの電力不足を補う目的でテムズ川サウスバンク地区に急きょ建設された発電所が1981年に閉鎖され、1994年に美術館に再利用する計画が発表されて撤去を免れたものである。

テートモダン美術館のある地区はロンドン東部のテムズ側南岸にあり、発電所撤退後は荒廃した地域であった。
当時、テムズ川上流にあるテートブリテン美術館が手狭になり、分館を探していたところ白羽の矢が立ち、近代美術館としてレニューアルした経緯があった。
今では、テートブリテン美術館とテートモダン美術館はテムズ川の水上バスで結ばれていて観光名所になっている。

現在では、この地区は都市再開発が進んで美術館周辺には斬新なデザインのビルが立ち並び新都心の様相を呈している。
それに、対岸にあるセントポール大聖堂側からテムズ川を歩いて渡れる長大な歩道橋ミレニアム橋も2000年に完成して観光客の足が便利になった。

下の写真は、近代美術館のエンタレンス部分であるタービン機室だが、高い吹き抜け天井と広い床が目につく。
発電所にあった巨大なタービン機機器が取り払われて生まれた大きな空間がモダンアートそのものを予感させて、他にはできない大きな効果を生み出している。

(テートモダン美術館の巨大なタービン機室。天井は35mの高さがある)

このタービン機室の様相は下水処理場の送風機室や大型ポンプ室を想起させる。
送風機室や大型ポンプ室は機器が故障したり取り換えるときには機器をつり上げて搬出するために天井が高くなりその天井に走行クレーンがついている。

識者の中には、この送風機室の天井の高さを見て無駄なスペースではないかと思った人もいたようだが、維持管理上必要な空間なのである。

たまたま、日本からロンドンに行く飛行機の中でブラッドピット主演の映画「ベンジャミン・バトン数奇な人生」2009年日本公開を見た。
このあらすじは、不思議なことに生まれた時が老人で歳を重ねるごとに若返っていく数奇な男性の人生を描いたもので、米国の作家スコット・フィッツジェラルドが1922年に書いた短編小説を基にしてある。

この映画のテーマは「歳をとっても若くても、人の根底にあるものは変わらない」ということで、歳を取ることの意味を若返るということで説明している。
親と子との関係、友人関係、恋人関係のいずれにおいても、歳を取ることで変わることと変わらないことがあるという映画であった。

また、テートモダン美術館を訪問する前に平凡社新書「ロンドンの美術館」桜井武著を読んでいたら、テートモダン美術館は「古いものを生かしながら過激な要素を導入して若返る」という記述があった。
これは、イギリスが最も得意とする伝統的手法で、テートモダンはこれを駆使して、天井高が35mもある巨大なタービンホールでインスタレーションを開催している、と評していた。

ちなみにWikipediaによると、インスタレーションとは、オブジェや装置を置いて作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させること、とある。

人生の歳を若返らせる映画と発電所のリニューアルにはどこか共通点があるように感じた次第である。
ちなみに映画では、主人公は生まれた時は老人の風貌で腰が曲がっていたが、最後には赤ん坊に戻り認知症で寿命を全うした。


2016年 下水道技術のメッセージ (9) 8月31日 「週刊文春」

(週刊文春誌の表紙に下水道デザインマンホール)

週刊文春誌9月1日号の表紙に札幌市時計台の下水道デザインマンホールがあった。
下水道を世の中に知ってもらうのに、これ以上の方法はない。

巻末の解説によると、週刊文春の表紙はイラストレーター和田誠氏の作品で北海道シリーズとして続けているもので全号は「少年よ大志を抱け」像であった。

和田氏によると『「大通公園」にさしかかり、ふと下を見ると歩道の中央に時計台や鮭の絵柄で美しくデザインされたマンホール蓋が。』(同誌p156)ということであった。

週刊文春は一般週刊誌の中でも発行部数第1位(70万部)である。
ちなみに、一般社団法人日本雑誌協会www.j-magajin.or.jpによると2位は週刊新潮(58万部)、3位は週刊現代(55万部)であった。

これまでも、新聞などの記事で下水道デザインマンホールが取り上げられたことはしばしばあった。
最近では、8月19日付読売新聞(YOMIURI ONLINE)に「マンホール蓋に姫路城」という記事がモノクロ写真入りで掲載されていた。

しかし、今回は週刊誌の表紙に有名なイラストレーターの作品としてカラーで掲載されているのだから一ランクアップした。
しかも、デザインの美しさが評価されている。

まだ書店で販売しているかもしれないので、下水道デザインマンホールに関心のある方は急いでお買い求められてはいかがだろうか。


2016年 下水道技術のメッセージ (8) 8月25日 「オリンピック競歩50q競技」

(都庁でも販売始めた東京オリンピックピンバッチ)

リオオリンピックではたくさんの感動を残して幕を閉じた。
その中でも印象深かった場面は、男子競歩50q競技でのてん末であった。

日本の荒井広宙選手は3位でゴールにした。その瞬間、この競技では日本は史上初の銅メダルを得たかに見えた。
ところが、カナダ陣営から荒井選手は失格であるとの抗議が審判団に寄せられた。
というのは、ゴール1q前で荒井選手がカナダ選手と激しい3位争いをした時にカナダ選手に対する妨害行為があったという抗議であった。

競歩の審判団はカナダ陣営の抗議を受けて1時間程度検討した結果、荒井選手は失格という結論を出した。

これを聞いた現地の日本陸連競歩部長今村文男氏は驚がくし、判定取り消しを求めて上訴審判へ働きかけることにした。
上訴審判は、結果判定後30分以内に行わなければならない。

そこで、日本陣営は東京の日本陸連事務所から荒井選手がカナダの選手と接触したとするテレビ映像を取り寄せて内容を分析した。
それによると、最初にカナダの選手の肘が荒井選手の体に当たったことと荒井選手が追い抜いてから数歩前に行ってからカナダの選手が倒れそうによろけたことを確認した。

荒井選手が妨害行為をしていないことを確認した日本陣営は、この状況を英語で申立書にまとめて上訴の手続きを進めた。

その結果、失格の通告から約2時間後に上訴審判団は現地審判団の判定をくつがえして荒井選手が意図的に接触していないとの判定を下し、日本側の上訴は認められて荒井選手は銅メダルを手にすることができた。

文章で書くとこれだけだが、上訴までの30分間には次のような日本陣営の機転と組織の総合力があった。
まず、競技映像を日本に問い合わせをしてリオの現地に送らせたこと。これで反論する証拠が手に入った。確信も持てた。

次に、上訴審は国際陸連の理事が5人で審議して多数決で決めるという上訴審の仕組みに詳しい日本陸連の役員が現地の日本陣営にアドバイスをしたこと。

このような上訴の仕組みを熟知していなければ、短い時間での効果的な主張は不可能であった。

3つ目には、この上訴を現地で英語の文章にして提出したこと。英語に堪能でないととてもできないことだ。

荒井選手の名誉はこうした日本陣営の機転と総合力で回復することができた。

その後、荒井選手はカナダ選手と会い、カナダ選手から「先ほどはすまなかった」とあいさつを受けた。
カナダ選手は自分のツイッターにも同種のことを述べていたそうだ。

この一連の経過から学ぶべきことは、主張することの大切さと主張するからにはしっかりと準備することである。
そして、専門スタッフが組織的に動いて短時間で反論の文書にまとめ総合力である。

国際舞台では反論しなければすべて認めたことになる。後で妥協するにしてもまずは主張しなければならない。
つまり、自分の立場を明らかにすることが何よりも大切であるし、そうすることによって一目置かれて尊敬されることにもなる。

以上の手続きをわずか30分以内で行うには、現地では大変な苦労をしたに違いないが、見事なリーダーシップと総合力である。

総合力は訓練や人材の多さだけではない。
普段は何気なくこなしている自分の職務を熟知し、自分の仕事や能力が上訴審にどのように役に立つか考えて知恵を出して実行するという個の企画力とそれをまとめる総合力、リーダーシップがものをいう。


2016年 下水道技術のメッセージ (7) 6月2日 「臨床環境技術」

(北海道立総合研究機構北方建築研究所の牛島健氏の講演風景)

5月下旬に、東京都新宿区四谷にある土木学会本部で開催された「臨床環境技術」の発表会に参加した。

「臨床環境技術」とは馴染みのない言葉だが、これは九州大学名誉教授の楠田哲也教授が提唱している概念で、以下の考え方による。

まず、適用される「場」にふさわしい技術であること。

最貧国、開発途上国にふさわしい技術であり、先進国でも適応可能、必要なものとしている。これまでも「適正技術」として最貧国、開発途上国にふさわしい技術の定義があったが、先進国も含めることは新しい考え方である。
その一例としては、大災害復旧時の技術があるそうだ。

もう一つの要件は「時」にふさわしい技術であること。

時間と共に社会は変化していくが、将来の展開や変化に対応できる技術を目指している。
たとえば、人口減少における環境技術のあり方を考えている。
都市人口の減少にともない、地方都市のコンパクト化が進められているが、その時も都市中心部域外では臨床環境技術が求められることになる、としている。

したがって、臨床環境技術は簡素な装置、特別な技術を必要としない汎用性や容易さが求められている。
このため、システム構成はモジュール型かつ多系列型で構成されるそうだ。

当日は、臨床環境技術に関して楠田先生の「臨床環境技術」解説を皮切りに以下の講演が行われた。

最初に、「日本の人口減少地域の実態と臨床環境技術適用の方策」牛島健氏(北海道立総合研究機構北方建築研究所)の発表があった。

ここでは、北海道の郊外における上下水道について次のように論じていた。

北海道の農村地域では簡易水道が普及している。
排水処理については、下水道が来るまでのつなぎの技術としての単独浄化槽、下水道が来ない地区の合併浄化槽という形で進められてきた。
これまで、北海道の浄化槽については、設置資金補助やし尿処理施設による汚泥の処理、など効率よく整備されてきた。

そこで、市町村にアンケートをしたら、施設の老朽化、料金収入の減少、などが問題となっている事が分かった。

アンケートによると簡易水道ではソフト統合が進んでいて、管はつながっていないが経営は統合している地域が増えてきた。 小規模水道でも同じ傾向が出ている。

排水処理では、下水処理については人口減少で経営が苦しくなっている市町村が出始めている。
合併浄化槽については公的補助を止めざるを得ないところが増えている。

以上の解決策としては、南富良野地区でNPO法人が200世帯ほどの規模で自律的な地域運営をしている事例があった。
その一環として、水道事業を経営していた。
単に民間委託に切り替えていくと料金や使用量が高くなる可能性がある、との認識であった。

NPO法人や地域連合町内会で地域のインフラを運営するという考えは、水道、下水道事業だけでなく、産業育成やスポーツ振興などと共に運営するという特徴があった。

地域の運営を市町村から地域に下ろしていくことにより、インフラの管理も連結できるようだ。

インフラの再編は不可避だが難しい問題だ。

(北海道水インフラの課題・サニタリーインフラを価値づくりの一環としてとらえる)

コストの試算は上下水道だけでなく、地域全体の事業の中でやる必要がある。 住民を一地区に集中して居住するようにしてインフラを再整備するニーズはある。

例えば、農業の後継者は街中に住んでのうちに通う形があるが、を地域内の集合地区に住む形態も受け入れられるだろう。 高齢者は地域に住み続けたい気持ちが大きいが、除雪問題ですめなくなっている現状がある。このため、地域の一箇所に移住していただく事の可能性は大きい。

逆に集中型が持たなくなって分散化するケースもある。
この場合はインフラの質がダウングレイドにしないことが大切。

分散型は技術の多様性が必要。
まとめて注文して数のメリットを求めることもできる。

農村を活性化していく中で、価値を作りだすインフラを考えていく必要がある。
そのために、サニテーションを価値づくりの循環に取り込んでいく必要があり、現在、地域の価値創造連鎖を調べている、との方向があり注目された。

以上、1時間程の講演であった。その後、次の発表が続いた。

「エネルギー最小消費型の下水処理技術」原田秀樹(東北大学未来科学技術共同研究センター)
「ベトナムの下水処理における臨床環境技術の課題」安井英斉(北九州市立大学国際環境工学部)
「ブルキナファッソでの経験と個別臨床環境技術」船水尚行(北海道大学工学研究院)

講演の後は活発な質疑が1時間近く続いた。


2016年 下水道技術のメッセージ (6) 5月21日 「プリウスタクシー イン ニューヨーク」

(ニューヨーク・タイムズスクエア付近のプリウスタクシー)

5月の連休に、2年ぶりに所用がありニューヨークを訪問した。

都市は変化することが前提になっていて、ニューヨークは行くたびにその変貌を見せつけてくれるから興味深い。

今回も幾つかの気づきに出会ったが、最も大きいインパクトは、日本のトヨタのハイブリッド車プリウスがイエローキャブとしてニューヨークを走り回っていることであった。

プリウスは先進国の都市でタクシーに採用されているが、ニューヨークでも本格的に採用されていて、マンハッタンのどこに行っても目立つ存在になっていた。

写真は、宿泊したタイムズスクエア付近のホテル隣で撮ったものだが、何と2台のプリウスタクシーが並んでいる。これはたまたまで、市内のあちこちにプリウスタクシーがあふれている。

2年前に同市を訪問した時はこのようには目立っていなかったから、大量採用はまだ最近のことのようだ。

タクシーに採用されるということは、プロの目から見て優れた乗用車として認知されたことになる。
これは、日本人としても誇り高い。その反面、トランプ候補者が主張しているように、日本車への関税強化に傾かなければいいが、と心配してしまうほどだ。

(シルバー割引)

ニューヨークにはメトロポリタン美術館を始め、世界有数の美術館が多数ある。
その中で、フリック美術館という小じんまりした所を訪れた。
ここはフェルメールの作品が3点展示していることで知られた美術館である。 ちなみに、メトロポリタン美術館でも3点所蔵しているが、フェルメールの作品は世界中で30数点しかない。

そのフリック美術館に入る時、著者は60歳以上なので高齢者割引を申し出た。すると、窓口の担当者は自然に高齢者割引のチケットを発行してくれた。そのチケットで館内に入る時も年齢証明書の提示は求められなかった。
この関係はフリック美術館だけでなく、シルバー割引で鉄道に乗車する時も、9.11ミュージアムに入る時も、年令証明書は求められなかった。

そもそも、風貌が60歳以上なのだから当然と言えばそれまでだが、日本ではリムジンバスで横浜から成田に向かうときにシルバー割引チケットを買う時に年齢確認でパスポートの提示を求められたし、映画館でチケットを買うときも免許書等の提示が求められることが多い。
コンビニに至っては、酒類を購入する時は20歳以上であることの画面タッチを求められるから驚きだ。

マニュアルを厳密に適用する前に、常識的な状況判断という点で日本の対応は気になるところだ。

この違いは何だろうか。

(鉄くずのモニュメント。廃棄物が形を変えて都市再生のメッセージを伝えていた。)

(写真撮影)
今回は、もう一つ、ディアビーコンという郊外にある美術館を訪れた。

ここは、ナビスコの工場跡地に作られた巨大な美術館で、コンテンポラリ(現代)美術の作品が多数展示されていた。 この美術館には、2年前にも訪問したのだがその時は館内はいっさい撮影禁止であった。
ところが、今回は撮影しても構わないことになっていた。
美術館で個人のカメラでフラッシュさえ光らせなければメモ代わりに撮影でるきようになったのは大いに助かる。
後ほど、人にも伝えられるし、自分自身でも楽しめる。

実は、ニューヨークの美術館はほとんどが撮影を許可している。
撮影を厳しく禁止しているのは、著作権にうるさいミュージカルの劇場と一部の個人的な美術館にとどまっている。

考えてみれば、デジカメやスマホがこれだけ普及していて画像のメモ化は一般化しているのだから、フラッシュを光らせないという条件で個人的な撮影を認めるのは合理的だ。
撮影を禁止しているのは、新しい客への対応が進んでいないと言わざるを得ない。

ひるがえって、日本の美術館は例外なく撮影は禁止されている。

高齢者割引の証明書提示や美術館の写真撮影許可からみると、変化への対応という点でニューヨーク市に見習うことが多い。


2016年 下水道技術のメッセージ (5) 3月27日 「台湾南部大地震」

(更地に片付けられた16階ビル被災地)

2016年2月6日に台湾の南部でマグニチュード6.6の台湾南部地震が発生し、117名が亡くなった。

  その後、ニュースによると死亡者の大部分は16階のビル倒壊によるもので、ビルの柱には石油缶が埋め込まれている欠陥ビルであった、との報道が流れた。
さらに、ネットでは、崩壊したビル以外に、周辺の建物はほとんど被害を受けていないことが伝えられていた。

この話を知って、少々疑問が生じた。なぜ、1棟だけが被害を受けたのだろうか。
16階建ての大きなビルが倒壊するのに周りのビルは本当に大丈夫だったのか。

そこで、たまたま台北まで行く機会があったので、発災から40日後に足を延ばして台南市にも行ってみることにした。

台北市から台南市までは新幹線があるので、日帰りが可能であった。

台湾の新幹線は、線路や駅舎はフランス仕様、車両は日本仕様であり、親しみがあった。
新幹線で約90分をかけて台南駅についてみると、そこは周りに何もない新駅で、そこからさらに30分ほどかけて在来線で台南市の台鐡台南駅に向かった。

台南駅は、日本の地方の県庁所在都市クラスのの駅のようで、にぎわっていた。
早速、構内にある観光案内所で地震被災地を聞くと、タクシーで20分くらいのところ、と説明してくれた。
親切にも、日本語の話せるタクシーを紹介してくれたが、詳しく聞いてみると1時間500台湾ドル、4時間単位の契約だそうだったので、婉曲に断って駅前のタクシーを使うことにした。

地方のタクシー運転手は英語も日本語も通じない。観光案内所のスタッフに頼んで、タクシーの運転手にこちらの主旨を伝え、現地に連れて行ってもらうことにした。

被災現地までは本当に駅から20分くらいで着いたが、途中の光景はどこにも地震の影響は見当たらない。
かなり軽微な構造物も、壊れた形跡は一切ないので、本当に1か月前に百人以上が亡くなる大地震があったのかどうか、不安になってきた。

現地に着いてタクシーの運転手に身振りで示されると、驚いた光景が現れた。
16階建てのビルの倒壊現場は、地震後40日にも関わらずきれいに整地され、写真のように更地になっていた。
ここが現地、と示されても地震の形跡はどこにもない。
片側二車線の幹線道路は被災直後はがれきでうずまっていたはずだが、ここは片側1車線の仮設道路が復旧していて、車がひっきりなしに通過している。

 唯一、地震の形跡としては、倒壊ビルをはさんだ向かい側の2階建の店舗の土台にわずかなひびが走っていたことくらいであった。
 倒壊現場の周辺は3m位の仮設フェンスで囲まれていて、幹線道路からは中は見えない。しかし。少し横道に入りこめばフェンスのないところがあって小学校の校庭のような更地の現場は全部見えた。

(被災地のフェンスに残してあった慰霊行事用垂れ幕)

 幹線道路側のフェンスには、「206台南大地震受難者顕密連合超渡祈福大法」と書かれた横断幕が取りつけてあり、3月5日に慰霊祭が執り行われたようであった。

Googleで被災地の番地、台南市永康区永大路二段103路を航空写真で検索してみると、ひときわ高い16階建てのビルがあり、その周りはせいぜい3〜4階建の低層建物だけであった。

また、この16階建てのビルは築40年は立っており、それまでに何回かの大きな地震を経てきているはずなので、その時は倒れなかった事実がある。

現地に来てみた結論としては、報道のように欠陥ビルの倒壊、ということだけではなく、16階建のビルが倒れて3〜4階建ビルは無傷であったことから、長周期地震動のような周期の長い地震動で大きなビルだけが共振して壊滅的な被害をこうむってしまった、と考えた。

とすると、今後の地震対策を考える上ではビル倒壊のデーターを取りきったのかという疑問がわいてくる。
あまりにも早すぎる復旧は、倒壊の原因究明に疑問を投げかけるものだ。

なお、駅の観光案内で、義捐金を申し出たら、もうその必要はなく、寄せ書きをしてほしいと求められた。七夕の短冊のような用紙にメッセージを書き込んで氏名を書くと、お礼にと言って記念シールをいただいた。

台湾は東日本大地震の時、世界で最大の義捐金を日本に寄せてくれた国だけに、今度は日本が支援する番だ、と思っていたので複雑な気持ちだった。


2016年 下水道技術のメッセージ (4) 2月18日 「新潟市下水道部職員研修会」

(吹雪の中、中部下水処理場で職員研修会は開催された。講演途中に雷も鳴った)

2月16日午後に、新潟市下水道部の職員研修会に招かれて、「下水道の価値」を講演してきた。

当日は、あいにくの吹雪の中、新潟市下水道部職員数の四分の一に相当する60名程の職員が、中部下水処理場の見学者説明室に集まっていただき、「下水道の価値」の講演会が始まった。

 このテーマの講演は、職員のモチベーション向上を目指すものである。
 下水道というと、市の職員段階でも、仕事としては下水道より水道の方がいい、下水道は臭い、きたない、危険な職場だ、との偏見がある。
 ましてや、市民の段階ではそれ以上の偏見や無関心が存在している。

 そこで、講演の冒頭に東京都下水道局が60年前に製作した「汚いと言ったお嬢さん」のDVDを見てもらった。
 このビデオには、下水道の基本的な三つの目的、@生活環境の改善、A公共用水域の水質保全、B雨水の排除、がホームドラマ風にまとめてある。
 ストーリーは、下水道に偏見をもっているお嬢さんが下水道を理解して下水道職員のところにお嫁に行くという市民向けの作りであり、映像は不鮮明であるが内容は明確であった。

ちなみに、この映像は戦争直後の時代風景を反映して、三河島水再生センターの散水ろ床施設や、東京都千代田区大手町の日本ビルの前をし尿を積んだ馬車が通過しているところ、東京都東部の浸水状況、人力による下水道管きょしゅんせつ作業など貴重な場面が次々と現れてくるので、下水道関係者には若手もベテランも必見である。

 その上、BGMには、スメタナの歌劇「売られた花嫁」が流れているのだから、当時の映像作成関係者には脱帽した。

 まずは研修生にビデオを見てもらい、60年も昔から下水道は市民に向かってメッセージを出し続けてきたきたことを確認してもらった。

   講演の本題はそこから始まる。
 なぜ、60年間も市民に下水道の目的を訴えてきても、依然として現時点で理解してもらえないのか、広報が悪いのか、他の都市インフラはどうなのか、と考えてもらい、価値の仕組み、価値の性質について理解していただいた。

 つまり、電気、ガス、水道、電話など、どのインフラでも時間が経つと基本的価値の陳腐化が起こっている。何もしなければ、市民からの期待や選好は低下し続けるものであることを理解してもらった。
 その上で、実は自動車でも同じ事が起こっており、部品、本体、社会の各段階で付加価値を出しつづけることによって陳腐化を克服して現在の繁栄があることを知っていただいた。

 では、下水道の付加価値とは何か、がこの講演会のさわり、聞かせどころである。
 そこで、事例紹介として、下水熱の利用や下水から金が産出していることを説明し、また紙製の下水道管が30年も使われてきた事実があることを示して、下水道には付加価値がたくさんあることを知ってもらった。
 この事例は、じっくりと説明して研修生には驚いてもらい、考えてもらい、そして下水道の可能性を信じてもらうことにしている。

   そしてまとめということで下水道の技術経営の立場で、下水道が他の都市インフラと大きく違って、@未完成なものであり、A多分野にまたがっていて、B市民に深く溶け込んでいることから、大きな可能性を秘めていることを説明した。

 最後に、その可能性を実現するのは国交省でもなければ研究者でもなく、皆さん自身である、ということを説明して終わった。

 終了後に書いてもらったアンケートでは、研修生の皆さんの持っている下水道に対する見方が少し変ったことが示されていた。
また、新潟市でも金が産出できればいい、とか下水熱利用は新潟市でも挑戦しているが下水熱が上昇しているので追い風である、など一人称の言葉で前向きの意見が多かった。

 現役の職員は日頃の課題が山ほどあるので、普段はこのような下水道の価値を考える機会は少ない。したがってたまには、初心に戻って市民の目から下水道を考えてみるのもいい機会だと思う。

 「今日の研修の話しを新潟市民にも伝えたい」、というアンケートには、講師としてはとてもうれしく思った。
 何よりも、職員に下水道の誇りと希望、可能性を信じて、楽観的に取り組んでほしいと願っている。
 楽観的に取り組めば、困難にもめげず、粘り強くやりがいを見失わないで仕事に取り組める。

 以上、2時間の講演は少々体力を要するが、楽しい時間であった。


2016年 下水道技術のメッセージ (3) 1月11日 「防災学術連携体」

(第11回連続シンポジウム「巨大災害から生命と国土を護る」2016年1月9日日本学術会議大講堂にて)

1月9日午後に、東京都港区乃木坂にある日本学術会議大講堂で「防災学術連携体の設立と東日本大震災の総合対応の継承」と題して「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」主催による学術フォーラムが開催された。

この学術フォーラムは、2011年12月に、東日本大震災を学術団体が連携して対処していこうという主旨で第1回目を開催して以来、下記のように延べ11回開催されてきた。

 第 1回 今後考えるべきハザード(地震動、津波等)と規模は何か 2011年12月
 第 2回 大災害の発生を前提として国土政策を同見直すか     2012年 1月
 第 3回 減災社会をどう実現するか                     2012年 2月
 第 4回 首都圏直下・東海・東南海・南海等の地震にどう備えるか  2012年 5月
 第 5回 大震災を契機に地域・まちづくりを考える            2012年 6月
 第 6回 原発事故からエネルギー政策をどう立て直すか        2012年 7月
 第 7回 大震災を契機に国土づくりを考える              2012年 8月
 第 8回 第1回から第7回までの総括フォーラム            2012年11月
 第 9回 南海トラフ地震に学会はいかに向き合うか          2013年12月
 第10回 東日本・阪神大震災等の経緯を国際的にどう活かすか    2014年11月
 第11回 防災学術連携体の設立と東日本大震災の総合対応の継承  2016年 1月

著者は、第1回から毎回環境システム計測制御学会の立場で学術フォーラムのスタッフとして参加してきた。
今回の学術フォーラムでは、これまで30学会であったものを新たに17学会を加えた47学会とし新たに防災学術連携体の組織を立ち上げて、今後、災害対応に備えるものだ。

具体的は、今年から年に1回のコンスタントなシンポジウム開催や大災害発災時の緊急ネットワーク形成、政府・自治体との連携を目指している。

今回のフォーラムでは、参加した各学会が各学会3分〜4分の制限時間で東日本大震災の取り組み報告をした。
環境システム計測制御学会は、著者が以下のような発表をした。

東日本大震災とハリケーンサンディ高潮被害の下水処理場への被害は、波力、海水浸水、漂流物激突により類似の大きな損傷を与えた。

このような大災害に対しては「周到な準備とインテリジェンスによる人の対応」が必要で、被災の段階ごとに避難誘導、浸水阻止、機器調達、が必要になり、復旧段階では主要機器全国データーベースにより被災機器の代替を調達することや、下水道関係者のインテリジェンスを育成する研修活動が重要であることを主張した。

発表後のパネルディスカッションでは、著者は、東日本大震災のような大災害の情報でも、距離が離れている関西や九州では 受け取り方に軽重がある。
ましてや、海外ではさらに距離による関心の低さがある。その逆の関係もあるので、この障壁を埋める作業が必要ではないか、海外の災害をしっかりと把握する必要があるのではないか、と問題提起した。

30団体の発表についての総括では、東京大学の小池俊雄先生(河川工学)は、
このような災害対策に対する多数の学会連携の動きは国際的にも珍しく、日本が突出していると述べた後、学会連携の多様性が新しい解決策を生みだすエネルギーになる可能性があると指摘した。
 ただし今回の反省としては、災害対応に科学的知見が不足しているケースが多々見られたことや、ある時間が経過したら被災者のマインドリセットを積極的に行う動きが見られなかったこと、今後発生するであろう巨大なマルチハザードへの対策が不十分であることなどを指摘された。

 とくに、科学と社会との合意形成の難しさについては、現場で科学を活かせるように災害対策に対する認定士制度のような動きを積極的に進めていく必要性を説かれた。

会場は、今回も満員状態でUstreamによるインターネット中継も行われた。
学術フォーラムはこれまでは日本学術会議の一委員会であり幹事団や各学会のボランティアスタッフで運営されてきた。
今回、「防災学術連携体」を立ち上げたことにより、土木学会の中に事務局を設置し、恒常的に活動できる基盤ができた。

今後を期待したい。


2016年 下水道技術のメッセージ (2) 1月7日 「健康になる自動車」

(2015年11月横浜赤レンガ倉庫前にあった往年の名車フェアレディZ)

週刊文春の1月1日号グラビアで日産自動車の電気自動車を特集していた。

その中で、取締副社長の坂本秀行氏は、これからの自動車の解決すべき課題は、
1.大気汚染などの環境問題
2.エネルギーの枯渇問題
3.渋滞による都市機能の低下
4.交通事故の問題
とし、これらを解決するのは「電動化と知能化」であると述べていた。

この話しで思い出すのは、トヨタが主張していた近未来の自動車の目的であった。
トヨタは、次の3点の目的を上げていた。
1.走れば走るほど空気をきれいにする自動車
2.事故を起こない自動車
3.自動車を運転すると健康になる自動車

こうしてみると環境問題と交通事故は共通している目標と言えよう。
一方、日産は「渋滞による都市機能の低下」を、課題として掲げていて、これは自動車の知能化で解決できるとしている。

記事では触れていないが、渋滞を緩和する方法としては、自動車に自動運転機能や、渋滞センサー、相互通信機能を持たせて個別ではなく群で管理する方法がある。

トヨタの目的に掲げた「健康になる自動車」の実現は難しい。
自動車を運転すると運転者の運動量は低下し、メタボの原因になる。運転のストレスで疲れも生じる。
日産の発想でいけば自動運転で運転による疲労を軽減することはできるが、歩行の様に運動量を増加することはできない。

先日、乗車中にを並走している自動車の運転席を何気なく見たら運転者がしきりに体を前後に動かしながら運転しているのに気づいた。
信号で停止しても上半身を前後に動かしていた。
こちらの考えすぎかもしれないが、そこには運転中に少しでも体を動かそうという運転者の意図が伝わってきた。 自動車に健康器具を搭載するわけにはいかないだろうが、乗馬のような運動感覚が得られると面白い。

ちなみに、下水道の夢と言えば、次の5点だろう。
1.下水を浄化する下水道管
2.古くなればなるほど丈夫になる下水道管
3.下水からエネルギー生産
4.下水から金採取
5.下水道が地域文化の中心に

この中で、1.と2.は難しい。1.は大学レベルで研究途上にある。2.は更新事業にすら十分に取り組まれていないのではないだろうか。

3.と4.は条件のよい一部の下水処理場で実現しているが、下水道全般には至っていない。しかし、全国の下水道システムを汚水処理というマイナスからゼロに戻す事業からエネルギー、資源産出というゼロからプラスになるシステムに切り替えていくことは大きな夢である。

そして5.はハードからソフト、情報からインテリジェンスという流れの中で、下水道の性格を変えていく方向性を示している。自動車交通システムがいっそう広範囲の課題に挑戦しているようにインフラも最終的には本来の機能を満たしつつ、地域文化に貢献できることを目指すべきだろう。
そのためには、乗り越えなければならない大きな壁がある。
 例えば、全国で画一的な制度や技術を各地の地域特性に変えていくことや、人材育成、財源確保、歴史の蓄積などがある。  「夢は、掲げればいつかは実現する」といきたいものだ。


2016年 下水道技術のメッセージ (1) 1月1日 「謹賀新年」

(横浜大桟橋に停泊中のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」)

 新年明けましておめでとうございます。  今年も、情報を発信しようと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 写真は、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」。
 昨年10月に観閲式のために横浜港大桟橋に停泊していた。

   「いずも」は昨年4月に完成、その後8カ月の訓練を経て12月に配置についた。

 10月には、横浜港大桟橋で一般公開をしていて多くの市民が艦内を見学した。

   筆者も行列に2時間並んで見学した。

   写真の船首にある白い筒は、20mm機関砲制御用レーダーで、敵からのミサイル攻撃にはよう撃ミサイルを用意しているが、それをすり抜けてきた敵ミサイルを至近距離で撃ち落とすためのもの。
(横浜大桟橋の初日の出風景。写真左にベイブリッジが見える。2016年1月1日午前7時)

 艦内は広く、災害時には資機材の輸送や被災者400人を収容できる施設もある。手術施設も艦内数カ所にある。

 東日本大震災の時に完成していたら、大活躍できたはずだ。

下の写真は、2016年元旦の初日の出。撮影場所は、10月に「いずも」が係留されていた横浜港大さん橋から、同じ東の方向を臨む。写真左にはベイブリッジが朝日に浮かんでいる。

 ここは初日の出の名所で、今回も2000人以上の人が集まり、初日の出を楽しんだ。
 宵の明星(金星)の光が弱くなると東の空が白くなった。その後、水平線が赤く変るとカモメが飛び始め、やがて初日の出となった。

 「いずも」は、国境紛争にも、災害対策にも、抑止力として働いて欲しいものだ。


2015年 下水道技術のメッセージ (25) 12月25日 「キャンドルナイトin三河島」

12月22日夜に東京都の三河島水再生センターで開催された「キャンドルナイトin三河島」を訪れた。

これは、今年初めて開催されるもので、国の重要文化財に指定されている旧ポンプ場施設をライトアップして一般公開するというものであった。

 当日6時過ぎに行ってみると、センターの入り口には大勢の地元の皆さんが集まっていて、次から次へとセンターへ入っていった。それも、老若男女、子ども連れや車いすの人とかが足取り軽く入っていく。

 この辺の地区は普段の夜は人通りが少ないのだが、センターの入り口だけには人が集まり、ただならない雰囲気であった。
 国の重要文化財に指定されているセンターの門を入ると、三河島水再センターのセンター長や北部下水道事務所長など顔なじみの管理職の皆さんが勢ぞろいで出迎えてくれた。
 と言っても、著者を待っていたのではなく、下水道局長がいらっしゃるので待っていたらしい。

 センターに入ると、スタッフの皆さんがそれぞれ参加者に大きな声であいさつ投げかけているのが印象的であった。
 会場までの通路はうす暗い夜道で、少々不安になるような状況であったが、大きな声で歓迎のあいさつをかけていただくと、なぜか安心するものであった。

   そのまま直進すると、旧ポンプ場を見下ろす場所にでる。上の写真はその全景だが、キャンドルとポンプ場のライトアップは想像以上に幻想的な光景を浮かびあがっていた。
 日常は太陽からの光に照らされている光景だが、この夜は、キャンドルと電灯による建物のライトアップが地表から上に向けて投げかけているので、光が旧ポンプ場のレンガの壁に映えていっそう不思議な世界をかもしだしていた。

 写真の手前の建物はろ格室で、奥の大きい建物が旧ポンプ室である。
 よく目を凝らしてみると、両建物の周りには無数のキャンドルで縁取られた見学道が設定されていて、クリスマスツリーの様な作品もキャンドルで飾られていて立体感を演出していた。

 上から2番目の写真はキャンドル本体だ。ガラスの容器の中に大きなろうそくが入っていた。

 (このようなガラス容器入りキャンドルが3000個使用されていた)

スタッフに聞いてみると、ここで使ったキャンドルは3000個だそうで、6時開場に合わせて人手で点火したそうである。これだけの数のキャンドルになると、消えてしまうものもあるので、消えたらすぐに再点火できるように担当のスタッフが控えていたそうだ。

 最近は、街でもライトアップはよく見かけるが、ほとんどがLED(発光ダイオード)による。ところが、昨年の神戸ルミナリエでは、それまでのLEDを止めて全て白熱電球でライトアップをしたそうだ。
 LEDは、最初は珍しかったがこれだけ普及すると驚きは少なくなってしまう。そこでキャンドルの再登場ということだろうか。

 最近は、LEDでも暖かい色が出せるようになったが、単色光の冷たさは隠せない。こうしてみると、キャンドルの揺らめく演色には勝てないことがよく分かった。
 それに、経費的にもキャンドルの方が安価なはずだ。
 後で自宅でIKEYAのカタログをのぞいてみたら、この写真の様なガラス容器入りキャンドルは1個2百円から千円程度で入手できる。  そこで、スタッフにこのイベントにかかる費用を聞いてみたら、キャンドルや会場案内、ガードマン、建物照明など全て合わせて300万円だそうだ。

 上から三番目の写真はポンプ場に一番近づいた場所で、たくさんの参加者が記念写真を撮っていた。
 その中で、次のような参加者の声がもれ聞こえてきた。
 (幻想的な旧ポンプ場の前で記念写真を撮る地元の皆さん)

 「きれいだ」、「どれがポンプ室か?」、「すごい建物だ」、「昼間きたら中に入れるのか?」、「初めて見た」等の中で、ある母親が子供に向かって、「こういう光景は一度見ると一生目に焼きつくのだよ」と教えていたのには驚いた。
 この母親は、子供に話しながら自分の目に焼き付けていたようだった。

 再びスタッフによると、このイベントは事前にTBSラジオや日経新聞、朝日新聞等に報道されていて、かなり広く知られていたらしい。
 せっかくのイベントでも知られなければ何もならない。しっかりと広報して、中身を体験していただくという下水道の各部所の連携が大切だ。

   三河島水再生センターでは、毎年、春になると桜の花見イベントを開催して地元に開放しているので、普段から親しみもあるのだろう。
 そして、12月22日と23日という祭日関連の日程を選定したことも歓迎されたはずだ。
 祭日前夜なら、子供も大人も夜でも参加しやすい。

 帰りには、アンケートとして、黄色いカードを渡されて「満足」か「不満足」かのどちらかの箱にそのカードを入れるように声をかけられた。そのカードを投票すると、お土産に絵ハガキなどの入っているビニールバックを手渡された。
 黄色いカードは、スタッフが参加者に手渡す時に色別で男女別や年齢階層を大まか区別しているようでもあった。

 結局、30分もあれば会場を回れると思って参加したが、写真を撮ったりスタッフに質問をしたりしているうちに時間が過ぎ、1時間半も長居をしてしまった。これでも短めに回ったつもりだったが、素晴らしい光景に時間の経つのを忘れたということのようであった。

  最後に、本日の参加人員を聞いてみたら、7時30分現在で1150人ということであった。
入場最終時間は8時半だから、まだ参加者は増えたはずだ

 このような試みは、これから全国の下水処理場でも増えていく可能性を感じた90分であった。  


2015年 下水道技術のメッセージ (24) 12月3日 「TOTOミュージアム」

 (お相撲さん用トイレは体重100kg以上の荷重にも耐えられる)

この夏にオープンした北九州市にあるTOTOミュージアム(以下ミュージアム)を訪問した。
ミュージアムは、TOTO創立100周年記念事業として企画されたもので、水洗便器や水栓など、身近な器具が所狭しと展示してあり、下水道関係に者は、一度は見聞して欲しいミュージアムと言ってもよいだろう。

2階建てのミュージアムは純白の巨大なシェル形状建物の中に収納されているが、入口に近づくと、その白さに圧倒させられる。

白イコール清潔というイメージがあるが、この外壁には光触媒が施工されていて、日射の紫外線で汚れを分解する機能が働いているから、このイメージは持続するはずだ。光触媒は便器にも取り入れられており、汚れやすい水洗便器を限りなく清潔に保つという意図が建物外壁に表現されている、と読みとることもできる。

 ミュージアムに入ると、明治時代のトイレや大正時代の西洋バスタブなど、所狭しに家庭やオフィスの水回り機器が展示してあり目が離せない。写真のようにお相撲さんのトイレのコーナーでは、100kgを越える荷重がかかると普通の強度の水洗便器では保証できないので、特別製のものが製作された。大きさも、お相撲さんに座ってもらって幅5cm、長さ7cm大きくしたそうで両国国技館に収められた。
 おそらく、ウォシュレットが世界展開する時は、体格の大きい人用の水洗便器が必要になり、お相撲さん用のトイレも 役に立つようになるのだろう。

 お尻を洗浄する習慣は、TOTOのウォシュレットが口火を切って、国内では短時間に普及したが、なぜか海外には普及が進んでいない。

 ミュージアムでは、海外で使われているウォシュレットの展示もあったが、著者の海外ホテルでの経験では、ホテルのランクに係らずお尻を洗える水洗便器の設置は皆無であった。
 この理由は不明だが、中国の旅行者がウシュレット水洗便器を買って帰っていることを考えると、いずれ需要のトレンドは現れるものと考えられる。その時は、TOTOは、お尻を洗うという日本の文化を世界に伝える役割を果たすことだろう。

 ミュージアムで最も関心を引いたのは、水洗便器の節水の歴史であった。
 1970年前後には、大便1回の水洗水量は20リットルであった。展示では、その後1976年に12リットルが出現し、1994年には10リットルが発売された。
その後しばらくして1999年には8リットルとなり、2006年には6リットル、2007年には5リットルと年単位で節水性能が進んだ。

 そして2010年には4.8リットルという究極の水洗便器が発表され、ついに2012年には3.8リットルという究極の水洗便器が現れた。
究極というのは、3.8リットルの場合には、小便の場合の洗浄水量は3.3リットルであるから、両者の差は事実上ゼロに近いということである。

節水の極限ということだが、その先の下水道のつまりが気になった。
おそらく、TOTOは室内配管のつまりは検討したのだろうが、公共下水道の伏せ越し菅や雨天時の越流水のことまで絵は検討していないはずだ。


2015年 下水道技術のメッセージ (23) 11月8日 「目で見る管理」

 (USJのジェットコースター支持構造物の「合いマーク」)

ジェットコースターのように振動の多い器具の支持物は、ボルトの緩みはわずかでもあってはいけない。
万一、ボルトが緩むと振動が増幅されて短い時間で異常な力が加わり破損する恐れがある。
そのため、全てのボルトに写真の赤いペンキの線で書かれた「合いマーク」が施されている。

そもそも、写真のボルトは緩み止めに二重のナットがセットされているが、それらのボルトを重ねて赤い「合いマークの線」が引かれていて、万一ナットが緩むと赤い線がずれてきて、一目で異常が発見できるようになっている。

「合いマーク」は下水処理場でも発電機エンジンなど、振動の多い所、熱ストレスの多い所に適用されている点検ツールであり、誰でも一瞬で正確に判断できるための仕掛けである。
この「誰でも」「一瞬」で「正確」に点検できることが重要である。

  上の写真では8個のボルトに引かれた「合いマーク」の赤い線があるが、残念なのは写真右下にある2個のボルトの「合いマーク」である。

(右下部の拡大写真。「合いマーク」が見えにくい)

下の写真は問題個所の拡大写真であるが、右下2個のボルトの「合いマーク」がわずかしか認めることができない。

どうも「合いマーク」を書いた時に、ボルトに正対してペンキを引いたらしく、「合いマーク」は右の方を向いていて写真の方向からはほとんど確認できない。
これでは、一瞬で確認することはできず、点検者が位置を変えて「合いマーク」を見なければならない。

このような小さなミスは、「合いマーク」を引く時に点検者の立場で書いていないことによる。
きれいに、しっかりと「合いマーク」を引こうとして、各ボルトの正面に立って書いたのだろう。
そのときには、点検者がどのような状況で「合いマーク」を見るかという配慮が働かなかったに違いない。

安全はわずかなほころびから壊れ始める。
一つ一つの行為を原点に戻って確認することが大切だ。


2015年 下水道技術のメッセージ (23) 10月13日 「護衛艦いずも」

 (観閲式のために横浜港大桟橋に停泊しているヘリコプター搭載護衛艦いずも)

10月9日の午後、10月18日に行う観閲式のために横浜港大桟橋にヘリコプター護衛艦いずもが停泊していた。

護衛艦いずもは2015年3月に就役した海上自衛隊の最新鋭艦で、基準排水量19,500トン、搭載ヘリコプター最大14機、災害時の被災者450名収容等の機能を有している。

甲板には5台のヘリコプターが展示してあった。
艦の周辺には多数の白い筒が配置されていた。これらはレドーム(レーダーアンテナカバー)で、周辺の航空機や船舶を探知するものと、ミサイルや機関砲の標準用の2種類があった。

船腹には油を別の艦に給油する太いホースが何本も用意されていて貸油(燃料提供)3,300kLを積載できる。
ヘリコプターを収納する格納庫は巨大で、ここにトラックを50台搭載することができる。
大災害時には450人の被災者を収納することもできるそうだ。

建造費用は1,139億円で横須賀にある第1護衛隊群に所属している。

 (見学の市民を満載して飛行甲板まで上昇しているヘリコプター用エレベーター。)

護衛艦いずもは9月1日には東京都の震災訓練に参加し、このような性能、搭載能力の威力を確認した。
護衛艦いずもは横須賀基地を母港にしているから、おそらく、首都直下型地震が発生すると救援部隊の中心になるのではないだろうか。

同艦は、10月10日と10月11日は一般公開していたので一般見学に参加してみた。

見学者は長い列を並んだ後に手荷物検査を受けてからタラップを上って船腹のヘリコプター格納庫に入る。
見学者は老若男女、子供からお年寄りまでさまざまで、護衛艦に乗るのは初めてのような人ばかりであった。
格納庫は巨大な空間で天井には多数のスプリンクラーがあり、床は滑り防止の加工がされていて、さかんに「走ると危険です」のアナウンスが流れていた。
見学者は格納庫から飛行甲板にはヘリコプター用エレベーターに乗って写真のように上がることになっている。
甲板に出た時の解放感、驚きはひとしおで、皆さんはため息ともうめきともいえない声をあげていた。

 (護衛艦いずもと岸壁の間に設置されている緩衝バルーン)

大桟橋のクジラの背中と称されるデッキから護衛艦いずもを見ていると、奇妙な施設に気付いた。
それは、停泊している護衛艦いずもと岸壁との間に設置されているバルーン製の緩衝材、衝突防止材であった。

小さな船だと、岸壁に古タイヤなどをくくりつけて緩衝剤にしているが、2万トン級の船だとそうもいかない。そこで、写真のような直径5m長さ10mもあるような巨大で強固なバルーンを設置していた。
写真は、管内に入るタラップから撮ったものだが、近くの人間や自動車と比べてみると、その大きさが実感できる。

このバルーンを見て思い出したのだが、米国ハリケーン・サンディで地下鉄や道路トンネルに大被害が発生した時、今後はトンネルをふさぐようなバルーン製の止水装置が必要になるので、当時米国では研究中である、という報告であった。

トンネルの要所要所にバルーンを設置すると、万一、トンネル内で浸水しても、被害の拡大を防ぐ事ができる。まさに、それに適したバルーンが、使用目的は違っていても目の前にある、ということであった。

日本の地下鉄や地下街、高速道路でも利用できそうだ。

下水処理場でも巨大な地下管廊には被害限定の目的で応用できそうだ。


2015年 下水道技術のメッセージ (22) 10月9日 「防災キャビネット」

 (大阪梅田阪急ビルオフィスタワーのエレベータ内にあったエレベータ防災キャビネット)

 地震や停電でエレベータ内に閉じ込められるとどうなるか、と考えてみた。  5分や10分ですめば笑い話ですむが、1時間、2時間、場合によっては10時間も閉じ込められてしまうとすると色々な困難が生まれる。

   この時、何が一番必要かと考えると、それはトイレである。
 もちろん、飲料水や懐中電灯も必要だが、のどの渇きは我慢できる。
 懐中電灯がなくても目が慣れてくればスマホの明りで何とかなる。

 しかし、トイレ問題はどうしようもない。

 そこで、エレベーターの中に防災ボックスを設けて簡易トイレを収納しておくことが進んでいる。
 写真は、文房具を売っているコクヨ製のエレベータ防災キャビネットだが、この中に、飲料水、非常食、ラジオ、発光器具などとともに簡易トイレが入っている。

 簡易トイレは、既存のトイレにビニール袋をかぶせて使用するとか、段ボール製の簡易便器のようなものビニール袋、凝固剤、脱臭剤と組み合わせる物ンなどがあり、使用したビニール袋はそのまま口を閉じて密閉して廃棄する。
狭いエレベータ内での使用ということなので、目隠し用にエマージェンシーブランケットも用意されていて、壁に取り付けられるように工夫されている。

   そういう目で各所のエレベーターを調べて見ると、腰掛け椅子(エレベーターチェアー)に見せかけた防災ボックスが多く見受けられた。
 普段は椅子やかばん置きに使えるようになっている。

 なお、防災ボックスは盗難に備えてテープで封をしたり、蓋を開けにくい構造にしている。
 肝心の防災グッズが盗まれて実際に閉じ込められた時に役に立たないのでは話しにならない。  


2015年 下水道技術のメッセージ (21) 9月13日 「仕事の熟知」

 (四国の某下水処理場監視室にあった仮設のPH計警報表示機。両画面の間にある白い箱が表示機。警報表示機の設定は、HH8.8、H8.5、L6.4、LL6.0であった。)

 「下水処理場の危機管理」というテーマでの講演会を開催している。

 これは、著者が33年間東京都下水道局に勤務していた時に、実際に遭遇した事故・事件を3件取り上げ、事故の発生から収拾までのプロセスを再現し、それぞれの場合に失敗したこと、成功したことを分析し、最後に3件に共通する危機管理対策、心構えをまとめるものである。

 このような講演は、事実に基づいているので詳細な記録が必要となる。
 幸いなことに、この3件に関しては筆者は何十年も前の事故にも関わらずにノートや報告書コピーの形で残していたので、具体的な数字や時間の経過が利用できた。
これらの事実を次世代に伝えたいという思いである。

 驚くことに、30年も前に体験した下水処理場への有害物資大量流入という事件は、現在でも全国の下水処理場で頻発している。
 講演会で説明する案件は三河処理場へのシアン化合物流入事件であったが、油分や酸性物質、アルカリ性物質などが、時々流入していた。 

 先日視察した四国の小さな下水処理場でも、近くの工場から時々酸性物質が大量に流入しているとして、写真のように画面と画面の間に白いPH計警報表示装置が仮設で置いてあった。
時々、工場から酸性物質が流れてくるので、その時は沈砂池のPHを検知し、流入が確認できればそれを使用していない初沈に仮貯留して活性汚泥への影響を小さくしている、とのことであった。

 この方法は、数十年前に三河島処理場で取った措置を全く同じで、妙に感心した。

 講演会の終わりに、聴衆に向かって述べるメッセージは、「事故や事件への機敏な対応の力は職員一人一人が自分の持ち場の仕事を熟知する所から始まる」である。
 事故や事件、さらには自然災害に対峙する時、訓練やマニュアルは一定程度の役には立つが、次々と押し寄せてくる難題に対応するには、非力である。

 なぜなら、事故や事件は管理側の弱点を突くように現れるし、時間とともに内容が変化してしまうから、あらかじめ予測したり準備したりすることができない。
 そこで効果を発揮するのは、「自分の仕事を熟知すること」である。
 熟知していれば、そこで事故や事件が起こっても影響の範囲が予測できるし、被害を最小限にとどめようとする手立ても、自ずと見つかるものである。

 そして、何よりも心強いのは、自分の現場を熟知することにより自信が生まれ、物事に動じなくなるということである。
 事件や事故の時にはリーダーは適切な判断をしなければならないが、それ以前に想定外の状況に気持ちが動転してはならない。
 もし、不安に満ちて冷静な判断ができなくなったとしても、リーダーの取るべき態度は部下に見透かされずに悠然としていることが必要になる。そうしなければ、部下はリーダー以上に動揺して組織的対応が取れなくなり、烏合の衆となってしまうから、リーダーの役割は重要だ。

 このような切羽詰まったときに、最後のよりどころとなるのが「自分の仕事の熟知」であり「自分の現場の熟知」である。

 この話をすると、講演会の多くの皆さんがうなづいてくれるのが分かる。
 だから講演会はやりがいがある。


2015年 下水道技術のメッセージ (20) 9月4日 「姫路城」

 (日本で最初に世界遺産に指定された姫路城。2015年3月に新装再オープン。)

   機会があり、兵庫県姫路市にある姫路城を見学してきた。

 姫路城は白鷺城とも呼ばれていて、夏の青空の中に純白の雄姿を掲げていた。

   当日は、平日にもかかわらず、大勢の観光客が訪れていて、入場に列ができていた。
 入口の近くの売店のスタッフに聞いてみると、3月オープニングからいつも混んでいて、売店が仕事が忙しいこともあり地元の人はなかなか入る機会がないそうだ。

 大人一人千円の入場料は、やや高いと思いながら天守閣に登ってみると、他の名だたる城とひと味違い規模の大きさや眺望の素晴らしさはなかなかのものであった。

 下の写真は天守閣から姫路駅方面を撮ったものだが、独立峰的なロケーションで視界は素晴らしい。

 (天守閣から見た屋根瓦と新幹線姫路駅へ続く商店街アーケード。)
天守閣の屋根を見ると、丸瓦を押さえている白い屋根目地漆喰が異様に大きい。
 屋根瓦の三分の一くらいは白い漆喰が占めている。

 よく考えてみると、この盛り上がった白い漆喰が遠くから姫路城を眺めると屋根までもが白く見える理由であったようだ。
 この屋根を地上から見ると、漆喰部が黒い平瓦を隠すような位置関係になり、上の写真のように白い屋根に見えるから不思議だ。

 さらに、白い背景に少しの黒い点や細い線があると、全体的には白が強調されて強く見えるようだ。いわば、視覚の隠し味のようなことが起こっているのかもしれない。

 姫路城は新幹線姫路駅から歩いて行ける距離にある。その間は立派なアーケードが付いた商店街が続くから、ここにも観光客が賑わっていて活気のある街であった。


2015年 下水道技術のメッセージ (19) 8月20日 「止水板」

 (東京都下水道局東部下水道事務所玄関に設置された真新しい止水板)

   最近の日本の降雨は尋常ではなく、時間70mmから80mm近い豪雨が各地で頻繁に観測されている。

 このくらい降ると、どんな雨水排水システムも対応できず、局地的な浸水が生じる。
 下水道で時間70mmから80mmの降雨に対応しようとすると、巨大な雨水貯留施設を作るか多数の雨水管を建設しなければならない。

 条件にもよるが、下水道の雨水貯留排水施設の建設費は膨大であり、むしろ浸水したら被害費用を配分したほうが安い場合も出ているようだ。
 また、道路の下が雨水管で一杯になってしまう事態も出てくるらしい。

 そこで、今回の下水道法一部改正では、民間による雨水貯留施設の整備を義務付けるなど、官民連携して雨水対策を講じる方向に政策がシフトしている。

 そのような中で、上の写真のような止水板設置は、企業や市民の立場での浸水被害軽減策である。

 この止水板は東京都下水道局東部下水道事務所の玄関に設置されたものだが、ここは江東ゼロメートル地域で、津波や高潮で破堤すると地表2mから5m近く浸水するとされている。

   この止水板の優れたところは三つある。まず一つ目は、止水板は止水すべき玄関の最小限の幅になっていて、大部分は鉄筋コンクリート製の白い壁になっていることだ。これは、浸水になると浮遊物が流れてきて止水板に衝突して壊れてしまう可能性を考慮している。
 万一、止水板が壊れた場合には、本体は上に引きぬいて簡単に新しいものに取り換えられる。

(止水板の取りつけ部分)

 二つ目は、止水板が建物から見て観音開きになっていて、万一浸水時には固定しているカラビナのフックを外すと下の写真 奥の取っ手に掛かっているチェーンがほどけて水の流れで閉まる配置になっていることだ。これが逆だと、流水に逆らって閉めなければならない。

 そして三つ目にこの止水板の優れているところは、止水板を常時衆人の目にさらしていることだ。
 写真のように、玄関に白い壁と止水板が配置してあると、否が応でも浸水のことを想像せざるを得ない。
 できれば、この壁に止水板を設置した理由や、既往最大出水水位等が示されていると、なおよい。

 一方、この止水板の欠点は、止水板が回転して締まる部分にモノを置いてはいけないことだ。モノがあると、そこで止水板が閉まらなくなってしまう恐れがある。
 下の写真のヒンジの部分に木の枝などの異物が挟まり閉まらなくなる可能性もある。
 コストの点も気になる。
 まだ、改良の余地がありそうだ。


2015年 下水道技術のメッセージ (18) 8月15日 「品川シーズンテラスビル」

 (芝浦水再生センター上部の品川シーズンテラスビルから北側を見た景色)

   縁があり品川シーズンテラスビルを見学した。

 管理会社の方に案内していただき、オフィスタワーのフロアから北の方を眺めたのが、左の写真である。
 写真の正面には小さいが東京タワーが見える。ここがビルから見て真北になる。

写真の左半分の更地は品川操車場跡で、東京タワーの下あたりに田町駅があり、更地の右側は東海道新幹線品川駅になる。
 更地の奥側は山手線と京浜東北線が走っていて、2020年には新駅ができる。
 さらに、2027年にはリニア中央新幹線が開通する予定だが、その始発駅になる品川駅は写真の左下地下50mにできる。

写真の右下半分は東京都下水道局の芝浦水再生センターで、右下には水色の反応槽のフタに描かれたアース君の絵が見える。

 この付近のビルは、羽田飛行場との関係で約150mの高度制限がある。

 ところで、この品川シーズンテラスビルは下水処理場の上に建設された新しい仕組みのビルで、地下1階は下水熱を利用した空調機械があり、地下2階以下は雨水調整池になっている。
そのため、都条例で義務付けられている駐車場は地下に作ることができず、4階に設置されている。

 ビルの用地は東京都のものだから、地上権を開発者に付与し、その代償として東京都は一定の規模の床を区分所有している。
 この床は、テナントに貸し出され、その収入が定期的に東京都に入ってくるというビジネスモデルである。

 なお、開発が順調に進めば二期工事として東側に同規模のビルがもう1棟建設されてツインビルになるそうである。

 東京は日々変っている。


2015年 下水道技術のメッセージ (17) 8月10日 「川下り」

 (保津川下りは夏の風物詩)

   京都の保津川下りは、川の涼しさと波しぶきを浴びるスリルで夏の風物詩である。

 保津川では、急流の「瀬」の連続だが、時には鏡のような「淵」も現れてその変化が面白い。
最も急な「瀬」は2mも落差があるそうだ。船が到着する嵐山は広大な「淵」になっている。
保津川下りは、写真のように、時には急流、時には鏡のような流れを楽しみながら2時間かけて下る。

 このような川下りについて、二つの素朴な疑問があった。

 一つは、下った船を再び上流に戻すのはどうしているのかということだ。
船頭さんの説明では、写真の背景の岩山のような所に人がやっと通れるような狭い道が残っている。
つまり、昔はここを足場にして人足や馬の力でロープを引っ張り、船を上流に戻したらしい。
急な流れのところはかなりの重労働であったに違いない。

もちろん、現在は最下流の嵐山に到着した船は分解されてトラックで上流に運ばれている。
そのためか、船体は木製のように見えるが、実は軽くて強いグラスファイバー製で、表面は木の板で装飾が施されている。

もう一つの疑問は、写真のように船首部にオールが2本ついていて、2人の屈強な男性が漕ぎ続けていることだ。
写真では見えにくいが、前方の船のへさき(舳先)で黒いシャツを着ていて背中を見せている男性が一生懸命にオールを漕いでいる。

川下りは、川の流れで船が動くのだからオールを漕がなくても舟は進むのに、なぜかオールを漕いでいる。

その理由を聞いて驚いた。
急流でオールを漕ぐのは、船を進めるためではなく、船の舵を効きやすくして躁船をし易くするためだそうだ。

もし、オールを漕ぐのを止めると、船は川の流れで下流に向かって動くが、川の流れと船の速さが同じになり舵が効かなくなってしまうそうだ。

舵を効かすためにオールを漕ぐとは思いもよらなかった。
そのうえ、急流であるところほどオールを漕いで舵の効きをよくしなければならないそうだ。
だから、「淵」に出るとこぎ手は手を休めている。

このように、はた目からは無意味に見えるものでも、実は意味深いものがある。
下水道もその一つかもしれない。

世の中には、黙々とオールを漕いでいる人がたくさんいる、ということであった。


2015年 下水道技術のメッセージ (16) 7月28日 「労働災害」

 (労働安全大会講演会)

   T社の労働安全大会で労働災害について講演会を依頼された。

 そこで、畑村洋太郎先生著の「使える失敗学」に記載されている機械設計の失敗学をお手本にして労働災害を論じてみた。
 同著では、失敗の原因を個人と組織に分けて分析している。個人については5つの原因の内、無知と未知が重要であった。
というのは、これまでの労働災害対策では無知の克服が大半であった。

 労働安全の基本的な知識を身に付け、過去の事故例を熟知すれば労働災害を防ぐことができると信じられ、研修や訓練が進められてきた。

 ところが失敗学の類推で行くと「未知の労働災害」についても対処していかなければならないことになる。「未知の労働災害」とは聞き慣れない言葉だが、私たちは労働災害の知識を知り尽して、知る限りの訓練をやり尽くせば労働災害を撲滅できると思うのは少々楽観的過ぎないかという問題提起である。

 では「未知の労働災害」とは何だろうか。それを知るには、労働災害を取り巻く条件や環境が日々変化しているということを認識しなければならない。
 同じ環境に見える職場でも機器は老朽化するし職員は高齢化していく。さらに、新型機器を導入すれば便利になる面とリスクを抱え込む両面が発生する。
 このようなトレンドは分かっているようでなかなか把握しにくい。まして、各要因が連携しているとなればほとんど予測不可能の世界である。これが「未知の労働災害」の一例である。

 「未知の労働災害」に対処するには、「無知の労働災害」と異なり、個別具体的に示すことが難しい。
 それは、未知の労働災害は、未来の事象を予見して対処しなければならないからである。そのためには、回り道の様であるが現在の業務、状況を熟知したうえで過去の事故例(無知の労働災害)を学び、これまで見過ごされていた成功例の中から「未知の労働災害」の萌芽を学ばなければならない。
 将来の動向は不確定であるから、予見しても事態が生じない、というリスクも負わなければならない。

 それでも、「未知の労働災害」に取り組む意義はある。  


2015年 下水道技術のメッセージ (15) 6月24日 「ザ・キューブ」

 (米国ユタ州モニュメント・バレーにある奇石ザ・キューブ)

   ナバホ族が居住している米国ユタ州のモニュメント・バレーは、西部劇に出てくる砂漠地帯で有名だ。
 その中で、いろいろな観光ポイントがある中で、写真のザキューブに目が止まった。

 ほとんど真四角だが一辺が5mはある大きな立方体状の岩が、小さな土台に乗って鎮座していた。
 風が吹けば今にも動き出しそうな格好だが、何しろ大きいのでびくともしない。

 観光客は、石の下に入って、鼠のように遊んでいたが、万一、動いたらひとたまりもないだろう。
 ここでは、地震はめったにないのでその心配はないが、地震国から来たものにとってはいささか心配な光景であった。

 ところで、この岩はどのくらいの重さなのだろう。
 素朴な疑問として、この岩を動かすにはどのくらいの力がいるのだろうかと思った。

 写真の人の大きさからして、ザキューブの一辺は5m、容積は125立方メートルと踏んだ。
 すると、岩の比重は2.5〜3.0くらいだから300t〜400tというところだ。

 これは、ジャンボジェット機が満タンで離陸するときの重さだそうだ。
 満タンのジャンボジェット機が離陸するのは何とか理解できるが、この岩が空を飛ぶとは考えられない。

 きっと、発想の転換は岩が空を飛ぶ所から始まるのだろう。  


2015年 下水道技術のメッセージ (14) 6月8日 「太陽熱発電所」

 (ラスベガス南西部砂漠にあるイヴァンパ太陽熱発電所)

   5月下旬に、所用で米国西部のネバダ州ラスベガス市を訪れた。

 ラスベガスはロスアンジェルスから飛行機で1時間弱のところにあるが、ラスベガスに到着する直前に機体の右側の窓に、突然きらきら輝く3つの尖塔が現れた。

 写真のように、この尖塔は周辺を膨大な鏡群で囲まれていて、太陽光を先頭に集めて、蒸気を発生させ、タービンを回して発電する巨大な太陽熱発電所だった。
 普通は、太陽電池パネルに光を当てて発電する太陽光発電が一般的だが、このイヴァンパ太陽熱発電所は30万枚の鏡をコンピュータで制御して太陽光を3つのタワーに集めて蒸気を作る。

(2m×3mの鏡30万枚で40万kwhを発電。尖塔の高さは140mのイヴァンパ太陽熱発電所)

太陽熱発電所の特徴は、夜間や曇りでも熱媒体で熱エネルギーを蓄えているので発電できることと、蒸気タービン発電なので、交流で発電できることだ。
 太陽光発電は、電力を貯蔵するのに高価な蓄電池を使わなければならないし、直流発電だからコンバーターで交流に変換しないと一般電力と共用できない弱点がある。

 発電所の能力は40万KWで13平方kmの敷地に10億ドルの資金をかけて、昨年2014年に建設された。グーグルの資金も入っている。

   太陽熱利用であるからCO2排出はなく、年間40万トン相当の二酸化炭素の削減が見込まれている。

   砂漠に突然現れた光り輝く発電所は、野生の鳥たちにとっては理解を越えており、鏡の平面を湖と間違えて降下した鳥が瞬時に焼き殺されてしまう事故が多発しているそうだ。

   発電単価は0.135ドル/kw で原子力発電並みに安い。

 (グランドキャニオン近くのレイクパウエル湖近くにあるナバホ石炭火力発電所)

一方、アリゾナ州グランドキャニオン近くにあるコロラド川をせき止めて建設された人造湖レイクパウエルから見える位置にあるナバホ石炭火力発電所は、写真のようにもうもうと煙を排出している大型石炭火力発電所である。
 この近くに露天掘炭鉱があり、そこから列車で石炭を運んで、ここで燃やして発電している。

 発電所の辺りは排煙で空が暗くなるほどであった。
 発電能力は225万KWで、排出する二酸化炭素は計り知れない。
 この発電所の目的の一つは、コロラド川の水をアリゾナ州の中部・南部に年間1.85立方Kmも送水するためのポンプ電力である。

 最新鋭の太陽熱発電所は気候変動にも対処しているが対処しているが、石炭火力発電所は大気汚染公害を振りまいているが発電コストはかな低く抑えられている。

 米国は不思議な国だ。


2015年 下水道技術のメッセージ (13) 5月19日 「太平洋展」

 (作品「重文・旧喞筒場」、佐久間孝子氏作品、第111回太平洋展に展示してあった下水道施設の絵画に思わず足が止まった)

   東京六本木の国立新美術館で第111回太平洋展が開催されている。

 これは、日展に次ぐ全国規模の美術展で、プロ・アマ交えて全国から多数の作品が応募し毎年この時期に開催されていて権威あるものだ。

 この美術展には、東京都下水道局の施設管理部長で退職された松村啓二氏が理事を勤められていることもあり、毎年参観している。
 松村啓二氏は、東京都を退職されてから本格的に油絵の道に進まれ、今では太平洋展に無審査で採用されるまでになっておられる。

 この太平洋展に、今年は写真のように佐久間孝子氏の「重文・旧喞筒場」という作品が展示されていた。
 「重文・旧喞筒場」とは、東京都下水道局三河島水再生センターに保存されているポンプ所のことで、このポンプ所は日本で最初の近代下水処理場が生まれたところとして平成19年に下水道分野では初めて国の重要文化財(建造物)に指定された。

 絵は、沈砂池と沈砂機械室、そして後ろの大きな建物であるポンプ室を描いている。
 前景には桜の枝が配置してあるが、この水再生センターも春には桜が満開になり花見客も訪れる程はなやかになるので、その時に描いたものだろう。

(作品「冬涛」、松村啓二氏作品、無鑑査)

 このように、下水道施設が絵画の対象となることはかなりまれなことで、普段はあまり市民、都民の目に触れないことが多い。
 下水道施設は汚れたものを扱っているからきたない、臭い、というイメージが付きまとって、あまり目に触れないことが多い。
 しかし、汚いものをきれいにするのだから、最もきれいな施設である、という見方もできる。
 人が生活するのに不可欠の施設であるから、大切な施設でもある。

 このポンプ所跡も、大正の終わりから100年以上働き続けてきたのだから、それはすごい施設であると見るべきだ。
 古風な建物のたたずまいの中に、関東大震災や東京大空襲に耐えて下水を組み続けてきたすごさが見えてくる。
 毎年咲く桜と100年間、変わらずにたたずむポンプ所との対比が面白い。
作品の前で、三河島水再センターを最初に建設した時の大正末期の桜を想像すると、ある種の感慨をおぼえた。

 太平洋展は国立新美術館では5月25日までの開催だが、この後、6月に名古屋、7月に福岡、9月に神奈川、10月に大阪と巡回展を開催する予定だ。機会があれば下水道関係者にはぜひ鑑賞していただきたい作品2点である。


2015年 下水道技術のメッセージ (12) 4月24日 「エド・マコーミック氏」

 (スティーブ・ジョブスに似た米国水連盟(WEF)新会長のエド・マコーミック氏の基調講演)

   4月23日に東京都千代田区有楽町の国際フォーラムで日本下水道協会主催の日米下水道シンポジウムが行われた。そのなかで、最初に米国水連盟(WEF)新会長のエド・マコーミック氏による基調講演、「上下水道事業から資源回収」が行われた。

 マコーミック氏は基調講演の中で、カリフォルニア州オークランドにあるEBMUD(East Bay Municipal Utility District)の下水処理場で、使用するエネルギーの100%を下水処理場内で再生するプロジェクトが実現したと述べた。

 下水処理に必要な送風機や揚水ポンプの電力全てを消化ガス発電でまかなっているということで、日本の常識からすると驚くべきことであった。

 日本の常識とは、基調講演の後で行われたパネルディスカッションで東京都下水道局計画調整部長の坂根氏が述べたように、全ての汚泥を消化ガス発電に利用しても、処理場使用電力の40%しかない、ということであった。

 これは、後ほどのマコーミック氏への質問で明らかになったことだが、EBMUDでは下水汚泥を消化するだけではなく食品廃棄物やセップティックタンク汚泥、廃油などの産業廃棄物を大量に受け入れているそうである。
 だから、膨大な消化ガスが発生して下水処理場をまかなえるだけの電力を発電できるということであった。

 日本では、下水処理を目的に建設した下水処理場の汚泥処理施設に産業廃棄物を受け入れるのは制度的に難しい。
 なぜなら、全ての下水処理場が下水処理を目的に国費を導入して建設しているので、産業廃棄物を業として受け入れるのは目的外使用となるので認められない。
 それに、産業廃棄物の処理は廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の扱いで、下水道法による下水処理場で扱うことは許されない。

 産業廃棄物を下水処理場で受け入れるとすると、既存の処理業者の死活問題になるという課題もある。

 マコーミック氏は、EBMUDの収入では、消化ガス発電による電力売却によるものは四分の一で、残り四分の三はティッピング・フィー、つまり産業廃棄物を受け入れるに当たって受け取る処理料金だそうだ。

 この話は、2013年に米国ハリケーン・サンディ高潮下水処理場被害調査に行った時に、ニュージャージー州のJMEUC処理場でも聞いた。
 ここでも、集約汚泥処理基地は、周辺の下水処理場の濃縮汚泥や食品廃棄物、セップティックタンク汚泥、廃油などを有料で受け入れている。
 その時は、ベントナイト廃液も受け入れていて、これは高価な処理費を受け取れる、と言っていた。

 確かに、産業廃棄物を小規模な処理施設で処理するよりも、下水処理場で大規模に処理したほうがトータルコストは安いに決まっている。

 例えば、東京都の森ケ崎水再生センター・南部スラッジプラントの近くにあるバイオエナジー社の食品廃棄物処理施設は、毎日100tの食品廃棄物をパッカー車で集めて、バイオマス発電を行い、2万4千kWhの電力と2,400立米の都市ガスを生産している。

 バイオエナジー社の技術的課題は食品廃棄物の中に混入してくるプラスティック廃材だそうだが、前処理をしっかりとやることでほぼ解決している。

 食品廃棄物が下水処理場で扱えるかどうかについては、制度的に日米の違いの大きさが存在している。
 下水汚泥からの資源の回収を考えた時、都市から排出される食品廃棄物やその他の有機系産業廃棄物の同一処理は、日本の下水道界の大きな課題である。


2015年 下水道技術のメッセージ (11) 4月20日 「EXPASA」

 (EXPASAはサービスエリアの新名称。その意味はわかりますか)

   写真は、今をときめく東名高速道路の海老名サービスエリアにある商業施設である。
 そして「EXPASA」は中日本高速道路株式会社が考えて名付けた和製英語である。

 その意味は、「EX」が外部への発展を意味し、「PA」はParking、「SA」はService Areaの略だそうである。
 和製英語であるから、どんな作り方をしてもかまわないが、何か新しい英単語であると思って辞書を引いてみたら英語では「Pasa」は人名に使われているらしい。

 同じような難解な和製外国語に「ラゾーナ川崎」がある。こちらはJR川崎駅前の三井不動産系の再開発商業地区だが、スペイン語の「Lazo」(日本語で絆)と「Zona」(日本語で地域)を組み合わせた造語だそうで、誰にも分からない。

 そもそも、造語を作り出すのはゼロからの出発だから人に知られにくい。それを施設や地区の名前に使うのだから勇気がある。
 それとも、「おや、聞いたことがないな?」と疑問を持たせるところに意味を込めているのかもしれない。

 「EXPASA」は、これまでの運転に疲れて休憩するというサービスエリアのイメージを払しょくし、サービスエリアに買い物に行く、という商業施設を目指している。

 写真はEXPASA海老名であるが、確かに多くの客がブランドショップも混在する店内を楽しそうに歩き回っている。
 移動の通過点に過ぎなかったSAが目的地に変わることをねらっているそうだ。

英語圏ではフランス語が言葉の高級感を印象づけるらしい。例えば、ジャズの歌詞ではフランス語風に発音して洒落ることがある。
 日本語圏では分かりにくい横文字が興味を呼び起こすということだろうか。
 それとも、日本文化のガラパゴス化の流れなのだろうか?


2015年 下水道技術のメッセージ (11) 4月14日 「信州大学入学式」

 (信州大学繊維学部は100年余の歴史がある)

   2015年4月4日に信州大学の入学式で行われた学長のあいさつがネットで話題になっていいる。

 あいさつの冒頭に、新入生にスマホを止めるか信州大学生を止めるかを迫った。

 その後、人の創造性を育てるには時間的、心理的ゆとりを持ち、自らで考えることにじっくりと時間をかけることが大切であると説いた。

 また、脳科学者Davit Eaglemen の「記憶が詳細なほど、その瞬間は長く感じられる。しかし、周りの世界が見慣れたものになってくると、脳が取りこむ情報は少なくて済み、時間が速く過ぎ去ってきようになる」という言葉を引用して時間を有効に使い有意義な学生生活を過ごすために次の5つの行動を求めた。
    1.学び続けること
    2.新しい場所を訪ねること
    3.新しい人に出会うこと
    4.新しいことを始めること
    5.感動を多くすること

 以上のことは、何も新入生に限ったことではなく、社会人にもリタイヤ―した高齢者にも通じることである。

このはなむけの言葉を解釈すると、次のようになる。
 人がいつも心しておくことは、
  新しい場所を訪ね、新しい人に出会い、新しいことを始める。すると、学び続けることになり、新たな感動を受けることになる。

   現状に安住せず、挑戦し、失敗し、経験を重ねることが、人生である。
   現状にへこたれず、挑戦し、成功し、経験を重ねることが、人生である。

   環境はめまぐるしく変わっているのであるから、社会人はもちろんのこと、幾つになっても学び続けることは不可欠であり、挑戦する気持ちを持ち続けることは生きていくことである。
人間は、刺激を受ければ反応し、発展する、ということだ。

 このような示唆を聞いた新入生の反応が興味深い。


2015年 下水道技術のメッセージ (10) 4月5日 「東大ミニセミナー」  (2015年3月19日、東京大学工学部14号館でハリケーン・サンディ下水処理場被害復旧のセミナーが開かれた)

   仙台市で開催された「2015下水道防災シンポジウムin仙台」に参加するために来日した米国コンサルタントHDR社の高松正嗣氏によるハリケーン・サンディ下水処理場被害復旧のミニ・セミナーが、3月19日に東京本郷の東京大学工学部で開催された。

 高松氏は、一昨年にEICAが実施した米国ハリケーン・サンディ現地調査の際、準備から現地視察、報告書作成まで協力していただいた日本人技術者で、「2015下水道防災シンポジウムin仙台」では事例報告を発表した。

 この機会に、東京でも関係者を集めて同種のセミナーを開催した。
 年度末の多忙な時期、短い準備期間であったにもかかわらず、多数の皆さんが集まって2時間に渡ってセミナーと意見交換会を開いた。

 なお、このセミナーでは、著者も米国ニューヨーク市のハリケーン・サンディ高潮被害を受けて、リスクマネジメントの観点から今後の津波対策をまとめた「ニューヨーク市下水処理場津波強靭化計画」の概要を紹介した。


2015年 下水道技術のメッセージ (9) 3月23日 「河北新報」  (2015年3月18日、河北新報夕刊の第1面トップは下水道防災シンポジウムの記事で飾られた)

   3月16日から18日まで仙台市で開催された「2015下水道防災シンポジウムin仙台」に参加してきました。

 このシンポジウムは、第3回国連防災世界会議に関連する350を越えるシンポジウムやセミナーなどの一般公開事業の一つとして開催されたものでした。

 著者は環境システム計測制御学会の立場で、南蒲生浄化センター汚泥棟でのポスター展示(3月16日号記述分)と3月17日に仙台市内で開催されたシンポジウムの事例発表において米国ハリケーンサンディ下水処理場被害復旧の報告をしました。  その内容は別の機会に行うとして、このシンポジウムに大きな関心が集まっていることに驚きました。

 というのは、3月18日にシンポジウムのパネルディスカッションが仙台市民会館で開催されたのですが、写真のようにその日の河北新報夕刊の第1面に、たくさんある一般公開事業の中から「2015下水道防災シンポジウムin仙台」の記事が大きく報道されていたからです。

 下水道は見えにくくて地味な存在ですが、仙台市では4年かけて下水処理場を再建するというプロジェクトに取り組んでいます。  その中で、大津波災害を復旧するだけでなく、再建された下水道が将来の地域の発展の核になる、という東北大学大村達夫先生の基調講演が高く評価されたようでした。

 記事にはありませんでしたが、シンポジウムの冒頭に国交省下水道部塩路部長があいさつの中で引用したBuild Back Better Then Before という阪神淡路大震災以来の復旧事業に対するコンセプトにもつながりました。

 この期間に一般公開事業には予想の4万人をはるかに越える14万人が参加したそうですし、仙台市内は外国人であふれていました。
 絶望の中の希望、というのは災害大国日本に課せられた大きな課題であると思います。  


2015年 下水道技術のメッセージ (8) 3月16日 「価格破壊」

 (2015年3月16日、仙台市南蒲生浄化センターで開催された「2015下水道防災シンポジウムin仙台」の展示コーナーで使われたEICAのポスター。聞き入るのは国連防災世界会議のハンガリア代表。A1版1枚の印刷費用はたったの840円。))

   最近、ネット印刷の価格破壊を体験しました。

 仙台市で開催された「2015下水道防災シンポジウムin仙台」のポスター展示コーナーで使うために、A1サイズのポスターを2枚作ることになりました。
 そのため、いつもの印刷所におおよその費用を聞いたら5万円くらいだろうということでした。

 そこで、念のためネットを調べてみましたら名古屋のネット印刷所で、1枚840円、2枚で1680円でできると表示してありました。
 印刷具合が心配でしたが、このサイトから無料の印刷サンプルを取り寄せてみると、最も安いマット紙でもかなり鮮やかに印刷できることが分かりました。このネット印刷に注文すると、申し込みから3営業日で指定場所に宅急便で送ってくれるとのことでした。

 そこで、早速申し込んでみました。

 まず、原稿はパワーポイントに写真を貼り付けてテキスト画面と組み合わせて納得いくようにできました。
  これには3時間くらいかかりました。そこから試行錯誤が始まりました。

     あらためてネットで確認してみると印刷余白枠が必要であり、これが不十分だと、原稿の一部が切り取られることが分かりました。
そこで、最初に作ったポスター原稿を、余白を十分に取れるように、写真やテキストを組み直す作業に取り組みました。この作業は予想以上に時間がかかりました。レイアウトは部分が全体に影響を与えますので試行錯誤の繰り返しでこの作業に4時間くらいかかりました。

 やっと印刷原稿が出来上がり、PDFに変換してネットでA1ポスターを印刷してもらうために名古屋の印刷所に送りました。
すると、2日後に何枚かの写真の解像度が不十分であるが、これで印刷してよいか、とのメールがネット印刷所から来ました。

  というのは、パワーポイントでポスターを作っていると、1M程度の高解像度の写真を張り付けても、貼り付ける写真の枚数が多いと解像度が自動的に小さくなってしまうことに気がつきました。
1ページに貼り付ける写真の枚数が少なければ、それなりの解像度が確保されるようですが、今回のポスターは1ページに14枚の写真が必要でしたので、何枚かの写真は解像度が確保できない状況になりました。

 ここまで気づくのにさらに数時間かかりました。ネット印刷所からのメールには、専用のソフトを使うと写真の解像度を落とさずに原稿が作れるので、イラストレーターというソフトを使うことを推奨していました。残念ながらこのソフトは手元にはありませんでした。

 結局、時間が迫っていることもあり、解像度の甘さは覚悟して、どうしても耐えられなければ、その部分の写真は後ほど切り貼りで対応することにしてネット注文を確定しました。

 その後、約束通り3日後にポスターは宅急便で送られてきました。おそるおそる印刷された写真部分を調べてみると、懸念したほど解像度は落ちておらず、1枚の写真だけが見えにくく、これを張りかえれば済むことが確認できました。
 そこで、この写真だけはレザープリンタで印刷した写真を上に張って間に合わせました。

   イラストレータは印刷のためのソフトです。ネット印刷に挑戦し、ここまでやってみて、街の印刷屋さんは写真の解像度を保つためにパワーポイント原稿をイラストレータで組み直して印刷するので、それなりの費用がかかるということが分かりました。

   ネット印刷のポイントは完全原稿とネット申し込み、それに出来上がった印刷物を送るための宅急便です。ネットと宅急便が普及したので実現した新ビジネスでもあります。

 そして二十分の一近い安値は、ネットによる省力化と大型カラー印刷機の稼働率にありそうです。
 つまり、小口の印刷をネットで大量かつ低コストに集めて高価な印刷機を24時間稼働させることです。そうすることによって、ネット印刷も利益が上がり、利用者も安く印刷できるということです。

 ネット印刷のコスト削減は驚くほどですが、その源泉は人件費、店舗の省略と稼働率の向上です。これに宅急便の普及が加わり、ネットが情報の流れを制して宅急便が物流の流れを制するという関係が成立しています。

   その結果、単に印刷物の製作コストを安くするだけではなく、これまで大型印刷物に無縁であった人達も簡単に注文できることになり、多品種小口印刷物という新しい市場を創造する効果も生み出していました。
 今回は一般の人が使うには高価なソフトであるイラストレータが手元になかったので少々不自由をしました。イラストレータは月2000円程度でレンタルする方法もあるようですが、もっと簡素なソフトが出回ることを期待しています。


2015年 下水道技術のメッセージ (7) 3月8日 「我見と離見」

   ジャパネットたかたの名物社長、高田明氏がテレビ番組プライムニュースで、「我見(ガケン)と離見(リケン)」について述べていた。

 「我見と離見」は世阿弥が花伝書の中に記述している言葉だ。
 我見とは舞の踊り手が自分の目で見る姿をいう。これに対して離見とは客席から観客が舞を見ることをいう。
 踊り手は自分の眼だけでは、自分の姿はほとんど見えない。まして、背中などの体の裏側は見ることができない。
 ところが、客席の観客は離見で見ることができるので、舞の踊り手の前姿だけではなく後姿も見ることができる。

 高田明社長は、「離見」の例えで電話やネットで販売する時に客の声や姿を見ることが大切であると説明していた。そのために、ジャパネットタカタのコールセンターは、基本的に社員で構成しているそうだ。
注文を受けるだけなら外部委託化したほうがコストが下がるが、商品についての質問や問い合わせ、クレームについてはそれなりの商品知識を持ったコールセンタースタッフが必要だと述べる。コールセンターの情報を集めると、自分の後姿が見えてくるらしい。

 また、高田社長は独特の高い声が有名だが、インタビューでは低い声で通していた。その違いは何かという質問に対して、社長自身が商品に魅力を感じて商品の素晴らしさを視聴者に伝えようとすると、つい感情が高ぶって声が高くなってしまうそうだ。
自分が商品の良さを理解し、その良さ、すごさを伝えれば自ずと商品は売れるそうだ。逆に魅力を感じない商品は扱わない、ということらしい。

 さらに、裸一貫から年間売上1000億円台の企業を育て上げた経験から、「変化に対応するのではなく、変化を作りだすオンリーワンを心掛けてきた」と説明する。いってみれば、新しい通信販売というマーケットを築き上げてきた、ということである。
もともと、マスメディアが拡大していく中で通信販売は昔からあったが、ジャパネットタカタのような個性の強い通信販売は新たな境地を切り開いたといえそうだ。
つまり、商品を売るだけでなく、コールセンター情報をメーカーに戻して新たなプライベートブランドに近い商品を投入するなど、流通のだいご味を展開している。

 高田社長によると、ジャパネットタカタは商人の役割に徹しているそうだ。良い職人がいても物は売れない。商人が物をお客に届けて初めて良い職人の腕が活きる。だから、ジャパネットタカタは最安値商品を目指してはいないそうだ。高くてもよい商品をできるだけ安く届ける、ということのようだ。
したがって、その対象は中高年が中心らしい。街にあふれるたくさんの商品の中から、中高年に適した商品を選んで情熱を込めて伝える、というビジネスモデルのようだ。

 例えば、家電の販売ルートはメーカーの系列店からスーパーマーケットのような大規模店、さらには量販店という風に変遷してきたが、最近はアマゾンや価格ドットコムのようなネット通販が勢力を増してきた。
その中で、可処分所得の大きい中高年が置き去りにされている。ジャパネットタカタはここに標準を合わせているようだ。

 高田社長はすでに長男に経営を譲っており、テレビ出演も近々引退するという。その後は小さい会社を立ち上げて、「伝える」仕事をしていきたいと述べて番組は終わった。


2015年 下水道技術のメッセージ (6) 3月1日 「下水道防災シンポジウム」

(被災した仙台市南蒲生浄化センター建設現場はシンポジウムの見学コースになっている(2013年9月撮影))

   3月17日と18日に仙台市で「2015下水道防災シンポジウムin仙台」が開催される。
 これは、東日本大震災から4年目を迎えて下水道被害の復旧・復興と今後の災害対策を考えるもので、国連防災世界会議に合わせて開催される。

 このシンポジウムに環境システム計測制御学会(EICA)も参加する。

 参加の形態は、南蒲生浄化センター汚泥棟で開催される下水道展示コーナーにおけるポスタ―展示と、シンポジウム会場で行われる事例発表である。

 EICAとしては、このようなシンポジウムに参加するのは異例だが、これまでに東日本大震災や米国ハリケーン・サンディの下水処理場被害調査を行ってきた関係から、積極的に参加することにした。

 EICAとしては、下水処理場の設備機器が海水で水没して2年近くも機能を喪失してしまったことから、津波や高潮被害を防ぎ、軽減する方法を研究してきた。被害を受けないようにするだけでなく、復旧するまでの期間を短縮したり、損傷した危機を仮設で仮復旧する手法など、日米で始めて経験した事例が山積しているので、まずは知識の共有、成功事例・失敗事例の共有がある。

 さらに、今後の課題としては水没施設の排水シミュレーションや簡易処理、中級処理、高級処理の段階的復旧、復旧財源、さらにはリスクアセスメントなど、話したいことは山ほどある。

 事例発表では、持ち時間はわずか10分間であるのでほとんどしゃべれないが、関心のある方には報告書を読んでほしい。
 必要なら、出前講演会も行う準備がある。実際、幾つかの自治体下水道関係者には、そちらの県、市町村に出向いて2時間程の津波・高潮講演会を何回も開催してきた。

 災害はPDCAで対応することになるといわれているが、正しくは、DCAPだろう。すなわち、被災して(Do)復旧・復興し(Action)、災害対策を総括(Check)して将来に備える(Plan)。
今回のシンポジウムはCheckの段階にある。だから、視点はこれからの災害に向けられなければならない。


2015年 下水道技術のメッセージ (5) 2月27日 「講演会」

(50回目の講演会。2月中旬に埼玉県下水道課と関係公社・市町の皆様に向けて「下水処理場の危機管理」を話した)

   もうすぐ平成26年度も終わりになるが、著者は平成24年の4月からこれまでの3年間に、主に自治体下水道技術者を対象にした講演会を50回開催してきた。
 聴講していただいた方は約2800名に及ぶ。

 最初の講演テーマは、「下水道の温故知新」ということで約100年前の三河島水再生センター建設時の話題で始まったが、すぐに「東日本大震災の被害と復旧」のテーマに移った。

 東日本大震災は平成23年3月11日であったが、その後、現地調査を続け、環境システム計測制御学会から調査報告書を発表したことが講演会への契機であった。
 津波被害は、海水による電気・機械設備破壊が甚大であった。これは、下水処理場だけでなく、福島第一原発のメルトダウンも、海水浸水による非常用発電機破損、高圧配電盤破損、直流電源破損ということで、これまでに誰も経験したことがない新しいタイプの災害であった。

   そして、平成24年10月29日には米国ニューヨーク市、ニュージャージー州でハリケーン・サンディによる百年来の高潮被害が発生して20か所以上の下水処理場が破損した。

 筆者は、高潮被害と津波被害の共通性、先進国の下水処理場が海水浸水で破損するという共通性に着目して、平成25年9月にこちらの現地調査も試みた。その成果は平成26年5月に東京と大阪で報告会を開催したが、全国各地で開催した自治体向けの講演会では、両災害の相違点、類似点などを論じた。

 その後、「下水道のバリュー(価値)」や「下水処理場の危機管理」、「下水道技術者のプレゼンテーション」など題目を広げて現在に至っている。

 講演会は、知識だけを提供するものではない。講師と聴衆が一緒に考え、分かること、分からないことの存在を確認して応用力を身に付ける場である。
 だから、演台から離れてなるべく聴衆の皆さんに近いところでしゃべるようにしている。
 講演に使うパワーポイント原稿は、起承転結の手順を踏み、メリハリを付けて飽きないようにしている。

 そして、講演の最後には質疑とアンケート記入の時間を設けて、講演内容をもう一度思い出していただいている。
 短期記憶を長期記憶に置き換えるには、反復学習が必須である、ということだ。

 このようにして、3年間で50回の講演機会を経験して、つくづく思うのは、講演会では講師が一番学んでいるということだ。
 講師が聴衆に教えているような形に見えるが、講師が聴衆に教わっている。講演会を重ねると、話す技法だけでなく、双方向のコミュニケーションや間の取り方、それに、講演の内容そのものも気づくことが多い。

 これが世阿弥の書き残した「老後の初心忘するべからず」なのかと思うことがある。 


2015年 下水道技術のメッセージ (4) 2月23日 「駅の階段」

(駅の階段とエスカレータ、どちらを選びますか)

   毎朝通勤で使用する駅の階段について、面白い話しを聞いた。
 最近は健康ブームで仕事の帰りにジムへ通うライフスタイルが流行っている。
 ジムで汗を流し、ジムの大きな風呂に入ってさっぱりして帰宅するというスタイルだ。

 ところが、この人たちが通勤で朝の階段を嫌いエスカレーターに並ぶことがあるという。
 そこで、ある方が看破した。
 「駅の階段は健康器具と見ろ!」

 この話しを聞いて、少し考えてから、なるほどと共感した。

 というのは、ジムへ通う皆さんは健康管理のため脂肪を減らして筋肉を増やすようなメニューを選んでいる。
 そのためには有酸素運動、脂肪を燃焼させるようなやや長時間の継続した運動をしなければならない。
 具体的には汗を流す運動が必要である。

 ところが、駅の階段は一気に早歩きで登っても息が乱れることはあるが汗は出ない。
 汗が出なければ有酸素運動でないから効果がないと考えている人はエスカレータの列の最後尾に並んでしまうのかもしれない。

 しかし、有酸素でない運動は無意味かと言えばそうではないし、有酸素運動しか運動と認めないことはおかしい。
 一日のなかで、時々心肺機能に100%や120%の負荷をかけることは、血流の促進などに必要なことである。

 まさに、「駅の階段は健康器具」の所以(ゆえん)である。

 この考えを拡張すると、街の道路も、会社の通路も健康器具になる。
 普段歩く時も、あごを引き背筋を伸ばして腹筋を引き締めると姿勢がよくなるが、筋肉も引き締まる。
 足は心持大股にして、最後に足が地面から離れるときに足首を使ってキックする意識を持つと早歩きになる。
 こうすると、足の大たい筋までしっかりと使うことになる。

 ジムに行かないよりは行った方がよいが、行かなくても街の中の健康器具で運動する機会はたくさんある、ということである。

 なお、冒頭の「ある方」とは、某大学教授だが、最近フルマラソンを生まれて初めて完走された。
 フルマラソンに挑戦すると、街の中の景色が健康器具に見えてくる、ということのようだ。


2015年 下水道技術のメッセージ (3) 2月15日 「防災行動計画」

(米国ハリケーン・サンディに関する現地調査・第二次調査団報告書(第一版)

   去る2月13日に東京駅前のサピアタワーにある関西大学サテライト教室で「「国難」となる巨大災害に備える〜日米の危機管理の現状とこれから〜」のオープンフォーラムが開催された。
この中で、冒頭に米国FEMA(危機管理庁)副長官代理のジェームス・キッシュ氏の講演があった。
参加者には、写真の第二次調査団報告書が配布された。

この調査団は、関西大学河田恵昭教授や国交省河川局OBの藤井敏嗣氏などが参加したもので、2年前の2013年2月に1次調査をし、同5月には同じ会場で公開報告会を開催していた。
著者は、この1次調査の報告会に参加してハリケーン・サンデディ高潮被害の実態を知るとともに、この調査に下水道がほとんど含まれていないのに驚いたことがあった。

その時の問題意識が、後の環境システム計測制御学会の米国ハリケーンサンディ下水処理場高潮被害調査に結びついて、下水処理場被害調査団結成、派遣、報告書作成、報告会開催に結びついている。

今回の二次調査の主旨は、一次調査では高潮被害発生から4カ月の時期に調査したので、復旧、復興の全容がつかめていなかったので、さらに詳細な調査をしようとしたものである。
実際に、第1次調査時点では6兆円といわれていた被害額が、その後の調査で倍以上の15兆円に上ってしまっているとか、水没した地下鉄トンネルなどは、当時はとりあえず早期復旧に努めたがしばらくたってみると海水で腐食が進んで交換しなければならない機器が多数出現したそうである。

さらに、二次調査では災害事前に資源を配置する防災行動計画(タイムライン)の詳細や米国では法律で義務付けられているAfter Action Review(AAR)の報告書収集を目的としている。

報告書では、タイムラインは日本でも導入が始まっており、大規模洪水の分野で災害対策事前資源配置の計画が進められているとしている。

 タイムラインは災害発生の事前に動き出すので、予知・予報ができることが前提になっている。その時、結果的に誤った予知・予報でタイムラインが動き出すと、大きな経済的損失を生みだすことになりかねない。
 この怖れと、万一、タイムラインが発動されないで被災して大きな被害が発生してしまった場合の懸念とどちらを選ぶべきかという事になるが、FEMAはタイムラインを積極的に活用していく、としている。

 その時に、万一災害が起こらなかったときの措置としては、科学的な根拠を示すことや誤りもありうるというコンセンサスを市民と共有していることの大切さを、報告書は記載してあった。

 日本では、御嶽山噴火の際、気象庁は明らかな火山異常データを把握していたにも関わらず社会的影響を考えて公表しなかったことが多くの被害者を生んでしまった点が指摘された。市民の命を護る、ということが最優先されれば万一誤報になっても危険情報を発信すべき、というのが会場の見解であった。
 その場合、誤報に伴う損害賠償や営業補償などを気象庁に求めないという国民的合意形成が必要なことは言うまでもない。

 (米国FEMA 副長官代理ジャームス・キッシュ氏 大きな体で小さな椅子に座り講演していた)

AARは、日本では「災害対策のふりかえり」と訳されており、米国では法律で発災から2年以内に報告書を提出する事が義務付けられている。サンディでは、発災から2年余を経て各部門での作業が進み、報告書の形でまとめられているそうだ。
例えば、FEMA(連邦危機管理庁)では、AAR専門チームが関係した全職員(FEMA職員の60%)から聞き取りをして時系列のデーターベースを作った。次にその中から軽重を付けて原案を作成し、再び聞き取りした職員にフィードバックをして意見を聞いたうえで最終のAAR報告書にまとめたそうである。

NJS(ニュージャージー州危機管理局)では、2011年のハリケーン・アイリーンの時にAARでハリケーンの前兆段階で防災行動を行うべきことが明確になったので2012年版タイムラインを作りサンディに対応した。
このタイムラインはサンディで試行したので、さらにその際のAARにもとづいてバージョンアップしたタイムラインを用意しているそうだ。

 このように、災害対策の記録と成功例も失敗例もまとめて記録して後世に伝えることは災害対策のPDCAといわれており、大切なことである。
 とりわけ、災害対策は成功例だけが記録されがちであるが失敗例は後日の改善に結びつくことが多く、貴重である。
しかし、失敗例が公然となることにより責任問題や損害賠償問題に展開する恐れもあり、制度的な保障ががないとまとめにくい所でもある。

 FEMAでは、AAF聞き取りの際、「サンディ上陸後、災害対応で上手く行ったことは何か」、「サンディ上陸後、災害対応で失敗したことは何か」、「サンディへの対応に関して得られた教訓は何か」という質問をしたそうである。その結果、やはり成功例や改善点の指摘が多かったそうである。
 表向きは報告書では触れていなかったが、失敗例は改善点から類推するという分析が必要なようであった。

   以上、興味深いオープンフォーラムであった。  


2015年 下水道技術のメッセージ (2) 1月4日 「事故と事件」

(マレーシアで見かけた交通事故。事故の原因究明が全員の利益になる。)

   「事故」と「事件」の言葉はよく混同して用いられている。

例えば、飛行機が墜落するとどんなに大きな規模の被害が発生しても航空機事故というし、物を盗めば規模の大小にかかわらず窃盗事件という。
 そこでウキペディアで調べてみると、「事故」は一般的には「人の体が傷ついたり生命が失われたり、あるいは物が損傷したり財産に損害が発生するような出来事」と定義されており、「事件」は「世間が話題にし、問題となる出来事」としている。

 したがって、事故が発生しても事件にならない場合もあるし些細な事故でも社会性がありすぐに事件として世間が話題にすることもある。

 例えば、下水道の工事現場で掘削現場が崩れる事故が起きたとしよう。この場合に、人身事故がなく被害も軽微なら単なる事故として処理してしまうことが多い。

 しかし、万一、人が傷ついたり生き埋めにでもなったら、これは間違いなく事件で警察や労働基準監督署の捜査を受けてマスコミに取り上げられる。
 警察は事件が起こると、どんな事故でも故意の犯罪の可能性を探る。つまり、事故を装った犯罪ではないかと疑い、被害者の交友関係と事故の関連を捜査する。
 それは、法律的には「事故」は「犯罪の嫌疑のない事実」、「事件」は「犯罪の嫌疑のある事実」としており、警察は事件を解決する任務を背負っているからである。

 だから、リスクマネジメント的には事故を事件にしない努力が求められる。とはいっても、事実を隠ぺいしたり捻じ曲げるわけにはいかない。隠ぺいしたり捻じ曲げると、今度はそのことが事件になり、そもそも事故ですんでいた出来事が事件になってしまう。

 ところが、この誤りを犯すことが多い。目の前の大したことのない事故を隠そうとして疑われ、次から次へと違法性のある出来事が明らかになり、芋づる式に検挙されるケースがある。
 例えば、捜査当局は事件の捜査は必ず複数の裏を取ることが当然であるから、ウソをついてはいけない。捜査に協力するということは、事故・事件の事実を明らかにすることであるから、結局は事件関係者にとっても求めることであるという認識が重要である。

、したがって捜査当局とは対立的な関係ではなく、事実を明らかにするという点で協同する関係にある。

 すなわち事件は事故の結果で生じるということである。
 世間が話題にもしないような事故が、たまたま他の事件との関連で注目を集めて事件となることもあるし、前述のような捜査過程での非協力が原因で事件になってしまうこともある。

 事故のリスクコミュニケーションを誤って事件になってしまうことがあることに注意したい。

注 リスクコミュニケーション:リスクに関する正確な情報を関係主体間で共有し、相互の意思疎通を図ること  


2015年 下水道技術のメッセージ (1) 1月1日 「霊峰富士」

(御殿場側から見た富士山。左側の駿河湾側は雪が少ない。2014年12月28日14時撮影)

  賀正新年。
 端正な富士山を見ると身が引き締まるが、なぜ身が引き締まるか考えてみた。

 富士山の山裾は、写真のように約30度のこう配ですそ野に伸びている。
 山肌は玄武岩でできており、30度の傾斜は土石流の起こらないギリギリの角度で、安息角ともいわれている。ちなみに、安息角は土砂の種類によって異なる。例えばケイ砂の安息角は40度、関東ローム層の安息角は60度である。
 富士山は成層火山であり、何度もの噴火で噴出した溶岩が積み重なってできている。
 その山肌は地震や噴火で山体崩壊を起こしたり、長年の気候で表面が風化して風雨によって無数の土石流が発生したりした結果できあがったとみられる。

 そのため、山肌がギリギリまでに研ぎ澄まされて現在の形状に落ち着いたともいえる。

 だから、山肌は安息角に収束して、人の目には美しく、荘厳に見える。
 写真の中腹には1707年に噴火した宝永山とその噴火口が見える。富士山の噴火はその後300年間発生していない。

 美しい自然の形成には過酷な火山噴火や大規模な土石流が潜んでいた。
 良くも悪くも、日本に住む限りはこの現実に対峙していかなければならない。  


2014年 下水道技術のメッセージ (23) 12月13日 「神戸ルミナリエ」

(神戸ルミナリオ。今年からLEDを止めて白熱電球に変えた。自然の輝きを求めたという。2014年12月13日撮影)

  寒風の中、神戸ルミナリオの列に並んで、白熱電球によるイルミネーションを楽しんだ。
空がうす暗くなる17時少し前に列に並んで、薄暮のイルミネーションを堪能した。さすがに、LEDの高輝度な光源と違い白熱電球の温かみのあるソフトな光にほっとした気分であった。

来年1月17日は、阪神淡路大震災20周年になる。災害は時間とともに風化するといわれているが、神戸ルミナリオ、という形で大震災の経験を継承している。

神戸市にある「人と防災未来館」でも、20周年に合わせて、東日本大震災の企画特別展を開催していた。
このように、震災記念館が他の震災とコラボするのはとてもよいことであると感じた。
災害対策や災害復興は災害の種類によって大きく異なるが、被災する市民の立場に立ってみれば、直下型地震でも津波でも、海洋性地震でも困るのは同じである。

市民の視線で災害対応するということは、ごく自然のことである。  


2014年 下水道技術のメッセージ (22) 10月19日 「マンホールはなぜ丸い?」

(米国ニューオリンズ市の下水道マンホール蓋。2005年にハリケーン・カトリーナが襲来して浸水した。2014年9月撮影)

  マンホール蓋が丸いのはなぜかという質問の答えは、丸いとマンホール蓋が下水道管内に落ちない、ということになっている。 本当だろうか。

確かに、角型マンホール蓋であると、間違って下水道管に落としてしまう可能性があるのが、丸いと落ちない。
しかし、下水道管内に落とさないようにするのであれば、マンホールの入口にネットを張っておけばよい。実際、人や工具を落とさないようにするために、マンホール蓋の下にネットを張ってあるマンホールもある。
それに、下水道管内に落とさないためには、マンホール蓋は四角でもその下の側カイ部で丸ければいいだけの話だ。

しかし、マンホール蓋はどこに行っても丸が多い。それには、下水道管に落とさないという以上の理由があるはずだ。

たとえば、丸い形状だとマンホール蓋を作りやすいということがある。
マンホール蓋は鋳物製が多いが、鋳物を作るときは角部がない丸いマンホールは湯が行き届きやすいし、冷やす時に均一に冷えるので熱応力によるひびが入りにくいだろう。

丸いマンホール蓋を使う立場で考えると、四角いマンホールより使いやすい。
現場でマンホール蓋を開閉する時に、蓋は重いのであまり動かしたり位置決めすることはしたくない。
開けるときはともかく、閉めるときはどの方向でも蓋のできる丸いマンホールはとても便利だ。それに比べて角のある四角いマンホールは、方向をしっかりと決めなければマンホールに入らない。使い勝手は圧倒的に丸が優れているということだ。

値段の点でも、マンホールの目的は人が下水道管に出入りすることだが、入るときは丸でも四角でも同じである。しかし、マンホールの値段はほぼ重さで決まるから、同じ大きさの人が入る場合には丸い方が安くてすむ。

以上のように、マンホール蓋はなぜ丸い、という昔からの疑問には、もしかしたら間違った答えをしていたのかもしれない。 ここで重要なのは、あたりまえ、常識と思われることを、まずは疑ってみることだ。
すると、その常識に対して考える機会が得られる。当たり前なことや常識は、誰もが信じていることだから誰もが考えずに受け入れている。そこにチャンスがある。
 それでも、当たり前のことが生まれた当時はまぎれなかったことかもしれない。ならば、時間がたったり考え方が変わったりすると変化することがよくある。

   この話で思い出すのは、寺田寅彦の逸話だ。
 寺田寅彦は、ある日サイコロに疑問を持った。サイコロには6つの目があるが、6つの目は本当に均等に出現するのだろうかという疑問であった。

 そこで、寺田寅彦がすごいのは、実際にさいころを買ってきて自分で何回も振ってみて試したことである。サイコロを振ってみると、目の出方にはかなり偏りがあり特定の目が続けてでたり、別の目はなかなか出ない結果となった。
数学で最初にならうサイコロの目の出方の確率は、各目は六分の一づつ均等である、というのは間違いであった。

 寺田寅彦の分析によると、各目が均等に出現しないのは、サイコロのような正6面体を精密に作るのはかなり難しいということであった。正6面体は対向する3組の面が平行であることと、面自身が平面であるということが求められる。この各面を平行に作ることは機械工学的にかなり難しい。その結果、重心の位置が真の中心と微妙にズレてしまい、出やすい面、出にくい面が生まれてしまうそうだ。

 実は、マンホール蓋にも同じことがいえる。幾何学的に最も簡単な図形は球でる。それは球の定義は中心から等距離の面、ということで最もシンプルな構造をしているからである。その次にシンプルなのは円盤である。円盤の定義は、中心から等距離にある線で囲まれた面である。つまり、冒頭述べたマンホール蓋の製造や使用の際の利点はこの円盤の性質から来ている。

 マンホールの蓋が丸いのは、蓋が下水道管内に落ちないようにだけではなく、もっと深い意味があった。
 疑問を感じ、原点に戻り考え、新たな発見をする、ということである。
 当たり前のことを疑うのは、世間を敵にするようで少々勇気がいるが、それだけの報酬もあるようである。  


2014年 下水道技術のメッセージ (21) 9月25日 「学術フォーラム」

(2013年12月第9回学術フォーラム、東京都港区乃木坂の日本学術会議大講堂 講演風景)

  2011に、東日本大震災を契機に立ちあがった日本学術会議の学術フォーラムは、今年で10回目を迎えました。
今年も、11月に下記のように開催します。

下水道関連の学会としては、土木学会、日本建築学会、環境システム学会、日本水環境学会などです。
すでに参加募集も始まっていますので、関心のある方は申し込みください。

日本学術会議 学術フォーラム(30学会からの発信 ) 
「東日本大震災・阪神淡路大震災等の経験を国際的にどう活かすか」

開催趣旨
国連防災世界会議(2015 年3 月仙台市)、世界工学会議(2015 年11 月京都市)に先立ち、わが国の防災・減災に関連する諸学会、および社会経済や医学等の幅広い分野の学者が集まり、東日本大震災・阪神淡路大震災をはじめと するこれまでの自然災害から得られた知見を、世界の防災・減災にどう活かしていくべきかを、分野の壁を越えて議論する。

日時:平成26年11 月29 日(土)10:00〜17:30
会場:日本学術会議講堂(東京都港区六本木7丁目22番地34号)(東京メトロ千代田線 乃木坂駅 出口5)
主催:日本学術会議 土木工学・建築学委員会、東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会
プログラム:講演、パネルディスカッション
参加申込み:下記サイトのお申し込みフォームよりお願いします

http://jeqnet.org/sympo

下水道関連参加学会:
 土木学会、日本建築学会、環境システム計測制御学会、日本水環境学会など

定  員: 先着340名(先着順)  


2014年 下水道技術のメッセージ (20) 8月25日 「リスクマネジメント」

(2014年8月19日福岡県下水道協会にて「下水処理場の危機管理」講演風景)

  最近は、著者の経験に加えて、米国ハリケーン・サンディや東日本大震災での下水処理場の被害を踏まえて、リスクマネジメントの視点から講演を行っている。
そこでのポイントは、以下のとおりである。

リスクマネジメントはリスクを組織的に管理することで、リスク特定、リスク分析、リスク評価、リスク対応の4つのプロセスからできている。
リスク特定は、リスクを発見し、認識し、記述する過程。(JIS Q 31000より)
リスク分析は、利用可能な情報を体系的に用いてハザードを特定し、リスクを見積もること。(経産省リスクアセスメントハンドブックより)
リスク評価は、リスク分析に基づき許容可能なリスクに到達したかどうかを判定する過程。(同上)
リスク対応は、リスクを変更させるための方策を選択及び実施する過程。方策とは、リスク低減、リスク受容、リスク回避、リスク移転の4種類がある。(グローバルテクノHPより、一部修正)

リスクマネジメントは、地震や津波などの大規模災害だけでなく、日常の労働災害や製造工程でも求められている。
だから、日常のベースでリスクマネジメントになじみ、こなしていく中で、いつかは起こる大規模な災害や事故に備えるということが必要なのだろう。

 ただし、日常のリスクマネジメントと大規模災害のリスクマネジメントでは異なるところもある。
 それは、大規模災害は規模の違いの他に経営資源の不足、失敗の連鎖、リスクの畳重など、質的な過酷さが伴うことだろう。
 そのためには、日ごろの訓練やマニュアルの整備の他に、柔軟な組織的対応や精神的な頑強さが必要になる。

 さらに講演では、リスクマネジメントの情報共有や水平展開を進めるためのプロセスを加えてリスクPDCAとすることを提案している。  


2014年 下水道技術のメッセージ (19) 8月7日 「宝くじ」

(宝くじは「貧者への課税」と看破した人がいた。夢を買うのは1枚買いがベスト?)

  宝くじは江戸の昔から庶民に愛されていて、落語にも出てくる。
宝くじを買って「もし当たったら」と考えると楽しくなる。このプロセスには、ロジェ・カイヨワが「遊びと人間」で述べた、@競争、A偶然、B模擬、Cめまい、の各要素が含まれていて大衆から支持されてきた。

一方、この宝くじを批判する立場の人は、宝くじのことを「貧者への課税」と称して警告している。
というのは、宝くじは収益率が40%、手数料経費が15%程度であるので、45%程しか戻ってこないという。
つまり、買えば買うほど損をする仕組みになっている。

ちなみに、還元率はパチンコで80%、競馬競輪で70%といわれているから、宝くじの45%はかなり分が悪い。

一方、宝くじ愛好家は、買わなければ当たらない、夢を買っている、と反発する。
これも一理ある。300円で夢が買えたら安い買い物である。

ところで、宝くじを冷静に考察してみると、「微少」という数学的極限概念の理解に行きつく。

例えば、1枚300円のサマージャンボ宝くじを買ったとすると、1等の4億円が当たる確率は1千万分の1だそうである。
確率の点でいけば、交通事故で死亡する確率は10万人当たり4,5人程度なので、1人当たりでは2万2千分の1になる。
したがって、宝くじが1等に当選する確率は交通事故で死亡する確率よりも約450倍も低いことになる。
ちなみに、リスクマネジメントの考えでは、交通事故によるリスクは一般の人が受けても仕方のないリスクの下限になっている。

そこで、高校の数学で習うゼロに限りなく近い極限値で定義される微小は、日常生活ではどんな値(数字)かということになる。
仮に、交通事故に会って死亡する確率をゼロに限りなく近い微小とすると、サマージャンボの一等当選はさらに小さい微小になる。

 ここで数学が示すことは、微小にどんな定数を乗じても微小のままであるということである。例えば10×微小=微小、100×微小=微小という関係が成立する。

   この考えをサマージャンボ宝くじに当てはめてみると、宝くじは何枚買っても当たる可能性は変わらないという変なことになってしまう。

 一般感覚では、宝くじは当たりにくいが枚数をたくさん買えばその分だけ当たる確率は増えると信じられている。だから、10枚、20枚とまとめ買いをする人が多い

 窓口で宝くじを買うと、連番で買うかバラで買うかを聞かれる。
 連番なら前後賞もあわせて当たる可能性が高いし、バラなら4億円が当たる可能性が高いと考えられている。

 それが数学的には成り立たないというのだから驚きだ。

 この答えは微小の概念にある。
 ゼロにどんな定数を乗じてもゼロはゼロである。微小はゼロの領域に限りなく近づいているので、ほぼゼロと同じ性質を持つということである。
 それを、普通の定数と同じと誤解して、買った枚数だけ1等が当たる確率が増えると思いこむのが宝くじの常識であった。

 ここで注意しておかなければならないのは、4等1万円や5等5等3千円が当たる確率は、買った枚数だけ確実に上がる。6等の300円は下1けたの数字だけだから、買った枚数に比例して当たるといってもいい。

この、買った枚数に応じて当選する確率が上がる部分と何枚買っても当たる可能性は変わらない1等を一緒の表にして示しているところに、庶民を惑わす原因がある。

 結論としては、宝くじは@競争、A偶然、B模擬、Cめまい、という遊びの要素があるのだから買うのは自由だが、何枚買っても当選する可能性は増えない。
1枚だけ買っても100枚買っても当たる可能性はは限りなく小さい微小で同じなのだから、きっと1枚だけ買って楽しむのが正しい買い方なのだろう。

これと似た関係が、下水道でもある。
ダイオキシンの規制値はかなり小さく、下水処理場からの放流水の規制値は10pg/Lである。
このピコグラムは1兆分の1グラムを意味している。こんなに小さいものはガスクロマトグラフでしか計ることはできない。しかも、膨大なサンプルを採取して測定前に濃縮処理をしなければならない。
そして、得られた数字は5pg/Lや20pg/L、100pg/Lなどさまざまであるが、このオーダーの世界で数字の分だけ毒性が増減するかと言えば、そうではない。

 宝くじ当選確率とおなじように、限りなくゼロに近い微小の領域では、微小に定数を乗じても微小で変わりはないのだから、毒性の強さも変わらないといわざるを得ない。

ゼロ近傍の非線形の世界には注意する必要がある。  


2014年 下水道技術のメッセージ (17) 8月1日 「水素燃料自動車」

(2014下水道展会場に展示された水素燃料自動車)

 2014年下水道展は、猛暑の中大阪市で開催された。。
同時開催の下水道研究発表会も含めて多数の下水道関係者が集まり、技術交流、人的交流が盛んに行われ、まずまずであった。

 その中で、異色であったのが自衛隊と水素燃料自動車(FCV)の展示コーナーであった。
 写真はトヨタのFCVコンセプトモデルであり、斬新なデザインが観衆の目を引いた。

 トヨタはハイブリッドカーで世界をリードしているが、次世代自動車にも意欲的である。
 説明員の話では、近々700万円台の汎用版を発売するとのことで、15年前に発売されたハイブリッド車を彷彿とさせる。

 ところで、700万円と聞いて思い当たることがある。
 確か、15年前にハイブリッドカーを売り始めたころも、最初は500万円とか600万円の価格帯から始めた記憶がある。  現在でも、日本の高級車、輸入高級車の価格帯はこのレベルである。

 ということは、自動車の価格帯はここ20年くらい変わっていないということである。

 テレビやパソコンなど、価格破壊が起こり日本が市場から撤退せざるを得ない製品が多い中で、乗用車は15年前の価格帯を維持しているとは驚きであった。
 テレビやパソコンと自動車との違いは、製品の製造工程ですり合わせ技術が必要とされるかどうかにかかっている、という理論がある。

 テレビやパソコンは半導体技術が基本となっており、サードパーティが簡単にコピーして低価格競争に入ってしまう。しかし、エンジンやミッション、車体をすり合わせて組み立てる自動車はコピーというわけにはいかない。
 量産品と言っても、たゆまぬ改善と技術革新が付きまとっている。

 この分野こそ、日本の生き残る道ではないかという主張がある。

 一方、下水道分野では日本の海外展開がいま一つパッとしない。
 その原因の一つに、海外企業との価格競争があるといわれているが、その突破口は無いものだろうか。

   FCVは電気自動車に水素燃料電池を搭載したものであるが、水素燃料電池を安く長寿命で量産化するにはまだまだ時間がかかりそうだが、日本自動車メーカーの挑戦に期待したい。  


2014年 下水道技術のメッセージ (16) 7月25日 「京都市下水道ポスター」

(エレベータの中に貼ってあった8人の下水道人のポスター)

 所用で京都市上下水道局を訪問した。
 ここは、京都駅新幹線口の目の前にある。
 庁舎のエレベータに乗り、おもわず写真のような上下水道局のポスターに目を奪われた。

 この時の印象が強かったので、当日お会いした京都市上下水道局の幹部職員の方に、「このポスターをいただけないか」とお願いしたら、3種類のポスターをいただけた。

 幹部職員の説明によると、このポスターに出ている若い職員は全て現役の職員で、モデルではないそうだ。
 そういわれてポスター登場の人物を一人ひとりよくみると、普通の職員の顔が浮かんでくる。

 しかし、一般職員と違うのは搭乗人物の目線、眼力からの強さだ。8人の搭乗人物の視線をたどるとカメラに集中する。
 8人のうち、中央の2人を周りの6人がを取り囲む構図で、周りの6人は手袋や本、マンホールカギ等を手にして、下水道の仕事を表現している。
 中央の2人は、周りの6人よりも大きめに移っているから、きっと周りの6人よりも一歩前にいて、左の人物の引き締まった口元や右の人物の握りこぶしは、下水道に対する強い意志を表している。

 8人の背景は処理場主ポンプ室の様で、働く職場という雰囲気をかもしだしている。

 このポスターは、もちろん市民への下水道のPR様であるが、つとめて職員のイインセンティブ向上にも貢献できるとみた。

 人のために役に立つ、ということは社会の基本である。役に立つから支えられる。支え合うから尊厳を保つことができる、尊厳があるから社会が安定して進歩する、ということである。

 下水道はたくさんある行政の一部門であるが、このポスターは下水道や行政という枠を超えて、人として、職業人として強い意志や決意を表しているというてんで感動した。  


2014年 下水道技術のメッセージ (15) 6月26日 「書評」

 このところ、ひょんなことからアマゾンに書評を寄稿している。
 といっても、頼まれたわけではなく、誰でも書ける投稿欄に気が向いたら書いている。

 最初は、本屋で気に行った本を見つけると、ゆっくりと呼んで投稿したが、人気のある本はすでにたくさんの人が投稿している。
 したがって、私の書評が他人に読まれる可能性はかなり低い。
 それでも、自分の感動を伝えることができるということで、始めた。

 ところが、先日、都内の大きな書店で「売る力」という新潮新書の新刊本を見つけた。
 新書なのですぐ読んで、感想をまとめて投稿したら、すぐに反響が現れた。

 私が付けた副題は「コンビニの進化に学ぶ」。街の変化にコンビニがついてきている。
 コンビニカフェや金のビール、コンビニATMなど、メニューも豊富になってきているが、その戦術・戦略を明かした本であった。

 その後も何冊か書評を書いたが、なかなか「売る力」を越えられない。
 最近では下記のように「誤解学」、私に副題は「誤解のモデル化」の書評を書いた。

 皆さんの「いいね」の投票が書評の励みになっている。  


2014年 下水道技術のメッセージ (14) 6月8日 「誤解学・新潮選書」

この本の著者は道路渋滞を明確に解明した「渋滞学」の著者でもある。
 誤解とはコミュニケーションにおける渋滞、と考えて、誤解の数理モデル化を示し、一部ではあるがそのメカニズムを解明した意欲作である。

 誤解とは、コミュニケーションでは理解の反対語である。
 本書では、誤解モデルに頑固度と伝達度というパラメータを加えて展開し、コミュニケーションの収束、発散、中立について論じている。

 コミュニケーションによる合意形成では、筆者は表面合意、解釈合意、真意合意の三つの到達点を示し、合意形成のメカニズムを示して先入観や偏見による誤解を防ぐために「一般的な話しに時間をかけることや、肯定的な発言を言わせる会話を繰り返していくこと」の大切さを示している。

 あとがきでも述べているが、筆者は数理物理学専攻で事象モデル化の専門家である。その筆者が、コミュニケーションのモデル化に取り組んだ作品であり、書店でためらわずに購入した。
 しかし、本書でも述べているように誤解モデルはまだ研究途上であり、かつ、一般向きに書いたので厳密さや普遍性に欠けるところがある。例えば、3人以上のコミュニケーションモデルは複雑になるので触れてはいない。

 誤解モデルは、普段何気なく行っている事を論理的に気づかせてくれる効果があった。しかし、人間の理解や情報伝達をモデル化することは、その全てを取り込むことではなく、一部を切り落とすことでもあった。
 今後は簡素で包括的なモデル化を期待したい。    


2014年 下水道技術のメッセージ (13) 6月4日 「ハリケーン報告会」

(ハリケーン報告会東京会場の状況)

 環境システム計測制御学会(EICA)では、昨年9月に米国ハリケーン・サンディ下水処理場被害調査を行い、その結果を報告書にまとめて報告会を開催しました。

 5月21日の東京会場では、約100名の皆様が集まり、盛大に開催しました。
 5月23日には大阪会場で60名近く方々が集まりました。

 報告会の後半には質疑の時間もありましたが、その中で災害時の維持管理委託企業の役割や、災害に強い職員の育成など、活発な質問が飛び交いました。

 今後は、報告会に参加できなかった自治体・下水道事業者向けに講演会活動を進める予定です。
 早速、6月3日には横浜市環境創造局でハリケーン・サンディ下水処理場被害調査の講演会を行いました。
 2時間という長時間でしたが、50名近い職員の皆さんが集まり、話を聞きいっていただきました。
 当日の内容は以下の通りです。

 1.調査団概要
 2.現地調査結果
   @BASA処理場、Aニューアーク・ベイ処理場、Bアダムス・ストリート処理場、CJMEUC処理場
 3.NYC下水処理場強靭化計画
 4、東日本大震災との比較
 5、まとめと提言

 講演の後、参加者にアンケートを書いていただきましたが、日本と米国との下水道制度、技術の違いが復旧に影響していることや、浸水の対策は多重防御であること、軍隊の関与、下水処理場の高潮被害に洪水保険を適用していること、等への意見がありました。

 NYC(ニューヨーク市)下水道強靭化計画では、高潮災害対策を費用対効果という視点でリスクマネジメントしていることに対して横浜市でも参考にしたいという声がありました。また、同計画の中で、高潮潮位に気候変動による海面上昇として30インチを上乗せしているということに対する驚きの声もありました。

 まずは知識を得、消化して環境創造局の政策形成に貢献できればと思います。

 以上の講演会は、下水道事業者を対象に広く進めていきたいと考えています。

 講演会開催にご関心のある方は以下にご連絡ください。nakazato@kpe.biglobe.ne.jp   


2014年 下水道技術のメッセージ (12) 5月15日 「汚泥処理の進展」

(葛西水再生センターターボ式流動焼却炉、手前に3基並んでいる箱形の機器は汚泥脱水機。)


 東京都下水道局葛西水再生センターの新型ターボ式流動焼却炉を見学する機会があった。

 世間では、この高効率の下水汚泥焼却炉が注目されている。
 炉内を加圧することにより酸素密度を上げて高い燃焼効率が得られる。

 だが、この施設の見学のホントの目的は、炉側に汚泥脱水機を配置したことであった。  写真には、M重工社製の遠心脱水機が150t×3基設置されていた。

 写真では焼却炉の隣にある3階建ての鋼製ストラクチャー3階部に設置されているのが分かる。
 写真では分かりにくいがストラクチャーに1回部には濃縮汚泥ポンプがあり。ここから脱水機に汚泥を送っている。
 このように、脱水機がこれまでは汚泥脱水機室に集中して設置されていたのが、焼却炉毎に分散配置になっている。

焼却炉や炭化炉の近くに脱水機を設置して、脱水汚泥の搬送負担を軽減するとともに含水率を大幅に下げて熱効率を上げる方式を採用する動きが増えてきた。

 焼却炉は機器の寿命が短いので、これから来る焼却炉の更新時期に、この方式の採用が増えて行く可能性がある。
 この技術のいく先は、一層の汚泥処理施設の集中化だ

 集中することにより規模のメリット、熱効率の向上が進む。
 あわせて、稼働効率向上や無人運転化等の付加価値が増えることが望ましい。  


2014年 下水道技術のメッセージ (11) 4月25日 「ゴルフの意味」

(ゴルフは左手を軸にしてクラブを振る)

 都庁の先輩のO氏から、2度目のホールインワンを達成したという知らせをいただいた。

 一度でも難しいのに2度目とは、と思いながら手紙を読み進めると、驚くべき経過が書かれていた。

 O氏は、72歳の高齢である。
 その上、2年前に剣道で左上腕二頭筋断裂という事故に会い、左手の握力が50kgから20kgに落ちてしまった。

 一般的には、この段階でゴルフは断念になる。
 というのは、右利きの人がドライバーを使うときは左手を軸にして右手を添えるようにしてゴルフのクラブを振るので、左手を怪我すると話しにならない。
 アイアンでも左手の重要性は変わらない。
 アイアンの番手が小さくなり、ボールを遠くに飛ばそうとするにつれて左手の重要性が増してくる。

 パターになると右手と左手、それに肩で五角形を作り、その形を壊さないようにして振る。この場合には、左手と右手の重要性はほぼ同じになる。

 左手を痛めたO氏は、それまでは80前後のスコアで回っていたのが100を切れなくなってしまった。
 そこで一度はゴルフを止めようと考えたが考え直し、レッスンプロに「左手を使わないゴルフ」の指南を受けた。
 手紙によると、この段階でのレッスンは半年以上かかり、大変な苦労をしたそうだ。

 普通のゴルファーは、一度もレッスンプロの指導を受けない自己流の人も多い。
 それでも90位のスコアまでは何とかいく。
 しかし、それ以上を目指そうとすると、基本からたたき直さなければならない。

 左手のハンディキャップを克服するのにレッスンプロの教えを乞(こ)うたというところは、いかにも求道的なO氏の人柄が表れている。

 その結果、最近は90前後で回れるようになったそうだ。
 そして、今回の2度目のホールインワン達成の喜びが生まれた。

 手紙の最後には、この僥倖に感謝して、「神様が見ていて助けて下さったもので、教えていただいた先生や見守っていただいた同僚、仲間の皆様に感謝し、もう72歳になりますが、今後一層努力して元のスコア80前後を目指したいと思います」と閉めくくっていました。

 このような怪我をして立ち直っていく姿勢、70歳を超えて再びチャレンジしていく姿勢には大いに力づけられるものがある。同じ努力はできないにしても、O氏があれほど頑張っているのだから自分もその半分は頑張ってみたい、という勇気が湧いてくる。
 たかがゴルフ、されどゴルフ、である。


2014年 下水道技術のメッセージ (10) 4月11日 「東大教授」

 新潮新書「東大教授」沖大幹著を読んだ。

沖先生は、以前、ある講演会で講師をお願いしたこともあり、その時に世界の水問題で興味深いお話をしていただいた記憶があった。

今回は、そのものズバリ「東大教授」という題名の本を出したので早速読んでみた。

内容は、日本の大学の最高峰にある東京大学の教授について、東大教授になるための条件や仕事の内容、を詳しく解説している。
例えば、平均年収は1100万円で1267名いて女性は5%だそうだ。平均的には50歳頃に教授になり、定年は65歳である。

東大教授になるには博士の学位を持って東大を卒業するコースが普通だが、学位を持っていなくて東大卒で無くても東大教授になっている人はいる。
 自分の研究分野が東大における教育研究に重要であることが、教授任用の条件であるが、「運」が採用に可否を左右することが多い。

東大には優秀な学生が集まってくるので、学生を通じて学ぶことが多々ある。
教授より優秀な人が聴講生で聞いていることもある。
自分が心底から理解していないと、学生の理解度も悪くなることは何度も経験したそうだ。

東大教授には知識人として国の審議会に関わることがある。
このときは、バランス感覚を発揮して、原案の不備や配慮のかけている点、つじつまが合わない点などを指摘し、手短に具体的な提案をすることが求められている。

利害の対立する委員会委員になったときは、両者の気持ちを理解し、両者が歩み寄れるような道筋を考え、その方向へ誘導する。

教授になると、若手研究者のようにオリジナルな研究論文を書く機会は減り、自分の研究分野の過去の経緯、現在の動向、今後の見通しをまとめるような総論的な論文を書く機会が増える。
書き上げた論文を1か月もかけて推敲することもあるそうです。

東大教授の講演料は、公的機関では1時間当たり数万円だが、金融証券系では10倍程度に上がるそうだ。しかし、講演料はあくまで副業で、講演などを通じて一流の人物と会える楽しみが大きい。

こうしてみると、東大教授の解説が、公務員技術者や企業技術者に見えてくる。
東大教授でなくても、人に仕事を教えるとき、自分の弱点を気づいたり、審議会や委員会事務局を担当する時の心構えなどが見えてくる。

沖先生は、東大教授、という私小説的な舞台を使って、研究者、技術者のあるべき姿を発信しているようだ。
その基本は、東大教授という誇りをもって、社会的役割を全うする、ということのようだ。
東大学生が、大学で学びながら、東大教授になりたいと思う環境を作る、目標を持たせるように振る舞うことは、どんな職業でも同じである。


2014年 下水道技術のメッセージ (9) 4月9日 「皇居一般公開」

(大勢の高齢者が皇居を訪れ、坂下門から乾門までの散策を楽しんだ。検査テントから坂下門臨む)

 4月上旬に、天皇陛下の傘寿のお祝いということで皇居の一部が一般公開された。

 この時期は桜開花に当たり、絶好の桜鑑賞になった。

 開門10時ということで、9時過ぎに皇居前広場に行って見ると、既に1000人近い人が列をなしていた。
 どうみても、高齢者が多い。元気は団塊世代が中心、という様子であった。

 警備は、警視庁を中心に皇宮警察などの出動して万全を図っていた。

   東京駅から集まってくる参加者はどんどん増え、広い皇居前広場もたくさんの高齢者であふれるようであった。
 皇居前広場がこんなに人で埋まったのは、初めての経験であった。

 参加者は、1000人くらいの列のグループに分けられ、手荷物検査とボディチェックの二つのテントを通過する仕組みになっていた。
 しかし、参加者のあまりの多さに、検査はかなり簡単に済まさざるを得ない状況であった。

 高齢者とは言え、走りだしたり急に止まったりするとたいへんなことになる。
 警備陣は最新の注意を払って、慎重にグループを誘導していた。

 警備の警察官がスピーカーで、「急がないでください。まだ、桜は枯れてはいません。でも声は枯れています。」と発声すると、グループの中から思わず笑いが生まれた。

 残念ながら、桜は散りかけていて葉桜になっているものも多かったが、皇居の一部を公開してくれたことで、皇室が身近に感じるようになり、皆で天皇陛下の長寿を喜び、春を楽しむことができた。


2014年 下水道技術のメッセージ (8) 4月2日 「最後のジャンボジェット機」

(KLMのジャンボジェット機、2012年8月。飛行機は今や庶民の足になった。庶民のニーズにどれだけこたえられるか。))

 3月末に日本で最後のジャンボジェット機の飛行があった。

 ジャンボジェット機は海外旅行の大衆化と共に世界中に普及し、大型船のような巨大な機体が空を飛び、一度に500人近い人を運んでしまう姿は、空想世界の実現であった。

 ところが、ジャンボジェット機就航から時代が経つと様子が変わってきた。
 大量に運ぶことが、効率の点でも便利さの点でも利点から欠点へと変化してきたのである。

 効率の点では、たくさんの乗客を搭乗させるため、搭乗時間がたくさんかかることが問題になってきた。
 また、たくさんの乗客を集めることがビジネス的に高コストになってきた。
 搭乗客は、それぞれに都合があり、早い便に乗りたい客や襲い便に乗りたい客などの需要を満たすのがジャンボ機では難しくなってきた。

 さらに、超大型ジェットエンジンを4機装備するジャンボジェット機の効率性も問題になってきた。
 就航当時は、高効率であった超大型ジェットエンジンであったが、その後の技術革新で中型ジェットエンジンでも同じような高効率を実現できるようになった。騒音の点ではむしろ超大型エンジンよりも優れていた。

 エンジンの安全性も、ジャンボジェット機のようにエンジンを4基装備しなくても、2基でも同程度の信頼性を得ることができるようになった。

 以上の背景が、日本でジャンボジェット機が退役する理由である。
 技術や制度は時々刻々変化している。
 その時の状況に応じて変えていかなければならないということである。

 今や、ジャンボジェット機を駆逐した中型機が全盛の今日であるが、これにとどまることはないだろう。
 次の変化が興味深い。  


2014年 下水道技術のメッセージ (7) 3月17日 「環境工学委員会」

(会場は工学部11号館講堂。60名程の皆さんが集まり、熱心な発表と討論が進行した。左から大村先生(東北大)、著者、味埜先生(東大)、宮先生(水ing)。))

 3月14日に東京大学本郷キャンパスで開催された土木学会環委員会ワークショップにコメンテーターとして参加した。
 テーマは「環境工学は21世紀に何をなすべきか」という大きなものであった。

 リーダーは味埜俊先生と滝沢智先生で、まず味埜先生がこれまでの環境工学50年の歩みを概説し、現在に至る水道、下水道し尿処理、大気汚染対策の成果を述べた。その後、気候変動や災害対策、社会インフラの再構築などの課題を述べた。

 次に、新新気鋭の研究者が15人、それぞれの専門分野で研究の課題や問題点を5分でプレゼンした。

 最後に、滝沢先生が多彩な発表に横串を入れるような形でまとめられた。
 その中で、環境工学は専門分野を固めるのは当然のことながら、その上で全体像を踏まえつつ複数の専門分野に挑戦し、時間と空間を越えて新分野を拓き、不確実な未来に取り組む、という環境工学の将来像を描かれた。

 中里は、コメンテーターとして15人の発表を受けて、
1、もう一回り外側を考える。例えば、下水処理水消毒の安全問題の時に、平時の漁業や水域への影響と共に災害時の復旧対策従事者への健康等にも関心を持ってみてはどうか、と問題提起した。

2、また、下水処理水の清浄さだけでなく、市民からみた豊かさがもとめられることがあるという若手研究者の発表に関連付けて、処理水の清浄さから豊かさへの飛躍が必要である、清浄さと豊かさは安全と安心の関係と同じように別物として扱うことが望ましい、と述べた。

 これは、「安全」が工学的なものに対して「安心」は市民のマインドのことであり、両者を満たさないと行政課題は解決しないことに関連付けて、これからは環境工学が「豊かさ」を扱わなくてはならないことを説明した。

3、環境工学がワンイシューから多目的対応に移りつつあることに関して、産官学がそれぞれ変わらなくてはならないことを説明した。

 中里の発言をまとめるにあたって、世阿弥の「初心忘るべからず」を引用して、時々の変化を乗り越えて価値や仕組みを変えるイノベーションを勝ち抜いていただきたいとした。

 質疑では、環境工学が社会実装されていないことや現場での人材弱体化等が話題になった。
 大村先生の「将来ビジョンと言っても現在の課題をしっかりと取り組めば自ずと未来は見えてくる」というお話は、大いに重みのある話であった。

 このような、間口の広い環境工学の分野で「学問とは何か」という的(まと)を絞りこむ議論は、とても貴重な体験であった。  


2014年 下水道技術のメッセージ (6) 3月7日 「下水処理場統合」

 横須賀市の下町浄化センターを視察する機会があった。

 視察の主旨は、古くなった下水処理場の更新状況を見届けることであった。下町浄化センターは昭和40年代に建設された古い処理場で、部分的には更新が始まっている。

 例えば、汚水ポンプや送風機、焼却炉などは更新工事が始まっていて、一部は更新が終了した終わった新しい機器が稼働している。

 この下町浄化センターの更新に伴って近くにある上町浄化センターを廃止しようという動きが出ている。
 上町浄化センターをポンプ場に変えて水処理施設は廃止してしまおうという計画である。
 現在でも、上町浄化センターの汚泥は下町浄化センターにポンプ圧送している。

 処理場を廃止できれば、人件費や維持管理費、負荷の平準化、稼働率の向上など規模のメリットが実現できてたくさんのメリットがある。

 もう一つ、視察していて感じたことは、設備機器を更新するときに困る仮設設備への対応である。
 用地や部屋スペースが不足している下水処理場の更新工事は、いったん、仮設設備を設置して、負荷をそちらに切り替えてから古い設備を撤去して、その場所に新しい設備を設置する。

 この方式は、2度の切り替え工事が必要になり、新規に設置する場合に比べてかなり費用と時間がかかる。

 ここで言う設備とは、電気設備、脱水機設備、焼却設備などほとんどの設備に及ぶ。

 今後は、このようなコストと工期のかかる更新工事が多発するので、仮設施設を標準化し、パッケージ化し、仮設工事は車載型で対応できないだろうか。
 実際、東日本大震災では、被災した下水処理場に車載型脱水機が駆けつけ、最初の段階の緊急対策として全国から集結していた。

 ならば、車載型変圧器や車載型遮断器を用意し、更新工事期間中はこちらで受け持つことができるのではないだろうか。  全国に2000以上の下水処理場があるが、車載型焼却炉や車載型受変電設備を用意しておけば、更新工事の時に、コストのかかる仮設設備を発注しなくても済むし、災害時にも心強い味方になる。

 このような車載型ゥ設備は、事前に用意しておかなければならないから、JSや大都市が所有しておくという方法もあるかもしれない。また、レンタル業として適宜貸出できるようにしておくこともできる。

 長寿命化計画では、年度をまたがった更新工事の平滑化が狙いだが、仮設施設の簡素化、全国共有化も大きなテーマだろう。  そして、平時に使える仮設機器は、災害時には強力な支援機材になる。

 下水処理場の更新は困難な事業だが、新しい可能性のある挑戦でもある。


2014年 下水道技術のメッセージ (5) 3月6日 「スーパースター」

 水道経験豊富な技術職員が下水道部門に異動する時、戸惑いを示しことがあるらしい。
 その逆のケースはあまりない。なぜだろうか。

 水道より下水道の方が汚れ仕事なので、できればきれいな仕事をしたい、という理由を上げる人もいるが、どうもそうではないらしい。
 逆に、技術者としては下水道の方が変化に富んでいて面白い、という人もいる。しかし、この意見は、下水道技術者に多い。

 水道が人気ある理由を考えていたら、ある中核都市の下水道部門ナンバー2の方は、「それは、水道の方が面倒見がいいからだ」と教えてくれた。

 水道は長い歴史と伝統があり、いわゆる水道ファミリーの中に入ると居心地がよいらしい。

 そういえば、昔しの話ではあるが、水道部門から移動してきた中堅技術職員が、下水道の仕事を一生懸命勤め、積極的にたくさんの改善提案してくれたので、そのまま下水道部門で頑張ってもらおうと期待していたが、しばらくすると水道部門へ戻ってしまったことがあった。

 本人は優れた人物で、、下水道が汚れ仕事で辛いなどというそぶりは一度も見せたことはないし、すっかり下水道になじんでいた。
 業績評価も高く、下水道局に残って力を発揮するようにと勧めたが、いずれは水道部門に戻るという思いを抱いていたようで、結局、水道部門へ異動希望を出して移っていった。

 そこで、当時、下水道の魅力で掛けているものは何だろうかと考えてみたものであった。

   その時の水道部門と下水道部門を比べてみると、トップのカリスマ性、人間的魅力に一日の長があった。
 きっと、このトップの姿勢が職員からみると水道の魅力に結びついていくのだろうと思った。

 この時の結論は、下水道でもスーパースターを意図的に作り、職員がその人を目指す風土を作らなければならない、ということであった。

 下水道のトップは元気がよく、スマートで面倒見がよい、下水道部門の将来に夢を持ち、誇りを持っている。誰にも分かりやすいメッセージを出すし、方針は一貫してい得てぶれない。何よりも、技術者としては一流で、その名は全国に知れ渡ってるし、英語も話せる。

 こんなトップはなかなかいないかもしれないが、スーパースターの役割を演じて欲しいということである。  仕事はロールプレイである、といった人がいたが、本人の心情はともかく、職業人としてはスーパースターのオーラを放ってほしいし、職員の目標になっていただきたいものである。


2014年 下水道技術のメッセージ (4) 2月22日 「初心忘れるべからず」

(梅の花には幽玄がある(花のイラスト・フリー素材:百花繚乱より))

室町時代に能を完成させた世阿弥の著「花鏡」に「初心忘るべからず」という一句がある。

世阿弥は、この句を若い時の初心、人生の時々の初心、老後の初心に分けて論じている。

若い時の初心は、現代にもつながる解釈で、若さゆえに称賛される名声ははかないものだからのぼせあがるなと戒めている。

時々の初心は、中年の働き盛りに訪れる人生の頂点時にまだまだ続くと思いこむ過信を戒めることで、誰でも壁に直面する。

最後の老後の初心は、歳を重ね体が衰え始め、気力も弱くなったとき、「もうこれまでのように何もできない」という壁に出くわしたときに考えることである。

この、老後の初心には著者は大きな関心を覚えた。
最近はサプリメントやフィットネスクラブなど、若さに対するあこがれは歳をとればとるほど大きくなり、アンチエージングやピンピンコロリなど、若さを保ちながら老いていくことを目指す風潮がある中、「老後の初心」とは、全く別の価値観、人生観を示すものだ。

つまり、高齢になると、体は衰え気力も減退する。
しかし、若者に比べて成功体験や挫折などの人生経験は豊富にある。体は衰えているが豊富な経験を生かして何ができるか、という「初心」である。世阿弥は父観阿弥の生きざまをみて「老木(おいき)に残る花」と表現している。
 ここでの花は梅か桜だろうが、満開の梅林や桜並木に対して、1本の老木に花が数点のみ咲いている姿に感動する美意識は分かるような気がする。

   若いころに比べて体が衰え、気力が減退したからこそ築ける仕事、自己実現というものは、人生の最後のステージで一生をかけて作り上げることであり、生きることを考えぬくことである、と受け止めた。

 たまたま、著者が最近発行した「下水道の考えるヒント2」の帯に書かれている「考えることは人が人であることの証明である」と重なるところがある。

 650年前の室町時代に書かれた「花鏡」という能楽書の言句「初心忘れるべからず」に力づけられた。


2014年 下水道技術のメッセージ (3) 2月19日 「プリウス」

(イタリア、ミラノ、中央駅のタクシーは新型プリウスがたくさんあった)

所用でイタリア・ミラノ市を訪れたが、中央駅で多数のプリウス製タクシーに出くわした。
写真のようにどれも新品で大量に導入したようであった。
プリウスがヨーロッパでも好評なのは誇らしい。
おそらく、低燃費や環境へのやさしさが高く評価されたに違いない。

 イタリアは電力をフランスから購入しており、地下鉄やレストランの照明はかなり暗い。
 ヨーロッパの高級レストランが薄暗いのは昔からだが、東京の明るさからみると気になるところだ。

 プリウスの小型版アクアは、プリウス以上に優れたハイブリッド車だと思う。これをヨーロッパで販売したら爆発的に売れるような気がした。ミラノの狭い石畳の道をアクアが疾走する姿を脳裏に浮かべてみた。  


2014年 下水道技術のメッセージ (2) 1月20日 「下水社会学」

(水道管が破裂した時の下水排出量。横軸は1日の時間、縦軸は190立米刻み。赤が事故時下水量。緑が平日の下水量、水色は週末の下水量。

米国のWEF(水環境協会)が出版している雑誌WE&T(Water Enbironment Technology)にSEWER SOCIOLOGY(下水社会学)というコラムがある。
これは社会のいろいろな動向に対して下水がどのように発生しているかを取りまとめたもので、興味深い記事がたくさんある。

 写真は、水道本管が破裂して断水した時の下水量の時系列データである。
 水道管事故はある土曜日の午前2時30分に発生した。
 しかし、赤線の下水発生量は写真の水色の線に沿って午前6時頃から上昇し、何もないように午前9時頃まで上昇をし続けている。
 そして、午前9時以降急激に減少して午後3時には深夜と同じ程度まで減少してしまう。

 このプロセスを、コラムの著者は次に様に説明している。
 未明に起きた水道管破裂事故はほとんどの人が気がつかなかった。朝になり、顔を洗って食事をしてトイレに行っても気がつかなかった可能性がある。  又は、気がついていても通常と変わらないペースで水を使っていた形跡がある。
 これは、各家庭やビルで蓄えてある水道水を使っていたからだろう。

 その後、オンサイトで蓄えてあった水を使い切ると、午前9時頃から急に下水発生量が減り始め、午後3時にはほとんど下水が流れてこなくなった。

 以上のことから、この地区の断水許容時間、つまり水道が止まっても生活に大きな支障を与えない時間は、おおむね3時間であることが分かる。

 次に、この地区は平日(緑線)は朝と夜に下水のピークがあるが、週末(水色線)午前9時のピーク一つに代わるということだ。
 又、それぞれの線の面積は、つまり日下水発生量は週末の方が平日よりも大きいことが分かる。
 したがって、週末に滞在する人口が平日より多いということになる。つまり、住宅地であるということだ。

 このような下水の発生パターンを把握すると下水処理場の運営を計画的、戦略的に行うことができる。
 これは電力やガス、水道などネットワークを使ったインフラは何時も対応している問題で、需給調整に相当する。
 下水道も需給調整に準じた下水のピークカット、コンスタントな流入をリアルタイムで行うと施設の効率的運用、省エネ、夜間電力の活用などが期待できる。

 ある人が、工学は計測するところから始まると言ったことがある。

 下水発生量を計測することにより、下水の川上の使用者の動向、性向を把握することができる。
 同時に、川下の下水処理場管理に貢献することもできて、下水道が工学になる。  


2014年 下水道技術のメッセージ (1) 1月3日 「高層ビルの輝き」

(元旦「初日の出」の横浜大桟橋の群衆、数千人はいた

2014年元旦に早起きして日の出前に横浜港大桟橋に出向いた。

横浜港は港が東向きなので、初日の出を見ることができる。
とりわけ、大桟橋は最適のスポットだ。
元日の日の出時間は午前6時50分だが、6時30分ごろに大桟橋に着くと、既に多数の群衆で満員状態であった。

大桟橋は、10万トン、長さ300m級の豪華客船が接岸できるが、その岸壁に数千人もの群衆が詰めかけて、今か今かと日の出を待っていた。

しばらくすると、東の空が赤みを帯びて太陽が上がってきた。
太陽の光が始まると、すぐに気温も上がってきて朝が始まった。
どこからともなく拍手が起こり、短い初日の出は終わった。

大勢の群衆は、三々五々、帰路についたが、ふと西の方向を見ると、横浜みなとみらい地区の高層ビルが朝日を受けて煌々(こうこう)と輝いていた。

   普段から見慣れていた横浜港の高層ビル街だったが、初日の出のオレンジ色の光線を反射して、始めてみるようなきらめいた光景であった。
 近くには、横浜港を護る海上保安庁の大型巡視船が、これも白い船体を金色に変えてきらめいていた。

 この印象が、元日の最大の収穫であった。


2013年 下水道技術のメッセージ (40) 12月14日 「電気学会表彰」

(受賞した電気学会技術報告書、「社会・産業システムにおける現場情報活用技術」)

電気学会にて、「社会・産業システムにおける現場情報活用技術」報告書(委員長 新誠一電通大教授)が平成25年第16回優秀技術活動賞・技術報告賞を受賞した。

この中で、著者は社会インフラの執筆を担当した。
参考までに、内容の一部を下記に示す。

4. ユーザー事例
4.1社会インフラでの取り組み
4.1.1社会インフラの使命と課題
・社会インフラの意義
(1) 社会インフラの意義と特徴 社会インフラは、市民の安心や安全を確保するために存在している。その規模は、個人や企業が対処できる範囲を超えて、社会全体で請け負わなければならない範囲としている。
例えば、自給自足的な生活をしている場合には社会インフラは必要ないが、人と人とのつながりが広域化し、生活様式が都市化していくと不可欠なものとなってくる。

社会インフラは、その性質上、投資規模は巨大で資金回収に何十年もかかる場合など、短期的な企業活動ではとうてい応じられないことが多い。
しかし、市民生活や企業活動の安心、安全を確保するために不可欠な分野を社会インフラで対応している。 社会インフラの事例としては、治水、道路、上下水道、廃棄物処理、鉄道、電力、通信、ガスなどがある。そもそも、社会インフラは広域化、都市化の要素を有しているので、ネットワーク化と集積化とは密接な関係がある。

社会インフラの事例のうち、治水、道路、上下水道は国や地方自治体が建設管理運営を担っている。鉄道、電力、通信、ガスは企業経営になじむ状況となっているが、関連法規のもとに安定したサービス提供や業務の持続性などを確保している。
最近では、社会インフラの効率的運営を求めて公設民営やPFI、DBOなど民営化の傾向にあるが、社会インフラの本来有している性質が変わるわけではない。

(2)ITの役割 社会インフラにおけるITの役割は、3段階に整理される。
第一段階は社会インフラの安定や効率を求めた自動化やネットワーク化である。社会インフラは多額の投資対象であるので、施設の効率的運用や信頼性向上のために自動制御や情報ネットワーク技術が多方面で活用されている。

第二段階は市民との協業である。社会インフラは地域性やニーズの高さ、市民の関わりの大きさによってその効果は著しく変わるものである。
しかし、市民からみた社会インフラに対する認識や理解には大きな起伏があるので、社会インフラの情報を市民に提供したり、社会インフラ関連事業に市民の参加を促進したり、さらには市民を通じて社会インフラの信頼性を高めたりするためにITの活用がある。

第三段階は新しい社会インフラの創造に向けたITの役割である。例えば、社会インフラの運営をリモートメンテナンス化することにより異業種と運営統合を容易にしたり道路に散在しているマンホールを携帯電話の基地局アンテナに活用したりするなど、図1-1のようにITを介在して既存社会インフラを改良したり再構築することにより新しい社会インフラを作り出す可能性がある。
このように、ITの役割はますます大きくなると期待されている。

図1-1 ITは旧社会インフラを束ねて新社会インフラを創出する

4.1.2 下水道システムにおける現場情報の活用
・水循環、資源循環、エネルギー循環
社会インフラは資源循環、エネルギー循環の広範囲わたってかかわっている。ここではその一例として下水道インフラについて、下水道と水循環、資源循環、エネルギー循環について考察してみる。
なお、下水道がこのような循環型社会に貢献している背景には、都市の隅々までくまなく張り巡らされた下水管ネットワークと下水処理場の存在がある。下水道は単に汚水や雨水を収集するだけではなく、汚濁物質の形をしたバイオマスの収集、さらには都市で消費された熱エネルギーの過半を低温廃熱という形で下水とともに収集しているという事実がある。

(1)水循環(省略)
(2)資源循環(省略)
(3)エネルギー循環(省略)

4.1.3 降雨情報システム
(1)降雨レーダーの原理(省略)
(2)降雨レーダーの現状(省略)
(3)降雨レーダーの目的(省略)
(4)これからの展開
下水道用降雨レーダーの観測データーは、ホームページや携帯電話サイトに積極的に公開し、多くの市民の方々に利用できるようなシステムになっている。
その結果、東京都の降雨レーダー東京アメッシュでは、2008年にインターネット版東京アメッシュへアクセスした件数は、約1570万件、一日あたりでは、2008年8月30日に約30万件を記録した。参考文献(2)

地方自治体が下水道用降雨レーダー情報を積極的に市民に公開するのは、浸水被害を軽減させるためである。
これまでの浸水対策は、公共部門が下水管やポンプ場を建設し運用することで進めてきた。しかし、都市化の進展で雨に弱い地下街や半地下駐車場などが増加してきたことや、地球温暖化の影響で豪雨の回数と強度が増してきたことにより、従来の浸水対策だけでは対応が困難になってきた。

そこで、公共部門だけで浸水被害に対処するのではなく、いわゆる自助、公助を促進するために降雨レーダー情報の公開に踏み切った。
浸水を完全に防ぐことはできなくても、市民が十分に降雨情報を把握していればあらかじめ対策を取ることによって浸水被害を軽減することはできる。つまり、リスク管理と自助努力を促進するために降雨レーダー情報を公開した。

この結果が、前述のホームページへのアクセス数に現われている。
通常の降雨に対しても、東京アメッシュは運動会のお弁当の準備や屋外イベントの開催の最終判断などに活用されている。
極端な例では、高層ビルに勤務している社員が帰宅するときに雨具が必要かどうかを携帯電話の降雨レーダーサイトで確認するようなこともある。
このように、社会インフラは当初の目的を極めるとともに、IT技術と組み合わさることによって予想外な用途にも発展しうる可能性をもっている。

4.1.4 精密な位置測定、台帳管理の課題
(1)台帳管理システムの原理(省略)
(2)台帳管理システムとアセットマネージメント(省略)
(3)台帳管理システムの事例(省略)
(4)台帳システムの応用
下水道台帳システムをデーターベース化すると、アセットマネジメントに応用できることは既に述べたが、現有の下水管の排水能力を検証する流出解析モデルにも利用できる。
流出解析モデルは、豪雨の時に下水管を流れる雨水や、下水管が満管になって収納できず地表を流れる雨水などの状況をシミュレーション解析するシステムモデルで、下水道事業の浸水対策立案や浸水ハザードマップ(被害予想図)作成に、さらにリアルタイム雨水排除コントロールのために用いられることもある。

また、下水管に可燃物や毒物が流入した場合に、下水道台帳システムを利用して、可燃物や毒物の下水処理場への到達時間をシミュレーションしたり、発見場所から投入場所を推計したりすることができる。

なお、地下埋設物には下水管の他に、電気、ガス、水道、通信、共同溝などさまざまな施設があるが、これらをまとめた統合台帳も考えられる。
道路管理者から見れば、統合台帳の方が自然であるので、将来的には地下埋設物が一同に会する方向に向かうことが好ましい。
さらに、地表の建築物や構造物も統合台帳に組み込み、総合的な都市管理台帳システムに発展することが考えられる。


2013年 下水道技術のメッセージ (39) 12月7日 「洪水保険」

米国のハリケーン・サンディによる下水処理場調査をしてきて、分からないことがあった。

 それは、「下水処理場が「損害保険」に入っていて、復旧時に役に立った、」という説明であった。
 これは複数の下水処理場で聞いた。
 日本の感覚では、公共事業である下水道に保険はなじまない。下水処理場が高潮で被災したときに被害額を補てんするのに保険を使うということは考えられないことであった。

 そこで、この質問を米国のコンサルタントにしたところ、米国洪水保険制度(National Flood Insurance Program, NFIP)を紹介していただいた。

 この制度は、1969年から運用されているもので、連邦政府が責任を持つものになっている。
 興味深いことに、保険制度の目的は洪水被害者救済だけではなく洪水被害防止・軽減も目指している。

 具体的には、保険対象は個人・法人であるが加入する条件として自治体が保険制度への加入を表明する必要がある。
 加入を表明するということは、自治体が保険に入るのではなく保険対象が保険に入ることを受け入れるということである。

 自治体が加入表明すると、連邦政府による氾濫原管理規制を受けることになる。
一方で、万一洪水が起こった場合には連邦政府からの補助金を受けることができるようになる。

 また、連邦政府(FEMA)は自治体の洪水ハザードマップを作り、洪水の発生確率に応じた保険掛け金率を定める。
保険料率は建物が対象であるが、建物の建築年や床面高さなどでも保険料率が変わり、降水に強い建物を誘導している。

 自治体が洪水対策をしっかりとやれば保険料率は下がり、手を抜くと上がるので、保険対象の個人や法人から自治体に洪水対策を求める声が大きくなることを期待している。

このような、巧みな仕組みは、日本の津波にも適用できないだろうか。

 なお、この制度は現在はFEMAが運用しているが、保険制度が発足する時は、民間保険会社から強い反対があり、結局、保険の窓口は民間保険会社が担当することになったそうである。これも米国らしいバランスであった。

今回調査したアダムス・ストリート処理場では、損害額の評価には外部から損害査定人(Public adjuster)を雇い入れ、保険の損害請求やFEMAの被害査定の早期取りまとめに役立てた。


2013年 下水道技術のメッセージ (38) 11月10日 「蕪栗沼」

(沼の上空を埋め尽くしたガンの群れ。声を出し合って編隊を組んでいるところ)

(野鳥観察ツアー)
11月1日午前3時30分、仙台駅に集合して、蕪栗沼(かぶくりぬま)の野鳥観察ツアーに参加した。

宮城県北部にある蕪栗沼は、近くの伊豆沼などと共に、渡り鳥の冬季生息地として知られており、マガンを中心に多くのガンが飛来している。
今回のツアーは、未明に仙台駅を出発し、日の出前に現地に到着し、日の出と共に蕪栗沼から一斉に飛び立つガンを観察しようというツアーだった。
何万羽ものガンが飛び立つ光景を目にすると人生感が変わる、というのがツアーの売りであった。
30名近くの皆さんが人生感が変わるかどうか半信半疑でうしみつ時の仙台駅で大型バスに乗り込み、うたた寝しながら、一路東北道を蕪栗沼に向かった。

実は、蕪栗沼は小さな沼で、簡単には近付けない。観光バスの運転手もよく分からない。そこで東北道を降りて近くにくると、最寄りのJRの駅でNPO「蕪栗ぬまっこクラブ」のメンバーと待ち合わせをして現地までガイドしていただいた。
この時間はJR始発前であったが、NPOのメンバーは車で来て、バスに添乗して道案内をしてくれた。
現地に着くと、バスは蕪栗沼までは入れず、1kmほど手前から全員下車して歩いて進んだ。仙台駅を出る頃はあまり寒い感じはなかったが、さすがに現地に降り立つと寒い。ダウンウエアに毛糸の帽子がちょうどよい。

(夜明け)
暗闇の中をテクテクと砂利道を歩いて行くと小高い堤防に行き着き、それを登ると蕪栗沼に到着した。
といっても辺り一面は漆黒の暗闇の中で、沼の存在すらおぼつかない。後ろを振り返ると、東の空がうっすらと赤みがかかってきて、日の出が始まった。
私たち野鳥観察ツアーの面々は寒い中、土手に並んでガンの飛び立つ瞬間を見逃がすまいと西の方にジッと目をこらしていた。

すると、だんだんと空が白けてきて沼の水面が見えてきた。水鳥の鳴声がざわめき始めると沼を埋めつくす数万羽の野鳥の姿が浮き上がってきた。時折、気の早い小グループが飛び上がるが、大勢はまだゆっくりと水面に浮かんでいる。

(帽子をかぶっている男性がNPOリーダー。終始笑顔で対応していただいたのが印象的であった。)

(ボランティア観察員)
私たちが土手に到着する前に、すでに水色のアノラックを着たボランティア観察員が数人日の出を待っていた。著者は、その内のリーダー格の側に行き、いろいろとガンのことについて教えていただいた。
彼は、週に一度くらいのペースで蕪栗沼に来て飛び立つ野鳥を観察しているという。具体的には、日の出とともに飛び立つ野鳥の数を数え、記録しているそうだ。いわば、野鳥の公式記録員である。彼は、首から双眼鏡を首から下げ、金属製のカウンターを下げており、数を数えるとその数を声に出し、ボイスレコーダに記録していた。
カウンターは、交通量を調べる際、道路の端で椅子に座って歩行者数を数えるときに使っている円筒形の計測器である。

(編隊飛行)
まだ陽は上がらないが東の空が明るくなってくると、気の早いガンが時折グループで飛び立つ。上空を旋回しながらV字型のような編隊を組んで上空を横切っていく。リーダーによると、編隊の先頭、つまりV字型の先端にはもっとも屈強なガンが位置して、後方にはそれより弱いガンが続いて行くそうだ。
そういえば、この編隊の形状は、ジェット機の後退翼に似ていて雁行と呼ばれており、ガンのグループ全体で消費するエネルギーが最小になる形である、という記述をどこかで見たことがある。先頭のガンが空気を突き破って進んでいくとき、空気の乱れをうまく利用して後続のガンは楽に飛んでいる、ということになる。

(羽数計測)
ガンのグループが上空に飛びあがると、リーダーは素早く片手で双眼鏡を使いもう一方の手でカウンターを押し続け、羽数を数えはじめた。数え終えると、胸に掛けていたボイスレコーダに向かって、「午前5時20分、シジュウカラガン32羽」などと記録していた。
リーダーに並んで著者も数えてみたが、10羽くらいを数えているうちにガンの編隊は飛び去ってしまった。 リーダーによると、野鳥の数を数えるときは、1羽1羽ずつではなくネットで数えるそうである。つまり、2羽単位、3羽単位、場合によっては10羽単位、100羽単位、数100羽単位で数えるそうである。
こうすると、大量の野鳥でも一定の誤差の範囲で素早く計測できるそうだ。ただし、2羽や3羽を束ねてカウントすることはすぐにできるようになるが、100羽、200羽を確実にとらえられるようになるには、かなりの年季がかかるそうである。

(落雁)
ガンが着水する時は、編隊が後ろの方からきりもみ状態で落下するように急に崩れだして蕪栗沼に着水する。
リーダーによると編隊飛行がぼろぼろと崩れて行く様は、お菓子の落雁(らくがん)の語源だそうだ。コメの粉と砂糖で作った落雁を口に入れると簡単に砕けて溶けていく様子が、ガンが編隊を解く様に似ているということらしい。
昔の人はよく名付けたものである。

(飛びたち)
そうこうしているうちに、東の空に陽が昇り始め辺りの空気が赤みを帯びてきた。
ガンやカモの散発的な飛びたちは続いていたが、急に大きな轟音のような唸り音が聞こえてきて水面があわただしくなり、沼面から全ての野鳥がいっせいに飛び立ち始めた。
ほんの数秒で沼の上空一面は数万羽の野鳥で埋め尽くされ、明るくなり始めた空は再び薄暗くなるほどの数であった。それはそれは、異様な雰囲気であった。
野鳥の大群は、上空を旋回しながら編隊を組み、思い思いの方向へ散って行った。
この光景を見て、この野鳥の大群が一斉に飛び立つ動機は何だろうかという一つの疑問が湧いてきた。先陣を切った野鳥がいるのだろうか。陽がさしてきたことなのだろうか。体内時計によるのだろうか。

いずれにしても、数万羽の野鳥が一斉に飛びたつ光景には大きな感動を覚えた。そこには静と動の世界があったし、通勤客で混雑する新宿駅の光景があった。
その中で、隣で淡々とカウンターを押しながら、「5時48分、西へ3530羽、東へ5780羽」とボイスレコーダに向かって記録しているリーダーの姿が見えて再び驚いた。

(帰路)
ガンの大群のいた蕪栗沼はほとんどが飛びたち、もぬけの殻になった。
気温も上がってきて人生観の変わったかもしれない野鳥観察ツアーの一行は帰路についた。土手からバスまでの帰り路は水田と用水路に挟まれた田舎道であった。30人がブラブラと歩いて行くうちに、いつの間にか大きな集団と幾つかの小さな集団に分かれてバスのある舗装道路の道に向かっていた。

まるでガンの編隊飛行のように。


2013年 下水道技術のメッセージ (37) 11月4日 「チョイナビ」

(新カ―シェアリングシステム「チョイナビ」の社会実験)横浜市2013年10月)

 自動車の所有形態が変化している。

 かって、大量生産・大量販売でコストを下げて自動車産業が生まれたが、この時は個人所有、いわゆるマイカーを促進して普及した。
 この時代は長く続き、自動車時代を形成したが、最近カ―シェアリングという形で、自動車の個人所有に新しい流れが出現した。
 カ―シェアリングは、レンタカーとは似ているが性格は異なる。

 レンタカーは、それまでの自動車の個人所有の延長にあり、日単位で好きな車種を貸し出す。
 これに対してカ―シェアリングは自動車を貸し出すというよりも自動車の機能、個人が自由に移動できる手段を貸し出すというサービスを提供するので、分単位で車種を問わず貸し出す。
レンタカーが物を貸すの対して、カ―シェアリングはサービスを提供することになる。

 この違いは大きい。

 一般的に言えば、レンタカーもカ―シェアリングも自動車の稼働率を上げるのだから、個人の自動車所有を減らすことになる。
 レンタカーやカ―シェアリングが普及すれば、普段はあまり使わない自家用車を手放す人が増えて行くはずである。

 そのカ―シェアリングには、最近ミニ駐車場を経営する三井りパークが進出て注目されている。
 自分が経営している街の無人の駐車場の一角に無人貸し出しの自動車を配置して営業を開始した。
 この流れの延長に、2013年の10月に三井りパークは経産省屋横浜市と組んで、さらに新しいカ―シェアリング「チョイナビ」を展開始めた。 というよりも、経産省、横浜市、日産自動車は三井リパークを使って新型カ―シェアリングの社会実験を始めた。

 「チョイナビ」は1年限定の社会実験だが、市内各所に写真のような小型電気自動車が設置され、好きな場所から好きな場所へと乗り捨てが可能になった。

 これまでのカ―シェアリングは、既存自動車を使って10分200円、車は元の駐車場へ変換であったが、「チョイナビ」は1分20円の料金で変換場所は任意になったから自由度が増えたことになる。

 カ―シェアリングがますます身近になった。

 しかし、「チョイナビ」をよく見てみると電気自動車といってもゴルフ場の電動カートを想起するような簡素なつくりであった。
 性能は、時速60kmくらいまで出せるが一人乗りで窓がない。
 つまり、自動車ではあるがレンタルサイクルに近いコンセプトである。

   「チョイナビ」を見て、横浜の街を自転車のように自由に動き回るように、とのメッセージを感じた。

 ここでのポイントは、「チョイナビ」のブランド性だろう。
 「チョイナビ」は便利なだけでは不十分である。
 「チョイナビ」を利用することが先進的でカッコよいという付加価値が必要である。
 この点で、「チョイナビ」のデザインは近未来的でよろしいが、車体の作りは簡素で安価というイメージが残り、少々気にかかる。

 これから「チョイナビ」がどのような付加価値を提供していくかが楽しみである。


2013年 下水道技術のメッセージ (36) 10月20日 「売る力」

(「売る力」(心をつかむ仕事術)鈴木敏文 文春新書)

 ベストセラー「聞く力」以来文春新書から出版されている「○○の力」シリーズと思ってページを開いた。

 この本のキーワードの一つ、「お客様の立場」は、事業者が陥りやすい視点の誤りを分かりやすく説いている。
 例えば、旭山動物園の小菅園長は動物が観客にお尻しか見せていないことに気づいたそうだ。動物が餌をくれる飼育員の方ばかり向いていることはまずいと気がつき、動物の行動展示へと展開して観客のニーズを満たした。
 この事例はどの分野にもいえることで、事業の向く方向を示唆していて面白い。

   もう一つのキーワードは「手軽さ」と「上質さ」。そもそも、コンビニは「手軽さ」を提供することで世に生まれた。
 しかし、供給が需要を上回った現在ではそれなりの「上質さ」が必要だ。そこでセブンゴールドの商品レンジを思いつき、専門店以上の「上質さ」を提供して成功した。
 ただし、コンビニの原点を忘れずに「手軽さ」もほどほど埋め込んである。
 この「上質さ」と「手軽さ」の座標の中にある空白領域がこれからのコンビニの向かう目標になる、と著者は主張している。

 このように、課題を要素に分解して座標軸的に俯瞰する問題解決方法は、寺田寅彦が随筆で述べていた。

 「上質さ」と「手軽さ」という顧客の変化によってコンビニが変わっている現実がある。

 社会が変わり、顧客が変わるのだからコンビニが変わるのは当たり前、という姿勢は普遍性がある。
 変化することにはリスクが伴うが、変化への適応がコンビニの売る力だったのである。

 本書は、著者と著名人との対談を紹介する形で進行するが、実は著者が編み出した事業成果を示している。
 それらはすでに成功した過去の事例であるが、著者はまだ本には書けない何か仕込んでいるに違いないと考えながら読むと興味深い。

 経営手法そのものの新しさは少ないが、身近なコンビニでの実践が読み手を引き込んでいく一冊である。


2013年 下水道技術のメッセージ (35) 9月24日 「ハリケーン被害調査団-1」

(NJWEAセミナー会場。NJ州イートンタウンという街のシェラトンホテルで開催された。)

EICAハリケーン・サンディ被害・復旧調査団のリーダーとして9月16日から9月20日まで米国東部のニュージャージー州に滞在しました。

 この活動の発端は、2013年の2月に国交省国総研がサンディ被害の調査を行った時に、20名という大勢の調査団を編成して調査を行いましたが、下水道関係者は含まれず、調査報告書にも下水処理場設備の被害は含まれなかったことでした。

 そこで、インターネットで調べてみると、NJ州で多数の下水処理場が水没して被害が発生していることが分かりました。

 また、被害の形態はハリケーンによる高潮で海水が下水処理場を襲い、多くの設備機器が損傷したことも分かりました。この被害形態は、東日本大震災での津波被害と酷似していました。

 著者の所属しているEICAは、2011年秋に東日本大震災で津波被害を被った東北の下水処理場を調査研究して2012年に報告書を発表し、全国に講演活動で情報提供しました関係で、米国調査を企画しました。

 すると、この企画に協賛する企業や団体が現れ、調査団を派遣することになりました。

 とはいっても、EICAは貧乏学会で、渡米の費用は参加メンバー持ちという11名のボランティア調査団でした。

 調査団は、国内での準備活動として、9月3日には仙台市南蒲生浄化センターと宮城県県南浄化センターを訪れ、渡米直前の現場視察を行いました。

(NJWEAでいただいた立派な楯を囲んでの記念写真。ニュージャージー州イートンタウンにて。)

 米国では、9月16日にはニュージャージー州の下水道関係者が開催しているTechnology tlansfer Seminer に参加し、著者と東大の佐藤弘泰先生が日本の下水処理場津波被害復旧の講演をしました。
 佐藤先生は下水道被害全般の話し、著者はその各論とEICAの提言を中心に後援しました。その中で、仙台市が製作したビデオも英語のティロップを入れたモノを上映をして、大きな反響がありました。
 講演の感想をアンケートに書いていただきましたが、英語字幕入り津波ビデオは、下水道の同業者として参加した160人の聴衆の大部分の人が強い印象を受けたようでした。

 このセミナーを主催したニュージャージー州水環境協会(NJWSEA)からは、セミナー終了後EICA調査団のためにレセプションを開催していただき、その席で日本からの参加者全員に感謝状とNJWEA創立100周年記念のピンバッチを贈呈されました。
 ピンバッチは、2015年でNJWEAが設立100年を迎える記念のものでした。
 100年といえば、活性汚泥下水処理方法が米国で発明されてから100年です。NJWEAは歴史のある団体でした。
 また、EICAにはセミナー参加を記念したプレートをいただきました。  このプレートはA4版程度の大きさですが、ズシリと重い豪華なもので、著者がEICAを代表していただきました。

(100周年記念のピンバッチ。街の中で何人もの人からこのバッチを見てほめられた。)

 9月17日午前には、NJWEA会長のボブ・フィッシャーさんが責任者として関わっているBay Shore 下水処理場(STP)を調査に訪れました。
 ここは小さなSTPですが活性汚泥法でしっかりと運転されていて、日量20t程度の流動焼却炉も設置してありました。残念ながらこれらの機器はサンディで高潮被害を受けましたが、早期に復旧していました。

 調査団が朝、STPを訪問すると、会議室には私たちのために朝ごはんが用意されており、驚きました。STPの説明に入る前に朝ごはんをどうぞ、ということでした。
私たちは、ホテルで朝ごはんは済ましてきましたが、せっかくですので。もう一度おいしいパンとコーヒーをいただきました。
 このような準備は、通例STPの職員が近くの店で買ってきて、テーブルクロスに盛り付けて準備してくれているそうです。
 準備した職員も後で紹介していただきましたが、私たちは歓迎されている、というメッセージを強く感じました。

 その上、現場を回ってから昼ごろ会議室に戻ると、今度はランチが用意されていて再び驚きました。
 施設の説明や現場視察にも、STP職員が総出で歓迎してくれました。そのうえ、Bay Shore STPの総責任者であるお年寄りのコミッショナーまで出てこられて歓迎のあいさつをいただきました。

 Bay Shore STPの高潮対策としては、重要施設のかさ上げや建物の洪水壁新設、焼却炉の最終工事、それに巨大な風力発電施設の建設等が進んでいました。対策の基本は既往最大、つまりサンディ級高潮に耐えるようにということでした。

(管廊入り口建屋に設置されたプラスチック製仮設防水壁。PVSCにて。)

 午後はパシィック渓谷下水道組合(PVSC)のSTPを訪問しました。
 ここは全米で6番目に大きいSTPで、日量120万トンもの下水処理能力がありました。

 したがって、現場も広大で地下管廊が網の目のように張り巡らされていました。
 そこにサンディが襲い、地下にあるほとんど全ての機器が全滅してしまいました。

管廊浸水の原因であった建屋塔屋の周りには、写真のように白いプラスチック製の防水壁ブロックが配置されていました。
ブロックの中には水が9分目まで入っていました。
説明してくれた技術者に、その性能について聞くと、高潮が来るときは、このブロックの外側にビニールシートを敷いて止水性をたかめるが、うまくいくかどうかは分からない、と半信半疑のようでした。

 PVSCの復旧は早く、2週間もたたないうちに活性汚泥による処理が再開したそうです。
 早期復旧には、反応槽が純酸素ばっき方式を採用している関係で、密閉構造で海水の浸入を防いだことが活性汚泥の温存につながり早期復旧に役に立ったようでした。
 また、海水に浸かったモーターは、蒸気洗浄で仮復旧をしたそうです。日本では、津波で海水に浸かったモーターは温水洗浄をして緊急対応していましたので、蒸気洗浄と温水洗浄の違いを評価してみる必要があると感じました。

 巨大な地下空間の排水には、とてもSTP独自では手に負えず、マンハッタンの自動車トンネル排水で出動していたミシシッピー州駐屯の米国陸軍工兵隊排水部隊に出動を要請して、協力していただいたそうです。
この関係は、津波で被災した仙塩浄化センターが、市内下水溢水という事態を迎えて国交省の排水車の出動を要請したケースと類似しており、興味深いものがありました。

なお、PVSCはニューヨーク市や近隣の濃縮汚泥を集めて集約処理しています。汚泥はジュンプロという商品名の熱処理を施した後脱水処理をしていました。このためにも、早期の復旧が急がれたようでした。

このSTPは、日本の流域下水道事業のような経営形態で、州政府の指導のもとに運営しています。説明してくれた技術者は、州知事の指示で、施設の職員を750名から500名に減らすことになってしまった、と嘆いていました。

しかし、揚水ポンプや返送汚泥ポンプは露出型のアルキメデスポンプ、汚泥脱水にはいかにも旧式のフィルタープレス脱水機を使うなど、省力化を進める余地は大いにあると感じました。
古い機器を長い期間使い続けるという伝統は、おそらくワーカークラスの人件費コストがかなり低廉であることに裏打ちされていると感じました。
 施設更新は、性能劣化、機器老朽化、それに省力・省エネの三つの理由で進められますが、人件費が低く抑えられると施設更新のインセンティブが弱くなるのは世界共通です。

残りの2つの下水処理場の調査レポートは、次回とします。


2013年 下水道技術のメッセージ (34) 9月9日 「2020東京オリンピック」

(有明水再生センター海水浄化施設全景。2013年7月撮影)

2020年の東京オリンピック開催が決まった。

決まる前のプレゼンテーションの段階ではマドリッドとの一騎打ちの様相であったが、開票してみると意外にもイスタンブールとの決選投票になり、見事、東京が開催を決めた。

これから7年間、オリンピックに向けて東京は大きく変わっていくだろう。

2020年東京オリンピックはお台場を中心とするベイエリアと都心のヘリテージエリアに分かれて、半径8km内で展開するコンパクトな開催になる。

お台場地区のベイエリアには、選手村や各種競技場ができて、海と街の交錯する東京の新しい魅力を作り出すことだろう。
この地域のトイレには、全て下水道の再生水が使われている。街で発生する汚水は全量高度処理した上に活性炭とオゾン処理をして浄化し、水をリサイクルしている。
世界中から集まってきたオリンピックの選手たちが、このような下水処理最先端地区で力を競い合うことは、下水道関係者にとってうれしいことである。

また最近では、下水道関係者の努力によってお台場人工砂浜への白色オイルボールの漂着はかなり少なくなったらしい。
しかし、目に見えない大腸菌由来の砂浜付近の海水汚染はまだあるに違いない。

東京都は平成15年には有明水再生センターに海水浄化プラント実証試験施設を建設し、お台場の人工砂浜に浄化海水を放流することにより、雨天時に下水道管から放流されていた汚水混じりの雨水による汚染を抑制することに成功した。

この施設は、有明水再生センター近くで海水をくみ上げ、センター内の実証試験施設で生物膜処理と紫外線滅菌処理をした上で、500mほど離れたお台場海浜公園の人工砂浜まで送水し、放流しているものである。
写真では、写真左中央付近のの高速道路橋脚下から海水を汲みあげている。
浄化した海水は、施設の右側から配管で高速道路の下を横切っている橋梁の下部をはわして運河の向こう岸に送り、写真右上の緑の林の先にあるお台場海浜公園の人工砂浜まで送水されている。
画面をよく見ると、取水と送水の配管が認識できるはずだ。

施設は、昨年まで稼働していたが、運転資金の見通しが付かなくなったとかで今年は稼働していなかった。
しかし、2020東京オリンピックが決まったので、もう一度日の目を見る機会がでるのではないかと期待している。

下水道事業が海水浄化をして人工砂浜の環境を改善しているのは、本来の事業から逸脱しているように見えるが、合流改善事業の効果を先取りするミチゲーションという考えで、理解を得られたものであった。

2020東京オリンピックで下水道も変わってほしいものだ。


2013年 下水道技術のメッセージ (33) 9月1日 「神戸市と京都大学」

(神戸市で行われた講演風景。半分から前の方の席に新人技術者が座っていた。)

 縁があって、神戸市建設局下水道河川部と京都大学工学研究科附属流域圏総合環境質研究センターの2か所で「EICA東日本大震災調査研究」の講演会を開催する機会があった。

 神戸市では、8月29日午後に貿易センタービルの22階にある職員人材開発センターで「下水道部門設備新人職研修」の一環で特別講義として設定していただいた。

 この研修は、市に採用されて3年目までの電気系職員を中心としたもので、電気の基本的な研修を目的としているものである。ただし、私の講演の時間になったら、下水道河川部長を初め、市の幹部職員がお見えになり、会場は満席となって当初の研修の倍近くにに膨れ上がり、総数50名を越える人数になった。

 講演は120分と長いので少々気になったが、全体を6つに分け、概要、被害、対策、自治体事例、EICA提言、まとめ、と各パーツは20分区切りでメリハリをつけて進めた。

 講演が終わってからは、いろいろと味のある質疑が続いた。

 公務員技術者としての位置づけの質問を受けたときは、思わず、著者が都庁の人事委員会で考えていたことを思い出した。
自治体公務員としては、メーカーの技術者とも違うし、大学や研究所の技術者、科学者とも違う。
 「世の中に生まれてくる技術、他の分野で使われている技術を評価し、応用するのが公務員技術者の本分だから、むやみに他分野の技術者と比較することなく、市民に信託された目的を実現できるように努めてほしい。そのためには、狭く深くではなく、広く深くの技術が求められるから頑張ってほしい」という主旨の答えを述べた。

(京都大学で行われた講演風景。京都府庁、滋賀県庁からも聴講にお見えになった。)

 京都大学では、8月30日午後に、研究センターに隣接する大津市下水処理場の見学者説明室をお借りして20名くらいの大学関係者と10名くらいの近隣府県下水道関係者、計30名程の方にお集まりいただいた。

 この会場では、講演の最後に話した、ハリケーン・サンディと東日本大震災下水処理場の被害比較に関して、米国では復旧が1週間程度であったにもかかわらず、日本では2年近くかかった理由についての質問があった。
 確かに、同じ4m程度の海水浸水に襲われたとみれば、この差には疑問が残る。
 講演の根拠は、日本で閲覧したインターネット情報であったので、復旧の定義や制度など不明の点はあるが、この質問に対しては9月に渡米して調べてみます、と答えた。

 神戸市と京都大学とで共通の質問もあった。
 講演の中で、BCPにはシナリオ型とリソース型の2種類があると説明したが、それらの違いは何か、という質問であった。
 全国の下水道事業者がBCP作成に取り組んでおり、時機を得た質問であった。

 仙台市や名古屋市等、下水道のBCP先進都市で次々とBCPが制定されてホームページで公開されている。
 これらを見ると、おしなべてシナリオ型BCPである。
 シナリオ型BCPは、被害を想定して、被災したときに時系列的に復旧目標を定めて、そのための災害対策資源を合理的に割り当てる、ということである。

 これに対してリソース型のBCPは、被害想定から始まるのではなく、何が供給できるかという災害対策資源からBCPを初め、汎用性をもたせるところに特徴がある。

 シナリオ型は個別具体的な災害対策動員に効果を発揮する。これに対してリソース型はこれまでに経験したことないような想定外の災害に、保持している災害対策資源を適用する時に有用である。

 言葉を変えれば、災害対策にはこれまでの経験が役に立つ繰り返し型のものと、これまでの経験が役に立たない新たな形態の想定外災害対策の2種類があり、前者はシナリオ型BCPが適していて、後者はリソース型BCPが適しているといえる。

 前者は、災害が発生したら財政や指示命令系統の権限委譲を大胆に行い。できるだけ現場で判断し、行動できるようにすることが大切である。
 一方後者は、経験したことのない新たな災害であるので、権限を持っていて予算にも関与できる組織の上部幹部職員が直接指揮を取り、トップダウンで対応することが肝要である、と説明した。

 そしてさらに、BCPは完ぺきに作ってはいけない、関係者はいつもBCPは不完全であるという認識をもって関わり、BCP改定作業をし続けるPDCAサイクルが機能しなければいけない、と補足した。

 おそらく、シナリオ型とリソース型の切り替え、両者の連携が難しいだろう。

 災害対策はまだまだ道半ばである。  


2013年 下水道技術のメッセージ (33) 8月17日 「太陽光発電」

(農業用水路に設置された太陽光パネル群。全部で30基、150KWの発電能力がある。)

 下水道で見える化が求められているが、写真のように、農業用水路で太陽光発電による見える化がお目見えした。

 岐阜県各務土地改良組合では、岐阜県関市にある各務用水(農業用水)の上部に太陽光発電を設置した。
 各務用水は、上流の長良川から取水し、関市や各務原市、岐阜市の水田に農業用水を供給している。

 この太陽光発電の特徴は、細長い用水路の上にパネルを並べたtことだ。
 1枚5KWのパネルが30枚、用水路に沿って細長く配置してある。

 そもそも、農業用水路は河川上流から取水して、写真のように土手を築いてかなり高いところに水路を通してある。
 これは、下流まで満ベンなく農業用水がいきわたるようするために緩い勾配で流下させるため、場所によっては天井川のように高いところに通っている。

 報道によると、太陽光発電の目的は電気料金が上がり土地改良組合でもポンプや除塵機の電力料金がかさんでしまうので、それに見合う発電収入を得ることだそうだ。
 当然のことながら固定価格買取制度(FIT)を活用して中部電力に売電している。

(農業用水は写真右奥から手前に流れている。太陽光パネルの下流には下水道の電動スクリーンとほぼ同じ電動除塵機がある。)

 農業用水路に太陽光発電装置を設置したのは、日本では初めてだそうだが、短期間で資金調達や許認可、組合員の同意などを克服して事業が実現したのには感心した。

 そして、現地に立って見ると発電収入だけではなく次のような設置メリットも見えてきた。

 そもそも、土地改良組合は米作中心の組合で、農業の高齢化が進み、新規事業に展開しにくい空気が多い。その中で、農業用水路を利用した太陽光発電事業としては日本初ということで、組合員はどれだけ励まされただろうか。
おそらく、春の竣工式には多くのテレビや新聞メディアが駆け付けたに違いない。地元でも話しの自慢になっているに違いない。
 太陽光発電は、間違いなく土地利用組合事業に負荷価値を加えた。

 二つ目は、写真にもあるように、普段は変哲もない用水路で、まして3mほど高所を流れているから地元の人でも何の施設か分かりにくかった。
 ところが、太陽光発電パネルを設置したら、今度は誰でも太陽光発電所であると一目で分かるようになった。
 これはまさに農業用水路の見える化である。

 三つ目は、用水路の上に太陽光パネルを設置したことによって、幾分かパネル温度を下げることができることだ。
 太陽光発電の素子であるシリコンは、高温になると光電変換効率が低下する性質をもっている。
 屋上や屋根の上、下水道では覆ガイの上に設置すると夏には付近の気温が上がり、光電変換効率が低下することが知られている。
 したがって、農業用水路の上に太陽光発電パネルを設置するというのは、パネルの温度が下がることを意味しており、大いに理にかなっている。
 どのくらい効率が上がるかは、今後の研究を待ちたい。

 最後は、太陽光発電パネル設置の可能性を農業用水路以外の分野にも示したことである。これまでは、太陽光発電の設置条件は、休耕田など広大な敷地を前提としていたが、水道の取水水路や下水道の放流きょ、中小河川などでも太陽光パネルを設置して発電することができることを示した。

以上のことから、この事業は岐阜県の一地域で行われたものであるが全国への影響は小さくないと確信した。
 ここから下水道関係者は何が学べるか、考えるべきである。


2013年 下水道技術のメッセージ (32) 7月29日 「気候変動」

(ドイツ、フランクフルトのマイン川。6月に大雨が降り河川水位が上昇してしばらくの間観光船が使えなかった。)

 7月28日は、山口県、島根県で集中豪雨が発生して、1時間に100mmを越える大雨が降った。
これだけ降ると、両県各地で河川が氾濫して浸水した。

 そういえば、6月にドイツ、フランクフルトを訪れたときは、市内を流れているマイン川の水位が異常に上昇して観光船の桟橋が水没し、もう少しで市内も浸水する所であった。

 写真のように、マイン川には堤防がないから河川水上昇がそのまま浸水になってしまう。
 それは、日本と違って降雨量は少なく河川の勾配が緩やかなので水位変動が少ないからである。
 ところが今年は予想を越えた大雨が広域に降り、異常な水位上昇になってしまった。

 異常気象は困ったことだが、よく考えてみるとこれまでの気候がベストであったとは言い難い。
 ただ、これまでの気候には時間をかけて慣れていたので住み心地が良いと感じているだけではないだろうか。

 人類は昔から自然と闘いながら発展してきた。

 風土が人を変え、都市を変えてきた。
 言葉を変えれば、人類は自然に鍛えられながら生存してきた。
 これは自然災害も同じである。
 自然の変化は停止したわけではなく、昔から今までのようにこれからも変わっていく。
 問題は変化が早すぎると犠牲が大きくなってしまうということだろう。

 温暖化で本州の野菜が大打撃を受ける一方で、北海道ではおいしいお米がたくさん取れ、日本の穀倉地帯に変わりつつある。

   河川水位が高くなれば浸水のリスクが増えるが水利用には有利になる。
 気温が上がれば作物の収量が増える地域が広がる。

 温暖化や気候変動を逆手にとって、生活の質を向上させたり、経済活動を活発にさせることはできないものだろうか。

 ポジティブ思考が大切である。


2013年 下水道技術のメッセージ (31) 7月21日 「活性汚泥」

(有明水再生センターエアレーションタンク。ここのMLSS,汚泥総量を制御する。)

 先週、東京都の有明水再生センターを視察しました。
 その時感心したのは、保全を担当しているTGS(東京都下水道サービス梶j職員の説明でした。

 彼によると、この下水処理場は東京ビッグサイト・国際展示場を抱えていますが、毎年8月に催されるコミック祭り(マンガ本の即売会)の時には、流入汚水量が通常の倍以上になるそうです。

 有明水再生センターは処理能力日3万トンで全量A2O法を適用しています。この時に、放流水水質が悪化しないように数週間前からMLSS濃度を少しづつ上げて汚泥総量を増加させる調整をしているそうです。
 この調整期間は、早すぎると汚泥総量が増えても活性汚泥の処理能力が低下してしまうので、ギリギリの時期に増やしていくそうです。

 この現象は、おそらく汚泥の老化にあるのではないかと考えられます。つまり。エアレーションタンクでの活性汚泥の滞留時間を長く取ると、いわゆる汚泥令(スラッジエイジ)が長くなり、長くした直後は活性汚泥は増量した分だけ能力を発揮しますが、同時に汚泥の世代交代期間が長くなり、活性汚泥としての浄化能力が徐々に落ちてしまう、ということです。

 全量A2O ですから、返送汚泥に加えて循環汚泥を行っておりますので、汚泥に対するBOD/SS負荷はさらに重くなっているはずです。
 糸状菌の発生も懸念されます。

 また、その職員はDO計についても、ピンポイントで計測する計器には限界がある、と話していました。
 エアレーションタンクは大きな容積ですがDO計はポイントでしか測れません。ですから、DO値は全体を示していませんから、活性汚泥の色や発泡、におい、など、五感を働かせて診断し、省エネや性能維持の判断をしなければならないと話していました。

 これは、人体で言えば西洋医学と東洋医学の関係のようです。
 西洋医学も必要ですが東洋医学も必要である、ということです。

 現場はいつも創意工夫をしていますので、教わることがたくさんあります。


2013年 下水道技術のメッセージ (30) 7月15日 「量産品と汎用品」

(低品質で短寿命の紙製下水道。横須賀市では30年も40年もなんとか取り付け管に使ってきた。)

下水道という社会インフラが、大きな転換期を迎えているような気がする。

 建設から維持管理、というトレンドとは明らかに違う転換である。

 例えば、下水道は民間資金では耐えられない長期間投資が必要だから公共インフラである、という定義が崩れ始めている。
 下水道料金さえ、しっかりと回収できればPPPが現実のものとなりつつある。

 すると、下水道の寿命も長いだけでなく、短い設定もありうるという考えが出てくる。
 100年下水道を目指す動きもあるが、100年先の都市計画を予想できるものだろうか。

   企業経営的には、長寿命の下水道を作ったゼネコンが次々と下水道事業から撤退しようとしている。
 下水道や下水処理場構築物が50年も100年ももつので、一度建設すると、ゼネコンは当分出番が無くなってしまった。

 量産品や汎用品、標準品を使って、多少品質や寿命は低下してもコストを下げる動きが出ている。
 下水道や下水処理場構築物は、ゼネコンのために長寿命化を止めるのではなく、都市の変化に応じた下水道システムの対応を可能にする、ということである。結果的にゼネコンの出番も出てくる。

 こうして見ると、結果論ではあるが普及を最大の目的にしてまい進してきた下水道行政について、下水道に対するグランドデザインが欠如していたとしか言えない。
 いまさら、下水道の建設をやり直す訳にはいかないが、世界にはこれから下水道をゼロから普及しようとしている国はたくさんある。
 それらの国に対して、日本の経験を正しく伝えることが、日本の下水道の将来のカギになるような気がしてならない。


2013年 下水道技術のメッセージ (29) 7月11日 「半旗の意味」

(7月11日に東日本大震災でなくなった方を追悼して掲げられた横浜第一港湾合同庁舎屋上の半旗)

あの東日本大震災から2年4カ月たった7月11日に、所用があり横浜市を歩いていたら、横浜第一港湾合同庁舎屋上で東日本大震災追悼の半旗が掲げられているのを発見した。

 ところが、近くにある神奈川県庁にも日章旗が掲揚されていたが、こちらは通常の掲揚で、半旗ではなかった。
 このことから、7月11日は28回目の月命日ということだが、人々から東日本大震災の記憶が急速に薄れていることが感じられた。

 このように記憶が薄れてきたときにこそ、大震災、大津波の記憶を呼び起こし、これから襲ってくる大震災に備えなければならない、ということだろう。

現在、EICA環境システム計測制御学会は、米国ハリケーン・サンディの下水処理場の被害、復旧を学ぶため、米国視察団を準備している。
 これは、東日本大震災で発生した大津波で沿岸の下水処理場が軒並み壊滅的な被害を被った事を踏まえ、昨年10月に米国ハリケーン・サンディで、類似の被害を受けて下水処理場が長期間機能停止に陥ったニューヨーク市やニュージャージー州に、この9月に視察団を派遣するということである。

 東日本大震災と米国ハリケーン・サンディの両者の被害状況、復旧状況を比較調査し、今後の高潮、津波対策に学ぶべきもの、改善すべきものを見つけ出していこということである。

 横浜市の半旗の意味をかみしめて活動していきたい。


2013年 下水道技術のメッセージ (28) 7月8日 「シンドラーのリスト」

(シンドラーのデスク。ホーロー鍋工場の社長であった。)

ポーランドの都市は、第二次世界大戦でナチスと連合軍の双方に破壊されたが、例外的に無傷であったのが南部の観光都市クラクフであった。
 クラクフは日本の京都のような存在で、旧市街地には名だたる名所旧跡がある。

 クラクフからは半日行程でアウシュビッツに行くこともできる。
 シンドラーのリストで有名なシンドラーの工場もクラクフにあり、現在はシンドラーの博物館になっている。

 シンドラーは、ナチス占領下のポーランドで、強制収容所に連行されるユダヤ人を工場労働者として確保し、結果的に多くのユダヤ人を死から救うことになった伝説の人物である。

 そもそも、シンドラーはナチス支配下の工場のオーナーであるからナチス協力者であった。しかしナチスの幹部に取り入ってユダヤ人をかくまったという点ではユダヤ人の恩人でもある。
 過酷な戦時下では、事と次第によってはシンドラー自身の生命もナチスにねらわれかねない。そのような緊迫した中で、多くのユダヤ人を自分の工場で働かせることにより命を救った功績は大きい。

 口先で人道主義をとなえるよりも、一人でも多くのユダヤ人の命を救うことに努めたということらしい。
 映画、シンドラーのリストでは少年が工場から強制収容所に連れ去られようとする時、シンドラーは「少年の小さな手がないと精密な武器の内側の加工ができない」、といってナチスから連れ戻した感動的なシーンがあった。

   リトアニアの総領事で命のビザを発行した杉原千畝とともに、勇気ある人物だ。

 写真はシンドラー博物館に展示してあるシンドラーの執務デスク。
 ちなみに、日本でも事故で有名になったシンドラーのエレベーターは、このシンドラーの工場の末裔である。


2013年 下水道技術のメッセージ (27) 6月27日 「講演会」

(本郷キャンパスと結ばれた柏キャンパスでの講演会、下はロビーで行われたサロン風のプレゼン)

6月下旬の雨の中、柏キャンパスにある東京大学大学院新領域創成科学研究科で「EICA東日本大震災被害復旧調査研究」の講演会を行った。
午後5時から60分ということであった。

 当日は本郷キャンパスともテレビ会議システムで接続し、同時に両方への情報発信ができた。

 これまでは自治体技術者を対象に講演会を開いてきたが、今回はたまたま担当の先生が旧知の中で、このような場を提供していただいた。

 大学の研究者が津波被害を聞いてどのような印象を持っただろうか。
 講演では、「災害は予想外のことが起こる。だからその対策はどんなに準備を周到にしても初めて経験することが多く、柔軟で創造的な能力が必要である」、「結果良ければ全てよしではなく災害の経験はしっかりと検証して真摯に学ばなければならない」、「災害対応を通じて下水処理場は強靭になるし、技術者は鍛えられる」、ということを実例を交えて伝えるよう努めた。

 そのあと、下の写真のように午後7時からロビー風のところに場所を移して、お寿司やワインを交えながら30分間「下水道の価値を考える」を講演し、参加者と意見交換をした。
 こちらは建築系の教官、学生が多く、大いに手ごたえを感じた。アルコールが入ったこともあってか積極的な質疑が飛び交った。
 意見交換で私が、学生の頃、先生から「どんなに地味な研究でも地道に息長く続ければ、一生のうちに一度は脚光を浴びるチャンスが来る」、と教わった、と述べると、建築の教官は、「人生には3度の風が吹く」、と昔先生から教わった、答えてくれた。
 問題は、「何時風が吹くか分からないこと、風が吹いても風を感じないことだ」、と切りかえしてくれた。

 「下水道の価値」については、話の中で最近の汚泥処理では脱水機を炭化炉の上や焼却炉の側に持ってきて脱水ケーキを圧送すプロセスを省いている事例を説明し、これが汚泥処理施設を簡素化し、汚泥処理プラントのレイアウトを大きく変える可能性のあるという話しをした。

 すると、ある先生が「これは家庭のトイレと同じだ」、「家庭のトイレが水洗化したので家の中のトイレのレイアウトがどこにでも作れるようになった」と、建築系ならではの感覚で切り返してくれた。

 私にはそんな発想はみじんもなかったが考えてみるとその通りで、きわめてわかりやすい表現であった。
 アルコールが入ると柔軟な発想になるものであると感心した。

 気がつくと午後9時。サロンはまだ続いていたが、小やみになった雨の中、ひとり帰路についた。、


2013年 下水道技術のメッセージ (26) 6月25日 「フランクフルト」

(フランクフルトのマイン川橋脚の水害表示プレート)

今年のヨーロッパは天候不順だそうだ。
 6月の中旬に訪れたドイツフランクフルとでは、市内を流れるマイン川の水位が上昇し、遊覧船の桟橋が水没してしまったらしい。
 幸い、市内への浸水には至らなかったが、ドイツの他の地方では浸水のニュースが報じられていた。

 たまたま訪れた、フランクフルト市内のマイン川にかかる橋のレンガ積み橋脚の壁には、写真のような青銅製のプレートに、過去の最高水位の記録が埋め込まれていた。

 その数字を見て驚いたが古いものでは1576年の記録もあった。
 水害は100年単位で考えなければならないと思っていたが、500年単位で考えるということのようだ。

 日本の各地にも、過去の水害の最高水位を表示して水害を警告してところがあるが、500年前にまでさかのぼって表示してあるところは見たことがない。

 東日本大震災で1100年前の貞観地震の経験が記憶されていなかったことが悔やまれたが、水害も同じ、ということだろうか。


2013年 下水道技術のメッセージ (25) 6月20日 「ポーランド」

(杉原千畝の机の上にはビザ発給するための文房具が乗せられていた。後方は日章旗)

所用がありポーランドを訪問しているが、隣国リトアニアのカウナス市にある杉原千畝記念館を訪れた。
 杉原千畝は、第二次大戦中にナチスに追われたユダヤ人が日本経由で米国などへ逃げのびるためにビザ発給を求められた時に、リトアニア領事館の責任者として、三国同盟を配慮した外務省の意向に反して、多数のビザを発給し6000人に近いユダヤ人の命を救ったとされている。

 この話は戦後埋もれていたが、奥さんの出版した本で世間に知られることになった。
 福井県の敦賀市には、杉原千畝に関わる敦賀ムゼウムという記念館がたっている。

 ところが、日本からはるばると来たカウナス市の高級住宅街にある記念館に入って驚いた。  普通の2階建住宅が記念館になっており、展示は小さい部屋が2室、その内の1室で最初にビデオを見せていただいた。
 ところが、そのビデオは杉原千畝の故郷である岐阜県八尾市が10年前に地元で記念モニュメントを作った時に作成した古いものであった。
 展示も、当時使っていたデスクは見応えがあったが、それ以外は学校祭のような素人風の展示品が多かった。

 その後ポーランドに入り、クラクフ市でシンドラーの工場跡地に作られたシンドラー博物館を見た。
 こちらは映画「シンドラーのリスト」で有名なユダヤ人の命をナチスから救った話だ。
 この博物館は国立で4階建のビルに展示物が洗練されたデザインでびっしり詰まっていて充実していた。
   老若男女の見学客もたくさんいる。クラクフ中央駅に近いこともあり気軽に訪問できることも幸いしている。

 この2つの博物館の違いには日本人としてやや落胆を感じた。
 多数のユダヤ人の人生・生命を救ったことは両者に共通する。
 にもかかわらず、その後の知名度はシンドラーの方がはるかに高い。

 少なくとも、10年以上前の八尾市のビデオを使いまわしていのには心底から驚いた。
 シンドラー記念館では、ビデオはおろか、たくさんの新しい趣向を凝らした展示で当時のユダヤ人の記録を放映していた。

 杉原千畝の業績はもっと高く評価されるべきであるが、そういかないのは情報発信力の違いだろうか。


2013年 下水道技術のメッセージ (25) 6月10日 「カ―シェアリング」

(関内中央ビルにあるタイムズカ―プラス。プリウスが1台だけ置いてあり、奥の黄色い操作盤で貸し出しの手続きができる)

横浜関内駅周辺に「タイムズカ―プラス」という黄色い看板が幾つもできた。

これは、三井不動産系の時間貸し駐車場会社三井リパークから派生したカ―シェアリング会社で、新らしいビジネスモデルとして注目されている。

 三井不動産は日本橋再開発など数千億円の地域開発に関わる一方で、30分間で200円の時間貸し駐車場を経営し、事業のポートフォリオのバランスを取っている。  この延長がタイムズカ―プラスである。

 自動車を貸すビジネスはレンタカーがあったが、タイムズカ―は15分単位で自動車を貸す。
 1日単位で貸すレンタカーとタイムズカ―との違いは、レンタカーが自動車を貸すのに対してタイムズカ―は自動車の機能を貸すことになる。
 利用者は、あらかじめ登録して支払い用のカードを示しておくと、ネットで探して空いている自動車があれば何時でも15分単位で自動車を使うことができる。
 使い終わったら、元の駐車場へ返す。
 すると、別の利用者がネット予約して使うことができる。

 レンタカーとタイムズカ―とは両方とも似ているようだが、実は基本的に違う考えだ。
 レンタカーは、自動車の個人所有の延長にあって、自分の好みの車を指定して楽しむことができる。
 タイムズカ―は、自動車を必要となった時に、ネットで調べて近くの駐車場に置いてある自動車を短時間使うことができる。
 タクシーよりは安く、レンタカーよりは便利に移動することができる。

 つまり、自動車を個人的に所有する形態から、レンタカーのように使いたい日だけ自動車を所有する形態に代わり、タイムズカ―は自動車の機能を手に入れる形態に行きついたわけである。

 また、時間貸し駐車場を商売にしている三井タイムズがタイムズカ―に進出したところも面白い。
 都心で駐車場を探すのは大変な苦労だ。
 しかし、タイムズカ―はそもそも駐車場に自動車が置いてあるので、駐車場を探す必要がない。
 いかにも、貸し駐車場会社から出てきそうな発想である。

 この流れは、自動車メーカーにとっては迷惑なものである。
 そもそも、自動車は高価なものであったが大量生産で価格が低下し、ますます需要が増えるというよい循環で成り立っている。
 その背景には、大量消費がつきまとっている。
 その結果、マイカーブームが起こり、日曜ドライバーやステイタスとしての自動車所有となった。

 この不合理さは誰でも感じているはずだ。
 何百万円もする高額商品が、一年のうち10%も使われていないで車庫に眠っている事実はいかにも不自然だ。
 こんな商品は他には何にもない。

 だからタイムズカ―は消費者の求めるところである。
 そして自動車メーカーの忌避するところである。

 タイムズカ―が普及していくと自動車メーカーの売り上げが落ちることは必須である。
 なぜなら、業務用でも個人用でも、1年間に人が自動車で移動する距離はそれほど変わらないのにタイムズカ―になると、自動車の稼働率が上がる分だけ自動車の必要台数は減るからである。

 テレビを見る若者は減り、自動車をもつ若者は減った。
 実は、テレビの映像に変わってスマホのアクセスが飛躍的に増えてバランスが保たれている。
 自動車を個人所有する若者も減ったが、タイムズカ―で個人の自由な移動を求める若者は増えるに違いない。


2013年 下水道技術のメッセージ (24) 6月8日 「横浜市講演会」

(講演では聴衆の方を向いて話すように努めている。そのためには右手に持ったコクヨの電子ポインターが役に立つ)

 平成25年6月4日、横浜市環境創造局で「下水道の価値を考える」の講演会を開いた。

 横浜市環境創造局では、これまでに、「下水道の温故知新」、「東日本大震災下水道被害と復旧」の講演会をやらせていただいているから、3回目になる。

   会場は関内駅前のビルの10階大会議室に60人くらい集まっていただいた。
 このテーマでは、昨年12月に東京下水道設備協会の講演会で新宿角筈ホールで開いたが、今回はそれから6カ月たったので、その間に発表された土木学会の「土木広報アクションプラン」を引用することができて「価値」の意味、「価値」の伝え方を分かりやすく位置付けることができた。

 講演をしてみて、改めて下水道の特殊さを感じた。
 ほっておくと、市民からどんどん遠ざかる下水道、ということだ。

 だからこそ、下水道の特徴を把握して創意工夫を施してアピールしていかなければならない。
 実は、アピールする材料は山ほどある。
 ただ、下水道関係者が気付いていないだけだ、という話である。

 最近はプレゼンが板についてきて多少始まりが遅れても、時間きっかりに終わりにすることができるようになってきた。
 聴衆の最も望んでいること。それはプレゼンの内容もさることながら、時間通りに終わらすこと、といわれている。

 下水道の価値は市民の視点が大切だ、と講演した手前、聴衆の求めているものを把握し、提供しなければならない。

なお、写真の右手にさりげなく持っている黒いものがコクヨの電子ポインター操作機。これが優れ物で、片手操作でポインター、パワーポイントページの送り、画面の全面消去の三つの操作ができる。これがあるから聴衆の方を向いて話ができる。


2013年 下水道技術のメッセージ (23) 6月3日 「新装開店」

(パチンコ店前の若者の列。ニヤニヤしながらきまり悪そうに並んでいた。)

 平成25年6月1日、金曜日の朝、横浜関内駅付近でパチンコ店の前に並んでいる若者の群衆を見て驚いた。

 評判のパチンコ屋が新装開店するので列をなして開店を待っているらしい。
 20代、30代の元気な若者がニヤニヤしながら歩道に並んで待っている光景は異様であった。  若者の中には、金曜日が休暇の者もいたかもしれないが、その他の若者は普段は何をしているのだろうか。

 そういえば、関内駅の周辺は、古い百貨店や電気店が撤退して例外なくパチンコ店に替っている。
 この店は、去年、石丸電気が撤退してその後に進出してきたパチンコ店である。
 街が活気を取り戻すのは結構だが、元気な若者が朝からパチンコに入り浸りになっているのはいかがなものだろうか。
 パチンコの景品換金も半ば公然と行われている。

 なお、韓国や台湾はパチンコを法律で禁止している。


2013年 下水道技術のメッセージ (21) 5月2日 「習慣の力」

(習慣の力)

  この本は、個人、企業、社会を「習慣」というツールで分析してみせた。

 習慣は、「きっかけ」→「ルーチン」→「報酬」→「きっかけ」の連鎖で成り立っている。

 「きっかけ」は「ルーチン」への導入で、習慣を確実なものにする。
 習慣を身につけると考えないでも繰り返すことができるようになる。  習慣を続けるには、褒美としての報酬が必要になる。

 この本では、習慣の事例として脱臭スプレー、ファブリーズをあげ、消費者は機能としての脱臭だけでなく報酬としての清潔になった達成感、つまり清冽な香りを求めていた、としている。

 この「きっかけ」「ルーチン」「報酬の」どれかが×と習慣は成り立たないか、又は崩れる。

 また、習慣には良い習慣と悪い習慣があり、悪い習慣を直すことが大切で、習慣の連鎖を理解すれば効果的に企業や集団を改善できる、としている。その事例としてアルコア社の経営改善を解説しているが納得できた。

 社会の段階では米国の公民権運動を例にバスでの人種隔離から全米へと運動が広がったプロセスを社会的習慣のパワーで説明している。

 「習慣」を通した個人や企業の分析はおもしろい。当たり前と思うことを習慣の連鎖で解き明かし、3要素のポイントの置き方を指南している。よく理解すれば人間関係や業務にも応用できそうだ。
 なお気になる点は、習慣の連鎖がいかにもPDCAサイクルを連想させることと、古い事例の引用が多いこと、それに社会の分析が消化不良の印象を与えたことである。

 以上のコメントをamazonの「習慣の力」書評欄に投稿した。
 ところが、驚いたことにこの本が発売された4月26日当日に、既に書評を投稿している人がいた。
 おそらく、出版関係者が行ったことであると思った次第である。


2013年 下水道技術のメッセージ (20) 4月30日 「タフな消化汚泥」

(仙塩浄化センターの消化槽は鉄筋コンクリート製で被災を免れた)

宮城県仙塩浄化センターは、東日本大震災で被災してから22か月後の平成25年1月に完全復旧宣言をした。

当初は復旧には3年近くかかる見通しであったが、関係各所の努力で早い復旧となった。

この時点で、当然汚泥消化施設も稼働したが、復旧時の消化汚泥は被災時に消化槽に入れてあったものをそのまま使ったそうだ。
 つまり、2年近く放置してあった消化汚泥をそのまま使ったが、うまく消化機能を回復できた。
 ということは、消化汚泥のメタン発酵菌は長期間隔離されていたにもかかわらず生きていたことになる。

 消化プロセスは、汚泥濃縮槽、消化槽は鉄筋コンクリート製で地震や津波には耐えた。
 しかし、消化ガスタンクは流出し、余剰ガス配管は切断され加温ボイラーは水没したので、被災後消化槽は放置された。

 そして2年後に、濃縮汚泥を投入し、撹拌装置を動かすと、しばらくして消化ガスが発生した。

 実際には、稼働前に消化槽内にあった古い消化汚泥の性状について東北大学大学院工学研究科土木工学科の李先生に調査していただき、消化性能の復旧を確認したそうだ。

 嫌気処理に伴うメタン発酵細菌の耐久性については、昔、帯広にあるJAのジャガイモ工場排水処理装置を視察しておもしろい話を聞いたことがある。

 北海道のジャガイモの収穫期は8月ごろから10月ごろまでの3カ月で、取れたジャガイモはすぐに一次加工するために皮をむいたり粉にしたりする。この時、大量の排水が出るので、ランニングコストの安い嫌気処理をしていた。
 嫌気処理は、汚水をまりも状に凝集したグラニュールというメタン発酵細菌集合体の担体の間に通過させることで行い、最後はMF膜で仕上げて放流していた。

 このグラニュール状の微生物集合体はジャガイモ収穫期の関係で年間数カ月しか使わない。その他の時期は、水道水の中に沈められて保管してあるそうだ。

 つまり、このグラニュールはメタン発酵細菌でできているが長期間停止していてもすぐ性能が回復するらしい。

 このようなバクテリアのタフな性質を生かした汚水処理は東北大学が強い。日本の下水処理にも応用はできないだろうか。


2013年 下水道技術のメッセージ (19) 4月22日 「高度処理導入のスピードアップ」

(高級処理水はきわめて清浄でBOD数mg/lが多い。)

 高度処理導入が進まない。
 高度処理は、施設を新たに建設するだけでなく、維持管理の面でも従来の高級処理に比べて下水の滞留時間が長くなりエネルギーを多く消費する。

 このため、その復旧がなかなか進まない。

 そこで、高度処理導入に向けて東京都の「経営計画2013」では準高度処理の導入を掲げている。
 これは、従来のA2O導入による高度処理から、反応槽の入り口部だけ嫌気状態にしてリンを除去し、残りの好気ゾーンで有機物と窒素を除去する嫌気好気法を基本とする処理方式である。

 この準高度処理を導入すると、処理施設はほとんど現有施設のままで、電力消費も変わらずにA2Oと高級処理の半分くらいの窒素リン除去が可能になる。

 国交省も、埼玉県と共同でほぼ同じシステムを段階的高度処理と名付けて実証実験を行うことになった。

 今後、準高度処理は全国へ展開する可能性がある。

 ところで、準高度処理には2つの課題がある。
 一つはリン除去の不安定性である。
 リン除去は窒素除去に比べて難しい。雨水が混じって流入水の有機物が少なくなったり溶存酸素が増えたりするとリン除去能力が大きく減少してしまう。だから、A2Oでも雨天時には初沈をバイパスさせたり凝集剤を使ったりして苦労している。

 もう一つは好気ゾーンでの脱窒制御である。
 A2Oでは亜硝酸を無酸素ゾーンで窒素ガスに還元して大気へ放散するが、準高度処理ではこのプロセスを好気ゾーンでおこなうので、制御が必要になる。

 そもそも、高度処理が要請されたのは、まだ公共用水域が汚染されていたころで、赤潮や青潮が多発していた。
 最近は、下水放流水もかなり改善されてきて、水質環境が劇的に改善されている。

 このような水環境の改善を考えると、取り組みやすい窒素除去を優先して、取り組みにくいリン除去は後回しにするという高度処理導入戦略も考えられる。

 そもそも、窒素リン同時除去の考えは日本が先行しているが、窒素除去だけでもかなりの効果が期待できる。
 もし、リンの規制を続けるとしても、リンについては環境での蓄積が問題になるのだから、年間放流量の平均値で規制すればよい。


2013年 下水道技術のメッセージ (18) 4月15日 「便利さの中の不便」

(横浜崎陽軒本店ビアレストラン・アリババでは毎週月曜日の夜はアコーディオン演奏のサービスがある)

 便利になると不便になることがある。

 最近、ある会の幹事を務めた。
 昔から続いている会である大学の先生がリーダーで、企業を退職した人、現役バリバリの人、大企業会社の社長、子育て中のお母さん、など10人程の異色グループである。
 年に数回、定例のパーティーヲ開いて親交を深めているが、幹事は2人ペアーの持ち回りと決まっている。  そこで、著者は幹事として定例のパーティを開催した。

 場所は横浜駅崎陽軒本店で、楽しい会が開けた。
 当日は月曜日の夜で、特別に女性アコーディオン奏者があった。笑顔の彼女は、タップダンスを組み込んでタンゴやジャズを演奏していた。

 問題は翌日、参加した皆さんに幹事として御礼メールを出したときに起こった。
 著者は、気を利かしてペアーの幹事さんのアドレスはBCCにし、残りの皆さんにCCメールを出した。

 すると、すぐにメンバーからミーティングの感想や意見、記念の写真添付メールが返信メールで発信された。
 しかし、返信メールを見ると、どなたのメールにもペアーの幹事のアドレスが見当たらない。
 それはそのはずで、会員の皆さんは例外なく著者が出したお礼のメールの「全員への返信」メールの宛先で出していたのである。

 つまり、「全員への返信」メールの手軽さから、ペアー幹事のアドレスが欠落していることに返信した全員が気がつかないで、返信してきたということであった。

 これに著者が気付き、最初にBCCで出した責任もあるので、メンバーから「全員への返信」メールが来るたびにペアーの幹事にもう一度転送メールを出すことになってしまった。
 これは便利さの中の不便、だった。便利である中にうっかりすると見落としてしまう落とし穴が発生しているということで、技術の進歩にもよくあることである。

 例えば、蛇口をひねれば水が出たりトイレを流せば汚物が視界から消えてしまうのは便利であるが、万一、この社会システムが機能しなくなると大変なことになる。

 大変なことになる可能性を知るためには、社会の中にあたり前の仕組みを知るシステムを組み込んでおくことが必要となる。
 具体的には、「全員への返信」メールの場合なら、メールを出すときに相手の顔を思い浮かべればいいる。「全員への返信」があるのでお手軽に全員への義理を果たしてしまうという安易さが落とし穴なのだから、この便利さの危うさを補うには、「相手にメールを出す」というメールの原点にときどき戻らなければならない。

 水道や下水道では、利用者はたまには水道や下水道を管理している人を思い浮かべる仕組みを組み込まなければならない。同時に、事業者は単に水道、下水道が重要であるという月並みのメッセージではなく、水道・下水道の新しい魅力、驚く側面の情報を継続的に流さなければならない。利用者と事業者の共同作業である。

 同じように、電気を作る人、電車を走らせる人、治安を守ってくれる人の顔を思い浮かべることも必要だが、簡単ではない。
なぜなら、ボーとしていたり、家事や仕事が忙しいとすぐにあたり前の便利さに隠れて思い浮かべることを忘れてしまうからである。しかし、社会が発展して便利になればなるほど、実は便利さの根底やものの原理・原則を知ることが大切になってくる。
 それは、社会が便利になり複雑になればなるほど、部分的、表面的にしか目が行き届かなくなるからである。

 便利さの裏にある不便さを克服してこそ次の進歩がある。

 


2013年 下水道技術のメッセージ (17) 4月10日 「危機の指導者チャーチル」

(新潮社刊、p314 冨田浩司著、)

英国の第二次世界大戦の功労者ウインストン・チャーチルの評伝「危機の指導者チャーチル」新潮選書を読んだ。

チャーチルの一生が描かれているが、全篇を通してのメッセージは、チャーチルは必ずしも優れた政治家ではなかったが、きわめてすぐれた危機の指導者であった、ということであった。

 チャーチルを神格化せず、長所、短所を示して、戦時内閣では力を発揮し、戦後の内閣ではそれほどでもなかった、と評価している。

著者はチャーチルの言動に重ねて、危機の指導者としての資質を、1.自己への確信、2.目的式の明確化、3.不作為リスクをおかさない、4.しっかりとした歴史観、5.権力の行使、にあるとしている。

 1.は、危機の指導者が逡巡しては誰も不安でついていけない。危機の判断に不安はつきものだが勇気を持って進まなければならない、ということだ。
 2.は、おかさない戦争の勝利や災害の復旧等の到達点を明確に示すことで、国民の不安を除くことである。
 3.は、危機においては常に不作為のリスクは作為のリスクを上回る。平時には、待ちの政治で時間を味方にすることもあるが、危機では遅れた判断が取り返しのつかないことになる。
 4.は、危機時にはリーダーは大局観、国家観を持って、「自己への確信」と「目的の明確化」を示すことになる。その根底となるのは歴史観である。
 5.は、「威張り散らしたり虚栄のために行使すると卑しいものになるが、指導者がいかなる指示を出すべきか理解している場合には天恵である」とチャーチルは行っている。

   危機時のリーダーには、誰でもなる可能性がある。
 家庭で地震に遭遇すれば、家族の安全を確保しなければならない。
 職場で津波に襲われれば、少人数の係でも何十時間か救援を待たずに過ごさなければならないかもしれない。

 その時、誰でも危機時の指導者の役割を果たさなければならないので、誰でも上記の5項目は理解しておくべきだろう。。  


2013年 下水道技術のメッセージ (16) 4月7日 「災害対策と企業」

(被災後南蒲生浄化センターは多くの関係企業が復旧のために参集した)

東日本大震災の下水処理場災害対策を側聞して気になることがる。
 それは 企業の役割が軽視されてはいないかということである。

 下水道事業、下水処理場にはたくさんの企業が建設や維持管理、材料納入等に関わっている。
 被災時にも、たくさんの企業関係者が関わってきた。

 しかし、被災の記録を調べるかぎり、企業の姿は見えにくい。

 例外的には、宮城県県南浄化センターの包括委託企業社員が日本下水道新聞の紙上で被災時の貢献を述べていたことがあった。

 もちろん、公式には下水処理場を管理運営している県や市が責任を持って前面に立つのは当然だ。
 この関係は被災時、復旧時も同じだが、同時にたくさんの企業の社員も下水処理場で働いていた。しかし、災害への貢献ということになると、県や市の管理者と企業との間にはJSやコンサルタントが入っているので、ますます企業の姿が見えなくなる。

 県民、市民からみると企業は災害復旧時にも管理者から受注して、利益を得ているように見えるのかもしれない。
 住民が困っているときに災害特需で潤っているように見えるのかもしれない。

 しかし、ここには官尊民卑的な偏見が感じられる。  企業はもちろん工事費や委託費を受け取っているが、その理屈で言えば県や市の公務員も給与を受け取っている。  企業が災害対策で工事費を受け取ることは何らやましいことはないのである。  むしろ、災害対策では管理者職員の指示にしたがって緊急対応したが、後日清算段階で平時の基準の査定画適用されて歩切りされてしまった、という苦情を聞いたこともある。  聞くところによると被災時の混乱の中で、命がけで応急復旧に尽力した企業社員もいたらしい。会社によっては、復旧に当たって社を挙げて復旧を最優先する方針を決め、人材や資材を全国動員し、損得抜きに経営資源を傾注した企業もあったらしい。被災、復旧時に企業でなければ考えられない創意工夫を提供した企業もあったらしい。  「らしい」、というのは、企業・社員の活躍がなかなか見えてこないからである。

 一方で、下水処理場の災害復旧には、下水処理場の建設に関わった企業が駆け付けた話はよく聞くが、自社の関わっていない下水処理場やポンプ場は一切手を出さない、とする企業が多かったことも事実である。

 この点では、管路のように全国規模での組織的な支援体制を企業ベースでも構築すべきである。

 企業の全面的な協力、支援なくして迅速な復旧はない。

 以上の考えを実現するためには、まず平時の企業との信頼関係構築するのが第一である。それに加えて、企業が行ってきた災害時の努力や貢献、苦労をきちんと記録しまとめ、成功例と失敗例を分析し、評価しておく必要がある。


2013年 下水道技術のメッセージ (15) 3月25日 「災害技術の継承」

(土木学会環境工学シンポジウム)

3月19日に土木学会環境工学委員会でシンポジウム「東日本大震災の経験から次世代の下水道を考える」が開催された。

 冒頭、委員長の東北大学大村先生は、「日本のインフラは災害の経験を積み重ねて進化してきた」、「災害対策は東日本大震災から2年経ったこれからが勝負時だ」という主旨の挨拶をされてシンポジウムが始まった。

 特別講演の国交省岡久部長は、下水道界総力を挙げて取り組んだ東日本大震災下水道支援の状況や、これからの下水道政策の動向を歯切れよく説明された。
 講演の途中で会場前で即売している、下水道協会で発売されたばかりの「東日本大震災を乗り越えろ」の本の紹介をされた。

 このような本が、阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災と節目ごとに発行されるのは、下水道界の財産であると思う。

 大村先生の話のように、災害が絶えない日本は、その経験を後世につないでいくためにも、活字化は重要な手続きである。

 そこで、中里は「災害技術の継承」というプレゼンをした。
 そもそも、技術の継承すら下水道界では難しいのに災害技術の継承はなおさら難しいのが実感であった。

 おそらく、災害技術の継承は、災害を学び、災害を伝え、災害に対処する、という3段階があり、それぞれの段階できっちりとまとめていく必要がある。

 また、災害は千差万別で多様な展開をするので、マニュアルやBCPで対応できるのはいつも一部分でしかない。
 いつも応用力を求められるといってよい。

   その変化に対応するには、結局ヒューマンファクターによるしかない。
 つまるところ、最後は人の応用力、忍耐力、持続力によるところが大きい、ということである。

 災害技術の継承はそのための手段である、というのがプレゼンのまとめであった。


2013年 下水道技術のメッセージ (14) 3月15日 「ガソリンスタンド」

(被災地のガソリンスタンドは強固であった。2枚とも2011年5月宮城県南三陸町付近で撮影)

神奈川県海老名市で、市の燃料備蓄のためにガソリンスタンドを買収して話題を呼んでいる。

3.11では、どこの自治体でも燃料の手配に苦労した。
もちろん、海老名市も他の自治体と同じく地元のガソリンスタンド組合(神奈川県石油商業組合高座渋海老名分会)と災害時優先提供の協定を結んではいたのだが、当時はJX市原製油所が大火災になり、同横浜製油所も地震被害の総点検で長期間操業を停止したため関東地方は深刻な燃料不足になった。
 被災した東北地方も、宮城県多賀城市のJX石油製油所が燃えて操業停止し、さらに深刻な燃料不足に陥っていた。

 このような中で、協定を結んでいても肝心の石油がなくなってしまったので自治体が病院の非常用発電機や公用車の燃料手配に支障をきたす事態が生じた。

 このため、各自治体は自前で燃料を備蓄する考えが浮上してきた、
 この流れの中で、海老名市は廃業した市内のガソリンスタンドを買い取り、平成25年3月1日から市の燃料備蓄施設として運用を開始した。

 ガソリンスタンドは、この所ハイブリット車の普及や若者の自動車離れ、デフレ不況などの影響で低迷を続け、廃業が相次いでいる。
 特に市街地のガソリンスタンドは採算性が悪化し、土地を再利用しやすいこともあり、廃業が加速している。  著者の近くの横浜市市街地でも、ガソリンスタンドが撤退してシルバーマンションに変わるなど、時代の変化を反映している。

 したがって今回の海老名市の施策は、時代を読んだ優れた判断だと思う。

 H23年5月に3,11津波被災地を訪れた時、特に目についたものの一つが無傷のガソリンスタンドであった。
 周りの建物は無残にも大破しているにも関わらず、どこのガソリンスタンドも太い支柱と屋根がびくともせず残っていたのは印象的であった。
 写真のように流出した家屋がガソリンスタンドの支柱に挟まっていることが、ガソリンスタンドの強い強度を物語っている。

 一説には、ガソリンスタンドは危険物の規制が厳しくて強固に作らなければ許可が得られないから、地震や津波にも強いらしい。

 このような施設は、撤退する時も取り壊しに費用がかかる。
 海老名市のような転用の考えは時機を得た話である。

 都心など大都市の市街地にあるポンプ場、下水処理場(水再生センター)の非常用発電機燃料備蓄についても、このような発想があってもよいと思う。


2013年 下水道技術のメッセージ (13) 3月11日 「経済学の忘れもの」

(竹内宏著、日経プレミアシリーズ、297ページ、2013年2月22日刊)

 私は、今から35年ほど前、雑誌「世界」の連載された「路地裏の経済学」という記事を読んで、都庁の課長試験を合格した。
 当時の記事は、経済学と書いてあるがむしろ経済学を使った社会学であって、高度成長経済の表と裏を小気味みよく分析し、近未来を示唆するものであった。

 その著者の竹内宏氏が最近、「経済学の忘れもの」という本を出した。
 早速読んでみると、やはり経済学は書かれておらず、今度は歴史学、世界史の竹内式分析であった。

 内容は、キリスト教、儒教、イスラム教について世界史的に分析し、現在の世界の混迷を描いている。
 とはいっても竹内流に、グローバル化の名を借りたアメリカルールの押し付け、中国や韓国の日本への「仕返し」の理由、驚異的な出生率でキリスト文明を押しのけているイスラム諸国、など庶民目線で分かりやすく語っている。

 竹内氏が最も書きたかったのは、最後の章「日本の未来」の22ページだろう。なぜ、日本が凋落したか、これからどうして行けばよいかをさし示している。
 世界史的には宗教を大切にしてきた民族は他民族に支配されてもたくましく生き残ってきた。しかし、残念ながら日本に宗教を求めるわけにはいかないので、宗教の代わりにイエ社会を取り戻さなければならないと説いている。
イエ社会とは地域社会、日本の伝統ということのようだが、日本のよい価値観を見直せ、ということだろう。。

 もう一つのポイントは女性の処遇。日本の人口減少現象の根底には女性の処遇の低さがある。
例えば、女性の企業や公務員幹部ポス比率を40%に義務付けることや、女性の政治的発言権を増すために子持ち女性は子供の数だけ選挙権を与える制度を提案している。

 情報過多のスマホ時代に、自分の頭で考えることを教えてくれる一冊である。


2013年 下水道技術のメッセージ (12) 3月8日 「二つの災害対策」

(2011.5月撮影 津波で破壊された宮城県南三陸町の市街地)

災害対策には、経験的災害対策と予想的災害対策があると思う。

 東日本大震災で10mの大津波が襲うと、10mに耐えるような災害対策がいっせいに行われた。
 既往最大災害の災害に備えるのは災害の常識であ。
 これが経験的災害対策である。

 しかし、災害は二度と同じ形で襲ってこないものだ。
 それは津波高さだけでなく、液状化や火災、大停電、等との複合災害の様相を呈している。

   複合災害の組み合わせは多数あり、それぞれの形に備えるのは不可能ん近い。
 この変化に対応するのは予測的災害対策しかない。

 経験的災害はBCPに乗りやすい。
 被害を想定して、最小の事業継続に努める。

 一方、予測的災害は災害を具体化するシナリオに乗りにくく、BCPになじみにくい。
 経験的災害対策が従来のシナリオ型BCPで支援できるのに対して、こちらは、災害対策の能力を前提としたリソース型BCPになるだろう。

 予測対策は、災害資材を十分に配置するのは難しく、人的能力に大きく依存する。
 人間は、機械に比べて柔軟で変化に強い。

 まして、千年に一度や一万年に一度しか起きない事象にも耐えるには人間の力に依存する部分が大きくなる。

 経験的災害対策と予測的災害対策は車輪の両輪で進めなければならないはずだが、前者が重視されているような気がしている。

 災害時に技術者が行うべきことは大きい。

 


2013年 下水道技術のメッセージ (11) 2月27日 「明治神宮」

(2020東京オリンピック候補バッチ。明治神宮は近代日本のスタート台。2020東京は成熟都市へ踏み切れるか。)

 最近、新潮選書にこだわっている。
 多少分厚いが、その道一筋の研究者が半生かけて築いてきた研究成果を1冊にまとめて世に出している。
 最近では、沖大幹先生の書かれた「水危機ほんとうの話し」や資生堂の研究者が執筆した「皮膚は考える」が傑作であった。

 そんな中、2月下旬に書店で新潮選書「明治神宮」今泉宣子著に出会った。

 神社にはあまり興味はないが、今年は伊勢神宮の式年遷宮の年で、20年ぶりに内宮の正殿を作り直す。
 20年で作り直す理由の一つは技術伝承。正殿の図面などは一切なく、宮大工が口伝でミリ単位に正殿を再現するそうだ。

 このようなこともあり、本書を手に取ってみると、明治天皇が崩御されて大正時代に入り、東京に社会インフラが整備され始めた時代に、実業家渋沢栄一と東京市長阪谷芳郎が明治神宮造営の運動を進めたところから話が始まっていた。
 私は下水道技術者だが、この時代に日本最初の下水処理場である三河島汚水処分場が建設されたことと重なり、興味が湧いてきた。

 明治神宮の位置は東京市内代々木練兵場の近くに決められ、ここに森(杜)を作ることから始まった。森づくりは100年の計である。伊勢神宮も含めて、神社の森は針葉樹が多いが、当時の東京市は煙害がひどかったので大気汚染に強い広葉樹を植林することにした。

 大正時代の東京市は近代工業の勃興期で、市内に排煙処理装置のない小規模の重油又は石炭火力発電所が多数点在していた。
 本書では、最寄りの淀橋浄水所の煙突から立ち上る煙の写真が掲載されていたが、当時nの鉄道会社や東京市水道課は自前で発電所を持っていて、そこから排出される大量の煙が社会問題になっていた、ということである。

 植樹には全国から青年団員13,000人が勤労奉仕で集まり同じく全国から寄せられた10万本の献木を植樹した。
 このような全国動員は、単に神宮を作るということではなく。国家プロジェクトの参加しているという教育的効果もあったとしている。

 また、東京にブランドショップが軒を連ねる表参道という街があるが、ここは明治神宮の参道のことで明治神宮造営時に一緒に建設された。表参道からJR原宿駅に向かって歩くと、ケヤキ並木が美しいところである。
 表参道には大正15年に鉄筋コンクリート製の同潤会アパートが作られて評判を呼んだ。当時としては最先端のアパートで、水洗便所もついていた。
   つまり、明治神宮造営は街づくりでもあった。

   神宮外苑の絵画館も明治神宮造営の一環であり、絵画選定、展覧を通じて近代日本の歴史継承、国史編纂の一翼を担った。横山大観や川合玉堂も参加したが、「史実」と「写実」のせめぎあいがあったそうだ。
 外苑には野球場や相撲場も作られた。

 つまり、本書は明治神宮造営を通じて、人づくり、街づくり、歴史継承を進めてきたと結論づけている。

 明治神宮造営に匹敵する昭和のプロジェクトは東京オリンピックだろう。
 ここでも、人づくり、街づくりというビッグプロジェクトに関わる懐の広さがあった。歴史継承やナショナリズムの発露もあった。

 そして2020東京オリンピック誘致へ向けて動いている。
 誘致できれば、成熟都市東京の姿を内外にアピールすることになるだろう。

 2020年に明治神宮造営からちょうど100年になる。
 本書は、次の100年を見据えたメッセージでもある。


2013年 下水道技術のメッセージ (10) 2月21日 「インド展開」

(200人近くの参加者は老若男女。予定の2時間を越えて、熱心に聴講した。)

 新ビジネス塾は毎週木曜日夜に開かれている。
 2月14日は「インドの成長とともに歩む日本企業の方向性」。
 小川紘一先生の講演が興味深かった。

 講演の骨子は、中国市場が怪しくなった昨今、次はインドという安易な発想はいただけない。
 確たる知財経営戦略を持つべき、ということだ。

 話の概要は以下の通り。
 現在の日本の低落は、100年ぶりに現れた世界の産業構造の転換に伴っているものだ。
 この産業構造の転換の底にあるのはデジタル化、オープン国際標準化であり、転換に対応するには、ものづくりからの脱却が必要であるとする。

 この観点で適地良品・適地適価をめざして、ハードウエア大国日本はソフトウエア大国インドと組む。

   インドを巨大な市場と見たり、安価な労働力に期待するのはこれまでの中国モデルの延長でうまくいかないだろう。

 日本企業はインド企業との独自の協業モデルを作る必要がある。

 そのためにはインド社会都インド文化を徹底的に研究することが大切である。
 現代インドを理解する上で、多くのインド人が日常生活で読み続けているリグ・ベータは欠かせない。  

 (リグ・ベータ:古代インドの神話で、天界を過酷なやり方で統治する天帝帝釈と阿修羅との戦いの物語)  


2013年 下水道技術のメッセージ (9) 2月11日 「新ビジネス塾」

(一新された東京駅赤レンガの夜景、駅前は高層ビルが取り囲む。ここには駅前ビジネス塾が無数にある)

 2月7日夜、東京駅の近くの三菱ビルで開催された「知的資産経営新ビジネス塾」を聴講して妹尾堅一郎先生のいきのよい講演を聞いた。

   テーマは「技術を生かすデザイン・ドリブン・イノベーション」であった。
 デザイン・ドリブンとは耳にしない言葉だが、デザイン優先という意味で、デザインは意匠より広い概念で、「企画」に近い意味だった。
 あえて言えば、「技術より企画構想力優先のイノベーション」に近い。

 講演では、長期低落日本の反省を込めて以下の日本の7つの神話を掲げた。
  1.技術力=事業競争力優位の神話
  2.国内競争=海外輸出の神話
  3.自前主義万能の神話
  4.高品質・高安定性優位の神話
  5.製造業=ものづくりの神話
  6.知的財産権大量取得優位の神話
  7.国際標準降臨の神話

 その上で、ビジネスモデルは模倣、改善、創新の流れがあり、中国は模倣の段階を越えようとしているし、韓国は創新に入ろうとしているとした。

 世界市場はG7の時代からG20、BOP(Base of Pyramid),、50億人となり、グローバル化、高品質高性能の時代は終わったと述べた。

 これまでは、創造→保護権利化→活用であったが、これからは価値形成・事業構想→競争力デザイン→知財調達・リソースアレンジメント→デザイン・ドリブン・イノベーションへと進む、と解説した。

 マーケットは、メディアデバイス、サービス、コンテンツが、1:1:1がN:N:Nの関係、すなわちネットワークの関係に変化した変わった。例えば、ラジオやテレビはワンセグやスマートフォンで聴いたり見たりする時代になった。

 この傾向は、価値がベンダーからユーザーに移行したことを意味している。
 ベンダーが企画したものをユーザーが選び、ユーザーが価値形成をする時代に入った。
 例えば、パック旅行から自由旅行への流れ、シリコン容器で高性能電子レンジが汎用電子レンジで済むようになった事例を挙げた。

   日本の得意なデジカメは、フイルム、現像、表示というプロセスをユーザーの手元に集めた。
 これは価値形成をベンダーからユーザーへ移していることである。
 しかしデジカメは同時に高機能・多機能化も進んだ。

 これからのデジカメは多量の画像データーを記録し、後ほどユーザーが必要な情報を引き出す方向に向かうだろう。
 例えば、デジカメの高性能自動焦点技術についても、これからはピントを合わせないで記録した画像データーから、ユーザーがニーズに合わせて自分のパソコンでピント合わせていく方法に変わっていくだろう。
 テレビも、大量の映像データーをユーザーに流し、ユーザーが好きなタレントやサッカー選手を中心にした番組に編集して楽しむ時代になるだろう。
 多くの分野で価値形成がユーザーに移る。

 これがデザインドリブンイノベーションの世界である、技術を生かすデザイン・ドリブン・イノベーションが求められている、と述べた。  


2012年 下水道技術のメッセージ (8) 2月4日 「京都市上下水道局」

(職員のアイディアで作った京都市上下水道局のポスター。背中のロゴがカッコいい。)

 1月31日に京都市上下水道局でEICA東日本大震災調査研究の講演会を行った。

 50人近くの職員が集まり、災害対策という視点で2時間ほど「EICA東日本大震災調査報告」の話をした。

 京都市は被災地の東北から離れていて、津波も来ない地形だが、津波の被害と復旧の話をすると大いに反響があった。
 アンケートでは、海水侵入による機器被害や復旧の様子、復旧時に汚水排水、簡易沈殿、簡易ばっき、中級処理、高級処理というプロセスをたどること、人命優先の具体策等の話しに興味を持たれたようである。

 いつも最後に述べる、災害を学び、正しく怖れ、対処するという主旨は理解していただいたようである。

 災害技術の承継とは、学ぶこと、怖れて周到な準備すること、そして覚悟を持って楽観的に対処すること。

 日常の業務の合間にこなさなければならない。
 日常使えない技術は災害時に使えるはずがない。
 災害対策は日常の業務に組み込むのが合理的な形だろう。

 難しいが避けられないことである。


2012年 下水道技術のメッセージ (7) 2月2日 「モロッコ」

(赤茶けた岩の塊のような砂漠の集落、カスバとは砂漠の城塞の意味)

 1月中旬にモロッコを訪れ、約2000qの砂漠バスツアーに参加した。

   モロッコは北西アフリカに位置していて、国の中央に北東から南西にアトラス山脈が走っている。
 アトラス山脈の海側(北西側)は気候温暖で降雨も多く、カサブランカやラバト、フェス等の主要な都市が位置していてまるでヨーロッパの様な風景が続いた。

 アトラス山脈の内陸側(南東側)は荒涼とした砂漠地帯で、赤茶けた岩や砂が延々と続く。
 街道の所々にあるオアシス集落は、カスバと呼ばれている土壁の要塞を彷彿とさせる。

 背骨の山脈が国を二分するのは日本海側の大雪と太平洋側の空っ風の日本と似ている。
 風土が国民性を形成するというが、アトラス山脈の存在でモロッコでは南欧とアフリカが共存していることになる。

   ところで、砂漠に生まれた民族はこの赤茶けた風景を見ると落ち着くという。
 日本人が緑の風景を見て安らぐのと好対照である。

 きっと、生まれた時に最初に目にする景色の色というものがあって、その色が安らぎになるということのようだ。
 車窓から毎日、赤茶けた風土、建物を見続けていると、わずかだが砂漠の民の気持ちが分かったような錯覚に陥った。

 朝方に砂漠を1時間程歩く機会を得たが、人が歩くところにはラクダの糞が落ちていた。
 その糞は砂漠に生息するネズミの餌になる。
 そして、そのネズミを食べるキツネもわずかではあるが生息しているという。
 不毛で生物の存在を許さないように見える砂漠にも食物連鎖があることを知った。

 訪問中にアルジェリアでテロが発生して騒然となったが、モロッコ国内では警備が強化するような状況にはなかった。
 県境では国道で警官が検問する姿があったが、モロッコでは日常的なこと、警官に緊張感は見られなかった。

 しかし、モロッコとアルジェリアは隣国どうしで国境管理の難しいサハラ砂漠は地続きである。
 モロッコ中部の大都市マラケシュの広場では2年前にアラブ過激派の自爆テロがあり、たくさんの死者が出ていた。
 そういえば、ホテルのBCCやNHK国際テレビで盛んにテロの結果を報道していて、空港で入手した新聞ではテロが大きく報道されていた。

 モロッコでは、回教徒が90%を越える。  砂漠の果てのどんな小さな街に行ってもモスクがあり、一日に何回もお祈りをしている。
 砂漠のように環境が厳しければ厳しいほど、宗教の重みが増していく、ということだろうか。


2012年 下水道技術のメッセージ (6) 1月29日 「地下水路」

(カッターラの地表には大きな砂山が続く。これは地下水路のしゅんせつ土の山)

モロッコでは写真のような砂漠の地下水路カッターラを見てきました。

 カッターラはアトラス山脈から流出する地下水を砂漠のオアシスまで導く地下灌漑水路で、モロッコでは600組も作られていたそうです。
 カッターラはダムの機能もあり、ここは砂漠ですから、水はすぐに蒸発してしまうので地下水路にしたようです。

   写真の井戸の周りに積まれた砂山は、カッターラの中にたまった砂をしゅんせつしたもので、水路が水で浸食されたり、地表の流砂が入りこんだりしたものだそうです。

   カッターラの内部は大きな空洞になっていて、細長い地下ダムのようにもみえました。

   このような地下水路はアラビア語ではカナート、ペルシア語ではカレーズとよばれていて、山岳地帯と砂漠を結ぶ生命線として多くの労働力を投下して世界各地の砂漠地帯で作られています。

(カッターラの内部は大きな地下空間で、まさに地下河川を形成している)

 カッターラができた背景には、水が貴重である、砂岩だから掘りやすい、オアシスが大きな富をもたらす、という世界共通の条件があるようです。

 一方で、砂岩ですから水で浸食されたり、砂嵐等による流砂で埋まりやすいなどの問題もあり、維持管理を怠るとすぐに使えなくなるようです。

 カッターラは観光ポイントになっていて、地下水路に入るには10ディラハム(110円)が必要になります。
 入場料を払って階段を降りると写真のような地下水路に入ることができます。

   地下降りると、数十m置きに、天井に採光窓のような穴が開いています。
 この穴は、地表からみると井戸に相当し、水を汲んだり地底にたまった泥土を掻き出す装置になっています。

 地下水路は砂岩でできていて、手で擦ると簡単に表面がはがれます。地震でもあれば壁は簡単に崩壊しそうな状況でした。

 農業用水は社会の基本インフラでした。
 日本でも江戸時代から明治時代にかけて新田開発で多数の用水路が全国に張り巡らされました。

 カッターラと日本の用水路を比較すると興味深いものがあります。
 インフラの基本が見えてきます。

 なお、カッターラのほとんどは、現在は圧送管に置き換わって役目を終わっています。


2012年 下水道技術のメッセージ (5) 1月27日 「価格交渉」

(大きなアンモナイト化石はモロッコの思い出になった)

 所用でモロッコを訪問してきた。  モロッコの店には定価が書いてないことが多い。

 もちろん、スーパーなど都市部の店舗は定価制だが、交換ものや土産風のものは定価がついていないことが多い。

   定価がついていても、交渉で値引きに応じてくれることもある。

 モロッコに行って、ぜひ購入しようと思ったものに化石がある。
 化石は、なぜか砂漠で多く産出している。

 米国のネバダ砂漠や中国のゴビ砂漠、そしてアフリカのサハラ砂漠が化石産出地として有名である。

 ということで、砂漠の町エルフードのホテル売店で化石を見つくろった。

 そこで、写真の様なCDディスクと同じくらいのかなり大きいアンモナイト化石をめぐって価格交渉に及んだ。

 最初に店員が示した価格は200ディラハム(約2200円)であった。
 この手の化石は、日本の東急ハンズでは2万円はするようだ。

 そこで、私は半値の100ディラハムでどうかと持ちかけた。
 店員は笑いながら150ディラハムではいかがと、値を下げてきた。

 ここでひるんでは、と私は首をかしげると、「それならいくらでなら買うのか」と、いよいよ本音の交渉になった。

 そこで「130ディラハムなら買う」ということで交渉が成立した。

 モロッコの土産で、もう一つ有名なのは皮製スリッパである。
 こちらの方は、マラケッシュの有名な大きな市場フナ広場の店で交渉した。

 店頭のスリッパを手に取ると、店員がいるのに道路からおじさんが顔を出してきて「気に入ったか」と聞いてくる。
 おじさんがいろいろとウンチクを述べてサイズを合わせてくれた。そこで値段を聞くと、「160ディラハム(約1800円)」といった。

 日本で、モロッコの番組を見ていた時には「50ディラハム」程度、といっていたのを覚えていたので、即座に買うのをやめることにした。
 店を出ていこうとすると、おじさんは急に態度を変えて、すぐに例の「いくらなら買うのか」に入ってきた。

 そこで「40ディラハム」というと、おじさんは「OK」といって交渉成立となった。

 不思議なのはそこからで、交渉が成立するとおじさんはさっさと店から出て道を歩き出した。
 その後の品物とお金のやり取りは、終始黙っていた店員が行った。

 どうみてもおじさんはこの店主人ではない。関係者でもない。

 おそらく、英語をしゃべれる他の店の者なのだろう。
 外国の客が来た時には助っ人に駆けつける、という合意が店とできているようであった。

 それでは、私が160ディラハムでスリッパを買ったら、その上がりは誰のポケットに入るのだろうか。

 よく分からない関係であった。

 モロッコに行く前に見た番組では、モロッコの人が、「価格交渉は面倒のように見えるが、実は売り手と買い手が話しあって両者の合意点を見出すものであり、決して売り手が買い手をだますものではない」と説明していた。

 このように考えると、面倒と思える価格交渉も一種のコミュニケーションのように思えてきた。
 その証拠に、損した得したよりも、品物をめぐってやり取りした思い出がはっきりと残っている。

 急に現れ、急に消えていったとぼけたおじさんの顔が忘れられない。


2012年 下水道技術のメッセージ (3) 1月7日 「1円の新古本」

 前回に角川文庫のドイツ小説「ブラックアウト」を紹介したが、日本でも大停電を書いている小説があった。
 それは福田和代の「TOKYO BLUCHOUT」創元推理文庫でドイツのより1年前の平成22年8月に発行されていた。

 そこで、入手しようと思いamazonの価格を見て驚いた。
 定価は987円であったが、中古本価格は何とたったの1円であった。
 ただし、amazonでは、新本は全品送料無料であるが中古本は250円かかる。
 つまり、251円で自宅まで配達してくれるということだ。

 ただし中古本販売は、amazonは仲介で販売は全国の中古本業者の出店の形を取っている。
 amazonはリスクは負わないでネットワークを提供するビジネスである。

 そういえば、正月に自宅の近くのブックオフに立ち寄った時に文庫本がどれも1冊105円で売られているのには驚いた。
 どの本も、ほとんど読んだ形跡はなく、明らかに新古本だった。
 思わず、岡田光代の「ニューヨークの魔法の散歩」シリーズ、文春文庫を4冊買った。
 ニューヨークのエッセイ集で、最新の巻は平成23年11月発行のものだった。

 ちなみに、当方の著書「考えるヒント」は定価830円が中古本362円で売られている。

 これでは、新刊本を買う人はいなくなるだろう。

   確かに、一度読んだ本は二度読む可能性は少ない。
 それに、読んだ本を大切に取っておくほど家は広くない人が多いのだろう。
 出版社も同じで、在庫本を抱えると持っているだけで毎年税金がかかってたまらない。

 それにしても、amazon中古本の定価1円の本は理解しにくい。
 おそらく、新古本を廉価で仕入れて、仕入れ直後は定価の半値+送料で販売し、売れなくなったら在庫一掃のために1円販売をしているのだろう。
 ブックオフの105円販売も類似の思惑だろう。

 このようなマーケッティングは本以外にも季節商品に多い。
 例えば冬の衣服は、9月頃から販売初めて、年末にはバーゲンで半値近くまで下げる。年が明けて正月すぎるとほとんど半値以下の捨値で売りきってしまうという商法だ。
 それでも、9月から2月までの6か月で、平均すれば十分利益がでる。

 これに本の販売法も近づいてきたということであろう。
 大量仕入れ、大量販売、それに個性化を加えてヒットしているユニクロである。
 amazon、ブックオフも、インターネットや宅急便、全国チェーン網等の新しさで販売力を強化している。

 そもそも、これまでの本ビジネスは再販制度の模範性であって、値崩れすることはなかった。
 中古本も、街の片隅の古本屋で売られていたころはしっかりと値がついていたが、amazonやブックオフが参入してきた途端に価格破壊が起こり、本の流れが変わった。

 以上の動向は、消費者が支持するということで拡大していく。
 逆にこれまでの本の流通は、供給サイドの都合を重く見て消費者を軽視していたと言わざるを得ない。

 つまり、私たちは、実は本を買っているのではなく本の情報にお金を出しているということを供給サイドが軽視していたということである。
 だから、新しい情報にはたくさんのお金を払うが、古くなった情報や一般に広まった情報にはお金を出しにくい、ということにすぎない。

 とすると、下水道にも同じことがいえる。
 下水道は下水道施設というものにお金を払っているのではなく、下水道の機能、汚水を集めて浄化するという機能、ソルーションにお金を払っている。

 したがって、施設を建設し、維持管理するのが目的ではなく、汚水を集め、浄化するのが目的である。
 とすれば、現在の下水道施設がこのままでいいはずがない。
 ソルーション提供型の下水道サービスとは何か、下水道サービスの陳腐化とは何か、amazonやブックオフが進出する前に考えて対応していく必要があるのではないだろうか。


2012年 下水道技術のメッセージ (2) 1月4日 「BLACKOUT」

(平成24年7月発行 マルク・エルスベルグ著 角川文庫)

 正月休みに角川文庫の「ブラックアウト」というドイツの小説を読んだ。

上下で1000ページを越えるボリュームであったが、一気に読み終えた。
 主なあらすじは、ハッカー集団がヨーロッパのスマートメーターと発電所のSCADA監視制御システムに悪質なウイルスソフト(スタックスネット)を侵入させ、10日間に渡ってヨーロッパと米国を停電させる、というものだった。

 この小説の背景には、イスラエルがスタックスネットを用いてSCADAを経由してイランのウラン遠心分離工場の機器を攻撃した事例や、福島第一原発が大津波による停電でメルトダウンした事例、その際の避難所の劣悪環境など、今日的な背景を駆使しており、現実感の迫ったストーリーが展開する。

 とりわけ、ユーロッパの電力網は国をまたがってネットワーク化しているだけに、どこかで限界を越えた事故が起こるとドミノ倒しのように停電がヨーロッパ全土に波及してしまう。発送電分離も大停電には弱い。
大停電の復旧には外部電力を必要としない水力発電所稼働が最初に必要になるというところは、何かで学んだことがある。

 クラウドコンピューティングやスマートメーターについても、便利になった分だけハッカー攻撃からの脆弱性が増す事実が論じられている。

 そもそも、電気が失われると生活の基盤が損なわれ、弱者ほど大きな犠牲が出てしまう。東日本大震災では社会秩序は保たれたが、このブラックアウトでは食料や燃料の強奪、暴動という弱肉強食の世界が現れる。

  この大停電はハッカー集団をインターネット上で補足し逮捕することで収束するが、SCADAにウイルスソフトを埋め込んだのがY2Kというコンピューター2000年問題の時という設定にゾッした。

 この時小生は、半年かけて下水処理場の全てのコンピューターをチェックし、それでも万一に備えて除夜の鐘を聞きながら職場に泊りこんだ記憶がある。
 2000年当時は、古いコンピュータは制御に使っていないし、最新のコンピュータはカレンダー切り替え機能が付いていた。だから、中途半端なコンピューターが暴走する可能性が大きい、ということであった。
 この懸念が、ICTに代わってまた繰り返されている。
 現在は、当時に比べて格段に情報化が進み、ネット依存社会となっているので、その影響は計り知れない。

 なお、「下」はやや筆の勢いが衰えて平凡なサスペンス小説に変わっているのが残念だが、ICTを真摯に受け止めようとする作品である。


2012年 下水道技術のメッセージ (1) 1月1日 「お辞儀」

(東北新幹線はやぶさ、この車両に勤務するスタッフは大きな誇りを持っているに違いない)

昨年の12月30日、暮れも押し詰まった昼下がりに、横浜駅にあるそごうデパート7階のレストラン街から帰るときのことだった。

 エレベーター前で下に降りるエレベータを待っていると、白い制服を着た板前さんが別の職員専用入り口からレストラン街に入ってきた。
 その時、レストラン街に入る時にごく自然に立ち止まり、軽くお辞儀をして再び歩き出し、自分のレストランへ向かっていった。

 お辞儀をした板前さんの前には子供たちしかおらず、特別にお得意さんや先輩がいてあいさつしたわけではなかった。

 彼は自分の職場に出勤する際、職場に一礼してから入って行った、ということをしばらくして気付いた。

 そういえば、新幹線でも車掌さんや社内販売スタッフは車両に入ってくるとるときや出ていくときに必ずお辞儀をしている。
当然車内の乗客に対して挨拶しているものと思っていたが、このレストラン街の一件で、乗客に対してだけでなく車両に対しても挨拶しているものと確信した。人によっては帽子を取ってお辞儀をしていくていねいな車掌さんもいるが、きっと、乗客がゼロでもお辞儀をしているに違いない。

 このようなレストラン街や車両に対して一礼する行為は、神社やお寺で参拝する行為と似ている。
 神社やお寺では、参拝・信仰の対象は三種の神器や仏像だが、鳥居や本堂にも手を合わせる。
 神社を参拝する時には、最初の鳥居で一礼するが、このとき鳥居の真ん中を通ってはいけない、一礼した後鳥居の左側をくぐりぬけていくという教えがある。
 とすれば、偶像崇拝の延長に職場に対するお時儀があるに違いないと思った。

 ひるがえって、下水処理場に勤務している職員は、職場に入る時に一礼することはあるだろうか。
 私自身は一礼した記憶はない。

 職場を誇りに思い、事故のないことを願い、下水道利用者の利便を考えたとき、板前さんの自然な行為が気になった。  


2012年 下水道技術のメッセージ (58) 12月26日 「混合展示」

(白内障で目が不自由なので係員にすり寄って餌をせびる旭山動物園の老アザラシ)

 12月21には、日本下水道協会で、職員を対象とした研修会に講師として参加してきました。
 テーマは「下水道の価値を考える」を基本としたものでしたが、導入部分の旭山動物園の話に手ごたえがありました。

 下水道の価値を見つけるには、絶え間ない付加価値の発見が必要である、というなかで、事例として動物園のメッセージ発信を話しました。

 旭山動物園はもともとは何の変哲もない普通の動物園でしたが2006年に動物の行動展示で年間300万人も集める大動物園に発展しました。話はそれからのてんまつです。

 旭山動物園が編み出したペンギンの雪中行進など、数々の行動展示は他の動物園がコピーして全国に展開して行きました。
 その結果、旭山動物園の集客力は急速に低下して行くかに見えました。

 ところが、旭山動物園は次に一手を着々と準備しているようでした。

 その一つが混合展示です。

 行動展示は、どちらかというと動物の元気な姿・行動を客の身近で見せるということでした。
 混合展示は、一つの檻の中に異なる動物を入れて相互の関係も見せるというものでした。

 ここで旭山動物園は一工夫して、同じ動物でも年齢の違う高齢動物や体の一部を失った障害動物を配置したのです。
 例えば、高齢で白内障のアザラシや、片翼失って飛べない鷲を展示していました。

 このような動物は、従来は若くて元気な動物の中で見劣りをするので展示する価値のないものとされていましたが、旭山動物園ではあえて前面に押し出して混合展示をしていました。

 その決断の元は、動物に対する愛情であるしいつくしみであると感じました。
 どのような動物でも社会のどこかで何かの役割を果たしているというメッセージを強く受け止めました。

 このような事例は下水道の価値を考える時有効なものです。
 市民には見えにくいし、目立たない都市インフラですが市民生活に大いに貢献しています。
 それを伝えるには、行動展示、混合展示、そしてそれに次ぐものを考え考案して行く必要があるということです。
 困難ですが大切なテーマです。


2012年 下水道技術のメッセージ (57) 12月12日 「公開講演会」

 12月7日の午後、新宿の角筈区民センターで「下水道の価値を考える」の公開講演会を行いました。

 これは東京下水道設備協会が主催するもので、協会会員、下水道関係者、都民等、広く呼び掛けたものです。

 当日は160人程集まり、90分の講演に皆さんが耳を傾けました。
 講演の概要は以下の通りです。

1. 下水道の価値とは
 下水道の価値は時間とともに忘れられるものであることを示し、付加価値を作り続けて都民に価値を提供続けることが重要である事を説明しました。
 また、下水道の価値は、性能、分野、配置空間で構造化できることを示し、価値に戦略性をもたせることの重要性を示しました。

2. 下水熱利用の変化
 下水熱は、3つの理由で資源としての価値が低下していることを示しました。
 そのため、これからは個別分散的な下水熱利用に向かう可能性があることを示し、ターゲットを絞り込む必要性を強調しました。

3. 紙製下水管・Zパイプの健闘
 横須賀市等でZパイプが40年近く使われてきたことを例示し、途上国向けの下水道システムのコストは日本の15%まで圧縮しなければならないことを述べました。
 15%の根拠はリバース・イノベーションの考え方です。

4. 海水浄化プロジェクトへの期待
 合流改善事業の一環としてお台場ビーチで行った海水浄化プロジェクとの事例を示し、ミティゲーション、都民の視点での施策の重要性を強調しました。

5. 汚泥処理の新展開
 東部スラッジプラントで進んでいる脱水機を炭化炉の炉頂に設置する脱水機のモジュール化を解説しました。
 また、北九州市日明浄化センターで稼働している農業機械用汎用エンジンを使用した小型消化ガスエンジンを紹介しました。
 このように機器がモジュラー化、汎用化すると、システム全体が大きく変わっていくことを説明しました。

6. 下水汚泥から金産出、その後
 長野県豊田終末処理場の汚泥溶融炉からの金産出と、放射性セシウム回収実験に使われている技術が、同じ「塩化揮発法」を用いていることを示し、下水から希少物質が回収できる可能性を説明しました。

7. まとめ
 下水の価値を模擬した「価値階段図」を示し、下水道は変わり続けなければならないことを伝えました。

 ご清聴ありがとうございました。


2012年 下水道技術のメッセージ (56) 12月4日 「東日本大震災連続シンポジウム」

(毎回、大講堂を満員にする400名以上の聴衆が全国から集まった)

 平成24年11月29日午後に日本学術会議(東京乃木坂)で「東日本大震災の総合対応に関する連続シンポジウム総括フォーラム」が開催されました。

 このシンポジウムは昨年12月から今回まで合計8回行ったものものです。

 シンポジウムの内容はUSTREAMで実況中継/されました。
 しばらくの間は、その録画 が閲覧できます。広告はスキップしてください。

 シンポジウム閲覧は前半、後半合わせて5時間近くかかりますが、後半の開始13分後付近に環境システム計測制御学会清水芳久会長(京都大学)のプレゼンがあります。
 その他、地震学会や原子力学会、土木学会、建築学会、機械学会、日本水環境学会など30学会の学会長が発表しています。


2012年 下水道技術のメッセージ (55) 11月26日 「ソハの地下水道」

(実話に基づいた映画「ソハの地下水道」は人間の多面性を描いていた)

横浜で「ソハの地下水道」という映画を見た。

   久しぶりのポーランド映画で、ナチス占領下のポーランドで、強制収容所へ送られるユダヤ人をポーランドの下水修理工が14カ月もの長い間、下水道管の中にかくまい、命を救う話である。

 今年の夏はポーランドを訪問したこともあり、必見の映画であった。  「ソハ」とは下水修理工の名前である。

 ソハは善人ではなく、むしろユダヤ人の弱みに付け込み金品を奪う小悪人であった。

 しかし、ユダヤ人たちを面倒みているうちに同情心が芽生え、自分の家族の危険も顧みずにユダヤ人たちをかくまい通すことになる。

 ソハの献身は、戦後イスラエル政府から表彰を受けたそうだ。

 ここで杉原千畝と結びついてくる。

 ところで、映画の中ではユダヤ人が隠れていた下水道管の中の場面が延々と続いていた。
 どぶ鼠がしょっちゅう現れるし、下水だまりにはウンチもプカプカ浮いていた。
 下水道管のぬるぬるした汚れも再現されており、まるで臭気が漂って来るようなリアリティがあった。

 映像は、地上との対比で牢獄の様な地下の下水道を描いていたが、その地上でもホロコーストがおこなわれていた。

 下水道管の中で14カ月も過ごすということは想像を絶することだが、そこに食料を運び続けるソハの行動も困難を極めた。
 決して善人ではないソハが、結果的にナチの権力に抵抗してユダヤ人をかくまい続けた。
 地上では小悪人だが、下水道ではヒーローという対比が興味深かった。
 そういえば、暗闇の下水管の中で、なぜかソハの姿だけは照明があたっていた。
 誰もが躊躇する下水の中にぐんぐん進んでいく姿はまさにリーダーだった。

 最後は、ソ連軍がナチスを駆逐して開放し、隠れていたユダヤ人が一人づつマンホールから出てくる場面で終わる。
 この場面は、「シンドラーのリスト」と同じ感動があった。

 なお、映画の中では下水道という言葉が一度も出てこないで、全て「地下水道」で通していた。
 また、映画のパンフレットでは、製作スタッフの一人が、「下水管の様な劣悪な環境での撮影は、もうこりごり」と述べていた。

   下水道関係者、下水道OBとしては、下水道を牢獄や逃げ道、地の底という設定で映画化していることに、何時もフラストレーションを感じている。下水道が地上の生活に不可欠であるというメッセージはどこにもない。
 この映画も下水道をかなりリアルに描いていただけに、欲を言えば下水道や下水修理工に対する目線を、もう少し丁寧に描いてほしかった。

 という訳で、この所、筆者は12月7日に東京新宿で行う公開講演会に向けて「下水道の価値を考える」の原稿を書いているが、今回の映画は少し複雑な心境で鑑賞した。


2012年 下水道技術のメッセージ (53) 11月17日 「ハリケーン・サンディ」

(ハリケーン・サンディはNYの地下鉄に大きな被害をもたらした)

10月29日、ハリケーン・サンディは米国東部海岸に深刻な被害をもたらした。

 サンディはニューヨーク市南部に上陸した。
 この結果、ハリケーンによる海面吸い上げ効果に太平洋からの東南風、それに潮位が重なり史上最大級の高潮発生となった。

 とりわけニューヨーク市の被害は大きく、市内各所で高潮による浸水が発生した。
 マンハッタン島南部では、4.2mの高潮に見舞われた。
 これまでの高潮最高記録である1821年の3.4mを0.8m上回った。

 このため、地下鉄や道路トンネルなどが水没した。
 また、強風による電線の切断や地下変電所の浸水などでニューヨーク州、ニュージャージー州などの広域で650万世帯が停電した。

 ニューヨーク州には14の下水処理場があるが、そのうち13は沿岸部にあり、市のハザードマップによると5か所は浸水可能性の大きい地域にある。

 一方、浄水所は内陸部にあり、浸水とは無縁であるようだ。

 この関係は、東日本大震災と似ており、結果として大量の無処理下水がハドソン湾やイーストリバーに放流された。

 海水が地下室やトンネルに浸水すると、機器や電気製品は腐食して使用できなくなる。

   サンディの情報をインターネットで検索していたらNational Unwatering SWAT teamという言葉が眼に入ってきた。

 ここにFEMAがサンディ被害復旧時に、出動要請していた。

 このチームは、米国陸軍工兵部隊に所属していて、排水専門家集団だそうだ。
 4人1組で、トレーラーにエンジン駆動方式口径16インチ(40cm)排水ポンプを搭載して出動する。
 場合によっては口径40インチ(1m)の大型ポンプを用意することもできる。

National Unwatering SWAT teamは9・11では崩壊したワールドトレードセンターの地下排水にも貢献したそうである。

 これに似た組織は、日本では緊急医療支援チーム(DMAT)がある。こちらは阪神淡路大地震の教訓で医療資源最適配分を目指し、災害発生から72時間以内の救命を目的に全国に組織化されている。
 基本は平時に医療資材を準備しておき、被災地には医師1人、看護師2人、事務1人の4人で自分の自動車で現地に出動する。
 スタッフは、普段は登録しておき、DMATの訓練や資格制度が完備している。
(水道公論誌平成24年7月号技術評論参照)

 米国より水害の多い日本でもこのような排水専門家集団を組織化した方がよいだろう。  


2012年 下水道技術のメッセージ (52) 11月10日 「公開講演会(下水道の価値を考える)のご案内」

東京下水道設備協会主催で公開講演会を開くことになった。

 テーマ「下水道の価値を考える」」
 日時 平成24年12月7日(金)14時から16時まで
 場所 東京都新宿区西新宿4−33−7 角筈区民センター(都庁の近く)
 受講料 無料

    講演は一般都民向きということだが、例年、設備協会のメンバーが多数を占めているそうだ。
 そこで、話の内容は最近の下水道技術、下水道戦略を中心にすることにした。

 具体的には、筆者が下水道専門誌に連載している話題から、最新式低含水率脱水機や海水浄化プロジェクト、金産出、下水熱利用の最近の変化なども織り交ぜて、東京設備協会員にも聴き応えのある内容にしたいと思っている。

 下水道の価値が東京の魅力になるような講演会に仕上げたい。

 年末の多忙な時期ですが、ご都合がつけばどうぞご参加ください。
 公開研修ですので、どなたでも参加できます。
 申し込みは下記のURLからどうぞ。

http://setubikyo.or.jp/main/H24_kouen.pdf/


2012年 下水道技術のメッセージ (51) 11月5日 「東日本大震災講演会」

(平成24年6月東京都庁都民ホールでの講演会。ここでは180人が集まった。)

10月末から11月初めにかけて、北九州市上下水道局と福岡市道路下水道局で「EICA東日本大震災調査研究」に関する講演会を行った。  それぞれの会場では、30人くらいづつ集まり、熱心に聞いていただいた。

 これは、今年3月にEICAから報告書を発行して以来、4月に神奈川県流域下水道事務所で始めた一連の講演会の一環である。  10月までに、関東近辺の5自治体に、延べ450人ほどの自治体関係者に講演を行ってきた。

 講演時間は2時間かかるので少し長いが、その内容は以下のとおりである。

1.東日本大震災の概要
2.電気・計装設備の被害
3.復旧・復興
4.東京都の震災対策
5.EICA報告書提言
6.まとめ

 長時間の理由は、2と3で被災した下水処理場の状況を確実に伝えるため、写真や図表を多用したことによる。
 とりわけ、仙台市南蒲生浄化センターが自主制作した「3.11記録・証言」の13分間のビデオは、自治体職員に取って身につまされる内容で、皆さん見入っていた。

 講演の締めくくりは、「災害と学び、伝え、対処する」ことの重要性を伝えた。
 「自分のこととして考えて欲しい」、という問題提起である。  その意味は、「自治体技術者としての役割を果たしてほしい」というOBからのメッセージである。

 講演をすると、幾つかの自治体からはアンケートのまとめが送られてきた。
その内容はおおむね良好であり、次の講演に役立ちありがたい。

 ご希望の自治体、団体には喜んで参上します。


2012年 下水道技術のメッセージ (50) 10月28日 「津波避難タワー」

月刊下水道11月号に高知県四万十町の「津波避難タワー」の話を書いたら、反響があった。

これはは標高15mで東日本大震災以前の計画されたタワーであり、平成24年3月に政府から発表された南海トラフ地震により想定できる津波高24,5mよりはるかに低かった。

 したがって、想定した津波が来るとひとたまりもなくなる。

 このことに対して、ある人は、15mの津波か25mの津波かは地震発生時に地震の強さで分かるはずだから、あまり心配ないと指摘してくれた。

 千年に一度の25mの津波なら、大震動が起こるはずである。又は、大津波警報が出るはずである。その時はタワーに行かず、山の方に逃げるべき、ということである。

 つまり、自分で判断することが大切あるということだろう。


2012年 下水道技術のメッセージ (49) 10月21日 「下水道の講義」

 10月19日の午後、西船橋にある東京経営短期大学で下水道の講義を行った。

 この大学は、縁があって毎年この時期に総合講座の一環として下水道の講義を行っているが、今年は東日本大震災の話を重点的にした。

 総合講座は市民にも開かれていて、いつもお見えになる方を含めて10人弱の地域の方もご一緒に聞かれた。

 この所、自治体下水道技術者を前に話をすることが多いので、今回はいささか雰囲気が違った。

 皆さんは、そもそも下水道にはあまりご関心がないので、明治時代、それに開発途上国や震災直後の例を示し、「下水道がなかったらどうなるか」という話から入った。

その後、「簡単な下水道の仕組み」、「下水道管に入る疑似体験の話」、「下水道から金が取れる話」などを面白おかしく話した。

 後半は、東日本で下水処理場が受けた深刻な被害を写真で示したが、下水道にはこだわらず、特に「津波の怖さ」、「津波の時の情報の集め方」、「自分の命の守り方」、等を伝えた。

 最後に「南海トラフ地震」を例に「正しく恐れる」事を加えた。

 平成生まれの若者にどれだけ下水道と津波の話が伝わったか、いささか心配もあったが90分間、皆さんを寝かさなかったことはまずまずであった。

   以上、65歳の技術者として一応役割を果たせたという充実感で大学を後にした。


2012年 下水道技術のメッセージ (48) 10月18日 「広島市庁舎前の水田」

 所用で広島市訪れ、市役所庁舎前に小さな水田が作られていて、刈り取られた稲が逆さにして乾されている光景に出くわした。

全国のどこの農村でも目にする光景が、広島市の真ん中に出現した。
ここを通る人は、田植えから始まり、夏の草取り、秋の稲刈りまで季節を見続けてきたに違いない。

むかし、六本木ヒルズの屋上に水田を作った話を聞いたことがあったが、高層ビルでは一般の人の眼には触れない。
米が多くの手間をかけて育てられていることを、多くの人に知ってもらうには、絶好の企画だと感じた。

水田を下水道に置き換えてみると、下水道のアピールのヒントになりそうだ。


2012年 下水道技術のメッセージ (47) 10月8日 「アウシュビッツ強制収容所」

(アウシュビッツを案内してくれたポーランド人英語ガイド。強制収容所ガス室跡前で説明。)

ポーランド・アウシュビッツ訪問の記事を「下水道情報」に掲載した所、「私も行ったことがある」という声が幾つも寄せられた。

 その中に、以下の話があり感銘を受けた。

「ユダヤ人を殺戮したナチスも当時はドイツ国民の熱狂的な支持を受けていた。愛国心をあおり過ぎると善良な国民でも残酷な人間になってしまう。」

 最近の中国・韓国の反日抗日には、愛国心で国をまとめるという意図がありありだ。
 この背景には、両国が国際社会で力をつけてきたことと、自国内政治が不安定であること、日本の事なかれ主義などがある。

 しかし、愛国心に呼びかけるのは危険な一手で、国家の指導者としては使ってはいけない禁じ手を行使しているようだ。

 中国がここまでやるのだから、日本も負けないように愛国教育を徹底する必要がある、という理屈は、一見分かりやすいが危険性をはらんでいる。
 もちろん、だからと言って一国平和主義や自虐外交は国を滅ぼす。
 適切な愛国教育が必要なことは当然なことである。

 愛国心と国際社会とのバランスが難しい。

 中国・韓国の国民はアウシュビッツに学ぶべきである。

 少し長くなるが、以下に記事の一部を引用する。

(アウシュビッツの下水処理場跡。鉄条網の向こう側に残存していた)

〜アウシュビッツ強制収容所〜

(ポーランドの古都、クラクフ)
ポーランドに着くと、ワルシャワからクラクフに鉄道で移動して2010年に開設したばかりのクラクフ歴史博物館を見学しました。
ここにはスピルバーグ監督の映画「シンドラーのリスト」で有名なシンドラーを基軸にナチス弾圧下のゲットーや強制収容所の資料が斬新な手法で展示されていました。
シンドラーはナチス党員でしたが、工場経営のためとはいえ、結果的に多くのユダヤ人の命を救いました。重いテーマにも関わらず多数の若者が見学に来ているのには驚きました。

(息をのむアウシュビッツ)
ツアーバスで到着したアウシュビッツは快晴、気温22℃でした。強制収容所当時から69年も経過していましたが、現在でも驚くばかりのリィアリティを残していました。
蚕棚のようなベッドや穴倉のような独房、二重の高電圧鉄条網やガス室、弾丸の跡が生々しい銃殺処刑場や遺品の数々など、息をのむ光景が次から次へと展開しました。
冬のポーランドは極寒なので、強制収容所に収容されると処刑されなくても数カ月で命を落としてしまう被収容者が多数いました。
アウシュビッツはイタリアやフランス、ソ連など被収容者のいた国々からほぼ等距離にあり、鉄道で連行するのに都合のよいロケーションでした。
強制収容所は、後にアウシュビッツ近隣のビルケナウにも作られました。いずれも施設は兵舎のように整然と配置されていて、ナチスからみれば合理的な軍事施設でしたが、ユダヤ人からみれば殺人工場でした。

(歴史の語り部)
ポーランド人のガイドは、分かりやすい言葉でかみしめるように重い話を伝えてくれました。
結局、炎天下3時間近く2つの強制収容所を回りながら熱弁をふるっていました。
ここには夏季のピーク時には世界各地から訪問者が1日7千人も訪れるそうです。
ユダヤ人はもちろんのこと、ドイツ人も多数訪れているそうです。ここでも若者や家族連れが目立ちました。
見学箇所はどこも大変混雑していましたが、あちこちからため息が出ていました。
説明が全て終わるとガイドは次のように話しました。
「私がこの仕事を続けているのは、アウシュビッツの事実を皆さんに知っていただきたいからです。皆さんはアウシュビッツのことを知る必要があります。自分の親戚はアウシュビッツに収容されていました。このような悲劇が二度と繰り返さないために誇りを持ってガイドを続けています。皆さんが熱心にツアーに参加してくれて感謝しています」。
話が終わると、ツアー参加者から思わず拍手が起こり、ある種の感動の空気が流れました。

(予想外の下水処理場出現)
なお、ビルケナウの最も奥に位置しているガス室跡地の見学が終わった後、参加者の一人が木立の中にある施設を指差して「あれは何ですか」と質問しました。
すると、ガイドは「下水処理施設です」と答えました。よく見ると、強制収容所の近くに鉄筋コンクリートでできたODとレンガ積みの円形沈殿池が残存していました。
ビルケナウでは10万人分の下水処理が機能していたようです。ツアーでは下水処理施設に立ち寄ることはありませんでしたが、当時としては戦時下の強制収容所に近代的な下水処理施設を作ったことの合理性と、結果的には民族殺戮に加担した下水道技術者がいたということで、アウシュビッツを一人称で感じた瞬間でした。

ポーランドの夏空は限りなく青でした。


2012年 下水道技術のメッセージ (46) 9月24日 「フィリッピンバナナ」

9月23日に、近くのスーパーでフィリッピン産バナナを見て驚いた。

 5本入りのパッケージにわずか78円の定価がついていた。

 普段の半値であったが、この理由は明確だった。

 先週のテレビ放送によると、中国は南シナ海南沙諸島の領有権問題をめぐってフィリピンを経済制裁している。
 つまり、普段は大量に輸入しているフィリッピンバナナの実質的な輸入規制をしているそうだ。

 そこで困ったフィリピンは日本に安値で輸出せざるを得ない状況に陥っている、ということと察した。

 これは、先般の中国レアーアース輸出規制問題を想起させる。
 経済力にものを言わせて近隣の諸国を屈服させるという構図だ。  今回の尖閣諸島問題でも、日本に対して税関事務の意図的遅延という形で表れている。

 強者が弱者を懲罰するという構図で、大国主義、覇権主義が見え隠れする。
 だが、日本の識者は税関事務の遅れは中国経済へのダメージも大きいと指摘している。

   安売りバナナを目にして、日本は尖閣諸島をめぐって、フィリピン、ベトナムと連携すべきであると感じた。  


2012年 下水道技術のメッセージ (45) 9月15日 「空気自動車」

インドで空気自動車が注目を集めている。

 自動車といえばガソリンエンジン化ディーゼルエンジンが主流で、ハイブリッドカーや電気自動車が攻勢をかけているというのが世間の常識だが、インドのタタ・モーターズが「AirPod」という圧縮空気自動車を発売した。

 その性能が凄い。最高時速70km、満タンで200kmは走れる。しかも、圧縮空気は満タンにするのに約100円。200kmを100円で走れることになる。
 車体は大人2人乗りというところだが、メーカーは大人3人と子供1人が乗れると言っている。

 この性能で車体価格は1万ドル、80万円だから驚きだ。

 そもそも空気自動車は圧縮空気でピストンやタービンを駆動して動くので、仕組みが簡単で軽量である。
 もちろん走行時の温暖化ガス排出はゼロである。

 ただし、あらかじめコンプレッサーで空気を圧縮するのに必要なエネルギーはそこそこ必要になる。エネルギー効率はそれほどよいわけではなく、ガソリン車を上回る程度である。

 また、走行距離は200kmと短い。これは圧縮空気のタンク容量が制限になっており、走行距離を延ばすのには電気自動車と同じ理由で空気とガソリンエンジンを併用するハイブリッド車になる。

 今回、タタ・モーターズが売り出した空気自動車は低価格が特徴である。
 そもそも、インド市場では多々・モーターズが2009年に「nano」という超低価格車を発売して世間を驚かせた。こちらは4人乗りで22万円の安でインドの消費者の支持を得て売れた。
 nanoはバイクからの乗り換え層をねらった囲い込み戦略で、これに比べればAirpPodは高級車に属する。

 なお、空気自動車の弱点は運転中にエンジンの温度が下がってしまうことである。一般的に気体を放出すると断熱膨張で温度が下がる。空気自動車も運転しているとピストンやタービン温度が下がってしまうので温める必要がある。

 この点、インドならば気温が高いので温めるのはあまり問題にならないが寒い地方では大問題である。

 下水道では、昔、圧搾空気を地下に貯蔵して現代のNAS電池のように活用するアイディアを唱える人がいた。

 電気自動車に対する空気自動車の関係を見ると、キーテクノロジーは効率的な空気圧縮技術である。
 この分野の技術は発展すると圧縮空気エネルギー貯蔵の可能性があるかもしれない。


2012年 下水道技術のメッセージ (44) 9月11日 「避難訓練コンサート」

港区で地震訓練コンサートが開催された。
今年が初めての試みらしい。
参加した友人からの話では、以下の通りであった。

この企画は、地元住民や企業関係者に呼びかけて、昼にコンサートを開き、プログラムの途中に地震避難訓練を挟むというもので、区役所主催ではなくコンサート会場を運営している区の関連団体が取り仕切っていた。

。 とにかく、コンサートに避難訓練を織り込んだところが面白い。
もちろん無料だ。
実際にコンサートが始まる前に、主催者から避難訓練の趣旨説明や避難の仕方、再開の仕方など事細かな説明があった。

その結果、コンサート途中の避難訓練は無事終了した。

友人の話では、事前に詳しく説明しすぎたので緊迫感、真剣さに欠けたそうだ。
また、避難訓練とは言え、関連団体としても初めての試みで、職員が自分のために訓練しているような印象がぬぐえなかったそうだ。

コンサートの観衆は、会場では聴くという受け身の態勢に慣れている。
これを逃げるという積極的な姿勢に変えるのはなかなか難しい。
切り替えのタイミングはサイレンや非常放送だろうが、まかり間違えば烏合の衆となり避難口に殺到して将棋倒しになりかねない。


2012年 下水道技術のメッセージ (43) 9月5日 「津波避難タワー」

(高知県四万十町の津波避難タワー。住民は防災の日の避難訓練で屋上に集まっていた。)

 9月1日、防災の日に高知県四万十町興津地区の津波避難訓練を視察した。
 この地区には写真のように15mの津波避難タワーが今年4月に完成した。

 東日本大震災でも、助かった人はいち早くビルや高所に逃げ切れた人だった。 

 前日には、政府から南海トラフ地震の被害予測が発表され、32万3千人の死者が想定された。

   避難訓練の前に地元のリーダーに話を聞く機会があったが、彼によるとこのタワーは2年前に高知大学の先生の指導で8mの津波を想定して作られたそうだ。

 だが、昨日の被害予測では、興津地区は24mの津波になった。
 これでは15mの避難タワーはひとたまりもない。
 避難した人は全て亡くなってしまう。

 そこで、興津地区では避難場所を高台にある保育所に変更しようとしているが、ここは坂の上にあり、お年寄りの足ではなかなか行きつかない。
 そこに、南海トラフ地震による津波は5分から10分の短い時間で到達するらしいそうだ。

 こうしてみると史上最悪と言われた東日本大震災の津波被害は、南海トラフ地震による津波に比べたら規模も到達時間も余裕があったと言わざるを得ない。

 原発よりも深刻な事態であると思う。


2012年 下水道技術のメッセージ (42) 8月29日 「楽観主義者」

最近、東日本大震災の下水処理場被害と復旧について講演することが多い。
 その時、最後に「悲観的に準備して楽観的に対処する」という事件事故や災害の要諦を紹介することにしている。

 ところが、次のチャーチル名言に出会って理解がさらに深まった。その言葉とは、
「悲観主義者はいかなる機会にも困難を見出し、楽観主義者はいかなる困難の中にも機会を見出す」
であった。

 状況が変われば、対応が変わる。
 相手が自然ならなおさらだ。


2012年 下水道技術のメッセージ (41) 8月27日 「ポーランド-2」

(ワルシャワ駅付近のプリウス製タクシー、街に似合わない派手さだった)
ポーランドは、昔はプロシアやオーストリア、ロシアなどの大国に囲まれて攻撃を受け、第二次世界大戦では戦火となりナチスとソ連に占領されました。

 国民の大多数はカソリック信者です。
 産業はまだ農業が主ですが、労働力が安価であるとの理由からドイツやフランスの企業が工場建設を進めているようです。
つまり今後の経済発展の可能性を秘めたヨーロッパの開発途上国といってもよいでしょう

・  アジアで言えば、ちょうど少し前のマレーシアやベトナムの様な存在です。
 これらの国とポーランドとの共通点は、物価が安いことと若者が多いということです。

 ワルシャワの駅近くで、トヨタ・プリウスの派手なタクシーを見つけた時にはうれしくなりました。
 南ポーランドにあるクラクフの町で乗ったタクシーもプリウスでした。
 また、なぜかマツダの車も何か所かで見かけました。

 もちろんポーランドはEU加盟国ですが、財政状況の関係で通貨統合までは至っていません。

 食べ物は、チーズやワインなど農産物が豊富でおいしいです。
 ワルシャワでもクラクフでも、中央駅のフードコートでは、大勢の若者が各国料理を楽しんでいました。
 これは昔から鉄道の発展していたヨーロッパの特徴で、東南アジアとは違った面でした。

   大きな荷物を抱えて旅していると、随所で「何かお手伝いしましょうか」と自然に声をかけてもらいました。
 博物館や駅のチケット窓口などでは市民が整然と列を作って待っていました。

 きっと暮らしやすい国なのでしょう。


2012年 下水道技術のメッセージ (40) 8月20日 「ポーランド」

夏休みにポーランドを旅しました。

首都ワルシャワにはアムステルダム経由で18時間もかかりました。そんな訳か、ポーランドへ渡航する日本人観光客は年間7千人程度の遠い国です。

今回の旅行の目的は、ポーランドのクラクフ市にあるアウシュビッツ強制収容所を見届けるということでした。

というのは以前、福井県敦賀市の敦賀ムゼウム(ムゼウムはポーランド語で博物館)を訪問し、ナチスからユダヤ人難民を6千人も救った杉原千畝の行動に関心を持ったからです。

ここには、大正時代にロシア革命の余波でシベリアにいた多数のポーランド孤児を日本赤十字経由で救出した記録もありました。

ワルシャワでは蜂起博物館、クラクフでは「シンドラーのリスト」で有名になったクラフク歴史博物館(2010年開設)も見てきました。
 どこの博物館も、大勢の若者が70年前の大戦の展示物を熱心に見入っていました。
 日本には無い光景でした。


2012年 下水道技術のメッセージ (39) 8月5日 「下水道研究発表-2」

今年の第49回下水道研究発表会は例年よりも多い300本の発表論文を集めて、神戸ポートピアで開催された。

筆者は、研究発表会に参加するに当たって、東日本大震災の情報収集に集中することを決め、会場メインホールで2日間にわたって開催されていた震災関連のセッションを聞きとおした。

 研究発表会の聴き方は、普通は自分の関心のあるテーマを求めてセッション会場を渡り歩く。
 だから、人気のない発表は潮が引くように聴衆が少なくなり、関心を集めている発表は会場が人であふれる。

 だが、発表はテーマだけでは分からないことが多い。
 テーマに誘われて聞いてみてもがっかりすることがある。

 そこで、今年はあくまでも3・11震災関連ということで腰を落ち着けて2日間、15時間聴き続けた。

 発表は10分、その後5分の質疑の時間がある。
 10分といえば短いようだが、メッセージを出すのには十分な時間でもある。

 中にはアンケートをまとめただけのあっさりとしたのもあったが、3・11から15ヶ月過ぎて、じっくりと分析、考察をしてある力作もあった。
 少なくとも、東日本大震災の下水道被害をまとめたものとしては、国交省の地震津波対策技術検討委員会報告書に並んで重要なデーターだろう。

 そういうことで、発表された論文の中から東日本大震災関連の40本を選んで、聴講メモをもとにコメント集を作ってみた。  ここには、被災当事者のコメントだけでなく、支援者、関連企業などの報告も多々あった。  そもそも、事件事故の全体像は各方面の見解、意見、情報を集めて総合的に再現していくものであろう。

 そういう意味で、この時期に開かれた下水道研究発表会は貴重なものであった。


2012年 下水道技術のメッセージ (38) 7月23日 「下水道研究発表会」

7月24日から開催される下水道研究発表会に関して、水道産業新聞から関連特集号の「発表論文の聞きどころ」執筆依頼があり、寄稿した。

 私の担当は雨水対策セッションで、モデリング、合流改善、不明水対策、浸水対策、流出抑制など23件の論文を読み、コメントした。

 興味深かったのは、雨水対策はオン・ゴーイングな施策だが対策の簡素化や実証的な効果測定報告など、技術の成熟化が進んでいることであった。

 温暖化の影響でゲリラ豪雨が増えている。その結果、雨水被害も増えているという認識の下に、多様な雨水対策が着実に実用化している。

 そのような成果がうかがえる。

 記事の最後は、以下の400字でまとめた。

 「雨水対策は下水道事業の基本であり、平成15年には合流式下水道の緊急改善対策が始まり、平成18年には、下水道総合浸水対策緊急事業が発表されて計画策定や事業実施が進んできた。
 現段階は、これらの活動の評価検討する時期になっており、次のステップに向けての積極的な議論を望みたい。

 一方で、事業が進んでいない下水道事業者については、財源問題や人材問題が課題になるが、下水道研究発表会ではぜひ、知恵を出して財源問題を克服するような技術提案、企画・立案を期待したい。
 限られた資源の中で有効な施策を展開するのであるから、低コストや既存制度の克服は当然と言えよう。他事業からの技術移転、業際的な事業展開なども雨水対策の範疇である。

 下水道が国民・市民の生命財産を守るという視点で発表していただきたいし、聞いていただきたい。今回発表される23編の中にはきっと皆様の雨水対策事業のヒントになるような情報があるはずである。」

 会場でお会いしたら、どうぞよろしく。

 


2012年 下水道技術のメッセージ (37) 7月19日 「講演会」

7月17日に横須賀市上下水道局で「EICA東日本大震災調査研究講演会」を行った。

 会場の横須賀市役所5階講堂では114人の皆さんが集まり、熱心に2時間に渡って講演を聞いていただいた。
 聴衆は上下水道局の皆さんに加えて市の津波対策検討委員会、、神奈川県庁下水道課、三浦半島地域下水道連絡協議会(三浦市、逗子市、鎌倉市、葉山町、)など広範囲に及んでいた。
 これは、事務局の方が奔走して声をかけていただいたことによる。

 講演後は、積極的な質疑があった。
 その中には、災害査定の実情やBCPの策定方法、浮力対策の意味など多岐にわたって、関心の大きさを示していた。

 これで、4月下旬から始めた「EICA東日本大震災調査研究講演会」は一区切りになった。
 この3カ月で、神奈川県下水道事務所(聴衆50名)、東京都下水道局(聴衆180名)、横浜市(聴衆65名)、千葉市(聴衆30名)、横須賀市(聴衆114名)、合計439名と、たくさんの皆さんに対して講演する機会をいただき、大いに手ごたえを感じた。

 講演を続けている中で、6月には環境システム計測制御学会の未来プロジェクトのセミナー関連で南蒲生浄化センターなどの現地調査が入った。また、講演での質疑等で気付くことがあり、パワーポイントは何か所も追記、修正がされた。

 したがって、最初の神奈川県と最後の横須賀市とでは講演の内容に幾つかの違いが出ている。

 このようなメッセージ発信の機会を与えられて皆様に感謝しています。  


2012年 下水道技術のメッセージ (36) 7月13日 「雑誌記事」

以下の執筆記事が掲載されました。

   「3.11記録・証言」 月刊下水道 Vol.35 No.8 p65

 「DMATの誕生」 水道評論 48巻第7号 p48

 「知財経営セミナー」 下水道情報 平成24年6月24日号 p36

 どうぞよろしく。  


2012年 下水道技術のメッセージ (34) 7月5日 「講演会」

 7月3日に横浜市環境創造局で「EICA東日本大震災調査研究講演会」を行った。

 これは、この春から自治体の要請に基づいて行ってきているもので、4月の神奈川県下水道事務所、6月の東京都下水道局に続くものだ。

 当日は、午前11時30分頃に東京湾で地震が起こり、横浜で震度4、東京で震度3の揺れがあった。
 また、梅雨の影響で夕方には横殴りの強い雨が降っていた。

 会場の横浜市神奈川水再生センター見学者説明室には、65名の環境創造局職員が集まり、講演会が始まった。

 実は、先週の6月下旬に、著者は南蒲生浄化センターと仙塩浄化センターを訪れ、最近の状況を取材していたので、講演会では最新の話をすることができた。

 被災地は、時々刻々と変化しており、新たな段階に入っている。
 両浄化センターでは、被災〜16か月が過ぎ、予想より早く回復の道をたどっている。

 講演会では、電気機器、機械機器の被災と復旧を中心に述べたが、横浜市でも津波対策やBCP作成に取り組んでおり、おおい関心を持って聞いていただけたようだ。

 それにつけても、下水道の震災被害や対策情報は管路については広まっているが電気・機械機器に付いては、ほとんど情報提供されていない現状がある。
 国交省の地震津波対策技術検討委員会報告書でも、管路偏重は認められる。
 下水道事業団からも発進されていない。
 しかし、今回の震災は津波による電気・機械機器破損sa  


2012年 下水道技術のメッセージ (33) 6月25日 「疑問の飛行機のサービス」

飛行機嫌いで、絶対飛行機に乗りたくないという人がいる。

金属の機体が空中を浮くということが信じがたい、事故が起きたら全員が死んでしまうという恐怖心が、その根拠である。

私は、この考え方にはくみしないが、最近、別の意味で飛行機が嫌いになってきた。

まず、第一の理由は客を荷物扱い(?)している。

搭乗するときは、身元確認をしているようだし、ペットボトルまで検査される。
海外では靴まで脱がされることもよくある。
まるで犯罪者扱いだ。
それでも、海外渡航は仕方ないとしても国内便には不満がつのる。

国内便でも機内へ搭乗する時は、昔の船の時の習慣かもしれないが、プラチナメンバーを先に乗せるし、降りるときはエコノミーは逆に一番遅くなる。
新幹線にもグリーン車と普通車の違いはあるが、こんなに露骨にはしない。普通車の乗客に卑屈な思いはさせない。どちらも大切なお客様、という意識がある。

客室常務委員は、昔のスチュワーデスのような優しさはなく、離着陸時には安全ベルトをちゃんと占めているか、手荷物を前の座席の下に置いているか、座席は元の位置に戻しているか、見て回る。
最近はなくなったが、離着陸の時にデジカメでも取りだすと、厳しく取り締まっていた。

その上、機内サービスもお茶と水だけの航空会社の出てきた。

客は、狭い座席でひたすらジッと着陸まで待つだけである。

これに対して新幹線はもっと快適な旅ができる。
車内で無線LANも使えるし、写真は撮り放題で誰もクレームを付けない。
そもそも、新幹線の車掌さんは車両に入る時に客に向かって一礼してから入ってくる。そんなことは飛行機では見たことがない。

 狭い座席に乗り込んだら、トイレもままならない。  飛行機のトイレはすぐ混みあい、行列ができる。それはトイレの数が乗客に比べて少ないことと、国際便では食事の後に乗客がトイレに集中するからである。  ならばトイレを増やすべきだが飛行機では座席数を増やして収益を上げなければならず、トイレの増設はままならない。

 だから、東京から福岡に出張する時も新幹線を使うようにしている。  


2012年 下水道技術のメッセージ (32) 6月20日 「英語版報告書」

(英語版EICA東日本大震災調査研究報告書)

4月19 日付けでこのコラムに書いた「英語版EICA東日本大震災調査研究報告書」の編集がようやく終わった。

 この間、なかなか時間が取れなかったので遅れ遅れになっていたが、7月初旬のシンガポール国際水週間(SIWW)には間に合わせないといけない状況であった。

 浄化センターなどの固有名詞表記や専門用語の一致等からフォント、レイアウト、各ページの記入など、様々な作業があった。
 例えば、津波被災時の「縮退運転」は、そもそも概念が新しいので英語にも言葉がなく「fall back」で落ち着いた。
 以上、東芝の英語のエキスパートの協力を得て、週末に黙々と進めた。
 下水道、電気設備、東日本大震災というキーワードのレポートは、国内はもちろん海外では皆無なはずなので、情報発信、活用が期待できる。
なによりも東日本大震災の経験を東南アジアの地震津波国で共有できる可能性がある。

 現在は、環境システム計測制御学会の編集委員会でホームページに掲載するための査読を行っている。

 SIWWでは、日本のGCUSが会場ブースに持ち込んで、英語版報告書をサンプル展示をし、中身に興味を持った来客には環境システム計測制御学会ホームページのSpecia release/にアクセスしてDownloadボタンをクリックし、PDF版をダウンロードしてもらうということになっている。ホームページには7月以降に英語版をインストールした。

 なお、原本の日本語の報告書は、環境システム環境システム計測制御学会の会員には無料配布された。必要な方には学会が1500円で有償配布している。どうぞご利用ください。  

 


2011年 下水道技術のメッセージ (31) 6月12日 「新幹線の清掃員」

(手際良い東海道新幹線の清掃員)

最近の下水道情報誌に掲載した「新幹線清掃員」について反響があった。

 俳句をたしなんでいる先輩からは、
  「新幹線清掃員に対する温かいまなざしを感じた」という言葉をいただいた。

 計測制御の先生からは「製造業の3S,5Sに通じる話ですね」という知恵をいただいた。
 ちなみに3S,5Sは、

   整理 ( 必要な物と不要な物を分け、不要な物を捨てる)
  整頓( 必要な物がすぐに取り出せるように置き場所、置き方を決め、表示を確実に行う)
清掃 ( 掃除をしてゴミ、汚れのないきれいな状態にすると同時に細部まで点検すること)
清潔 ( 整理・整頓・清掃を徹底して実行し、汚れのないきれいな状態を維持すること)
しつけ( 決められたことを、決められたとおりに実行できるよう習慣づけること)
 の5つのSである。

 当たり前のことを当たり前に行うことの重要さと、難しさを示している。

 そして、現役引退された衛生工学の先生からは、「日常的な現象を特別なものとして感じ取っている文章だ」と過分のお言葉をいただいた。

 つくづく随筆を書いていてよかったと思いました。

 以下、長くなるが「新幹線の清掃員」を転載します。

  新幹線清掃員
(真っ赤な制服の列車清掃員)
  仙台からの帰り、東京駅の東北新幹線プラットホームに降りると改札口に向かう旅行客で混み合っていました。その中を、仕事を終えてプラットホームの端にある控室に戻る赤い制服の列車清掃員の一団に出会いました。
 彼ら、彼女らの仕事は、東京駅に到着して乗客が降りた新幹線に飛び乗って、短い時間で車内を清掃し、テーブルや窓枠を拭き、座席カバーを取り換え、座席の方向を変えることです。忘れ物もチェックします。東北新幹線の「はやぶさ」は東京駅に12分間停車しますが、列車が到着すると22人のスタッフが一斉に清掃に取り掛かり、一人1両100席の分担で7分以内に仕上げることになっています。
つまり、1つの座席を5秒弱で仕上げなければなりません。清掃に手間取ってしまうと乗客の乗車時間が短くなってしまい、最悪のケースではダイヤが乱れてしまうのです。
歩いてきた清掃スタッフは決して若くない集団でしたが、よく見ると年齢に不釣り合いな真っ赤な制服を着用し、車内清掃の七つ道具を携えていましたから一目でわかりました。

 (ひとかけらのごみ)
 すると、そのグループの一人の中年女性スタッフが、さりげなくプラットホームに落ちていた小さなゴミを拾い、そのまま持っていってしまいました。その間、一団は何もなかったようにそのまま通り過ぎました。
ただそれだけのことでしたが、少し気になり考えてみました。ごみを拾った女性は、仕事を終えた列車清掃員ですから、プラットホームのごみを拾う義務はありません。でも、東京駅の美化に責任を持っているという自負がありありと伝わってきました。
 そこで私は、ハタとひらめきました。彼女が小さなごみを拾う行為は、これから新幹線に乗ろうとしている乗客に対してある種のメッセージを発しているということです。犯罪心理学に「壊れた窓理論」があります。これは小さな犯罪を防ぐことにより大きな犯罪を未然に防ぐことができるという理論です。
これと同じように「ひとかけらのごみ理論」は小さなゴミまで片付けてきれいにしてあれば、人はごみを簡単に捨てられなくなる、ということです。逆にごみで散らかっていれば、ますますごみが捨てられてごみの山になってしまうということです。
壊れた窓理論は警官が些細な犯罪を必死に取り締まるということでしたが、ごみ理論では小さなゴミを丹念に片付けていれば乗客は大きなごみを捨てなくなるはずです。

(新幹線の総合力)
もう一つのメッセージは、新幹線清掃員は清掃だけではなく乗客の信頼感を獲得することにも貢献しているということです。短時間でテキパキと列車を清掃することの目的は快適な旅を支えることですが、究極は新幹線のダイヤを守っているということです。
年配の清掃員が列車の中で必死に清掃している姿をプラットホームで待っている乗客に窓越しに直接見てもらうことで、新幹線の運行や整備に従事している関係者の仕事ぶりを連想してもらえます。乗客は新幹線の中央指揮所や整備工場に行く機会はまずありませんから、目の前で進められている車内清掃から運行や整備の仕事ぶりを推測するのです。これはJRにとって大きなチャンスです。

(たかが清掃、されど清掃)
 だから清掃員はひときわ目立つ赤い制服でテキパキとした仕事を演じているのです。プラットホームでごみを拾うという行為は乗客にアピールしようとする作為は全くみえませんでした。ごく自然に、自宅のごみを拾っているようにしていましたから本物でしょう。
 ディズニーワールドの清掃員は、清掃という日常行為を夢の世界に持ち込まないように、ゴミをチリトリで集めるという動作を小さなショーとして演じています。魔法のほうきと魔法のチリトリを自由に操っているように演じています。ディズニーワールドの中では、清掃員や店員など全てのスタッフがゲストの夢を実現するように努めているのです。だからこそ、ディズニーワールドのゲストは何度も行きたくなるのでしょう。
 東京駅の清掃員も、目立つ赤い制服を着て注目を集め、新幹線の正確なダイヤや安全性を表現しているとしたらすごいことです。小さなゴミを片付けることによって大きなごみが無くなり、テキパキと作業する姿を見せて新幹線の安全をアピールしています。
この手法はカウンターの中のすし職人やレストランのオープンキッチンにも通じます。料理を作るところを客に見せて、一層おいしく食べさせるということです。日本のサービス、おもてなしもなかなかです。
日本に残された数少ない経営資源ではないでしょうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (30) 6月10日 「ニューヨーク」

(完成間近なグランドゼロにある新ワールドトレードセンタビル。高さは全米一の1776フィート。米国独立の1776年にあやかっている。)

 3年ぶりにニューヨークを訪ねた。
 都市は変貌する、のとおりニューヨークはわずかな期間に変わっていた。

 ・地下鉄は全線2.5ドルに値上がりした。その代わりといってもいいかもしれないが全線冷房車となった。日本では冷房車は当たり前だったが、ニューヨークでは画期的なこと。
 でも、全線均一料金だが円高日本円換算で初乗り200円は高い。

 ・3.11グランドゼロは、事件から11年が経ったが3.11メモリアルセンターが一部完成し、一般公開されていた。
 メモリアルセンターの周辺には新ワールドトレードセンタービルが完成間近。
米国政府、ニューヨーク市のテロに対決する強いメッセージが感じられた。

(ハイラインは緑の景観で周辺の不動産価値を高めた。観光客も散策を楽しんでいる。)

 ・マンハッタンのウエストサイドではハイラインという古い鉄道高架の線路敷を空中公園にリニューアルした施設が公開された。
30分程かけて歩いてみたがセントラルパークのコンセプトが織り込まれていた。
 下水道の更新も、このような手法がありうるのかなと考えて見た。

 ・5番街では日本のユニクロが一等地に出店し、5番街らしからぬ若者が押し寄せていた。
 赤い法被を着た米国人店員が愛想を振りまいていた。ただし商品は全て中国製。
 日本式の柳井商法が5番街で通用するのか興味深い。、

 ・ブルックリン橋を遊歩道で歩いて渡った。
橋のリニューアル塗装工事の最中だったが、潮風で鉄部が錆びてしまった対応で、ペンキが飛ばないように大規模な仮設足場を組み、大変な工事のようだった。

 ・メトロポリタン美術館では屋上が開放され、初夏のセントラルパークがまぶしかった。
 いつものことながら、歴史的に有名な絵画の前で、小学生の一群が座り込んで先生の解説に聴き入っている光景は、日本にはない豊かさを感じた。

 ・クイーンズ美術館では、1960年代のニューヨーク万博時に作ったニューヨーク市の大パノラマ模型を何十年も飾り続けていた。
 街が変わると、その都度模型も作り変えるそうだが、なぜかグランドゼロは昔のままであった。きっと、新ワールドトレードセンターの完成式時に作り変えるのだろう。
 ここでは、入場時に料金の代わりに5ドルの寄付を払うのだが、受付で2.5ドルの釣りをもらった。シニア料金が適用されて納得した。

 ・ジャズクラブ、ブルーノートでは、折から黒人女性ジャズシンガーD.D.Bridge Water が出演しており、往年の軽妙なスキャットで観客をうならさせていた。
 いつも思うことだが、ここのパスタはおいしかった。今回はベジタリアンに挑戦した

 などなど、久々のニューヨーク骨休めだった。


2011年 下水道技術のメッセージ (29) 5月23日 「下水道BCP策定マニュアル第2版」

「下水道BCP策定マニュアル第2版」を通読した。
 6月には下水道機構技術セミナーで東京会場、大阪会場でBCPの講演がある。

 マニュアルは版を重ね、東日本大震災の経験やノウハウを加えて一層充実してきた。
 このようなマニュアルは、関係者にとっては必須の情報であるのでぜひ活用していただきたい。

 ところで、現場の災害対応を想像すると、個別具体的な提案が求められる。
 マニュアルでは、被災時の対策本部への報告書様式などの資料を取り揃えており、感心した。

 もし下水処理場で被災した時に、真っ先にすることは現地対策本部の立ち上げだろう。
 現地対策本部に必要なものは以下の通りである。

 1.看板 ここが対策本部であるという宣言をするためにできるだけ大きい横幕か立看板が必要になる。
 2.電話 できれば災害時に発信規制を受けないもの。また、停電に備えて外部電源の必要のないシンプルな黒電話が必須である。
 3.パソコン 災害時にはネット情報が貴重になる。電話回線が遮断されてもメールなら通じることもある。
 4.テレビ できれば非常用電源も含めてテレビが見れる環境を作っておくこと。マスメディア情報は国や県の情報より早いことが多い。特に、深夜や休日は役割が大きい。
 5.白板 時々刻々と変化していく現場からの報告や対策本部からの指示を白板に書きとどめ、誰でもが一目で状況を把握できるようにする。
 6.図面地図 現場状況把握のために、マジックインクで書き込める処理場図面や流域地図が認識の共通化に不可欠。
 7.最後に、当たり前だが床に固定した机やいす 余震のたびに机が揺れたのでは話にならない

 以上のような準備はBCP以前の当たり前の話で下水処理場にぜひ事前に準備にしておいてほしいものだが、いかがだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (28) 5月20日 「松島航空基地」

「自衛隊かく闘えり」双葉社刊によると、 東日本大震災で自衛隊航空基地の中で唯一大きな被害を出した松島基地に、地震後なぜすぐに高価な航空機を発進させて退避させなかったとの非難があった。
 この時、基地の杉山指令(責任者)は次のように答えた。

「アラート待機についている機体ならば5分以内で上がることは可能ですが、通常のフライトならば、30分はかかります。さらに、あの凄まじい地震のあとで、フライトのために隊員を配置につければ、地上配置の隊員が津波に呑まれるリスクを負うことになったので、飛行機を飛ばすことは不可能でした。」

 結果的に基地隊員は全員無事であり、その後救援活動に大いに貢献した。

 この話は、福島第一原発4号炉で地震後の点検中に職員2名が殉職したことを思いささせた。
 リスクはできるだけ少なくすること、人命に関しては二重、三重のセフティーネットを整えておくことなど、危機管理の基本を思い知らされた。

 被災した下水処理場で職員が犠牲にならなかったことは幸いなことであったが、間一髪の処理場があったと聞いている。
 このようなケースを学び、伝え、災害時のリスクを押さえることが重要である。


2011年 下水道技術のメッセージ (27) 5月16日 「古い要素と新しい要素」

日本の経済は縮小を続けている。

その原因の一つは韓国や中国の跋扈(バッコ)と言われている。
低い製造コストと中国の国内市場、韓国の輸出にかける覚悟の強さなど、日本は足元にも及ばない経営資源がある。

その結果、東アジアの中で日本は置き去りにされているという印象が強い。

ならば、どうすべきか。

答えは世界史的視野にある。 日本は、アジア各国が欧米列強の帝国主義の餌食になっていた時に、「古い要素と新しい要素をきわめて効果的に結びつけて」西洋式陸海軍を作り上げた。(マクニ―ル著・世界史(下)p272) 

日本の特徴を出して、他国と差別化することがポイントだが、それは「和魂洋才」にあるのだろう。
その和魂の認識が脆弱なところが、日本の大きな問題だ。

東日本大震災の混乱の中での秩序や、駅、公園の清潔さ、他人を思いやる気持ちなど、日本の素晴らしさはたくさんある。これに新しい要素がどのように関わるかを研究し、経済面、産業面で実現していくことが必要だろう。

例えば、観光資源やエンターテーメント、サービス産業など、東アジアの人々が望んで集まるような魅力ある国づくりが大切だろう。

 日本独自の新しいビジネスプランを創造しない限り、日本の未来は明るくならない。


2011年 下水道技術のメッセージ (26) 5月8日 「当たり前を見直す」

筑波で竜巻の被害が出たが、あるテレビのニュース番組(5月7日ニュースステーション)で「福島第一原発の非常用発電機が地下にあったのは、米国の天災であるハリケーンや竜巻の被害を意識してあったのではないか。日本では見直ししていなかった。」とのコメントがあった。

 筑波の竜巻の規模はF2といわれ、竜巻通過地点では屋根がはがれ、角材が民家に飛び込むほどのものであった。この被害を見てのコメントであった。

 確かに、地震や津波のない米国で(西海岸を除く)原発を設計する時にシビアアクシデントといえば竜巻やテロが現実味を帯びている。
  民間の原発事故調査機関の「福島事故独立検証委員会調査検証報告書」では、日本の原発がテロに対する警戒に重きを置いてないことを警告していた(p342)。  しかし、また、福島第一原発では上層階に設置されていた燃料プールの地震動による破損が懸念されていたが、一部地下に設置してあったドライキャスク(使用済み燃料乾式貯蔵容器)は地下に貯蔵してあって津波を受けたが支障はなかった(p343)、としている。

 この場合には、地震動に強いということで重要施設の地下化は合理的である。

 地下設置で津波にやられたから地上にもっていくという発想は短絡的と言わざるを得ない。地下化の欠点、利点を勘案してトータルで設置位置を決めていくというのは当然のことである。

 津波の被害が大きかっただけに、津波しか見えなくなっているのではないだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (25) 5月4日 「ひとかけらのごみ・その2」

(七つ道具を持って新幹線から出てきた清掃員。ホームの床はチリひとつない。)

4月9日の「ひとかけらのごみ」のご後日談。

新幹線は車内もホームもごみがほとんど落ちていない。
ところが、航空機は乗客が降りた後の座席はゴミだらけ。

この違いはどこから来るのだろうか。

航空機は狭い座席でごみを拾う気もしなくなるのかと思ったが、違う。
飛行機の前方にあるビジネスクラスの広い座席でも、乗客が去った後はいつも驚くほどひどく散らかっている。

というのは、いつもエコノミー席に乗るので飛行機を降りるときはビジネス客が降りて空になり、散らかったビジネス席を通り過ぎていくことになるからよく分かるのである。

おそらく飛行機の乗客は、ごみはスタッフが片付けるものと信じ切っているに違いない。
座席を清掃するのはスタッフの仕事だから、いくら汚してもいいと思っているに違いない。

飛行機の中にごみ箱がないのも、清掃するスタッフの顔が想像できないのも理由の一つである。

ひるがえって、コンビニやスターバックスでは、店の入り口(コンビニ)や店の真ん中の目立つ所(スタバ)に大きなごみ箱があり、スタッフは頻繁に床を掃除し、わずかでも客が捨てた紙屑のようなごみがあれば新幹線の清掃員と同じように拾って捨てている。

彼ら彼女らは、部屋をきれいにするのに片付ける姿を客に見せて、店内の清潔感を強調するとともに、ごみを捨てさせないという究極の掃除をしている。

この違いは、後々大きな方向に発展しそうな気がしてならない。


2011年 下水道技術のメッセージ (24) 5月3日 「FEMA」

1994年に米国ロスアンゼルスで発生したノースリッジ地震では、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)が活躍して、震災対策のお手本として世界中の注目をあつめていた。

 FEMAの目的は、災害やテロに対して、
1.危機縮減
2.防災
3.準備
4.復旧
5.緩和

 FEMAの役割は、
1.災害発生時の救援・復旧活動の統括
2.災害対策計画の作成
3.州政府や地方自治体の災害対策費用への補助金の交付
4.災害時の政府救援金の管理
5.復興資金の融資の扱い
とされていた。(巨大地震の日、集英社新書)

 FEMA自身は、その後ブッシュ政権で国土安全保障省の傘下に格下げするなどの組織改編があり、大型ハリケーン・カトリーナ災害の時は機能を発揮できなかった。

 FEMAの役割では、補助金や救援金などの管理を一手に引き受けていることが注目される。
 東日本大震災では、下水道関連の災害査定は昨年の夏ごろから始まり、今年の2月までかかった。
 災害査定が終わるまでは、被災状況の保存や復旧工事の計画などやらなければならないことが山ほどあり、自治体関係者は苦労の連続であった。

 一方、地元民間企業や直轄事業は、早々と復旧工事に取りかかり昨年夏には操業を始めた所も相当数あるようだった。  補助金の交付が復旧に不可欠であるとすれば、FEMAのように地元に近いところで意思決定できる仕組みが必要であると思う。  


2011年 下水道技術のメッセージ (23) 5月2日 「小江戸川越」

(店先の焼きおにぎり販売に長い行列ができた)

連休の合間に川越市まで足を延ばしてみた。

川越市は、小江戸といわれており蔵造りの街並みが売りの日帰り観光地で、最近旅番組などに取り上げられている。

川越の駅を降りると、蔵造りの街並みまで延々と商店街が続いていた。
まず、この商店街で驚いた。

かなり長く大きい商店街だが、人であふれている。
道路も店も、大勢の老若男女の客が散策していて活気があふれている。
店も、反映する商店街では定番のABCマートやユニクロ、スターバックス、てんや、マツモトキヨシ、など軒並みチェーンストアが出店していた。

 これらの全国的なチェーンストアは、店舗を出店する時にマーケッティングを十分しているはずであるから、川越は高い評価を受けているということだろうか。

 蔵造りの町並みに出て見ると、人出はさらに増し、両側の歩道から人があふれ出てしまう勢いだ。
 しかも、老若男女様々である。中には、京都のようにきっと貸し衣装の和服の女性の二人連れもいた。
 一軒一軒はなんていうことのない店だが、、ここでも店の中に客が一杯入っているのには驚いた。

 店頭においた七輪コンロで焼いた焼きおにぎりの店は、20人以上の客が列を成して順番を待っていた。

 通りから入った奥にあるお菓子横丁は人混みで前に進めない程の賑わいであった。

 お祭り記念館は表の通りの喧騒とは離れて、山車を中心にじっくりと川越の伝統を見せてくれた。

 そこで、なぜ川越はこんなに繁栄しているのかと考えて見た。
 まず最初の理由は、観光地としての街の基本的な整備が進んでいることがある。
 蔵造りの通りは、空を見上げると電線がない。街路灯も信号も、ポストも、蔵の色に合わせて消し炭色にコーディネートしてある。  トイレも随所にあるし、通りのそこかしこに誰でも座れる椅子が置いてある。

 第二に、商品の単価が安い。  昼食は1000円前後、焼きおにぎりは1個100円の安さであった。
 お祭り記念館の入場料は300円、ソフトクリームは300円であった。

 第三は素人風のこと。いわゆるテーマパーク風の造りだが、そこで商品を売っている人は例外なく地元のおっちゃん、おばさんたちだ。
 素朴で、商売っ気が少ない。
 お祭り記念館のスタッフもお祭りハンテンをはしょったボランティアに違いない。

 そして最後の理由はロケーション、つまり都心に近い割に付近に観光地が少ないこと。
 関東地方の観光地としては、東京ディズニーランドや横浜中華街、最近ではスカイツリー等があるが、埼玉県にはめぼしい観光地がない。その上、川越は池袋から30分の地の利がある。

 以上の結果、黒山の人だかりの小江戸川越が生まれたのだろう。
 今後の課題としては、今後、旭山動物園の事例のように手法をコピーする地区が出現するであろうから、差別化できるかどうかである。  


2011年 下水道技術のメッセージ (22) 4月29日 「神奈川県下水道整備事務所講演会」

4月27日に神奈川県下水道整備事務所にて「EICA東日本大震災調査研究/電気・計装設備の被害と復旧/」という講演会を行った。
 神奈川県公社の有志に声をかけていただき、事務所や公社、公共団体の皆様約50名が集まり2時間の講演を行った。

 講演の基本は、仙台市の南蒲生浄化センター、宮城県の仙塩浄化センター、県南浄化センター、石巻東部浄化センターの被害情況と復旧過程を写真で紹介した。

 ここで一息入れるために、仙台市南蒲生浄化センターが職員自身で作成した「3.11の記録・証言」というビデオを上映した。
 このビデオは、仙台市の南蒲生浄化センター石川センター長が3月に開催されたあるシンポジウムで発表したものを、石川センター長の了解をいただいて、今回の講演会で使ったものである。

 その後、EICA報告書の12の提言を解説し、東京都下水道局が掲げている震災対策施策を事例紹介した。

 最後のまとめはアドリブで、災害は被害の「記録」、「伝達」、「情報共有」が大切であることを強調した。
 被災者は、その経験を記録する必要があるし、その資料を関係者は伝達する必要がある。
 南蒲生浄化センターのビデオは、まさに被災者による記録の典型例である。
 そして下水道関係者は被災情報を共有し、これから起こるであろう災害に備えることが大切、ということである。

 講演者としての著者は、聴衆の皆さんに「「伝達」をするためにここにきている」、と締めくくった。

 講演会の後の質疑では、次の様なやり取りがあった。

 質問 神奈川県の流域下水道は細長く70kmにも及ぶが、幹線の途中で被災した場合に上流が全部使えなくなる。中間に下水処理場のようなものを作る必要はあるのか。

 回答 宮城県では阿武隈川流域でも長い幹線延長があった。そこでは同じような問題が生じて、仮設ポンプの手配に苦慮したようだ。
 石巻東部浄化センターでは、浄化センターの機能が喪失し流域の途中に素掘りの池を掘り、旧北上川に簡易沈殿処理をした。
 気仙沼浄化センターでは、日量1万トンの下水処理場が壊滅し、早期の水産加工業復興を求められて日量1千t規模の活性汚泥施設を市内各所に仮設して急場をしのいでいる。
 このように、下水処理の集中と分散は災害対策のカギとなる。ただし、分散処理は平時のコスト高は避けられない。

 質疑 南蒲生浄化センターは4年で新設すると行っているが、こんな短い工期で本当にできるのか。

 回答 普通40万トンの下水処理場を建設しようとすると10年はかかるだろう。
    だが、海外では3年や4年で10万トン級の下水処理場を建設している。
    そのカギはフルターンキー方式の発注形態だ。一括発注すれば工期は縮む。下水道事業団も力を込めて支援している。新しい試みとして期待している。

 質疑 地震津波対策技術検討委員会では、防水端子や防水モーターを進めている。どのように導入するのがいいだろうか。

 回答 復旧時に最初に必要な機器は揚水ポンプなので、その周りを防水化すべき。ポンプは水中ポンプの組み合わせがベターである。揚水ポンプは、最低1台は防水仕様にすることが復旧の早さを大きく早める。  


2011年 下水道技術のメッセージ (22) 4月26日 「東京都被災地支援職員採用」

東京都で 被災地支援の一般任期付き職員の募集/が始まった。

これは、東北地方被災地の中小市町村に対して、東京都が土木・建築の経験職員を採用し岩手県や宮城県、福島県の各中小市町村に派遣するもので、任期は1年、5年間まで延長があるとしているが採用年齢制限がないことが特徴になっている。

 つまり、都庁を定年退職した経験豊富な技術者を即戦力として採用し、被災地に派遣して支援しようというねらいだ。
 もちろんコンサルタントや建設業者、他の行政機関でもよい。

 処遇は主任級ということだが、経験に応じてsayo課長補佐級まであり、経験20年の人は年収650万円を試算している。
 規模は、土木技術者33人、建築技術者8名としており、9月から1年間、現地に赴任し、単身赴任の住宅が供与され、東京都内での勤務はない。

 試験は、2000字程度の経験小論文と2度の面接で決める。
 市町によっては下水道の現場監督的な仕事もある。
 応募の締め切りは5月28日ということであるから、意欲と経験のある方は応募されたらいい。

 いろいろな支援があるものだ。  


2011年 下水道技術のメッセージ (21) 4月23日 「下水道新聞」

下水道新聞4月18日号に「EICA東日本大震災調査研究報告書」の記事が大きく取り上げられた。

 1か月ほど前に執筆を依頼されて、大急ぎで書き上げたが、なかなか掲載されずやっと記事になった。
 字数が多かったので、適当な紙面を確保するのが大変だったのだろう。

 電気・計装設備に特化した報告書ということで、それなりのプレゼンスを示すと期待している。

   そもそも、津波高さが決まらないから対策が進まない、との意見もあるが、毎日が災害対策である、という緊張感が欲しいものだ。

 報告書にも明記してあるが、2階に設置してあった機器は無傷で1階、地下にあった機器はことごとく海水につかってしまった。
 また、海と施設との間にコンビナートや運河があると津波は減勢されて被害が少なくなる。
 そういう事実からすれば、津波高が決まらないから津波対策は決まらないとはならないだろう。

 4月末には、神奈川県の下水道関係者にEICA報告書の講演会をすることになった。
 ここでも述べるつもりだが、災害を制するというよりも「災害から学ぶ」という姿勢が重要である。
 学ぶには知らなくてはならない。
 EICA報告書は、そのヒントになるはずだ。  


2011年 下水道技術のメッセージ (20) 4月19日 「報告書英文翻訳」

2月5日付の「EICA東日本大震災調査研究報告書」EICA Report of the Great East Japan Earthquake Investigation の英語訳原稿が仕上がった。

EICA会員の協力で、分担翻訳したもので、これから事務局でPDF化して EICAホームページ・報告書英語版/に掲載している。

東日本大震災の下水道、電気・計装設備被害に対する分析と12の提言という内容は日本語版と同じだが、翻訳のマンパワーを考えて紹介する浄化センターは4つの内の1つ、南蒲生浄化センターだけにした。

翻訳の上で最も困ったのは復旧に伴う新しい考え方である。
素掘りの応急沈殿槽は、言葉では示しにくい。
返送汚泥を伴わない簡易ばっき処理は、英語の文字にしようがない。

そのつど、定義していかなければならないもどかしさを感じた。

翻訳のコンセプトとしては、英米向けではなく東南アジア各国をイメージした。

はたして、海外でどれだけ活用されるかは未知数だが、日本の下水道海外展開に関わる部門にも配布して広めたい。

5月中旬に掲載を目指している。  


2011年 下水道技術のメッセージ (19) 4月17日 「雑誌連載」

(ふてくされて勤務している旭山動物園のメスライオン)

ご承知の方もいらっしゃると思いますが、このコラムの著者は昨年から今年にかけて幾つかの下水道関連雑誌に連載を続けてきました。

 現在も続いているものは、下水道技術に関するものを環境新聞社「月刊下水道」誌に、下水道技術にこだわらない幅広なテーマを公共投資ジャーナル社の「下水道情報」誌で毎月連載しています。
前者の今月号のテーマは「公開研修」で17年間続いた東京都下水道局の技術研修の話です。後者は「旭山動物園」で、極寒の動物園でふてくされて働いていたライオンの話です。

 連載のコンセプトは、「下水道技術の継承」で、下水道のすごさ、素晴らしさを技術者の眼から主張しています。

 また、昨年度は日本水道新聞社の「水道公論」誌に3カ月に一度「技術評論」を連載しました。こちらは編集者から匿名でとのお話でしたが、わがままを言って記名で連載させていただきました。
最後のテーマは福島原発事故と下水処理場管理の話題です。

 それに、下水道界ではあまり知られていませんがオーム社の「水と水技術」誌では2か月に1度の発行でしたが3編に渡って、「温故知新」という連載をしました。
こちらは東京都三河島終末処理場の大正時代の建設秘話をまとめました。

 その他、日本管路更生工法品質確保協会の季刊誌「管路更生」には、ベトナム、トルコ、ドイツ、米国ニューヨークの紀行文を連載しました。

 以上の連載記事は、基本的にはこのホームページのコラムが産みの親です。
 どこかでメモ風に書き込んで、それを記事にまとめる毎日でした。

 おかげさまで平成23年度の連載を集めると40本近くなりました。
 皆様、読者のご支持があればと感謝しております。  


2011年 下水道技術のメッセージ (18) 4月9日 「ひとかけらのごみ」

3月27日の朝、仙台市市民ホールで開催された「東日本大震災上下水道シンポジウム」を聴講するために東京駅の東北新幹線プラットホームで列車を待っていた。
 すると、仕事を終えて控室に帰っていく3人ほどの赤い制服の列車清掃員が向こうから歩いてきた。

 そして、その中の一人の年配女性がごく自然にプラットホームに落ちている小さなゴミを拾い上げて、そのまま持って行ってしまった。
 この時、他の二人は何もなかったように淡々と歩いていた。

 壊れた窓の理論(小さな犯罪が大きな犯罪を呼び起こす。だから小さな犯罪を防げば大きな犯罪を防げる、という理論)がある。
 これにちなんで考えて見れば、今回の行動はひとかけらのごみ理論(ひとかけらのごみが多数のごみを捨てることを誘発する。最初のごみを捨てるのは勇気がいる。)になる。

 ごみで汚れたプラットホームを清掃するのは大変だが、最初のごみなら拾うだけで清潔さが保たれ、合理的な管理ができる。  乗客を清掃員の敵にするか味方にするかは、ひとかけらのごみがカギを握っている、ということだろうか。

   ごみを拾うというだけの行為だったが、彼ら彼女らが東京駅をきれいにしているという関係がひしひしと伝わってきて、さわやかな朝だった。  


2011年 下水道技術のメッセージ (17) 3月29日 「上下水道シンポジウム」

(東日本大震災上下水道シンポジウムのパネルディスカッション)

3月27日に仙台市市民ホールで開催された東日本大震災上下水道シンポジウムを聴講してきた。
会場には多くの上下水道関係者が集まり、杜の都で東日本大震災を考えた、
 これは厚労省、国交省などが主催したもので、災害1年を契機に震災の被害と復旧過程を振り返るものであった。

 基調講演や有識者の講演、関係者の報告が続き、最後はパネルディスカッションでまとめた。

 全般を通して論じられたことは、災害時の事業継続、上水と下水の連携、人材育成、災害の記録・伝達であった。

 現地報告では、仙台市で緊急給水施設を多数用意していたにも関わらず職員が配置できないので施設を全数活用しきれなかった反省や、南蒲生浄化センターでの被災記録をセンター職員による手づくりのビデオで作製し、会場で放映して強い印象を与えた。

 しかし、災害支援における上水と下水の連携はほとんど進んでいない現状がある。現地でも、上水が早期に回復して下水が長期間簡易処理の水質水準から脱することができない。

 災害査定では概略設計でも査定受け付けるという配慮がされて現地は大いに助かったし、下水道分野では、ほとんどの案件が満額に近い査定を受けた。しかし、シンポジウムでは話題にならなかったが、災害査定件数が多数になり、膨大な作業になったこともあり、査定に被災から1年もかかっているのはいかにも長すぎる。
 できれば一括交付金のように自治体に判断をゆだねるような改善が必要に思われた。

 東日本大震災から学ぶことは山ほどある。  


2011年 下水道技術のメッセージ (17) 3月27日 「地震随伴現象」

福島原発事故独立検証委員会の調査・検証報告書(1500円)は下水道からみても、大変示唆に富む。

 p272に「地震随伴現象」としての津波が論ぜられている。

 地震に比べて津波は研究が遅れている。
 原発のリスクマネジメントで扱う確率的安全評価に地震は採用されているが津波はこれからである。

 学問的知見の蓄積は不十分だが、津波リスクの重要性を認識する機会はあった。
 調べて見ると2004年のスマトラ地震でインド・マドラスの原発は津波の被害でポンプ棟が水没し、原発が停止した事例があった。
 フランスでは1999年にルブレイエ原発において河川の増水で外部電源が喪失し、ポンプや配電設備が浸水して安全系喪失事故に至っている。

   このような事例を学び、経験を共有することが大切だそうである。

 これは下水処理場にも当てはまることで、学問的知見が少なくても津波のリスクは、被害程度が大きいだけに取り込まなければならない。

 原発は放射性物質を環境にまき散らすリスクがある。
 下水道は未処理汚水を環境にまき散らすリスクがある。

 放射性物質と汚水ではリスクの程度は異なるが、人間に対する悪影響という点では共通点がある。  


2011年 下水道技術のメッセージ (16) 3月20日 「(がれき)の意味」

(名取市閖上[ユリアゲ]地区のがれきで築いた海辺の高台)
がれき処理に誤解がある。

 がれき(瓦礫)といえば、瓦やコンクリの破片、鉄片混じりのごみと想像する。
 だが、最近話題になっている被災地から全国自治体に送ろうとしている「がれき」はそうではない。

 現地で、瓦礫をていねいに分別し、ほとんど木材チップの状態にして可燃物として送るようだ。
 瓦やコンクリの破片、鉄片混じりの部分は埋め立てに使える。
 実際、瓦やコンクリの破片、鉄片混じりの部分を何百キロmも遠くまで運んで処理してもお金がかかるだけだ。
 被災地の名取市閖上[ユリアゲ]地区では写真のように瓦やコンクリの破片、鉄片混じりの部分を集めて積み上げ、海辺に高台を作っていた。

 関東大震災では、瓦礫で横浜市の山下公園を作った。
 地域によっては、瓦礫で小山を作り、鎮守の森風に鎮魂の記念物を築いた所もある。

 だから「がれき」という言葉が誤解に輪をかけている可能性がある。
 例えば「バイオマス」と呼んだ方が実態に近い。
 言葉が誤解に拍車をかけることがある。  


2011年 下水道技術のメッセージ (15) 3月19日 「石油タンク流出災害」

(流出した消化ガスタンク、宮城県仙塩浄化センター)
寺田寅彦は、随筆「天災と国防」のなかで「災害は忘れたころにやってくる」という主旨の主張をした。災害は忘れられやすいということと、日本では災害は避けられない、ということを述べている。

 これに対し、寺田寅彦と対等に述べるのは極めて不遜だが「災害は形を変えてやってくる」という意見を主張している。
 この主張は講演会の締めくくりによく使うのだが、はたして受け入れていただけたかどうかは気になるところだ。

 「形をかえてやってくる」理由は、天災の形が変わるというよりも人間社会の形が変わって災害が変わると言った方が正確である。
 例えば、原発や下水処理場の津波事故は、これらの施設が世に現れたのはわずか40年〜50年前にすぎないのに対して大津波は何百年かの周期で現れているから起こった、ということだ。
 地震や津波は人間社会とは関わり無しに、一定の周期で何度も起こっていると見る方が正しい。

 そういう意味では、全ての天災が人災だ。

 それでは、これから都市にはどんな形の災害が起こるのであろうか。

 津波に関して言えば、まず心しなければならないのは気仙沼で起きた流出重油タンクによる水面火災である。
 気仙沼では、港に供えられていた漁船用の重油タンクが津波で浮上流出して、中に入っていた重油が水面に流出引火して大火事になってしまった。
 気仙沼は火責め・水攻めで多くの被害が発生した。

 下水処理場では消化ガスタンクが浮上流出した。幸い、消化ガスタンクのメタンガスは引火することなく大気に放散されたが、このような被害は下水道関係者は事前に予測することはできなかった。

 以上の状況から東京湾に津波が発生すると、京浜コンビナートの石油タンク群、天然ガスタンクなどが、軒並み浮上流出して炎上する可能性がある。
 この場合は、タンクの規模が大きいので気仙沼とは比べ物にならないくらいの大火災が長い間、広い範囲で発生する恐れがある。
 津波が起これば、消化活動はできないので、燃え尽きるのを待つしかない。

   すると、さらに深刻な事態が生じる。
 高層化した都市は、地震にも強いし火災にも強いとされてきたが、人口密度が高く、高層ビルの中には木造2階建ての昔の街に比べ、燃えにくいが燃えたら消しにくい物質が何十倍も多く集積している。

 石油タンクから漏出した燃料が何日間にもわたり都市をあぶり続けると、都市全体が数百度の熱気に包まれてしまい、最後には高層ビル群の物質に引火してしまう最悪のシナリオが懸念される。

 福島第一原発事故で原発廃止論が勢いを増した。
 少なくても、時間をかけて原発への依存度を下げていくことに反対する人はいないはずだ。

 しかし、火力発電の主流である液化天然ガスや重油タンクのリスクは、石油類を海外から輸入する関係で海岸線に立地しており、以上の様な深刻な問題がある。

 危険なのは原発だけではない。
 形を変えてやってくる災害に英知を持って対処しなければならない。
 


2011年 下水道技術のメッセージ (14) 3月18日 「第4回連続シンポジウム申し込み」

(前回の第3回連続シンポジウムの模様)
日本学術会議主催の東日本大震災第4回連続シンポジウムが以下の通り開催される。
 今回は、環境システム計測制御学会会長田中宏明京大教授も「EICA東日本大震災調査報告書」の基調講演を行う。

申し込みは、WEBだが、毎回申し込みが始まるとすぐに満員になってしまうので、ご興味のある方はまず申し込んでおくことを勧める。

概要
日本の国土・社会・産業基盤に関わる24の学会が集まり、東日本大震災に対する反省と今後の抜本的な見直しに際し、学会の壁を越えて、本質的な議論を展開する連続シンポジウムを行います。従来の専門分化した学会のあり方を見直し、学会間の本質的な議論と交流を深め、今後の日本の学術の方向と基本政策を提言することをめざします。

第4回シンポジウム 「首都直下・東海・東南海・南海等の巨大地震に今どう備えるか」
日 時 :平成24年5月10日(木)午後2時から午後5時45分 入場無料
会 場 :日本学術会議講堂(東京都港区六本木7丁目22番地34号)
      (東京メトロ千代田線 乃木坂駅 出口5)
主 催 :日本学術会議 東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会


2011年 下水道技術のメッセージ (13) 3月17日 「報告書の反応」

 「EICA東日本大震災調査研究報告書」を東京都や横浜市、川崎市などの関東の自治体下水道部門に届けて説明すると、どこでも下水処理場の電気・機械設備の被害を初めて知ったような反応を示されていた。

 この一年、被災地は災害査定や応急復旧で被災状況や復旧状況を発信できる状況にはなかった。
 一方、被災地から離れた自治体は、津波襲来直後こそ災害支援で大勢の職員が現地におもむいたが、現在は被災地情報を入手する手立てはほとんどない。
 国やマスコミも、液状化や下水管路、下水処理場の構築物の被災には関心を示しているが、電気・機械の被災には立ち入った関心を示していないように見受けられる

 その結果、被災地から離れた自治体は、未曾有の津波災害に対して対策を取ろうとしているときに、現地の被災状況がなかなか手に入りにくい、ということらしい。

 津波被害は主に電気・機械設備を破壊し、下水処理機能を喪失させた。
 しかし、これまでの地震被害は下水管路やマンホール、土木構造物の接続部(エクスパンションジョイント)などを破壊してきた。

 このような経験が、電・気機械被害の情報発信を送らせているのではないだろうか。

 日本全国の下水道部門が被災してから1年たって、津波対策に本気で取り組もうとしている。早急に電気・機械設備の被害を見据えた復旧マニュアルやBCPガイダンスを提供する必要がある。

 災害は、その都度、形を変えて襲ってくる。だから形を見極め、形にあった対応が必要だ。


2011年 下水道技術のメッセージ (12) 3月12日 「Smile」

 3.11から1年目を迎えた。
 チャップリンの"Smile"のメロディの1年だった。

 Smile though your heart is aching
Smile even though it's breaking
When there are cloud in the sky
You'll get by

Smile through your fear and sorrow
Smile and maybe tomorrow
You'll see the sun come shining through for you


2011年 下水道技術のメッセージ (11) 3月11日 「青森市」

(雪でつぶれた2階建てのパチンコ屋店舗を歩道橋から写す)
 週末に青森に行ってきた。東京から3時間半で本州の北端に行ける。

 青森のこの冬は大雪で、3月になっても屋根の上にたくさんの雪が残っている。
   2週間前には、市内のパチンコ店が雪の重みでつぶれてしまったそうだ。
 偶然、その場所の前のビジネスホテルに泊ったので、写真を取ることができた。
 雪下ろしをしなかったのか、建物の強度が弱かったのかは定かではないが、つぶれてしまったのは事実だった。
 周りの建物が問題ないことを見ると、古い建物が一種の淘汰にさらされているようにも見えた。
 

(JALホテル前の歩道に作られたおいしい水記念碑、子供の背の高さもある青銅製だ。)
 一般の家でも気温が上がって屋根の雪が解け始めると、突然雪が屋根から雪崩のように落ちてきて大変危ない。
 そのため、市内の各所で屋根の付近が仮の柵で立ち入り禁止になっている。
 そういえば、心持ち屋根の勾配は急に作られていて、雪が滑り落ちるようにできているようにも見える。
 このようなことは雪のない都市に住んでいると思いもつかないことだ。

 たが、豪雪地帯には良いこともある。
 雪さえなければ、建物は丈夫にできていて地震に強いはずだ。
 新潟中越地震の時も、同じような理由で震度の割には建物被害が少ないということもあった。 

 また、豪雪の年は豊作をもたらすともいわれている。青森はおいしいお米が取れるし、お酒も豊富だ。

 写真のように青森市内のJALホテルの前には「おいしい水」の記念碑があった。
 青銅製の大きなモニュメントで、子供の背の高さくらいある。製作にはかなりお金がかかったようにも見える。
 以前においしい水コンクールで青森市の水道が日本一を取った時の記念に作ったということだが、豊富な降雪がおいしい水を作っているのかもしれない。

(水のモニュメント)
「日本一おいしい水のモニュメント」の説明板には次のように書かれていた。」

「水のモニュメント」は1984年(昭和59年)に厚生省の「おいしい水研究会」による「利き水会」で「日本一おいしい水道水」と評価された青森市の水道水を多くの方にお飲みいただくために、国際ソロプチミスト青森からの御寄附を生かし設置しました。

 豪雪は除雪など都市にとって大きな負担であるが、翻ってある種の観光資源になるような気がした。
 実際に、札幌市や旭川市では趣向を凝らして冬の観光客を呼び込んでいる。
 特に、日本人だけでなく海外からの客を積極的に呼び込んでいるのが面白い。
 中国や韓国、オーストラリア空の客が増えると、日本人客も増えるというブーメラン効果がある。

東北新幹線が青森まで開通して1年、青森は新幹線の終着駅という地の利がある。
 災害を逆手にとって観光資源に、というのは不遜にも見えるが、ある種の割り切りも面白い。

 市内には、たくさんの水産物販売店があり、何か所もに分かれて小さな市場のようになっているが、釧路のように1か所に集めて大きな海産物の市場にしたらいい。青函連絡船の跡地があるので広大な青森駅は敷地ならいくらでもある、と勝手に想像した。


2011年 下水道技術のメッセージ (10) 3月5日 「EICA東日本大震災調査研究報告書」

(平成24年3月1日国交省岡久下水道部長に報告書を手渡す田中宏明EICA会長)
「EICA東日本大震災大震災調査研究」は3月1日に環境システム計測制御学会から発表され、田中宏明会長(京都大学教授)から国交省岡久下水道部長や日本下水道事業団谷戸理事長、日本下水道協会安中理事長に手渡された。

 内容は、第1章が「背景と経緯」で、調査の背景や調査後の進め方、エコスマートコミュニティ構想などの到達点を表している。
 第2章から第5章までは調査の各論で、石巻東部浄化センターを初め、仙塩浄化センター、南蒲生浄化センター、県南浄化センターの被害情況と復旧状況を記録し、第6章ではこれらを横断的にまとめている。
 第7章では報告書の総括とでもいうべき提言を行い、全国の低地に位置する下水処理場に警告を発している。

 報告書の特徴は、調査研究対象を下水処理場の電気・計測設備に絞り込んだことである。

 環境システム計測制御学会の会員には無償で配布される。


2011年 下水道技術のメッセージ (9) 2月25日 「未来プロジェクト」

(調査研究報告書表紙の写真、報告書は3月1日に発表。
昨年夏に現地で撮った感動の写真だった)
2月最後の金曜日に環境システム計測制御学会(EICA)の未来プロジェクトでの講演を行った。

 この未来プロジェクトとは、EICAが若手技術者育成を目的に行っているもので、上下水道、廃棄物関係の30代若手技術者を集め、1年間研修をするものであり、もう6年も続いている。
 今年のテーマは「東日本大震災」。
 私のテーマはEICAが昨年11月から行ってきた、3月1日に公表する「EICA東日本大震災大震災調査研究」についての紹介をした。

 当日の参加者は15名、関東の自治体や企業の技術者が中心だが、神戸からいらっしゃった人もいた。

 70分の講演をした後に、3グループに分かれてグループディスカッションを行い、結論をまとめて1時間ほどかけて各グループが発表をした。
 テーマは、
 「なぜ津波被害は繰り返すのか」
 「新しい災害の対応はいかにあるべきか」
 「災害に関する技術伝承は以下にあるべきか」
の三つで、考え、伝え、行動することを期待した。

 さすがに、最近の若者は(?)グループディスカッションに慣れていて、短い時間で手際よくまとめて発表していた。
 全体を通して、「災害を忘れてしまう、風化してしまうことへの警告、自戒」への対応や「、危機管理専門(部隊)組織の創設」、「訓練の重要さ」、「自分が勤務している施設の熟知」などが議論された。

 最後に、コーディネーターとして、
「災害はそもそも忘れられやすい。これを忘れないようにするのは、人の頭の中だけでなく組織や制度、文化に覚え込ませるようしろ、と畑村洋太郎は書いていた。」
 「日本は公害問題で悲惨な被害を経験して公害対策で 世界をリードした。災害に対して後ろ向きに捕えるのではなく、災害対策大国日本を作り、世界に貢献できるようにしてほしい」とまとめた。


2011年 下水道技術のメッセージ (8) 2月19日 「ラーメン共和国」

(ラーメン共和国」)
札幌に行ったついでに、札幌駅のラーメン共和国を訪れた。

 ヨドバシカメラの入っている駅隣接ビルの最上階に、レトロ風のラーメン店が10軒近く三丁目の夕日風のたたずまいの中で軒を連ねている。

 昼時だったので大勢の客が集まり、各店の前は長蛇の列であった。
 そのうちの当たりをつけていた「白樺」という店の列に並ぶと、20分以上待たされた。
 列に並んでいると、店員がメニューを持ってきて写真のように列で待っている客に注文を聞いて回っている。
 きっと、あまり待たされて列の途中で逃げ出す客を防ぐために店が注文を取っているに違いない、というヨコシマ思いが走った。

 おなかをすかせて、やっと席に着くと、ものの2分もしないうちにおいしそうな札幌味噌ラーメンが運ばれてきた。
 20分立ったまま待たせて、席に着いたら2分で出す、これは客の心理を理解したマーケッティングであった。

 ある人が書いていたが、2軒の行列のできるラーメン店で行列をなくすために店の投資をしたが、投資の仕方で結果が大きく変わったそうである。

 1軒は行列をなくすために客席を増やし、行列を解消した。でも客の不満は収まらず、むしろ不満が高まってしまった。
 もう一件は調理場を増設してラーメンを早く作れるようにした。こちらは相変わらず行列しているが客の満足度は大いに高まったそうである。

 つまり、客は行列している間は我慢できるが、いったん席に着くと周りにラーメンを食べている客がたくさんいるので我慢できなくなり不満が募るということであった。
 皆が一緒におなかをすかせていれば行列するのは我慢できるが、ゆっくりと椅子に座っても周りが食べていると自分だけがぞんざいに扱われていると思ってしまうらしい。

 札幌のラーメン共和国は、客の心理に裏付けられたセオリーを忠実に守っていたということで、大変おいしいラーメンをいただけた。  


2011年 下水道技術のメッセージ (7) 2月14日 「旭山動物園」

(雪の中を走り回っていたキリン」)
機会があり、週末に北海道旭川市の旭日山動物園を訪れた。

旭日山動物園は、さびれていた地方の動物園が創意工夫とマーケッティング、マスメディアのアナウンス効果で、全国の注目を集めたところである。

 動物の行動展示というコンセプトで、動物に対するスタッフの愛情を展示するという独創性が受けて、1年間に300万人もの観客が集まっていた。

 ところが、最近は200万人に観客の数が減少しているという。

   その理由は、日本経済の低調もあるが、旭山動物園の独創であった行動展示やスタッフ手書きのカンペは、全国の動物園では当たり前に普及した。ペンギン行進は、旭川市まで行かなくても札幌市の円山動物園で見ることができる。
 それに、最近はマスコミが旭山動物園を取り上げる機会がめっきり減った。
 旭山動物園は、一時はテレビや映画にもてはやされていたのだが、画面から消えると忘れられやすい。

 このような「じり貧状態」で、名門の旭山動物園はどのような手立てをしているか、していないかを自分の眼で確認したくなって北海道に飛んだ。

 2月の旭山動物園は厳寒で、最高気温が氷点下7度という状況だったが、観光客は多数いて、まずは安心した。
 札幌では雪まつりの最中ということもあるのだろうが、関西弁の観光客や中国系の観光客がたくさん来ていた。
 観光バスも多数駐車していて、観光ブランドとしても定着している。頼もしいかぎりだ。

 定番のペンギン行列は相変わらずの大人気。ディズニーワールドのミッキーマウスの行進を彷彿とさせる。
 ライオンの檻では、真冬にもかかわらず、ライオンが1頭、雪の降る中で1m四方の板の上にジッと座っている。環境客はその近くのガラス窓から間近にライオンを観れるというわけだ。

 その間近さがほんの50CMくらいで、本当に近い。

 キリン棟では、熱帯生まれの動物にも関わらずに、なぜか雪の中を2匹のキリンが走り回っている。

 一方、カバやオラウータンは、さすがに真冬の出番はなく休館となっていた。

 そんな中、人気のアザラシ館には、隅の方に片方の翼を失った鷹が雪の中をたたずんでいた。

 アザラシの中にも、高齢化して眼が白内障になった者もいるそうだ。

 このような障害を持った動物を展示の正面に据えているのには、ある種のメッセージを感じた。

 また、動物園の端に小さな鳥小屋があり、カラスとすずめが展示されていた。
 カラスやスズメはどんな街にもいる動物だが、よく見るとスズメのサルモネラ菌集団感染の話が示してあった。

 なんでも、スズメのえさ台の自分の糞で、サルモネラ菌に集団感染をして何千羽ものスズメが死んだらしい。
 人が餌を与えるという行為がスズメの大量死に結びついたことを警告していた。

 これらの様なメッセージ性の強い動物の展示は、何も今に始まったものではないが、今後の旭山動物園の行く道を示唆しているようだった。

 きっと、旭山動物園が再び興隆するには、新たなメッセージ性の提案やスマートフォン、日本アニメとの連携、はたまた「人間」という動物の行動展示など、動物園を越えることが必要なのだろう。

 残念ながら、今回の訪園では新たな旭山動物園の戦略にはめぐり合えなかったが、これからの動向を見守っていきたい。  


2011年 下水道技術のメッセージ (6) 2月5日 「津波報告書」

EICA東日本大震災調査研究報告書が佳境を迎えた。

 大津波で被災した東北の大規模下水処理場の電気・計装設備に関して、被災の現状分析とあるべき姿の提言を行うものである。

 昨年7月に委員会を編成し、11月には現地調査を行い、その後何回も執筆者会議を開き、お正月休みを返上してしたためている。
おそらく、各執筆者は1月の週末はほとんどこの執筆作業に取られたに違いない。

 ページはたかだか30ページであるが、4つの下水処理場の被災を比較検討することにより、見えないことがいろいろと明らかになってくる。
 全国の海岸沿いに立地する下水処理場にとっても、予防的な対策には大いに役に立つに違いない。

 私、個人的にも、できることをやるという気概で、2年前にベトナムの下水道調査をしたときと同じような力の入れようで参加している。

 この報告書は、先週、2月末に開催される下水道地震津波対策技術検討会で発表されることが決まった。

 5月に開催される学術会議の第4回連続シンポジウムでも会場で配付される予定である。


2011年 下水道技術のメッセージ (5) 1月29日 「Meals Ready」

都庁の先輩から、 「Meals Ready」/というインド映画を紹介されyoutubeで観た。
 わずか10分少しの短編であったが、黒沢明バリの映像テクニックとメッセージ性の強さに驚いた。

 豊かさとは何か、幸せとは何かという重いテーマをさらりと表現している。
 経済発展し始めたインドでなければ作れない作品だと思う。

 インドは世界最大の映画生産国らしい。
 ただし、ハリウッドのように世界へ発信する商業ベースのネットワークが無いから「踊るマハラジャ」くらいしか世界には知られていない。

 だが、この 「Meals Ready」/という映画を見てインド映画に対する認識を新たにした。

It's a 10 minute film from India, An Excellent Short Film
Film teaches us to value what we have in life right now.
Life could be so tough, but still it has green patches of True Love and Care.
Sharing is the Key in this story. Good Viewing.

   インターネットは世界を帰る、世界は広い、ということだ。


2011年 下水道技術のメッセージ (3) 1月18日 「巨大災害から生命と国土を護る」

1月18日に日本学術会議において「巨大災害から生命と国土を護る」第2回「大震災の発生を前提として国土政策をどう見直すか」の連続シンポジウムが開催された。

 今回は大勢の申し込み者があり、大きな学術会議の講堂が満員になり、補助椅子が出されたほどであった。
 関係者の話ではインターネットで申し込んできた100名以上の方を満員で断らざるを得なかったそうである。

 なぜ、このようにたくさんの皆さんが集まるか考えて見た。
 第一は、災害というものは総合科学、分野横断であるということである。
 理学、工学、人文、など、人に関わるあらゆる分野が関係している。

 第二の理由は迅速性である。
 聴講者にはあまり知られていないが、このシンポジウムは学術会議主催と銘打ってあるが全てボランティアで運営されている。
 手作り資料に手作りシナリオ、会場の運営も各学会が少人数ずつ労力提供してボランティアで運営している。
 公共の予算は一切使っていないらしい。
 だからやると決めたら実現が早い。テーマも自由に選べる。

 考えて見たら災害支援はボランティアがたくさんいらっしゃって、大いに貢献しているが、災害シンポジウムも同じだろう。

 第三の理由は主体性だろう。自主性といってもよい。津波や地震が他人事とは思えない。
 皆さん、自分の問題ととらえ、一方で会を運営し、一方で真剣に聞いている。
 社会貢献が自分に戻ってくると確信を持っている。

 それだけに、2回目のシンポジウムが大成功に終わったことに複雑な思いもある。
 このように多くの皆さんの期待を込めて、これからもシンポジウムが続くことになるが、これからもボランティア的な事務局、会運営でよいかということである。

 そもそも、シンポジウムの参加費は無料で運営している。しかし、誰かが費用を負担しているわけでいずれ限界が来る。
 シンポジウムの成果はどのように出現するのだろうか。
 復興事業や災害予防にどのように反映するのだろうか。

 ともかく、第三回は「減災社会をどう実現するか」をテーマに2月29日水曜日、午後2時から開催される。


2011年 下水道技術のメッセージ (2) 1月9日 「当直の役割」

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の中間報告書を読んだ。

   その中で、炉心冷却の最後の手段である非常用復水器(IC)に関する当直の対応の評価があった。
 私は下水処理場で事件事故を幾つか経験しているが、それと重ね合わせて読んでみて、原子力発電所の当直の練度が意外と低いということに驚いた。

 関連する中間報告概要版の一部を転記すると以下のようになる。

   1 号機については、津波到達後間もなくして全電源を喪失し、フェイルセーフ機能によって、非常用復水器(IC)の隔離弁が全閉又はそれに近い状態になり、IC は機能不全に陥ったと考えられる。
 しかし、当初、IC は正常に作動しているものと誤認され、適切な現場対処(その指示を含む。)が行われなかった。
 その後、当直は、制御盤の状態表示灯の一部復活等を契機に、IC が正常に作動していないのではないかとの疑いを持ってICを停止した。このこと自体は誤った判断とはいえないが、発電所対策本部への報告・相談が不十分であった。

 (当直は)IC が機能不全に陥ったことに気付く機会がしばしばあったのに、これに気付かず、IC が正常に作動しているという認識を変えなかった。
 かかる経緯を見る限り、当直のみならず、発電所対策本部ひいては本店対策本部に至るまで、IC の機能等が十分理解されていたとは思われず、このような現状は、原子力事業者として極めて不適切であった。

 この部分は、報告書本文では、以下のような詳細の記述となる。

 津波到達直後、1 号機のIC の隔離弁については、いずれも、制御盤上、その開閉状態を表す表示灯が消えて確認できなかった。
 さらに、津波到達前、当直は、戻り配管隔離弁(MO-3A)の開閉を繰り返してIC を作動させていたが、全電源喪失時の同弁の開閉状態を覚えていなかった。また、当直は、この時点ではまだ、全電源喪失に伴い、フェイルセーフ機能によって全ての隔離弁が閉となることに思いを致していなかった。

 また、別の箇所では以下の記述がある。

 1 号機の運転操作をする当直は、誰一人として、3 月11 日に地震が発生するまで、IC を実際に作動させた経験がなかった。 

 当直の中には、先輩当直から、IC が正常に作動した場合、1 号機R/B 西側壁面にある二つ並んだ排気口(通称「豚の鼻」)から、復水器タンク内の冷却水が熱交換によって熱せられて気化した蒸気が水平に勢いよく噴き出し、その際、静電気が発生して雷のような青光りを発し、「ゴー」という轟音を鳴り響かせるなどと伝え聞いている者もいた。

 しかし、1 号機が全電源を喪失した後、同日18 時18 分頃までの間、当直は、このような蒸気の発生や作動音により IC の作動状態を確認することを思いつかず、実際に、1 号機R/B 山側に行って排気口を目視するなどして蒸気発生の有無、程度を確認することもなかった。

 以上、報告書では、関係者の責任追及ではなく原因を明らかにして再発を防ぐという立場であるので、婉曲な表現になっているが、当直を初め、発電所対策本部及び本店対策本部、保安院の関係者に対して何度も何度もICへの無知無経験を指摘している。

 緊急遮断弁に相当する隔離弁は電源断で全閉は、プラントオペレーターの常識である。
 交流直流全電源喪失はプラントのワーストケースとして、容易に想像できることで、下水処理場でも年に一度は受電断、直流電源断、非常発電断からの立ち上げという全停電訓練を行っているはずである。

 また、IC動作確認で壁面排気口から蒸気の排出を確認するという指摘は興味深い。
 雨水ポンプ所で水位計が壊れたらITVで沈砂池水位を観測するし、ITVも壊れたら人が目で確認する。
 ICの動作確認についても、中央監視室にいるだけではなく、部屋の外に出て自分の目で確認するという基本的な行動を取れるような応用力が発揮できなかったことは、残念であった。

   このような初歩的な知識や応用力の欠如が原子力発電所で生じているということは、下水処理場ではもっと厳しい状況があると言ってもよい。
 不十分な当直の配置や判断の誤りの中で、最悪の事態を避けるという危機管理賀大切だ。


2011年 下水道技術のメッセージ (1) 1月3日 「福島原発事故」

福島第一原発事故の運転管理体制に不明な点が多い。

 一言で、運転管理スタッフは原子炉を知り尽くしていなかったようである。緊急事態の対応が現場リーダーや原発所長レベルで徹底していなかった可能性がある。

 運転管理スタッフは、プラントの全ての機能と、どこに何があるかを知り尽くしていなければならない。
 ところがこれが難しい。

 下水処理場の運転管理勤務に置き換えて見ると理解しやすいが、日ごろ、プラントのデーターを取ることや定期点検をすることの意味をよく考えて見るとよい。

 航空会社の客室乗務員は、乗客の安全や緊急事態発生時のスタッフとして配置されている。
 食事やお茶のサービスのためにいるのではない。
 だから、体格の良い男女が多いし定期的に厳しい訓練をしているらしい。

 これと同じように、原発や下水処理場の運転監視員は正常時のデーターを記録するためにいるのではなく、緊急時、非常時にプラントが性能を発揮し、最悪の事態を回避するために配置されている。
 正常時にデーターを取ったり巡回点検をするのは、非常時の行動を確かなものにする意味が大きい。

 通常、時々小さな事故が起きていると運転監視員は事故対応の経験を積み重ね、本当に重大事故が起きても対応できる。しかし、小さい事故も起こらない場合には訓練で経験をつけなければならない。
 つまり、安定し何も起こらない信頼性の高いプラントの方が難しい。

 起こりそうもない事故を想定して非常用機器を操作し、機器位置や機能を知り尽くしておかなければならない。そうしなければ、めったに来ないがいざという時に適切な対応が期待できない。

 女川原発は想定外の津波に襲われたが非常電源でしのいだ。東北新幹線は地震で大きな被害を受けたが乗客の被害はなかった。このような成功事例を運転監視員の立場で解明することが、福島原発の問題を明らかにすることにつながると思う。


2011年 下水道技術のメッセージ (93) 12月28日 「適応」

友人が早期の腎臓ガンになり、片方の腎臓を摘出した。
 幸い、早期であったため他への転移はなく、術後1週間で無事退院した。

 退院時に彼が医師から申し渡されたことは、暴飲暴食を控えること。過激な運動は当分控えることであった。
 その理由は、腎臓などを摘出したためおなかの中で小腸の納まり方が不安定になっているので、小腸のねじれやつまりを防ぐためである、とのことであった。

 成人でも腸捻転や腸閉そくは重大な症状であるので、これらを防ぐということらしい。

 そのため、しばらくの間注意していれば、いずれ小腸は収まるところに収まり安定な状態に移るらしい。

 そういえば、同じようなことが歯のかみ合わせにもある。
 歯医者で歯の治療をすると、最後に歯のかみ合わせ調整をする。
 調整をした後で歯医者からかみ合わせの感じを聞かれるのだが、何度やってもしっくりいかないことがある。
 そのような時は、いい加減で妥協するのがよい。

 調整後かみ合わせがよくても悪くても、何日かするとかみ合わせの不具合は気にならなくなり、最後は忘れてしまう。

 以上の2つの事例は、身体の適応能力を示している。
 最初は不具合でも、何日間か不具合を重ねているうちに体の方が変化していき、しっくりしてしまう、ということだ。

 心の問題も似たことがある。最初はとんでもないことであると思ったことが、何回か繰り返されると受け入れてもよいと感じてしまうことがある。
 これは、刺激に慣れることにより心に対する刺激が薄まるだけでなく、心の中に刺激を処理する新しい考えが芽生えていくのではないだろうか。

 このような体や心の適応プロセスは、人類が生き抜くために大切な能力であるに違いない。


2011年 下水道技術のメッセージ (92) 12月12日 「温故知新」

12月9日午後、横浜市環境創造局で技術者を対象に「温故知新、日本最初の下水処理場〜学ぶ」という講演会を行った。

 最初に、東京都水道課が昭和30年に作成した「汚いと言ったお嬢さん」という下水道プロモーションの映画を20分ほどみていただき、大正末に建設された三河島汚水処分場の施設を動画で見ていただいた。

 その後、「建設と計画」「電源周波数統一」「関東大震災と震災」という切り口で、日本で最初の三河島汚水処分場の誕生と成長をなぞった。

 講演の結論は、下水処理方式の「ニーズオリエンテッド」、「工業規格設定の重要性」、「災害は形を変えてやってくる」の三つであった。

   先人は、想像以上の苦労をして下水処理場を進化させてきた。
 現代の我々はそのノウハウを掘りださないわけにはいかない。
 このような視点で古い三河島汚水処分場の事象を分析して、現代の課題の解決に役立てるという「温故知新」を強調した。

 40名近くの方が横浜市神奈川水再生センターに駆けつけて、熱心に聴講していただいた。

 講師として、十分手ごたえを感じた90分であった。


2011年 下水道技術のメッセージ (91) 12月4日 「非常用水洗トイレ用水」

(仙台市ホテルのトイレにおいてあった断水時のトイレ用水ポリタンク」)
 11月末に仙台市のホテルに宿泊したら、部屋のトイレの横に断水時に使うトイレ用ポリタンクが置いてあった。
 タンクには5Lくらいの水が入っており、しっかりと蓋がしまっていて、表には「飲用不可」、「非常用」の赤地に白の文字が書いてあった。

 このような配慮は宿泊者にとって心強いもので、非常によい印象を受けた。
 昔は防火用水としてバケツに水を汲みおいて廊下の隅に置いてあったこともあった。

 エレベーターが止まった時に非常用階段があるように、水洗トイレには断水時に水洗用の水を汲みおくことは大切なことである。このような災害への準備は下水道の存在を訴えることにもつながる。
 断水したら何が起こるか、下水道が壊れたら何が起こるかということを考えることになる。

 全国に広める運動を始めるべきではないだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (90) 11月28日 「仙台駅・3.11早期復旧への記録・パネル展」

(仙台駅の「土木の日記念行事 パネル展」)
 11月27日日曜日に、仙台駅で下車したら、駅構内で土木学会東北支部が主催して「土木の日記念行事パネル展」を開催していた。
 内容は、「3.11早期復旧への記録」と題して土木における震災復興の取り組みを多数の写真で訴えていた。

 その中で注目を集めていたのは、震災直前・直後の被災地の航空写真であった。
同じ角度同じ高度の航空写真がこれでもかというくらい網羅的に、鮮明に展示してあった。おそらく、国土交通省や自衛隊が震災直後に撮影したものだろう。
 大勢の人が、それぞれの写真にくぎ付けになって穴のあくまで見いていた。

 きっと、ご自身の街か、親戚や知人の街が写真に映っているのだろう。
 名取市閖上地区の写真の前では、「私はここにいた」と写真を指差している人もいて驚いた。

   私の隣で見いていた高齢の女性は、「恐ろしい、恐ろしい」、とつぶやいていた。
 「仙石線はまだ不通ですよね」と話しかけたら、その女性は、「最近、車で石巻に行ってきたが、まだ瓦礫が残っていました」と教えてくれた。

 なかでも、2枚目の写真はティロップにあるようなギリギリの状況で取られたもので、想像を絶する絶体絶命の写真である。

(安全とされた宮城県南三陸町防災対策庁舎にも屋上まで津波が押し寄せた。この写真は屋上のアンテナに登って助かった職員がアンテナから写した写真)

アンテナにしがみついて写真を撮っていた職員の足元を大津波が襲い、この写真の屋上に避難した職員の同僚も多数命を失っている。
本当に恐ろしいことであった。

会場では、被災地の写真のほかに、東北地方整備局関連の道路、橋梁の復旧状況、東北新幹線の復旧状況などを詳しく写真や図解で展示してあった。

 道路や新幹線の早い復旧は大いに称賛される。あるシンポジウムで失敗事例だけではなく「新幹線の復旧状況を大いに学ぶべき」、と主張した有識者を思いだした。

 しかし、いつものことだが下水道の被害や復旧の状況は会場の何処にもなかった。一枚の写真もなかったし、土木学会の展示であったにも関わらず、下水道の被害に関して一言も触れてなかったことは残念であった。

 確かに、下水道は「早期復旧」していないから展示の主旨に合わないと言えないこともないが、壊滅的な被害を受けたのは仙台空港と鉄道、道路、それに下水道である。、

 環境システム計測制御学会は、明日から宮城県、仙台市の下水処理場の被害と復旧状況を調査する。


2011年 下水道技術のメッセージ (89) 11月24日 「昭和初期の工業基準政策失敗」

皆さまご承知と思うが、電源周波数が50HZと60HZの2種類ある国は先進国では日本だけである。

欧州及び欧州系は50Hz、米国及び米国系は60Hzの1種類で国内は統一している。

日本が2種類になったのは、明治時代に電気技術を輸入した時。50Hzと60Hzの二種類を導入したからとされているが、それだけでは正しくない。

 その後、大正から昭和にかけて電力周波数統一のチャンスが幾度かあったにもかかわらず、できなかった政策にも原因がある。

 電源電圧でも日本は100V であり先進国の200Vからみると遅れている。

 電源周波数や電源電圧のような工業基本単位は整然としていなければならない。
 電源周波数が2種類あると、東日本大震災後の計画停電時のように電力融通ができず大きな痛手をうける。そもそも電気製品も、種類によっては2種類作ることになるから非効率である。

 まだ電化の進んでいないうちに国家プロジェクトとして電源周波数の統一を画策しておくべきであった。

 これと同じような工業基準の政策ミスが最近も実行されてしまった。
 それは、テレビ受像機の地上デジタル波への切り替えである。

 日本のテレビ番組は最近つまらなくなったと言われている。
 通販番組や韓国ドラマ、安易なバラエティ番組が中心になってコンセプトが見えてこない。スポンサーも化粧品や自動車、電化製品からサプリメント、通販、などの小粒企業にシフトしている。

 その原因の一つはテレビが魅力にかけてきたからである。  テレビ視聴者も、大部分はテレビ黄金時代に育った団塊の世代が中心で、昭和歌謡曲特集や刑事コロンボのリメイクのような「相棒」などが番組の売れ筋になっている。
 大相撲やプロ野球などのテレビ視聴を前提としたスポーツも低調になった。

   この映像離れは、若者の求めるメディアがテレビからインターネットやスマートフォン移っていることを原因としている。

   このようなテレビが大衆から離れて行くときに、何を間違えたか総務省はテレビを地上波から地デジ化に切り替える大事業を敢行した。

 その結果、ますますテレビ離れが加速され、現在に至っている。

 テレビ受像機の売り上げも落ちている。テレビは一家に5台も6台もあるのだから購買威容はわくはずがない。
 そこで、液晶化、地デジ化と需要喚軌を行ったが、液晶化は途上国の追い上げに負け、地デジ化は視聴者を失った。その結果、2011年後半には液晶テレビの国内生産はシャープを除いてほとんどなくなってしまったらしい。

 昭和初期の電源周波数の不統一と平成の地デジ化の失敗は、工業基準政策の誤りという同じ背景を持つ。
 工業基準政策の影響力は広範囲に長期間継続するだけに、今後の展開が大いに気になるところである。  


2011年 下水道技術のメッセージ (88) 11月20日 「気泡混じりの水道水」

気泡が混ざった水が流れる蛇口がある。
 蛇口に工夫が凝らしてあり、蛇口をひねると空気を取り込み、気泡混じりの水道水が蛇口からほとばしる。

 気泡が混じるといろいろな効果がある。
 まず、水の感じがソフトになる。
 おそらく、気泡がある分だけ手に当たる感触や温度が滑らかになるのだろう。

 また、使用する水の量はわずかだが気泡の分だけ少なくなる。
 それに水が洗面第に落ちるときの音も、気泡が混じっているから柔らかになる。

 よく考え抜いてある。


2011年 下水道技術のメッセージ (87) 11月14日 「下水汚泥溶融炉における金の精錬」

豊田終末処理場の金産出は、最初の平成20年度が20kg、21年度が9kg、22年度が13kgである。
 20年度はそれまでの蓄積があったから多めの産出で、一般には10kg/年というところだろう。

 それに対して、下水処理場の計画日最大処理水量は13万7千tで、普及率はほぼ100%、日平均流入下水量は約10万tである。
 すると流入下水に含まれる金の含有は、10kg÷(10万トン×365日)×1000(mg/L)=0.0003mg/L=0.3ng/Lとなる。
下水への工場排水の排水基準は、鉛では0.1mg/Lだから金の下水含有量はこの約300分の1となる。

 金鉱石の標準的な含有量は5g/t(5mg/L)程度だから金鉱石に対して、下水中の金含有量は1万分の1ということになる。

   この下水を下水汚泥に濃縮し、脱水、焼却、溶融という過程で金は精錬される。その結果、溶融炉の溶融飛灰では1780〜2130g/t、不良スラグでは15g/t、定期点検時に系外に搬出される煙道スラグには6000g〜22000g/tもの金が含有された。汚泥焼却灰でも平成20年度には28.8g〜35.2g/t、21年度には15.3gもの金が含有されていた。

 金の含有量は、年度ごとに変動があるが傾向としては変わらない。
 下水処理場では金の回収率を上げるために、平成21年度から焼却灰の定期点検時系外搬出は止めて全量溶融とし、金濃度の高い煙道スラグの形での金回収に努めている。

 ここで一つの疑問が生じる。下水汚泥は800℃強で燃焼して焼却灰になり、溶融プロセスでは1200度程度で焼却灰が溶解され、さらに再結晶化プロセスで冷却されながら結晶化されて砂利状のスラグとなって埋め戻し材に利用されている。しかし、金の融点は2810℃であるから、金は溶融すらしないはずである。溶融しなければ金は再結晶化スラグにだけ含まれて、煙道には移行しないはずである。
 ところが、金の含有量、産出量は煙道スラグが一番多い。

 この答えは金の高温物性にある。つまり、金は常温では安定だが数百℃になると塩素やフッ素と反応して塩化金やふっ化金を形成する。だから溶融炉の中では焼却灰に含まれている塩素が金に作用して塩化金を作成して溶融し、600℃程度になると揮発するという現象が発生しているらしい。

   この結果、焼却灰に含まれていた金は、かなりの部分が気中に移り、煙道に飛散し、ガス温度が低下する箇所で煙道スラグの形で凝固しているらしい。

 つまり、下水汚泥溶融炉の中である種の金精錬機能が働いているということであった。

 おそらく、汚泥焼却炉の中では焼却灰は固体の形状にあるので金と塩素は反応せず、安定した形で灰の中にとどまっているものと推察される。
 やはり、溶融というプロセスがポイントであった。

 ところで、下水焼却灰の中には金以外にも他の貴金属やレアアース金属などが含まれているに違いない。
 豊田終末処理場の特徴は、下水処理を進めるうちに副産物として金が産出されたことである。直接下水から金を精錬しようとすれば、経済的には全く引き合わない。しかし、下水処理を進める中で金が産出されたとなれば、金の生産コスは限りなくゼロに近い。ここがポイントである。

 今回は金という象徴的な貴金属が発見されて話題になったが、生産コストが限りなくゼロに近いということを前提として、資源回収という視点で下水道を見直す必要がありそうだ。

 ちなみに、下水中の金などの低濃度の金を検出する方法はないらしい。ng/Lオーダーの検出は原子吸光分析器やGC-MS(ガスクロマトグラフィー式質量分析器)の出番だが、微量な金の検出する需要がなくて測定することができないらしい。


2011年 下水道技術のメッセージ (85) 11月2日 「商品の価格と価値」

商品の価格は、一物一価でほぼ価値と見合っているとされている。

しかし、実体はかなり流動的で複雑である。

例えば、ダウンジャケットを思い浮かべてほしい。
5千円のダウンジャケットと1万円の商品を並べておくと、だいたいが5千円の方がよく売れるらしい。
だが、そこに2万円の商品を並べると、急に1万円の商品が売れるようになるという。

消費者心理としては、最初は5千円の商品がお買い得に見えたのだが、2万円の商品を並べると5千円の商品が貧弱に見えてくるから不思議だ。

よく考えると、このような消費者心理の中には、消費者が店舗を信頼しているという前提があることが分かる。
贅沢をしないという気持ちから最高価格の商品を避ける行動と店舗のすすめる上位価格帯を買いたいという気持ちが入り混じって、ナンバー2の商品を購買する心理が強く働くらしい。

だから、品ぞろえとしては2万円の商品は2万円以下の商品価値のあるものを揃えて、売れ筋の1万円の商品のお買い得感を演出する。
同じ趣旨で5千円の商品は、思い切ってシンプルで5千円という価格より低い商品価値のものを用意するということになる。

実は、このような商品設定に真っ向から対決したのがユニクロである。
演出する商品を置かず、徹底した低価格と高機能、量産と個性化路線を走った。

裏の裏も真なり、ということだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (844) 11月1日 「ミジンコの役割」

信州大学の花里先生の講演を聞いた。

その中で、ワカサギが増えると湖の水質が悪化するという話が印象深かった。

そもそも、湖の中では食物連鎖が広がっていて、生態系の均衡が取れていた。
そこにワカサギが来て、小型であるワカサギは主食であるミジンコなどの動物性プランクトンを大量に食べて増えた。
 するとミジンコは数が急激に減る。ミジンコなどの大型の動物性プランクトンは体の小さい動物性プランクトンを食べ、小さい動物性プランクトンは植物性プランクトンを食べる。湖の中では植物性プランクトンを底辺とする複雑な生態系が成り立っている。

 結局、ワカサギが増えるとミジンコが減って植物プランクトンが増えることになる。
 すると、アオコなどの植物プランクトンが大量発生し、その結果、湖はどろどろとした緑の汁粉のような状態になってしまった。

 したがって、ワカサギを少なくしたりミジンコを放流して増やせば水がきれいになる。  このような人為的操作をバイオマニュピレーションと呼んでいる。
 ワカサギを駆逐するには、ブラックバスやニジマスを放流するとよい。

 先生の話で興味深かったのは、清流にすむと思っていたワカサギが湖の透明度を下げている原因になっているということと、生態系が変化しても、湖のNPの総量は変わらないということであった。
 湖の透明度を回復するのにワカサギを減らすという行為が、一見常識を覆すように見えるが、ミジンコの存在がモノをいった。

 NPについては確かに、植物性プランクトンが増えても、ミジンコが増えても、NPは湖水からプランクトン体内に移るだけで総量は変わらない。
 この関係を、先生は「プランクトンは湖のNPの砂利のようなもの」と表現された。
 「植物性プランクトンはNPの砂のようなもの」、いずれも腐るとNPを水中に放出して総量は変わらない。 水中に溶け込んでいたNPをプランクトン体内に取り込むということである。

 したがってNPを排除して湖のNP過多による植物性プランクトンの爆発的発生を防ぐのは下水道の仕事というわけである。
 だからNPを巡って、下水道事業は生態学と連携しなければならない。
 先生は、NP除去を下水道だけに頼らず、湖畔のアシやマコモなどの植生にも期待すべきともおっしゃった。

 生態系は複雑だから多種多様な方法で対処しなければならない。まさにその通りである。


2011年 下水道技術のメッセージ (82) 10月18日 「日本独自のビジネスプラン創造」

アジアの途上国には、メガシティと言われている人口1千万人前後の大都市が幾つもある。

 これらの都市に共通しているのは、電力不足に加え、交通渋滞や用地不足が深刻なことである。
 もちろん下水道はほとんど普及しておらず、都心部ではセップティックタンクで形だけの水洗化トイレが普及している。

 このような大都市に下水道を普及させようとすると、まず、面整備で困る。
 下水道管工事が深刻な交通渋滞を引き起こすので、開削の下水道管工事ができないのである。
 したがって、 日本の得意な推進工事が一般的になる。

 また、用地が少ないので従前使用してきた広大なラグーンを配置した安定化池は撤退の方向にあり、標準活性汚泥法を採用せざるを得ないことが多い。
 すると、多量の電力が必要になるので省エネ危機のニーズが高まり、多量の汚泥が発生するので脱水機や消化槽、焼却炉などの需要が高まる。
 もちろん、脱臭装置や先行待機雨水ポンプなど都市浸水対策も喫緊の施設である。

 このようにみてくると、日本の下水道コンポーネント製品も捨てたものではない。
 唯一の弱点は、高価格高品質であるから、量産体制を整えたり寿命を短くすることでコスト削減に努めることが肝要である。  製品をベトナムやインドネシアで製作するという選択肢もある。
 この場合には、日本国内に納入する製品も外製化することになるだろう。

 海外展開でイニシアティブを取るには、日本独自のビジネスプランを創造しなければ勝ち目はない。  


2011年 下水道技術のメッセージ (81) 10月17日 「水事業コンポーネントの海外展開」

下水道の海外展開では、汚水ポンプやMBR装置、汚泥脱水機などのコンポーネント輸出は魅力の少ない事業と言われてきた。  海外水事業ではEPC(エンジニアリング・調達・建設)やO&M(運転・維持管理)まで広げた水事業のパッケージで取らないとうまみがないと言われてきた。  世界の水事業規模はO&Mが100兆円とするとEPCは10兆円、コンポーネントは1兆円といわれた時もあった。

 しかし、本当だろうか。
 よく考えて見るとEPCは為替差益や契約条件変更、用地確保などの短期リスクを抱えている。O&Mは、そもそもローリスク・ローリターンのはずだが、期間が3年から10年、場合によっては20年の長期になるので政情不安、インフレーション、料金課金などの大きなリスクを抱えることになる。
 そもそも下水管の面整備が進まないと下水道料金すら回収しにくいのが途上国の現状である。

 だから、ODAなどの資金援助で参入するならともかく、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業として途上国水事業にパッケージで参入する場合には長期間のリスクをヘッジしておかなければならない。

 この点、コンポーネント輸出は、製品売り上げを回収したところでリスクは消滅する。製品が独占技術であったり優秀であればハイリターンも期待できるし、次の2期工事でも注文が来るかもしれない。
 つまり、コンポーネントは売り上げは大きくないがローリスク・ローリターン、技術的独占性があればローリスク・ハイリターンになる可能性もあるビジネスモデルなのである。

 その上、世界の途上国の水事業はフランスのヴェオリアやスエズが創業者利益を確保しており、リスクの大きい途上国しか残っていない。そもそも日本は出遅れているのである。
 さらに、ドイツのシーメンスや米国のGE、IBMはスマートウオーターを念頭において、スマートコミュニティを念頭に置いた違ったビジネスモデルを掲げながら世界戦略を立てて虎視眈々と途上国水市場を狙っている。
 中国や韓国は低コスト、低元、低ウオンを武器に国を挙げた総力戦で事業参入を始めている。

 それでは、日本の企業は世界に通用するどのような独自のビジネスプランを掲げようとしているのだろうか。これが一向に見えない。
 このような群雄割拠の途上国水事業市場に、ヴェオリアのビジネスプランのコピー(後追い)ではなく日本の企業独自のビジネスプランを掲げて打って出ることが本当にできるかどうか、いささか心配である。  


2011年 下水道技術のメッセージ (80) 10月12日 「衛星通信事業コンポーネントと水事業コンポーネント」

災害時の通信手段ということで衛星通信を調べていて面白いことに気が付いた。

 衛星通信に使用する静止衛星の2008年受注シェアーは以下のとおりである。
  米国 38機 56%
  欧州 19機 28%
  ロシア 7機 11%
  イスラエル、中国、日本 各1機 各2%

 日本の1機は三菱電機製である。

   ところが、静止衛星のコンポーネントレベルでは、日本は強い国際競争力を有している。
 例えば、低雑音増幅器や、周波数変換器、固体電力増幅器、太陽電池パネル、リチウムイオン電池、ヒートパイプパネル、では世界需要の5割を押さえているという。

 この話をきいて、思わず水道・下水道の膜処理世界シェア―を思い出した。
 膜処理技術は、日本が世界に突出しており膜モジュールの世界シェア―は一定の地位を保持している。
 しかし、水処理施設の分野では大きく後れを取っており、海外展開もはかばかしくない。

 これは、MBR膜やRO膜のコンポーネントレベルでは優れているが、EPC(エンジニアリング、調達、建設)の分野では経験も能力も劣ることを意味している。日本企業の現地法人化も遅れている。

 一般には、日本の膜処理技術が海外EPC企業に利用されている、ということが指摘されており、国を挙げて利益の多い海外EPC事業への展開を進めている。

 しかし、静止衛星の関係をみるとコンポーネントからシステムへの道は尋常ではない障壁があることが分かる。
 衛星技術は軍事技術と直結しており、極めて戦略的に進められているということである。

 一方、水処理は平和産業であるから世界進出は衛星通信分野に比べて容易であるという見解は、いかにも楽観的すぎる。
 シンガポールが進めているニューウオーターは国家の存亡をかけた水戦略であった。

 また、水処理施設のO&Mは建設に比べて大きい市場があるから、この分野の世界展開が不可欠である、という議論もある。
 しかし、国家戦略的にみれば、維持管理の分野は建設以上に国家の存亡に関して重要である。
 水を制するものは国を制することになる。

 この発想でいけば、電力や通信の様な基幹インフラを海外企業にゆだねているのは、自国に有力企業を持たない限られた途上国になる。
 中国を初め、いずれ途上国が離陸すれば、安全保障上、自国の企業が自国のインフラの維持管理に責任を持つようになるのは自明の理ということである。

 とすれば、コンポーネントに徹した世界展開は、小国日本、技術立国日本としては巧妙な海外展開ではないだろうか。
 米国やEUと競合して海外展開を進めるというバブルの発想は、再点検していただきたいと思う。


2011年 下水道技術のメッセージ (79) 10月10日 「環境ソリューション」

日刊工業新聞社で毎年秋に発刊している「環境ソルーション 2011年度版」という雑誌に、鼎談で参加しました。  テーマは「エコスマート復興」です。

 エコスマートは、一緒に鼎談に出席された戸村友憲氏と編集長の黒田潤氏が考案された造語です。
 エコロジーとスマートシティ、スマートコミュニティを融合して東日本大震災の復旧復興の問題を解決しようというものです。

 鼎談には、もう一人、電気通信大学の新誠一先生が参加されて、東日本大震災復興へのICT(情報通信技術)からのアプローチという視点で、アクティブな話題が飛び交いました。

 実は、この鼎談は初夏に行われたもので、発行する10月には話題が陳腐化しないかと心配したのですが、今読み直してみるとそんなんことはありませんでした。

 価格は3千円でややお高いですが、スマートコミュニティにご関心のある方は必読だと思います。
 amazonか書店でどうぞ。


2011年 下水道技術のメッセージ (78) 10月9日 「災害心理-2」

東日本大震災での避難行動の心理学的分析は、「正常化バイパス」、「愛他行動」、「同調バイパス」によるとされている。

 この3つの災害心理のなかで「正常化バイパス」が最も重いと思う。
 危険が迫っているとの認識がなければ、弱者を助けるのも皆と行動を共にするのも当たり前の行動である。

 そもそも、「正常化バイパス」が働かなくても平和な日本では「生命を脅かす危険が近づいている」、という経験はそれほどないから、危険・危機を想像しにくい。

 地下鉄に煙が充満していても、車内放送が「そのままお待ちください」というアナウンスを聞き続けると、「車掌は乗客より情報をたくさん持っているし、プロなんだから何か勝算があるのだろう」と思ってアナウンスに従ってしまう気持ちはよく分かる。

 ということは、災害避難行動には「危険予知能力」が最も大切であることが分かる。

 「危険予知能力」を身につけるには、経験、教育、情報、そして訓練である。
 これに参考になるのが自動車運転免許書の書き換えである。
 ほとんどの成人が5年に1度、免許の書き換えで警察署を訪れる。このときに、災害避難に関する教育、危機予知能力のための教育をしたらよい。

 そして免許所の裏には、現在は臓器提供の意思表示を書くことになっているが、危険予知能力の教育完了のスタンプを押すことにしたらいかがであろうか。

 生き延びる能力は、最も基本的なものであるという認識が大切である。


2011年 下水道技術のメッセージ (77) 10月8日 「災害心理」

10月2日に放映されたNHKスペシャル「巨大津波 その時ひとはどう動いたか」は印象深い番組であった。
 宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区での津波避難行動を、住民5600人の安否情報から避難動線をCGで再現し、避難の課題を問うたものである。

 群集心理学者によると、このような大災害の時には人の心の中に3つの心理学的なバイアスが働くとしている。
 第一は「正常化バイアス」と言われるもので、危険な状態になっても危険ではないと思いこむ心理状態である。
 その証左に、韓国の地下鉄火災事故を示していた。
 地下鉄で、火災による煙が充満していた車内で、「もうしばらくお待ちください」という車内アナウンスに従順に従っている乗客の写真を示して、ひとはそもそも危険ではなく正常であると思いこみたい心理がある、としている。

 二つ目は「愛他行動」。津波が来ることが分かっていても、まだ残っているお年寄りなどを一緒に連れて行こうとする気持ちで、結果的に助けようとしている人も犠牲になってしまう行動である。
 もしそこで助けなければ、心の中で一生の重みになってしまうという心理で、自分の危険も顧みないで他人を助けようとする気持ちのことで、結果的に逃げ延びられたはずの人が犠牲者になってしまうことである。この地区でも愛他行動によって何人もの犠牲者が出てしまったらしい。

 三番目は「同調バイパス」で、判断や行動を周りの人に合わせようとする心理である。閖上地区では、避難場所に向かう車が渋滞で数珠つなぎになってしまったが、津波が迫っているにも関わらずに通常のように辛抱強く渋滞の中で待っているうちに津波に巻き込まれてしまった。
 先ほどの韓国の地下鉄火災事故でも、乗客同士では「同調バイパス」も働いたに違いない。

 以上の3つの心理状態は、平時ならばむしろ好ましい心理であるところが問題である。
 平時にたびたび起こる些細なことには驚いてばかりいられないので「正常化バイアス」が働き、落ち着いた行動が取れる。  また、弱者に対するいつくしみの気持ちが「愛他行動」になるのはむしろ自然な人間性の発露である。この行動は英雄的行動で美談でもあるので、人は人を助けることを最優先にしたがる。当然のことである。
 さらに、群衆の中で皆と同じ行動を取ろうとするのは合理的なことである。勝手な個人行動よりも皆さんと連携して行動したほうが安全であるという気持ちは大きい。動物が群れを成して走ったり泳いだり飛んだりするのは、極めて意味のある行動で、天敵からの犠牲者を最小にする。

 ところが、これらの行動がことごとく裏目に出て津波の犠牲者が増えてしまったのだから困ったものである。
 平時と異常時、弱者への思いやり、自分と他人、つまりは社会性の見直しを迫られていると言ってもよい。特に、「愛他行動」については、見捨てることと全滅してしまうことの区切りを何処でするかという大きな問題を抱えている。

 結局、人は異常時、震災時であることを見わけ、最後は自分で判断する覚悟を持ち、経験や訓練を重ねることしかない。
 社会性を切り変えなくてはならない、ということは難しいことだが、避けては通れない関門である。


2011年 下水道技術のメッセージ (76) 10月2日 「映画はやぶさ」

 10月1日に映画「はやぶさ」がロードショウで上映された。4作競作のうちの第3作である。
 来年2月には渡辺謙主演の「はやぶさ」が封切られる。

 今回のバージョンは佐野史郎、西田俊行、竹内結子の作品で、「はやぶさ」の偉業を低い目線で分かりやすく描いている。

 そもそも惑星探査衛星「はやぶさ」はぎりぎりの予算で作られたもので、何度も起こった障害を乗り越えて2010年6月に小惑星「イトカワ」の岩石サンプルを地球に持ち帰ることに成功した。

 この映画を見ていて、難しいことをやさしく説明することの難しさを痛感した。
 イオンエンジンや宇宙のテレメータリング、太陽風など、宇宙物理の最先端技術が次から次へと出てくる。

 小さなダイオードを電気回路に追加しただけでイオンエンジンのバイパス回路が形成できることを、一体何人の観客が理解できただろうか。
 光が到達するのに30分もかかる遠方の小惑星にいる「はやぶさ」に電波で指令を送りコントロールするのに電波の時間遅れはどうするのかという疑問が生じる。
 「「はやぶさ」の慣性モーメントがうまく設計されているので姿勢制御ができなくても通信は可能になる」というセリフを理解できる観客は、何人ぐらいいただろうか。

 これらの場面は、映画の進行上、重要な内容であるだけに、専門性と分かりやすさの表現の難しさを感じた。

 そもそも、「はやぶさ」の偉業は宇宙物理やロケット工学、情報通信の専門知識なくしてはとても理解しにくいものである。

 映画の中では、盛んにヒロイン(竹内結子)のセリフで説明していたが、分かりやすく説明しようとすればするほど不正確になる。
 難しいものだ。


2011年 下水道技術のメッセージ (75) 9月27日 「アクロバット飛行」

 大道芸人が、ころころ転がる円筒の上に乗ってフラフラ揺れながらボールをお手玉したりする姿を、ハラハラしながら見た人もたくさんいるだろう。  私もこの演技を見てハラハラしたが、冷静に観察すると意外と難しくないことに気が付く。
 自分がやろうとすると、とてもできないが、他の演技やスポーツと比較してみるとそれほど難しくない、ということである。

 そこで、ある雑誌に「難しく見せる大道芸」として、「彼らは本当に危険な芸はしない」、と言い切った。

 この件に関連して、「飛翔への挑戦」(前間孝則著、新潮社2010年刊)で、p81にブルーインパルスなどのアクロバット飛行について以下の記述があった。

「とにかく派手に急降下、また急上昇したり、旋回もしたりで、機体には過酷な負荷がかかると思われがちですがね、実はロール(回転)をやっていても構造的に厳しくない。実際は、Gをかけながら反対側にロールするローリング・プル・アウトというのが一番厳しいのです。でもそういう演技はアクロバット機ではやっていないので、万が一の時にも余裕がある。穏やかに調和のとれた飛行を行っているが、でも見物する側はハラハラドキドキしながら注視している。それがアクロバット飛行の見せ方であり醍醐味なんです」

   プロの演技は無理がない、ということだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (74) 9月27日 「大災害」

「災害(震災)は忘れたころにやってくる」は寺田寅彦の名言とされている。

 そこで、近年の震災について下水道被害を調べて見ると、マンホールの浮上や沈殿池チェーンフライト掻き寄せ機の脱落など共通するものと、浦安などの極端な液状化被害、津波による電機品の海水浸水被害、消化タンクの流出など、東日本大震災で初めて経験する被害もある。

 今後の災害は、地震や津波以外にも、大火災、大洪水、高潮、大停電など、これまでに経験したことのないものが起こるかもしれない。なにせ自然の成り行きであるからよく分からない。

 とすると「震災は形を変えてやってくる」ということだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (73) 9月22日 「台風下の帰宅」

9月21日午後に台風15号は関東地方を直撃して、公共交通機関は運休が相次いだ。

 当方も、午後3時に浜松町の職場を出て、京浜東北線で横浜関内駅を目指した。

 浜松町駅では、折からの横殴りのシュウ雨で電車に乗る前からズボンはびしょぬれになってしまった。
 遅れてきた電車は満員状態でなかなか駅から発車しない。
 車内放送によると、「JR蒲田駅とJR川崎駅の間にある多摩川の鉄橋で強風が吹いているため徐行運転をしており、各駅に電車が停車しているので、浜松町駅を発車できない」とのことであった。

 やっと動き出したと思ったら、またまた田町、品川と各駅で10分、15分と停車しては動き出す状態であった。
 そして、大森駅まで来たときに、車内放送が無慈悲にも、「多摩川での強風が規定の強さを越えたので、この電車は蒲田止まりになります」と告げた。

 万事休止。徐行でもなんでも多摩川を渡ればなんとかなると思って電車に乗ったのだが、ついに渡れなくなった。さて、どうしよう。

 この時点で、選択肢は三つ。一つは蒲田駅まで行って、駅ビルで電車の開通を待つ。二つ目は、京浜東北線で品川駅まで引き返してまだ動いている京浜急行線に乗り替えること。そして三つ目は、ここJR蒲田駅で最寄りにある京浜急行の蒲田駅まで歩いていき、京浜急行線に乗り換えて多摩川を渡ること。

 しばらく思案した揚句、私は三番目の選択をした。駅ビルで待つと、夜中には帰ることができるだろうが、かなり遅くなる。品川駅に戻るのは蒲田発の上り満員電車に乗らなければならない。とにかく京急蒲田駅まで行って乗り換えて横浜まで行こうと決めた。

 となれば躊躇なくJR蒲田駅で下車して雨足がますます強くなる中、徒歩で7〜8分かけて京浜急行の蒲田駅まで急いだ。ところが、再びヌレ鼠になって京急蒲田駅に着いてみると駅の入り口は階段規制で豪雨の中を乗客の傘が長蛇の列を成していた。構内に入るだけでも1時間以上はかかる様相であった。
 それはそのはず、JR蒲田駅の構内放送では京浜急行線への振り替え放送を盛んに流しており、下り路線利用客のほとんどが京浜蒲田駅を目指しているようであるから、すぐに人手あふれてしまうのは当然の成り行きだった。このことを想像できなかった私は、少しがっかりした。

 そこで、列の最後尾に並んでそのまま待つか他の方法を選ぶか、またまた考えた。
 ここでの選択肢は、そのまま待つ以外に、JR蒲田駅に徒歩で戻って品川駅までJRで戻って京浜急行に乗る案と蒲田駅ビルで台風が去るまでの間時間をつぶす、であった。長蛇の列に圧倒されて、やや自暴自棄の気持ちも加えて、とにかく、長蛇の列に並ぶくらいなら、駅ビルで本でも読んでいた方がマシ、と思いJR蒲田駅に戻ることにした。
そして、JR蒲田駅近くに戻って来たときにハタともう一つの選択肢が思い浮かんだ。

 羽田空港がある。ここなら、3週間ほど前に沖縄へ行ったときにリムジンバスで横浜まで帰ってきたことを思い出して、横浜に帰れるかもしれない、とひらめいた。
横浜行のリムジンバスが動いているかどうかは不明だが、もし止まっていたとしても羽田空港から京浜急行線の横浜方面電車が出ているから、それに乗ればいい。そうだ、羽田空港がある、とひらめいた。

 ということで、JR蒲田駅付近にある羽田空港行き路線バスの停留所に行ったら、ほとんど客は並んでおらず、10分も待ったらバスが来た。270円を支払って乗り込むと、幸いに座ることもでき、そこから風雨が激しくなる中、40分ほどバスに乗り続けて終点の羽田空港へ5時過ぎに着いた。
このバスはJR蒲田駅から市街地を南に抜けて羽田空港に向かうのだが、乗客のほとんどは市街地で下車し、羽田空港に行くのはほんの5〜6人であった。
羽田空港付近は真っ黒な雲と猛烈な風雨に包まれて台風の真っただ中、バスは突風に吹かれながらよろよろとよろけながら5時過ぎに第2ターミナルビルに到着した。
結局、蒲田駅からは小一時間もかかり、この時点で4時45分になっていた。

 羽田空港では、当然のことながら台風の影響で本日のフライトは全便が欠航になっていた。
 それでも、行き先を失ったキャンセル客で空港の出発ターミナルは満員の状態であった。チケットがキャンセルされてしまい、これからどうなるか分からない客が不安そうに長い払い戻しの行列を作っていた。皆さん、不安そうなお顔であった。
(第2ターミナルビル出発ロビーの不安そうな乗客の列)

 思わず、羽田の乗客には申し訳なかったがデジカメを取りだして不安で満ち溢れていた出発ロビーの雰囲気を写真に収めた。せっかく台風のさなかに羽田空港まで遠回りをしてきたのだから、これくらいはいいだろうと思った。

 出発ロビーの警備をしていた空港職員がいたので、京浜急行線空港駅の場所と横浜方面リムジンバスの出発場所を聞いた。
 すると、職員は気の毒な様子で「京浜急行はたった今全線運休になった」、「リムジンは10番停留所だが早くいかないと運休になってしまう」と教えてくれた。

 京浜急行が全線運休とは大変だ。京浜急行は東京の鉄道の中でも広軌を採用していて風には強いはずだから、よっぽどの強風に違いない、台風がいよいよ東京に来たことが分かった。

 そこで、ゆっくりと写真を取っているひまがなくなり、すぐに横浜駅行きリムジンバスに飛び乗った。

 リムジンバスは、通常では湾岸の高速道路を走って30分もあれば横浜駅に着くのだが、当日は強風のため海側の高速道路が使えず、陸側の首都高速道路横浜羽田線を利用して横浜駅に向かった。
 路線バスと違って、リムジンバスは臨機応変に経路を選べることになっていて頼もしい。

 ところが、この高速道路は下り路線が大渋滞で、結局何時もの倍の1時間余りかかって横浜駅に着いた。
 横浜駅に着くころには、雨は収まり、風もときおり強く吹く程度まで落ち着いてきた。

 横浜駅構内では、まだ全線運休とのことで、改札口付近に多数の乗客がたむろしており、中にには円陣を組んで缶ビールを傾けている猛者もいた。

 横浜駅からは市営地下鉄が平常通りに運行していたので、7時少し前に関内駅までたどりついた。

   以上、4時間の台風15号通勤風景であった。


2011年 下水道技術のメッセージ (72) 9月21日 「佐賀下水浄化センター試み」

月刊下水道誌10月号に、佐賀市環境下水道部の江頭聖司企画調整室長が興味深いレポートを寄稿している。

 それによれば、佐賀市下水浄化センターでは、漁業関係者と協議をして、「ノリの養殖期はノリの成長に有効な栄養塩類(窒素、リン成分)を多く含んだ処理水を放流し、ノリの休業期には栄養塩類をできるだけ除去した処理水を放流」するようにしているそうである。

 有明海の環境を守ることと漁業者の意向を尊重することを調整している。
 環境部門から見ると、放流基準や総量規制を守っているか、という声が聞こえそうであるが、面白い試みである。


2011年 下水道技術のメッセージ (70) 9月15日 「計測自動制御学会」

9月13日に早稲田大学で開催された計測自動制御学会(SICE)50周年記念パネルディスカッションを聴講してきた。

 歴代SICE会長がぞろりと舞台に並んで、豪華なパネルディスカッションであった。

 パネルディスカッションでは、もっぱら福島原発で損なわれた科学技術への信頼回復に論点が絞られた。

 原発のような巨大システムは工学経験則の集積で構築された従来の自動制御技術だけではなく、社会受容や広範囲な全体像把握という新たな課題に直面している。
 これを突破するには新しい視座が必要であるというのが、パネラー共通の見解であった。

   巨大システムの課題は原発に限らず、いろいろな局面で現れてくる。社会受容を工学に組み込むという議論は、事故の反省と言う後ろ向きではなく、工学の発展途上にある新たな課題への挑戦という前向きの姿勢が重要であろうというのが、著者の印象であった。  


2011年 下水道技術のメッセージ (69) 9月11日 「京浜急行」

最近、京浜急行に乗ってふと窓の外を見ると、通り過ぎていく駅で青い照明が目に入った。
よく見ると、特急や急行が止まらない小さな駅の幾つかで青い駅照明が目に付いた。
 これらの駅のほとんどの照明は通常の蛍光灯を使っているが、比較的乗客の少ない駅プラットホームの端々に青色発光ダイオード照明を用いている。

 なるほど、この夏の電力節約令に応じてかLED照明を取りこんだようだ。
 その上で、毎日乗客の目に映るようにプラットホームに適用していた。

 この乗客の目に映るというところが重要であり、下水道事業に欠けているところである。
 内向きに努力するだけでなく、その成果を外向けにアピールすることが大切である。

 青は安全や水のイメージがある。その上省エネである。
 下水処理場を青色で包み込む、というプロジェクトはいかがだろうか。


2011年 下水道技術のメッセージ (68) 8月26日 「トルコ散歩」

日本管路更生工法品質確保協会/が発行している季刊誌「管路更生」の平成23年7月号に「トルコ散歩」を掲載した。

 これは、少し前の財団法人下水道新技術推進機構在籍中にIWA会議でトルコ南部のアンタリアという都市を訪れた時に、週末にマイクロバスをチャーターして観光した紀行文である。

 この雑誌には、前号までに「ベトナム散歩」、「ニューヨーク散歩」などを連載している。次回の秋号には「ドイツ散歩」を予定しており、原稿は夏休みに書き上げた。

 マイナーな業界誌ですが、機会があれば冷やかしで除いてみてください。ベトナム、ニューヨーク、トルコ、ドイツに行かれる時は参考になると思います。


2011年 下水道技術のメッセージ (67) 8月24日 「月刊下水道連載コラム」

月刊下水道9月号の連載コラム・ティーブレイクに「汚いと言ったお嬢さん」を掲載しました。

下水道の広報戦略は、古くて新しい問題です。
どのように下水道の素晴らしさを一般市民に伝えるかは、戦略的に進める必要があるということです。

まじめに、オーソドックスに行うのではなくて、一点突破で行くべきだ、「下水道」を伝えるのではなく、「下水道」という看板を引き下げるくらいの覚悟で進めることが必要ではないかという意見でしたが、いかがでしょうか。  


2011年 下水道技術のメッセージ (66) 8月22日 「「TOKYO BLACKOUT」

夏休みに「TOKYO BLACKOUT」創元推理文庫刊という文庫本を読んだ。

   おりしも、原発事故で計画輪番停電や節電のニュースが飛び交っていたので、つい、本屋で手が出てしまった。

  内容は、あるテロリストの活動で、東京に送電している送電線が次々に破壊されて東京が大停電になるという話である。  テロの動機は、この本のポイントなのでここで書く訳にはいかないが、送電線が爆薬やヘリコプターの衝突で次々と倒壊すると、東京が大停電に陥ってしまうくだりはリアリティーがあった。

 その中でも、新橋にある東都電力(東京電力?)の中央給電指令所の描写は良く調べてあった。
 電気技術の記述も正しい。きっと、著者は入念な取材と専門家のチェックを受けているのだろうと感じた。

 ただし、後半はパニック小説というよりサスペンス小説に傾斜してきた。

 ところが、最後の著者の「あとがき」を読んで、共感した。
 著者は、「あとがき」で次のように記していた。

「私たちが当然のように享受している日常生活を維持するために、多くの人々が自分の持ち場を守っています。何かに失敗し、「あたりまえ」のことが「あたりまえ」でなくなったときには、突き刺すような避難が待ちかまえているのです。ふだんは、あまりその努力を称賛されることはありません。
 そういう仕事や、それに携わる「名もなき」人々のことを、私は書かなければいけない。
 そのために、小説を書いているのだという気がするのです」

著者は、小説の中で警察官(刑事)と東都電力中央給電所職員、などを描いていたが、私には下水処理場に勤務する夜勤職員の顔が目に浮かんだ。


2011年 下水道技術のメッセージ (65) 8月21日 「「温故知新」の連載」

オーム社から出している雑誌「水と水技術」に、7月号から「温故知新」という3回の連載を始めた。

   「温故知新」は、日本で最初の下水処理場「三河島汚水処分場」を舞台に、今から90年前の先人がどのような苦労をしていたかを知ることで、現代の問題を見直そうという趣旨である。

 第1回は7月に発売された東日本大震災特集号(放射能特集)に掲載されている。
 第1回のテーマは「三河島汚水処分場の計画と建設」。ゼロから始めた下水処理場が、悪戦苦闘しながら計画、建設されていく様子を描き、チャレンジの精神を描いた。特に、日本最初の下水処理場建設の舞台に、都心を担当する芝浦下水処理場ではなく東京北部を担当する三河島汚水処分場が選ばれた理由や、当時の電力事情から散水ろ床方式が選ばれた理由が示されている。

 設計指針や前例の無い中で下水処理場を作るには、失敗もあった。その一つは水処理方式の選定だが、当時は技術の激変時期で、建設後10年で水処理方式を散水ろ床から活性汚泥法に変更せざるを得なくなったことなどを描いた。
50年は使用する施設の基本方式を短期間で変更するのは、どう見ても成功ではない。
結果論であるが、おそらく着手が早すぎたのだろう。

 第2回は9月に発行されるが、テーマは「商業電源周波数の変更」。驚くことに、三河島汚水処分場時の汚水ポンプなど全ての電気機器の電源周波数は建設当初は25Hzであった。それが、建設してから何年かあとで現在の50Hzに変更している。最近の、福島原発事故で東西の電源融通が取りざたされているように、昭和の初期の東京市で、電源周波数の統一の機運が起こり、実施したのである。
 このてんまつを再現した。
 ここでも、結果論だが建設着手が早すぎたことが不運だった。

 第3回は11月ごろに出版予定だが、この夏休みに原稿を書き上げた。テーマは「関東大震災・東京大空襲に学ぶ」。
三河島汚水処分場が建設後1年半で遭遇した関東大震災、22年後に遭遇した東京大空襲時の被害と対応をスケッチし、当時の技術者がどう対応してきたかを現代の視点でまとめた。
当時は、意外としたたかに対応した。関東大震災の経験が、後の東京大空襲に役に立っていたことや、地震、戦災に下水道が意外と強いことが示されている。

 いずれの場合にも、現場の技術者は「初めて遭遇する」事態に戸惑い、挑戦し、対処していった事実があり、東日本大震災や途上国技術援助を重ね合わせて見ると、参考になると思う。

 以上、「温故知新」は先人への尊敬と感謝の表明でもある。

 ちなみに、著者は下水道の仕事には昭和47年(1972)から従事してきた。三河島汚水処分場は大正11年(1922)完成であるからその完成の50年後に下水道の仕事を始めたことになる。


2011年 下水道技術のメッセージ (64) 8月18日 「放射能汚泥の報道」

8月17日のNHKニュースで下水道放射能汚泥、焼却灰がこれまでに5万4千4百t発生し、そのうちの75%は放射能8000ベクレル以下で埋め立て処分できる濃度であるが、全体の半分前後の汚泥が周辺住民の理解が得られずに処分できない状態で山積みされている、と報じた。

大変困ったことだが、ここには大きな問題がある。
国交省は早い時期に、汚泥または焼却灰1kg当たり8000ベクレル以下は埋め立て処分してもいい、と発表したが、汚泥を新たに埋め立て処分する場合には、当然のことながら処分場周辺住民の了解が必要になる。

 そこで、各自治体が周辺住民に了解をもとめたところ、8000ベクレルはおろか100ベクレル、200ベクレルでも処分はいやだ、という返事がほとんどだったようだ。

 その結果が汚泥焼却灰が山積みになってしまった。

 そもそも、このような調査はNHKではなく国交省や日本下水道協会が積極的に行うべきである。
 そして、周辺住民の反発は十分予想されるのであるから、処分方法も8000ベクレル以下という基本方針だけでなく、
下水道が街の放射能を集めていることや、
健全な土壌等で薄めれば安全性は増すこと、
その程度の放射線強度であること、
自然界にも放射能源は多々あること
などを客観的に説明すべきであったのではないだろうか。

 放射能に関する知識や情報は下水道界にはほとんどないと言ってもよい。
 自治体職員が周辺住民に説明に行って、住民にやり込められている姿が目に浮かぶ。
 こういう時こそ下水道事業の理論武装のために下水道専門紙(誌)は機能すべきではないだろうか。  

下水道各界の奮起を期待したい。


2011年 下水道技術のメッセージ (63) 8月9日 「転職」

これまで、コンサルタントやゼネコン、メーカーの技術者が下水道事業者、つまり自治体技術者に転職するケースが幾つかあった。
 転職の理由は、下水道事業をより大局的に関わっていきたいといものや、受注者側から発注者側になりたいという理由までいろいろとあった。
 あまり勉強をしていない自治体技術者にアゴで使われるのはたくさんだ、という本音の声も聞こえそうだ。

 ところが、この夏にTさんは自治体技術者の身分を捨ててメーカーに転職した。
 筆者が推察するに、その心は下水道に徹底的に関わっていきたいというものだ。

 その基本には下水が好きで下水をライフワークとしているということである。
 このような気概は、自治体職員・企業社員の区別なくあるところにはあると思う。

 自分の仕事に誇りを持ち、自分を信じて人生を歩むとは素敵なことである。  


2011年 下水道技術のメッセージ (62) 8月1日 「蛍光式DO計」

下水道展で、なぜか蛍光式DO計に関心を持った。  昨年は東亜DKKとセントラル科学が外国からの技術導入製品を展示していたが、今年は堀場製作所が国産技術の蛍光式DO計を発表した。

 下水処理場は省エネを求められているので、DO制御は必須だが、最近はNADH制御やアンモニア制御、低酸素バッキ制御など、窒素除去と省エネを組み合わせる新しいタイプの省エネが開発されている。

 つまり、水処理性能を落として省エネをするのではなくて、水処理性能を上げて空気量を下げるという相反する方法で、性能向上と省エネを図る画期的技術である。

 ここに、DO計やアンモニア計、硝酸イオン計などのセンサーが不可欠になってくる。

 そこで、メンテナンスが容易で信頼性の高い蛍光式DO計が期待されているところである。


2011年 下水道技術のメッセージ (61) 7月25日 「節電」

いよいよ盛夏になり節電もピークになった。

 東京の京浜東北線など緒線は、昼間は通常より便数を制限する間引き運転に入り、駅のプラットホームで電車を待っている人の数が増えた。

 パチンコ屋は、個々の店舗で節電すると客の入りが減ってしまうということで輪番休業に踏み切り、営業している店舗は大音響と強い冷房、強い照明は変わらない。

 自動販売機は、夜間の照明は可能な限り消したし、確かめようはないが冷蔵する時間帯も午後のピークは避けているらしい。

 節電は生活の影響を考慮して進められているので、このまま一年中節電社会になってもよい感じだ。


2011年 下水道技術のメッセージ (60) 7月24日 「webラジオ放送」

知人から、 全国のラジオ放送がweb/で聴けることを知らされた。
  
 テレビ放送は、各局のホームページからテレビ番組の動画にアクセスできるが、見ることのできる番組は限られている。

 ところが、ラジオ放送webはリアルタイムで放送を流し続けている。
 音質もいいし、番組表もチェックできる。
 ただし、リアルタイムといっても、完全なリアルタイムではなくwebに変換する時間がかるので、トップページに時報と緊急地震情報は正確でない旨をうたっている。

 テレビもラジオも、全国放送とともに地方放送がたくさんあるが、地方放送はその地方に行かなければ見たり聴いたりすることはできなかった。
 それがwebで、全て全国放送並みになるのだから、その影響は大きい。
 基本は、放送コストが激減するということで、放送の仕組みがかわることを意味している。
 全国放送は、NHKと民放キー局の独壇場であったが、その基本がwebで変わろうとしている。

 おそらく、今後は気のきいた地方放送が全国ネット放送を越える人気を得ることも出てくるだろうし、消えていく放送局も出てくるだろう。

 7月21日には、情報誌ぴあが最終号を出し、39年間の幕を閉じた。
 情報誌ぴあには、映画や演劇を見に行く時は、大変お世話になったものだ。
 1972年発刊だったが、当時は地方出身の若いサラリーマンが東京を知るために、週末にぴあを片手に胸をおどらせて街を歩いていたものだった。
 廃刊と言っても、ぴあがなくなるのではなくて、web号へ全面的にシフトするという話である。

 テレビ番組は7月24日にアナログ放送がなくなって地デジに完全移行したが、いずれはwebに移っていくだろう。
 注目すべきは、放送媒体が変わるだけではなく放送内容や放送を支えているコマーシャル企業も変わっていくということである。


2011年 下水道技術のメッセージ (59) 7月20日 「片田教授講演」

7月14日に下水道機構で群馬大学片田教授の「想定外を生き抜く力」、大津波から生き抜いた釜石市の児童・生徒の主体的行動に学ぶ、というミニ講演会(技術サロン)があった。

 先生は多忙の中、会場に駆けつけて2時間余り精力的な講演を行った。

 先生の「避難3原則」は有名だが、講演で強調されたのは以下の通り。
 1.津波は水の壁。波ではない。無尽蔵の海水が徹底的に破壊する。
 2.自然災害には想定外という概念はない。
 3.釜石市の世界一の防波堤を過信して被災者が増えてしまった。
 4.気象庁の大津波警報は、小出しに発令した結果、被災者を増やした。
 5.生徒への防災教育は効果的だった。あと数年あれば大人へも波及できたのに残念だった。

 また、質疑では東京の災害に触れて、江戸川区で大規模浸水が起きたら避難民で道路が溢れてしまうので、広域的で計画的な避難が大切、という発言があった。


2011年 下水道技術のメッセージ (58) 7月6日 「知の爆発」

個々の科学分野や技術分野は進んだが、その結果全体を掌握する人が見当たらなくなってしまった状況を、近著「日本「再創造」」で小宮山宏先生は「知の爆発」と表現された。

 西暦2000年には、CPUの内部時計が桁上げできなくて暴走するということで、全世界が固唾をのんで見守ったことがあった。
 幸い、このときは大したことが起こらなかったが、たかがCPUの内部時計のことだったが、何が起こるか世界の誰も分からなく、万全の態勢を取らざるをえなかった。

 今回の原発事故も、原発の核爆発を防ぐ手段はあったが崩壊熱による水素爆発を避ける方法は誰も考えていなかった。つまり、原発の全体像を把握することができなかった。

 ガン治療でも、遺伝子工学が発達して研究すれば研究するほどガンのメカニズムが見えなくなるという現象が進んでいる。研究の巨大化や専門分化が進み、研究全体を掌握することがますます困難になっている。

 以上をまとめると、知識が深まり、広がると一人の人間では扱いきれない(制御できない)ような知識の爆発が起こる。この問題の解決がもとめられているということになる。
 どうしたらよいか。

 そこで小宮山先生は「知識の構造化」を提案している。
 知識を大くくりで把握する方法である。

 下水道でも、管きょと下水処理を両方とも理解している技術者は少ない。計画と維持管理も、土木と機械電気も然りである。  下水道でも、ミニの「知識の爆発」が起こっている。
 衛生工学という分野は、下水道などを大くくりしようと試みたが、必ずしもうまくいっていない。

 知らないことを知ることがまずはじめにある。

   そして、小宮山先生は「知の爆発」に対処する方法はIT、情報科学、情報工学であると断言している。
 東日本大震災復興にも、ITの役割は大きいと思う。


2011年 下水道技術のメッセージ (57) 7月4日 「中国下水道データーベース」

 JICA主催、中国建設部の張悦氏の講演会が6月末に下水道協会で行われた。
 張氏はJICAの研修として、中国の下水道関係者15名をひきつれて団長として来日中である。
 会場は大勢の聴衆で満員になり、立見席の出る勢いであった。

 講演で、張氏は、中国下水道の最新データーベースに会場からアクセスして、会場の大型スクリーンにデータを映し出しながらリアルタイムでお話しされた。

 このデーターベースは、中国全土の下水処理場の水質や下水管の管理状況などを収集したもので、日本にはリアルタイムのものはない。張氏ご自慢のものであった。
 その中で、中国の下水処理水量が毎月のように伸びていいる状況や、2月の水量が最小で8月の雨季が最大、4月は下水管に溜まった汚濁が雨水で流れ出てくるので、流入下水濃度が濃くなるとの話をされた。

 中国の第12次五カ年計画では、管路の分流化と汚泥処理能力向上を目指しているとおっしゃった。
 中国のコストは日本の十分の一なので、コストを配慮して日本の管路技術、汚泥処理技術を売り込んでほしいともおっしゃった。

   質疑では、汚泥処理は濃縮汚泥ではなく脱水汚泥を運んで焼却や溶融などの集中化処理をしたいという発言をされた。 これは、中国下水処理場の現状を踏まえた話で、きっと日本の亜臨界処理技術などが有望であろう。

 また、2012には中国下水道法を制定したいともおっしゃった。
 中国では下水道関連の法整備が遅れており、下水道法を整備することにより、下水道に対する国の責任、自治体の責任を明確化して事業を促進したいともおっしゃった。


2011年 下水道技術のメッセージ (56) 7月3日 「メディアと下水道」

先週、下水道協会誌の座談会に参加した。

  「メディアと下水道」というテーマで、参加者は法政大学の稲増龍夫先生と写真家の白汚零氏、司会は東京都下水道局の松本明子広報サービス課長であった。

 そもそも下水道は昔から見えにくい。どう「見える化」していったらよいか。というテーマであった。

 稲増先生は。アイドル論の大家で、松田聖子論以来メディア論を展開されてきた方で、最近の工場見学ブームや廃墟ブームは、市民にもいろいろなことが知りたいというニーズがわきあがっている、と分析され、汚かったりくさかったりする下水道をファンタジックに演出して世に打ち出す提案をされた。
 先生によると、「帝都地下水脈」のようなゲームもあるそうだ。下水道サイドからの打ち出し方には、まだまだ工夫はありそうだ。

 白汚氏は、下水道には闇と光があり下水道の美しいところをビジュアル化していきたいとおしゃった。たまたまテレビの旅番組で下水道を特集しようとする企画があったそうだが、関係者が「下水管の中は臭い」という先入観でボツになったと嘆いていた。
 白汚氏によれば、下水管の中で何度も長時間取材しているが、流れている下水は決して臭くない、とのことであった。下水も、流れがスムーズにいかないと臭くなる、とう話には説得力と、下水道への愛着を感じる話振りであった。

 私は、下水道が都市の資源の宝庫であり、旭山動物園が成功したのは動物に対する園スタッフの愛情が展示されているからだから、下水道を愛する職員を前面に出して市民にPRしていくといい、と話した。
 また、下水道に関するDVDコレクションを紹介し、映画の中で下水道は「脱獄」とか「逃亡」という切り口で扱われていることが多いが、英国ドリームワーク社が作ったアニメ「マウスタウン」英語名「Flow out」は下水道をパラダイスとして描いていたと説明した。  日本ではDVD公開だけであったが、下水道界の皆さんには是非みていただきたい、と申し上げた。

 その他、東日本大震災の話やメディア論など、興味深い話がたくさん出たが、詳しくは協会誌を読んでいただきたい。

 下水道協会誌9月号掲載の予定であるので、どうぞよろしく。  


2011年 下水道技術のメッセージ (55) 6月26日 「陸前高田」

(高田松原第一球場は照明塔で確認できた)

被災から3カ月たった岩手県陸前高田市を訪れ、市街地と高台にある下水道仮設施設を視察した。

 市街地の様相は想像を絶する壊滅状況で、テレビや新聞で伝えられたイメージを大きく覆された。
 市街地は何もかも壊されており、鉄筋コンクリートの5階建て住宅は4階まで大津波の被害を受けていて、5階だけが何もなかったように原型をとどめている姿は、現場に来て観て初めて知った。
 市庁舎や病院など、市内の主要な建物は外形を留めるだけで、近づいてみると窓や扉はなく、内部はズタズタであった。

 さすがに被災後3カ月がたったので、主要道路の瓦礫は取り除かれ、電柱も立ち始めているが、海岸付近は地盤沈下のせいか水につかったままで、何処が岸壁だったのか分からない状況であった。
 海岸にあった高田松原第一球場はスタンドは崩れ落ち、グランドは半分以上海の下に沈んでいて、照明塔だけが被災前の面影をとどめていた。

 こうしてみると、この地に人が住み始める前の地形に戻ったかのような錯覚を覚えた次第である。

(瓦礫の下の側溝は無傷だった)

 その中で、瓦礫にうずもれた道路舗装は、被災前のままの姿を残していた。廃墟となった市街地の中で、横断歩道やセンターラインだけが被災前の街並みを想起させていた。
 同時に、道路わきの雨水側溝は、雨水が流れており、その機能を発揮していることに気付いた。
何もかも破壊されつくされていたと思っていた市街地に、道路と側溝が元のまままであったのは驚きであった。
 ふと、ここに下水道光ファイバーを敷設しておけば、被災後も利用できたのではないか、と思いついた。
 こうしてみると電線の地中化は不可避である。
 おそらく大津波だけでなく、大火災や大洪水にも有効なのではないだろうか。共同溝や下水道光ファイバーはきっと効果を発揮するだろう。

 仮設下水道は、陸前高田市で津波を受けなかった高台にある鳴石地区の下水を処理するために、陸前高田市が日立プラントテクノロジー社とともに被災後急きょモジュール型MBR(膜分離活性汚泥法)を取り寄せて設置したものである。

 この地区は、市の仮設庁舎が設置されるなど地域復旧の拠点ともなっており、3月末に設置を決め、1か月後の4月末には稼働始めている。MBRの特徴を生かしたこのプロジェクトは、本当に大したことであると感じた。

(右の列がMBR、左の列が調整槽、下水は左端の市道マンホールから取水している)

 MBRは日立プラントが岡山から移送してきたと聞いている。

 現地でみると、5台のMBRは大きさもまちまちで、塗装もちぐはぐの中古品で、いかにも緊急手配してきた様子がうかがえた。
 狭い敷地にコンパクトに5台のMBRと4台の流量調整槽、および発電機や膜洗浄用タンクを効率的に配置しており、日量250立米程度の下水を処理している。迅速さといい、メンテナンスのよさといい、日立プラントのエンジニアリング力の高さを示していた。
日立プラントはUAE(アラブ首長国連邦)のレーバーキャンプにMBRを設置して成功しているから、このような経験を活かしたのだろう。
陸前高田市は、市職員が何人も殉職した。庁舎も下水処理場も失った。全く、下水道ころではないというのが本音であろうが、国交省やJS,日立プラントの支援でここまやっているとは下水道関係者としても大変誇らしい限りであった。

 このあと、有名になった陸前高田の一本松を遠方から眺めた。
 地上4階まで届く大津波のなかで、最後まで耐え続けた松が一本だけ生き残っている姿は感動的でもあった。
この一本松は、広島の原爆ドームや9.11ニューヨークのトリニティ教会とともに、被災地に残った希望のシンボルとなるだろう。
 一本松の近くに気仙川に沿って市の下水処理場(担体添加ペガサス式)もあったが、そもそも市街地が壊滅してしまった今、復旧するかどうか分からない。  


2011年 下水道技術のメッセージ (54) 6月19日 「日本は世界5位の農業大国」

農業関係者から紹介された講談社新書「日本は世界第5位の農業国」を興味深く読んだ。

 日本の食糧自給率が先進国で最も低く危機的状況である、という農水省のプロパガンダに反論している。

 よく議論になるが、農水省の自給率はカロリー計算であり、農産物の生産量や生産額ではない。
 だから、カロリーの大きいコメをたくさん作らないと自給率が落ちてしまう。

 ところが生産額ベースでみると、日本の生産額は8兆円で先進国では米国に次いで2位、世界全体では5位になる。自給率でも66%になり米国、フランスに次いで先進国で第3位だという。
 日本がこの分野で卓越しているのは、円高もあるが畜産物や果物、野菜など国内需要にあった製品開発を進めているからだと著者は説明している。

 にも関わらず、農水省は生産額ベースのデーターを公表していない。それは、農水省の仕事を減らしたくない組織保存の力が働いているからだと断言している。

 農業の高齢化や零細化についても鋭い指摘をしている。いわゆる零細農家は、兼業農家や疑似農家120万戸で本気で農業をやる気のない農家が多数を占めているそうだ。これらの層は農水省の補助金で競争原理からは離れたところで農水省の指示に従った農業をやっているが、日本の農業には貢献してはいないと断言する。

 これに対してエリート農業経営者は全国に51万人いるが、そのうち20代の若手は3万6千人いる。
 この層を中心に農業を成長産業にしよう、成長産業にできるというのが著者の主張である。

 成長の具体的方法としては次の8案を提起している。
1.民間版市民レンタル農園の整備
2.作物別全国組合の設立
3.科学技術に立脚した農業ビジネス振興
4.輸出の促進
5.検疫体制の強化
6.国際交渉のできる人材の育成
7.若手農家の海外研修制度
8.海外農場の進出支援

 日本の農業の危機は、農業従事者の高齢化や食料自給率の低下ではない、農業の国内マーケットが人口減少で縮小していくのが本当の危機だと分析した後で、日本農業は海外に進出するしかない、高度成長時代に工業が海外に進出して成功したように農業も科学技術を駆使して日本式の農業海外進出を画策すべき、という戦略を描いている。

 この本は、補助金漬けで沈滞している農業は、構造改革して海外展開で活路を見出すべきであるという論調であった。
 話の根底には、日本の農業に対する誇りと深い愛情があると感じた。

 下水道事業もこれが大切。  


2011年 下水道技術のメッセージ (53) 6月13日 「一下水道技術者のメッセージ」

このブログと多少関係があるが、この春から以下のような随筆、レポートを5本、定期的に発表し始めた。
 その趣旨は、やや大げさかもしれないが下水道技術の継承と問題提起である。

 一下水道技術者のメッセージとして、何かの機会に目を留めていただければ幸甚です。

環境新聞社「月刊下水道」随筆ティーブレイク、
・3月号「歩く」、4月号「安全設計」、5月号「進化するMBR]、6月号「避難3原則」

公共投資ジャーナル社「下水道情報」随筆続カプチーノ、
・3月末号「自然体」、4月末号「線香花火」、5月末号「本当のサービス」、6月末号予定「象をなでる」

オーム社「水と水技術」温故知新シリーズ、
・6月号「三河島汚水処分場の下水道計画」、8月号予定「商用電源周波数の統一」

日本水道新聞社「水道公論」技術評論、
・7月号「中小企業のビジネスチャンス」

日本管路更生工法品質確保協会「随筆」、
・平成22年12月号「ベトナム散歩」、4月号「ニューヨーク散歩」、7月号予定「トルコ散歩」  


2011年 下水道技術のメッセージ (52) 6月4日 「O-104のアウトブレーク」

 所用でオランダとベルギーに滞在したが、ヨーロッパ諸国では腸管出血性大腸菌のアウトブレークが広まっていた。

 滞在していた複数のホテルでは、朝食のバイキングに生野菜が消え、煮たトマトやシロップ漬けの果物だけになってしまった。

 レストランに行くと、大きな皿にサラダ無しのメニューもあった。
 しかし、市内では生野菜の摂取制限は徹底されておらず、ベルギーのレストランでは生野菜を山盛りにした上に薄切りのパルマハムを載せた前菜がでてきた。

 今回の大腸菌はO-104と呼ばれており、死者は18人に及んでいる。
 最初はスペインのキュウリが原因であるとの情報も流れたが、現在ではドイツが原因であることがほぼ固まった。
 新聞によると、ドイツ当局は用心のために生のキュウリやトマトを控えるようにと勧告した。

 スペインでは風評被害も出ているという。
 ロシアはEUからの野菜輸入を停止したとの報道もあった。

 今回のアウトブレークに対して、EU各国の下水道当局がどのように対処しているか興味不深いところである


2011年 下水道技術のメッセージ (51) 5月27日 「2か月後の東日本大震災」

 機会があり、被災2か月後の東日本大震災の被災地を視察した。

 訪問先の最初は石巻の漁港に隣接している石巻東部浄化センターであった。
 ここは津波で処理機能を喪失してしまい、被災2か月後、復旧を目指して再建中であった。しかし、現地の話では漁港など流域の6割が壊滅してしまったので、汚水はほとんど入ってこず、管路が被災したために海水混じりの下水を排水しているそうだ。
 浄化センターにたどりつくまでに、地震による地盤沈下のせいで、道路のあちこちに海水があふれている状況であった。このせいで下水管は損傷していなくても海水が入ってしまうという状態であったが、それ以前に漁港は瓦礫撤去がまだまだで、下水道どころではないという状況であった。

 なお、浄化センターは津波により水没状態になったが、地表部の損傷状態は南蒲生浄化センター程ではなかった。

 次に、女川地区を訪問した。
 今回の津波被災で特徴的なのは、地域による格差がはなはだしいことだ。
 女川でも峠を越えると辺りの景色は一変して、まるで「戦場のピアニスト」に出てきたワルシャワの廃墟のように、瓦礫の山、木造家屋の土台の跡、鉄骨建物の鉄骨など、悲惨な状況がそのまま残っていた。
 被災地を何度も訪れている案内していただいた仙台在住の方の話では、これでもかなり片付いた状態であった、との説明に再び驚愕した。
 女川は高台にある町立病院前から、町全体が見渡せる。
 ここには大きな駐車場もあり、たくさんの訪問者が被災の状況を見やり、ため息をついていた。
 4階建ての鉄筋コンクリートの建物が津波で転倒し、土台ごとさいころのように転がっている姿は、テレビでは一度見たはずなのだが、実際に目の前にすると声も出ない驚きであった。
 また、リアス式海岸なので、津波が地形に沿って峠付近まで標高何十メートルもの高さの地域まで駆け上った跡があり、想像を絶する津波の猛威に改めてため息が出てしまった。

 さらに、足を延ばして南三陸地域も訪問した。
 ここでは、町全体が瓦礫に化していたが、道路の一部だけは瓦礫が片付けられて、仮設の水道管が道路に露出して設置している途中であった。

   各被災地は地震から2か月がったった状況であったが、なお、街の機能が喪失されたままであった。
 よく見ると道路の瓦礫に限ってはほとんど片づけられており、真新しい電柱も配置され、復旧に向けて確実に歩き始めている。
 しかし、津波に強い街づくり、ということになると、はたしてどのように再建すればよいか課題が増えるばかりである。

 目の前の問題解決と、根本的な津波対策のバランスが難しい。
 知恵と忍耐が必要であると痛感した。


2011年 下水道技術のメッセージ (50) 5月22日 「汚染水処理技術」

テレビで原発調査ロボットをよく見るが、これはアメリカ製であった。

 また、大量に残された放射能汚染水の処理はフランスのアレバ社に全面的に依存している模様である。

 もともと、ロボットや水処理は日本の得意技術分野であったが、日本にはこのような技術がないのだろうか。

 ロボット技術は、どう見ても日本が世界の最先端を行っている。
 いわゆるメカトロニクスの分野で、産業はもとより介護や災害救助用ロボットなど、多くの分野で活躍している。

 汚染水処理についても同様で、汚染水処理技術がないのではない。汚染水中のストロンチウムやセシウムを除去する技術は、ダイオキシンやPCBを除去する技術と似ていて、日本の得意な、微量物質を水中から分離する技術そのものである。

 しかし、原発調査ロボットや汚染水処理装置は、原発が深刻な事故を起こすということを考えていなかったので、準備できていなかった、ということではないだろうか。

 今回、日本の技術は使われない結果となってしまったのは、むしろ、原発事故は起こらないと言い切ったところに問題があった。
 起こらない原発事故のために対策機器を準備することはない、準備できないということだったのだろうか。

 もし、原発を建設するために原発事故は絶対に起こらない、と言い切らざるを得なかったとしたら、これは問題であった。  可能性は少ないにしても、起こりうるリスクあるのだから、それぞれの対応をしておくべきであった。

 事故は絶対に起こらないとは絶対に言えない。

 


2011年 下水道技術のメッセージ (49) 5月18日 「汚泥にセシウム」

5月17日に、川崎市は13日に採取した下水汚泥と焼却灰から1キロ当たり470ベクレル、1万3200ベクレルのセシウムを検出したと発表した。

 いよいよ下水汚泥にも福島原発事故が波及してきた。

 放射性物質の流入経路は、いずれ調査研究されるだろうが、現時点で推測できることは、降雨に混じったセシウムが地表に到着して、下水道管に流入したものと考えられる。

 下水汚泥から470ベクレル、焼却灰から1万3200ベクレルということは、下水汚泥を焼却した時に水分や有機分を取り除いた量に匹敵している。すなわち、下水汚泥を焼却することにより目減りした分だけセシウムの含有率がまし、ベクレルが増加したことを意味している。

 つまり、当たり前のことだが一度環境に拡散したセシウムを下水道プロセスが濃縮した結果なのだから、社会的に評価されてしかるべきではないだろうか。

 放射能を有する焼却灰はとりあえず保管するとして、いずれは福島原発付近の土壌とともに最終的にはセシウムを抽出して分離したうえでセシウム化合物は長期保管、汚泥は処分することになるだろう。


2011年 下水道技術のメッセージ (48) 5月15日 「秋保温泉」

5月連休明けに、出張で仙台に1泊したが、市内のビジネスホテルは満員で予約が取れなかった。

そこで、楽天トラベルを見ながら一計を案じて仙台付近の温泉地を探したら、秋保(アキユと読む)温泉に復興支援パックというのがあった。
 「ホテル華の湯」というところであったが、どうも市内にあぶれたビジネス客を取り込むパックのようであった。
 ホテルの注意書きには、温泉の一部はまだ震災の影響で使えないことや、食事は朝夕とも定食であること、築後30年の部屋であることなどの制約があり、値段は税込9千円、それに入湯税150円であった。

 秋保温泉は仙台駅から宮城交通バスで1時間かかり、便数は1時間に2本くらいしかないので、少々不便であるが宿が確保できたことは幸いであった。

   仕事が終わって夜遅くホテルに到着すると、立派なホテルで部屋も広くて清潔、食事は定食ではなくしっかりとしたコース料理であった。
 築後30年については、震災後に一級建築士の診断を受けて、強度に問題がないことを確認してあるとの張り紙があった。

 ホテル内にたくさんある温泉のうち4つの温泉は使用可能で、利用客はわずかであった。

 今回の出張で、別の社員は蔵王のホテルを取り、仙台から新幹線で行き来した。仙台・蔵王間は新幹線で15分だから、大いにありうる選択肢である。ただ、お金がかかりそうだ。
 仙台の作波温泉に泊まった社員もいた。こちらは、寝具を自分で敷いたそうであった。

   彼らの話を聞いてみると、市内のホテルが取れなければ秋保温泉がベストという感触を得た。

 


2011年 下水道技術のメッセージ (47) 5月14日 「津波災害」

東日本大震災で特徴的なことは、津波被害と地域による被害規模の違い、それに原発事故の3点である。

 津波被害については、仙台市の南蒲生浄化センターや宮城県の県南浄化センター、仙塩浄化センター、など沿岸にある下水処理場が大きな被害を受けた。
 津波が沿岸にある下水処理場を襲ったことにより、機器の水没、地盤のせん掘、津波とともに流れてきた樹木や自動車などの漂流物による構造物や下水道機器の破壊が起こった。

 津波による被害は沿岸部に限定されており、仙台市では沿岸沿いに走る国道を境にして津波の被災地と非被災地が二分された。
 その結果、上水施設は下水処理場に比べて早期に復旧し、市民生活が回復して汚水流入量が地震前の量に近づいている。

 原発事故については、汚泥の放射性物質含有が大きな問題になっている。

 津波被害と市民生活の回復とともに、沿岸の下水処理場の機器が破損して水処理機能を喪失したので、いわゆる簡易放流である沈殿滅菌放流をせざるを得ない状況になっている。
 その結果、ほとんど処理されていない下水を海域に放流することになっている。

 そもそも、簡易放流は雨天時に汚水混じりの雨水が下水処理場に流入して処理能力を越えてしまうことを避けるために、沈殿処理のみで公共用水に放流するものであった。

 したがって、雨水による稀釈や簡易放流時間の限定などの特徴があったが、今回の震災に伴う簡易放流は雨水による稀釈は期待できず、かつ長期間連続して続くことになる。
 だから簡易放流による水環境汚染はかなり深刻となる可能性を含んでいる。

 したがって、水処理機能が回復するまでの間に、毎日流入する何十万トンンもの汚水を中級処理など、簡易で一定程度の水処理を実現できるような、一見ローテクに見えるが高度な技術を確立する必要がある。

   もし、このような対応が難しいとすれば、市民に対して下水処理を意識した節水の呼び掛けが必要になるかもしれない。海を汚さない責務は下水道管理者だけでなく、市民や企業にもある。
 今回の東日本大震災で経験したことは、ハードのインフラだけでは対応できないときは、ソフトやルールの変更で対処していかなければならないということであった。


2011年 下水道技術のメッセージ (46) 5月8日 「大腸菌o-111、その2」

ユッケを食べてお亡くなりになった被害者には申し訳ないが、食の安全が厚労省や保健所の努力で守られている、という前提は必ずしも消費者を守ることにはならない。

 最後は、自分の命は自分自身で守る、という考えがなければ消費者を結果的に弱いものにしてしまう。
 消費者が、肉のトリミングやユッケ調理マニュアル(注釈)など知る由もないが、生肉は加熱調理肉よりリスキーだという認識をもち、行動することは大切だと思う。
 この延長に、東日本大震災の「津波三原則」がある。

 想定された津波被害が描かれた津波ハザードマップが、今回の大津波で軽々と越えられた時、自分の命を守るのは自分の足でしかないという原則が思い知らされた。

 消費者を賢くさせるのは、完璧な行政の保護ではない、ということである。
 東日本大震災の悲劇は、完璧に見えていた数々のハード中心の津波対策が、むしろ津波の恐ろしさを過小評価させ、人的被害を大きくしてしまった可能性もあることを示唆している。

 加害者の焼き肉チェーン店社長は、法令に「牛肉生食の規制はなかった、危険ならば厚労省が規制すべきであった」、と開き直ったが、「280円でユッケを提供するにはリスクを負わざるを得なかった」と発言すべきではなかったのではないか。」 注釈
・肉のトリミング:肉の表面をそぎ落して表面に付着した雑菌を除くこと。雑菌は肉の表面から侵入する。
・ユッケ処理マニュアル:報道によると、事故を起こした焼き肉店のマニュアルには、当日売り切れなかった牛肉は、翌日一番に店に出してもよいことになっていた。  


2011年 下水道技術のメッセージ (45) 5月6日 「大腸菌o-111」

  牛肉生肉による食中毒で死亡者が出て大きな問題になっている。

 そもそも、牛肉の生肉料理は厚労省の規制はなく、料理店や販売業者に任されていたというから驚きだ。

 カキは例外なのだろうか。食品衛生法に生食用と加熱用とがはっきりと定義されている。
 牛肉は、長い間生食用で事故が起こらなかったから放置されてきたのだろうか。

 そういえば、鳥のささみを生で食べさせるところもある。馬刺しもある。魚の刺身もある。

   もし、これが東南アジアの屋台だったら、決して生肉は食べないだろう。

   厚労省が規制を厳しくするのは当然だが、犠牲者が出る前に対応できないかと思う。
併せて、高級焼き肉店でもない限り、ユッケなどのリスクのある食品は口にしない慎重さが必要だろう。

 大腸菌o-111に感染された牛生肉を客に出した店の刑事責任は免れることはできないが、自分の命は自分で守るという原則も忘れてはいけない。


2011年 下水道技術のメッセージ (44) 5月2日 「汚泥に放射性物質混入-2」

脱水汚泥に放射性物質が混入したらどうするか。

 何よりも第一に行うことは市民や職員、関係者への被ばくを防ぐことだろう。
 それには、放射性物質の挙動を把握し、脱水汚泥を分離保管しなければならない。
 具体的には、流入下水、引き抜き汚泥、放流水、脱水汚泥、脱離液、焼却灰、焼却炉廃棄ガス、スクラバー廃液、郡山市の場合には汚泥溶融をしているから溶融スラグ、排ガス、水砕スラグ排水などのモニターが必要になる。

 汚泥の処理を進めれば、一時貯留するものの量は減るが、放射性物質は濃縮されて放射線が強くなる。

 放射性物質が混入した脱水汚泥や焼却灰は、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質を分離できれば最終的に処分する量を大幅に減量することができる。そのためには、新たな技術が必要となるが現在はその研究すらされていない。

 高レベル放射性廃棄物の最終処分については、国内では北海道の幌別と岐阜で日本原子力開発機構が地下500m貯蔵の研究を進めている。この件に関しては、下水道機構の季刊誌「下水道機構情報2007年10月秋号」のトピックス欄に特集されている。
当時、筆者も現地に取材に行き、その規模の大きさに驚いた。
http://www.jiwet.jp/quarterly/n002/n002-010.htm#

脱水汚泥が放射性廃棄物になれば、このような恒久的な処理方法を確立していかなければならない。  雨水などに混ざって流入する放射性物質は、下水処理場にとってはとんだ迷惑だが、一度下水管に入ったら、下水道事業者の責任で、処理しなければならない。
 きっと、下水道関係者にとって初めての経験であろう。

 下水道に新たな役割が生まれたということだろう。  


2011年 下水道技術のメッセージ (43) 5月1日 「汚泥に放射性物質混入」

報道によると、福島県は1日、郡山市の下水処理場「県中浄化センター」で、汚泥と汚泥を焼却処理した溶融スラグから高濃度の放射性セシウムを検出したと発表した。

汚水に放射線が混じり、汚水を濃縮した汚泥に高濃度の放射線物質が見出される可能性は、週刊ダイヤモンド誌4月16日号の16ページに詳しく載っている。
 記事によると、汚泥や汚泥焼却灰に濃縮された放射性物質がそのまま残り、被害を最小限に抑えるには、迅速な初期対応が必要、と述べている。

   4月12日に開催された下水道地震津波対応検討委員会の第1回委員会では、下水汚泥に含まれる放射線については触れらずじまいであった。

 災害対策は想像力の勝負と言われている。  原発事故という事態に直面して、下水道関係者の奮闘を期待したい。


2011年 下水道技術のメッセージ (42) 4月30日 「Asian Water」

東南アジアの上下水道関係者向け雑誌、Asian Waterの4月号ににSmart Waterの解説記事が掲載されていた。

題名はSmarten your water networksで、水道ネットワークを情報通信の5つのレイヤ(階層構造)になぞり、データの重要性とシステムの拡張性を強調していた。

 この雑誌は、一昨年に東京の下水道を特集した時に取材を受けたことがあった。その時は、編集長はインド人で、日本に住んでいるカナダ国籍の女性記者が私の事務所に取材にいらっしゃった。

 水道ネットワークのスマート化は、センサのインテリジェント化やデーターの汎用化、都市のスマート化への展開など、期待は大きい。データー電素や情報処理の高速化、大容量化が進んでいるので、予想を超える効果が期待されている。

 そしてなによりも、スマートウオーターネットワークが日本や欧米に先んじて東南アジアで適用される可能性もあることをAsian Waterの記事は物語っている。


2011年 下水道技術のメッセージ (41) 4月22日 「はやぶさ」

4月21日に東京虎ノ門のニッショウホールでオーム社が支援している電機科学技術奨励会の講演会が開催された。
何人かの講演があったが、その中で(独)宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の川口淳一郎教授の講演が面白かった。

テーマは「「はやぶさ」が飛んだ人類初の往復の宇宙飛行、その7年間の歩み」であった。

「はやぶさ」の快挙は日本の科学技術の快挙として昨年に大きな話題になったが、改めてそのすごさを関係者ご本人の口から聞くことができた。

 先月、3月10日には米国ヒューストンで「はやぶさ」が持ちかえった小惑星イトカワの岩石サンプル分析結果の研究成果を発表したところ、大変な評判を呼んだそうである。
 川口教授によると、イトカワのような球体でない小惑星は宇宙の起源の情報を豊富に秘めており、その岩石サンプルは地球の内部構造解析に大いに貢献できるそうである。このことは、地震の研究にもつながり、「はやぶさ」が地震対策に貢献できるのだと説明された。

 「はやぶさ」は25年前の1985年に研究会が発足した。当時の基本的姿勢は、米ソに遅れている宇宙開発に日本ができる分野で世界的な貢献をしていこうとするもので、小惑星の岩石をサンプルリターン、つまり地球に持ち帰るという独創的なものであった。

 1990年にはNASAとの研究会も始めたところ、このアイディアをNASAが採用し、早速ほうき星のサンプルリターンを実現してしまった。このときNASAはほうき星の回りを無動力で飛行し、空間に浮遊しているサンプルを回収してきた。

 これに対して日本としては、NASAとは一線を画して、小惑星に着陸してサンプルを採取してくるサンプルリターンを志し、15年前の1996年にプロジェクトを開始した。
「はやぶさ」はイオンエンジンとロケットの2組の動力源を搭載して、小型機ながら長距離の宇宙空間飛行を可能にした。
岩石採取には、創意工夫に満ちた自律システムでロボットのような独自のシステムを採用した。

 7年前に打ち上げ、60億キロを往復飛行して地球に帰還し、見事にサンプルリターンを成功したわけである。

 しかし、その道のりは苦難の連続で、通信系のトラブルでイトカワでのサンプル採取の成否は地球に戻るまで不明であった。帰路では燃料ガスが漏えいして姿勢制御ができなくなったり、太陽電池が途絶したりした。肝心のイオンエンジンも故障し、傷だらけの飛行だった。

 サンプル採取から地球帰還までの間はトラブルの連続であったが、その都度バックアップシステムの活用と、初めて遭遇するトラブルの連続に、知恵を振り絞り、リスクを恐れず決断を下し、それでも駄目な場合は運を天に任せて乗り切ってきたそうである。

 講演の最後に、川口教授から「はやぶさ」は3重系のバックアップシステムが功を奏して世界初のサンプルリターンを成し遂げた、これに対して原発事故はどうしているのか、という発言があった。
 あらゆる事態を想定する、という科学技術、工学の基本に戻ってほしい、ということであった。

 簡単に比較はできないのかもしれないが、津波と宇宙飛行の対比には大いに考えさせられるものがあった。  


2011年 下水道技術のメッセージ (40) 4月18日 「防災教育の理念」

釜石市の小中学生3000人の命を救った避難3原則には、防災教育の理念があった。

第1の理念は、津波の恐ろしさとともに釜石の素晴らしさを教えること。
津波は恐ろしいが、郷土愛を育まなければ津波の恐ろしさも伝えられない、という理念だ。
津波の恐ろしさと釜石の素晴らしさは、根は同じ。津波はやり過ごせばいい、という理解につながる。

第2の理念は、「子供の安全」から進めること。
子供は津波の恐ろしさや避難の考えを素直に受け止めてくれる。だから、子供を通じて大人にも津波と共に生きていくという理念を伝えていくということである。
残念ながら、今回の東日本大震災では、子供は助かったが大人は大勢の犠牲者が出てしまった。
子供には徹底できたが、大人まで及ぶ前に津波が来てしまったということらしい。

第3の理念は、「てんでんこ」の意味を見つめなおすことである。
「てんでんこ」とは、津波の時は家族のことも構わずに、てんでんばらばらに避難せよ、ということである。
津波は一家全滅させてしまうことがある。これを避けるためで、平時から「てんでんこ」が徹底してあれば、家族が一度集まってから避難することで被災してしまう危険を避けることになる。
実際、釜石市では津波発生時に保護者が生徒を引き取りに学校へ向かっている途中で保護者が被災してしまった例もあった。

第4の理念は、「助けられる人」から「助ける人」へ、ということである。
小中学校合同の避難訓練などの結果、中学生が小学生の手を引いて避難する場面があったそうである。
津波に対する正確な知識と訓練の結果、中学生でも助ける人になれた事例である。

このような理念のもとに避難3原則が実行されたそうである。

なお、釜石市の中学生は999名、小学生は1927人いたが、わずかではあるが5名が被災した。 その内訳は、
地震当日、学校を欠席して被災、2名。
下校後、母親と買い物中に被災。
地震発生後、祖母の様子を見に行ったところ、余震により家財が転倒し被災。
地震発生後、迎えに来た保護者に引き渡し、その避難の最中に被災。

下水道の危機管理分野でも大いに参考になる理念である。

以上、群馬大学大学院、広域首都圏防災研究センターホームページhttp://www.ce.gunma-u.ac.jp/bousai/research02_1.htmlより。


2011年 下水道技術のメッセージ (39) 4月15日 「地震の周波数成分」

4月6日に東日本大震災について建築学会で緊急調査報告会が開かれた。

 ここで東北大学の源栄教授は、今回の地震で震度7となったが、地震動は0.3秒以下の周波数成分が卓越しており、このことが被害が少なくした可能性が高い、と報告した。

 一般的には、木造家屋では固有振動数が1秒前後であり、この周波数で共振が起こりやすく、高層建築物では5秒前後の周波数で共振が起こりやすい。
したがって、地震動において0.5秒から5秒程度の周波数成分が卓越していると建築物の被害が起こりやすいと言われており、今回の東日本大震災では地震動の周波数卓越成分0.3秒と短かったために震度ほどには被害が出なかった可能性があるらしい。

 この報告を裏付けるように、震度7にも関わらず、下水道管や下水道関連建築物の地震被害は少なかった。不幸中の幸いである。 
 なお、下水道関係者の中で、今回の地震で下水道管や下水道関連建築物の被害が少なかったのは、阪神淡路地震や中越地震で得られた貴重な経験が功を奏したとの意見が多いが、本当にそうなのかどうかは今後検証する必要がある。

 もし、周波数成分分布によることが多いとすれば、たまたま運が良かったということを真摯に受け止めなければならない。


2011年 下水道技術のメッセージ (38) 4月14日 「下水道地震・津波対策検討委員会」

 4月12日午後に、東京神田の下水道協会大会議室で「第1回下水道地震・津波対策検討委員会」が開催された。
 委員会は、被災者に対する黙とうではじまり、委員長には早稲田大学の浜田先生が選ばれた。

 NHKの取材カメラも入り、最初に国交省松井下水道部長のあいさつがあり、議事がたんたんと進んでいった。
 すると、午後2時17分に、会場の至る所で携帯電話の地震警報音が鳴り響いた。

 ほとんど全員の携帯が鳴り出したのでかなりの音響になり、委員会は一時中断した。
 警報音の後、しばらくするとビルの横揺れが始まり、パーテーションがガタガタと鳴りだした。  この地震は福岡県浜通りの震度6弱であった。

 委員会では熱心な討議が相次ぎ、、緊急提言をすることを決め、予定の時間を1時間も越えて終わった。


2011年 下水道技術のメッセージ (37) 4月14日 「避難3原則」

msn産経ニュースhttp://sankei.jp.msn.com/に「避難3原則」という記事があった。
この記事は、すでに、このURLからは消えているが、内容は釜石市の小中学校が、普段から訓練してきた避難3原則を守って、生徒の生命を救ったという話であった。

 避難3原則の第1は「想定にこだわるな」。
 今回の津波は想定をはるかに超えたものだった。
 小学生は警報で、一度は校舎の屋上に避難した。いつもの訓練の通りだ。しかし、隣の中学校の生徒が遠くの高台に逃げようとしているのを見て、躊躇なく学校から離れて中学生と一緒に高台に向かったそうだ。

 二つ目は「最善を尽くせ」。
 高台に着いた生徒たちは、近くの崖が津波で崩れていくのを見て、さらに遠くの高台に逃げた。その直後に、先ほどまでいた高台が津波に洗われた。

 三つ目は「率先し避難せよ」。
 中学生は小学生の手を引きながら率先して退避した。

 釜石市教育委員会は群馬大学の片田教授の指導で平成17年から「避難3原則」などの防災教育に取り組んでいた。

この記事は人の生命を守るのが教育の原点であると感じたが、さらに以下の示唆に富んでいる。

災害は津波だけではなく、大規模火災や水害、テロもあり、これらにも「避難3原則」は応用できる。

 とりわけ、日本人は混乱時にも整然と列を崩さず秩序を保つモラルがあるが、ルールを守るということや横並び意識が災害時に「避難3原則」と食い違うことがある。
 実際には、校庭に生徒を集めて点呼をしているうちに津波に襲われてしまった学校もあったらしい。

 命を守るためには、臨機応変な対応が肝心である。

 


2011年 下水道技術のメッセージ (36) 4月12日 「頑張れ東北」

東日本大震災から1か月が経過したが余震が続いている。

先週は東北地方で発生した震度6強の余震で驚いた。
余震としては最大規模で、東日本大震災がなければ、大きな地震として記録されていたはずだ。
4月11には震度6弱の地震があった、

東北地方の皆さんに、何してあげたい。

頑張れ東北、やれることをやろう!、


2011年 下水道技術のメッセージ (35) 4月8日 「中小企業の新技術」

3月に電気通信大学で産学官連携の下水道セミナーがあった。
 このセミナーは、電気通信大学がある東京多摩地区の中小企業を対象にして、水ビジネスのあり方を論じるものであった。

 水ビジネスに関わる企業は、一般的に大企業を前提としていただけに、新鮮な切り口であった。

 そこでの論点は、中小企業の特質を海外展開などの水ビジネスに生かすには、どうしたらよいかというものであった。

 そもそも、中小企業は大企業を補完するだけでなく、大企業に先行する事実がある。
 例えば、新技術を中小企業が開発し、それを大企業が買い取り、全国展開する構図である。
 水ビジネスの海外展開でも、海外の中小企業水事業者を日本の大企業が買収して、その地の足掛かりを作ることもある。
 例えば、日立プラントはモルジブの水事業者を買収した。

 新技術事業化の事例では、中小企業が開発リスクを担い、全国展開の機動力、資金力は大企業が担うという役割分担で行われるケースが多く、合理性がある。
 両者の特質を尊重し、相乗効果を期待すべきである。

 そして、中小企業の斬新な新技術を理論化し、普遍化するのに電気通信大学の役割がある、ということであった。   


2011年 下水道技術のメッセージ (34) 4月3日 「募金」

4月2日土曜日午後、JR新宿駅西口駅前でアスリートたちが東日本大震災の募金活動を行っていた。

顔と名前がよく分からなかったが、プロレスラーの角田信朗や神取忍(かんどりしのぶ)などが大声を張り上げていた。
神取忍は横浜市磯子区の異色女子プロレスラーで、参議院にもなったことがある。
有名人が多いせいか、群衆は周りを遠く取り巻いて携帯やデジカメで写真を取っていたが、募金をしようとする人は三々五々というところであった。

意を決して、地元のよしみでなんとなく募金をしてきた。

震災から3週間がたち、横浜市内のスーパーではほとんどの商品が手に入るようになった。桜木町のシネマコンプレックス(複合映画館)は週末のにぎわいを取り戻していた。
 原発事故の収束を祈るばかりである。   


2011年 下水道技術のメッセージ (33) 4月2日 「瓦礫の中の希望」

東日本大震災の被害がいまだに確定していない。福島第一原発も、まだまだ予断を許さない状況にある。
 このような段階で、あまり先のことを述べるのは気になるが、このようなときにこそ希望を持ちたい。

 昔、オイルショックで原油が高騰した時、エネルギー資源のない日本は省エネ技術を駆使して乗り切った。その後には、世界に冠たる省エネ技術産業が育った。その流れが21世紀のプリウスにつながっている。

  また、水俣病やイタイイタイ病など公害問題が多発した時、被害者救済の仕組みと公害対策技術を確立し、さらに公害を出さない産業構造へとシフトした。その結果、大気汚染や水質汚濁、騒音対策などの技術、産業は発展し、世界に冠たる公害対策産業が育った。

 いずれも、深刻な社会問題を解決するために、一度は奈落の底まで落ち込んだうえでの復活とみてよいだろう。
 今回の大震災や原発事故についても、ただでは起きない、被害を無にしない、という精神が必要だ。
 世界史的な津波災害、原発事故が希望に転じた時、災害支援や原発事故対策支援をしてくれた世界各国へのお返しができるというものである。   


2011年 下水道技術のメッセージ (32) 3月27日 「エネルギー政策の転換」

福島第一原発事故は、いまだ予断を許さない状況が進んでいる。
 今後、確実に言えることは、原発への依存度が大きく減退することである。

 これだけの事故を起こしたわけであるから、原発の再建や新設はほとんど絶望的であろう。

 日本の原発への依存度は30.8%(H22年度)であるので、このシェアーが大きく落ち込むことが予想される。落ち込んだうちの幾分かは短期間で建設できるLNGや石油の火力発電所の新設で賄われるだろう。
それでも足りない分は計画停電で賄わなくてはならなくなる。

 原子力から火力にシフトする分は、間違いなく発電コストを押し上げ、電力料金を押し上げるはずである。
 合わせて、原子力エネルギーが使いにくくなるということは石油やLNGの価格が高騰することを意味している。

 したがって、省エネルギーの需要や新エネルギーの利用がますます加速する。
 下水処理システムは省エネが第一の開発目標になるかもしれないし、バイオマスや汚泥燃料化の経済優位性が増すかもしれない。

 エネルギー利用において、世界史的なエポックに来ているということか。   


2011年 下水道技術のメッセージ (31) 3月26日 「知恵と工夫」

東北関東大震災では津波は海岸に設置された下水処理場を襲って、多くの損害を与えた。
 一方、浄水場は山側にあるので津波の被害はなく、地震の被害だけだったので復旧も早かった。

 水道管や下水道管も津波の影響は受けにくく、被害は少ない。
 この結果、水道供給が復旧すると、損傷した下水処理場に汚水が流入し未処理の下水を放流しかねない恐れがある。

   そこで、各自治体は市民が水道の利用を押さえて汚水をできるだけ排出しないように市民に訴えている。
 しかし、どんなに水道の利用を押さえても汚水が皆無になることはない。
 その結果、浄化されない汚水が下水処理場から放流される可能性が高まってしまう。

 阪神淡路や中越地震の時は、機能を喪失した下水処理場では、素掘りで仮の沈殿池を作り、簡易処理し、さらし粉で殺菌して河川に放流した。

   災害時には知恵と工夫が求められている。   


2011年 下水道技術のメッセージ (30) 3月22日 「明かりを消した自動販売機」

街が暗くなっている。
 有楽町の量販店ビッグカメラの店舗は、店内照明をほぼ半減して照明電力を抑えている。

 驚いたことに、東京都や横浜市の自動販売機の照明が急に消えた。
 自動販売機には、40Wの蛍光灯が2台設置してあり、かなり明るく設計してあるが、この照明がことごとく消灯してある。

 しかし、自動販売機が止まっているわけではなく、販売は続けている。
 自動販売機の消費電力は500Wから1KWだから、40Wの蛍光灯を2本消灯しても消費電力削減には大したことはない。
 おそらく、「自動販売機を止めろ」という世論を意識した措置だろう。

 このような動きを見ると、基本的には、自動販売機は止めるべきであろう。   


2011年 下水道技術のメッセージ (29) 3月20日 「震災下の秩序」

東北関東大震災は、阪神淡路大震災を大きく上回る死者を出し、幾つもの街を壊滅させてしまった。
 原発も水素爆発による建物崩壊など危機的状況となったが、東京消防庁などの決死の活動で、圧力容器損壊などの最悪の事態は免れそうだが、をまだ予断を許さない。

 このような何百年かに一度の歴史的災害の中で、市民の秩序は保たれている。
 海外のメディアは、この奇跡に大きな関心を寄せている。
 地震後の混乱にも関わらずに、市民は避難場所でルールに従って絶えているし、数少ないガソリンスタンドには何百台もの車が列をなし、何時間も黙々と順番を待っている。

 計画停電でも、混乱した横浜駅で数千人の乗客が唯一動いている京浜急行改札口に押し寄せたが、整然と2列をなして自由広場に並んでいた。

 このような秩序を守る市民の行動は、どこから来るのだろうか。
 誰にも見られないところでも、ルールを守る律義さは一体どこから来るのか考えた。

 まず、普段から列を守ったりルールを守ることに慣れているということがある。
 駅のエスカレーターに乗るときや、渋滞した高速道路で何時間も列を乱さずに待つことに慣れている。
 ディズニーランドでも、有名なラーメン屋さんでも客は並ぶことに慣れている。
 普段から、列を成して秩序を保つ方が、皆が列を崩して勝手に行動するより全体の利益になることを知っている。

 第二には、豊かなことがある。  地震では必ずしも成り立たないが、車やお金をもっていれば、他人と争ってまで先を急ぐことにならない。あきらめも含めて、なんとかなる、いつかは列は動き出す、という希望と背景がある。
 東北の場合には、地域コミュニティによる助け合いも物心ともに豊かさに結びつく要素である。
 震災現場での豊かさとは、矛盾するようだが、いずれは救援物資が到達するという期待やテレビで震災の様子が把握できるというということが、見放されてはいないというメッセージになり、ある種の豊かさに通じているようだ。

 三番目には、教育、文化の背景がある。
 小さいころから、朝礼では並ぶことのルールを学び、集団での行動を学ぶ。
 他人に迷惑をかけないことが社会にどれほど大切なことかたたき込んでいる。」  ルールを守ることが全体にも自分にも大きな利益をもたらすことを学ぶ。

 一方、市民が整然とルールを守っていることに対する危惧もある。
 タイタニック号では大型客船が氷河に衝突しても、乗客は沈没を想像できなかった。
 突き詰めれば、最後には自分の命は自分で守るという覚悟が失われてはならない。

 卑近な例では、電車の事故運休がある。
 乗車中に事故運休に遭遇すると、車掌の指示で振り替え輸送に乗り換えることになる。ところが、肝心の車掌は十分な情報が無いまま、列車運行所からの指示で車内アナウンスしているに過ぎない。
 だから、アナウンスの内容が頻繁に変わることもある。
 特に、車掌の指示が元に戻ることが多いように見受けられる。
 こういうときは、私はワンテンポ遅れて行動することにしている。

   結局、事故や震災の時はルールに従うということは大切であるが、情報をできる限り集めて、最後は自分で判断するという覚悟も重要である。     


2011年 下水道技術のメッセージ (28) 3月19日 「節電の徹底」

計画停電が落ち着いてきた。

 東京電力管内で福島原発が崩壊したことにより、電力供給の25%が失われてしまったのだから、計画停電に入るのは当然のことで、最初の頃の計画停電では、東電も市民も戸惑いが見えたが、市民の覚悟とともに落ち着いてきた。

 計画停電をしなければ全停電(ブラックアウト)になってしまう。

   計画停電に関連して、市民には徹底した節電を呼び掛けている。
 無駄な電気を消したり、エスカレーターやエレベーターを止めたりして、チリも積もれば、の節電に努めている。

 この中で、見過ごされているのが自動販売機と家電待機電力である。

 節電で暗くなった街の中で、自動販売機がこうこうと明かりをつけているのは不思議な光景だ。
 まして、キオスクやコンビニの隣に自動販売機が置いてある光景をよく目にする。
 すぐに自動販売機のコンセントを抜くべきである。

 消費電力の多い飲料用自動販売機は日本国内では267万台あり(2005年)、1台の消費電力は500wから1kwである。1台当たり1kwとみると、267万kwの電力を消費していることになる。
 今回、問題になっている福島第一原子力発電所の定格電気出力は469万kwだから、なんと原発の半分以上の電力を飲料用自動販売機が消費していることになる。これは驚くべきことである。

 もう一つは暖房便座の待機電力。
暖房便座はトイレを利用する時いつも温かいように待機電力で常時便座を温め続けている。

   暖房便座の消費電力は15wから31w(三菱電機)だから、0.015kw×4900万世帯(世帯数)×0.6(普及率)=441,000。約40万kwになる。

 暖房便座は専用スイッチで消すことができる機種が多い。

 計画停電で。交通信号機も消えてしまう現実を見れば、チリも積もれば、方式で家庭や街中で電力消費を少しでも節約する努力が必要である。
 日本の覚悟が試されている。   


2011年 下水道技術のメッセージ (27) 3月14日 「ずさんな計画停電」

通勤に京浜東北線を利用しているが、今日3月14日月曜日は最悪の状況であった。

まずは、自宅から最寄りの京浜急行日ノ出町駅に行ったら、電車は来るのだが満員でとても乗れない。
そこで、意を決してタクシーで横浜駅まで行って横浜駅で唯一動いている京浜急行の改札口に向かった。

 すると、横浜駅の自由広場に1000人を超える乗客が列を作って京浜急行線の改札口に入る順番を待っていた。

 そこで、仕方なく列の最後尾に並び、粘り強く順番の来るのを待っていた。

 ここで驚くことがおこった。
 横浜駅の広大な自由広場に何重にもつづれ折れ列を成し、改札口へ入るのを待つ行列ができたが、そのつづれ折れの行列の間を、たくさんの通行人が交差するように通り過ぎているのだ。
 通行人の中には、行列の間を縫って歩きながら最後尾に並ぶ人もたくさんいたが、誰一人として行列に割り込む人がいなかった。

 元から並んでいる人が厳しく注意するわけでもないし、割り込めばどんなに少ない疲れですむか知らないわけでもない。  にもかかわらず、ごく自然に歩きながら誰一人も列に割り込む人がいなかったことは、驚きであった。

 きっと、誰かが割り込めば、そこらじゅうで割り込みが始まり、トラブルが続発するに違いない。
 行列の皆さんも、行列のすり抜けて行列を横切って行く人も、ごく自然にルールを守っていることには、平凡だが驚くほど印象深かった。

 2時間近く待って、やっと横浜駅で京浜急行線に乗車したが、ここから品川駅までも通常の2倍もかかっってしまった。
 結局、いつもは1時間少々で到着する事務所まで、何と4時間もかかってしまった。

 交通混乱の中での乗客の秩序は、ずさんな計画停電による大混乱を忘れさせる爽快な一瞬だった。   


2011年 下水道技術のメッセージ (26) 3月12日 「節電」

横浜駅の大型デパートそごうは、本日3月12日から当分の間午後6時に閉店となる。
その理由は、東京電力管内の電力事情悪化に応じて節電することらしい。

福島原発の事故で東京電力管内では輪番停電に入る可能性が高いが、その前に大口電力需要家に節電を呼び掛けているようだ。

個人的には、関西電力の関係者が発信したらしい転送メールが来た。そのメールには、関西電力は東京電力に電力融通をするらしいが、関西で節電することにより、東京電力が直面している福島原発事故対応に間接的に協力できるというものだった。

一人ひとりが東日本大地震対策に貢献するには何ができるか、と自問し、できることから始めていくというボランティアの精神につながるものである。

  


2011年 下水道技術のメッセージ (25) 3月12日 「大津波」

3月11日午後、大阪科学技術センターで研究発表会を開催していたら、5階の会場が大きくゆっくりと揺れ出した。

いわゆる長期振動で、揺れは何分も続いた。
マグニチュード8.8の大地震の始まりであった。

 最後の講師はまだ京都付近の新幹線の中で、会場に着いていない。
 やっとのことで講師と携帯がつながり、最後の講師はギリギリ終了30分前に会場に駆け付けることができた。

 地震の情報をインターネットで調べ、会場に伝えると聴衆の中には、自分の職場に舞い戻る人も出てきた。
 ある聴衆は、仙台の実家まで急きょ戻るとおっしゃって、会場を後にした。

 携帯は輻輳状態になりほとんどつながらなくなってしまったので、WEBが唯一の情報源となった。
 地震の被害状況は、大きい地震であればあるほど本当の被害状況はなかなか出てこず、震源地から離れた東京の様子が盛んに報じられていた。
 これは、阪神淡路の時と同じで、このときも肝心の神戸の被害状況は伝わらず、大阪の被害状況が盛んに報じられたものであった。

 今回の被害は、10mを超える大津波によるところが大きいようだ。これまでの津波対策はチリ地震を教訓に防潮堤を築いてきたが、この想定が見事に外れ、各地で津波は悠々と防潮堤を超えて街を襲った。

 これは、阪神淡路の時にけっして壊れることはないと言われていた高速道路が見事に転倒したのに似ている。

 結局、研究発表会は予定通りおわりにすることができたが、帰りの新幹線は復旧の見通しが立たず、スタッフは全員、大阪に泊らざるを得なくなり、ホテルの手配に四苦八苦した。

 そして、翌日3月12日、新幹線は朝からダイヤ通り運行していたので、全員東京に戻ることができた。   


2011年 下水道技術のメッセージ (24) 3月6日 「中国の汚泥資源化」

2月22日にJICAが主催して「下水汚泥の適正処分・資源化のためのセミナー」が北京で開催され、参加者が200名を超えるという当初の予想を大きく超えた規模で行われた。

     日本側からは、白崎開発管を初めJS、荏原エンジニアリングサービス、月島機械、メタウオーター社が汚泥の処理・資源化技術を発表し、中国側は全国から多数の参加者を見た。

 以上の公式見解とともに、関係者からは以下の本音が聞こえてきた。
 1.中国の汚泥資源化への関心が高い。全国から、かって日本のODAを受けた都市の関係者が集まった。
 2.しかし、北京主催ということで上海の参加者がただ一人(未確認)らしく、北京と上海のライバル意識がうかがえた。
 3.過去の失敗で、中国へは二度と進出いない、と決めている日本企業が、この1年間で大きく減少しているようだ。   


2011年 下水道技術のメッセージ (23) 2月27日 「最近の若者」

「最近の若者は」、と話し出すと、つい世代い差を印象づけてしまうが、最近の若者は物をもつという意欲がない。
 自動車や家、ブランド品など、誰もが憧れて欲しがった時があったが、時代が大きく変わった。

 海外旅行にも興味を示さない。あるコンサルタントの役員の方が、若い職員に海外勤務を打診するとほとんどの人が断るそうである。
 能力のある人が、せっかくの機会をもったいないと思うが、本人は自ら進んで苦労をする気はさらさらない。

 といって、彼らは、何も欲しがらないのではない。
 例えば、自分の趣味には驚くほど多額のお金を使う。

 おそらく、このような現象の根底には、日本の豊かさと安心な社会があると思う。
 生まれた時から持ち家で車もあり、食べることに不自由しなければ、物質的には望むものはなくなる。
 今のままでよい、ということになる。

 ただし、日本ではここ60年間は大災害や戦争がなかった。
 平穏な時代を過ごしてきた結果でもある。

 若者はこれから数十年を暮らすわけだが、数十年間平穏無事にすむ保証はない。
 豊かだが停滞気味の時代に生まれた若者は、貧しいが成長する時代に育った中高年と違って当然だ。
 むしろ、違いの中に多様性や可能性がある。

  


2011年 下水道技術のメッセージ (22) 2月19日 「地下水」

2月7日に、東京ビッグサイトの近くで「水の安全保障会議 第7回基本戦略委員会」委員長丹保北海道立総合研究機構理事長が開かれて、竹村公太郎氏から「地下水を共有財産と捉えた流域管理のあり方」の講演があった。

 このテーマは昨年12月に行われた講演に次ぐもので、日本の各地域で起こっている水道使用量の減少原因の一つに水道需要家の地下水利用が積極的に進んでいることを指摘するものだ。
 地下水利用は飲料水メーカーだけでなく、病院やビルでも、水道の基本料金だけは払って非常時の水道を確保しておき、通常は地下水をくみ上げて安いコストでまかなってしまう。
 水道の従量料金はほとんど払わないようである。

 この傾向が進んでいくと、いずれ水道の経営を圧迫していく可能性があると指摘された。

 竹村氏は、12月の講演では地下水を3次元的に把握する研究が進んでいることをあげ、地下水が地域全体に係るストック(固定資産)であると指摘し、土地に地下水が付随して自由に使えるフローであるという考えに疑問を述べた。
 具体的には、飲料メーカーなどが地下水を無料で自由にくみ上げていることに疑問を投げかけた。
 地下水は、地域に付随するストックなのか、それとも土地に属するフローなのかという問題提起である。

 竹村氏は河川局長まで勤めあげた方だが、技術者としての著書も多い。広い見識のもとに、地下水を対象とする法整備がされていないことが現在の混乱を招いている、と説いていた。

 しかし、地下水の法整備はことのほか難しい。取り急ぎ、地下水に関する合意形成を進め、地下水利用のルールづくりや地下水基金などの制度を作り、流域管理の視点から対応していくのが現実的だ、という趣旨の話をされた。

 地下水は誰のものか。共有財産ではないか。という問題提起で、地下水を私的に利用しているものはその社会的費用負担をすべきではないか、というアイディアである。
 この考え方には、地下水は河川に準ずるということがうかがえる。河川には水利権や水使用料の考えがある。
 古くは地下水取水による地盤沈下、最近では中国人による水源の用地取得など、地下水に関する話題には事欠かない。

   流域管理は水問題を総合的にとらえようとするものである。だから、地下水問題は下水道にも関連してくる。とりわけ処理水再生水や地下水利用への下水道料金課金など、考えるべき課題は多い。  


2011年 下水道技術のメッセージ (21) 2月17日 「半分流式」

下水道には合流式と分流式があるが、最近東南アジアに出張されたある自治体の下水道部長の方から「半分流式」という話をうかがった。

 話によると、熱帯地方に属する東南アジアの国で考えられている方式で、降雨の少ない乾季には合流式で汚水と雨水を集めるが、豪雨となる雨季には下水処理を断念し、全量川や海へ流してしまう方式だそうである。

 おそらく、下水道が普及する前は雨季の乾季も全量川や海に排出していたのだろう。だから、下水の普及は乾季の普及を意味する。
 季節によって下水道の使い方を変えるとは、思いもつかない発想であった。
 しかし、環境容量が十分にあれば成り立つ話である。  


2011年 下水道技術のメッセージ (20) 2月16日 「ソルーション」

ソルーションとは問題解決のこと。

 海外展開において、日本の企業は日本の優れた製品やシステムを持ち込み、優れているから使うべきと売り込むらしい。
 これに対して韓国の企業は、現地の問題を聴き、聴いてから解決方法を考え、解決方法に適した韓国製品を選ぶという。

 これは、国を挙げて取り組まなければできないことでもある。  日本の企業は、自社の製品を使う場合には競争力があるが、少しでもニーズがずれると、調達するのに長い時間がかかってしまう。

 この違いは最初のボタンの掛け方にある。ニーズを聴くかシーズを示すかの大きな違いである。
 前者はメーカーやゼネコン個別企業では苦手な分野であるので、GCUSを始めコンサルタントや商社などがしっかりとその役目を果たさなければならない。

 ソルーションは相手国の立場に立って、相手国に貢献することと言ってもよいだろう。


2011年 下水道技術のメッセージ (19) 2月14日 「ファイル転送ソフト」

2月の連休に、突如パソコンのトラブルが起きた。

 この個人ホークページを更新するためのファイル転送ソフト(FTP)が動かなくなった。
 何度、転送を試みても「パスワードが違います」の警告メッセージがでて止まってしまう。

 まず、プロバイダー(Biglobe)に電話をしてサポートをしてもらった。
 ここでは、FTPパスワードの書き換えを勧められて、実行した。

 新しいパスワードを使ってみたが、それでも「パスワードが違います」の警告メッセージは消えない。

 すると、プロバイダーの相談担当係員は、これ以上は電話対応ではできないのでメールで質問してほしい、と言いだした。
 きっと、対応マニュアルにはそう書いてあるのだろうが、当方としては電話で解決できないことがメールのやり取りで解決できるわけはない。時間がかかるし内容が伝わらない。
 何度か係員と押し問答をしていると、ついに係員は「お助け窓口」を紹介した。

 この窓口はプロバイダーが提供している月額300円位の有料サービスだが、最初の2か月は無料で受け付けてくれるから、今回のトラブルが解決したら解約すれば、事実上無料で対応できる、と係員は説明した。
きっと、扱いにくい客の場合の裏の手だろう。

 そこで、「お助け窓口」に再度電話をしてみると、今度の担当者はFTPやホームページビルダーに詳しい専門家に代わった。
 新しい係員氏によると、「お助け窓口」では、私のパソコンに接続して内部を見ながらトラブルシューティングすることになっているそうだ。
つまり、一種のハッカーだが、私の了解のもとに「お助け窓口」から私のパソコンにアクセスして一緒に問題解決する仕組みらしい。
これは正真正銘のリモートメンテナンスである。

 ちょうど、私が相談した時は「お助け窓口」が混みあっており、私のパソコンにアクセスするシステムが順番待ちの状態であったので、2時間ほど待って欲しいと言われ、いったん電話を切った。

 2時間も待っているのも退屈なので、何度かFTPの確認をしていたら、偶然、ファイル転送が回復した。
 よく調べてみると、FTPで「パスワードが違います」の警告が出る場合は、パスワードが違っている場合とユーザーネームが違っている場合がある、と書いてあった。
 そして、FTPのユーザーネームはてっきりメールアドレスであると思っていたが、実はプロバイダーが発行してあったFTPアカウントであったのだ。

 メールソフトではユーザーネームはメールアドレスでよいのだが、FTPは違う。すっかりそれを勘違いしていたらしい。

   その後、「お助け窓口」にはすぐに電話を入れ、丁重にお礼を言い、順番待ちをキャンセルしたことは言うまでもない。

 このようにして、2月の貴重な3連休のうち、2日間が過ぎていった。


2011年 下水道技術のメッセージ (18) 2月13日 「日本の強み」

「下水道分野の国際標準化戦略」についてのみに講演会で、講師から日本の強みについての解説があった。

 下水道分野における日本の強みは、
 1.密集都市における浸水対策システム
 2.老朽化管路のアセットマネジメント
 3.下水処理水利用を目的とした高度処理システム
 4.下水からの資源エネルギー回収システム
 5.簡易な下水処理システム
の5点を上げた。

 やや気になるところもあるが、強みとしてそれぞれの施策を掲げたところは評価できる。

 視点を変えて見ると、日本の下水道の強みは以下の通りになると思う。
 1.高学歴の技術者を現場に多数張り付けていること
 2.公営企業制度、料金徴収制度、指定店制度などのソフトが完備していること
 3.監視制御技術やIT技術がオンサイトに豊富に取り入れられていること
 5.省エネ、温暖化ガス対策が進んでいること
 5.ISO14000環境マネジメントを世界で最も多く取得していること
などになる。

 日本の製品は高価格で世界に売れないとか、運営管理が民営化していないから海外進出できない、海外展開経験が少ない、等の弱点が指摘されているが、弱点は強みとセットの議論をしなければならない。

 そして、強みを生かし弱みを避けることが戦略の第一歩であることを肝に銘じなければならない。

 自虐的になって迎合したり可能性を見失うことのないようにしたいものである。


2011年 下水道技術のメッセージ (17) 2月12日 「生と死の謎に挑む」

立花隆の最近作「生と死の謎に挑む」を読んだ。

 還暦をだいぶ前に過ぎた身にとって、ガンが日本人の2人にひ1人がかかり、3人に一人がガンで死ぬと聴いては無関心ではいられない。

 著者によると、ガン撲滅はまだまだ道半ばで、研究が進めば進むほど分からないことが増えてくるという状態らしい。
 その中で、ガンのなかにヒトの生命の根源を見出すという逆説的な研究を紹介する場面があった。

 ガンはヒトの正常な細胞から生まれるし、ヒトの免疫機構を利用している面もあるらしい。
 つまり、ガン細胞はヒトの細胞そのものである面をもっており、ガン細胞が解明されればヒトの生命の謎も見いだせるという説明には、なぜは納得できた。

 したがって、ガンとは共存するしかない。
 立花隆にとって、生きるということは精神活動の生産(たとえば著作)と消費(たとえば読書)を行うことだそうである。
だから、ガンで死ぬ直前まで精神活動ができるように清明であることが望ましいとしている。

 また、立花隆は膀胱ガンで内視鏡手術を受けたが、膀胱に関する話として腎臓に触れ、生命の根源ホメオスタシス(生命恒常性)の調整を腎臓が担っていることを強調していた。

 通常の男子で毎日100リットルの水分をろ過し、体内の生体物質、老廃物を分別し、1リットルの尿を排出している。
 この話を読んで、腎臓は都市の下水処理施設のようにも感じた。
 下水処理場は都市の排水の10%位を再利用しているが、いずれ腎臓のように99%を再利用する時代が来るだろう。

   ガンが解明される時期と下水処理水再利用率が99%になる時期と、どちらが早いだろうか、という読後感だった。


2011年 下水道技術のメッセージ (16) 2月9日 「自治体海外展開」

韓国の海外進出は著しい。
 その一面を示すエピソードを、長くソウルに駐在していた下水道関係者からうかがった。

 ソウルの地下鉄は、東京の地下鉄と同じくらいの延長距離があるそうだが、韓国はわずか2年ですべての地下鉄に防護フェンスを設置したそうである。
 東京では、最新の南北線などの一部に設置してあるが、全線に設置するには5年とも10年とも言われている。
 目標を決めたら国を上げて突進する。決断も早ければ、仕事も早い。そうしないと大国中国や日本に大きく遅れを取って圧倒されると思っている。

 その方は、最近の自治体の海外展開についても一家言ある。
 最近は、幾つかの自治体が海外展開を企てているが、国内の視点で海外展開を企ててもうまくいかないと断定する。

 しからばどうしたらよいかと言えば、「身をそぐ、捨てることだ」と明言された。

 つまり、日本の高品質な下水道を前提に海外展開してもほとんど失敗する。そもそも途上国にミスマッチで終わってしまう。  だから、これまでの経験、体験は大部分捨てなければならないと言いきっていた。

 きっと、韓国でいろいろな体験をされたのだろう。


 しかし、すべてを捨てたら何も残らない。問題は何を残して海外展開するかということである。
 きっと下水処理の原点に戻り、水質汚濁を軽減するという捨ててはならない要点を押さえ、電力不足や技術者不足、資材不足を乗り切っていく知恵と勇気が求められているのだろう。


2011年 下水道技術のメッセージ (15) 2月6日 「厳冬御礼」

2月5日に横浜日産スタジアムで開催された、下水道健康駅伝の会場で、東京都下水道エネルギー株式会社が「厳冬御礼」と書かれた使い捨てカイロを配っていた。

 なんでも、今年の冬はかなり寒く、熱供給事業の営業成績が好調らしい。
 地域熱供給事業は、天候に左右されやすい。暖冬だと熱需要が一気に減ってしまう。

 ところで、昨年の夏は猛暑であったが、東京下水道エネルギー社にとって、猛暑より厳冬の方が業績は向上するという。  その理由は、下水道の水温にあった。

 都市の下水道の水温は毎年少しずつ上昇しているらしい。
 その大きな理由はエネルギー消費量の増大と節水である。

 その結果、下水道を熱源とする東京下水道エネルギー社の業績は冷熱供給より温熱供給の方がよくなっているという。

 そういうわけで、「厳冬御礼」業績好調となる。  


2011年 下水道技術のメッセージ (14) 2月2日 「MBR」

国産技術であるMBRに期待したい。

堺市では6万トン規模のMBRが更新施設として短期間で建設されている。
A-Jumpの実証試験成果も期待されている。

MBRの利点は処理水質の高品質と最終沈殿池のいらないコンパクトさである。
一方、標準法より空気量を多く必要とする弱点もある。

さらに、MBRそもそもの利点として運転管理が容易なことがある。
従来の活性汚泥管理に対してMBRはファウルング(膜のつまり)と流入微細スクリーンに注意すればよい。つまり、運転が簡単になる。
 この利点は包括委託など、運転管理の外部委託と組み合わせると、運転管理コストの低下、放流水質の確保、などの効果が明らかになる可能性がある。従前のスタッフで運転管理を続けているのでは効果が出にくい。
 MBRの効果出現は下水処理の管理形態と密接に関連しているだけに、効果の出現には時間がかかるが、期待される。
おそらく、運転管理に関わるこの分野はクローズトな技術に通じていると推察できるので意味が深い。

この点、堺市ではMBR施設を完成後2年間JSに管理委託して効果を確認することになっている。MBRの効果が存分に引き出されることを期待したい。  


2011年 下水道技術のメッセージ (13) 1月31日 「液晶の未来」

液晶が全盛の現在では考えられないことだが、まだ液晶テレビが出始めたころ、1998年に当時のシャープ2代目町田社長は2005年までにテレビを全部液晶に変えると宣言し、世間を驚かせた。薄いだけが取りえで高くてみにくい液晶は完成の域に達したブラウン管を超えるとは思えなかった。液晶にはプラズマやプロジェクターなどのライバルもいた。

 その後、液晶は応答の遅さを改善し、コストを下げて一気にブラウン管やプラズマを追い抜いてテレビの画面に定着し、2005年にはシャープの出荷はほぼ100%が液晶テレビになった。
 シャープ創業者 の早川社長は、ナンバーワンではなくオンリーワンを目指せといってきた。
 オンリーワンになれば、他人はそこを目指す、そんな会社になろうとした。

 その一つの現れは、海外展開への考え方である。
 キャノンや東芝、パナソニックなどが工場の海外移転を進める中、シャープは頑として国内工場を作り続けてきた。

 シャープは、大型液晶画面という技術の生産拠点を海外に移転するかどうかの判断に際して、
 1.新しい技術であること
 2.液晶の開発には擦り合わせの技術が必要であること
 3.技術流出が懸念されること
 4.日本のブランドを確立させること
などの理由で、国内に液晶工場を作ること決断した。この結果、工業製品では珍しい産地ブランドである亀山ブランドは世界の液晶のブランドに育った。

 国内生産に固守するシャープの姿は、間違いなくオンリーワンの姿である。

 そのシャープが、さらに液晶の応用を画策している。
 その一つがエコ住宅、熱効率のよい住宅である。

 住宅の断熱構造は窓の部分が障害になっているそうだ。窓ガラスやサッシが熱を放出したり、太陽光を取り込んだりしている。

 この影響を防ぐには、断熱ガラスや熱線吸収フィルム、断熱サッシを使うことになるが限度がある。
 そこで電通大学の新教授の講演によるとシャープは、住宅の窓を全部断熱壁にして閉鎖してしまい、窓のあったところには大型液晶パネルを掲げることを提案しているそうである。
液晶パネルに外の景色を映し出せば、そこに窓が出現する。
外の景色だけでなく、ハワイや軽井沢の窓の景色を映し出すこともできる。
液晶を壁紙代わりに使えば、部屋の模様替えも瞬時にできる。

 断熱効果の十分な液晶窓は、寒冷地や熱帯にはさらに効果的になるだろう。

 大型液晶画面をテレビ以外に使うことは、利用範囲を大いに拡大することでマーケットの創造である。
 液晶画面を建材に利用するという発想は、オンリーワンを目指すものに違いない。

 下水道でオンリーワンとは何か、液晶に相当するコア技術はないかという問いに、どなたか答えていただきたい。  


2011年 下水道技術のメッセージ (12) 1月30日 「アジアカップ優勝」

アジアカップで日本が優勝した。

 最終戦のオーストラリアは、終始押し気味でいつ先取点を取ってもおかしくない試合運びであった。
   一方、日本はラインを低めに押さえて投げ込まれてくるロングボールに対応した。
その結果、オーストラリアがシュートの数で大きく上回ることになり、苦しい試合であった。  この攻守は試合巧者の香川を欠いたことが大きく響いたと思う。

 しかし結果的には、120分同じ戦法で得点が取れず、途中で戦術を変えられなかったオーストラリアに対して、後半に代えた岩政がオーストラリアのパワープレイを効果的に押さえ、延長戦に満を期して投入した李忠成が劇的なボレーシュートで試合を決めた。
これは監督の勝利といっていいだろう。  


2011年 下水道技術のメッセージ (11) 1月23日 「中国汚泥シンポジウム」

2月に中国北京で汚泥処理技術のJICAシンポジウムが開催される。
 中国では汚泥処理が遅れており、水環境汚染の主な原因になりつつある。

 つまり、下水処理場が稼働していても発生した脱水汚泥の最終処分が不完全なので、場内に山積みになっていたり河川敷に投棄されていたりして再び環境汚染の原因になっているらしい。
 新興国でよくあるパターンだが、下水処理場を建設しても、最初は河川水が混入したり、面普及が進まずに下水汚泥の発生量が少なめに推移する。
 また、中国などに見られるように工場廃水をそのまま公共下水に受け入れ、重金属類が混入して汚泥の最終処分を困難にしてしまい、汚泥の場外搬出が困難になってしまうこともある。

 このようなことは昔の日本でもあった。
 工場廃水は除外施設を徹底させて解決した。
 汚泥の最終処分は焼却やコンポスト、セメント原料化などがあり、最近では固形燃料化、ガス化などの先進技術が実用化されている。

 中国のシンポジウムでは、中国の汚泥の特徴を考慮しなくてはいけない。
 脱水汚泥の熱量は日本のものより低いので、同じ含水率でも焼却時には補助燃料を多く必要とする。
 そもそも、中国で脱水汚泥を焼却しようとする場合には、焼却工程の前に乾燥工程を挿入することが多い。
 日本ではまずない方法である。

 また、日本の技術を中国で使う場合には知財をしっかりと押さえておかなければならない。
 知財は特許を取ることとともに、クローズド技術を仕込んでおかなければならない。

 焼却炉では、炉の構造や制御の方法、耐火煉瓦の築炉技術などであるが、極めつけは濃縮から脱水、焼却、灰処分に至る全体の管理技術である。
 要素技術や担体技術は短時間でコピーができるが、濃縮槽から汚泥脱水機、焼却炉、灰の最終処分に至る全体の管理は簡単にはコピーできないし、簡単に熟練者は育たない。

 焼却炉の稼働率を上げたり、脱水機の高分子凝集剤の添加率を押し下げる熟練者の技術は、ランニングコストに如実に反映する。

 日本の企業は、オープンできる技術とクローズトする技術を明確に区分してシンポジウムに臨むべきである。  


2011年 下水道技術のメッセージ (10) 1月16日 「平和、その2」

「平和」の定義は、ウイキペディアのよると「社会の状態が戦争や内乱、騒擾などで乱れていないこと」となる。

 どこの国でも、戦争や内乱があるときは下水道の建設には手がつけられない。
 日本でも、戦時前と戦時中の相当期間は下水道の建設が中断していた。

 世界史的には稀有な存在である江戸時代には、鎖国政策もあり300年もの間にわたって国家間の戦争はなかったが、このころにし尿の農地循環システムが機能していた。

 石油や食料、水は戦争を進めるにあたっては不可欠な物資である。しかし、下水道はそうではない。
 そもそも、下水道は運ぶことができない都市施設であるから、なによりも平和が前提になる。

 下水道組織の内部から下水道の重要性を発信しても、それは宣伝ととらえられかねない。
 下水道の本当の価値を示すには、下水道の部外者が共感し、部外者から発信される論理が必要である。  


2011年 下水道技術のメッセージ (9) 1月15日 「平和」

下水道とは何だろう。

 下水道関係者や、市民、業者、マスコミなど、いろいろな立場の人がそれぞれの意見をもっているはずだ。
 中には、下水道はあって当たり前の都市施設で、「そもそも何だろう」と考えることもしない人も多数いるはずだ。
 特に、生まれた時にすでに下水道が整備されていた人は、その思いが強いだろう。

 そこで、多くの人が下水道に関心をもってもらうために一つの仮説を考えた。
 その、一つは「下水道は平和のシンボル」というキャッチフレーズである。

 下水道は市民が定住し、安心安全な暮しが前提になる。
 国が乱れたり財政が不安定になると下水道は成り立たない。
 個人の尊厳を守り、環境という人類の資産を守るものである。

 下水道が「見える」か「「見えない」かは大した問題ではない。
 なぜなら、平和を求めるのは人類の望みだから。
 下水道が安定して使えることは、平和そのものである。  


2011年 下水道技術のメッセージ (8) 1月14日 「書き初め」

以下、今年の最初(1月1日)に書いた雑文です。いわば筆者の「書き初(ぞ)め」です。

昔、あるSFの本で読んだことがありましたが未来の時間はクラスター(ブドウの房)のように枝分かれしているのだそうです。
ブドウの粒の先には、またブドウの房が付いているという「入れ子構造」です。

 私たちが住んでいる3次元の世界で、時間軸を含めた4次元の世界を表現する時にも、同じような手法をとります。
 つまり、xyz軸で構成される直交座標の任意の位置に、さらに小さなxyz座標があり、元の座標と新しい小さな座標の間には時間軸が貫いています。ここでは、元の座標がブドウの房、新しい小さな座標がブドウの粒に相当します。
 もし、この考えが的を得ているとすれば、時間が進むということはすごいことです。時間が進むたびに新しい世界が現れては積み重なっていくことです。

 物理的な概念としては、客観的な時間が多数の未来に枝分かれしているという構造は3次元の世界に住んでいるものとしては理解しにくいものです。アインシュタインの唱えた時間の相対性につながる考えなのでしょう。

 しかし、主観的な個人の人生について考えてみますと、それぞれのブドウの房は一人ひとりがもっていて、どの枝に向かうかは一人ひとりが決めることになります。
だから未来は不確定です。でも、枝分かれを間違えなければいろいろな楽しいことが待っています。仮に枝分かれを間違えても、その後に希望を持てます。

                               以上  


2011年 下水道技術のメッセージ (7) 1月12日 「ホームカミング・デー」

昨年、秋に母校R大学でホームカミング・デーがあった。

これは、どこの大学でも毎年一度は行っている大学祭に、卒業してから10年、20年、30年、40年たった卒業生を招待するもので、招待者を集めた歓迎会とパーティーが用意されていた。

 実は、筆者も40年目ということで招待され、何十年振りかに母校を訪れた。
 学校は、校舎の配置こそ違っていないので昔の面影は残っていたが、よく見ると至る所に手が加わっており、様変わりしていた。
 歓迎会では、記念品をいただいた他、地元商店街とタイアップして商店街で使えるお土産商品券1000円もいただいた。

 この活動を通じて強く印象に残ったことは、潜在的なユーザー、サポーターの掘り起こしという点である。
 卒業生は母校に悪い印象をもっているはずはない。にも関わらずに母校に頻繁に来ないのは、用件がないからだ。

 しかし、大学にとってみるといまや大学は学生不足で受験生集めや社会人教育など、市場開拓に必死の状況である。そこに卒業生の大学に対する評判を掘り起こさない手はない、というマーケッティングが見え隠れする。

 商品券についても、昔懐かしい大学周辺の店に行き、土産に昔懐かしいお菓子を購入したら1000円ではとてもすまなかった。 この辺も、大学祭に協賛した商店の期待も見て取れる。

 ということで、口コミがもっともすぐれた宣伝媒体、との話をかみしめた次第である。いずれ、これを機会に卒業生の子息やお孫さんが受験でもすれば、経費的にはすぐに回収できるということだろう。

 以上の話を下水処理場に当てはめると興味深い。
 一度、下水処理場に勤務したことのある職員のリストを作ってホームカミング・デーを催すのも一計である。
 古い処理場だと、何十年もさかのぼり運営されてきている。これらの施設が何十年もの間、代々の職員が積み重ねて築いてきたことを現職の職員が知るだけでも、素晴らしいことではないだろうか。

 もし、その時、「昔はこうだった」とういう話が聞けて、話した人が地域に帰って下水道の影のサポーターになってくれればなによりである。   


2011年 下水道技術のメッセージ (6) 1月11日 「リン回収」

1月8日土曜日の東京新聞朝刊1面トップに「下水汚泥からリン回収」という大きい文字とともに、東京都の下水汚泥焼却灰からリンを回収するプロジェクトがこの3月にまとまるとの記事が掲載されていた。

 内容は、東京都が本格的に「灰アルカリ抽出法」でリン回収事業に進出する予告記事だが、すでに先行している岐阜市の例も挙げ、今までよりもリンの回収率を向上させるとともに、残った灰を無害化してセメント原料などに再利用できるようにする、としている。
 関連記事としては、同紙24面に岐阜市の詳細と東芝も吸収剤(カルシウムと鉄を含む層状複水酸化物)を用いて低コストでリンを回収する技術を開発したとする関連記事を掲載していた。

 リン回収はいよいよコスト競争、実規模での安定運転の段階に来た。  


2011年 下水道技術のメッセージ (5) 1月9日 「東横フラワー緑道」

暦の関係で今年の正月休みの長さは最短でした。そのかわり、休みが明けるとすぐに3連休です。
 この3連休にどう過ごすか考えて、住んでいる近くの街を歩くことにしました。

 普段は電車で通り過ぎている街を歩くとどうなるかという興味からです。

 時間は1時間で、どこまで行けるかです。
 結果的には、京浜東北線で関内駅から東神奈川駅までの3駅でした。

 早歩きで歩き始めると、すぐに体が熱くなり上着やマフラーは不要になりました。
 途中には、小さなカレー屋や三丁目の夕日に出てくるようなひなびた平沼橋商店街を発見しました。
 横浜駅の近くには大勢の人が並んでいた吉村屋というラーメン屋や小さな掘割もありました。


 横浜駅を過ぎると「東横フラワー緑道」という新しい公園に出くわしました。
 東横線は5年くらい前にみなとみらい線への乗り入れに際し横浜駅に近い部分が廃線になりました。
 その廃線部分の一部が公園になったわけです。
 写真にあるように、木道にレールを敷いた地面のモニュメントが線路跡であることを示しています。
 公園の先にはトンネルがあり、こちらは現在工事中でした。

 このようなタイプの公園は、ニューヨークでも見かけたことがありました。
 こちらは、高架線が廃線になり、高架の公園ができていました。
 細長い公園は、遊歩道的で面白いものです。

 街を歩いてみて、大きな収穫がありました。  

 


2011年 下水道技術のメッセージ (4) 1月6日 「トイレの神様」

下水道を広く市民に周知し、理解していただくにはどうしたらよいか、というテーマがあります。

 いわゆる下水道の見える化ですが、なかなか進みません。なぜでしょうか。

 この一つの答えは、見える化の活動が下水道サイドからのみ行われていることがあります。
 もう一つの理由は下水道のブランド化がなかなか進まないことです。

 下水道サイドで、「下水道が大切だ、必要だ」といくら発信しても、外部からみると、「それがどうした、世の中に必要なインフラはたくさんある。下水道はその一つにすぎない」という声が聞こえてくるようです。

 そもそも、下水道の重要性は下水道以外から情報発信されることが必要ですし、下水道自身が世の中に見えにくい構造をもっているのかもしれません。
 電気やガスでもスイッチやコックをひねるとすぐに使える便利さや停電などが皆無なことが、逆にその存在感を低めています。

 そんな時、年末にブレイクした上村花菜の「トイレの神様」の歌詞が大いに気になりました。
   トイレには それはそれはキレイな
   女神様がいるんやで
   だから毎日 キレイにしたら 女神様みたいに
   べっぴんさんになれるんやで

   普段は、隠すべきトイレに注目し、祖母のひたむきで表裏のないやさしさをトイレの女神にたとえた感動作です。

 そこで、「トイレ」を「下水道」に置き換えれば、これほど下水道の応援歌になる近いメッセージはないと思います。

   考えてみれば「下水道」は事業者からの発想の名前ですが、「トイレ」は利用者からの発想の名前です。上村花菜のヒットを契機に、下水道の名前をトイレに置き換えたらいかがでしょうか。
 トイレ管、トイレ処理場、トイレ法、トイレ局、トイレ協会、トイレ事業団など、下水道が市民に一気に近くなります。それは、利用者の視点から下水道を見ているからです。

 下水道には女神は存在しませんが、トイレには女神がいる、という市民感覚が大切なところです。
 このような決意が、下水道事業には必要と思われてなりません。  


2011年 下水道技術のメッセージ (3) 1月5日 「本の買い取り」

有燐堂は横浜市中区伊勢崎町に本店があり、関東各地に関連店をもつつ大手書店です。
有燐堂本店の近くには中古本を販売するブックオフがあり、こちらは繁盛しています。

有燐堂は、最近の活字離れのためか昨年に本売り場を縮小した経緯がある。
おそらく、ネット販売のアマゾンなどに顧客を奪われて本の売り上げが落ちてしまったのだろう。
そんな有燐堂が、本店店頭に中古本の買い入れのポスターを掲げた。
内容は、「読み終えた本は当店へお売りください」というものでした。

本を売る本屋さんが本を買うとは、ビジネスの否定ではないだろうか、という素朴な疑問がわいてきました。
それとも、中古本を買い取ると新本が売りやすくなるのでしょうか。

いずれにしてもかなり苦しい選択であると感じました。
なぜなら、どんなことがあっても中古本の流通は新本の流通を妨げるからです。

一方、読者からみると買い取り価格が最大で20%という買い取り価格設定は安すぎるという印象があります。
新本を買って、読み終わったら同じ本屋に買い取ってもらうというのは、読者にとっては本を借りるような関係になります。
それにしては80%の借料は高すぎるということです。

有燐堂の新たなビジネスモデルがどのように展開していくか、見守ってみたいものです。  


2011年 下水道技術のメッセージ (2) 1月4日 「時の流れ」

年を取ると時間の流れが早くなるという経験談をよく聞きます。 本当でしょうか。

 一説には、ゾウの時間とネズミの時間の例えに準じて、体の新陳代謝が鈍くなったり、細胞分裂速度が遅くなる分だけ時間の過ぎるのが早くなると説明する人もいました。
 ちなみに、ゾウはネズミに比べて体が大きいので体温保持が容易にでき、その分心拍数が少なくて済みます。心臓の生涯打ち続ける回数はゾウもネズミもあまり変わりませんので、結果的にゾウの寿命はネズミの寿命より長い、という結論になります。

 でも、時間の経過と生物の寿命は直接的な関係はありません。時間の過ぎ方は心理的な面が大きいのではないでしょうか。

 たとえば、同じ山道でも一度歩いた道は、二度目に登るときは短く感じます。同じ映画でも、二度目に見るときはかなり時間が短く感じられるはずです。
 つまり、年を取ると一度経験したことに出くわすことが増え、その時間は短く感じますので、経験が深まれば深まるほど時間のたつのが短く感じられるということです。

 おそらく、未経験の分野では試行錯誤やチャレンジという行為が頻繁に起こり、そのたびに悩んだり迷ったりしているから、時間が長く感じられるのでしょう。
 したがって、歳を重ねても新しいことに向かうときは長い時間を経験しなければならないことになります。
   面白いものですね。

 


2010年 下水道技術のメッセージ (63) 12月28日 「気泡について」

水に気泡が混ざるとどうなるであるか。  三つの話題を提供する。

 まずは下水処理について話そう。

 下水処理場のエアレーションタンクは、水に気泡が混じっている典型的な施設である。
 ここでは、水中の散気板から放散された空気が小さな気泡になってエアレーションタンクの中を駆け巡っている。
 見た目にはたくさんの気泡があるように見えるが、実際の気泡の容積比はそれほど大きくなく、せいぜい数パーセントである。
 この量はエアレーションタンクのエアレーションを止めると、タンクの水位が数%程度低下することからも確認できる。

  この場合、エアレーションタンク内下水の見かけ上の比重は、気泡の分だけ数%少なくなる。
 比重が数%少なくなるということは些細に見えるが、海水の比重が1.02程度で、海水が真水より泳ぎやすいことを考えると、数%の比重の低下はかなり泳ぎにくくなることを意味している。
 だから、エアレーションタンクでは水泳の名手でも溺れてしまう。

 実際に、エアレーションタンクに命綱と救命胴衣を着けて救助訓練をしたことがあったが、これがなかなか難しかった。
 被験者は水中に潜っても大丈夫なように空気ボンベを背負ってエアレーションタンクに入ったが、吸い込まれるように沈んでしまった。
 余談だが、昔、砂町下水処理場(当時の名称)のエアレーションで人骨が発見されたことがあり、警察が駆けつけたが迷宮入りをした。
 エアレーションタンクに人を投げ入れると、泳げずに溺れてしまう。その上、活性汚泥に食べられて短い時間で白骨化してしまう。
 死亡推定時間が大きく狂い、死体が底に沈んで発見されにくい。
 ヤクザには知られたくない秘密である。

 二つ目は、下水管きょについてである。
 下水管きょを流れる下水管は、通常はゆっくりと人が歩くような秒速80CM程度で自然流下するように設計されている。この流れは層流という。
 しかし、一たび雨が降ると、合流式下水道は水量が増し、渦を巻いて流れるようになる。この流れは乱流といい、水流流速が一定の速さを超えると起こる。下水管が下水で満管になると圧力管になり水流は最大で秒速3mにも達することもある。

 ここで気泡の問題が出現するのだが、乱流状態になると水面が不規則な状態になり、気泡を水中に取り込むようになる。これを水力学では空気連行とよんでいる。空気連行の現象は気体と液体の混合現象で、空気に圧縮性があるだけに複雑な挙動を示し、解析の難しい分野とされている。
 下水が空気を連行すると気泡が生まれるが、下水に気泡が含まれると下水の見かけ上の容積が増え実際に流れる下水量が少なくなる。
これは、下水管の見かけ上の流下能力低下を意味する。
 それだけでなく、連行空気が何らかの理由で管内で管の上部にたまると、その空気の断面積の部分だけ下水の流下能力が皿に低下させられてしまう。
 悪いことに、下水管は自然流下するように緩い傾配で造られているので、連行空気が滞留しやすい構造にある。

以上が気泡の弊害である。次は効用を示す。  三つ目の気泡は、手洗いの水道栓である。
 気の利いた手洗い用の水道栓は、なぜか気泡の混ざった水が出てくる。
 おそらく、蛇口に工夫があり気泡が混ざる構造になっているのだろう。

 気泡の混ざった水道水で手を洗っても、普通の水道水とあまり変わりがない。
 おそらく、気泡の混ざった水道水は手洗いの機能を損なわずに水道の使用量を節約している優れモノなのだろう。
 そういえば、台所の流しで気泡の混じった水の出る水道栓もあった。
 この手法はシャワーや洗濯機にも使えそうな気がした。

 以上、気泡の効用と弊害を述べたが、いずれも気泡を制御することが重要であるということである。  


2010年 下水道技術のメッセージ (62) 12月20日 「下水熱地域冷暖房の考察」

 最近、下水熱利用が低調である。

東京都の後楽ポンプ所で、日本で初めて下水熱利用の地域冷暖房事業が始まり、砂町水再生センターで2番目の下水熱供給事業が始まった。その後、盛岡市などで事業化があったようだが、かなりの年月が経過しているにもかかわらず、有力な事業が輩出していない。
これはなぜだろうか。

 一つの理由は、下水熱利用に限らず、地域冷暖房事業自身が低調になってしまったことがある。
 地域冷暖房事業は、個別ビルの冷暖房では不経済であったところを地域でまとめて規模の利益や需要の平準化を通じて経済的優位性を確保するものであった。

 ところが、最近ではビルマルチ冷暖房が発達し、ビル単位で経済的なシステムを組むことが多くなっている。この背景には三つの動向がある。

 一つは、巨大な空調機よりも標準型の空調機の方が安価で効率的になってきた技術動向がある。
 たとえば、量産している標準型の冷凍機方が大型冷凍機よりも原単位が安くできるらしい。冷凍機自身は大きいほうが効率よくできるが、回転数制御をおこなおうとすると、大型冷凍機はインバーターが特注になりかなり高価なものになってしまう。制御系も特注で割高になる。
この点で、標準型は標準汎用のインバーターと電動機を使うことができるので比較的安価になるらしい。

 この原単位の逆転現象は太陽光発電にも表れている。太陽光発電は、一般家庭用の3kwクラスが標準化して量産されているので原単位価格がもっとも安い。
太陽電池自身は発電能力と価格はほぼ比例するが、取り付け器具、インバーター、制御装置、表示装置などは汎用量産型が圧倒的に安価で、結果的に大型太陽光発電システムは標準型に対して割高になってしまう。

 二つ目の動向は、都市再開発事業の減少である。
 日本経済のバブル崩壊以後、リーマンショックも加えて地域の再開発事業がめっきり落ち込んでいる。地域冷暖房は、そもそも新規ビルに温冷熱を供給するようにしなければ効果がない。地域に地域冷暖房法の網をかけて、面的に供給するようにしなければならないので、再開発事業で高層ビルが建つことが前提条件になる。
 この前提条件が落ち込んでいるのが二つ目の理由である。

 三つ目の理由は、都市の熱需要と下水の熱ポテンシャルのミスマッチである。
   都市の熱需要は、たとえば東京では、温暖化やパソコンの普及やデーターセンターなどの展開で冷房需要が年間を通じて8割近くになるらしい。  つまり、ほとんどが冷房需要になっている。その一方で、下水熱そのものが、温暖化や生活の高度化で水温が間違いなく上昇している。
つまり、表流水を取水している東京都の水道水も水温が上昇しているし、これに加えて都市のエネルギー需要が増加するにしたがって排熱量も増加しているので、下水の水温は確実に上昇している。
下水の水温が上昇すると暖房熱源には好条件だが冷房の冷熱源にはマイナスに作用する。

 しかし、下水熱を有効に利用するというコンセプトは正しい。標準タイプを勝る大型機が出現したり、再開発に頼らない下水熱利用が生まれれば、都市の熱リサイクル、省エネルギー、温室効果ガス削減という課題に対応できる潜在力があることには変わりがない。

 たとえば、個人宅やビル単位での下水熱利用が考えられる。また、冷房需要の旺盛な海外新興国での下水熱利用もある。

 行き詰った時にこそ知恵の出し時でもある。  


2010年 下水道技術のメッセージ (61) 12月15日 「日本企業の海外展開」

ある下水道専門紙を発行している経営責任者と、下水道の海外展開について話し合う機会があった。

 その方によると、日本の展開は日本の特徴を生かさなければいけないと主張していた。

 日本の特徴とは、仕事がていねいで誠実であること。最後まで責任を持つこと。国内で実績があることなどである。

 実は、これまでゼネコンが海外展開をして、このようなマインドを前面に出して多くの現場で失敗してきたマインドでもあった。

 ゼネコンの場合には、契約書、特記仕様書の読み込みが不十分であったり、相手国の商習慣に不案内であったりして、当初予想もしていなかったトラブルとなったケースが多かった。

 にもかかわらず、日本の伝統的特徴を前面に出そうとしているのは、海外で日本と競合している中国や韓国を意識しているからに違いない。

 競争者にないものを見出し、その土俵で戦えるように打ち出していくのは戦略の基本中の基本である。
 日本企業が、高価格高品質で戦えないといって価格競争に陥ってしまうのはまずい。
 ガラパゴスで戦うような覚悟が必要であるということで同意した。

 


2010年 下水道技術のメッセージ (60) 12月13日 「地下鉄駅の浸水」

12月の技術サロンは早稲田大学の関根正人先生の浸水対策の話であった。  その中で、興味深かったのは地下鉄駅の浸水対策であった。

 先生は、東京で一番危険な地下鉄の駅は「溜池山王駅」であるとはっきりと言っていた。
 危険な理由は、この駅の地域は溜池という地名が示すように低地で、過去にも内水氾濫が何度も起きていることである。

 どこの地下鉄の駅でも同じであるが、駅の入り口は路面より一段高くなっており、止水板も設置できるようになっている。
 しかし、先生によると、止水板は地下の駅構内から入り口まで持って上がってくることになっていて、実際には現実的でないと話していた。

 その上、駅の構造が複雑でプラットホームが幾重にも入り組んでおり、浸水による避難ルートが複雑になっているという。

 先生が指摘するのは、火災に対する非難ルールは建築基準法で確立しているが、浸水による避難ルートは皆無に等しいという事実である。

   市民の恐怖をあおって対策を求めるのは先生の真意ではないだろう。
 無知による被害の拡大にならないように、警告を発していると理解できる。

 確かに優れた見識であるが、打ち出し方が難しい。  


2010年 下水道技術のメッセージ (60) 12月3日 「スクラッチャー」

12月2日に残業をして帰宅する時、東京都文京区の江戸川橋交差点で、マンホールの下水沈砂をつかみ上げるスクラッチャー作業の現場に出くわした。

この手の作業は、東京では昼間は認められず、もっぱら午後8時頃からの深夜作業で行われる。



交差点の真ん中に作業帯を設けて下水マンホールにスクラッチャーを挿入していた。
スクラッチャーの先端がマンホールの中で開いて沈砂を抱え込み、再び閉じて引き上げる。 左の写真はスクラッチャー先端をマンホールに入れるところ。マンホールに入れると軸が伸び、地下20mくらいまでの砂をかき取ることができる。

地上に掻き揚げた沈砂は右の写真のように近くのトラックに積み込まれて搬出する。
トラックに砂を積み込むときに、スクラッチャーの軸が傾いていることに注意。
これは、右の写真をよく見るとスクラッチャーの上部に架空電線があり、これを避けるために傾けていのである。
万一、電線に接触すると大変な電気事故になる。
下水道の仕事は地下も地上も危険がいっぱいで神経を使う作業である。
でも、スクラッチャーは作業時間は短縮し、マンホール内作業がなくなる優れモノである。

市民の知らないところで、下水道のメンテナンスが進められている。

なお、この重機は東京都下水道メンテンス組合が作ったもので、日本独自のものである。

この写真を撮ってから、6時間くらいした時、東京地方に豪雨が発生した。
きっと、スクラッチャーできれいにした江戸川橋のマンホールは大量の下水がスムーズに流れたことだろう。


2010年 下水道技術のメッセージ (59) 12月1日 「ベトナム料理」

先日、ベトナムに赴任している方とお会いして面白い話を聞きました。

その人によると、ベトナムで生活をしていて、たまに日本へ帰国するとおなかをこわすそうです。
普通は、東南アジアに行くと現地の水や食べなれない料理にあたっておなかをこわすといいますが、その反対の発言に驚きました。

ベトナムは食料自給率170%の国で、そのうえ国が南北1000kmもあり食材が豊富です。
ベトナムでは、そもそものベトナム料理を初め地政学的にマレー、中華、インドなどの料理が混じりあっています。

鍋料理もそのうちの一つで、豊富な食材を背景においしいベトナム風鍋がハノイやホーチミンで食べられます。

その上、親日的で日本に対するリスペクトもあり、物価も安い、とのことでした。

そんな、居心地のよいベトナムから日本へ戻ると、きっとおなかもこわすのでしょう。


2010年 下水道技術のメッセージ (58) 11月21日 「プレーステーション3」

ソニーのPS3(プレイステーッション3)が売れあぐんでいる。
 発売時には高性能な本体と洗練されたソフトは羨望の的であったが、なかなかブームが起こらない。
 高性能や洗練されたソフトが万能ではなくなった。

 その理由は二つあるらしい。
   一つは任天堂wii fitのようなインターラクティブ性の欠如です。
 バランスボード(体重計)でスキーをやったりヨガをやったりできる軽便性は多くのファンを作りました。PS3にはこの要素が少ないということになります。

 もう一つは携帯無料ゲームの出現です。携帯端末はだれもが持っている国民的端末で菅、この端末でゲーム配信が始まったのですからたまりません。
 中でも、魚釣りソフト・グリーは革新的でした。

 グリーは携帯の無料配信サイトで手に入ります。そして、しばらく魚釣りゲームを試していると、だんだん道具に凝ったり、えさ場を探したくなります。この時グリーは有料でツールを配信しています。ゲームソフト自身は無料ですが、ツールは有料というビジネスプランです。

 ところで、グリーには広告主スポンサーがおり、魚釣りソフトを起動すると広告も一緒に表示されます。この広告料はグリーのヒット数で増減します。
 そこで、グリーの戦略を分析してみると、ツールの有料配信よりも広告料の方が重要なことが分かる。ツールの有料配信は一度獲得すると同じものは二度と購入する必要がない。この点、広告料はユーザーが魚釣りゲームにアクセスするたびに、小額のスポンサー料を得られる。

 したがってツール有料配信は、ツール販売での収益はともかく、多くの利用者にゲームの関心を持ち続けているために利用者の増加をねらった戦略と理解することもできる。

 プレイステーション3にもツールの有料配信はあるが、本体は売り切り制で携帯に比べるとユーザー数は圧倒的に少ない。
 また、広告主もない。

 米国のゴールドラッシュのときに、多くの人は一獲千金を目指して果敢に金探しに身を投じた。しかし、ゴールドラッシュで最後にほほ笑んだのは金採掘用の長靴や作業ズボン(ジーンズ)を販売した商人であったという。

 ゴールドラッシュというハイリスク・ハイリターンの環境の中でローリスク・ローリターン戦略を選んだことが成功の秘訣だった。  プレーステーション3はすでに時代遅れになってしまったということだろうか。


2010年 下水道技術のメッセージ (57) 11月20日 「若さの秘訣」

 ある会合で、70歳を過ぎてはいるがいつも元気な都庁の先輩に、「若さの秘訣は何ですか」とたずねた。  すると、即座に「こだわり」と「新鮮さ」だ、と教えてくれた。

 「こだわり」とは、自分の価値観を持って持続すること。必ずしも誰でもが認めるしてものに関心を持ち、続けること。価値、こだわりでなくてもよい。たとえば全国のお城めぐりや石で造られた橋の調査、などいろいろある。

 「新鮮さ」は、若手の発言、仕事ぶりを肯定的に受け入れること。たとえば若手の意見を新鮮に聞くこと。ややもすれば若手への歯がゆさから「いまどきの若手は」と言いたくなるが、新鮮さを評価すること。

 どうも、若さの秘訣は好奇心とやさしさのようだ。


2010年 下水道技術のメッセージ (56) 11月15日 「ヒンズー語」

 先週、インドのODA状況についての講演会を聞く機会があった。

 その中で、日本の下水道関係者からみると、インドの下水処理は東北大学の原田先生が長年築き上げたUASB+DHCシステムが大勢を占めているとみられたが、講演によると大都市ではむしろ活性汚泥法が主流であり、各地で活性汚泥法の更新時期を迎えているとの話があった。

 また、興味深い話として、ヒンズー語で「Jal」は「水」のことを指すという紹介があった。
 たとえば、インドのデリー水局は「Delhi Jal Board」になる。

日本航空と同じ綴りとは奇遇であった。


2010年 下水道技術のメッセージ (55) 11月6日 「国内バラスト水」

 GCUSの分野別課題グループでは、下水処理水をタンカーや鉄鉱石貨物船のバラスト水として搭載して、水不足のオーストラリアやサウジアラビアなどに輸出しようとするプロジェクトが進行している。

 ところが、バラスト水で水を運ぶというアイディアは国内でも12年以上前から実際に行われていた。

 東京には、幾つかの大きな水族館があるが、その代表格の一つである品川水族館では、フレッシュな海水を手に入れるために昔からバラスト水を利用して四国沖や紀伊半島沖などから運ばれた海水を購入している。最近では東海汽船(著者推定)と提携して、伊豆七島八丈島近海の海水をバラスト水として東京港に運んでもらっている。

 東京から伊豆七島に向かうときは資材を積み、伊豆七島から東京に帰るときに、海水を汲んでくる。
 もちろん有料であるが、独自に運ぶよりははるかに安価らしい。

 東京港から水族館までの間は、きっとタンクローリー車を使っているのだろう。距離は短くても、このコストも馬鹿にならないだろう。

 水族館としては、全量新鮮な海水というわけにはいかず、イルカやアザラシなどエラ呼吸をしない哺乳類には東京湾の海水をろ過して使っている。

(参考)
2000/02/20 「生息環境に合わせ水をつくる"工場" 水族館の裏側より」 (日本経済新聞 朝刊より)

水族館は水が命である。しながわ水族館(東京・品川)では3種類の水を使っている。
 まず、四国沖から船で運んできた黒潮の海水。汚れのない沖合の海水ではなくては、魚を飼育するのは難しいからだ。わざわざ貨物として運んでくるのではなく、「船のバラスト(安定を保つため船底などに積む重り)として使用したものを買っている」と、同水族館業務課の今泉馨さんは話す。
 すぐ近くの東京湾からも取水、ろ過して汚れを取り除いて使っている。これはイルカやアザラシなど海洋ほ乳動物の水槽用。ほ乳動物は肺呼吸。鰓(えら)で水の中の酸素を吸収している魚と違って、少し汚れていても、ろ過すれば大きな問題にならないという。水槽などにある海水の量は全部で1350dを超える。
 3番目は湖沼や河川に住む魚のための淡水。水道水から消毒のため入っている塩素を除去したうえで約40dほど使っている。
 3種類の水を用意したうえ、エサや排せつ物で汚れた水を常にきれいな状態に保つため浄化したり、魚の生息環境に合わせて冷やしたり温めたりする必要がある。水族館の舞台裏にまわると、あちこちに貯水槽やろ過器、ポンプや配管などが設置してあり、ちょっとした工場を思わせる。


2010年 下水道技術のメッセージ (54) 11月6日 「手を洗う効果」

 いわゆる民間療法の類だろうが、手を洗うと手のひらの血流がよくなり体調が改善されるという話を聞いた。  水道の蛇口で少し長めに手を洗うと、体の静電気が放電されて偏った血流が改善されるという。

 そういえば、昔、職場から自宅まで一日中歩き続けた時に、ときどきコンビニや公衆トイレで手を洗うと気分が一新される体験をしたことがあった。

 このときは、汗にまみれた手の汚れを洗うと気分が回復すると感じていたが、血流への効果までは思いが及ばなかった。

 手を洗うということが、衛生的な効果だけでなく健康にも関連していたとは人体とは不思議なものでした。


2010年 下水道技術のメッセージ (53) 11月4日 「双方向」

必要な時に必要な情報を入手できるオン・ディマンドはインターネットで実現しつつある。 オン・ディマンドは見たいテレビ番組を見たい時に見られるというシステムだ。

インターネットでは、その双方向性を活かしてyahoo天気予報やウェザーニュースが実現している。ここでは、まず、利用者に定点観測の報告を求めている。

すなわち、今、利用者が自分のいる場所の天気について晴れか雨か曇りかと報告すると、その地方の現在の天気が投票数として表示される。
たとえば、少数の人が故意に誤った天気情報を流したとしても、大多数の善良な報告者の数で消されることになる。

これは、ある種のインターラクティブ(双方向)であり、部分的貢献で全体的情報を入手するプロセスでもある。

これと類似の方法がベトナムの交通情報で行われている、とのテレビ放送があった。
タクシーの運転手が、一日に10回ほどボランティア的に市内の交通渋滞情報をFMラジオ局に携帯で送る。運転手は、タクシーに乗っているから、そこからその時点での混雑情報を送るだけだから負担は軽い。

この情報をFM放送局はまとめて放送することにより、特別な機器を使わずに低コストで高度な交通情報を提供できることになる。

ここには、天気予報利用者とyahoo、FM放送局と運転手とのネットワークが機能していることだ。
これは一種のコミュニティーともいえる。

このような構成員が相互に支え合うコミュニティーは、高価なネットワークを必要としないだけでなく、利用者とのコミュニティ連携が生まれる。
下水道事業にも必要なものだろう。


2010年 下水道技術のメッセージ (52) 11月1日 「台風運休」

台風14号は10月30日夕方、関東地方に最も近づき、その後jに太平洋のかなたへと離れて行った。

 関東地方に最も近づいたときに、湘南地方の風雨も激しくなり東海道線は熱海と東京の間で運行を見合わせることとなった。

 東海道線は、台風が接近してきたお昼過ぎから大幅に遅れはじめ、結局、18時ころぎまで不通となった。

 ところが、東海道線と並行して走っている新幹線は、台風が接近しているにも関わらず、分刻みの正確な運航を続け、遅延することはなかった。

 この違いは、何だろうか。在来線よりも新幹線の方が風雨に対する影響が大きいのが当然ではないだろうか。
 在来線と新幹線が同じ基準で対処されていれば、風雨に対応してこんな逆転現象は起こらないはずだ。

 万一、風雨による事故が起こったらJRの信頼は一気に消えてしまう。
 だからと言って、風雨による運航見合わせは厳しければ厳しいほどよいとは限らない。

   最近、東海道線や湘南新宿線ではいろいろな理由で一時不通になることが多い。
 これによって乗客に生じる損失はかなりのものになっている。

 風雨による運航停止はこれまでの経験と科学的根拠で合理的に定めてほしい。
 加えて、運航見合わせのルールを乗客に公表してほしい。


2010年 下水道技術のメッセージ (51) 10月31日 「EICA20周年記念」

EICA(環境システム計測制御学会)の設立20周年記念研究発表会が10月28日に立命館大学で開かれました。 当日会場で配布された記念誌に、これからの下水道計測制御技術の動向を展望して以下のコメントを書き込みました。

1600字と少々多量ですが、お時間のある方はご一読願います。

EICA20周年記念誌
(財)下水道新技術推進機構
企画部長 中里 卓治(EICA副会長)

これからのEICA
(公害から環境問題へ)
EICA20年の業績は環境と計測制御を結びつけたことです。
EICAが設立されたころは公害問題が盛んで、加害者と被害者とが対立的になる時代でした。ところが、次に現れてきた環境問題では、発生源が不特定であったり、加害者と被害者が同一であったりし、公害問題とは似て非なるところがありました。
公害に比べて技術的にも社会的にも複雑であり解決が難しい環境問題をとらえて、環境問題の計測(見える化)と制御(負荷軽減)の面からの研究を目的にした学会を立ち上げた先見性に脱帽するものです。

(グローバル化とIT化)
では、設立20周年を迎えた今日、EICAの先見性とは何でしょうか。

現在、劇的に起こっていることはグローバル化とIT化です。
言い換えればグローバルな世界が気候変動という環境問題を介在して地域社会に密接に結びついている時代です。同時に、世界中の情報がインターネットによって結びついている時代です。この関係は世界各国の相互依存を強め、各種の情報が一瞬のうちに世界を駆け廻ることを意味しています。
その背景には、驚くべき情報通信コストの低減や個人の情報発信・収集能力の向上があります。最近では、クラウドコンピューティングに至る「ITの所有から使用へ」という流れの中で、世界に分散したユーザーがサーバを意識せずにサービスを受けることができる新世代に入りつつあります。

このような環境とITのトレンドの中でEICAに期待することは、IT化の深化への貢献です。
環境問題をIT化で解決するには工夫が必要です。たとえば、下水道では公共用水域を浄化しようとすると、多量の電力を必要とします。温暖化ガスの放出を抑制するには、IT技術を駆使して夜間電力の活用や規模のメリットを期待できる下水処理施設の統合化、管理運営の高度化が期待できる集中監視等を進めることです。

また発想を変えれば、汚水はできるだけ水質汚染源の近くで処理するという考えに立って、サテライト下水処理場のような小規模分散配置的汚水処理装置を街中に設置する必要が生まれるかもしれません。
すると、分散施設を統括管理するIT技術が必要となり、電力のスマートグリッドの考えを踏襲する汚水処理のスマートグリッド化も期待できます。
以上のような、監視制御の高度化や分散化の需要にはクラウドコンピューティングが適しています。

(未来プロジェクト) EICAのもう一つの社会的存在意義は、産学官技術者を束ねながら、水道、下水道、廃棄物、等の業種を対象として環境問題解決の道を探っていくことです。
最近では、若手技術者による「未来プロジェクト」を実現するなど、技術だけではなく、技術者に関わる意欲的な活動を5年間にわたって進めてきたEICAの実績は高く評価されております。
このプロジェクトは、関係者のゼミや合宿を通じて環境問題に取り組み、政策提言をしました。このようなEICAの人的ネットワークはこれまでの20年間の蓄積であり、何物にも代えがたい社会的機能と言えるでしょう。この部分をさらに伸ばしていただきたいと思います。

(おわりに)
近未来に起こることを予測するのは難しいことですが、あえて申し上げれば、下水処理の地球規模でのリモートメンテナンスや水道・下水道・廃棄物などの一元管理システム構築、エネルギーを必要としない下水処理場やエネルギーを生み出す下水処理場等が考えられます。
海外進出も直近の課題です。EICAに期待することは、これまでに蓄積してきた学会の経験を重視しながらも、今、起こっているグローバル化やIT化の動向の次に来るものを予測して、準備を進めていただきたいということです。時間が経てば未来は現在になります。EICAは小さな学会ですが大きな目標を掲げてチャレンジしていただきたいと思います。

                           以上


2010年 下水道技術のメッセージ (50) 10月23日 「下水道管理のノウハウ」

 水ビジネスの海外展開に関するニュースが飛び交っているが、最近、気になることがあった。

 それは、海外ビジネス展開に自治体のかかわり方が期待されているところだが、肝心の水道や下水道を管理している自治体に移転すべきノウハウがあるかどうかということである。

 先週、「自治体には下水道の管理や技術のノウハウはない」、と言い切る下水道関係者に出会いがくぜんとしたことが2度もあった。

 その一人は、「ポンプでくみ上げ空気を混ぜれば下水はきれいになる。原発や新幹線に比べて下水処理場にはノウハウはない」と話していた。
 もう一人は、「水道の漏水防止は日本の優れた技術というが、あれだけお金をかければ誰でもできる。ましてや、下水道には漏水防止に匹敵する固有の技術すらない」と話していた。

 その二人は続ける。ノウハウがなくても相手国は官尊民卑のところがあるから、企業の技術はそのままでは信用されない。そこに、自治体が行って日本の技術をユーザーとして評価すれば相手国の政府関係者は信用し、海外ビジネス展開は円滑にいく、というものだ。

 これらの話を聞いて、初めは自分の耳を疑ったが二人とも本気で自治体にはノウハウがないと信じ切っていた

 自治体の海外展開の役割は、下水道管理のノウハウや技術移転ではなく、国内企業の権威づけだけとも取られかねない発言であった。

 一体、ノウハウとは何だろう。

 下水処理場は24時間淡々と稼働していて、トラブルが起こらず、職員はルーチン作業のように監視勤務についている。
 ところが、監視勤務の意味は大きい。暇そうに見えるが、誤解してはいけない。
 待機労働というジャンルの仕事なのである。

 下水処理場が何事もなく安定運転している背景には、実は多くのノウハウがある。
 ・たとえば、何らかの理由でポンプや送風機が停止したら、すぐさま予備機が動き出すように万全の準備をしている。  ・たとえば、ポンプのエネルギーを節約するために、雨の降らない時期は汚水をため込んでポンプ井水位を高めにして運転をしている。
 ・たとえば、脱水機の高分子凝集剤は汚泥の性状を注意深く調べながら注入率が最小になるために最適の種類を選定するように毎日注意している。
 ・たとえば、汚泥焼却炉の損耗を防いで稼働率を上げるために焼却温度管理、脱水汚泥の含水率管理、N2O対策高温焼却と燃料の節約など、多岐にわたって現場ごとのノウハウが蓄積されている。

 さらに、いったん故障や事故が発生してプラントが定常状態から離れると、過去の経験や周辺システムと関係するノウハウが必要になり、職員は大忙しになる。

 ノウハウ蓄積の結果としてポンプの省エネ効果や高分注入率の極限的な低下、汚泥焼却炉稼働率の向上などが実現されている。
 一たび事故・故障が起きると、迅速に系列切り離し、予備装置始動、回復運転等を進めるとともに、不具合か所の修理、改善が始まる・

 このようなノウハウを駆使した現場の運転管理状況をお二人はご存じなのだろうか。


2010年 下水道技術のメッセージ (48) 10月9日 「志賀原発の責任」

10月1日のテレビ報道で「志賀原発」2号機が再開したということを知り、ギクッとしました。

 志賀原発2号機のタービンは、4年前に誌運転試験時に振動事故を起こして破壊し、長期間の修理をしていた。志賀原発の北陸電力は、この責任を発電機を製作した日立製作所にあるとして、昨年、200億円に上る損害賠償の民事訴訟を起こしました。

 4年前に起きた事故は、当時、技術的にも注目され、私も著書「下水道の考えるヒント」のp170に「タービンの破壊」というテーマでレポートを書いていました。

 その部分を引用しますと以下の通りです。

{タービンの破壊}
Eディフェンスの訪問からしばらくして、静岡県にある中部電力浜岡原発5号機と北陸電力志賀原発二号機の蒸気タービン羽根破損事故が新聞に報じられました。新聞記事によると、タービンを流れる蒸気の逆流が事故の引き金でした。

 電気事業法で定められた発電所の使用前検査の一つである緊急停止試験中に、供給蒸気を遮断することによって発生した蒸気の逆流現象によって、まずタービン羽根付け根の接合部近傍に小さなクラックが生じました。

 その後、低負荷運転時に異常振動が発生してクラックが成長し、検査後の定格運転時に脱落・破損してしまったとのことです。タービン羽根に大きな負荷のかかる過負荷運転時ではなくて回転数の小さい緊急停止中や低負荷運転中にクラックが生じ、異常振動が生じてしまったのです。

このような破壊プロセスを防ぐために他社のタービン羽根は鋼製のワイヤーで固定してあるとのことでした。
 ワイヤーはタービン羽根の強度を補強するだけでなく、ワイヤーでタービン羽根を縛ることによって固有振動数の変化を抑える効果も期待していたようです。

 残念ながら浜岡原発のタービン羽根にはこの措置が施されていませんでした。

 著書の引用は以上ですが、この件に関して、本を出版した後にある下水道の維持管理企業の責任者から、
 「このような事故で製作者の責任を問う訴訟などを起こすと日本の発電所に機器を納める国際企業はなくなる。世界のプラントビジネスの常識に反している」とおっしゃっていたのが強く印象に残っていました。

 詳しい経過は分かりませんが、問題は電気事業法使用前検査の段階では、すでに機器は電力会社に納められており、電力会社の責任で受験しているはずです。

 電力会社主導型の甲乙契約であったのでしょうか。

 4年前の事故を思い起こして改めて事故と契約の重みをかみしめました。


2010年 下水道技術のメッセージ (47) 9月26日 「霧の効用」

 いつも通っているゴルフ場は富士山の裾野にあり富士山が間近に見えるが、年に何回か濃い霧が発生する。

 このときはまるで雲の中にいるようで、ボールの行先が確認できないで苦労する。グリーンのハジ(端)からハジまで見通せないことすらあり、ほとほと苦労をする。
 そんな中で、ゴルフ場のキャディーさんは、打った瞬間のボールの方向と早さで着地点を素早く判断する。
 あるキャディーさんは、客がボールを打つときに耳を澄まして音を聞き分けている。ボールが芝生に落ちたか、木に当たったか、金網に当たったかを聞き分けているそうだ。
 もちろん、コースは熟知しており、ボールが無くなりそうな場所も心得ている。
 だから、視界の効かない霧の中、客が打つ方向も、的確に示してくれる。
 さすがである。

 しかし、ゴルフ場の客の大半は霧が出てくると予約をキャンセルして帰ってしまう。
 こんな日にゴルフをしなくても、天気の良い日にすればいい、というのがその理由だ。

 そして、天気のよいときは霧のことはすっかり忘れ、球筋やコースが見えることは当たり前としてしまう。

 その結果、晴れた日しか知らないから霧の日の苦労は知らないし無関心になってしまう。
 つまり、霧の時の苦労を経験しなければ、晴れた日が当たり前になり、晴れた日の本当の素晴らしさを実感しにくくなってしまう。

 ゴルフの基本は、「ありのままに打つ」ということで、これは天候にも言えそうだ。

 若いうちの苦労はおかねを払ってでもした方がいい、という話があるが、霧の日の苦労はゴルフの素晴らしさを引き出してくれそうだ。

 以上の話は、「霧」を「病気」や「災害」に置き換えると実感がこもる。


2010年 下水道技術のメッセージ (46) 9月24日 「有料機内食」

9月の初めにANA国内線で沖縄に行ったときに、国内線は飲み物のサービスがお茶とミネラルウオーターだけになっていることを知って愕然(がくぜん)とした。

 飛行機に乗るとコーヒーをいただき、備え付けの新聞を見るのが当たり前と思っていたが、どうも今年になってからこれらのサービスは廃止されたらしい。

 それならそれでいいだろう。機内で温かいコーヒーを用意するコストを、料金値下げにあてるというなら、乗客としては甘受すべきだ。コーヒーや新聞が欲しければ乗る前に自分で買ってくればいい。
 航空機と壮烈な競争を繰り広げている新幹線ではコーヒーは自分で買ってくる。

 そう思いながらも、おなかがすいたので機内で有料のハンバーガーを注文した。
 すると、しばらくして客室乗務員がコロッケハンバーガーを持ってきてくれた。
 ところが、料金1000円のコロッケハンバーガーはそれだけではなく、オニオンスープとグレープフルーツのデザートが付いていた。
 その上、食べきれないときにお持ち帰り用ということで、不織布製の小さなバックまで付いていた。

 これは驚きで、安い、と実感した。

 そこで、これが本当のサービスではないかとハンバーガーをいただきながら考えた。
 サービスの基本は、必要な人へ必要な時に必要なだけお届けするというものだ。

 コーヒーや新聞は、全員に平等な提供という配給、つまり供給サイドの論理が現れている。
 同時に、タダだからいただかなくては損であるというさもしい気持ちも見え隠れする。

 これに対して、有料制は金額の多寡(たか)にかかわらず、必要な人がお金を払って要求するサービスである。
 ANAはコーヒーや新聞を止めることによって得たコスト削減効果の一部をハンバーガーサービスにあてていて、割安なハンバーガーを提供しているのかもしれない。  または、ハンバーガーでも収支はとれていて、さらなる収益を上げているのかも知れない。
 いずれにしても、乗客が本当に満足するような環境を作ろうとした時は、既存の画一的なサービスを止めることもあるのかもしれない。

 最近、成田からマレーシアに5000円でいける格安航空会社が発足した。
 ANAもうかうかしてはいられない。
 今後の航空界は格安化の道を歩むのは間違いない。その時に、本当のサービスは何かが問われるだろう。  


2010年 下水道技術のメッセージ (45) 9月23日 「重油流入」

宮城県中南部下水道事務所が発行している中南部ニュースを見ていて、面白いことを見つけた。

 中南部ニュース平成18年10月号によると、宮城県南部のある工場で重油の流出事故が発生し、下水道に流出して重油は下水処理場まで到達した。
 このてんまつは、同ニュースによると以下のとおりである。

「 平成18 年4 月4 日20 時頃、県南部にあるT 社工場より重油の流出事故が発生しました。
 T社並びに地元自治体関係者が土のうを積み下水道への流出防止を図り除去作業を行ったが一部下水道へ流入し ました。」
 「県南浄化センターでは、沈砂池にオイルフェンスを張り、要所に吸着マットを使用するなど手作業の他に最初沈 殿池に設置されているスカムスキマー(浮上物除去装置)の活用、流入した重油をダンパー車(吸引車)で回収す ると共に高圧洗浄車による復旧に努めた結果、油分の活性汚泥への凝集性の影響に伴い処理水がわずかに懸濁した が、幸い大事には至りませんでした。」

 「再発防止策として防油堤の増設、不要な排水ピットの撤去(埋め戻し)、貯油タンクのレベル計及び警報の改修を 行ってもらいました。」
 「なお、平成17 年6 月の下水道法改正により、事故時の措置が創設され応急措置と下水道管理者への連絡が義務 づけられていることから、平成18 年6 月6 日に関連市町の担当者を対象に研修会を開催し、周知の徹底を図りま した。」

 以上の記事から読み取れることは、スカムスキマーが活躍して最初沈殿池で重油を捕捉できたことである。
 スカムスキマーは、沈殿池に採用される前はオイルスキマーと呼ばれて、水に浮かんだ油を回収する装置であった。
 そのスカムスキマーが、重油流入という事故に遭遇して最初沈殿池で本来の機能発揮したわけである。

 この場合に幸いしたのは、流出した工場や沈砂池で重油中和剤(処理剤、界面活性剤)が散布されなかったことである。  中和剤を撒くと重油はコロイド状になりへ水中に混濁して、一見除去されたようになるが、最初沈殿ン池を通過して反応タンクで大きな負荷となってしまう。

 もう一つの幸いは、流出が重油であったこと。これが軽油やカソリンであったら下水道管内で爆発を起こす可能性がある。
 下水道管内で引火物が爆発した例はまれだが、過去に中米で下水道管が大爆発があったことが報告されている。  


2010年 下水道技術のメッセージ (44) 9月21日 「超高齢化社会の目指すもの」

日本は、世界史的に類を見ない超高齢化社会を迎えている。

 とりわけ、日本の超高齢化社会は、極めて短時間に高齢化が進んでいることに問題がある。

 同じ関係は、地球温暖化にもある。
 最近は温暖化の影響なのかゲリラ豪雨の被害が頻発している半面、北海道でおいしお米がとれるようになったし、なぜか台風の日本上陸も少なくなった。  これは温暖化の良いほうの効果だろうか。
 そもそも、地球史的にみれば現在の地球は小氷河期に向かっているという。
 したがって、十分時間をかければ温暖化はバランスがとれて好ましいことになる。しかし、CO2の増加で温暖化が急激に進んでいるので弊害が頻発している。

 最近の円高も同じ現象がある。
 円高自身は円の価値が上がることだから日本経済にとって好ましいことである。
 原油や海外の製品が安く買えるのだから国は豊かになるはずである。
 しかし、急激な円高は輸出産業の競争力を弱め、産業構造の変化が追い付かず日本経済に決定的な打撃を与えてしまう危険がある。

 以上の関係からみると、超高齢化社会も急激な進行は社会の不適応を招き、国力の衰退を招く。
 しかし、十分時間をかけられるとすると超高齢化の利点もあるのではないだろうか。
 では、その利点とは何だろうか。

 このような疑問を感じているとき、ある介護士の人から目からうろこが落ちる話を聞いた。

 私は、「年をとると高齢者は子供に還る」と信じていた。しかし、その介護士によると、このような認識は介護士の世界では厳禁だそうである。
 人は経験や知識、誇りや熱意があった壮年期を経て高齢者になるのだから、高齢者になって体力や記憶力等が衰えてきても、それだけで子供に還るのではない、ということだそうである。
 したがって、どんなに体が動かなくなっても尊厳や誇りを尊重しないと介護士と高齢者との間に齟齬が生じるという。この関係は、「頑固な老人」の一言では片づけられない真理が潜んでいるような気がする。

 つまり、超高齢化社会は尊厳のある社会、誇りのある社会に急速に近づくということではないだろうか。
 若者であふれている新興国にはない文化や流行、センスや粋等の無形価値を標榜する超文化社会に近づくということではないだろうか。

 超文化社会は高度経済成長の社会ではない。見えないところに価値を見出し、長い目で見るとなるほどと思える味のある製品を生み出し、心の安らぎを見出せる社会ではないだろうか。
 新興国の効率的な国家運営に対して、味のある社会を実現し、新興国が目指せる社会を作ることが日本の生き残り戦略であり、日本の役割である。このキーワードが超高齢化社会到来である、という論理である。

 姥捨て山のような切り捨ての発想ではなく、日本の高齢者でなければ持ちえない長年蓄積した経験や知識を文化に高め、日本の未来を託すことはできないだろうか。  日本では、かって、豊かな社会は経済的に豊かな社会と勘違いしていた時代があった。
 超高齢化社会は超文化社会、本当の豊かな社会、高度経済成長を遂げた国が次に目指す社会になれる、ということである。  


2010年 下水道技術のメッセージ (43) 9月10日 「七角形の箸」

(ANA機内誌にあった五角形と七角形の箸)

日常、何気なく使っている箸にもさまざまなバリエーションがある。 ANAの機内誌2010年9月号をながめていたら、「奇数の面が持ちやすい」というキャッチフレーズで箸の大きな写真が写っているページが目に入った。

 思わず記事に引き込まれてしまった。以下、そのコピーの一部。

 「竹田さんの箸は今、生活の質にこだわる人々に強く支持されている。ポイントは箸の断面形状。四角形、五画形、六角形、七画形、八角形とある中でも、奇数(五角形と七角形)の箸は3本の指が面にしっくりと収まりやすく、実に使いやすい。愛用者からは「料理がおいしく感じられる」という声も届く。もともと四角い断面の材料から削り出すため、特に七角形の成形は至難の業といえ、工芸的な価値も高い。」

 なるほど、と思ったが、その後、東京駅の地下広場で、別の店の箸売り場に出くわし、おもわず売り場をのぞいてみると、六角形の箸が置いてあった。
 そこで、店員に「なぜ六角形なのか」ときいてみると、
「箸を持つ指の形は鉛筆を持つ指の形と同じで三角形です。だから3の倍数が持ちやすいのです。」
「でも三角形は粗すぎるし九角形は丸に近くなってしまいます。」
「鉛筆も六角形でできています。」
 と教えてくれた。

 そこでハタと困った。
 箸は六角形がよいのか七角形がよいのか分からなくなってしまった。

 機内誌のほうは、至難の技を織り込ませて七角形の箸を作っている。こちらはおそらく貴重価値を強調しているのだろう。料理がおいしくいただけるというのは、高価な茶碗やお皿で料理をいただく行為に通じる。

 それに対して東京駅の箸は、作りやすさと持ちやすさの均衡を図っているのだろう。鉛筆が六角形なのは、丸より滑らないので使いやすいという機能の面と、四角の部材から作りやすいという製造コストの面がある。

 おそらく、機能上は六角形と七角形との大きな違いはないだろう。そこには、箸の目的を高級志向におくか、総合性能におくかの違いだけがあるのだろう。

 このような差別化のマーケッティングはゴルフのクラブや乗用車などによく見られる。

 ちなみに、機内誌の七角形の箸は一膳8,400円、東京駅の六角形は2,600円であった。  


2010年 下水道技術のメッセージ (42) 9月8日 「ゲリラ豪雨」

今年の夏は晴天が続き、ゲリラ豪雨の話題が少なくなったが、局地的な豪雨の懸念が無くなったわけではない。

ゲリラ豪雨は予測困難な状態で局地的に発生する内水浸水被害を引き起こす。

ゲリラ豪雨は、最近の温暖化で現れた新たな現象とも言われているが、もしかすると豪雨の観測精度が正確になった結果として新たに認識された現象ともいえる。
おそらく両者の複合したものである。

ゲリラ豪雨による浸水被害は、東京では山の手の起伏のある地形で起こりやすい。わずかでも地形に起伏があると、低地に雨水が集中して浸水被害が集中する。

これに対して、東京では江東デルタ地帯など低地では、なぜかゲリラ豪雨による被害が発生しにくい。これは、局地的に降る豪雨が山の手のように地形による表流水の低地への集中という現象が現れず、広い地域に分散してしまうことによる可能性がある。
もちろん、江東ゼロメートル地帯は、過去に恒常的な浸水で悩まされ、堤防の構築や雨水排水ポンプの建設などを務めた結果でもある。

 以上の議論は、ベトナム・ハノイやホーチミンなどの雨水排水に参考になるものである。
 ベトナムのメコンデルタの諸都市では、フラットな平地にメガシティが拡大しており、恒常的な浸水に悩まされている。
 同じアジアモンスーンに位置する日本の技術がお役に立つかもしれない。

 


2010年 下水道技術のメッセージ (40) 8月21日 「インフラ輸出」

8月19日の日経朝刊第1面に、「インフラ輸出、水・空港など9事業東南アジア向け」という記事が載った。

内容は、JICA(国際協力機構)が4月に行ったPPP公募などの途中経過報告風であったが、ここまで書くと、ほぼ決定との印象が強い。

 この中で、上下水道関連はマレーシアの上下水道事業支援、インドネシアの再生水利用の2点であった。

 マレーシアの案件は、新聞記事では住友商事と東京水道サービス等、と記載してあったが、これには東京都下水道サービスも加わっている。
 インドネシアの案件は記事にもあるようにメタウオーター等が参加する。

  いずれも景気のよい話だが、海外市場は意外と小さい。あのベオリアでさえ、事業の四分の三はフランス国内で行い、しっかりと脇を締めたうえで海外展開を行っている。

 日本はODAで資金提供して東南アジアのインフラ整備にまい進しているが、その資金を目指して日本企業が動き出したという構図である。これに民間資金をどう関係づけていくかがカギだろう。

 PPPでは、民間資金の投資と回収になるので、料金制度の整備や安定した経済成長など、リスク軽減の条件が多い。  ODAが変化し、政府レベルでのリスク軽減策などに進化していくことが期待される。
 これが、国内の下水道事業に良い影響を与えることが理想形だろう。

 何よりも、国内がダメだから海外でひと勝負という企業の経営姿勢ではいけない。海外展開で国内事業も活性化、という図式が理想形である。

 今後も続々と新たな案件が日の目を浴びることを期待する。


2010年 下水道技術のメッセージ (39) 8月16日 「田上菊舎」

広島に住む友人から江戸時代の女流俳人・田上菊舎の話を聞いた。

 長門には大正女流詩人の田中みすず(仙崎)がいたが、もう一人すごい女性(下関)がいた。

 田上菊舎は江戸時代1753年長門国長府生まれの女性で芭蕉に心酔し、一人で奥の細道を芭蕉とは逆のルートで4年の歳月をかけて北陸、信濃、陸奥を踏破した。
 さらに、生涯に日本縦断を何回もして、多くの作品を残した。

 田上菊舎が現代に語られている理由は、その自由な精神と豊富な俳句にある。
 今から300年近く昔のせつな的な感性を、俳句という17文字で残すことにより当時の情景や心象が現代によみがえってくる。

 江戸時代にこんな人生の贅沢があったとは、大きな驚きであった。


2010年 下水道技術のメッセージ (39) 8月16日 「田上菊舎」

広島に住む友人から江戸時代の女流俳人・田上菊舎の話を聞いた。

 長門には大正女流詩人の田中みすず(仙崎)がいたが、もう一人すごい女性(下関)がいた。

 田上菊舎は江戸時代1753年長門国長府生まれの女性で芭蕉に心酔し、一人で奥の細道を芭蕉とは逆のルートで4年の歳月をかけて北陸、信濃、陸奥を踏破した。
 さらに、生涯に日本縦断を何回もして、多くの作品を残した。

 田上菊舎が現代に語られている理由は、その自由な精神と豊富な俳句にある。
 今から300年近く昔のせつな的な感性を、俳句という17文字で残すことにより当時の情景や心象が現代によみがえってくる。

 江戸時代にこんな人生の贅沢があったとは、大きな驚きであった。


2010年 下水道技術のメッセージ (39) 8月16日 「田上菊舎」

広島に住む友人から江戸時代の女流俳人・田上菊舎の話を聞いた。

 長門には大正女流詩人の田中みすず(仙崎)がいたが、もう一人すごい女性(下関)がいた。

 田上菊舎は江戸時代1753年長門国長府生まれの女性で芭蕉に心酔し、一人で奥の細道を芭蕉とは逆のルートで4年の歳月をかけて北陸、信濃、陸奥を踏破した。
 さらに、生涯に日本縦断を何回もして、多くの作品を残した。

 田上菊舎が現代に語られている理由は、その自由な精神と豊富な俳句にある。
 今から300年近く昔のせつな的な感性を、俳句という17文字で残すことにより当時の情景や心象が現代によみがえってくる。

 江戸時代にこんな人生の贅沢があったとは、大きな驚きであった。


2010年 下水道技術のメッセージ (38) 8月15日 「韓国の実力」

下水道展名古屋の参加者が75,000人を超え、盛況に終わった。

 この中で、下水道のエンドユーザーである地方自治体関係者が6.9%弱、4714人を占めているが、いかにも少ないと言わざるを得ない。  これに対して外国人は0.9%、599人であるが、韓国人が外国人の約80%、439人を占めていることは驚きである。

 地方自治体関係者の10%近くが韓国人と言うから、その力の入れようが見て取れる。

 韓国は、国内的には下水道普及率は日本の普及率72%を上回っており、下水道も自動車や造船、鉄鋼、さらには家電、半導体と同じように海外展開を志向している。

 また、海外進出法など、海外展開の制度も整備されており、特定の国へ進出する場合には韓国国内の1社だけを指名する制度や、海外進出した企業がミスをして相手国から契約を打ち切られた場合には、韓国企業の責任者に対して懲役刑を科する法律などもある。  小規模ながら、JICAに相当するKICAという海外援助の組織も機能し始めている。
 韓国はアメとムチのルールを整えて、海外進出を促進している。

 下水道展への韓国技術者の力の入れようは、以上のような韓国国内の事情があるので、日本技術者も昔は欧米の展示会で海外の技術を調べていたのだから、今度は韓国に技術を提供してもいい、などとゆうちょうなことを言ってはいられない状況にある。

 むしろ、韓国の下水道の海外展開については日本が学ぶところが多い。意思決定の速さや新技術への意欲、官民一体の組織、そして市場の狭さに対する危機感など、どれも日本が欠けていることばかりである。

 相手の利点を認め、相互に交流することにより本当の連携が生まれる。



2010年 下水道技術のメッセージ (37) 8月7日 「新幹線」

先週の国会予算委員会で次のような質問があった。

 米国やインド、ベトナムで高速鉄道の国際入札が始まろうとしている。

 ここでの日本の新幹線に対するライバルはTGV(フランス)やICE(西ドイツ)のヨーロッパ勢だが、このヨーロッパ勢が、国際競争を優位に立つために高速鉄道の標準化を仕掛け始めているらしい。

 その論理は、ヨーロッパ勢の高速鉄道は従来路線を走れる。そのため、対衝突性能が格段に優れているというものだ。
 これに対して、新幹線は専用路線を走っており路線にコストがかかるうえに、薄い車体で対衝突性能が紙のように弱いというものだ。

 ときどき衝突事故や脱線事故を起こしてきたヨーロッパ勢の高速鉄道は、否が応でも強い車体を作らざるを得ない。それは、高速鉄道の要素技術でもシステム技術でも新幹線よりも劣っているからである。
 新幹線が従来の在来線車両と同じように車体の下に車輪を配置しているのに対し、ヨーロッパ勢は車両間に車輪を配置するなどの高速安定化を図っているが、新幹線の運用技術や安全管理技術は群を抜いている。

 だから、ヨーロッパ勢は強い車体を前提とした標準化に傾注し、高速鉄道のイニシアティブを獲得しようとしている。

 技術が技術マネジメントに支配される時代であるので、標準化への対応は待ったなしである。



2010年 下水道技術のメッセージ (36) 8月2日 「中国JICA研修」

7月29日は、名古屋駅の近くにあるJICA中部オフィスで、下水道展に併せて中国JICA研修があった。

 ここで、GCUS海外ビジネス展開共同研究グループの各企業が中国の技術者に対する研修を行った。

 日本の下水道技術を理解するのに、企業の存在が無視できない。企業がつちかってきたノウハウや製品ラインアップなど、実際に下水道事業を進めるにあたっては関係企業の連携が欠かせない。

 中国の下水道整備においても、本邦企業の貢献は期待されるところである。

 このような視点で中国JICA研修が行われた。

 参加企業は、エバラエンジニアリングサービス、クボタ、日立プラントテクノロジ、メタウオーター、月島、の5社でそれぞれの得意技術を30分ずつ講義した。

 中国技術者の日本企業技術に対する関心は高く、たくさんの質問が寄せられて活発な意見が交換された。

 特に、日立プラントは同社の中国技術者社員が発表したので、包括固定担体等の質問に通訳を介することなく円滑に質疑が行われた。
 エバラには汚泥処理の質問、クボタにはMBRの質問、メタウオーターには炭化炉の質問、月島には汚泥乾燥の質問など、汚泥処理に関する質問が相次いだ。

 8月3日には、GCUS海外ビジネス展開共同研究グループの別の5社が同じ中国技術者研修生に講義を行う。

 このような企業の研修が、いずれ中国の新技術導入に貢献し、本邦企業の中国進出機会につながることを望む。



2010年 下水道技術のメッセージ (35) 7月29日 「アジアセッション」

名古屋で第47回下水道研究発表会が開かれている。

 7月28日午前には、アジアセッションということで韓国、中国、台湾、ベトナムの各国の下水道協会関係者(会長級)がそれぞれの国の下水道の状況や新技術の導入状況を報告した。

 内容は、いずれ下水道協会誌に掲載されると思うが、アジアセッション会場では面白いことが起こった。

 会場に入ると机の上に同時通訳のレシーバーが置いてあった。そして、同時通訳の内容は、日本語、韓国語、中国語、ベトナム語の4カ国語であった。

 通常は、このような会議では英語の同時通訳が当たり前であるが、英語がなくアジア各国の言語でセッションを進めていたのには、一種の驚きを感じた。

 アジアの下水道はアジアの各国で解決していくというメッセージが込められていて、心強かった。



2010年 下水道技術のメッセージ (34) 7月26日 「セラミック膜」

7月1日に明電舎からセラミック平膜をシンガポールの公益事業省PUBと共同研究する覚書を結んだとの報道発表がなされた。
 PUBは、これまでも水技術開発のハブ化をめざして活発な活動を続けており、NEDOや 東レ等が共同研究の覚書を交わしている。

 明電舎がセラミック平膜を開発するとは意外に思われる向きも多いと思うが、実は、明電舎はセラミック製避雷器を昔から社内で製造しており、セラミック技術は内製化している。

 MBRへの利用を想定しているようであるが、セラミック製だから強度があり有機膜より高い圧力を加えてフラックスを増加させることができるので有機膜より有利である。
 また、セラミック製だから逆洗時にも高い圧力をかけたり、細かいブラシで汚れを物理的に洗い落とすこともできる。



2010年 下水道技術のメッセージ (33) 7月20日 「正義の話」

海の日、7月19日の連休に、「これから正義の話をしよう」早川書房という硬派の単行本を読んだ。

 内容は政治哲学の話で、ベンサムの「最大多数の最大幸福」から始まり、カントの「純粋実践理性」に至る思考の遍歴を現代の事象を交えて分かりやすく解説している。
 米国の大学での講義録を出版したものである。

 その中で、面白い事例があった。
 プロゴルファーのケイシー・マーティンの話である。
 マーティンは優れたプロゴルファーだが片足に障害があり、コースを歩くのに大変苦労していた。

 そこで全米プロゴルフ協会に電動カートを使うことを申請したが、協会からは断られた。
 マーティンは、この判断を不服とし、裁判に訴えた。

 結局、裁判は連邦最高裁判所まで争われた。
 協会の主張は、コースを歩くことで疲労することもゴルフの一部ということであった。この主張は、アーノルド・パーマーやジャック・ニコラウスの主張でもあった。

 マーティンの主張は、米国障害者法に基づき「活動」の本質を変えない範囲で障害を持つ人に妥当な便宜を図る、というものであった。

 結局、最高裁はコースを歩くのに必要とするカロリーがわずか500カロリー(本文では500カロリーと書いてあったが500キロカロリーの間違え)で疲労するほどの運動量ではないことを理由に、マーティンに電動カートを使うことを認めたのである。

 ここでは、ゴルフの本質とは何か、ということが問われた。協会側は歩くこともゴルフの一部と主張し、マーティンはそうではないと主張した。

 この事例は、「本質」の重要性を伝えるためのものであった。「ゴルフの本質」が分かればゴルフの問題が解決できる、ということである。
 いつも、目的は何か、本質は何かと考えることの大切さを示している。



2010年 下水道技術のメッセージ (32) 7月12日 「フリー」

妹尾先生のセミナーの中で、知財マネジメントの必読書の紹介があった。
もちろん、先生の著書「技術で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」が第一だが、「フリー」という本も紹介された。

 そこで早速「フリー」を読んでみた。

 フリーとはタダ、無料のこと。無料がマーケットを拡大するという話であった。
 一般的には商品やサービスをフリーにしたら収入が無くなるので事業は成り立たないと思うが、実はIT化の中でフリーにすると事業が拡大する事例がいくつもある。

 これまでのフリーは、フリーのふりをしていることが多かった。たとえば、居酒屋のセールスでは7時までは 生ビールがタダ、というキャッチフレーズで客を誘うことがあるが、実は店としては7時以降に客がそのまま居続けて売り上げが上がることを期待している。

   ところが、この本によると本当のフリーは居酒屋のケースとは根本的に違うそうである。
 たとえば、海賊版CDで困ったプロダクションが逆に、ユーチューブで曲を無料公開し、CDの売り上げは断念したが多くの人が曲を知る機会が増えて興業の方で収益が上がったそうである。
 新聞でも、Webで全面的に記事を公開しているニューヨークタイムズ紙は広告収入が増えた。読者がお金を出して新聞を買うという行為から、購読料をフリーにして多くの読者をWeb新聞で囲い込み、バナー広告で収入を確保するという事業形態に変化しつつある。

 このタイプの事業の最先端はGoogleだ。無料検索システムを世界中に配置して、そこから得られたGoogleユーザーのプロファイルをデーターベース化し、バナー広告を高付加価値化して広告主に販売する。
  バナー広告は、ユーザーが無料検索システムを利用するたびにユーザーの興味の範囲を探り出して、興味に関するバナー広告をユーザーに送り届けるような精緻なシステムが稼働しているらしい。
 これは無料検索システムがなければ成り立たない。
 その結果、莫大な広告料収入が得られている。

 「フリー」の著者は、インターンネットに乗った情報はフリー化すると見抜いている。情報は無料化するが、新しい価値形成が進み、事業機会が現れると言っている。

 妹尾先生のセミナーでは、製品開発から事業展開に向かうときに現れる「死の海」を乗り越えるのに技術のオープン化が必要であることを示された。フリーはもう一つのオープン化であると感じた。



2010年 下水道技術のメッセージ (29) 6月22日 「ワールドカップ」

日本とオランダのワールドカップは釘づけになった。
 どちらも、これに勝てば決勝トーナメント出場が決まる大事なゲームであった。


 しかし、試合内容は圧倒的にオランダが優位を保っていた。横綱に胸を借りる前頭のような試合だった。
 前半、日本は守備に徹底して失点を防ぎ、すきあればカウンター攻撃を試みたが、オランダのゴールを脅かす場面はほとんどなかった。

 後半が始まると、オランダは戦法を変えて攻撃力を強めてきた。これに日本は対応できず守備ゾーンを崩し、簡単にゴールされてしまった。

 ところが、翌日のテレビのニュースでは日本の善戦が高く評価されていた。ほとんどのテレビ局で、もう少しで引き分けにできるところであった、という論調が主流であった。

 日本の善戦は視聴者の強く望むところである。でも、昔の大本営発表のように、日本に都合のよい解釈ではないのだろうか。
 「こうあってほしい」ということと「こうだった」、ということは大きな違いがある。

   たかがスポーツではあるが、耳触りのよい部分だけを取り上げてニュースを送り続けることはいかがなことかと考える。
 これが政治や経済の世界に広がったら大変なことになる。



2010年 下水道技術のメッセージ (30) 6月28日 「時間の流れ」

中川恵一著「死を忘れた日本人」によると、時間の流れは、年代とともに早くなるという。

 これはゾウの時間とネズミの時間の流れ方と似ている。
 ゾウもネズミも一生のうちに心臓が打つ心拍数は15億回程度で同じだそうだ。
 しかし、ゾウは人間と同じく50年も60年も生きられる。
 それに対してネズミはわずか1年前後しか生きられない。だから心拍数はネズミはゾウの数10倍も早い。

 新陳代謝についても、ネズミは早くゾウは遅い。
 生物の寿命を定める細胞分裂の回数も、どの生物もほぼ50回で一定である。

 ゾウにとって、心拍数や新陳代謝が遅くなるのに対して、時間の流れは早くなる。早くならなければ60年も生きていて生物的なプロセスと寿命との帳尻が合わなくなる。

 人の場合は、ゾウを高齢者、ネズミを幼児に置き換えると分かりやすい。
小さい頃は時間はゆっくりと過ぎ、年をとると早く過ぎる。
早く過ぎる時間を、大切に使いたいものだ。



2010年 下水道技術のメッセージ (29) 6月22日 「ワールドカップ」

日本とオランダのワールドカップは釘づけになった。
 どちらも、これに勝てば決勝トーナメント出場が決まる大事なゲームであった。


 しかし、試合内容は圧倒的にオランダが優位を保っていた。横綱に胸を借りる前頭のような試合だった。
 前半、日本は守備に徹底して失点を防ぎ、すきあればカウンター攻撃を試みたが、オランダのゴールを脅かす場面はほとんどなかった。

 後半が始まると、オランダは戦法を変えて攻撃力を強めてきた。これに日本は対応できず守備ゾーンを崩し、簡単にゴールされてしまった。

 ところが、翌日のテレビのニュースでは日本の善戦が高く評価されていた。ほとんどのテレビ局で、もう少しで引き分けにできるところであった、という論調が主流であった。

 日本の善戦は視聴者の強く望むところである。でも、昔の大本営発表のように、日本に都合のよい解釈ではないのだろうか。
 「こうあってほしい」ということと「こうだった」、ということは大きな違いがある。

   たかがスポーツではあるが、耳触りのよい部分だけを取り上げてニュースを送り続けることはいかがなことかと考える。
 これが政治や経済の世界に広がったら大変なことになる。



2010年 下水道技術のメッセージ (27) 6月7日 「ステンレスボトル」

 三菱総合研究所の小宮山宏理事長の著書「低炭素社会」幻冬舎新書には、プラスチックは一般的に再生に不適であり、サーマルリサイクルが低炭素社会に最適な方法である、としている。

 つまり、ポリエチレンや塩化ビニルは、再利用しようとすると石油から作るよりエネルギーを多く必要とするらしい。これは、ポリエチレンや塩化ビニルの製法が比較的シンプルだからである。

 これに対して、ペットボトルに使われるPET樹脂(ポリエステルの一種)は製造工程が複雑なので、再生しても割に合う。  日本で回収された大量の使用済みペットボトル容器が買い取り価格の高い中国に輸出されて問題になったこともあった。
 しかし、ポリエチレンや塩化ビニルにこの手の問題は起こらない。それは、使用済みポリエチレンや塩ビに商品価値がないからである。

 ところが、何を間違ったか使用済み塩ビパイプを再利用するための塩ビ再生管が日本の市場に出回っている。リサイクルという面ではよくても、経済性という面では問題があると言わざるを得ない。このような製品は継続できないだろう。
 小宮山理事長は、塩ビやポリエチレンはサーマルリサイクルが一番だと主張している。

   個人的には、これまで職場で毎朝ボトル水を買って飲んでいた。指定銘柄はサントリーの「天然水」。確かに水道水よりもまろやかで。花崗岩の味がする。
 しかし、飲み終えて空のペットボトルをごみ箱に投げ入れるときに「まだ使えるきれいな容器をこんなにも簡単に捨てていいのか」というある種の罪悪感を感じていた。

 そこで、最近、ネットで象印のステンレスボトルが売れているのを知り、早速購入してみた。
 ステンレスボトルは、真空層をサンドイッチにした二重のステンレス容器であり、魔法瓶のような保温機能も備えている。真空層は最新の技術革新でわずか1mmにまで薄くされている。重量も500mlの容器ではわずか0.25kgだから魔法瓶のイメージを払しょくしている。

 その上、ステンレス製だから最後はリサイクルが可能である。

試しに、朝、お茶に氷を入れてゴルフ場に持って行ってみたら、昼ごろまで氷が残っていた。これならば、冬はコースでも暖かいお茶がいただけるだろう。

 このような使い捨てからの回帰が進んでいくと、街の自動販売機が変貌する可能性がある。自動販売機不要というトレンドが進むかもしれないし、自動販売機が中身をステンレスボトルに飲み物を注入する役割に変わっていくかもしれない。

 このさきがけはスターバックスのマイボトルの動きだ。自分のボトルを持ち込んで、コーヒーを入れてもらう「通」の消費者スタイルが広がっている。
 ボトル水が売れている理由の一つに、ブランド力、見かけの良さがある。ステンレスボトルが広く普及するには、この感覚も不可欠だろう。

これにステンレスボトルが呼応する可能性がある。

 日本がステンレス真空断熱容器という技術に即した低炭素ライフスタイルを世界に広められたら素晴らしい。
 低炭素社会の実現は生活のさまざまな面を見直す必要がある。



2010年 下水道技術のメッセージ (26) 5月29日 「汐留ポンプ所」

建設経済研究所の発表会を聴講するため、JR新橋駅から汐留シオサイトの高層ビルを右手に眺めながら浜松町方面に歩き、朝日新聞社本社の方面に曲がったところで、小さな汐留ポンプ所の前に出た。

(小さな汐留ポンプ所、電光掲示板は入り口看板の上にある赤い文字)

 このポンプ所は、10年くらい前に著者が都庁勤務で担当していた地域の中にあって、何度も訪れた思い出の場所である。
 このポンプ所には、入口の看板の上に写真のように赤い文字の電光掲示板が付いている。
 この掲示板は、通常は下水のキャッチフレーズを表示しているが、いったん雨が降るとポンプの稼働状況を掲示して外部にポンプ所の運転状況をリアルタイムでお知らせすることになっている。
 つまり、ポンプ所の付近の方に、ポンプ所内のポンプ稼働状況を示して、ポンプ所の役割を認識していただこうというものであった。

 10年前の当時は、まだシオサイトは建設中で、たまたま江戸時代の遺跡が発掘されて、高層ビルの工事が遅延していた。

 あらためてシオサイトの巨大な高層ビル群と小さな汐留ポンプ所を見比べて、よくこんな小さなポンプ所で多量な汚水に対応できるたな、と改めて感心した。

 このとき、合流式下水道の改善、合流改善、という言葉があり、合流式下水道は欠点ばかり指摘されているが、実は合流式下水道には、都市化の進展に対して大きな包容力をもっていることに気がついた。

 合流式下水道は汚水に加えて時間降雨量数ミリの雨水も下水処理場に送るため、汚水量に比べてかなり大きな口径の下水管が設置されている。
 これが幸いして、予想を超えた高層ビル群ができてもほとんどの場合には、とりあえず既設の下水管で汚水を収集することができる。

 下水管に関連するポンプ所の汚水ポンプ能力も似た考えになる。

 東京都には何か所も大規模再開発地区があり、マンションやオフィス用の巨大なビル群が出現してきたが、合流式下水道のおかげで、下水道幹線の汚水能力向上工事はめったに出ない。
 あまり話題にはなっていないが、まさに、先輩たちが作った下水道インフラが」しっかりと機能してきた。

    この掲示板を設置した時、ちょうどこの地域を担当していたので、電光掲示板の文字がやけに懐かしかった。



2010年 下水道技術のメッセージ (25) 5月23日 「土のうと浸水」

 5月21日に国立新美術館を訪れた。

 その帰り道に、地下鉄六本木の駅の近くで気になる商品を見つけた。
(六本木にあった金物店の土のう袋、1200円)

 六本木には場違いな金物店があったが、その店先の目立つ所にビニール製の土のう袋が売られていた。
 金物店の意図は、六本木に多数ある地下の飲食店用の土のうに違いない。

 そもそも、六本木の地域は起伏の激しいところで、ひとたび豪雨があると雨は低いところをめがけて濁流のように流れ出す。  その時に低地にあるビルの地下室は道路に面した階段から雨水が流れ込んで水没してしまう。

 これを防ぐには土のうしかないということだ。

 この関係は昨日や今日に始まったわけでなく、何十年も前から起こっている。下水道事業は浸水を防ぐためにバイパス管の設置や下水道管の増径などに努めているがあらゆる降雨に対応するのは限度がある。

 そこで自衛の土のうが毎年この時期になると販売されるということになる。

 ところで、土のうというからには袋には土を詰め込まなければならない。しかし、六本木では簡単には土は見当たらない。はたしてどうするのだろうか。

 推測するに、写真の土のう袋はビニール製であったが、水を詰めるというアイディアをどこかで聞いたことがある。水ならば都心でも簡単に手に入り、廃棄する時も簡単だ。問題は土のうを積んだときに水圧で流されてしまうことだ。ビールケースに重いものを入れたようなもので、水入り土のうを抑える必要がありそうだ。



2010年 下水道技術のメッセージ (24) 5月18日 「平城京遷都1300年祭」

平城京遷都1300年祭があるというので奈良に行ってきた。

 平城京遷都1300年に興味を持った理由は二つ。
 一つは、昨年失敗に終わった横浜開港祭との対比である。こちらは予想を大きく下回る参加者となり、チケットが売れずに見事に失敗して市長はやめてしまった。
 もう一つは、昨年12月にベトナム・ハノイを訪れたとき、ハノイではハノイ・タンロン開都1000年祭を始めるところであった。タンロンはハノイの昔の名前で奈良と平城京の関係に当たり、2010年が1000年目になるという。
 偶然にも、ハノイと奈良が当時の唐の周辺国で、同じような都市づくりをしていた。

 奈良に行ってみて最初に感じたのが、失敗しない運営であった。平城京遷都1300年のイベントは基本的に無料で参加できる。 イベントの中心は文化庁が復元して建造した大極殿だが、10年の歳月をかけて本格的に当時の政治の中枢を再現した。
 大きな大極殿の中には天皇の座る玉座があり、まるで巨大なお神輿の様相を呈している。
 京都や奈良に行くと神社仏閣に入るときに拝観料がかかるが、この大極殿は無料であった。

   二つ目は広大な会場はまるで公園風だ。
 会場入り口から大極殿までは基本的に30分くらい歩いていくことになる。この間に、参加者は汗を出し、心を弾ませ、平城京のことを考える。お金をかけないで参加者を平城京へいざなう。
 すると、遠くに見えていた大極殿がだんだん近づいてくる。憎い演出である。

 三つ目は、それに、そもそもお金をかけていないし参加者もお金がかからない。間伐材で作ったレストハウスや案内所が何か所かにあったが、ここも簡素なつくりであった。会場には、食事を出すコーナーは1か所しかなく、家族連れがベンチでお弁当を食べている光景がそこらで目に入った。
 これは公園の発想である。

 最後に、会場と奈良市内を結ぶ無料シャトルバスは市が負担している。バス代の分は市内観光で落としてもらうという戦略が見えてくる。会場のスタッフもほとんどがボランティアで、高齢者が多い。みな、生き生きと働いている。こちらは、奈良特有のことではないが。

 奈良の枕詞、「あおによし」の「あおに」とは青丹のことで、「青」は現在の「緑」、「丹」は「赤」のことらしい。
 大極殿の壁や柱の赤と公園の木々の緑がマッチした一日であった。



2010年 下水道技術のメッセージ (23) 5月13日 「技術の伝承」

日本の日立や東芝が原発の国際入札でアラブ首長国連邦やベトナムで相次いで敗退した。
敗因は相手のロシアや韓国が国を挙げて対応しているのに、日本勢は企業の枠を超えられなかったこととされている。

 ところで、日本が原発を海外で建設しようとするのは、単にプラント輸出の売り上げを上げるだけではない。
 原発は日本国内ではほとんどいきわたり、新規需要がない状況になってきている。
 このままいくと、日本の優れた原発技術や人材、工場が無くなってしまう。需要がなければ数年もすると技術は風化してしまう。  しかし、国内に多数稼働している原発はいずれ老朽化して再建する時代が来るが、そのときには技術や人材、工場が無くなっているといかんともできなくなってしまう。技術の伝承の重さがここにある。

 これと同じ関係が下水処理場にもある。現在、下水処理場は国内ではいきわたり、大規模な下水処理場や下水道幹線は当分、建設予定がほとんどない状態にある。
 しかし、下水道幹線、下水処理場もいずれは再建の時代を迎える。このときに下水処理場を再建する技術や人材、工場が国内になくなると、韓国や中国の企業に建設を依頼することになる。

 公共事業の海外展開はいろいろと含みがある。



2010年 下水道技術のメッセージ (22) 5月9日 「多いものが生き残る」

ブルーレィディスク(BD)とHDDVDは標準化をめぐる6年間の激烈な競争を経てBDが勝利を収めた。

 最初は東芝がリーダーのHDDVDが先行したが、ソニーをリーダーとするBDが性能的にも価格的にも優越となり、勝ち残った。

 この技術開発の競争はかって激烈な競争があったソニーのベーター方式と東芝のVHS方式の関係に類似していた。
 当時は、性能的にはベーターのほうが上回っていたが、VHS陣営が多数の家電メーカーを囲い込み、併せてビデオソフト業界も取り込むことによって業界標準に育っていき、技術の優れたソニー陣営は撤退した。

 当時の評価は、どんなに優れた技術でもユーザーとソフトを取り込まなければ勝ち残れないというものであった。

 そして映像記録技術はビデオからDVDへと進み、青色LEDを利用した今回の争いに至り、ブルーレイのソニー陣営が雪辱し、東芝陣営は市場から撤退した。

 ソニー陣営の勝利の理由は、技術に優れていることももちろんだが、パナソニックが手堅いユーザー囲い込みをできたことが挙げられている。最後には、豊富なソフトを有しているワーナーが東芝グループからソニーグループに移って勝負が決まった。

 ところが、ブルーレイでは敗地にまみれたように見えた東芝が、意外なところで巻き返しを図っている、

 それは、HDDVDの開発者で東芝を退職した山田さんという技術者がメモリーテックという会社を作って中国にHDDV技術を売り込み、中国の国家規格に位置付けるよう働きかけている。

 中国にとっては、ソニーのブルーレイはライセンス料が高すぎる。ライセンス料のほとんどいらないHDDVD技術をメモリーテックから調達すれば、安価な高密度映像記録媒体が手に入る。
 中国にとってはブルーレイは日本による技術支配とも受け止められているらしい。

 中国の新技術に対する姿勢は「多いものが生き残る」ということで、「強いものが生き残る」ことではない。
 仮に技術的に多少劣っていても、大量に利用すれば克服できる。中国市場では高価格高品質よりも低価格中品質が求められている、ということらしい。

 これらの動向の中には、新技術のあり方が問われている。新技術が技術を支配したり多くの利益を輩出するような初期資本主義的発想は通用しなくなっている。
 新技術の採用が相手国にも利益を確保できるような仕組みが不可欠になっている。

(なお、このホームページは以下のURLに移行させていただきたい。当面、既存のホームページと同じ内容をインストールするが、6月以降には新しいURLhttp://www7b.biglobe.ne.jp/~nakanaka/に代わる予定です。
どうぞお気に入りの書き換えをよろしくお願いします。)



2010年 下水道技術のメッセージ (21) 5月6日 「自然はそんなにヤワじゃない」

「自然はそんなにヤワじゃない」新潮社刊の著者・花里孝幸先生は信州大学の教授で湖プランクトンの専門家だ。

   その研究の経験から「強いものはストレスに弱い」という結論に達した。

 たとえば、湖の中では一般的には競争に強い大型のカブトミジンコが優先種になる。
 実験槽では、最初に小型ミジンコが出現し、次第に大型ミジンコが優先種に変わっていくプロセスがある。

   しかし、湖の酸性が進んだり、殺虫剤が流れてくるとカブトミジンコは衰退し、小型のゾウミジンコやワムシが優先になる。どうも、生存競争に強い種は外部ストレスには弱いらしい。
 殺虫剤の代わりに魚が増えても、大型のカブトミジンコから小型のゾウミジンコへの遷移が進むという。

 著者は、このメカニズムが生物多様性を支えているという。
 もし、生存競争に強い種がストレスにも強いと、いずれその種が多数となって生物多様性が損なわれるという。

 この論理を進めると、きれいな湖より富栄養化で汚染された湖のほうが多様性が進むということになる。
 地上で最も生物多様性が進んでいるのは熱帯林だそうだが、水中では富栄養化した川や湖が生物多様性に向いているということになる。

 以上の展開は、下水道に携わる者としては、いささか疑問に感じるが、著者が主張したいのは人間の目線で生物多様性を見てはいけないということらしい。
 人間の損得で生物多様性をみると自然の営みを見間違えることがある、ということらしい。
 クジラの捕獲禁止への反論にも通じる

   下水道の高度処理に対して一種のアンチテーゼに取られそうだが、結局は自然と人間、自然と都市を原点に戻って考えてみるということのようだ。



2010年 下水道技術のメッセージ (20) 5月1日 「印刷博物館」

職場の近くに凸版印刷株式会社の印刷博物館がある。

 ここでは、印刷に関する歴史や関連技術が豊富に展示されており、実体験コーナーもある立派な博物館である。

 ここで、長年疑問だった印刷に関する疑問が氷解した。

 それは、活版印刷の始まりはヨーロッパのグーテンベルグといわれているが、中国ではそれより400年も前に立派な活字を使った印刷が行われていたという事実である。
 印刷の始まりは中国ではなくグーテンベルグと言われている理由がわからなかった。

 印刷博物館の展示によると、グーテンベルグより400年前に中国で行われていた活字は膠泥活字。それより前は木を刻んだ活字を使っていた。現在のハンコのような活字であったらしい。

 その結果、中国の印刷は手刷り風だったらしい。これに対し、ヨーロッパでは金属活字を用いたプレス印刷が主流であったらしい。  また、中国では多数の漢字を用いていたため多くの種類の活字が必要であったが、ヨーロッパではアルファベット26文字と句読点ですむことから、活字の種類が少なくて済んだ。
 そして、中国では印刷は高価なものであり書籍や文書に用いられてきたが、ヨーロッパでは聖書の普及という大きな目的が重なって印刷の需要が急上昇した。

 印刷を取り巻く、このような状況の違いはその後の印刷技術の発展に大いに影響を与えた。活字を使うという技術革新はそれを取り巻く状況で、中国では職人の段階にとどまっていたのに対して、ヨーロッパでは社会に広がり工業的な発展を見せた。

 印刷博物館を見て回り、以上のプロセスが明らかになり、グーテンベルグの意味が理解できた。
 印刷技術のルーツを知って、技術の発展形態を垣間見た。



2010年 下水道技術のメッセージ (19) 4月29日 「食水思源 飲食思水」

沖大幹先生は、バーチャルウオーター(仮想水)で有名だが、水と食料、エネルギーの相関でも知られている。

 水とエネルギーと食料はそれぞれ密接に関連があるので、まとめて考えなければいけない、ということだ。
 たとえば、水は水力発電でエネルギーを生み出すし、エネルギーは海水淡水化で水を生み出す。
 水と食料との関係では、食料生産に水は灌漑用水として不可欠であるし、食料は仮想水の形で水の消費を含みながら国境を移動する。
 食料とエネルギーの間でも、食料の生産には農業機械を動かすエネルギーは不可欠であるしバイオ燃料は食料からエネルギーを作り出す。

 この著名な三者の関係が、沖先生の最近の講演では水を循環型社会に置き換え、エネルギーを低炭素社会、そして食料を自然共生社会に置き換えて説いていた。
 この置き換えは広い概念であり等置ではないが、示唆に富んでいる。

 つまり、水を資源に置き換え、エネルギーを気候変動に広げ、食料を環境・自然に拡張している。
 すると三者の関係が単純な図式ではなく重層な社会関係に見えてくる。

そして先生は最後に「食水思源 飲食思水」という言葉で結んでいる。
(食べ物や水を見たときにはその源を考え、飲食した時はそのもとである水を思う)



2010年 下水道技術のメッセージ (18) 4月24日 「百年の計」

沖大幹先生監修の「水の知」2010年4月化学同人社出版の134ページに次の文章がありました。

 中国古典の「管子」に、「百年の計」という言葉があります。「一年の計を考える者は稲を植えよ。十年の計を考える者は木を育てよ。百年の計を考える者は人を育てよ」という言葉です。

 稲が一年であることはわかります。木の十年もわかります。しかし、人の寿命は高々60年。このころの中国はせめて30年から40年程度だったでしょう。  にもかかわらず百年の計を人に求めるのは、人が代々語り継ぐからに違いありません。

 もっと深読みすると、百年の計はしっかりとした次世代、次々世代を育てることで初めて実現できるということかもしれません。

一方、千年下水道http://www1.accsnet.ne.jp/~kyoukota/0058.htmという言葉があります。千年はともかく、長寿命という点では下水道は百年インフラであるということでしょう。
これを「管子」風に解釈すると、単に「百年持続する下水道」ではなく、「百年作り替え続ける下水道」ということになるでしょう。
 下水道において「稲」でもなく「木」でもなく「人を育てる」ということは、単に技術者や技能者を教育することだけではないはずです。ではこれは何でしょうか。

   百年先のことを考えると一筋縄ではいきません。百年後を作るのも人ならば使うのも人であるということでしょう。
 人の寿命を超えた「百年の計」は含蓄のある言葉でした。



2010年 下水道技術のメッセージ (17) 4月13日 「花いかだ」

 事務所の前に神田川が流れている。
 その神田川の上流には桜の名所の椿山荘や江戸川橋公園がある。

 そして椿山荘や江戸川橋公園の桜の盛りは先週であり、昨日今日は花吹雪の時期を迎えている。

 すると、神田川には無数の桜の花びらが浮かび、川面の流線をなぞりながらゆっくりと下流向かって流れている。

 これを花筏(はないかだ)と呼び、俳句の季語にもなっている。

   普段は何の変哲もないカミソリ堤防の神田川だが、この時期は花筏でピンクの縞模様にいろどられて景色が一変する。

   川の両側に桜を植えた先人の知恵がしのばれる。



2010年 下水道技術のメッセージ (16) 4月5日 「サクラとニコル」

活字離れが進み本が売れないこの時代だが、かくれたベストセラーにNHK教育テレビのテキストがある。

英会話やゴルフのレッスンなど、対象は様々だが、「歴史は眠らない」というシリーズの4−5月号でC.Wニコルが「サクラと日本人」という文章を書いている。

 その中で、「久方の光のどけき春の日にしず心なく花の散るらむ」という紀友則の和歌を、絵画的であると称賛している。

 また、「銭湯で上野の花の噂かな」という正岡子規の俳句を引用して、桜の庶民性を紹介している。
 ニコルは、文の中で幕府が開発した江戸の水路や用水の護岸を守るために柳と桜の木が植えられたとしている。

 そういえばニコルの文とは別に、柳はともかく、桜は、花見に大勢の見物人が出て土手を踏み固めるので、自然に土手を強化する効果があるという説を聞いたことがある。

 英国出身のニコルの文に触発されて、私には、「さまざまなこと思い出す桜かな」の芭蕉の句が浮かんだ。
 すると、「いにしへの人の心のなさけをば老木の花のこずゑにぞ知る」という西行法師の和歌がしのばれた。

 こうして春の一日は過ぎていく。



2010年 下水道技術のメッセージ (15) 3月29日 「みたらしの池」

「みたらし団子」の語源は、京都下鴨神社の中にある「みたらしの池」にあります。

 下鴨神社のパンフレットによると、夏の土用の丑の日に行われる「みたらし祭り(足つけ神事)」には、数万人の参拝客が集まり、みたらしの池に足を浸けて無病息災のお祓(はら)いをします。

 このとき参道の店で出されたのが「みたらし団子」の始まりだそうです。

 汚れを水で清め、無病息災を願う行事は全国各地にありますが、みたらしの池の行事はみたらし祭りとして長い歴史があります。

   このことについて、神社の職員が面白い話をしていました。

 みたらしの池の水で洗い清められた参拝客の汚(けが)れは、川の神様の力で鴨川に流されます。 すると汚れは下流の淀川に流れ行き、瀬戸内海に着くと海の神様が現れて、遠く太平洋まで押し流します。
 すると大海を漂っている汚れは風の神様の手で深い海底に沈められてしまうそうです。
 最後は地底の神様が現れて人々の汚れを全て処理してくれます。

 この話を伺ったとき、ふと下水道の機能を想起しました。汚水を集め、空気の力でかくはんして最後は土壌微生物で浄化する活性汚泥法です。

 「みたらし祭り」の話は平安末期の頃のことですから、近代下水道ができる千数百年も前から、活性汚泥法のヒントがあったとは驚きの話でした。



2010年 下水道技術のメッセージ (14) 3月21日 「韓国強み」

ある企業の韓国ソウル事務所責任者と話す機会があった。
 そのなかで韓国の強みを述べていた。

 韓国の 強みは次の3点である。
1,仕事が早いこと。冷蔵庫が壊れても、電気屋さんに連絡するとその日の内に直しに来てくれて、すぐ直ってしまう。日本で家電量販店に修理を頼むと、修理に何日かかかり遅い。

2.仕事が合理的である。例えば外壁のタイルを貼るときに、日本の職人はタイルの目地を整然と揃えて施工する、」しかし、韓国では、そのような手のかかる仕事はせず、多少目地がでこぼこであったり、線の太さが太くなったり細くなっても一向に気にしない。これは、作る方も使う方も気にしないということだ。
 結果的にコストは安くなり工期は短くなる。

3.思い切ったことを進んで行う。例えば、チョンゲチョンでは高速道路を撤去して暗渠化しいた川を再生した。
 最近建設した工事では、大きな雨水貯留管の一部を自動車専用道路にしてしまった。雨水貯留後には、道路が汚れてたいへんだろうが、意欲的に導入したらしい。
 その背景には、為政者が実績を残したい事情があるらしい。先ほどのチョンゲチョンの例では、チョンゲチョンが話題に出ると、この政策を実施した人としていつもヨンミンバク大統領の名前が挙がってくる。

 以上3点は、韓国の強みであるとともに、日本の弱点でもある。
 日本の国際展開においても、大いに参考になる意見であった。

 この話を私に教えてくれた本人は、ソウル駐在4年目になった。4ないし5年はいないと、地元の人は信用してくれない、といった言葉が耳に残っている。



2010年 下水道技術のメッセージ (13) 3月8日 「A-JUMP」

下水道の膜処理実証実験A-JUMPが動き出した。
 愛知県の見合ポンプ所と名古屋市の守山水再生センターの2ヶ所で、それぞれ汚水から直接清浄な水源を生み出すメタウオーターのセラミック膜と改築更新をねらったクボタのMBR平膜が実験を開始した。

 実験といっても、ほとんど実規模の施設で、その意気込みが感じられる。

 北九州市でも、ウオータープラザとして、MBRと海水淡水化を組み合わせた実証実験装置の建設にかかり、A-JUMPより6カ月ほど遅れて、今年の夏辺りから実験を開始する。こちらは日立プラントと東レが関係している。

 下水道の膜処理は日本が得意としている分野で、今後、省エネや膜寿命の延命化などを進め、いずれは下水処理の主流に取って代わると期待されている。

 かって、通産省がコンピューターや大規模LSIで大型の研究開発組合を作り、世界のトップに躍り出たことがあった。

 追い抜かれた米国はこの手法を学び、再び、世界の技術の覇者になった。この時期に、日本は公取委などによる国内規制を強化して、その後、技術的には後退の道を転げ落ちていた。

 今後、下水道の膜技術がどのような道をたどるかは、この歴史から学ばなければならないと思う。



2010年 下水道技術のメッセージ (12) 3月1日 「航空機戦略」

先週、所用があり北九州市へ出張したが、東京から飛行機で行くか新幹線で行くか迷った。  結局は、時間と費用の点で飛行機にしたが、迷いは残った。

 迷いの一つは快適性である。飛行機では、羽田で待たなければならないし、狭い座席に2時間近く拘束されるのは疲れる。着陸してからも、プレミアムシートの客が下りるまでの10分間近くを立ったまま待たされるのが気になる。
 せめて、着陸後エコノミー客にはお茶を出して座って待たせるとか、プレミアム客と一緒に出られるようにするとかの配慮が欲しい。
 ファーストクラス、セカンドクラスと格差を付けるのは昔の船旅の習慣化かもしれないが、航空旅客の利益の源泉は我々エコノミー客である。

 もう一つの快適性に対する疑問は手荷物検査である。テロ防止で手荷物やペットボトルの検査を行うが、基本的には乗客の中に犯罪者がいるという疑いの視点で行われている。
 テロ防止のためのチェックはやむを得ないが、客を犯人扱いするサービス産業は他にはない。航空産業は特別である、という視点で疑問なく手荷物検査をしているとすれば異常としかいいようがない。

 もう一つの懸念は欠航である。私が利用した翌日に、朝9時頃から3時間くらい、羽田空港は濃霧のために全面的に欠航になった。このために3万人の利用客が不自由した。
 この件を新幹線に当てはめてみると、新幹線が欠便することはほとんどないことに気づく。安全のための欠航だから仕方がないが、普段は忘れがちだが欠航によって航空機はそもそも不安定なシステムであるということを思い起こさせてしまう。

 航空機が新幹線に対して競争力を持つには、価格だけでは不十分であると思う。快適性、安全性に劣るとすれば決定的である。
 そもそも、私は飛行機に搭乗するのは楽しいことであると信じている。窓からの景色は何者にも代え難く、離陸時着陸時にはわくわくする一瞬がある。

新幹線に対して航空関係者はどのような戦略をお持ちだろうか。



2010年 下水道技術のメッセージ (11) 2月24日 「日経新聞社説での原発海外入札の敗退」

2月22日月曜日の日経新聞社説では、原発の国際入札での相次ぐ日本勢の敗退を、「世界ルールが変わった」と述べて、日本の水事業や新幹線の海外展開に警鐘を鳴らしていた。



2010年 下水道技術のメッセージ (10) 2月17日 「原発海外入札の敗退」

原発の国際入札で象徴的なことが起こった。

 ベトナムでは日本勢がロシアに負けた。いろいろな敗因があったようだが、決定的だったのはロシアが原発と合わせて潜水艦売却を決めたことである。ベトナムにしてみれば、性能やコストを超えたところで決まった商談であった。

 また、UAEでの入札では、日本は韓国勢に負けた。このときは、韓国勢が韓国の電力会社と組んで、原発の建設後の運営管理まで20年間請け負ったことである。
 サウジでは石油以後の事態に取り組んでいる。油田が干上がったり代替エネルギーが普及する時代を想定している。これの答えの一つが20年保障の原発ではなかったのではないだろうか。

 ロシアの場合には、日本は武器輸出はできない。これでは、はじめから勝負が決まっていたようなものだ。これに対抗できるのはトップセールスしかない。いわば政治の問題であるとの認識が必要である。
ベトナムの安全保障に日本がODAで果たしている役割は大きい。
 もし、原発の性能やコストで競争力があるならば、政治力で負けてしまうのはいかんともしがたい。

 UAEの場合には、日本勢にO&Mの重要性認識の欠如があった。電力会社とのJVが準備できなかったことや、20年間のリスクヘッジができなかったことは反省すべき点である。

 この二つの事例は、今後の新幹線の輸出や水事業の海外展開にかかわっている。
 一つの答えは国家戦略としての海外インフラ構築とソルーション・プロバイダーの徹底である。



2010年 下水道技術のメッセージ (9) 2月14日 「下水処理水輸出」

2月9日付けの建設工業新聞によると、国土交通省は来年度、地方自治体の下水処理場で発生する高度処理水を水不足の中東やオーストラリアに(タンカーや鉄鉱石を輸送する船のバラスト水として)輸出するための可能性調査に入るとしている。

 下水道機構では、2月12日にはこのバラスト水についての技術サロン(ミニ講演会)を開いた。講師は国交省のキーパーソンの課長補佐で、興味深い話がたくさん聞くことができた。

 バラスト水は相手国の事情によってニーズが異なる。オーストラリアの水需要は農業用と見られていたが、実はそうではなく、鉱山の道路散水に大きな需要があることが分かった。中東のアブダビでは、地下水涵養に需要があるらしい。

 いずれの場所も、海水淡水化よりコストが安いことが必須の条件である。
 さらに、タンカーや鉄鉱石船が必ず寄港することが条件である。鉄鉱石の需要が減ったからといって寄港が減ると水需要に支障をきたすことになるので、バラスト水供給の安定性が求められる。

 国内的には、高度処理水の普及を促進することが期待されている。  その他、下水処理水が課税されないかとか、日本の下水処理水放流水が足らなくなったらどうするか、などの活発な質問があった。

バラスト水として河川水は水利権の関係で使いづらい。水道水は水道法に輸出を想定していないらしい。コスト的にも微妙である。
 その結果、下水処理水が有力候補となった。
 石油や鉄鉱石を荷揚げする港の近くにある下水処理場が候補であり、千葉市や川崎市、横浜市、三重県四日市市がGCUSの検討会に参加している。



2010年 下水道技術のメッセージ (8) 2月10日 「下水道台帳システム」

電気学界の調査報告書原稿に取り組んでいる。
 テーマは「社会インフラとIT技術」。電気学会のITを利用した現場情報利用技術調査研究委員会(委員長新電気通信大学教授)活動の一環として、下水道分野での研究を進めている。

 そこで取り上げたのは下水道台帳システム。
 世間ではあまり目立たないシステムだが、これが優れている。

 下水道法23条では、下水道の台帳整備と閲覧に応じる義務を下水道管理者に課している。この台帳が電子化し、データーベース化したトタンにブレイクした。

 台帳が、アセットマネジメントや流出解析モデル、 GISに応用できることが理解され、社会システム(下水道)の社会システム(都市データベース)に進化できる可能性が出てきた。

 都市データーベースには、建築や道路、地下埋設物などマッピングシステムと組み合わせて形成されるが、これがバーチャル都市に進化する可能性がある。都市計画や環境アセス、はたまた観光や教育、シムシティのたぐいのゲームなど、近未来のIT社会に限りない展開が夢想される。
 映画マトリックスに表現されたバーチャル都市の出現である。

 この基本に下水道台帳システムもある。

 水産業にIBMが参入したが、水産業とIT技術は密接な関連がある。



2010年 下水道技術のメッセージ (6) 2月3日 「ベトナム下水道セミナー」

GCUSの活動に参加している。
 年末にはベトナムに下水道の調査に行ってきた。調査報告書の一部はGCUSホームページにhttp://gcus.jp/report/groupReport/Vietnam/investigate01.html公開されているので参照されたし。

   2月2日火曜日にはにはベトナムから建設大臣が来日して、大臣を迎えてGCUSのベトナム向けセミナーが外務省の東京港区三田の三田共用会議所で開かれた。

 午前中は国交省、JICA,NEDO、北九州市などがプレゼンをし、午後は関連する企業が各社の技術をプレゼンした。

 セミナーの内容は、いずれ前記のGCUSホームページに掲載されるだろうが、午後の企業プレゼンについて、いろいろな状況があった。

 各業種の企業20社が参加したプレゼンの条件は、持ち時間12分、英語のパワーポイントで日本語ベトナム語の逐次通訳であった。
 5社プレゼンするごとに20分のコーヒーブレイクで、プレゼンした5社はベトナムの皆さんと英語でディスカッションできる。
なお、プレゼンの前に、30分ほど、ベトナム代表団と各社の名刺交換の時間が用意された。

 実際にプレゼンが始まると、各社の姿勢が如実に現れて興深かった。
 20社の内の5〜6社はパワーポイントの内容が多すぎて、発表途中でプレゼンを中止せざるをえなかった。  半分くらいの会社は会場で資料を配付したが、中には何も配らずに淡々としゃべって終わってしまう会社もあった。聞いていて、何しに来たのだろうかと感じた。

 各社とも座って12分間のスピーチをしていたが。1社だけ、あえて立ってスピーチをしている会社(M社)があった。自分の顔や体をさらしてアピールしたいという心意気が伝わって好印象だった。

 ところが、あるプラントメーカー(T1社)はベトナム人の社員がベトナム語でスピーチを始めた。パワーポイント画面もベトナム語で始まった。会場の日本人参加者は内容が分からずに「おや、」という顔をしていたが、5人のベトナム代表はフムフムと熱心に聞いていた。
12分という短い時間を通訳なしで倍使えたし、母国語のプレゼンはきっとベトナム代表団に好印象を与えたに違いない。

 これに対してせっかくベトナム人の社員を会場に連れてきたある会社(T2社)は日本人社員がスピーチしてベトナム人社員が通訳していた。ベトナム人社員に話させれば、倍の時間を使えたのにと悔やまれた。

 逐次通訳ではプレゼン時間が半減してしまう。ベトナム語での発表はベストであった。このT1社の機転は企業の積極的な姿勢が伺えて大いに好評であった。しかも。主催者の条件に応じている。

 別の会社(T3社)は、英語のパワーポイントであったがベトナム語のパワーポイントのコピーを会場で配っていた。

 別の会社(Y社)は、何を勘違いしたか浄水所の話ばかりでてきて、最後まで水の再利用や下水道の話が出てこなかった。

 GCUSのホームページで公募した結果、プレゼンに参加した企業の業種はエンジニアリングが6社、機器が7社、地盤改良2社、コンサルタント2社、メンテナンス1社、推進工法1社、更生工法1社であった。
 残念なことにゼネコンの参加は0社、会場で商品サンプルや模型を持ち込んだ会社もなかった。

 プレゼントはコミュニケーションであると言われている。どのようにアピールするかは人それぞれであったが、会社によって大きな差異があった。    



2010年 下水道技術のメッセージ (5) 2月1日 「会議室の有料化」

以前、制服の有料化の話を「下水道の考えるヒント」に書いたことがあった。

日立やキャノンでは、従業員が働くときに着用する制服を従業員自身え購入するシステムになっているらしい。
これは会社がけケチなのではなくて、制服を必要なときにだけ従業員に配れるような合理的な仕組みを目指しているものである。つまり、官庁がやっているように制服を一律支給すると無駄が生じることが多い。いつ制服が必要なのかというニーズ情報を有料化という経済行為を通して把握し、制服が合理的に配られるように市場原理を導入しているということであった。

これと同じねらいで、会議室を有料化している会社がある。社内で会議を開こうとすると、会議室を登録して部屋の広さによって定められている会議室の使用料を管理部門に支払わなければならない。

会議をすることは費用のかかることである、会議室を押さえるということは費用のかかることであるというコンセンサスを形成することにより、無駄な会議室の使い方がなくなり、会議の能率も上がるだろう。
考えてみると、会議室の料金よりも、会議を短く、効果的に行うことは社員の拘束時間を短くすることにもつながるという、深い意味があるのかもしれない。

会議室有料化のデメリットは、独立採算性にすることによって管理部門が収入処理というよけいな手間がかかることと、使用料金の設定によっては会議室の利用者が減り、社外の会議室を借りるようなケースが増えてきてしまうようなことである。

なお、会議室を有料化できるなら、コピーやお茶、電話などの有料化も可能である。
オフィスはどんどん工場管理に近づいている。



2010年 下水道技術のメッセージ (4) 1月17日 「石けん」

下水道関係者は、下水道は生活に不可欠なインフラにもかかわらず、「下水道は市民に見えにくい」、「下水道の重要性はなかなか市民に浸透しない」となげいている。

   ところが、ある本に興味深い記述があった。
 昔、石けん会社が石けんを販売するときに、高性能で安価な石けんを開発して「石けんを使うと手や体を清潔にする」と宣伝しても、一向に売り上げが伸びなかった。

 そこで、いろいろと考えてみたが、石けんにピンクやクリーム色の色素を入れ、さらに香料を入れて、「石けんは上品な香りがする」、「石けんはお母さんの香りがする」、「石けんはセクシーな香りがする」というキャッチコピーにたどり着いた。(色素の件と「お母さんの香り」は著者の創造)

 石けんは汚れを取りのぞき清潔にするものに違いない。しかし、だからといって清潔を前面に出しても消費者には支持されなかった。消費者が求めていたものは香りであり雰囲気であった。

   この話は、下水道の広報に参考になるものだ。下水道を下水道として広報していてもなかなか市民に浸透しない。それは広報のやり方が悪いのでもなく、下水道がPRに向いていないのでもない。  下水道の利用者が下水道という基本的な都市インフラに関心が薄いといわざるをえない。

 したがって、下水道の「上品な香り」、「お母さんの香り」、「セクシーな香り」は何かと考えることが下水道広報の第一歩ではないだろうか。
 「香り」という言葉は、消費者からみた石けんの魅力のエッセンスが詰まっている。



2010年 下水道技術のメッセージ (3) 1月12日 「ASIAN WATER」

東南アジアの水道下水道関係者向けに発行している英語のASIAN WATERという雑誌がある。その12月号http://www.asianwater.com.my/で、東京都の下水道を特集している。

ご覧になりたい方は、このURLをアクセスして、15ページを開くと閲覧できる。
 この特集には、僭越ながら著者もインタビューを受けてポートレートも掲載されている。
また、記事の最後にはGCUS(JAPAN Global Center for Urban Sanitation )にも触れている。GCUSとしては、外国メディアに初めて掲載された事例である。

 記者はいろいろな部署で活躍している女性フリーランサーで、署名入りの記事を"MaximsNews" http://www.maximsnews.com/news20100106tokyosewerage11001060801.htmというWEB媒体にも転載した。
どうぞよろしく。



2010年 下水道技術のメッセージ (2) 1月5日 「インフルエンザ」

もうニュースにもなりませんが、私の周辺で新型インフルエンザが広まっています。
 私の職場でも、2人目の患者が出現して、自主的に出社停止になりました。
 一方、その割には、季節性インフルエンザが少ないようにも見えます。

 かかりつけの医師によると、インフルエンザに効くのはタミフルだけではなく、マオウトウやカッコウトウなどの漢方薬も一定の効果があるとの事。

 ウイルスはマスクやうがいで侵入を防がない限り、体内に入ったらお手上げと思っていました。 タミフルは個人では服用できないのでインフルエンザは処置なしとあきらめていましたが、カッコウトウが効くとなると話は別です。

   いずれにしても、十分な睡眠や栄養など基礎体力が前提だそうです。



2010年 下水道技術のメッセージ (1) 1月1日 「科学」

新年明けましておめでとうございます。  いつもホームページにアクセスしていただきありがとうございます。

   年末の週刊誌に、柳田邦夫が「ガンの研究が進んで細かい事が分かれば分かるほど最終的に分かるde あろう時期が先へ先へと伸びていく」といっていました。
 また、立花隆が「自然科学は自己の限界が分かってきたみたいなところがありますね。ガンは治る。抗ガン剤は効く。抗ガン剤の副作用に耐えて耐えて、生き抜く事に価値がある、みたいな情報が流れすぎたと思う」と述べていました。

 ガンという深刻な病気を受け入れ、多面的に理解するところに、科学の本質を見いだした気がします。

今年も、下水道技術に関する所感をお届けしますので、どうぞよろしくお願いします。



2009年 下水道技術のメッセージ (70) 12月31日 「ベトナム」その2

日中35℃にもなる真冬のホーチミン市、日本の秋の気候のハノイ市から戻ってきました。
 ベトナムの下水道は始まったばかりで、いよいよこれからというところです。
 日本の資金と技術は大いに期待されており、これからどのように効果的に実施していけるかと言うところです。
 しかし、現地の下水道関係者と話すと、道は険しく、得られる喜びは大きいが茨の道が続く、そうです。この言葉の奥には、国際援助の複雑さと難しさがあります。

 下水道施設を作るのも大変ですが使い続けるのも大変です。日本流が通じない事はしばしばで、そのたびにベトナム流を編み出していかなければなりません。

 このような産みの苦しみは、どの国も通過するプロセスです。そのプロセスで技術者が育ち、ノウハウが蓄積するものです。

 ベトナムに適応した下水道システムを編み出すと、そこには日本に適した技術が見つけられるかもしれません。そんな期待を込めて、国際援助は進められるべきであると思いました。

一年間、このページをアクセス頂きありがとうございました。
 今年は、後半は多忙で更新頻度が落ちてしまいましたが、来年は心を入れ替えて情報発信に努めます。
来年もどうぞよろしく。



2009年 下水道技術のメッセージ (69) 12月13日 「ベトナム」

GCUSでベトナムへ調査団を送る事になり、筆者もプロジェクトに関わっており、多忙になった。

ホーチミン市には、日本のODAで作った日量14万トンの大きな下水処理場があり、今年の春から稼働始めた。
 また、先週末の日系新聞には、ベトナムが日本の新幹線導入を決め、JICAによる事業化調査が始まるそうである。

   日本の技術を高く評価してくれる国はそれほど多くない。その期待に沿うようにすることが肝心だ。

 公害から環境問題へ、河川氾濫の洪水から都市型浸水へ、汚泥処理から汚泥資源化へ、そして個別処理から広域処理へと日本は30年間で下水道技術の進歩があった。ベトナムは、この流れをなぞるのではなく、流れを踏まえて新しい進歩に向けた発展形態を求める事になるだろう。



2009年 下水道技術のメッセージ (68) 11月24日 「バラスト水」

バラストballastとは浮力調整用の砂や水袋の事だが、貨物船では空荷の時に船が浮かび上がりすぎないように船底のタンクに海水を積み込むことを言う。

 中東から原油を満載して日本に来たタンカーは日本で原油を陸揚げした後に港の海水をタンクに入れてふたたび中東に向かう。
 中東に着くとバラストの海水を海に捨てるのだが、このときバラストの海水が腐敗したりオイルボールを含んだり、日本の貝やプランクトンの卵を含んでいると、いろいろな環境問題を引き起こす。  そのため、わざわざバラスト水を水処理してから捨てることもある。

 そこで、バラストの海水の代わりに下水処理水をタンカーに搭載するアイディアが出た。

 この発想は昔からあったが、今回俎上に昇ったのは、野村総研が力を込めて企画したアイディアである。
 折しも、世界は数年にわたって渇水で苦しんでいる。今回の提案は、中東のタンカーとオーストラリアの鉄鉱石貨物船が対象となった。両者とも、日本に大量の資源を運び、帰りは空で砂漠の国へ帰る。

 特に今回は、オーストラリアや中東に農場や工場などを配置して下水処理水の利用用途を押さえる作戦のようだ。リサイクルは川下からのセオリーに沿っている。

 なお、どうせ積むなら付加価値の高い水道水を積んだ方が利用用途が広がってよいと思うが、そうはならなかった。それは、水道水が水道法や水利権の関係で輸出を想定していないという理由らしい。

 水道は国際化を想定していなかったとも取れる。
 下水道放流水は、その能力を意識していなかった事が幸いしたかも知れない。



2009年 下水道技術のメッセージ (67) 11月16日 「ステント手術」

心臓の冠動脈拡張手術に使うステント技術は、次の点で破壊的技術である。

 それまでの熟練医師でしかできなかった開腹手術を開腹しなくてもよく、手術を劇的に簡素化した事。
 手術の時間が大幅に短くなった事。
 人工心肺が不要になった事。
 手術の費用が大幅に安くなった事。
 手術が大幅に安全になった事。

 破壊的技術の破壊的とは、旧来の確立された技術を全面的に否定して全く別の発想で簡素に目的を達成するところにある。

 たまたま、先週、ステント手術をした患者の方にお会いする機会があった。
 その方は、狭心症の病気で体内に数カ所ステントを取り付けたそうである。

 その話を聞くと、冠動脈には石灰化している部位もあって、その場合には最初にカテーテルの先端に取り付けてあるキリ状の機械で穴を開けるらしい。
 このときに、切削した切り子が脳に回って脳梗塞を起こすといけないので、切り子が血液にすぐに溶解するように高速回転のキリで微細な粉末にするらしい。
 また、ステントに有機物が付着して再閉塞しないように、付着防止の物質が長い時間かけてじわじわと溶け出す技術がステント(金属製金網)に施されているそうである。

 破壊的技術で古い技術を駆逐した後、ふたたび技術の質を高めていくプロセスが読み取れる。



2009年 下水道技術のメッセージ (66) 11月8日 「人体と下水道」

ある大学で学生に下水道の話をする機会があった。
その中で、若い世代に受けたのは下水道の人体へのアナロジーだった。

 下水管は静脈。体の老廃物を回収する。水道管は動脈になるが、こちらは圧力管で下水道は自然流下の非圧力管。実際の動脈は脈があるが静脈は脈がない。

 下水処理場は腎臓や肝臓に相当する。場合によっては脾(ひ)臓になる。脾臓は老化した赤血球を回収する器官である。

 健康な者は自分の体の器官を意識しない。病気になるとその器官を大いに気にする。下水道も、普段はその存在を知られない事が多いが、道路陥没や浸水、水質汚染がおこると下水道に注目が集まる。

 話のまとめは、普段から体に対する最低限の知識を持ってないと万一の時には大変な事になる。下水道についても最低限の知識をつけて欲しい、ということになった。

 なお、極めつけのアナロジーは管更正工法であった。管更正工法は、下水管の更新を開削することなく短時間で行い、ふたたび何十年も使えるようになる。
 このアナロジーは心臓疾患の冠動脈拡張手術である。
 冠動脈が老化し、コレステロールが付着滞積して血流が滞り心筋梗塞を起こす事がある。このような場合には、従来は胸を切り開いて冠動脈のバイパス手術をしていた。バイパス手術はベテランの心臓外科医が人工心肺を使いながら何時間もかけて行う大手術であった。

 ところが、心臓外科で画期的なステント手術が出現し、心臓外科手術の様相が一変した。
 ステントとは金網のことで、ステント手術とは、胸を切り開くことなく、手首の血管からカテーテルを挿入して、外部からの操作でカテーテルを心臓近くの冠動脈まで誘導する。
 カテーテルには細長いしぼんだバルーンとその周りには縮んだ状態のステントが収まっている。  バルーン部が、血管が狭くなった冠動脈の病変部に到達すると、その位置をX線カメラで確認してバルーンに空気を送ってステントを内側から押し広げて拡張する。

   するとステントは血管を押し広げ、その後にバルーンの空気を抜いても、ステントはその形を維持し、血流を回復する。

 後は、ステントを血管内に残置してカテーテルを引き抜けば手術は終了する。

 下水管の更生方法も、ステント手術によく似ている。まず、道路を掘削しなくてすむので地域への影響が小さくてすみ、工期が少なくてすむ。下水管内を鋼線でライナー(内張り材)を引き入れ、バルーンをふくらませるように蒸気などで袋状のライナーをふくらませるのも似ている。

 ライナーはふくらんだ後に、温度や紫外線で硬化し、下水管を更生して下水の流下を回復するプロセスもにている。

 以上の話は、健康に無関心な若い学生にも通じた。
 人体と下水道のアナロジーが下水の理解を深めてくれた90分間であった。



2009年 下水道技術のメッセージ (65) 11月4日 「MBRの進化」

10月28日に日本下水道事業団の技術発表会があった。

興味ある発表が幾つもあったが、その中で特に目についたのが、事業団が長く研究を続けてきた膜分離活性汚泥法(MBR)であった。
 MNRの弱点は、膜洗浄用の空気量が多くてランニングコストがかさむことであったが、当日の発表では、仕様空気量が処理水量の6倍まで削減する事に成功したという報告があった。

 これは素晴らしい事で、数年前までは10倍前後であったから、いよいよ実用域に入ったという印象を受けた。

 会場で、MLSS濃度の質問をしたら10,000mg/lほどで、これより多いと粘性が増え、少ないと有機性の膜閉塞現象が起こるらしい。

 MLSSを増やすと酸素移動効率が低下することが知られているので、もう少し下げてもよいと思う。

   もう一つのMBRの課題は、既存施設のMBR化で余った最終沈殿地の活用方法の研究である。発表では、余った施設を雨天時貯留池や負荷変動調整池などに利用できる、と軽くふれていたが、これこそ重要なポイントである。
 余剰汚泥の減量施設や再生水施設など、現存処理能力に付加する価値を示す具体策がMBR更新には必要な条件である。

 MBRは、いよいよ実施段階に入ったということだろう。



2009年 下水道技術のメッセージ (64) 10月26日 「マンションの効用」

マンションの効用についての随筆を下水道協会誌に書いた。

 マンションは一戸建てに対して高密度で人が住んでいる。そのため、土地の有効利用はもちろんの事、冷暖房エネルギーがかなり少なくてすむ。交通便利なマンションならば車もいらない。
 ゴミ捨ても毎日マンションの専用置き場に持って行くことができるので、一戸建てのように週に数回しか捨てられない不便さがない。

 つまり、マンション機能は公共サービスが行き渡らないところを補ってくれる効用がある。

 一方、マンションは一戸建てに比べて、空間が狭く、緑が無く、地域コミュニケーションにややかけるところがある。
 両者、利点欠点があるので、一概に優劣はつけがたいが、よい点を極めていくことが大切だと思う。

 以下は、随筆に書けなかった部分の感想です。
 下水道などの都市インフラは、マンションのような集合住宅には極めて効率がよい。各戸に個別に引くべき下水道の取り付け管は、マンションでは一つですむ。
人口密度が高いから、下水道の枝線、幹線の利用も効率がよいに違いない。即ち、建設コストや管理コストが一戸建てよりも低い可能性がある。一戸あたりの雨水排水量も極端に少ない。雨水汚水の誤接続もあり得ない。

 とすれば、下水道としても一般より安いマンション下水道料金を設定するという発想も出てくる。



2009年 下水道技術のメッセージ (63) 10月19日 「紅葉の効用」

紅葉には黄色と赤の二種類があるが、二つの色はそもそもの成り立ちが異なる。

 黄は緑の葉の中にあらかじめ含まれていて、秋になり陽の日差しが衰えてくると緑が退色し、黄が現れてくる。  これに対して赤は植物が夏の間活動した結果蓄積された亜硝酸が排泄物として葉に集まり、これに秋の日差しの中にある紫外線が照射されると鮮やかな赤い蛍光色を発する。  葉に含まれた亜硝酸は落葉とともに植物から離れ(排泄され)、土壌微生物が作用してチッソ肥料(腐葉土)となり、ふたたび植物に吸収される。

 だから、同じ紅葉でも黄は老化。(葉の機能の終了)を示し、赤は再生(夏の成長の老廃物)を意味している。

 植物も落葉の形で動物のように老廃物を排泄する。これは落葉樹だけでなく、常緑樹も葉が落ちて排泄する。常緑樹は落葉樹のように一度に全ての葉が落葉するのではなく、少しずつ全体が入れ替わっている。そして、その排泄物は土壌微生物(活性汚泥も土壌微生物の一種)で浄化される。

 同じ紅葉でもよく見ると違うメカニズムが働いていて興味深い。



2009年 下水道技術のメッセージ (62) 10月18日 「環境システム計測制御学会」

環境システム計測制御学会の研究発表会が岡山市にある岡山大学で開かれた。
地方で開かれたにもかかわらず、120人もの参加者があり特別講演を初め20件もの会員の発表があり、盛況であった。

 著者も、昔から活動に積極的に参加しており、今回も参加した。

 特に。30代若手計測技術者で構成する「未来プロジェクト」が創設以来4年目を迎え、大勢のメンバーが研究成果を発表して盛況であった。若手をベテランが支えるという仕掛けが実を結び始めた。
 岡山市は、この発表会を全面的に支えており、昨年は政令指定都市になり、中国地方の拠点として、広島市と並んでプレゼンスを示していた。岡山市の特徴は交通の便が良いこと。新幹線、岡山空港を拠点に関西、九州、四国にアクセスできる地の利があるとしていた。

 このような小さな学会の活動はボランティアに支えられている。研究分野は水道、下水道、ゴミであり、各都市や京都大学の支援が目立っている。初代会長は京都大学の故平岡先生。ゴミや汚泥の焼却技術の権威であった関係で、このような学会が生まれた経緯がある。

現在は京都大学の田中教授が会長を務めており、産官学で構成する400人ほどの会員のささやかな会費と労働奉仕で成り立っている。

 思うに、このような活動は下水道に関する共通の文化であり、財産であると信じている。このような活動が、新しい人のつながりを形成し、新しい技術分野を作り出す。日常の仕事からは一線を画して産官学の斜めの交流を作りだし、技術者、技術者集団を育成していくから素晴らしいことだ。

 研究発表会後、夜に行われた懇親会では、岡山市、倉敷市の技術者も参集し、会員の皆さんは結束の堅さを示していた。



2009年 下水道技術のメッセージ (61) 10月12日 「零式艦上戦闘機」

 知財マネージメントの本に続いて、秋の夜長に、示唆に富む新刊書読んだ。

 その本は「零式艦上戦闘機」新潮社、清水雅彦著である。
 この本は、いわゆる戦記物ではなく、零戦を技術的に分析して、その評価を現代風に下している。期せずして、「技術に勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」の考察に通じるところを見いだした。

 本書では、零戦の技術的優越性や陳腐な面などを実証的に示しているが、第二次世界大戦の当初に活躍した零戦が後半には米国の戦闘機ヘルキャットにもろくも破れていく姿を、技術的な面よりは戦術的、戦略的な面で説明している。

 空戦には熟練パイロットが力を発揮するが、太平洋戦争のような総力戦ではいずれ熟練パイロットは消耗してしまう。
 そのとき、無熟練パイロットを空中指揮やチームワーク、総合的な運用でどのように采配するかが明暗を分けたとしている。

 米国は、対戦の初期に徹底的に日本に痛めつけられた経験を持つ。その結果、熟練パイロットに依存しない機体と戦術を編み出して零戦を駆逐した、と著者は結論付けている。

 もちろん米国の工業力が日本の貧弱な工業力を大きく上回ったのは事実だが、著者は個々の戦闘を克明に検証して、負けなくてもよい戦闘を戦術、戦略の貧しさで敗退している事実を示している。例外的には、性能的に劣る零戦が戦術的にヘルキャットと互角以上の戦闘をしたケースも紹介している。

 米軍は大量のにわかパイロットを戦力化するためのチーム重視の戦い方を編み出した。それに引き替え、日本は熟練パイロットに依存した個別アクロバット的戦闘を重視し続けた。

 日本企業が下水道の海外事業でなかなか展開できないが、もしかすると、零戦の話に似たところがあるのではないかと、一瞬ひらめいた。
 技術に優れ、国内実績の優れた日本の下水道技術を途上国に展開するには、熟練パイロットに頼らず、にわかパイロットでも使いこなせる高性能機体を考案し、チームで運用するように技術の形態を変える必要があるのではないかと思った。

 このことは技術の退歩ではない。むしろ、技術者が不足する中で新技術を使いこなすための有力な方法、技術マネージメントであると思った次第である。

なお驚くことに、著者は昭和54年生まれの若手弁護士である。



2009年 下水道技術のメッセージ (60) 10月4日 「「技術に勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」その2」

 「技術に勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」の続報です。
 この本は技術管理MOTの権威、東大の妹尾先生の著書で、一度売り切れになったほど評判の本です。
 その中に、月島機械の記述があった。少し長くなるが以下に引用する。このように世間では見られている。

 p355 月島機械という日本有数のプラント会社が、プラント建設だけではなく、下水道設備のオペレーションサービスに進出したことが話題になっています。PFI法のスキームを活用して、従来の排水処理施設の設計・建設といったプラント事業に加えて、排水処理施設の維持管理・運営、浄水発生土の再生利用、返送水の管理まで行うというものです。つまり、月島機械が売るのは、プラントや設備というモノではなく、それをレシピ付きでうるのでもなく、それを使ったサービスだということなのです。(中略)

 月島機械から学ぶべきことは、サービス産業という他のレイヤーとの関係づけを行って新しいビジネスモデルへ進出しているという点です。

 また、水質浄化技術については、

 p319 これは技術模倣が比較的容易なので、、ノウハウ秘匿との組み合わせ、あるいは知財権ミックス等で守っていくことが重要であるともいわれています。しかし、この領域は、比較的中小・中堅企業が取り組んでいる分野であるためか、国内特許は多いのに、半面、海外特許が少なく、今後、知財紛争が起きないように先手を打つ必要性が指摘されています。また、国際標準策定へ参加度を増さないと世界市場には入れなくなるおそれもあると指摘されています。

 ご興味のある方は、ご一読を勧めます。



2009年 下水道技術のメッセージ (59) 9月28日 「思い出ベンチ・動物園編」

 このホームページをまとめて単行本にした「下水道の考えるヒント」のp21に「思い出ベンチ」の話が出てくる。
 本来、企業広告が厳禁されていた都市公園に、ベンチ購入の寄付を市民から募って、寄付に応じてくれた方には、そのベンチの背もたれに名前や個人的メッセージを書いた金属板を貼り付けてあげるという企画であった。

思い出ベンチ(東京都建設局ホームページより)  
すると、個人で公園のベンチを所有するという考えが出てきて、その人が公園に人一倍の愛着が湧いてくるという効果が生まれる。「思い出ベンチ」は市当局のコスト削減策に見えるが、本当に重要なのは市民の愛着の高まりだ。「公園が何のためにあるのか」の基本に戻れば、当然のことである。

 この企画が大当たりして、都内の大きな公園にはたくさんの思い出ベンチがある。詳しくは前書を参照されたし。

「下水道の考えるヒント」を読んだ方が、九州のある大都市の動物園で「思いでベンチ」のアイディアを採用したいと伝えてきた。
 動物園のベンチにこのアイディアを採用するのかと思ったら、違う。
 その方の話によると、動物園の案内板や表示板に金属板を貼り付けて思い出ベンチの寄付行為を採用したいそうである。この市では「思いでベンチ」を一ひねりした。

 市民が一体となって動物園を盛り上げた話は、「下水道の考えるヒント」p12の「旭山動物園」に詳しく書いてある。そこでのポイントは動物園の職員や観客である市民が動物を愛すること。そして愛していることを展示すること。
 旭山動物園の表示板は職員の手作りで、職員が動物を愛している個人のぬくもりが現れている。「旭山動物園」と「思い出ベンチ」が融合すると面白い。

 連絡をいただいた都市の名は熊本市。北海道の旭山動物園に対して九州の熊本市動物園は面白い関係だ。しばらくしたら、ここの動物園に行ってみたい。

 「下水道の考えるヒント」はhttp://www.amazon.co.jp/で購入できる。



2009年 下水道技術のメッセージ (58) 9月22日 「技術管理MOT」

9月のシルバー連休中に「技術に勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」という刺激的な題名の本を読んだ。

 東京大学の妹尾堅一郎教授の最近の著書で、日本の企業の戦略性の欠如を述べている。

 インベンション(発明)=イノベーションの誤解が日本の企業をことごとく落とし込んだ、としている。かっては大発明=技術革新であったが、今や、発明はイノベーションの必要条件に過ぎない。

 事業化には、発明した新しい技術を普及定着するディフージョンというプロセスが必要であると説いている。
 例えば、インテルはマイクロプロセッサーを独占製造したが、その中で演算機能と外部機能を結ぶPCIバスを徹底的に開発してブラックボックス化し、企業秘密として非公開とした。

 一方、CPUの外部との接続は国際基準にして他社にもオープン化した。さらに、CPU と外部接続の機能を一枚の基盤に集めてマザーボードとして、台湾の企業に技術移転をして製造を任せた。その結果、台湾の企業は安価なコストでマザーボードを量産して世界に供給し、パソコンの大きな市場を確立した。

 インテルは、PCIバス仕様のクローズ化と外部インターフェースのオープン化の戦略を使い分けて同時に進行し、「製造」というリスク負担なしで付加価値の高いマイクロプロセッサ部分の独占的な販売を確保し、世界の富を手にした。

 マネージメントとは、リスクミニマムとチャンスマキシマムにつきる。インテルはセオリー通り戦略を構築して事業を展開した。

 基幹技術はしっかりと内部化し、一方で技術が広く使われるようにパートナーを探して役割分担を担ってもらう。もちろん台湾メーカーもインテルグループの一員として大きな利潤を手にしている。

 このように、インテルの巧みな戦略であるが、日本の企業はこの戦略から排除されてしまい、現在の半導体事業は赤字におびえる利益の薄い過当競争にさらされている。

 以上の技術管理(MOT)の考察は下水道にも当てはまる。
 日本の下水道の技術水準は間違いなく高い。下水道に関わる人材のレベルも高い。
 しかし、海外進出はままならない。
 ことごとく、中国・韓国勢に敗退したり、欧米系の企業と競って利益の出ないODAに苦しんでいたりする。

   ISO/TC224やWEF,IWAの国際会議では、各国の利害が露骨に顔を出している。地球温暖化対策も然り。
 その中で、日本の主張は事業化の視点が乏しい。目的を明確に設定し、目的の実現のために周到な作戦を立てて一気に進める必要がある。場合によっては他国を蹴落とすくらいの覚悟が必要である。
 その決意なしには、日本の下水道は海外展開はできない。これまでの海外での惨敗はそういうものであった。

 日本の下水道技術で内部化する基幹技術は何か。オープンにして普及に努める技術は何か。日本のパートナーとなりうる国はどこか。そして5年後、10年後を見渡して全体のグランドデザインを誰が描くのか。

 GCUSの活動が始まり。企業が海外展開を求めている今日、妹尾先生のおっしゃる技術管理の軍師が求められてる。



2009年 下水道技術のメッセージ (57) 9月20日 「姿を消したセイタカアワダチソウ」

列車の旅をしていて、車窓からセイタカアワダチを見る機会がほとんどなくなった。

 一時は、日本全国でセイタカアワダチソウが大勢を占め、夏になると黄色い花で鉄道の沿線を埋め尽くしていた。もともと鉄道沿線はススキなど日本固有の雑草が物寂しく生えているのが定番であったが、当時の国内はどこを旅しても、外来種の派手なセイタカアワダチ草に取って代わられてしまっていた。日本固有のススキは、絶滅の危機に直面しているのではないかと危惧されたものだ。

 セイタカアワダチソウの強みは、その根から他の植物に毒素をまき散らし生存の優位を広めていく戦略で、ススキなどを駆逐しながらその勢力を広めていった。
 この毒素は、アレロパシーという。桜はその葉からアレロパシーを出すことが知られていて、桜の木も枝の下草を駆逐している。だから桜の周りには新しい木が生えず、花見ができる。

 そのアレロパシーのおかげでセイタカアワダチソウーは一時日本中に広まることができた。
 ところが、いつの間にかセイタカアワダチソウはその姿を消していた。その理由は次の二つといわれている。

 第一はアレロパシーがセイタカアワダチソウ自身にも作用して、自らの生存を危うくしていること。アレロパシーは豆科の連作障害にも見られる。豆が自ら毒素を出して連作を成り立たせない。これと同じように優勢を占めたセイタカアワダチソウが自ら出しているアレロパシーで発育を阻害されているらしい。

 もう一つの理由は土壌の養分の不足。セイタカアワダチソウはススキなどに比べて背の高さや花の量が多く、発育の早さなども群を抜いて早い。そのため、当然に土壌の養分を消耗して使い尽くしてしまう。すると、次の世代のセイタカアワダチソウは貧栄養のため発育できない土壌環境になってしまう。

 この二つの理由で日本の風景は、元のススキのある鉄道沿線風景に戻ったらしい。
 考えてみれば、ススキはセイタカアワダチソウを上回る戦略を取っていたともいえる。負けるが勝ち、という生存戦略である。
 きっとススキは何千年、何万年もの時間をかけて日本の風土に根付いてきたに違いない。その経験はススキの遺伝子にしっかりと組み込まれていて、したたかに現代を生き延びているようだ。

 十五夜にみるススキにもこんなドラマがあった。



2009年 下水道技術のメッセージ (56) 9月14日 「屋久島の倒木更新」

倒木更新は北海道知床の奥地などにみられ、倒木の上に落ちたブナなどの種が、倒木を苗床として再生していく森林再生のメカニズムである。倒木の上意外に落ちた種は、雪枯菌や乏しい日射量のためなかなか育たない。
 しかし、倒木の上に落ちた種は、地表の雪枯菌の影響からまぬがれ、下草がないので豊かな日射量を浴びながらすくすくと育つことができる。

 倒木更新は北国知床の専売特許かなと思っていたら、屋久島にも「くぐり杉」という南方の倒木更新があることを知った。

 こちらの倒木更新は、北海道のものとは違い、ツゲなどの腐りやすい倒木の上に杉の種が落種して育ち、ツゲの幹が腐ってなくなると、あたかも人の姿のように二股に分かれた杉の大木がそびえ立つことになる。

 いろいろな倒木更新がある。  



2009年 下水道技術のメッセージ (55) 9月10日 「下水道写真展」

東京池袋のサンシャインシティーで開かれている下水道写真展を見た。
 これは9月10日の下水道デーを記念して東京都下水道局が下水道写真家の白汚雫氏の作品を展示しているものである。

 会場は吹き抜けの地下噴水広場で、下水道の現場に関するたくさんの写真が展示されており、若い人から年配の人までいろいろな人が興味深くのぞいていた。

 展示では、明治時代の神田下水から始まり、三河島主ポンプの大正時代の施設、最近の管更正工法、泥にまみれて働く女性の作業員の姿、汚水の中を潜っていく潜水夫、など、普段は絶対に見えない下水道の姿がリアルに映し出されていた。

   

 会場でひときわ目を引いたのが、この写真である。下水管からマンホールを通して空を見上げると、そこにはジャンボジェット機が機体をマンホールいっぱいに広げて飛行している。

 このようなシャッターチャンスは羽田空港に隣接している大田区城南島のマンホールでしか撮れない。しかも、風向きや飛行経路、飛行高度の偶然が折り合わなければこのようにマンホールいっぱいに羽を広げて飛行する機影は撮れないはずである。
 おそらく、写真家はたくさんの時間とフィルムを費やしてこの一枚を撮ったものと推察される。

 何よりも下水管から空を見た視線がいい。鳥瞰図や虫瞰図という視点があるが、地中から見た空という視点は初めてのことである。

 社会を支える下水道。空につながる下水道。
 この一枚の写真に、この写真を撮影した白汚雫氏の下水道に対する深い愛情が感じられてうれしくなった。



2009年 下水道技術のメッセージ (54) 9月5日 「小氷河期」

この夏の奄美大島でみられた皆既日食の時、見事な皆既日食を写真に撮った友人がいた。

 今年の奄美大島の日食は天候がすぐれず、ほとんどの人がまともな写真が撮れなかったので、よく撮れた思ったら、実は、天候不順を予期して、万一のために中国上海付近の日食観測ツアーも押さえておいて、今回は直前の天気情報でそちらにしたそうである。

 常に事前の策を用意しておくのは危機管理の鉄則だが、一方でお金がかかる。このバランスが難しいが、今回の日食観測は大成功であったろう。

 ところで、皆既日食の写真を見て驚いた。皆既日食の際に発生するコロナやプロミナンスがやけに小さい。友人の話では、やはり歴史的に小さく、見方によっては小氷河期の前触れになる可能性もあるという。

 そういえば、温暖化に反対の立場の人が、地球温度と太陽黒点活動との相関を語っていたことがあった。
 黒点が少なくなると太陽活動が弱くなり寒冷化するという学説である。観測結果も黒点数の減少傾向があるらしい。
近い将来、小氷河期が訪れて地球が寒冷化するとすれば、温暖化はむしろ好ましいことになる。地球の時間軸を間違えるとまずいが、温暖化と寒冷化は合理的な説明が必要だ。



2009年 下水道技術のメッセージ (53) 8月31日 「大倉陶園」

横浜の戸塚に大倉陶園http://www.okuratouen.co.jp/という陶器メーカーがある。

 1919年大正8年に名古屋のノリタケから独立した会社で、白地に藍色で描いたバラの絵付けであるブルーローズは炎の芸術とよばれて高い評価を受けている。

 このブルーローズについて面白い話を聞いた。
 本焼成した白生地の上にコバルト絵具で描かれたブルーローズは、再度焼成すると上品な藍色のバラが浮かび上がり、上品なカップソーサーに仕上がる。

 高価な一品だが、ゆったりとしたアフタヌーンティーの落ち着きを醸し出すティーカップである。

 このブルーローズを作る過程で、実は白生地が純白ではないそうである。
 コバルトの藍色が映えるように、白生地にわずかに黄色の顔料を含ませて、さらにわずかな青色顔料も混ぜて焼成してあるそうである。
 なぜ黄色なのか、なぜ微量の青色なのか、どのくらいの混ぜ具合なのかは分からないが、真っ白な生地よりも少しくすんだ白の方がブルーローズを浮き出させる、とい仕組みはなぜか納得のいくものであった。

 ブルーローズのソーサー(皿)だけみると気がつかないが、他社の白いソーサーと比較してみると、白さの違いがはっきりと分かる。

 白生地はあくまで脇役だから目立ってはいけない。濁ってもいけない。白が生える焼き物はたくさんあるが、脇役に徹する白生地を作るのに大倉陶園は苦労したらしい。

 料理の隠し味や汁粉にいれる一つまみの食塩など、脇役が果たす役割は大きい。脇役の役割を想像するのも楽しみである。

   なお、大正8年は三河島汚水処分場が稼働した大正11年の時代であり、親近感を持った。



2009年 下水道技術のメッセージ (51) 8月24日 「有隣堂」

 横浜に有隣堂という大きな本屋があるが、明治時代に創業した老舗であり、本店は関内駅近くの伊勢崎町モールにあり、関東一円で35店舗程度が展開している。この本店は地上6階建て地下1階のビルで、全館本の売り場であった。
 全館本を販売しているビルは、東京の神保町にある三省堂や書泉、東京堂などのビルを除けば珍しい存在であったが、この8月18日から店舗を改装し、近くにあった文具館を吸収するような形で本の販売面積を縮小した。

 本が売れなくなったという声はだいぶ前から聞こえていたが、一番大きな影響はきっとAMAZONのWeb販売だと思う。宅配便と組み合わせて、居ながらに送料無料で配達してくれる商法は便利この上ない。それにnet販売は新刊を値引きすることもある。

 では、店舗販売は終息を迎えているのかというと、実はそうではない新しい動きがある。この有隣堂本店の50mほど奥にブックオフという古本屋が店を構えて繁盛している。ブックオフはこれまでの個人経営の古本屋とは違い、大きな店で新しい本を豊富に揃え、有隣堂に対抗するように安価に販売している。中古という暗さは微塵もなく、若い客であふれている。

 ネットと安値攻勢に老舗有隣堂の戦略が試されている。
 例えば会員販売。会員にはポイント割引で販売する方法がある。AMAZONの商法は会員制そのものである。前払い制の図書カードもSUICA(スイカ)などのネットとつなげるとおもしろい。
 また本の販売のネックに再販制度と返本制度がある。本の定価を維持する再販制度は、すでに撤廃した国もあり、柔軟に対応すべきだろう。
 すでにブックオフでは新古本という解釈で事実上ディスカウントしている事実もある。

 なお、本が売れなくなった最大の理由は本の魅了が失われてきたことにあるだろう。テレビでもなくWebでもなく、携帯電話にもない本の魅力は、二つ。読者の想像力をかき立てることと、記憶に鮮明に残ること。
 絵や写真よりも活字の方が深い抽象概念を伝えられる。また、一度読んだ本は、なぜか、「ページの右端の部分に書いてあった記述」という風に記憶の連鎖をたどれることがある。
これら、本の特性を踏まえ、本でなければ実現できない魅了を見直し、前面に打ち出す努力が求められる。

 これは本屋だけでは無理で、出版界全体の課題といえよう。



2009年 下水道技術のメッセージ (50) 8月22日 「小銭泥棒」

 東京メトロ有楽町線の有楽町駅自動販売機で小銭泥棒の仕掛けを発見した。

 8月19日朝8時頃の通勤途中に、有楽町駅の自動販売機で160円の回数券を購入しようとして2千円を投入したが、なぜか釣りが3百円しか出てこない。

 おかしいと思い、釣り銭の出口を探ってみると、釣り銭の出口のところに細長いガムテープが貼ってある。
ガムテープの貼ってあるところは、釣り銭が飛び出てくるシューター(公園にあるすべり台のすべ面に相当)ではなく、シューターの出口のところにガムテープが1mmくらいアタマを出すような状態であった。ガムテープは白色で、幅10mmくらい、長さ100mmくらいであった。  文字では説明しにくいが、シューターを流れ出てきた釣り銭が、シューターの出口で1枚だけガムテープの縁で引っかかるような貼り方である。
 ご丁寧に、ガムテープは白色であったが、かなり汚れていて、機器の一部のような目立たない感じであり、長い間貼ってあったように見える。手が込んでいた。

 早速、駅員に状況を告げて警告しておいた。

 実は、この手の小銭泥棒の手口は以前にも、JR有楽町駅北口の特急券自動販売機で遭遇したことがあった。
 このときは、釣り銭シューターの出口付近にガムが貼り付けてあった。
 これに比べるとだいぶ進化した手口と見た。
 ガムだと小銭は付着したりしなかったするので回収率が悪い。ガムテープだと、必ずコイン1枚が捕捉できる。
 ガムテープの欠点は、仕掛けが利用客に丸見えであることである。これを犯人はテープ面を汚すことでカモフラージュしていた。

まだまだ小銭泥棒の手口は進化しそうである。



2009年 下水道技術のメッセージ (49) 8月17日 「インフルエンザ」

 先週、夏風邪を引いて金曜日の夜に医者に行った。
 たまたまお盆休みに当たり、どこの医院も閉まっており、横浜市桜木町にある夜間急病センターの世話になった。

 午後8時頃に、若い内科担当医に見てもらったが、念のためインフルエンザ試験をするという。その医者がおっしゃるには、最近、横浜市ではインフルエンザ患者が多数発生しており、昨晩もこのセンターで10人以上のインフルエンザ患者が確認されたということであった。

 ただし、インフルエンザ患者が全て新型インフルエンザ患者とは限らない。その理由は、患者の自己申告で最近の渡航歴しらべ、渡航歴のないものは遺伝子検査をしないそうである。
 だから、鼻の奥の分泌物をこすり取る簡易検査で仮にA型インフルエンザと診断がでても、新型か従来の季節型かの区別は行わないそうである。重篤患者が居ないために行う意味も少ないとのことであった。

 したがって、最近のニュースをにぎわしている新型インフルエンザ発生数の根拠はあいまいになっている。ただしくいえば、少なめに出ている。

 なお、私の検査は、幸い陰性でインフルエンザではなかった。



2009年 下水道技術のメッセージ (48) 8月12日 「シニアのための哲学」

 最近、書店で注目しているのがNHKのラジオ講座のテキスト本コーナーである。
 書店では手軽で時代を追っている新書版が全盛だが、ラジオ講座のコーナーにはじっくり読ませるテキストがたくさんある。

 その中で、先日注目しテキストが「シニアのための哲学」鷲田清一著だ。出版界では少し前に「14才からの哲学」池田晶子著という単行本が売れたからその焼き直しかなと思って手に取ったが、共感する部分が多々あり、感心した。
 例えば、p124には以下のようにある。
「老いゆく過程で、ひとはある日あれもこれも「できなくなった」と認めざるをえなくなったその状態を、ふたたび別のかたちで「できる」状態へと修復することを、ときにあがきながら繰り返す。だが、そのくり返しのなかで、「できなくなった」という事実をもやむなく受け容れてゆく。老いのこの過程を、「深まっていくというよりも、削ぎ落としていって、しだいに軽くなる状態」としてとらえなおすこともできるとは、栗原彬の指摘である。」

「自立ということを私たちの社会は、さまざまなことを自分でできること、生きるに必要な多くのものを意のままにできることとして了解してきた。が、何かを意のままにできるということが自立ではない。そうではなくて、意のままにならないことの受容、そういう「不自由」の経験をおのれの内に深く湛(たた)えつつ、何かを意のままにするという強迫から下りることを自然に受け入れるようになるのが、本当の自立なのであろう」

 以上のように身につまされる含蓄のある語り言葉が続いている。
 なお、p136の家族の役割を説明しているところでは以下のような記述があり、下水道の役割を再認識したところである。

 「調理する、排泄するという、ひとのもっとも根源的ないとなみも、食べる瞬間、排便する瞬間以外は、なんらかのシステムに依っている。生き物を殺し調理する過程はすでにある程度なされ、排便後は下水道のシステムがすべてを処理してくれる。多くのひとは食肉がどういう過程を経てこういうかたちで提供されているかについてほとんど想像力をなくしているし、他人の便を見たことがない子どもも少なくない。そして、それを欠いては生きることが成り立たないというようなことがらが、家族生活の中にあたりまえのように登場しはしないことになると、わたしたちの社会的な存在それじたいが危うくなる。」

 食の対極に下水道を据え、両者を家庭の中に取り込まなければ社会的存在それじたいが危うくなる、と説いている。これに下水道関係者はなんと答えるのだろうか。



2009年 下水道技術のメッセージ (47)8月10日「幼児向け絵本の戦略」

 ある方から興味ある絵本をいただいた。
 絵本の名前は「ジャブジャブごうの冒険」。下水道の啓蒙を目指しており、お風呂に入りながらオフロスキーという科学者が子どもにお風呂の水やトイレのうんちの行き先をお話しするストーリーになっている。
 博士と幼児たちは「ジャブジャブ号」という潜水艦に乗って下水道管を探検する。

 対象とする読者は幼児だそうである。これまでのこの手の本は、小学校の教育課程を意識して小学4年生を対象としたものがほとんどだったが、この絵本は、あえて小学校へ上がる前の幼児を対象としている。

 その理由は、幼児が小学校へ上がるときの必要なことは自分でトイレの始末ができることで、トイレに大きな関心を持つ最初の世代であるからだそうである。
 こどもの都合に目をつけたところが新しい。

 小さい子どもは、自分のうんちに大きな関心を示すという。体の一部という親近感もともなって、「トイレで流したうんちはいったいどこへ行くのだろうか」という疑問に答える絵本だそうである。

 考えてみれば、下水道インフラは市民に対して自分の排泄物以外決して目にさらさない社会を作り上げた。このことは、トイレの行き先に関心を持たないとともに、環境に関心を持たない市民を作り上げてしまう可能性もはらんでいる。
 その分岐点は幼児時代にある、というのがこの絵本の問題意識である。

 なお、深読みすると、幼児の環境教育の名を借りて、育児をしているお母さんやお父さんに対するアピールも意図しているのかもしれない。

 現在、この絵本はチャイルド社http://childbook.co.jpから環境シリーズの一環として発行されている。現在は12巻シリーズの配給本として販売されているが、来年になったら別個にも販売するそうである。



2009年 下水道技術のメッセージ (47)8月3日「下水道展」

 先週、下水道展が東京ビッグサイトで開かれ、無事終了した。

 最近の下水道展は、下水道の技術動向を示唆しており、ゼネコンはめっきりと姿を減らし、管路更生や維持管理に重心が移行している。
 その中で、下水道技術のユーザーである地方自治体の技術者の参加がますます減少しているようである。

 例えば、会場で出会った顔見知りの地方自治体技術者に「下水道展にはどんな手続きで来たのですか」と聞くと、一様に「休暇で来ました」と答えた。
 たまには「下水道研究発表会のついでに寄った」と答える人もいたが、ほとんどの地方公務員は休暇で自前の交通費を使って来場している。

 これに対して、説明する企業の技術者はすべて業務で来ており、ビジネスショウとしての下水道展における地方自治体技術者と企業技術者との関係は不自然なものとなっている。

 まず、休暇で来るのだから地方自治体のかなり意欲のある職員しか来ない。その結果、人数は極めて少なくなってしまう。このことに対して、関連企業は、下水道展に見切りをつけて出展しないものと、暗に主催者の努力不足を非難しながらも出展を続けているものとに分かれる。

 しかし、注意して欲しいのは新製品を展示しているコーナーは結構な人だかりがあることも事実である。意欲ある地方自治体の技術者が意欲ある企業コーナーに集中しているという形である。

 もう一つの特徴は、下水道研究発表会は依然として好評であることだ。全国の下水道技術者が新技術の発表に腕を競っている。

   以上のことは、これまでのような総合的な下水道展は限界に来ているということではないだろうか。テーマを絞り、企業を限定して、熱心な地方自治体技術者の期待に応えるように、下水道研究発表会ともっとリンクさせた技術交流の場としての下水道展に進化していくことが必要ではないだろうか。



2009年 下水道技術のメッセージ (46)7月27日「みずのうた」

ある方からすばらしい水のイメージソングが収納されているCDをいただきました。 その曲の名前は「みずのうた」です。

 水に対する深い思いや期待が込められた曲で、曲には目の前の一滴のしずくを慈しむ気持ちと、一滴のしずくから宇宙を語る広さがあります。
 例えを変えれば、水を通じて金子みすずの詩の「みんな違ってみんないい」という優しさや、ディズニーランドの「小さな世界」の曲の普遍性が織り込まれていると感じました。

 この曲は熊本市の水前寺公園で作られたそうです。
 作詞作曲をされた上田圭子氏はこの曲ができた経緯を以下のように述べています。

 ある日、私は熊本市の江津湖のほとりを本当に久しぶりに歩きました。あちこちから聞こえる水と戯れる子どもたちの声、ボートを漕ぐ恋人たち、掃除をするおじさん、湖に住んでいる魚や鳥や虫、そして植物。
 目の前の癒しの風景と懐かしい記憶が交差する中、風が水面を揺らすように、私の心が揺り動かされました。
 「この美しい風景を守りたい」天から降りてきた言葉とメロディーを書きとめ、「みずのうた」という曲ができました。

 曲は、「みずはめぐる いのちはめぐる 生きている今 それは奇跡」の歌詞で始まる印象深いものでした。著作権の関係で歌詞を全部掲載できないのが残念ですが、曲の一部は上田氏のブログhttp://organic-smile-jp.blogspot.com/で聞くことができます。

 このような曲は日本の水関係者に一度聞いて欲しいものです。また、英語版や中国語版ができて、世界に発信できればすばらしいと思いました。  



2009年 下水道技術のメッセージ (45)7月21日「一物二価」

7月に「下水道の考えるヒント」を環境新聞社から出版した。amazon.co.jpでも購入できます。
 下水道をいろいろな視点から見つめた新書版の本ですが、皆様の業務のヒントになれば幸甚です。

 ところで、本を書くとお世話になった方に献本をするしきたりがありますが、「下水道の考えるヒント」も何人かの方に差し上げました。このとき、郵便にするか宅配メールにするか少し迷いましたが、配送料を聞いてすぐに決まりました。郵便ですと印刷物でも280円くらいかかります。ところが宅配メールはたったの80円でした。これでは選択の余地はありません。

 なぜ、同じ発送サービスでこんなに料金に差がつくのでしょうか。
 まず、郵便は新書版を送ろうとすると定形外の封筒を使わざるを得ないです。これで発送料が高くなります。また、郵便は書簡や印刷物で採算を取るようになっており、値引きはしにくいです。
 一方、宅配メールは、そもそも宅配便の形には定型という考えはありません。郵便の小包に相当する荷物が中心で、宅配メールはその合間に配達します。ですから宅配メールは低めに押さえることが可能です。

 推測の範囲ではありますが、きっと郵便と宅配メールとでは基本的なところで決定的な競争力の差があるのでしょう。

 なお、同じ本を中国上海の友人にも郵送で送りましたが、この料金は、航空便、印刷物という条件で330円でした。国内料金と海外航空料金がほとんど変わらないとは、郵便料金体系に制度疲労が起こっているといわざるを得ません。  



2009年 下水道技術のメッセージ (44)7月15日「海外展開」

日本の下水道技術は間違いなく優れている。
しかし、優れている分、高価格体質であり、なかなか開発途上国には受け入れられない。
ならば、コストを下げて欧米各国や中国、韓国企業と競えるかというと、そもそも人件費や土地代など、競争できないほど高価格であり、コストの競争にはなかなかなじまない苦しさがある。

 ならば、一転して優れた技術を比較的安く提供する手法を選んだらどうだろうか。日本の優れた省エネ技術や省力技術は、途上国の羨望の的になっている。
 途上国の電力は、物価水準からすると、相対的には日本の電力コストよりはるかに高価な価格に相当する。ここには省エネで節約できる大きなビジネスチャンスがある。

 また、途上国では一般的に人件費は安いとされているが、人件費が安いのは非熟練労働者である。逆に、高級技術者はかなり高給取りであるし、そもそも下水道高級技術者は途上国では居ないにも等しい。この分野での省力化は不可避の分野である。下水処理場の水質分析技術者や施設管理者などの省力化は大きなニーズがある。

 日本の技術は高価格で途上国では高嶺の花であるという神話は、いずれくつがえされる日が来るに違いない。  



2009年 下水道技術のメッセージ (42)6月24日「プリウス」

トヨタのプリウスが売れている。

 最近では注文しても5ヶ月待ちになっているとか。こんな商品は、このところ聞いたことがない。  最近、レンタカーで旧型プリウスに一日乗ったが、市内を約80km走行して返したらガソリン代は500円で釣りが来た。

 プリウスはエコニューディール政策の最先端にいるのだろう。しかし、この流れを冷静に見つめている記事が6月10日の日経新聞に掲載してあった。

 その記事は村沢義久東大教授の「経済教室」というコラムであった。以下、その一部を引用する。

   @米国ではたくさんのベンチャー企業が電気自動車やハイブリッドカーを売り出している。そんなことができるのは、ガソリン車に比べて電気自動車の構造が簡単だからだ。
 ハイブリッドカーについては、プリウスは「シリーズ・パラレル型」と呼ばれている方式を採用していて、走行状況によりエンジンと電池の組み合わせを直列・並列に使い分けて高効率を実現している。走行モードによって、電池単独、エンジン単独、電池・エンジン併用の3モードを使い分ける精緻なシステムである。

 これに対して、新規参入の中国勢のハイブリッドカーは「シリーズ型」で、電気自動車に専用の充電エンジンを搭載したシステムになっている。こちらはプリウスより燃料効率は落ちるが装置がシンプルで値段が安くなる。

   プリウスのEV走行距離(電池だけの走行距離)は13kmで、最近販売された電気自動車のEV走行距離が数十km から100km位であるので、プリウスはエンジン技術に重点を置いていると見られる。しかし、技術動向は電気自動車に向かっており、プリウスの古さは明白である。
 これはトヨタに世界最高水準のエンジン技術があり、それを駆使してプリウスを売り出したからであり、今後進んでいくシリーズハイブリッドカー、そして電気自動車への流れから見ると、技術思想が古いと言うことになる。言葉を換えるとこれまでに築き上げてきたエンジン技術を捨てられないということである。

 電気自動車への動向は、間違いなく電池産業が勃興し自動車産業が衰退していくことを意味している。
 ソニーやパナソニック製の電気自動車が市場を席捲(せっけん)し、タカラヤトミーやタミヤなどの玩具メーカーが遊び感覚の自動車を提供していくことになるかもしれない。
 トヨタなどの自動車産業が生き残る道は、自動車のシャーシィ(車体)の供給などしかないだろう。

 A村上先生の記事にはなかったが、家庭のハイブリッドカーはもう一つの重要な役割がある。

 家庭用の車は稼働率が低いのが欠点であった。おそらく営業用に比べて10分の1も使わないだろう。ほとんどが駐車場に置いてあって、週末に買い物やゴルフに行くのが一般的なパターンだろう。

 そこで、電気自動車やハイブリッドカーに搭載してある電池を、家庭用の太陽電池と組み合わせて使うとか、安い夜間電力を蓄積して昼間にハイブリッドカーや家庭用電力に使うなどの、汎用電池として使う方法が提唱されている。

 こうなると、車の稼働率を上げるという狭い話ではなく、車が車でなくなり、車が社会のエネルギーシステムの中に組み込まれていくことになる。電力会社からの電力供給と結合されてシステム化し、究極の地域分散電源になる可能性がある。

 車が、単独で動く個室として人類に移動の自由を与えてくれてから初めて、その形態を変えようとしている。

 これが技術、技術革新のおもしろいところである。



2009年 下水道技術のメッセージ (41)6月19日「下水道の考えるヒント」

 6月末に「下水道の考えるヒント」という本を環境新聞社から発刊することになりました。

 環境新聞社が出している月刊下水道誌に3年余り連載していたコラム{アフタヌーンティー」を大幅に加筆修正して、「マネージメント」、「技術開発」、「自己啓発」、「危機管理」、「自然発見」、の5つの章立てに編集しました。下水道に携わっている地方自治体の皆様や関係する企業の技術者、下水道を研究している方々などを意識して書きました。

 体裁は新書版210ページ、価格は790円(外税)で書店に並ぶ予定です。
 とは言っても環境新聞社の出版物はそれほどメジャーではありませんから紀伊国屋書店など、環境新聞社の書籍を常時置いている書店以外は手に入りにくいでしょう。
 その場合には、送料が300円ほどかかりますが環境新聞社0120-1972-65に直接注文していただきたいです。



2009年 下水道技術のメッセージ (40)6月16日「IWA国際会議」

古米先生のもう一つの趣旨は9月7日から9月11日まで東大で開かれる国際会議の紹介であった。

 2年前から準備されてきた「都市雨水排水モデリング(Urban Dranage Modeling)」のIWA関連の国際会議を東大で開くので、参加されたし、という呼びかけであった。http://www.envrisk.t.u-tokyo.ac.jp/udm/index.html

 国際会議なので英語ベースだが、一部には同時通訳も入る。  下水道関係で、日本で開く国際会議はあまりなく、自治体関係者にぜひ参加していただきたいとおっしゃっていた。

 6月末にはシンガポールで「国際水週間」が開催され、多くの日本の水関係者が駆けつける。シンガポールは金融ハブや物流ハブに加えて、水でも「Water Hub」を目指して戦略的に活動している。

 日本も下水道の国際社会で存在を示していかなければならないが、古米先生の国際会議は、これに該当する。



2009年 下水道技術のメッセージ (39)6月13日「流出解析モデル」

東大・古米先生の流出解析モデルのお話を聞いた。

   流出解析モデルは全国の下水道管理者でも積極的に使われていて、計画策定やハザードマップに応用されている。
 先生の最初の指摘はモデルの扱いであった。流出解析モデルは精緻になり、下水道の挙動だけでなく道路の流出や浸透能など各種の要素を取り入れて完成されたかのように扱われている。しかし。モデルはあくまでモデルで、適用における限界や条件設定の適否によっては誤った結果を導くこともある。
 モデルの限界を押さえて下水道施設の雨水シミュレーションを正しく行うには、先生は、モデルの基本をよく理解しておく必要があるとおっしゃっていた。流出解析モデルは、雨水の運動方程式や質量保存則を理解することから始まる。
 安易に、モデルのフィッティング(パラメーターチューニング)を繰り返して浸水状況に合わせてしまう操作は、大きな過ちを内包させてしまうおそれがあると指摘されていた。

 もう一つの指摘は既往最大降雨の扱い方である。一般に、流出解析モデルは適応する地域の既往最大降雨を与えて、そのときの浸水状況を再現するように組み上げていく。この手法は、既往最大降雨がモデルに最適であるという想定であるが、これでよいのかという問題提起であった。
 流出解析モデルは改善が進んで、機能が高度になってきた。しかし、降雨データーは依然として既往最大降雨が扱われている。
 例えば、極端に狭い地域で短時間に降る局地的な豪雨や、地域の典型的な豪雨についてはシミュレーションが難しい。なぜなら、気象観測上のデーターが不足しているし、豪雨の一般化という研究が進んでいない。先生によると、この分野は、全球モデルなどによる気象学上の降雨モデルの構築に属するという。

 流出解析モデルの精緻化に応じて降雨モデルも改善していく必要があるということであった。



2009年 下水道技術のメッセージ (38)6月9日「人の顔」

新幹線から車窓をながめると、青田には伸び始めた稲の苗が緑に染まって青空とのコントラストがまぶしい。

 だが、いったん田んぼのあぜ道に降りると、田植えの重労働が目に入ってくる。
 最近では田植機が普及して人が腰をかがめて苗を植えるという風景はみられなくなったが、苗を準備し、機械にセットしたり、機械では植えられない田の端の部分などは今もって人力で植えなければならない。

   米を生産するのは、このように多くの手間がかかっているが、大部分の消費者は、お米はスーパーで販売されているところまでしか想像できない。昨年、穀物が高騰したときには国産の米が見直されて、米粉パンなども評判になったが、現在ではそのブームも冷えた。
 米などの食物は、生産者の顔を見せることが食物に対する感謝の気持ちも生まれるし、無駄にしない大切にする気持ちも育っていく。

 なお、この関係は食物にとどまらない。車や家電などの工業製品もすべてが自動的に生産されているのではなく、機械の準備や故障、製造品種の変更などで人手がかかっている。従って、車や家電にも人の姿を反映させるべきではないか。

 さらに、下水道についても然り。あなたの下水は私がきれいに処理しています、というメッセージを出してもよいと考える。水道・下水道の料金徴収の時に、下水道職員の顔を見せる方法はないだろうか。この関係を見いだせない限り、下水道は理解されない。  



2009年 下水道技術のメッセージ (37)6月8日「乾燥造粒技術」

新技術の普及には、必ずと言っていいほど、その技術に惚れ込み、情熱を傾けて苦労してきた技術者の姿がある。

 例えば、岐阜市にはGさんという方がいて、汚泥のリン資源化や高効率な送風機導入に手がけてきた。
石川県の珠洲市ではTさんが下水道汚泥のバイオマス化に並々ならぬ力を尽くして関係機関の調整をしてきた。
最近では、長野県上田市でも消化ガスの精製施設を導入したが、ここには若いT さんが関わっていた。

 先週は宮城県の阿武隈川下流流域下水道、県南浄化センターに建設された下水汚泥乾燥造粒施設を視察したが、ここでもSさんという熱心な技術者の意欲に圧倒された。
 乾燥造粒施設の隅々まで知り尽くし、建設時や試運転時の苦労話を事細かにお伺いできた。  特に、投入する脱水汚泥の性状管理のご苦労や、造粒時に汚泥に混入している毛髪が繭状に成長する現象など、興味深い話を聞くことができた。

 Sさんたちの経験は、きっと、日本で最初のH社方式の乾燥造粒施設技術がとぎすまされ、さらに規模を拡大して広まっていけるという確信を感じた。(乾燥造粒技術は、各社は異なる方式で技術を競っている)

 こうしてみると、元気のよい組織には元気のよい職員がいるし、元気のよい職員がいると職場も元気よくなる。

 新技術の導入には、端から見る以上に困難なことが多いはずである。認可や予算、検査や住民説明など、技術とは一歩も二歩も離れたところで説得や理解を求める仕事が山積みしている。が、これも技術的な自信と熱意がなければ一歩も進まない。
 一方で、新しい技術にチャレンジしないで、従前の仕事だけをやっていれば、決して非難されることはない現実もある。
 むしろ、生半可チャレンジして周りからよけいなことをして迷惑していると陰口されることが多いのではないだろうか。

 それだけに、新技術が完成して、試運転のトラブルが一段落したときの喜びは大きい。その喜びを、身近にうかがえると、こちらも技術者の端くれとしてうれしいものである。



2009年 下水道技術のメッセージ (36)5月30日「クイーンズ美術館」

 ニューヨークマンハッタンの東、イーストリバーの対岸にクイーンズ地区(バラ)がある。
 ここにあるクイーンズミュージアム・オブ・アートという美術館にニューヨークの街の巨大なパノラマ模型がある。
 このパノラマは、1964年のニューヨーク万国博覧会で展示したもので、その後、都市の変化につれて改良されて現在に至っている。
 万博当時は、パノラマを使ってニューヨーク9分間のヘリコプター遊覧のシミュレーションを実演して話題を呼んだらしい。これは、おそらくヘリコプターの代わりに観客を数人ずつクレーンのようなものに乗せて、パノラマの上を移動させたのだろう。

 このニューヨークのパノラマに、最近、おもしろい企画が始まった。
 美術館は、ニューヨークのマンハッタン、クイーンズなど五つの地区(バラ)のすべての建物を再現したパノラマについて、すべての建物や橋、構造物を売りに出した。

 といっても、実際に模型の建物をパノラマからはずして売るのではなく、所有権を売るだけで、所有権の証書を提供するだけである。丁度、月や火星の土地を売り出すような手法である。
 例えば、マンハッタンのビルの一室は50ドルの値段で売りに出された。

 買い手は、自分の住んでいるアパートをパノラマ上でも保有する、というたわいない話だが、うかうかしていると誰かに買われてしまうかもしれない。
 そもそも、パノラマは美術館で50年間も維持されて続いてきている実績と信頼があるらしい。

 たわいない話のように聞こえるが、ところが、これが功を奏して、結構、所有権が売れているらしい。その結果。美術館への来客数が14%増加するという効果も生まれた。

 以上の話は、ニューヨークのセントラルパークで始めた「思い出ベンチ」に通ずるところがある。  日本でも、神社仏閣を造り替えるとき、瓦一枚ずつ庶民が寄付をする仕組みにも通ずる。
公共の施設に個人の所有を関係づけて、公園などの施設を生き生きとしたものに換えていく施策である。

 ビジネスチャンスとはこういうもの。創造的であり、楽しいものである。



2009年 下水道技術のメッセージ (35)5月28日「手作りマスク」

今日、所用で東芝本社ビルを訪れたら、新型インフルエンザ対策で、入館するときに「新型インフルエンザ患者と接触しましたか」という質問のアンケートに答えさせられた。

 街の中ではマスクをしている人がめっきり少なくなったが、東芝がBCPを忠実に履行していて感心した。一見、滑稽にも見えるが、リスクマネージメントとはこういうもの。多数決や期待で決めるものではない。

 ところで、朝のニュースで、校門で生徒を出迎えている高校の先生が、マスクをしてこない生徒に手作りのマスクを上げている姿を見て、再び感心した。
 このマスクは先生がキッチンペーパーとゴムひもで手作りでしたものであった。

 街ではマスクは売り切れて、インターネットではプレミアムのマスクが出回っている。  この中で。身近な材料で手作りで間に合わせてしまうたくましさに感心した。

 そういえば、昔、石油ショックのときにトイレットペーパーが売り切れてパニックになったことがあった。このときに、私の母は、トイレットペーパーがなくても新聞紙があるから大丈夫。昔は皆が新聞紙を使っていた、と言い切っていたことを思い出した。

 視点を変えれば、ほとんどのことが何とかなる。柔軟な視点が大切ということであった。



2009年 下水道技術のメッセージ (34)5月27日「節水トイレ」

TOTOは究極の節水トイレを発売した。
 これまでは一回の大の使用で6リッターの水を使用していたが、従来方式のフラッシュに加えて水道の圧力を活用することで5.5リッターに減らすことに成功したという。
 元々13リットルの時代が長く続いていたから大幅な節水だ。6リッターから5.5リッターに減らすのも10%も節水している。

 日本では、まだ水不足はそれほど深刻ではないが、中東や中国、米国の一部では節水トイレは貴重な存在であると思う。

 節水は世界的なニーズであるの。トイレ業界が節水を進める中、管路の腐食や汚物のつまりなど、下水道サイドの対応も求められている。



2009年 下水道技術のメッセージ (33)5月25日「NeWater」

シンガポールのニューウオーターはいよいよ最終段階に入った。
 下水処理水をMF膜とRO膜でろ過して飲料可能なレベルまでの水質にして、水道水源に利用している。これまでの経緯は以下のとおり。

 2003年、Kranji 4万トン、Bedo 3万2千トン、
 2004年、Seletar 2万4千トン、
 2006年、UluPandan 14万トン、
 2009年、Changi 22.8万トン、

 実に、日量46.4万トンもの水リサイクルが可能になる。人口が470万人だから、一人あたり100リッターほど水源を確保したことになる。

 あわせて、シンガポールでは、下水処理水を円滑に再生水として利用するために、地下70mに下水管路ネットワーク管を建設している。



2009年 下水道技術のメッセージ (32)5月19日「海外進出」

下水道分野において日本企業の海外進出はなかなかうまく進んでいません。
 もっとも大きな理由は、日本の高価格体質であるといわれていますが、本当でしょうか。

 もう一つの理由は国の支援や援助が少ない、欧米や中国、韓国に比べて少ないとされていますが。本当でしょうか。

 最近の日本企業の海外進出を見ますと、高価格であるはずの遠心脱水機などが採用されているケースが複数あります。価格競争にさらされているのは事実ですが、高品質の機器が求められているケースもあります。特に、アジア大都市の下水処理場の場合には、日本の進んだ技術が求められている局面もありそうです。

 また、国ぐるみの支援が不足しているという意見に対しては、海外進出企業が企業単位で閉ざした市場開拓をしていることも原因の一つと考えられます。船団方式は勧められませんが、下水道以外の分野で海外進出の実績のある企業が、ついでに下水道分野にも進出しているケースが見られ、企業個別の動きに終始しています。

 企業と国の支援との関係はニワトリとタマゴの関係に似ており、どちらが主な原因かはわかりにくいですが、企業として日本の共通の利益が見えにくい形になっています。



2009年 下水道技術のメッセージ (31)5月12日「体内時計」

歳を取ると時間が経つのが早くなるとはかねがね感じてきました。なぜかなと思っていたら、福岡伸一の著書「動的平衡」に一つの答えがありました。

 人には体内時計があり、時間の感覚をつかさどります。ところが、歳を取ると一般的に新陳代謝が遅くなり、体内時計の進みも遅れていく可能性があります。すると、実際の時間は不変であるから、高齢者から見ると時間が早く過ぎていくように感じる、と説いています。

 新陳代謝の早さと体内時計の進み具合が一致するという仮定がありますが、なんとなく理解できるような気もします。

 福岡伸一を離れて個人的感覚ですが、初めて歩く道は遠く感じて、よく知った道は近く感じることがあります。初めての道はどのくらい歩いたらどこまで行けるか皆目わからず、ある種の不安を抱えながら道路の状況を注意深く観察しながら歩くので長く感じます。
 しかし、帰り道は、一度観察した景色が逆回しで現れてくるので気楽に進めます。だから近く感じます。

 この場合には、体内時計ではなく注意の量の大小で距離の感覚が変わってしまうということでしょうか。
 もしかすると、体内時計についても、若い頃は経験がすくない分、注意すべき量が増え、歳を重ねるとしたり顔で注意しなければならない量が少なくなり、時間感覚が短くなるのかもしれません。

 いろいろな見方があるものです。



2009年 下水道技術のメッセージ (30)5月7日「Water Table」

最終沈殿池の汚泥が沈殿した部分と上部の清浄な部分の境界を「汚泥界面」というが、英語では「Sludge Blanket」という。汚泥界面をよく見ると、確かに毛布状に見えなくもない。おもしろい表現だ。  ところで、最近、浅野先生の「Water Reuse」を読んでいたら「Water Table」という言葉にであった。水テーブルとは何のことだろうと思い辞書を引いたら「地下水面」のことであった。地面に穴を掘っていたら地下水がわき出てきて地下水面がテーブルのように平面になったことからの比喩なのだろうか。



2008年 下水道技術のメッセージ (29)5月6日「二つの疑問」

5月の連休の合間にゴルフに出かけた。ここで二つの疑問に出会った。

 まず、電動カートの話。
 最近のゴルフ場は電動カートが完備している。白い屋根で4人乗りの電動カートである。ゴルフをプレイする者からすると、たくさん歩かなくてもゴルフが楽しめる。特に高齢者向きである。
 ゴルフ場からすると、進行時間が短くなり、一日にたくさんの客を扱えるようになる。ベルトコンベアに客を乗せているようなものである。

 でも、電動カートに乗って新緑の木々や緑になったコースの芝生をみているとすると、自分はいったい何しに遠くのゴルフ場まで来たのか、という素朴な疑問が湧く。
 スポーツをするためにに来たのなら、できるだけ自分の足で歩いて芝生の感触を楽しみたい。ボールを打ったらカートに乗って、またボールを打つのは練習場と同じではないだろうか。

 ということで、今回は1ラウンドを歩き通して快い疲労感を楽しんでいる。

 二つめの疑問は自動車。ゴルフ場へはほとんどの人が自家用車で来る。または、友人の車に便乗してくる。
 ところが、五月の連休は高速道路が1000円上限料金の導入で記録的な渋滞混雑であった。その中を車で来るから、皆、朝は早めに出かけてきたし、帰りはゴルフが終わるとシャワーも浴びずにすぐに帰路についた。

 車で来たすべての皆さんは平日は職場に電車で通っている。なぜ、ゴルフ場へ電車で来ないのだろうか。
 大きなゴルフバックを抱えて電車に乗るわけにはいかないが、最近は宅急便で、手ぶらで来られる。行きも帰りも電車で寝て来られる。最寄りの駅には倶楽部バスが迎えに来てくれる。

 結局、立派な車を持っているから車で来るということになるのではないだろうか。車があるから車で来るとすると、一見便利なようだが不便な状況を自ら選択しているのではないだろうか。
 まして、かかる費用も時間も電車の方が優れている。二酸化炭素排出量も格段に優れているし、大きな疑問であった。

 ちなみに、私は9年前に郊外から街中に引っ越し、これを機会に20年間使ってきた車を手放して車のない生活に切り替えた。これで、洗車をする手間も、車で家族を送り迎えする仕事もなくなった。



2008年 下水道技術のメッセージ (28)5月4日「動的平衡」

福岡伸一の著書「動的平衡」には、生命の基本がタンパク質の動的平衡にあるとしている。
炭水化物や脂肪は体内に蓄積できるがタンパク質は毎日60gほど摂取しないと人体は危ういらしい。摂取したタンパク質は臓器や筋肉になるだけでなく、消化酵素やホルモンとして人体の恒常性を保っているらしい。

 だから、タンパク質は摂取と排泄を繰り返して「動的平衡」、つまり生命を保っている、と解説している。

 このくだりは、都市における下水道にも当てはまる。下水管が老朽化すると下水管を更新する。
古い下水管の機能を回復するだけなら単なる更新だが、街の変化や生活スタイルの変化に対応すれば「動的平衡」になるのではないだろうか。

 たとえば水道では本管から宅内までの給水管は鉛管や鋼管からステンレス管に換えた。ガスは地震に備えてポリエチレン管に換えた。

下水管の課題は取り付け管の脆弱性だから、更正工法施工時に取り付け管の数を減らす連結マスも施工するなどの仕組みは作れないものだろうか。
 最低限でも、公設マスから本管までの間は柔軟性のある塩ビ管などで非開削、本管更正工法と同時施工のような技術はできないだろうか。
 更新しながら変化に対応していくところに、下水道の可能性がある。



2008年 下水道技術のメッセージ (27)4月25日「コラーゲン」

福岡伸一の最近の著書「動的平衡」によると、美肌によいとされているコラーゲンをいくら食べても肌はきれいにならないという。
 関節の痛みに効くというコンドロイチン硫酸やヒアウロン酸も同じ。
 なぜなら、これらの物質は体内に摂取してから消化器官で消化吸収するときに、アミノ酸に分解されて、コラーゲンやヒアウロン酸の痕跡は一切なくなるからとしている。

 コラーゲンはグリシンやプロリン、アラニンというありきたりなアミノ酸に分解されてから吸収されるのだが、これらのアミノ酸はどの食品にも含まれている。

 にもかかわらず、コラーゲンが好まれているのは、著者は「健康幻想」があると説いている。
 「体の調子が悪いのは何か重要な栄養素が不足しているせいだ」と決めつける「健康幻想」である。

 大手食品メーカーや薬品業界では、結果的に「健康幻想」を利用してコラーゲン風の商品を扱っている風がある。

   「健康幻想」の背景には、人体が小さな部品から成り立っていて、ある部品が不足すると体の調子が悪くなるという機械論的な考えがあるという。
 しかし、体の実際は、たくさんのアミノ酸が吸収され排泄されるという体を通り過ぎるプロセスの中で、体、すなわち生命が維持されているという「動的平衡」があるという。



2008年 下水道技術のメッセージ (26)4月18日「新雑誌・水と水技術」

 電気技術出版の老舗、オーム社から「水と水技術」という雑誌がお目見えした。

 「水」に対する関心が建設から維持管理に移り、電気技術の出版社が、いよいよ「水」の分野に参入してきた。

 「次世代「水」エンジニアへの情報発信」、と銘打って4月15日に登場したこの創刊号は危機管理を特集していた。
 新雑誌ということで期待を抱いてページを開いてみると、「水」のテーマであったが水道技術中心の編集であった。
 特集1は、「ウオータークライシスに備える」というテーマであるが、冒頭で「水インフラの地震防災を考える」について、片山恒雄、東京電機大学教授、粕谷明博、厚労省水道課長、田口靖、日本水道協会工務部長の水道関係者3人の座談会を掲載している。
 特集のうち、項目でいけば8割が上水、2割が下水(豪雨・浸水)関係であった。

 水に関わる次世代エンジニアは8割が上水関係ではないと思うが、オーム社の「水」に対する視点は、世間一般の視点に通じているのではないかと考えると、下水道側としては頭を抱えてしまう。
 同じ「水」を扱うのだから上水と下水は一元的にくくるべきであるという考えがあるが、本当だろうか。
 電気技術でいえば同じ電気を扱う電力と情報処理は大昔に別の道を歩き始めた。交通という土俵でも鉄道と航空機は全く別の技術体系である。無理にくくると全体が見えなくなる。
 下水道についていえば、見えにくい下水道がますます見えにくくしている一因に、今回の新雑誌のような下水道に関する注目の少なさがあるのではないかと思う。

 下水道界に大きな課題を投げかけた新雑誌登場である。



2008年 下水道技術のメッセージ (25)4月15日「世界水ビジネス」
グローバルウオータージャパンの吉村氏からのメールで、テレビ東京のeモーニングという番組で世界水ビジネスの特集をやっていることを教えていただいた。

 時間が午前9時10分からということで見にくい時間帯だが、以下のウエブサイトでいつでも再放送をみることができる。

 ただし、番組は今週だけで毎日日替わりであるから、毎日チェックする必要がある。前の日の番組は翌々日には消えてしまう。
 4月14日火曜日の番組は「深刻化する水ビジネス水道事業をめぐる攻防」。明日、水曜日は吉村氏が登場する予定。

   http://www.tv-tokyo.co.jp/emorning/



2008年 下水道技術のメッセージ (24)4月13日「温暖化対策のトレードオフ」
東京大学花木教授の「地球温暖化対策」講演会を聞く機会があった。
 そのなかで印象的であったのは「温暖化対策のトレードオフ」という最後のまとめであった。

 温暖化は全地球的問題と思われるが、その被害は実際には主に発展途上国に集中する。
 一方、水環境保全の便益は地域性が高く、かつ、人口の多い地方で便益が大きい。  特に先進国では便益が大きく、水環境への支払い意志額が大きい。

 ここに、水環境改善とCO2排出削減のトレードオフが発生する。
つまり、水環境を改善しようとすればするほどCO2排出量が増大してしまうことになる。

 花木先生の講義によると、これと類似のトレードオフの関係が世代間にもある。
 温暖化の結果生じる気候変化による損害は、世代間を超えて生じる。現世代の排出したCO2が将来世代に損害をもたらす。  現世代と将来世代との便益のトレードオフがここにもある。

   講演会の後、質疑の時に、「水環境改善がCO2排出削減に結びつくことにはならないだろうか」、という質問があった。
 先生は、水環境改善でメタンガス発生を抑制するなどのCO2削減に結びつくこともあるが、その証明や定量化が難しい、と解説された。

 温暖化対策は対策技術とともにトレードオフの対策が肝要である。

 おりしも、京都議定書が改訂時期を迎えており、途上国と先進国でCO2排出義務の設定に火花を散らしている。
 温暖化対策のトレードオフが外交手腕や大国の思惑で決まってしまうのはいかがなものかと考える。  



2008年 下水道技術のメッセージ (23)4月6日「途上国へのビジネス展開」
途上国の下水道整備では、一人当たりのGNPまだまだ少ないものの、1千万を越える人口が集中している都市は、東南アジアを初めとする途上国に数多くあり、水道施設が普及するにつれて必要度が高まっている。

 しかし、日本で培われてきた下水道技術をそのまま途上国各国に技術移転するにはいささか無理がある。その結果が、高価格高品質となって、日本の下水道技術の展開の妨げになっているきらいがある。

 そこで、途上国で必要な技術の条件を考えてみると以下のようになる。
1.不安定な電力事情
2.高価格エネルギー
3.技術メンテナンスの簡素化
4.安い人件費の活用

 これらの条件をクリアすれば、世界に傑出した技術で途上国の必要としているものであれば、高価格であっても採用される可能性がある。



2008年 下水道技術のメッセージ (22)3月30日「新幹線指定席」
関西出張の帰り、たまたま午前8時台の東京駅到着新幹線に乗り合わせることがあった。

 すると、新横浜へ到着する少し前に次のような車内アナウンスがあった。

 「新横浜から東京までの区間では、普通車指定席の空席は自由席特急券で利用できるようになっています。指定席の乗客の皆様におかれましては、ご理解とご協力をお願いします」

 新幹線にこのようなルールがあることは知らなかったが、おそらく新横浜東京間は新横浜駅から指定席で乗車する人は少なく、自由席で乗車する人は通勤の人が多いという発想だろう。
 一方、この乗車区間では新横浜で降りる客が多く、指定席が空いているという背景もあるのだろう。

 新幹線は乗客がいなければ空気を運ぶことになる。このようなサービスで自由席特急券の乗客が増えることになれば、JRも乗客もうれしい。

 なるほどなと思った次第である。



2008年 下水道技術のメッセージ (22)3月23日「コモディティ化」
昭和35年、1960年に東京都水道局が「汚いといったお嬢さん」という映画を作った。これは、当時、水道局の組織に属していた東京都の下水道部門が下水道のPRに製作した映画であった。

 このたび、ある都市の広報研修会に講師として話す機会があったので、もう一度この映画を見直してみたが、改めて20分の映画をなぞってみると、現在と大きな差のないことに驚いた。

 白黒の古めかしいフィルムから寄せられるストーリーは、あるお嬢さんがお見合いの相手に下水道の水質技師をすすめられ、、最初は下水道という言葉に毛嫌いをするのだが、話を聞いていくうちに下水道に関心をもち、下水処理場を見学して下水道の一部を理解すると、結婚しようと決意するものであった。

 映画の主題は、下水道の仕組みや重要性を理解し、下水道を受け入れてもらうことである。
 当時の状況から、江東デルタ地帯らしき軒下まで浸かった浸水の様子を映し出して、雨水排除で浸水をなくすことができると説明したり、水洗便所の接続に台所の排水を利用する「東京式水洗便所」を説明するなど、時代背景は多少異なるが、市民、都民のに対する下水道の訴え方はあまり変わらないというのが実感であった。
 むしろ、この50年間にますます下水道への関心度が低くなったという印象であった。

 下水道には、ポンプ施設を完備して浸水をなくせばなくすほど存在が遠くなる性質がある。水洗便所が完備して衛生や悪臭が改善されればされるほど利用者の認識が薄くなる性質もある。

 最近の下水道広報の方向性は、下水を浄化したり雨水を排除するのではなくて、処理水の再利用や汚泥の資源化に焦点が絞られてきている。いわば「循環のみち」で下水道の存在を示そうとしているわけである。

   この傾向を考察すると、インフラの技術や仕組みが進歩しないと、そのインフラに対する市民や国民の関心は遠のいてしまうということだろう。
 下水道では、昭和の初期に活性汚泥法が普及し始めて、それ以来、活性汚泥法を超える画期的な技術の進歩は現れていない。雨水排水についても、大型の機械式雨水ポンプは大正末に現れて、根本的な技術革新は現れていない。

 この関係は、「汚いといったお嬢さん」の映画の中にも如実に現れている。当時の昭和35年から50年たった今日でも、高度処理や汚泥の資源化など新しい技術が現れたが、下水道システムを変えるような革新にはいたっていない。
 雨水排除に関しても、大深度化や先行待機型ポンプという日本の技術革新は現れたが、雨水排水システムの根本的革新とはいえないだろう。

 根本的革新技術といえば、活性汚泥を使わない膜処理技術や雨水排除に代わる気象制御だろうか。

 いずれにしても、下水道はこのままだとますます市民の関心から離れていくもの、という視点をもって広報に取り組むことが大切である。これはインフラのコモディーティ(日用品)化である。



2008年 下水道技術のメッセージ (21)3月15日「国際活動」
国際活動に関する国総研のF部長の講演を聴いて、大変共感した。

 講演では、「なぜ日本は途上国に水関係の援助するのか」という命題に対して、次の答えを示してくれた。
 1.水は平和を担保する。水のないところでは国際テロが起こる。
 2.国際活動はThe same dimention。
 3.援助は恩恵ではなく日本国の国益のためである。

 一見、誤解されそうな見解であるが、じっくり聞けばしっかりとした合理性があった。

 1.は曽野綾子氏が「電気(土木)が世界の民主主義を進めた」と述べていたことに通じる。水力発電などで電気が供給されると人類に余裕が生まれ、ただ単に生きるだけでなく、物を考え、平和を考え、民主主義を生み出すことができるというもの。
 水とエネルギーと食料は一体のもので、水もテロ撲滅や世界の平和を担保する。
 2.は国外への対応は特別のものでなく、国内の政策と合い通じるものがあるというもの。これはThe same dimention。
 また、途上国への対応は、先進国との対応とも通じることがある、途上国への政策は先進国との関係を考えに入れないと1歩も進まない、というもの。ISOの規格など、いろいろな事例があった。これもThe same dimention。
 3.は、博愛的、恩恵的な援助は長続きしない。日本は軍事力を持たない代わりに経済援助で国の安全保障を保っている。経済的にも、途上国のインフラを構築して経済発展に寄与することは日本との安定した貿易につながり、WinWinの関係が期待できる。
 水の援助も、同じで、ある種の義務の下に行われているらしい。
これはボランティア活動にも似ている。ボランティアは人のためではなく自分自身のためである。自己実現の延長にボランティアがあるという。

 国際活動はしっかりとした哲学が必要であると考えた1時間であった。



2008年 下水道技術のメッセージ (20)3月10日「2016オリンピック」
3月9日に、国交省主催のある会合で中米ハイチの代理大使ジャン・クロード・ボード氏にお会いする機会があった。

 その席で、代理大使がネクタイピン代わりに東京都のオリンピック誘致バッチ(八角形)をつけているのを発見し、「似合っていますよ」と申し上げた。
 すると、「このバッチに興味があるかね」といいながらポケットから幾つかのバッチを取り出して私に東京都のオリンピック誘致バッチを一つプレゼントしてくれた。

ハイチ国のオリンピック委員は2016オリンピック開催都市に東京を投票するということだろうか。
  日本人の私が南米の方から誘致バッチをいただくなんてオドロキのパーティーであった。



2008年 下水道技術のメッセージ (19)3月5日「石炭火力発電所」
中国のある大学の先生と汚泥処理について話し合う機会があった。その中で、興味深い話題があった。
 中国の汚水処理は短期間にかなりの勢いで普及したが、汚泥処理の最終処分が取り残されている。それは、脱水までは到達したが、焼却プロセスの建設、維持管理コストが高いので手がつかないらしい。

 そこで考えられた方法の一つが小規模の石炭火力発電所に下水汚泥を持ち込んで焼却処分する方法である。含水率80%程度の脱水汚泥を石炭火力発電所に投入すると、そこそこ焼却できるらしい。

   これから先は推測だが、石炭火力発電所に脱水汚泥そのものを入れると猛烈な量の水蒸気が出て、みかけの熱量を下げるとともに排ガスを増加させる。熱量の低下は発電量低下につながるので、発電量低下と汚泥処分料が見合えばよいだろう。排ガス量の増加は排煙設備の容量で制限される。もし、排煙設備能力以上の水蒸気を出すと、排煙が未処理で排出されることになる。

 先生の話では、中国では、小規模の石炭火力発電所が生き残る策として脱水汚泥の焼却を試みているそうである。だから、発電量が低下してもいいらしい。とすると、石炭焚きボイラー発電機を下水汚泥焼却炉に転用するという話に通じるのかもしれない。
日本では、石炭火力発電所で炭化汚泥を処理する事業が実現している。

 先生は、コストの安い汚泥焼却はないかとおっしゃっていた。日本の焼却技術をそのまま転用するとかなり高価な施設になってしまうらしい。そこで、コストの安い亜臨界処理なども研究しているらしい。
 中国の汚泥の最終処分は、現状の脱水汚泥の放置から、固化埋め立て、焼却、資源化の流れを考えていらっしゃった。

中国の国情に合った技術開発が望まれる。 



2008年 下水道技術のメッセージ (18)3月1日「知的財産権」
ある調査機関から知的財産権についてのヒアリングを受けた。
 そのときに、弁理士の資格を持つ調査員から面白い質問があった。

 一つは、「日本の下水道はどこの国の影響を受けてできたか」という質問で、普段は考えても見ないことであった。
 そこで明治時代のお抱え外国人技術者を思い浮かべて「英国」と答えた。なお、「戦後は米国の下水道技術の影響も受けている」と答えておいた。

 すると調査員は「英国」の流れは「米国」に移りやすい。特許法も同じで「ドイツ」の体系と「英国」の体系とでは大きく異なり、「英国の体系は米国に近い」と述べていた。

 もう一つの面白い点は、知的財産権の関連で下水道機構が行っている下水道建設技術審査証明に大きな関心を持って質問していたことである。

 特許法や著作権法などの知的財産権を保護する法律は、権利の保護と技術の普及の二つの目的がある。しかし、前者の目的が前面に出ており、公開する当てのない「防衛特許」や、あえて技術をさらしたくない「特許不申請」など、制度上のゆがみも出ている。

 そこで、技術の普及のみを目的として、公的機関でギャランティを与える審査証明制度が注目されているということである。
 審査証明制度は、本来、製造者又は発注者が自分自身で確認すべき技術的妥当性を下水道機構が代替する制度である。具体的には、企業が新製品の性能確認を求める時、企業の申し出に応じて第三者の入った委員会でその製品の性能を技術的に確認するものである。

 自治体が新技術を採用する時には、英語検定や漢字検定のように権威付けのニーズがありそうである。



2008年 下水道技術のメッセージ (17)2月28日「下水道普及率」
世界の下水道普及率を調べていて、途上国では、この分野のデーターがほとんどないことに気づいた。そもそも、普及率という概念は一様ではなくて様々である。日本で採用している人口普及率が当たり前と思っていたが、下水処理場ができれば管路は未整備でも普及とみなしている場合や、都市河川を幹線とみなして川の水を浄化して普及とみなしている例など、様々のようである。

 ところが、水道の普及率データーは結構そろっている。これは水道、下水道の国民へのアクセスの違いなのだろう。
 そこで、水道普及率で下水道普及率を推察できないかと考えている。
 水道が普及すると下水道も続いて普及する。その逆はない。水道が普及すると、水先便所を初め、水需要が一気に増大して衛生的で豊かな生活になる。すると排水量も増えて水環境を悪化させ、水源を汚染して下水道の出番となる。

 途上国が下水道を求めるもう一つのケースは雨水排水である。頻繁の洪水を防ぐために雨水ポンプ場を中心に下水道整備を進めている。こちらは普及率の概念はますます遠くなる。



2008年 下水道技術のメッセージ (16)2月24日「おくりびと」
「おくりびと」が米国アカデミー賞外国語部門賞を取った。  日本では何十年も前に一度だけ「宮本武蔵」という映画で取って以来の快挙であった。  このホームページでも2月3日付けにコメントしたが、死という人間共通のテーマをまじめに誇り高く、かつユーモアを交えて取り上げたことが高く評価されたのだろう。

 あわせて、映画の中では山形県の酒田市の情景が美しく取り上げられている。極寒の丹頂鶴や新緑のあぜ道、夏のせせらぎなど、日本の原風景がチェロの響きとともに美しく描かれており、死への尊厳と重なって、心に残るメッセージを発していた。

 私はこの映画を下水道という職業と重ねて見て、大いに共感を得た。日本がこのような世界に通用する文化芸術を創造できるようになったのは社会が成熟してきたことを示している。下水道の分野でも国際貢献、下水道の文化を移転できるようにしたいものである。



2008年 下水道技術のメッセージ (15)2月23日「下水道からのリン回収」
2月20日に「下水道からのリン回収」のセミナーがあった。そのなかでゲストスピーカーの京都大学津野教授は、リン回収については以下の5点が重点であると述べた。
1.分散資源としての収集システム
2.統合システム
3.安定供給
4.回収の前提となる財産があること
5.都市の資源回収の核となること

 そのあとで、新たな発想で技術開発を進めるべきであるとして以下のコメントをされた。
1.除去から回収への技術の変化
2.品質のよいものを目指す
3.高度処理など、下水道の役割をふまえて資源の循環を進める

 他の発表者の論調も含めると、
・リンは農業に不可欠の物質であるが、価格高騰して困っている
・下水道のリン回収ポテンシャルは年4万トンで輸入量の10%近い
・畜産廃棄物や土壌中のリンを回収するのに比べて下水は回収しやすい
・分散処理にはMAP法がよい、地産池消に向いている ・集中処理には焼却灰からの回収がよい
などのスピーチがあった

 リン回収は「できる」から「事業化する」に移りつつある。最近のリン資源の価格高騰は下水道のリン回収には追い風だが、商品相場に浮かれてはいけない。堅実な技術開発と下水道の役割をふまえた上での事業化が望まれる。



2008年 下水道技術のメッセージ (14)2月15日「ABCマート」
 2月15日の朝にNHKの経済展望という番組の中で、靴の全国チェーンストア「ABCマート」の社長が出演していた。

 ABCマートは、最近全国に展開している成長小売店で、番組の中で成長の秘訣を明らかにしていた。

 それは、店員が次の行動を自発的に行っているかららしい。
1.客が商品に触れたら、作業をしながら自然に近づいて話しかける。
2.商品の説明は自分の経験や体験に基づいて話す。
3.靴を買うことになったら、レジでもう一品商品をすすめる。

 客は買いたい時は店員の説明を聞きたい時もあるし、聞きたくない時もある。客の要求と合わないときは自分の作業をやっているフリをしてやり過ごす。
また、決して小さい靴から先に薦めない。必ず大き目の靴を試着してもらい、小さくして足に合った靴を選ぶようにするそうである。この方が、小さい靴を最初に試着するより満足度が高いそうである。
いわれてみればそんな気もするが、よくきめ細かく対応しているものだと感心した。

 店員はいつも、靴に関心を持ち、マニュアルに頼らないで自分の言葉で話しかける。
 最後に、5千円の靴を買ったら500円の防水スプレーを薦めて売り上げに貢献する。客は、満足感のある靴を安く買えたと感じたら1割くらいの買い物の追加は無駄使いだとは思わない。

 また、ABCマートは、狭い地域に何軒も出店するそうである。靴は在庫が多量になるが、各店舗で持ち合うことにより、在庫を融通できるので倉庫機能は少なくてすむ。ただし、他の店舗の在庫を取り寄せる時には、客に待っていてもらい、若い店員が走って取りにいく。取りにいけるような距離に店舗を展開するということである。
 「明日までにお取り寄せします」というチェーンストアはいくらでもあるが、走って取ってくる店は少ない。客は買いたい時に手に入れたい。翌日では気が変わる。

 狭い地域に集中的にチェーンストアを展開するのはコンビニの出店に似ている。コンビには商品のデリバリーの集約化・効率化をねらって高密度に店舗を展開する。ABCマートもこの事例にならったのだろう。

 このような企業努力の結果、社会の消費が低迷している中で今年度は黒字決算の見込みだそうである。

 元気のある企業は、いろいろと工夫を重ねている。



2008年 下水道技術のメッセージ (13)2月11日「汚泥炭化炉」
(2009.2.10。15:50 東京都東部スラッジプラント汚泥炭化施設全景)

 2009年2月10日火曜日に、東京都下水道局東部スラッジプラントの炭化施設を視察した。  この施設は、稼動1年を向かえ、順調に運転していた。
 ここでは、従来からある3基の汚泥焼却炉(日量300t×3基)に並んで写真のような炭化施設(日量100t×3基)があった。写真のストラクチャー(構造物)の中に3基の炭化施設が並列に設置してある。

   写真では左から、ケーキ乾燥機、炭化炉(ロータリーキルン)、乾燥機燃焼炉(乾燥機で使う乾燥ガスを製造する)、排煙処理塔とある。
後方の大きな煙突は、焼却炉の分も含めた巨大な集合煙突で、遠方からもよく目立つ。

 炭化汚泥の原料となる脱水ケーキは、写真にはないが左側の脱水施設からパイプ圧力搬送で供給されて炭化処理される。
   そして製造された炭化物は、施設内で製造された窒素ガスの雰囲気の中で、こちらも写真にはないが右側にある炭化物ホッパーまでパイプで空気搬送して貯留される。

 この施設は石炭火力発電所に炭化汚泥を燃料として供給する日本で最初のものである。東京都下水道局はバイオ燃料社に脱水汚泥を供給し、バイオ燃料社はこれを炭化して火力発電所に売却している。

炭化温度は600℃程度、炭化物の発熱量は3000kcal前後あり、一日に一度、専用のローリー車で石炭火力発電所まで輸送している。

   現地の担当者の話によると、炭化物に付着する残留ガスの対応など、プラントメンテナンスについての様々な改善がなされてきたそうである。

 昔にも、汚泥焼却炉が下水道事業に始めて利用された時には色々なトラブルが生じて、問題解決をした。
 例えば、脱水ケーキを焼却炉に投入する時に塊で入ってしまって未燃となったり、燃焼するフリーボードという箇所が高温になりすぎて焼却灰が溶融してしまって炉壁に付着したりした。焼却炉を起動するときに未燃ガスが残留していて小さな爆発を起こしたこともあった。
 このように、汚泥焼却炉ではこれでもかというくらいのトラブルが出続けた。これらのトラブルを一つ一つ解決した結果、現在の安定した運転がある。

 新技術は、生みの苦しみと育ての苦しみがあるが、その結果、貴重な技術ノウハウとして蓄積される。そのひとひら(一片)を炭化施設に見た思いがした。

 この駅伝大会が続く限り、下水道は発展していくであろうと感じた。



2008年 下水道技術のメッセージ (12)2月8日「下水道職員健康駅伝」
(健康駅伝のスタート、右下のスターターがピストルを掲げている)

  2月7日土曜日に、横浜市の日産スタジアムで下水道職員健康駅伝大会が開かれた。
 幸いにも好天に恵まれて暖かい日差しの中、たくさんの職員が頑張った。
 出場チームは191チーム、1チーム8人が走るから選手だけで1500名以上の大所帯だった。

 競技の結果は、第一位は昨年に続いて名古屋市が獲得した。最後の走者が数人を抜き去っての優勝はお見事だった。
 第二位は神奈川県相模原土木事務所、第三位は川崎市だった。

 その後の順位は、第四位福岡市、第五位東京都スーパーみやこどり、第六位さいたま市、第七位横須賀市、第八位横浜市、第九位東京都下水道サービス、第十位東京都東部第二下水道事務所だった。

 このような下水道という共通項で多くの人が一同に会して毎年駅伝大会をしている例は他にはないだろう。毎年スタッフを担当していただいている神奈川県庁、横浜市役所には感謝である。また、九州や関西、東北など遠路からいらっしゃった皆様にも感謝である。

 この駅伝大会が続く限り、下水道は発展していくであろうと感じた。

なお、日産スタジアムは来週の2月11日には日本とオーストラリアのゲームが控えている。写真の後方の光は、サッカー用の芝を覆っているビニール。



2008年 下水道技術のメッセージ (11)2月7日「マスク」
インフルエンザの予防はワクチン注射がもっとも有効とされている。その上でマスクの装着や手洗い、うがいが効果的である。

 電車の中では5人に1人は大きなマスクをしている。インフルエンザは飛まつ感染で伝染するから、患者の飛まつを吸い込まないようにすることが肝要である。マスクは咳などで空気中に飛び出た飛まつを防いでくれる。

 マスクの機能は飛まつを防ぐだけではなく、呼気の湿気を吸気に伝えて湿り気のある吸気とする。これもきっとインフルエンザ・ウイルス対策に貢献しているはずである。

 マスクの問題は大げさなこと、顔を半分も隠してしまうことである。もっとコンパクトでデザイン性があり、装着してもわずらわしくなく快適なマスクがあると大いに売れるはずである。
 ニーズはあるがシーズがないのはビジネスチャンスの基本。いずれipodのように新型マスクが街に氾濫するだろう。



2008年 下水道技術のメッセージ (10)2月3日「おくりびと」
 本木雅弘主演の「おくりびと」の映画が話題を呼んでいる。
 この映画は納棺士を描いたもので、人生最後の旅立ちを支える職業の物語である。

 主人公はひょうんなことからチェロ演奏家の職を失い、ひょんなことから故郷の山形で納棺士の仕事に就く。
 納棺士は映画では忌み嫌う職業として描かれて、納棺士になった主人公は悩む。しかし、死者に対する尊厳を見失わず、仕事の意義を見出し、葬儀時に親族から心からの「ありがとう」というひと言に目覚める姿があった。
 最後は30年も音沙汰のなかった父親に、死に化粧を施してやることで幕を閉じた。

 おりしも世界同時不況の真っ只中で、職を失い路頭に迷ったり1ランクも2ランクも収入の低い職業に再就職する人がたくさんいる中で、この映画が高く評価されているのだろう。
 映画の企画は2年前というから、結果的には先見性があり、運のよい映画ともいえる。運も実力のうち、ということだろうか。

 この映画は、なぜか下水道の維持管理の仕事と重ねて見えた。維持管理の仕事は監視室でボタンを押すだけではない。機械が壊れたら泥にまみれて修理しなければならないし、下水管の中を点検しなければならない。
 帰りの電車では体にしみついた汚泥の臭いを気にしなければならない。

 「おくりびと」と下水道維持管理とに共通することは仕事に誇りを持つことである。
「おくりびと」は死者を尊ぶ心であり、下水道の維持管理は下水に価値を見出すことである。
 両方とも、誰かがやらなければならない仕事であるし、仕事に誇りと意義をもたなければ続かない仕事でもある。

 「おくりびと」は死者に対する尊厳や仕事に対する誇りが高く評価されてヨーロッパのモントリオール映画祭でグランプリを取った。さらに、1月22日には米国アカデミー賞外国語映画賞部門のノミネート5作品にも選ばれた。  



2008年 下水道技術のメッセージ (9)2月1日「撤退と拡張」
人口減少社会の進行の中で、社会インフラの縮小が課題になっている。

 過疎化した地域では鉄道が廃止されてバス路線に代わった。定住人口が減ると鉄道を維持できなくなったことが原因である。
 これと同じように、人口が減ると下水道も維持できなくなることが想定される。この場合に、どのように下水道を撤退するかのビジネスモデルは、まだない。
 管きょは砂を詰めて埋め戻すのだろうか。下水処理場は、建設時には段階的に拡張してきたから、撤退する時には段階的に施設を休止、廃止していくことになるのだろうか。

 高齢化と人口減少の急激な進行の行く末は、人口の都市集中が一層進む可能性がある。
それは、高齢化は地方で激化しており、若手労働力は大都市に集中する傾向にあるからである。この結果、下水道の縮小が進む一方で、大都大市においては下大都市への下水道処理能力の不足の事態に進むかもしれない。

 下水道の撤退と高効率化の需要が同時進行する難しい局面に立っている。



2008年 下水道技術のメッセージ (8)1月31-2日「殺人事件」
最近、ニュースをチェックしていて気になることがある。例えば、殺人事件があったとすると加害者も被害者も60歳以上の高齢者、というケースが目立っている。社会を騒がしている事件に高齢者が関わることが多いということは、いよいよ高齢化社会が到来して良くも悪くも高齢者が大きな役割を占めるようになったことである。

 殺人事件のような大それた犯罪は、切羽詰った状況や動機、殺意、凶器などある種のエネルギーが要る。高齢になると、この種のエネルギーは減退するはずだが、これが変わってきたということだろうか。

 一方、総務省の人口統計によると、平成19年度のセンサスでは5歳区分の人口年齢構成で55歳から59歳までの部分が各人口区分の中で最大で10,433,000人であった。79歳以下で最小は0歳から4歳で5,875,000人であるから最大の半分ほどである。
 高齢者の殺人事件が多いということは、この人口構成がセンサスから3年たって60歳代に移ってきたということだろうか。

人口数とエネルギーがいよいよ高齢部分に移ってきた。世界がはじめて経験する高齢化社会の渦中にある。



2008年 下水道技術のメッセージ (8)1月31日「1月30日の行事」
1月30日午後には、国交省で「下水道法制50周年」の記念式典が開催された。当日は全国から下水道関係者が国交省に集まり、「循環のみち下水道賞」などの表彰式もあわせて盛大に行われた。

 昭和33年に現在の下水道法が制定されて以来、50年間で日本の下水道は70%強の普及率となり、建設から維持管理、更新への段階に達した。

 同じ時間に、 東京の中央大学キャンバスでは「水の安全保障機構」を設立する記念式典が開かれていた。こちらは下水道の国際協力を目指した組織で、今後展開するところの海外援助、技術協力、企業進出などに国内の幅広い力を結集しようとする組織である。

 併せて、同じ時間に東京都市ヶ谷の電気学会本部で電気学会産業応用部門公共施設技術委員会の設立20周年記念座談会が開かれた。こちらはスケールは小さいが、公共事業に携わる産官学の電気技術者が集まり、20年間の足跡をかみ締めた。

 たまたま1月30日に集中したが、いずれの集まりも下水道に大きな思いを持った多くの皆さんの決意表明であった。



2008年 下水道技術のメッセージ (8)1月26日「百歳王」
横浜の有燐堂で百歳王「笑顔のクスリ」という写真展をやっていた。
小野庄一の写真展で、全国の百歳以上のお年寄り百人の写真展であった。

しわの刻まれたお年寄りの顔は、ある種の尊厳と風雪が刻み込まれていた。 そのなかで次のコメントがあった。

「昔はお嬢様、今はボケばばあ。でもね、年寄りがぼけなきゃ若い者の価値がないからね(笑)」とあった。

 百歳のおばあさんがいった言葉だが、彼女も昔は若い者であった。人生を経てきた重みのあるひと言であった。

 というのは、以下の「倒木更新」という随筆を月刊下水道誌に書いたことがあったので、身にしみた言葉であった。

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「倒木更新」
「草原が低木林を経て安定したブナ、カシなどの樹木が優占する陰樹(日陰でも成長できる種類の樹木)林に変化することを植生遷移という。この最終段階を極相(クライマックス)とよび、豊かな森林となる。」 以上は何十年か前に高校の生物学で習った植生遷移のくだりですが、最近、知床の自然を紹介するテレビ番組で「倒木更新」という言葉を知りました。そのときに植生遷移を思い出しました。

「倒木更新」は老木が朽ちて倒れると、その幹の上に種が落ちて新しい芽を出し、苗が伸びていくこと。倒れた老木は朽(く)ちるだけですが、朽ちた幹にはコケがはえて適度な湿気と養分があるので種が発芽します。その上、倒木すると森に空間ができて太陽光が地表に届きます。

(倒木更新の形跡が残っている:木が一列に並んでいる)

最も重要な点は倒れた幹が地表よりも少し上にあることです。極相に達した森林は熊笹などの下草が豊富で、地表に着地した種には日差しが届かずに発芽しにくいものです。笹の下の日差し照射量は笹の上の百分の一だそうです。この点、倒木の幹は下草に覆いかぶさるような形になっています。

また、冬になると森林の地表には雪枯れ菌が優占して種や苗を蝕みますが、朽ちた老木はこの妨害からも種や苗を守る苗床になっています。独立行政法人森林総合研究所の平成9年度報告書によりますと、「落葉には暗色雪腐れ病菌が多く住んでおり,冬の間に稚樹や種子を枯死させる。倒木は養分の乏しさゆえに無菌的な条件を作り,発芽しやすい環境を作るようである。」としています。

もし、「倒木更新」がないと栄えている森林は、繁栄しているが故に地表に光が届かなくなり、豊富な落ち葉で地表を覆い、結果的に森林が再生できずに世代交代が途切れてしまう可能性があります。そもそも植生遷移は優占種が次々と入れ替わり最後に陰樹(ブナやカシ)が進出して極相にいたるというシナリオです。極相は比較的に安定していますが、このタフな陰樹でも再生しなければ消失してしまいます。極相が変化しない保証はありません。

 極相の安定を保っているものの一つが「倒木更新」です。朽ちてなお、老木が森林の世代交代の重要な役割を果たしているとは驚きでした。老人が後進に道を譲るようなものです。世間には、古くなって何の役にもたたないと思われているものが人知れず消えていくことがあります。
しかし、不要とみえるものでも注意してみると少なからずなにがしかの役割を果たしていることが多いです。

2007年を迎えて段階の世代の大量退職が話題になっています。筆者もその世代の一人ですが、今、何ができるでしょうか。倒木更新の教えを解釈すると、若手技術者の育成であり会得した技術の伝承です。

「倒木更新」の番組を見ながらこのようなことが駆け巡りました。
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2008年 下水道技術のメッセージ (7)1月25日「下水汚泥の資源化、リン回収」
下水汚泥の資源化で、コンポストやレンガ、溶融スラグなどがあるが、なかなか普及しない。なぜか。

 まず、これらの製品は下水資源化が新規参入であり、既存の製品があるので価格相場がある。したがって、相場よりコストが高ければ普及は望めない。コストを下げるには規模を大きくするのが近道だが、規模を大きくすると製品を売り切るのに苦労が生じる。規模が小さければ周辺で利用できるが大きくなると流通を考えなければならなくなる。

 つまり、規模、コスト、買い手の三つの要素がうまく関係していないことによる。

 そこで下水道からのリン回収を考えてみる。リン鉱石の価格は一時高騰したが、最近は落ち着いている。
 余談だが、昨年秋のリン鉱石価格高騰の時は朝日新聞などのマスコミが大きく取り上げて騒然となったが、最近の沈静化については何も報じていない。このようなマスコミの特性には注意しておかなければならない。

リン鉱石の用途は、大部分が肥料だが、下水道から回収したリンを肥料工場に持ち込むには、工場との距離、リン鉱石の相場などが関係して、コストを大幅にさげないと商業ベースにのらない。
 そこで、リンを下水に排出した地元で使う方法が一つの打開策になる。地産地消、地域リサイクル、地域クローズト、というコンセプトである。
 農地ではなく、都市の中の公園や学校、近郊のゴルフ場など、に使うと有害成分へのハードルも低くなる。

 この場合の難しさは、コンポストと似ていて、価格の問題に加えて、規模の利益が望めないこと、リンの消費時期が偏ることなどがある。
 最近は小中学校の校庭を芝生化するところが増えてきた。このようなところに下水道のリンが使われることが望ましい。りんなど、下水汚泥の資源化は、まず、地域内での需要を探したり作り出すところからはじめる必要がある。下水汚泥の資源化は、資源一般として扱うのではなく、需要先を「始点」とした地域還元、地域リサイクルの「視点」が必要である。



2008年 下水道技術のメッセージ (6)1月19日「相棒・絶体絶命42.195km,劇場版DVD」
昨年初夏に公開された人気映画「相棒、絶体絶命42.195km」が2008年10月にDVD化された。  遅ればせながら、最近、このDVDを見て、最初の導入部に懐かしい施設が現れた。

 導入部は、東京新宿の都庁舎の空撮から始まって、空撮画面は甲州街道を西に進み多摩川にでた。さらに多摩丘陵を進んでいくと、遠方に赤白の鉄塔が見えた。さらに進んでいくと鉄塔の上には白いドームがあり、その下には見覚えのある南多摩水再生センターがあった。
 この鉄塔は、東京都が昭和63年に建設して現在運用している東京アメッシュの稲城レーダーサイトであった。こんなところにレーダー雨量計が現れるとは予想外であった。

 ストーリーはこの鉄塔に人が殺されて吊り下げられているところから始まる。DVDでは、この鉄塔を「テレビ塔」と説明していたが、上の白いドームの中には直径3mのレーダーが回転しており、テレビ塔ではない。

 DVDの最後には、協力団体のリストに東京都下水道局稲城レーダと多摩衛生組合の名前が出ていた。多摩衛生組合はレーダーサイトの下の通路が同組合のし尿処理施設につながっており、ここでロケをやったので関係していた。

 稲城レーダサイトは、都内港区にある東芝本社ビル屋上に設置してあるレーダ雨量計と連動して都内の降雨観測に寄与し続けている。稲城レーダーサイトは、桜ヶ丘カントリークラブや米軍のサービス補助施設、米軍のゴルフ場などがあるさびしい場所にあり、殺人事件現場としては格好の場である。



2008年 下水道技術のメッセージ (6)1月17日「海外水リサイクルシステム協議会」
1月16日に「海外水リサイクルシステム協議会」が発足した。

 これは、国内28社が集まり、水関係事業の海外展開を図るものである。
 理事長は日立製作所、副理事長は鹿島、東レ、三菱商事、という布陣である。

 発足式の挨拶で、理事長の桑原日立製作所顧問は、
   「水問題が世界的な事業になる」
   「国でもチーム日本が動き出した」
   「積極的かつ慎重に展開していきたい」
   「海外契約はコンセッション契約(事業権契約)が主流になる」
   「コンセッションは水分野以外にも広がる」
   「2009年には対象場所を決める」
   「2010年にはJVやSPCで事業を検証する」 
 と抱負を述べた。

 この協議会は、12月初めの準備会の頃は14社であったから、倍に増えた。今後、さらに膨らむだろう。



2008年 下水道技術のメッセージ (5)1月12日「携帯電誘拐事件」
(無数のオートバイはベトナムの活力を象徴している)

 ベトナム、ホーチミン市での話題(1)
 日本の会社員が、ハノイ出張中に携帯電話をタクシーに置き忘れました。もう出てこないとあきらめていましたが、念のためにその携帯電話に電話をかけてみました。すると、見事通じたそうです。
 しかし、どうもそのタクシーの運転手のようですが、拾った人は会社員に、「この電話を返して欲しかったら100万ドン(1万円)払え。警察に話したらこの携帯電話は返さない。」と脅してきました。

 その会社員は、考えてベトナム人の秘書に相談しました。ドコモの電話機はどうでもいいのですが、登録した電話番号やメールアドレスはお金には代えられない価値があります。
 すると、その秘書が交渉を買って出て、結局、90万ドンで手を打ち、某所でお金を払って携帯電話を取り戻してきたそうです。
(あちらこちらでデジカメで記念写真を撮っている)

ベトナム、ホーチミン市での話題(2)
 民主主義の前提には電化がある、と曽根綾子氏は言っていました。  この類似でいくと、ベトナムの大衆化、民主主義の台頭にはオートバイがあるような気がします。
 もう一つのアイテムはデジカメです。ホーチミン市のあちこちで、ホーチミン市民が繰り出してデジカメで記念写真を撮っていました。
 家族全員を小さなオートバイに乗せて街に繰り出し、記念写真を写して喜び合う姿は、ベトナムの幸せを示唆しているように思えました。

 市民、国民の幸福は国家の目的です。しかし、実現の方法は各国とも多種多様です。ベトナム流の方法の一部が垣間見れたと信じて帰国しました。



2008年 下水道技術のメッセージ (4)1月8日「レーダー雨量計」
朝日新聞と読売新聞に、国交省河川局が全国10箇所にXバンドレーダー雨量計を30億円で設置するとの記事が掲載されていた。

 このレーダーは、これまで都市が下水道用に設置したものと同様の機種。  全国一斉というところが注意を引いた。



2008年 下水道技術のメッセージ (3)1月6日「ベトナムコーヒー」
年末に、ホーチミン市で生まれて初めてベトナムコーヒーをいただいた。
 ハイランドコーヒーというチェーン店に入り、メニューには普通のコーヒーやカフェラテ、カプチーノなどがあるが、下のほうにあったオールドタイプというのを注文した。

(ホーチミン市にはしゃれたカフェがたくさんある)

 しばらく待っていると、コーヒーカップが二つ出てきた。一つには濃いコーヒーが四分目くらい入っている。もう一つのカップにはお湯だけが入っている。
 コーヒーのカップをかき混ぜると、カップの底にはたっぷりとコンデンスミルクが入っていて、スプーンでかき混ぜていただくと、たっぷりと甘い。
 これにコーヒーの苦味が混ざって、まるでチョコレートを飲んでいるような刺激が口の中に広がる。
 そこで、もう一つのカップに入っている白湯で口をゆすぎながらベトナムコーヒーをいただいた。まるで、ウイスキーをストレートで飲んで、水で口をゆすぐような感じであった。

 何回か、甘み、苦味、口ゆすぎを繰り返しているうちに、コーヒーの味が、白湯で口をゆすぐ時に快く感じることを発見した。これぞベトナムコーヒーの極意、と得意になって店をでた。

 ところが、あとで、現地に駐在している方にうかがってみると、二つ目のカップの白湯は、ベトナムコーヒーを好みによって薄めて飲むためにあるそうであった。
 私の極意は一瞬で崩れてしまった。  



2008年 下水道技術のメッセージ (2)1月4日「サバイバビリティ」
元旦の日経で京都大学の松本総長が、世界はサステナビリティ(持続可能性)からサバイバビリティ(生き残る力)に移るといっていた。

 そのためには生存基盤学や弱肉強食の世界にならないような生存学が必要としている。その中で、日本の特筆として高い技術と勤勉さで世界に貢献できると期待している。

 すると、日本では自動車のなくなる時代、新聞のなくなる時代、電話のなくなる時代が来るかもしれない。生き残るためのパラダイムとは、劇的なものになるかもしれない。

 人口爆発や水戦争、資源の枯渇は誰の目にもあきらかである。誰の目にも見える世界ビジョンが求められている。



2008年 下水道技術のメッセージ (1)1月1日「元旦」
 新年、明けましておめでとうございます。

   昨年一月三日に新春恒例の箱根駅伝を沿道で観戦しました。
 選手が全力をふりしぼって駆け抜ける姿や応援車からの力強い掛け声はテレビでは伝わらない臨場感がありました。結果は駒大の総合優勝で幕を閉じましたが沿道では開催者の読売新聞社が応援用に小いさな旗を配っていました。

 小旗の下部には「街の美化のため、捨てずにお持ち帰りください」と注意書きがありましたが驚いたのはその下に「箱根駅伝懸賞応募券」が印刷されていたことでした。
 これを切り取って葉書に貼り付けて新聞社に送ると、抽選で箱根の有名ホテル小湧園宿泊券が当たります。つまり、駅伝が終わったあと、観衆が小旗を道路に捨てずに家に持ち帰ってもらうための工夫で、その巧みさに感心しました。

 この関係は個人と公との関係に通じます。例えば水害時には降雨情報を迅速に伝えることで、市民一人一人の自助努力を発動して被害を減らせます。
 個人と公との間で個人の役割を引き出して自助と公助のバランスをとる事が肝心です。



2008年 下水道技術のメッセージ (77)12月30日「ベトナム・その2」
無数のオートバイが押し寄せてくるとある種の圧力や恐怖を感じるものだが、ホーチミンの群集にはそれを感じない。
 それは、オートバイを運転している皆さんが笑顔であふれているからだ。深刻な顔をしている人はほとんど見かけなかった。家族や恋人を乗せてオートバイで移動を楽しんでいるという人がほとんどであった。

 12月23日にはベトナムとシンガポールのサッカーの夜間試合があったが、どうやらベトナムが勝ったらしい。すると、ホーチミン市の中心街は、ベトナムの大きな国旗を掲げたオートバイが大勢街に繰り出して練り歩いていた。オートバイの後部座席に座った男性が両手で大きな国旗を掲げている。よく振り落とされないものと感心した。

 日本で深夜に日の丸を掲げて走るオートバイは暴走族だが、ベトナムの暴走族はきわめて行儀がよい。深夜まで騒いでいたが、全員がヘルメットをきちんとかぶり、基本的には信号も守る。基本的といったのは、オートバイの数が圧倒的に多すぎて、信号を守りたくても守れない状況が多発していたからである。服装も普通の若者風であった。

 なお、ベトナムではヘルメット着用は、最近法律で義務付けられた。義務違反者には罰金が科せられている。すると、短い期間にほぼ全員が着用を始めたらしい。地元にすんでいる日本の駐在員の話によると、ベトナムの皆さんは罰金というとすぐに徹底するらしい。

なお、現地に4日間滞在していたが、警察官の姿はほとんど見受けられなかった。私の経験では、街で警察官の姿が見受けられない国は安全である。逆に警察官の多い国は犯罪の兆しが強い。したがってベトナムは比較的安全な国であると感じた。

 暴走族風といい、ヘルメット着用といい、ベトナムの皆さんはルールを守る国民であると感じた。



2008年 下水道技術のメッセージ (76)12月29日「ベトナム」
機会があり、12月の下旬にベトナム・ホーチミン市を訪れた。
ここで驚いたのはオートバイの大群が、街のあちこちに群がっていることだった。
ホーチミン市は通称1千万人の市民がいるらしいが、オートバイは500万台あるという。2人に1台の普及率は驚異的な数である。お金のある人は日本のホンダを買うが、お金のない人は中国製で間に合わせるらしい。

 道路を横断する時は大勢のオートバイをかき分けて横断歩道を渡らなければならない。最初は恐る恐るであったが、慣れてくるとコツをつかんだ。
 決して走らず、決して止まらず、ゆっくりとした速さで歩いていけばオートバイは勝手によけて行ってくれる。オートバイは即座にハンドルが切れるので歩行者は決してオートバイを避けようとしてはいけない。
 このコツをつかむと道路横断は怖くなくなり、むしろ楽しくなってきた。  色々なコンセンサスがあるものだ。



2008年 下水道技術のメッセージ (76)12月17日「顔写真」
 月刊下水道1月号に広報戦略の話を投稿した。  その中で「職員の顔写真を季刊誌などに示すことが組織の信頼につながる」と書いたら、月刊下水道の表紙にカラーで顔写真が掲載されてしまった。

 野菜などの販売にも、生産者の名前や顔写真をつけると信頼を得られてよく売れるらしい。
 信頼は人と物との間には成立しにくい。しかし、人と人の間には成り立つ。信頼は名前よりは顔写真の方が効果がある。そして顔写真をかざすよりは挨拶を交わす方が優れているし、挨拶を交わすよりはおしゃべりをする方がさらに信用度が倍加する。

 要するにコミュニケーションは相互の信頼の上で成り立っているということらしい。



2008年 下水道技術のメッセージ (75)12月6日「ユニクロ」
売り上げが頭打ちであったユニクロで、最近再び売り上げが伸びている。サブプライムによる世界不景気の結果、安くて機能の十分なユニクロの衣料品が見直されていることになる。

 そもそも、ユニクロは中国の安価な労働力を駆使して大量生産して安価で機能的な衣料品を世に出して一世を風靡した。しかし、街中にユニクロのフリーズがあふれると、「同じものを身に着けるのは個性がない」、というマーケットに忌避されて急激に売り上げが減少してしまった。

 その後、ユニクロは色々と工夫を重ねていった。例えば、同じデザインでも色の種類をたくさん用意したり、カシミヤなどの高級素材を取り揃えるなど画一化のジレンマから逃れようと努力した。

 そこに現れた不況がユニクロをもう一度押し上げたということになる。

 なお、筆者は今年の夏にニューヨークにあるユニクロの店を訪れた。そこでは、日本より高級感の店で、Tシャツがたくさん飾ってあった。その中でも目に付いたのは日本のアニメの絵柄を刷ったTシャツで、壁一面に山ほどのジャパニメーションのTシャツが飾られていた。

 色々な試みが生き残りの道である。環境の変化に応じて自分も変わる。これを多様性というのだろう。



2008年 下水道技術のメッセージ (74)11月29日「担体利用その2」
担体添加セミナーで新しくアナウンスされたことに、担体の目減りがある。

 担体は24時間エアレーションタンクで撹拌されているので磨耗などで目減りするとされていた。メーカーもユーザーも経験のない初期には、この目減りが数%から10%近くあると推測されていたが、セミナーでの各社やユーザーの報告ではほとんどないとのことであった。10年以上担体を使用している川崎市の話では、担体の補充は1年間にわずか0.4%に過ぎない。

 消費エネルギーの増大については、担体による硝化がもっぱら活性汚泥が不活発になる冬季に機能することから、担体量を夏季には減量し、冬季には増量することやMLSS濃度を少なくした運転を徹底することなど、担体特有の性質を省エネルギーに導く管理が望まれる。
また、散気装置が微細気泡に移行する中で、微細気泡と担体の関係、さらにはマイクロバブルとの関係など省エネルギーと高度処理の関係に担体がかかわる可能性がある。

 スクリーンの詰まりは担体を使う限りついてくる課題で、これまでもエアレーションタンクの水流を工夫するなどオンサイトで色々な創意工夫が行われてきた。コンパクトな下水処理場を実現するには、例えばスクリーンを使わないで担体をエアレーションタンクに留まらせる仕組みなどがこれからの技術開発で進んでいく必要がある。

 



2008年 下水道技術のメッセージ (73)11月22日「担体利用」
担体をエアレーションタンクに加えて、担体表面に硝化菌を付着させてチッソ除去を促進する担体添加高度処理法のセミナーを聞いた。

 担体技術は20年近くさかのぼったバイオフォーカスの時代に始まった。
 それから各社が淡々と研究を続けて、現在では日本で20ッ箇所以上の下水処理場で使われるようになった。

 担体技術のポイントは3っある。 
 一つはスクリーン技術。担体がエアレーションタンクから流出しないように目幅2mmの微細スクリーンを設けるが、これがつまらないような技術が不可欠であるが難しい。
 二つ目は増エネルギー。硝化菌を扱うために、通常の活性汚泥より酸素消費量が多く、エネルギーを多く消費する。これが導入の促進を妨げている。
 三つ目は担体の価格と目減り。そもそも担体は安いものではなく、磨耗などで目減りすると費用がかかる恐れがある。

 これらの懸念はそれぞれほぼ解決されているが、一度アナウンスされたマイナスイメージはなかなか拭い去られない。セミナーは、これらの懸念の払拭にも役に立つだろう。 



2008年 下水道技術のメッセージ (72)11月18日「アフタヌーンティ」
月刊下水道誌に随筆『アフタヌーンティ』を連載してきたが、平成20年の12月号で40回を越えたところで、ひとまず終わりにすることになった。
 この3年あまりの毎月は、日ごろ気がついたことをこのHPに書き留め、その中で気に入ったものを1300字程度にまとめて投稿していた。そういう意味ではこのHPを開いていただいた皆様は共著者でもある。

 実は、6年前から3年前までは公共投資ジャーナル誌に、やはり毎月随筆を連載していて病みつきになった。このときの連載をまとめて単行本にしたときは、本の題名は「カプチーノ」だった。
 当時も、3年たったのでそろそろと思い、連載を止めた。三日坊主という言葉があるが、私の場合は3年坊主。またしばらくアイディアを溜め込んで、充電していこうと思う。



2008年 下水道技術のメッセージ (72)11月5日「見える化」
「見える化」という言葉が流行っている。見えにくいものを見やすくして理解を求めるというものだが、「見える」とはどういくことか。

 例えば、夜空の星を見たとき、星座の知識がなければ単なる星がたくさんあるとだけしかわからない。
 例えば地図を見たときに地図の記号の知識がなければ地図を読み取れない。つまり、見える・見えないは目に見えるかどうかだけではなく、認識できるかどうかということも重要である。

 認識するためには知識がなければならない。こんなものが見える、という予想の下に、実際に物が見えるとその物を認識できる。
 ベストセラー「生物と無生物との間に」の福岡伸一先生が書いた最新の本にも、「顕微鏡で細胞を観察する時に細胞の知識がなければ像が見えても細胞は見えない」と述べている。

 しからば「見えにくい下水道」を見えやすくするにはどうしたらよいか。



2008年 下水道技術のメッセージ (71)11月1日「ドロップシャフト」
雨水や汚水を下水管のなかで落下させる時に、落下による衝撃を和らげたり、騒音を小さくする必要がある。また、落下する時に空気を水の中に取り込んで下流で流れにくくなったりする。
(関西の某所に埋設される3000mmドロップシャフトの上部)

 このようなことを防ぐために、落下する水をらせん状に流れを整えるドロップシャフトという装置がある。
 この写真は、ドロップシャフトでは日本で最大である3000mm口径の装置の上部である。これだけをみていると、大型ロケットの胴体を見ているようである。

 装置は三分割されていて、この部分は上部にあたり、流入部の機能を持っている。すでに中段と下段は搬入組み立てされている。この部分はクレーンで吊り下げられて組み立てる。中段と下段のほうにはらせん案内板がある。素材はFRPで肉厚が6cmもある。
 このような巨大な装置が片道一車線の田舎道の端に取り付けられて埋設される。見えにくい下水道だが、なんとか目立たせる方法はないものだろうか。



2008年 下水道技術のメッセージ (70)10月14日「我々の川」
マレーシア・クアラルンプールに2年以上赴任している東京都OBのT氏から、マレーシアの水質汚染防止キャンペーンのDVDが送られてきた。
 15分程度の短い映像であったが、日本のキャンペーンと対比して興味深い点があった。

 まず、河川の水質汚濁をターゲットにしていること。昔の東京や大阪のような汚染された河川の状況がたくさん出てくる。川にゴミを捨てない、毒物を不法投棄しない、という警告が出てくる。

 次に、工場廃水の水質試験やオイルトラップの稼動状況が映像に出てくる。主な汚染源、というイメージであった。

 最後は、小学生に対する環境教育を重視していることを伝えていた。DVDの最後には小学生たちが水質汚濁防止の歌を力強く歌って終わった。

 最後の歌はマレー語で歌っていたがT氏が日本語に訳してくれた。その意味は、下記の通りである。

 川は生命の永久的な脈拍
 涼しくて綺麗で森の中を流れていく
 風の音 歌のよう
 フルラとファウナも一緒に踊る
 もし、我々がこの地球を汚せば、
 人類の破壊を体験してしまう
 裏切るな、世代の相続財産を
 継続に大切に使って愛すべき
 我々の川 大切に使って、愛すべき
 我々の川



2008年 下水道技術のメッセージ (69)10月5日「セラミックス」
(ポンプ井連絡部の瀬戸物タイルの床)
この秋に、三河島主ポンプのポンプ井に入る機会があった。  この施設は大正11年に稼動したもので、下水道施設としては初めて、国の重要文化財に指定された。

 ポンプ井の保存状態は非常によく、今にも動き出すような整然とした地下空間に驚いた。その中で、今ではありえない色々な光景に出会ったが、もっとも驚いたのは写真の場面であった。
 ここはポンプ井で縦に伸びる鋼管は汚水ポンプの吸い込み管である。その上には渦巻き式の大型ポンプが据付けられている。
 この写真はポンプ井とポンプ井を結ぶ連絡部であるが、その床を注目していただきたい。ゆるい曲面を描いている床には30cm四方の板が貼り付けられている。これは近くで見ると瀬戸物の板で、一枚一枚がていねいに床に敷き詰められていた。
 一枚の板には中央部に2箇所の小さなくぼみ(穴)があり、これを使って貼り付けたようである。

 この瀬戸物の板を見て、なぜか瞬間にスペースシャトルの耐熱タイルを思い起こした。スペースシャトル・エンデバー号では、これがはがれて墜落してしまった。
 形といい、大きさといい、セラミックスである点といい、共通点が多い。昔の技術者はポンプ井の汚れた環境の下で、長期間持たせるために、大正時代ではもっとも長持ちをする素材を選んだに違いない。また、日本固有の技術を選んだに違いない。

 下水道は見えないところに力を入れている。それを見つけるのは楽しみでもある。



2008年 下水道技術のメッセージ (68) 9月22日「ニューヨーク」
この夏にニューヨークを旅して感じたことのアラカルト。

 1.ソーホー地区に隣接する位置にある日本のユニクロをのぞいた。明るい店内はカジュアルな衣服であふれていた。特に目に付いたのは日本のアニメーションのTシャツコーナー。壁一面に「あしたのジョー」や「ゴルゴ13」、「鉄腕アトム」など、昔懐かしいTシャツが飾ってあった。ジャパニメーション(日本のアニメーション)面目躍如であった。
ちなみに、日本の企業はニューヨークにアンテナショップを出している。「吉野家」や「無印商品」「大戸屋」「高島屋」など様々である。

 2.いつもニューヨークで感じるが、携帯メールをしている人はほとんどいない。携帯を使っている人はたくさんいるのだが日本のようにメールを書いている人はほとんどいない。なぜだろう。

 3.今回は何箇所かでお金をせびられた。店先に出したテーブルでピザを食べていたら、通行人が「お腹がすいている。ピザをくれ」と話しかけてきた。地下鉄から道路に出ると、 中年女性が「グランドセントラル駅までの電車賃をくれ」、と突然近寄ってきた。大昔にはニューヨークでは日常茶飯事の光景であったが、最近ではほとんどなかった。

 4.日本人が頑張っている。ジャズクラブ、ビレッジバンガードでは北川さんというベイシストがアフリカン・アメリカンのバリバリのミュージシャンに位負けせずに堂々と演奏していた。「ストンプ」というオフブロードウエイのステージでは、宮本さんという日本人女性が屈強の男性に混じってパフォーマンスを演じていた。

 5.チェルシーのギャラリー群は新進作家の登竜門。玉石混合のアートは興味深い。今年も訪れたが、残念ながら8月中はクローズトが多かった。ガイドブックにはそんなことは一行も書いていなかったが、夏休みであった。

 6.今、アメリカで元気のよいBlue Jetという国内航空便を利用したがサービスは最悪であった。時間は遅れるし、アナウンスはなし。イヤホーンは有料(たったの1ドル)で、JFK空港に着いたらなんとバスでターミナルまで連れて行かれた。なぜ、ターミナルに直接駐機しないのだろうか。
 一方で機体は全てエアバス、米国内でヨーロッパのエアバスに徹しているところがすごい。これもコスト至上主義のあらわれのはずである。
 いずれも、安い航空券だからサービスは最低でもよいということのようだ。

 7.日本でもおなじみのスターバックスが台頭している。ニューヨークJFK空港のANAターミナルの到着ゲートを出たら、従来のコーヒーショップがスターバックスに代わっていた。ニューヨーク市内を歩くとどこの街角にもスタバの看板が目に付く。コーヒーはおいしいし、メニューもしっかりしているが、こんなに寡占してよいものだろうか。

 8.地下鉄で席を譲られてショックを受けた。この経験は人生で2回目だが、最初はシンガポールの地下鉄であった。シンガポールは若年人口が多数を占める活気のある国で、仕方がないと思っていたが、ニューヨークの地下鉄で席を譲られたのにはショックを受けた。そろそろ自分の歳を自覚しなければならないということだろうか。

 9.グリニッジビレッジには日本の「焼き鳥屋」が繁盛していた。スシや日本料理が受け入れられるのは分かるが、焼き鳥までニューヨークに進出しているとは驚いた。健康志向の表れだろうか。

 10.地下鉄や道路にストリートミュジシャンがあふれている。セントラルパークでは6人くらいの兄弟姉妹が賛美歌を歌っていた。地下鉄の駅ではおしゃれなおじさんが小さな鉄琴を奏でていた。地下鉄車内では突然歌いだす男性がいた。皆さんに共通するのは、演奏が終わると小銭を集めること。大した金額にはならないが、楽しんだ人はチップを入れてくれ、自分のプレイを評価してくれ、と言っているようであった。

 以上、今年のニューヨークのスケッチであった。



2008年 下水道技術のメッセージ (67) 9月16日「映画Flawless」
8月にニューヨークに行く機会があった。
 ニューヨークまでは12時間機内にいる。退屈な時間であるが、一つの楽しみは日本では未公開の映画の鑑賞がある。昨年はパリに向かう機内で「Flush Out」というアニメーションを見た。ネズミが下水道の世界で活躍する話を大いに楽しんだ。

 今年も、ANAの機内で何か無いかと探してみたら、下水道に関するサスペンス、「Flawless」という映画を見つけた。正しく言うと、サスペンス映画をみていたら最後に下水道がらみのトリックがあって感動した。

 機内誌のガイドは下記の通り。
「1960年代のロンドンを舞台に完璧なキャリアウーマンと掃除夫が、ある計画していく姿を描く。デミ・ムーアとイギリスの名優マイケル・ケインが共演します。」

(トイレに詰まった大きなダイアモンド)

 舞台は、ダイアモンド取引の世界を支配している会社。ここで貧しい掃除夫が一生一代の犯罪に挑戦する。山ほど詰まれた会社のダイアモンドを丸ごと強奪してしまおうとするものである。
 そしてキャリアウーマンと協力して実行、見事成功する。会社の役員は厳重な金庫に保管してあった山ほどあるダイアモンドが一夜のうちに盗まれてしまったことに気がついて仰天するが、どうしても強奪の方法が分からない。社内のテレビカメラにも写っていないし、1トン近いダイアモンドを社外に持ち出せるはずも無い。

 このトリックは下水道がかかわっている。掃除夫は水洗トイレにダイアモンドを投げ入れて水を流し、見事思いを果たしたのである。
 下水道に貴金属を投げ捨てるというトリックは、昔、日本の推理ドラマで見たことがあった。このときは貴金属を布袋に入れて下水道に流して強奪するというトリックであった。

(手鍵を使ってマンホールを開けて下水道に入るデミ・ムーア)

 しかし、映画は日本のドラマのトリックにさらに磨きをかけている。それは映画の最後の段で明らかになるが、掃除夫にとって山ほどのダイアモンドよりも大切な物が欲しくて犯罪を起こしたということである。英国ヒューマニズムの流れを汲んだ展開になる。
ここは映画のさわりになるので書くわけにいかない。
 犯罪の最中に、トリックがばれそうな場面があった。
 それは、犯罪の後、トイレが詰まって困るという苦情が掃除夫に寄せられたときである。掃除夫は簡単に便器の詰まりを直してしまうのだが、実は大きすぎてトイレから下水道に流れない世界的に著名な大粒のダイアモンドを掃除夫はそっと誰にも気がつれないように便器から取り出した。水の中にあるダイアモンドはあることを知らない人には見分けることができないが、トイレにダイアモンドを投げ入れた掃除夫はすぐに見分けられた。
 これが映画の題名の「Flawless」の所以であった。

(下水道の中をさまようデミ・ムーア、この後にマイケル・ケインと出会い、下水道の中で謎解きが始まる)

 下水道にダイアモンドを流しこむという発想は、非常識である。しかし、映画を見ながらふと考えたのだが、バイオマスやリン回収はまさに下水道から資源の回収。ダイアモンドまでにはならないが貴重な資源を排出して回収する。そして掃除夫はダイアモンドよりも大切なものを下水道を使って取り戻す。

 ストーリーが大変よくできていたので、帰りの便でもう一度鑑賞した。
 下水道を舞台にした有名な映画は、これまでにもいくつかあったが、この映画もきっと歴史に残る映画になると確信した。
日本公開が待たれる。



2008年 下水道技術のメッセージ (67) 9月3日「ハリケーン」
大雨は日本だけではない。米国でも3年前に大型ハリケーン「カトリーヌ」がニューオリンズに上陸して壊滅的な被害を与えた。
 この夏にニューヨークを訪れたとき、ホテルで配られた新聞USAToday2008年8月26日号にハリケーンの対策が3年立っても不十分であるとの記事があった。

 記事によると、”カトリーヌ以後、市民による地域ネットワーク作りなどが進んだが、堤防の高さは一向に高くなっていない。市の東部にある湿地帯は自然の水害バリアになっていたが、ここは開発が進んでフットボール場数か所分の湿地がなくなってしまった。
 また、市内の低地は浸水しやすいところなので公園や湿地帯に用途変更すべきにもかかわらず依然として住宅のままである。”

 短い時間で都市構造を変えるのは難しい。しかし、現在、ニューオリンズには再び巨大ハリケーン「グスタフ」が襲っている。市民は100万人規模で避難したらしい。



2008年 下水道技術のメッセージ (66) 9月1日「大雨」
各地で記録的な大雨が相次いでいる。それも時間降雨量100mmを越える規模が幾つも報告されている。新聞記事では短時間に降った降雨を1時間に換算した降雨強度なのか実際に1時間降った量が100mmなのか不明な場合もあるが、台風が少ない割には浸水が多発している。
 そうすると、時間降雨量50mmで計画された下水道施設はひとたまりもない。これだけ降雨量が多くなると下水道だけで雨水排水を負担するのは限界があり、他の施設を活用して、文字通り総合的に雨水排除しなければならないだろう。

 他の施設の第一には道路がある。
 道路はいつでも通行できるように雨水を即時排水するように設計されているが、大雨の時の短い時間は雨水を路上に貯めることはできないだろうか。さらに、最近の流出解析モデルは浸水時の道路上の流水を計算できるようになっているが、道路上の流水を促進したり遅らせたりして流出をコントロールできないだろうか。
 100mmを越える大雨の時は緊急車両を除いて通行はできなくなっても仕方がない。大雨時には道路が水没することを想定して、緊急車両は水深50cmくらいまで走行できるように改造できないだろうか。
 この視点で考えるには、スコールがあると一時道路が水没する東南アジアの主要都市の構造が参考になる。

 他の施設の二番目はビルの最下層にある地下空間である。
 ビルの最下層の一部には湧水ピットや汚水ピットがあるが、一般的には相当量の地下空間が放置されている。この部分は本来私有財産の範囲だから公的には利用できないが、地下街の浸水対策などについて浸水水位を10cmでも低くするとか、避難する時間を10秒でも短くするなど、ぎりぎりの減災に役に立つだろう。

 最後に想定できるのは、市街地に敷設されている既存の再生水送水管や送泥管を緊急的に雨水配水管に流用できないだろうか。地盤の低い区間を電動仕切り弁で締め切って地盤の高い区間の下水道幹線まで雨水を、送水するシステムに流用できないだろうか。

予想をはるかに超える大雨で狭い地域に突発的に発生する都市型水害は、これまでの雨水排水システムとは異なった対応手法が求められるだろう。このほか、宅地内の雨水貯留浸透や屋上貯留などがある。気候変動に伴う降水量の増加に対しては、行政の境界を越えて街の構造を変えていく必要がある。

   いづれにしても緊急事態に対して施設の通常の利用を停止してでも浸水に対応していこうという考えである。通行を遮断したり、湧水ピットを雨水貯留槽に用途変更したり、送水管を排水管に用途変更することになる。



2008年 下水道技術のメッセージ (65) 8月21日「地球温暖化対策」
 地球温暖化について、著名な気象予報士の方の講演会を聞いたが、印象的だったのは温暖化対策でCO2排出削減に日本は優位にあるという話であった。

 その理由は、日本は石炭産業や石油産業があまり無い。だから国内問題が少ない状況でエネルギー構造を抜本的に転換できる。他の国で、国内に石炭や石油産業を抱えているところは2020年20%、2050年50%という削減ペースは大きな痛みを伴うはず、という話であった。
 この考えは、過去の日本の経済成長の時にもあった。資源が少ないからこそ世界の最も安い資源を手に入れることができたから、世界に類を見ない経済成長が実現できたという分析である。
 資源を持たない国のほうが競争優位に立てるという発想は面白い。

 もう一つの温暖化の話題は、最近のビョルン・ロンボルグの著書「地球と一緒に頭も冷やせ!」。ここでは、地球温暖化の過渡な危機意識を戒めている。地球温暖化に巨大な資金を投入するよりも従来の地域政策や福祉政策に投資したほうが地球温暖化で危惧されている不具合を解決するには低コストで合理的、という主張を、著者の得意な統計資料を駆使して示している。
 そして、温暖化対策は技術開発への投資が欠かせないとも主張している。100年あれば地球温暖化が進んでも人類は対応可能な技術を見出せる。と、技術的に楽観的な見解を示していた。

する姿勢は大きく異なるが、対応策は似ているところがあった。日本のおかれた状況や技術を駆使して温暖化を乗り切ろうという姿勢である。これが100年後に日本が生き残る戦略だろう。



2008年 下水道技術のメッセージ (64) 8月18日「ペットの急増」
日本では犬や猫のペットの飼育数が2500万匹もいる。
 この数は日本の15歳未満の子どもの人口よりも多いそうである。
 この膨大なペットは、小子化や高齢化、それにアイフルの宣伝に出てきた可愛いチワワの影響などで、ここ数年に急増しているらしい。

 子どもの無い夫婦がペットを飼ったり、1人っ子が遊ぶためにペットを飼ったりするらしい。
 これだけの数の動物がいると、ペットフードの手配は膨大になる。また排泄物もごみか下水になるからその処理も馬鹿にならない。下水道を計画する時には計画人口で規模を決めるが、いずれペットの存在を無視できなくなるかもしれない。計画ペット数、という概念が生まれてくるかもしれない。

 このようなペットの急増をビジネスでは機会到来と考えている向きがある。下水道からみれば単に負荷が増えるだけだろうか。



2008年 下水道技術のメッセージ (63) 8月14日「階段」
 私事で恐縮だが、このところ毎朝、ビルの7階にある事務所まで階段を歩いて上っている。

 階段を使う第一の目的は日ごろの運動不足対策だ。毎朝上っていくと5階くらいで体が熱くなり、7階に着くと息が切れる。毎日上っていると、不思議なことにだんだん負担が軽くなってくる。続けるとはそいうことでもある。

 もう一つの目的は、わずかながら省エネ期待。エレベーターを使わないことで少しは電力が節約されるに違いない。一回の省エネはわずかでも、毎朝繰り返すことによって累積の省エネはかなりの電力量になるだろう。続ける効果がここにもある。

 三つ目は暑さ対策である。クーラーの利いている事務所にいても暑さは感じる。しかし、不思議なことに階段を上りきって体が火照った状態で事務所に入るとクーラーのありがたみをしみじみと感じる。この感覚は普段は失いがちなものなのかもしれない。

 エレベーターを横目に愚直に階段を上っている私の姿を見て、皆さんはどう思っているのだろうか。すこし気になる毎朝である。



2008年 下水道技術のメッセージ (62) 8月13日「プロの仕事」
8月11日の読売新聞と朝日新聞の夕刊1面の北島選手が金メダルを決めた瞬間の写真を見て、職場である人が驚きの声を上げた。

 両紙とも北島選手がプールから半身を乗り上げてガッツポーズをしている写真で、アングルや構図はほぼ同じ、流れ落ちて飛び散っている水滴の位置もほとんど同じ位置にある。
しかし、よく見比べると水滴の位置がほんのわずかに違う写真を掲載している。

 写真の下のティロップをみると別のカメラマンの名前が書いてあった。つまり、両紙のカメラマンが別々に撮影した写真が同時に両紙の一面を飾ったことになる。水滴の位置の違いから推測するとプールサイドの記者席からほとんど同じタイミングでシャターを切ったことになるなる。

 プロの仕事とはこのように一瞬のチャンスを逃さないものである。



2008年 下水道技術のメッセージ (61) 8月10日「ドライミスト」
(横浜伊勢崎町イセサキモールのドライミスト)
 8月9日午後にイセサキモールを歩いていたら頭の上から何か白いものが落ちてくる。よく見ると雲のような小さな水滴の粒である。

 これは、ドライミストといって気温を下げるために微小の水滴を空中に噴霧している装置であった。小さなノズルから噴出している微小水滴は通行人の頭上に落ちていく頃には蒸発して消えてしまう様子で濡れることはない。
 しかも、連続噴霧ではなく、数分間噴霧したら2分間くらい止めている。すると噴霧している変化が生まれて雲が落ちてくる様子がはっきりとしてくる。

イセサキモールは昔からある商店街であるが、いわゆるアーケードはない青空のあるモールで、立派な街路樹が緑を添えている。

 しかし、真夏は街路樹の木陰があるにしてもさすがに暑い。そこでドライミストを採用したらしい。

(頭上のドライミスト噴霧ノズル、水道水を噴霧している)

 ホームページによると東京の六本木ヒルズにも2006年から同種の機器が設置されているらしい。
 ここでは気温27.5℃以上、湿度70%未満、風速4m/s未満、降雨なしの条件でドライミストを動かしている。
ドライミストは屋外で使うが、仮に空調と比べれば効率がよいらしい。雲が頭上から降り注ぐから目で見て涼しい感じも出る。涼しさを目で表すところもポイントである。

 実はこの装置は10年位前にバンコックのスクンビット通りで見かけたことがあった。最近ではシンガポールのオーチャード通りにもあった。
東京の気温は熱帯地方並に上昇したということだろうか



2008年 下水道技術のメッセージ (60) 8月10日「節水トイレ」
無水トイレといえば米国ファルコン社が男子便器に適用している専用カートリッジで尿だけ流し出す方式が定着していた。この方式は、カートリッジに、特別なオイルを入れて下水側と便器側をシールおき、尿が流れてくるとオイルを通してオイルと尿の比重を利用して分離して尿だけ排水するものである。オイルはファルコン社専売で、メンテナンスでもビジネスを展開している模様。

 これに対して、8月7日の産経新聞には新しい方式の節水トイレを紹介していた。
 新しい節水トイレは男性便器用だが、水洗の方式に工夫がある。トイレを利用すると、最初にわずか150ミリリットルの水を流して尿を流し出す。その後に1000ミリリットル(1リットル)の水を流して便器内側を洗うが、この排水は回収してまた使う。流し去った150ミリリットルは自動的に補給される。

 つまり、1回の男性トイレを利用すると150ミリリットルの水ですむという工夫であった。  新聞では、水道水を節約することと下水道への排水をしないことでCO2の排出量を十分の一にできると書いてあった。

 問題は、水道水は使わないのだから節約できるが下水道は排水量は少なくなるが汚濁負荷量は変わらないことである。むしろ濃度が濃くなっただけ臭気の発生や配管のつまりが懸念される。  新聞では、水を作るためのCO2排出量は1キロリットルで190g、同量を排水処理するためには511gであるとしている。

 もし、下水道のCO2 排出がカウントできないと排出量削減が十分の一から約七分の五になる計算である。90%削減から30%削減になる。これでも、水道料金と下水道料金は間違いなく十分の一になるのだから、ユーザーにとってみれば魅力的だろう。

 このような制度のハザマを突いたアイディア商品は下水道事業者ははっきりとコメントすべきだと思う。CO2排出削減があいまいな根拠で行われることはCO2排出の努力を危うくすることでもある。



2008年 下水道技術のメッセージ (59) 8月3日「衝撃弾性波検査ロボット」
下水道展でもう一つ、印象に残った技術があった。

 それは管路品質評価システム協会が展示していた衝撃弾性波検査ロボットであった。管路更生工法の仕上げとして施工の確認をするロボットである。

   ロボットはテレビカメラロボットに似ているが、先端には小さなハンマーがついていて、管路の内面を鋭く打撃するメカニズムになっている。

 打撃を加えると、反転工法などの単独管は打撃波反射波の全周波数成分パワースペクトル(反射波エネルギー)で硬化の有無が分かる。SPRなどのモルタル裏込めがある複合管では打撃反力(一定の力で打撃すると、裏込めが無いと反力が小さくなる)の大きさで裏込めの有無が分かる。
 いずれも、非破壊検査なのでサンプルを採取する必要がない。ロボットを管内に入れると自動的に管路更生の品質を計測できる。

 製品の価値は品質保証で保たれている。このとき、計測は重要である。ある人は、「工学とは計ること」といっていた。計ることで初めて安心して使える。管路更生工法はここまで来た。



2008年 下水道技術のメッセージ (58) 7月28日「ドイツの管路更生、その2」
 ドイツIKT所長ワニエク氏講演会の続きです。このような講演会は、新しい知識を知るということも大切であるが、それよりも重要なことは講演者の人物像や発表内容に対する姿勢、話に出てこない奥深さなどの印象を得ることである。
 管路更生の第一人者であるワニエク所長が、わざわざ日本にまでいらっしゃって、どんなに思いを込めて話しているか、どんなに誠実に話しているか、どこを軽く話して、どこに力を込めて話しているかは会場にいなければ分からない。
 知識を得るだけなら。後で講演集を読めばいいし、録音を聞けばいい。時間が惜しければ、後で要約集を見ればいい。
 だが、講演会に参加するということはそれ以上のものがあるはずである。

 ワニエク氏は、この講演会では大きな体を観衆のほうに向けて一生懸命に話していた。通訳がドイツ語を日本語に通訳して話している時も観衆の聞いている様子を注意深く観察していた。
 パワーポイントのスライドの説明が全て終わってからも、さらに10分近く、管路更生の品質確保について、品質確保という仕事の理念や信念について、熱っぽく語っていた姿は、好印象を得た。
 ワニエク氏によると管路更生の仕事は次世代に引き継ぐもの。しっかりとした技術で次世代に引き継がないと管路更生の信頼を損ない、管路更生のすべてが否定されてしまう。したがってワニエク氏は品質確保の結果得られる信頼がもっとも大切である、と説いていた。
最後に、日本の下水道展の素晴らしさを付け加えることも忘れなかった。

 そして、ワニエクさんの講演が終わって降壇したときに、ふと時計を見ると80分の長丁場にもかかわらず、ぴったりと予定の時間に終了したことに驚いた。
 このように講演時間をきっちりと守るためには、周到な準備をされて講演会に臨まれたはずである。講演会最後の質疑の時間にも、質問に真摯に答えていた。ワニエクさんの誠実さや管路更生に対する想いがここにもしっかりとうかがえた次第であった。



2008年 下水道技術のメッセージ (57) 7月26日「ドイツの管路更生」
7月25日の午後、下水道展最終日にドイツ地下構造物研究所(IKT)ワニエク所長の講演会「ドイツにおける管路更生工法の品質確保」を聞いた。
講演会は(財)下水道機構、日本管路更生品質確保協会、日本非開削協会の共催。会場はパシフィコ横浜の501室、昨日まで下水道研究発表会が開かれていた所で230人の定員満杯の盛況であった。

 講演の内容は、ドイツで行われている管路更生工法ではIKTが厳しい検査を行い、公表することで品質確保が保たれていることの紹介であった。
 IKTは主に地方自治体の資金で運用されていて、ライナー工法の研究や品質確保にいそしんでいる。例えば1万時間のクリープ試験(長期耐加重試験)や、インナーフィルムに傷をつけてライナーのラミネート水密性を500mbar(0.05MPa)の圧力で30分間検査するなど、管路の使用実態に即した検査を実施している。

 最後に、このような厳しい検査が、品質の悪い製品をはじくための目的だけではなく、品質の改善に寄与していること、世代を越えた品質の確保に寄与していることなどが熱く語られた。

 講演のなかで、更生した管のライナーと旧管の間に植物の根が入り込むことの解説では、「植物と人間とは楽なほうへと向かって行くという同じ性質を持っている」、「植物の根は地中よりライナーと旧管の間の空間を好む」と解説して笑いを誘った。

 最後の質疑でライナーの「しわ」の話題が出ると、「「しわ」によって更生管の強度(長期耐加重試験)が大幅に低下する恐れがある」と解説されて会場のどよめきを巻き起こした。

 今後、日本とドイツは管路更生の技術で連携していこうということで講演会が終わった。



2008年 下水道技術のメッセージ (56) 7月22日「皇太子さまのご講演」
 7月22日火曜日の朝6時台のNHKニュースで、皇太子様がスペイン・サラゴサで開かれている国際博覧会の「地球温暖化や水資源に関するシンポジウム」にて「水との共存」という講演をされたと報じていた。

 そのなかで、「安定した水供給と適切な下水処理は、都市の生命線ともいえるものです。人間の安全保障と持続可能な開発の観点からは、国境を越えて取り組んでいく必要があることには、疑問の余地はありません」と述べられた。

 皇太子様は、2008年1月には、東京で開かれた「地球温暖化と再生水利用シンポジウム」(国交省下水道部、東京都主催)に参加されて2時間も聴講されていた。また、7月9日には東京都の落合水再生センターを視察されている。

 以上の共通項は水再生。皇太子様の研究テーマに通じるのだろう。
 本日から下水道研究発表会、下水道展が横浜で開かれる。同じ日に下水道のニュースがスペインからも報じられたことは喜ばしいことだった。



2008年 下水道技術のメッセージ (55) 7月21日「下水道の技術開発,その2」
 下水道事業における技術開発の役割は次の三つ。
 ・下水道固有の課題の解決
 ・下水道分野広がりの先導
 ・下水道認知度の促進

   固有課題ではコスト削減や温暖化対策、長寿命化、未普及対策、地震対策などがある。  分野の広がりでは、資源循環、水環境、食品廃棄物対策などがある。

 手法としては、固有課題をしっかりと押さえた上で広がりを増やしていくことが大切である。これを企業の技術開発に置き換えれば、固有課題は既成製品の改良改善、分野の広がりは新商品の出現に相当する。いずれにしても消費者に受け入れられる商品の提供という点で共通し、企業の利益獲得で一段落する。

 そして、技術開発の三つ目の目的は、下水道利用者はもちろんのこと、全国で毎日事業に従事しているたくさんの下水道関係者に対しても、下水道の潜在力を明らかにして希望や自信を与えることである。下水道事業が最先端の技術を駆使して世界でトップレベルの効果を出していることや、今後、下水道と関係する多くの別の分野に進出していくかもしれないというサインを技術開発は発信する必要がある。
 この目的は下水道の国際化にもかかわっている。
 こちらを企業の場合に置き換えると、従業員のモチベーション顧客満足はもちろんであるが、さらに企業の社会貢献に及ぶ。

 事業の斜陽は、関係者の希望や自信の喪失から始まる。定められた目標があいまいになったり無意味になったりして組織力が低迷すると、下水道事業構成員の一人一人の創意工夫の力が失われる。そのようなことのないように下水道の技術開発は頑張らなくてはならない。


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2008年 下水道技術のメッセージ (54) 7月15日「下水道の技術開発」
 来週から横浜で下水道展が始まる。
 ひょんなことから、パシフィコ横浜展示ホール内のプレゼンテーションA会場で開かれる「出展団体によるプレゼンテーション」に参加してプレゼンすることになった。

 7月23日(水)の16時00分から16時25分の間、下水道の技術開発について新しい見解を発表する。

 まず、最初に下水道機構の研究動向を紹介し、次に下水道を取り巻く現状と技術開発の可能性を分析する。特に、送風機、汚水ポンプなどこれまで見過ごされてきた省エネ技術の最近の技術開発に触れる。  最後は、エネルギー(ガス)事業や食料(バイオマス)事業が下水道の技術開発と密接な関係にあることを示し、業際や川下(かわしも)市場との関係から下水道の新技術が育って行くことを論じる。

 以上の発表を20分で行い、5分の質疑を行う予定である。
 下水道の技術開発に関心のある方は、お聞きになることをお奨めする。

 なお、このプレゼンテーションの参加は無料だが事前に登録する必要がある。下水道協会のホームページから申し込んでいただきたい。


BR>2008年 下水道技術のメッセージ (53) 7月14日「温室効果ガス排出権取引制度」
 フリーマガジン「R25」については何度か紹介したが、7月11日〜17日号に下水道に関する話が掲載されていた。  「日本の排出権取引制度は今どの段階にいるのか」というコラムで下記のような東京都内のCO2排出量ランキング表である。

 1.六本木ヒルズエネルギーセンター
 2.東京都下水道局南部スラッジプラント
 3.奥多摩工業石灰化工本部氷川工場
 4.ブリヂストン東京工場
 5.東京都下水道局砂町水再生センター

 東京都の目標は「2020年までに温室効果ガス排出量を2000年比で25%削減する」というもの。2010年度からはキャップ&トレード型の排出権取引制度を導入する。

 東京都内には下水処理場を除くと温室効果ガスを大量に排出する事業者は少ない。上記のランキングでも六本木ヒルズを除くと3.と4.は多摩地区の工場である。したがって大規模なオフィスがその対象となるが、東京都が模範を示す意味で下水道部門の役割は大きい。



2008年 下水道技術のメッセージ (52) 7月13日「ビニール傘、その2」
 ビニール傘の新聞記事(読売新聞)によると、国内で販売されている傘は1億2千万本で9割は中国からの輸入、そのうち大半はビニール傘。
 渋谷区で行われているビニール傘の無料レンタルは、放置ビニール傘を回収してホテルや店で無料貸し出しし、傘を返した人には50円の地域通過をさし上げている。
 この仕組みを企画したのは学生団体「SOL」。現在のところ返却率は10〜50%だそうである。



2008年 下水道技術のメッセージ (51) 7月9日「ビニール傘」
 最近の原油高は青天井で、異常としかいえません。でも異常が長く続けば異常でなくなり、これが当たり前になります。原油の高騰が産油国への所得移転と言われたのは、大昔のオイルショックのときと同じです。数十年前のこのときも原油価格は高止まりして資源消費国は産業構造の改善や技術の発展で乗り切っています。

 先日のテレビニュースに夜と、パリでは乗用車をやめて公共のレンタル自転車が重宝されているそうです。これは究極の省エネです。また、新聞によると東京渋谷のコンビニでは、ささやかなことですがビニール傘の無料貸し出しが広まっているそうです。雨が降ると飛ぶように売れるコンビ傘ですが、雨がやむとコンビニに捨てられるという現象がありました。これはどう考えてもおかしいです。このおかしさに気づき始めました。

 70kgの人を運ぶために1トンの自動車が必要なコンセンサスや、驚くほど安いので雨が降るごとに使い捨て傘が売り切れるという時代は過ぎ去ろうとしています。ライフスタイルを変え、社会構造を変えることは温暖化対策だけではなく持続性社会の第一歩ということです。
 その先には脱石油社会があるというシナリオです。



2008年 下水道技術のメッセージ (50) 7月6日「イスタンブール」
来年、2009年3月にトルコ・イスタンブールで世界水フォーラムが開かれる。前回はメキシコシティで開かれて皇太子殿下も参加された。
 そこで、昨年3月にIWA汚泥専門家会議に参加した後に、ボスポラス海峡トンネル工事視察で立ち寄ったイスタンブールの見聞録 をホームページにまとめた。
 来年、イスタンブールに行かれる方は、一度ご覧になることをお奨めします。



2008年 下水道技術のメッセージ (49) 7月2日「省エネの方向性」
東京都下水道局の維持管理データーを調べていて、水処理と揚水のコストが、両方とも12円/立米であることを知って驚いた。
 昔は水処理コストが大半を占めていたのだが、最近は揚水コストが増えてきて両者が拮抗するようになった。

 おそらく、下水道幹線の深層化やエアレーションの省エネ化が進んだ結果であると思われる。

 こうしてみると、下水道管きょの原則である自然流下を見直してみる必要がある。自然流下なら省エネ化と思うが、必ず下水処理場やポンプ場の大型ポンプで揚水しているのでエネルギーが必要となる。しかも、下水道がある限り未来永劫電力を必要としている。

 下水道の省エネは、これまでエアレーションが注目されてきたが、今後は大型ポンプにも注目しなければならない。高効率汚水ポンプの開発や、水頭損失の少ない水路設計、省エネ運転方法などに工夫をして省エネや二酸化炭素排出削減に努めなければならない。

しかし、これまで手つかずであったということは創業者利益が存在しているということでもある。従来の電球が高効率の蛍光灯型電球に変化する昨今であるから、大いにチャンスがあるということだろう。

 この技術やノウハウは、これから新しく建設するポンプ設備よりは既存のポンプ施設に応用できるほうが意義が大きい。今あるポンプ施設の高効率化という視点で技術開発を進めることが望ましい。



2008年 下水道技術のメッセージ (48) 6月29日「講演会」
先週は、ある業界の総会後の講演会に呼ばれて話す機会があった。
 準備段階では、私の所属している組織の紹介を中心に話を進める予定であったが、会場で聴衆の顔ぶれを見てみると、見慣れた知り合いが多数いた。いまさら組織の紹介もないので、これからの下水道が目指す方向、として私見を述べさせてもらった。
 下水道は縮小傾向だが、下水道の周辺部分では色々なことが起こって興味深い、ここに進出すればまだまだ機会が大いにある、という話であった。

 実際、最近の原油高や資源高は下水道汚泥の資源化にとっても追い風である。これを偶然としないで社会変化と捕らえて下水道のあり方を考えよう、温暖化や省エネは下水揚水ポンプの効率化や送風機システムの見直しに通じる。資源高騰は汚泥の資源化に通じているが、汚泥の資源化は川下志向、原材料志向があり、リン回収は肥料化からリン鉱石化にシフト、脱水ケーキは石炭火力から炭化汚泥、製紙会社のバイオマスボイラーから乾燥汚泥の傾向があることを示した。

 キーワードは業際分野。グレーゾーンが下水道の発展要素を有している、と説いた。



2008年 下水道技術のメッセージ (47) 6月23日「太陽光発電」
 下水道施設における太陽光発電の研究が進んでいる。
 広大な敷地や覆蓋(ふくがい)施設が多くあることから、太陽電池パネルの設置条件が備わっている。
 さらに、太陽電池の弱点とされている温度上昇による効率の低下は下水処理水で冷却できるし、塵埃などによる汚れも、最近の都市の大気汚染対策が功を奏するかもしれない。

 太陽光発電を採用する時に留意するもう一つの重要な点は直流電源負荷の存在である。太陽電池の出力は直流で、通常、バッテリーに蓄電する。これを普通のモーターや照明器具のように交流負荷で使う場合にはコンバーターという装置を通して直流から交流に変換しなければならない。
 ところがこの部分の機器が高価であり、ランニングコストもかさむ。したがって、直流負荷でそのまま使えれば太陽光発電の能力を十分発揮できることになる。
 新エネルギーや資源リサイクルは用途を定めることが重要である。いわば川下から研究開発することがポイントである。太陽光発電についても、直流電源の用途を開発していただきたいと感じている。



2008年 下水道技術のメッセージ (46) 6月22日「汚泥資源化」
 下水道機構のセミナーで、下水汚泥からリン回収する話があった。
 その中で、最近の下水汚泥からのリン回収には二つの傾向があった。
 一つはリン肥料からリン鉱石への流れである。下水汚泥から回収したリンの用途は主に肥料であるが、リンだけでは肥料はできない。実際に肥料として施肥するにはチッソ成分やカリ成分を加えなければならない。その点、リン鉱石として回収すればリン成分の含有量だけが求められるので、比較的簡易な対応ですむ。

 二つ目は下水汚泥のシェアである。どんなに頑張っても下水汚泥のリン回収量は年間50万トンといわれている日本のリン鉱石輸入量に比べてそれほど多くはない。下水に混入するリンの量は農業・工業で消費されるリン鉱石の一部であるし、さらに日本で発生する下水汚泥のわずかの部分しかリン回収できない。

 リン鉱石の輸出大国であった中国は、国内向け需要逼迫をうけてリン鉱石を事実上の輸出禁止措置を取った。これを受けてか、先週には朝日新聞の1面にリン鉱石の価格高騰の記事が掲載された。

 以上、考えてみると下水汚泥からの資源回収には一定の規則が見えてくる。
 まず、「製品から原材料」への動向がある。振り返ってみれば、下水汚泥の資源化では最初はレンガやメトロマーブル(高級品質の汚泥溶融製品)などの付加価値の高い汚泥資源化製品で始まったが、事業としては長続きしなかった。これに対してセメント原料化や軽量骨材減量化は息の長い展開を示している。製品から原材料へ、高級材料から原材料への道は下水汚泥資源化に求められる一つの方向といってもよいだろう。

もう一つの方向は1%ルールである。下水汚泥の資源化は多くのメニューを用意して、一つ一つのシェアはできるだけ小さくなるように、もともと大きな資源分野に進出するのが望ましい。
 例えばレンガ業界のような小さな市場に下水汚泥資源化が進出すると既存業者との関係の調整に手間取ることもある。不純物や品質の安定性についても進出する相手が大きいほうが都合よい。例えば、下水汚泥の炭化事業で注目を集めている東京電力の石炭火力発電所では下水炭化汚泥の石炭に閉める割合は1%前後である。焼却灰のセメント化もシェアは小さい。
 1%前後というシェアは本来の事業に大きな影響を与えない範囲で資源リサイクルの最初の段階としては妥当なものである。  



2008年 下水道技術のメッセージ (45) 6月16日「JBIC国際協力銀行」
 ある時、JIBC(国際協力銀行)の方の話を聞く機会があった。
 それによると、最近の円借款は下水道案件が増えているそうである。金額ベースでも下水道のシェアは10%にも達している。他にも道路や発電などの案件のある中でこの10%という数字がかなり大きい。ちなみに、下水道案件が増えている理由は、下水道の円借款は他の援助に比べて金利で優遇されているかららしい。

   援助の対象国では、これまでは中国が50%で大半を占めていたが、これからは中国はなくなるのでインド、ベトナム、モロッコ、が増えてくる見込みだそうである。
 これに対してインドネシアやフィリッピンはまだまだ少ない。

    国によっては下水道法がない中で下水道事業を立ち上げるようなこともあり、下水道法を作るところから借款が始まることもある。

 日本の下水道の円借款のうち30%(金額ベースか案件数ベースかは聞き漏らした)は日本企業が取っているらしい。ただし、直接受注することは少なくて元請けを通じた機器だけの受注や下請けも含む。この30%というのは意外に大きい数字だった。これまでの認識はほとんどゼロ、というものであった。

 なお、日本企業が国際事業に進出するにはコストの壁を破らなければならない。日本の技術者が1ヶ月海外で勤務すると一人当たり約100万円かかる。これに対して途上国の技術者だと6万円から10万円程度であり、日本はコスト競争力が劣る。

 身につまされる話が多々あった。



2008年 下水道技術のメッセージ (44) 6月13日「香り」
人間の感覚は総合的らしい。
 例えばおいしい料理には香り大切である。味がよいことはもちろんであるが、料理に合った香りがなくてはいけない。この点で、冷凍食品は香りを冷凍することが難しいのでなんとなく大味になってしまう。

 化粧品の中にも香りを重視するものがある。つまり、その化粧品をつけると心地よい香りが広がり、血行がよくなって肌の保水水分が多くなるらしい。
 森林浴もこの香りの使い方に似ている。疲れているときに緑の香りを吸い込むと力がわいてくる。このような香りの使い方は人間の特性を熟知したものといえる。

 これに対して悪臭も時には役に立つことがある。都市ガスにつけられた悪臭は、微量でもガス漏れが検地できる。おそらく人間の感覚器の中で臭覚はもっとも敏感な器官である。ガスの臭気はこれを利用している。神戸市のバイオガスも、消化ガスを自動車の燃料で使うときには付臭しなければならない。  



2008年 下水道技術のメッセージ (43) 6月9日「現場見学会」
下水汚泥バイオガス施設の現場見学会を関西の都市で開催した。参加者は全国から集まり快晴の下、90分間の講義と60分間の現地見学をした。

 見学にあたっての挨拶。
 「見学会は実際にご自分の目で下水汚泥バイオガス施設を見るとともに、キーパーソンやキーテクノロジー、キースキルを確かめることが大切。ややもすると先端技術や巨大な施設に目を奪われて現場でなければ気がつかないことを見逃すことが多い。せっかく時間とお金をかけて現地にきたのだから、写真や映像だけではなく、現地でなければ得られない体験、印象を持ち帰っていただきたい」

 このような挨拶をしていて感じたが、現場見学会は海外旅行と似ている。名所旧跡の光景を目にするだけでなく、途中で起こった些細な事象、現地の人との簡単な会話、ホテルの鍵をなくしたなどのちょっとしたエピソードを記憶にとどめることが大切である。この個人的な些細な体験が名所旧跡に結びつき、一人一人の旅の楽しさを大きくしてくれる。一人称の経験が大切である。

 さらにいえば、海外旅行は出発する前に旅の楽しみが始まっている。旅行に行ったことを想定して計画を立てて準備をする。この段階で本を読んだり映像を見て知識が膨らんでいく。つまり、旅は始まっている。
 また、旅行から帰ってきても旅は終わらない。訪問先への礼状や資料の整理、遣り残したものや予想以上に得られた成果を待ちめる作業は旅そのものである。

 現場見学会も同じである。現地の臭いや音を感じ、写真に写らない現場の周りの状況を観察する。言葉や活字になりにくい現地の印象を得ることが大切。また、現場で説明してくれる方に質問をしてコミュニケーションを交わす。時には装置の裏側をのぞきこむ。
そして事前事後の対応がある。
 このように一度体験すると、次に新聞やテレビでニュースが流れてきた時に、その土地や技術のイメージが湧き上がり、一人称の視点でテレビを見ることができる。



2008年 下水道技術のメッセージ (42) 6月5日「人類が消えた日」
「人類が消えた日」早川書房2008年5月発売、に面白い記述があった。
 もし、都市から突然人間が消えたとしたら「水」が都市を破壊するらしい。ニューヨークでは地下鉄があっという間に水没してしまうらしい。ニューヨーク市交通局には水害対策部長がおり、753基の排水ポンプで常に水を汲み上げ続けている。ポンプが止まると30分で水位が上がって地下鉄が走れなくなってしまうらしい。36時間で全線が水浸しになるとしている。
 都市を漂うビニール袋で下水道が詰まると、水は街にあふれ出て昔の水路を再現する。
ニューヨークの場合には、いずれ、水で満杯になった地下鉄の鉄の支柱が腐食して道路が陥没して新しい水路が忽然(こつぜん)と現れる。

 ニューヨークの高層ビルは詰まった下水道や水があふれたトンネル、川に逆坂戻りした道路などのために地下二階部分の鉄鋼の土台を腐食させてそこにかかる途方もない荷重を十分には支えきれなくしてしまう。

   街中の舗装道路は、小さなひびに水がしみこみ、冬になると凍結して大きな割れ目に変えてしまう。

 筆者は人がいなくなるという例えで、都市のインフラの弱点や環境への影響をシミュレーションしている。その中で水の存在が大きいと主張している。下水道のプレゼンスを考える時に大いに参考になるたとえ話である。



2008年 下水道技術のメッセージ (40) 6月2日「大雨と高層ビル」
5月24日の産経新聞に大雨に関する面白い記事があった。

首都大学東京の高橋日出男教授によると、平成14年までの11年間の観測結果、高層ビルの風下で大雨が降る傾向にあることが分かったそうである。
 新宿副都心の高層ビル群の場合には東風が吹くと西側の中野区で1時間に20mm以上の強い雨が降ることが多かったし、池袋では南風の時は北側の練馬区や板橋区が多い。一方、皇居や下町は近くに高層ビルがないので大雨が少なかった。

 高層ビルに風が当たると上昇気流が生じて湿った空気が押し上げられ、短時間で雨雲が発達して風上で大雨となるらしい。

 このような局所的な気象は微気象と呼ばれており、これからの研究テーマである。
 都市型水害とされている短時間に局所的に生じる水害は、この微気象によるところが大きい。現在、下水道用降雨レーダーは250mメッシュの観測精度を有するが、微気象を解明しようとすればさらに細かい精度と高さ方向の解析が必要になるだろう。
 技術は常に進歩し続ける。



2008年 下水道技術のメッセージ (39) 5月24日「京都大学」
5月23日午後に東京大手町の経団連会館で開かれた京都大学環境衛生工学研究会設立30周年記念講演会で5本の講演を聴いた。

 基調講演では大武健一郎氏が財政や国際経済の立場から、日本の示す道として環境技術の大切さを説いた。氏によるとヨーロッパの世界史的な発明は複式簿記。日本は明治の初めにアジアで先進的に複式簿記を取り入れたそうである。複式簿記はソフトのインフラであり、日本が環境の面で複式簿記のような世界史的な貢献を期待しているという主旨で締めくくった。

松岡譲教授は低炭素社会の実現に向けたシナリオを炭素版の産業連関システムで示した。このシステムは気象予測に使う地球シミュレーターと類似の考えで、スーパーコンピューターで炭素に関する社会システムを作っているらしい。二酸化炭素や水の挙動は正しく把握することは大変難しいが、把握するところから科学が始まる、ということだろうか。

そのほか3人の有識者が講演された。  その中で、中国の環境問題を解説した大野木昇司氏は講演の導入で中国の大地震の時に四川省の成都にいたことを紹介した。たまたま環境問題の講演会に招かれて成都に着いた翌日の講演会の後の交流会で大地震にあったそうである。
 地震はそれほど大きくは感じられなかったが、なかなか揺れが収まらず、揺れている中を屋外の安全なところまで避難しなければならなかったそうである。
 当日に宿泊していたホテルは立ち入り禁止になり、他のホテルを探さなければならなくなったことや、住んでいる北京に帰る飛行機が大幅に遅れたこと、ご本人は阪神淡路大地震のときも前日に大阪に入った事ことなどを話していた。

 京都大学が東京の大手町で講演会を開くことにも関心があったので、関係者の話を聞いてみると、やはり大学のプレゼンスを意識した企画であった。会場では同窓会的な雰囲気もあったが講演会の内容は一般的で大いに勉強になった。



2008年 下水道技術のメッセージ (38) 5月23日「専門用語」
  韓国で発行された月刊下水道は韓国語で「水」という名前らしい。つまり韓国語には「下水」という言葉はないらしい。
 広告はもちろん全て韓国企業。記事も全文ハングルだが特殊な専門用語には漢字が付記してある。例えば雨水ポンプの「先行待機」とかディーゼルエンジンの「暖気運転」などの専門用語には漢字が付記されていた。

 韓国は京都議定書では温暖化ガス排出規制を受けていない。それは、当時の韓国は経済危機の真っ最中で先進国のジャンルに入っていなかったからである。しかし、その後の経済発展は目覚しくて京都議定書以後に規制の対象になる。この点で日本の技術は韓国の下水道事業のお役に立てられるのではないだろうか。

 韓国の独自技術も日本い到来している。例えば高速回転の小型単段ターボブロア。これは下水処理場の送風機システムを分散システムに変える可能性がある。

 日本と韓国の技術の架け橋に韓国版月刊下水道が貢献できればよいと思う。



2008年 下水道技術のメッセージ (37) 5月19日「重要文化財」
横浜市の観光地「港の見える公園」の付近には「山手西洋館」という7ヶ所の西洋館がある。このうちの1ヶ所は国の重要文化財にされており、残りの6ヶ所も横浜市の指定文化財や横浜市認定歴史的建造物に指定されている。
 これらの施設は指定管理者制度で「横浜市緑の協会」に管理委託されている。
 これに似た西洋館は神戸市にもあり、観光客で賑わっているが神戸市は有料であるが横浜市のは全て無料である。


 ところで、これらの施設を訪れると、時々、結婚式に出くわすことがある。国の重要文化財である「外交官の家」という施設でも結婚式を行うことがある。
 館内で配られていたパンフレットによれば、指定管理者である横浜市緑の協会が主催して結婚式が取り仕切られている。受付組数は毎月2組程度、利用料金は10万円から15万円、人数は40名くらいまででケータリングによる立食パーティーが利用できる。
 基本的には宗教色はなく、人前式で行うが、館を訪れた観光客が祝福をしてくれることは請け合いである。(写真は重要文化財外交官の家の全景、前面ではスタッフが結婚式のために赤い敷物を準備している。)

 このような催し物は、横浜市が直営の時代には考えられないことであった。指定管理者が応募の時に知恵を絞って提案したに違いない。
 重要な市の財産を保存展示しておくだけでなく、使いながら保存する仕組みは、新しい試みである。西洋館に限らず、公共施設は作られた後は単一目的で延々と保存されているケースが多い。しかし、本当に市民の身近な存在にするには活用と保存を両立しなければならない。活用は資金を集めるだけでなく市民の親近度や理解度を深める効果がある。

 東京都の三河島水再生センターの古い施設が、下水道施設としてはわが国で最初に国の重要文化財に指定された。これからどのように都民、国民に浸透していくか、知恵の見せ所である。



2008年 下水道技術のメッセージ (36) 5月15日「韓国」
日本で発行している「月刊下水道」が韓国で韓国語に翻訳されて発刊された。

今年の5月号からで、創刊号は無料、次から日本の約2倍の値段で購読できる。日本の下水道の話題が韓国の役に立つとすれば「月刊下水道」の役割は大きい。
 横浜で開かれる今年の下水道展ではある種の話題になるのではないだろうか。



2008年 下水道技術のメッセージ (35) 5月11日「台風被害」
防災白書によると2004年はたくさんの災害があった。
  死者、行方不明を生じた台風は7回も来襲して209人の被害が出た。とりわけ台風23号では98名もの死者行方不明者を出した。これに2回の豪雨被害21人を加えると230人もの被害が発生した。
 同年には新潟県中越地震があり67人の死者行方不明者を出している。
 また、同年12月には雪害で88人の死者行方不明者を出している。

 2005年の被害は台風・豪雨で41人、地震が1人、豪雪が152人、2006年では台風・豪雨42人、地震、豪雪はゼロで竜巻で9人死亡している。

 こうしてみると自然災害の中で台風・豪雨の占める割合が圧倒的に大きいことが分かる。  毎年のように発生している地震は意外と規模が小さい。もちろん東海地震や首都圏直下型地震が発生すれば1万人前後の人的被害が予測されており、桁違いの被害が発生する。このような大規模地震は被害は大きいが頻度は少ない。

 災害対策は市民・国民の防災意識が自助共助の面で重要視されてきている。防災意識の前提には被害の事実がある。行政サイドでも同じだが、地震の被害に対して台風・豪雨の認識が少なくはないだろうか。例えば、家庭において地震防災グッズを常備している方は多いが台風グッズはない。都会では台風直撃時にもハイヒールで出勤する姿さえ見かけることがある。

 台風・豪雨の被害実態を伝える工夫が求められる。



2008年 下水道技術のメッセージ (34) 5月7日「写真撮影」
あるテレビ番組で、目の不自由な若者が取った写真の展覧会を報道していた。
 ある写真家の指導で、都内の盲学校に通う目の見えない若者たちが写真をとり始めた。シャッターを押す時は、健常な人の助けを借りて方向を定める。音や匂いなどを手がかりに体で撮影する。実際に写真を撮った若者は、「撮った写真を見ることはできないが写真を撮るということが楽しくなった」とのべていた。

 指導していた写真家は、撮った作品を前にして、「彼らには何か能力がある。才能がある」、「彼らは不便だが不憫ではない」、「初めは不憫だと思っていたが、間違っていた」と語った。「写真は心で撮る」ということだろうか。

 そういえば、ソフィー・カルというフランスの女性カメラマンが目の不自由な人に、「あなたにとって一番美しいことは何ですか」、とたずねところ、「夢で見た息子の姿」と答えた人がいたらしい。彼女は、回答者がためらいながら答える様子を作品にした。彼女のメッセージは、美しいものは目ではなくて心で感じる、ということらしい。

    会話やプレゼンテーションでも、音声のメッセージはわずかでボディーランゲージや会話の状況がメッセージを運んでいる。体で撮影することと心で感じることは、おそらく同じことだろう。



2008年 下水道技術のメッセージ (32) 5月2日「ゴルフ場と再生水」
浅野先生の著書「Water Reuse」は実務的な教科書です。農学のことだけでなく、灌漑する時のバルブや制御装置、スプリンクラーなど、灌漑にかかわる機器が事細かに解説してある。各章の頭には専門用語の解説まである。
 このように「これさえ読めばいっぱしのエンジニア」という姿勢が貫かれていて納得できる。難点は厚すぎること。膨大な本なので全部を読む気にはなれない。必要なところを読み、どこに何が書かれているかを知れば、後は必要になった時に紐解けばよい。
 それにしても、再生水利用をこれだけ丹念に書き込んである本はおそらく世界でこの本だけだろうと思った。

 景観灌漑については、米国では再生水の利用ではゴルフ場が意外と多い。カリフォルニアでは再生水利用の50%、フロリダでは36%がゴルフコース利用だという。この数字には驚いた。日本とどこかが違う。何かが違っている。下水道が民営化していて民間利用が徹底しているのだろうか。水のコストが米国では大いに高いのだろうか。再生水配管敷設コストが安いのだろうか。
 そこまでは書いてなかった。



2008年 下水道技術のメッセージ (31) 5月1日「ドリップライン」
連休にカリフォルニア大学名誉教授の浅野先生の著書「Water Reuse」を読んでいて、「ドリップライン」という言葉を知った。
 「ドリップライン」は、灌漑農業で、作物に水を点滴のように一滴一滴ずつ与えるホースのこと。著書では下水道の再生水を景観灌漑に使う方法を詳しく説明していた。

 ホースの中に仕掛けがあって、50cmほどの一定間隔で吐出孔がある。吐出孔の内側にはオリフィスやラビリンスという簡単な絞り機構があり、水が一気に吹き出ないように工夫がされている。

 ドリップラインを再生水に適用すると水を節約して、植物が必要とするぎりぎりの水量を、必要とするときだけ供給することができる。水不足の米国中西部、西海岸やフロリダ州で積極的に使われいるとのこと。

 本書では、ドリップラインのもう一つのメリットを指摘していた。それは再生水の人への暴露の防止である。植物にスプリンクラで水を与えるとどうしても人に触れる機会が増える。ドリップラインで地表下数十cmのところに再生水を供給すると人への暴露はほとんどなくなる。

 ドリップラインの課題は閉塞。絞り機構のところで、再生水の不純物が原因で生物膜が発生したり、ドリップをとめた時に地下水が逆流して閉塞することがあるらしい。

 再生水といえども貴重な水源だから、有効に使おうとするのは当たりまえだが、その延長に人への暴露防止があった。興味深い関係である。

   ドリップコーヒーを飲みながら、ドリップラインを考えてみた。



2008年 下水道技術のメッセージ (29) 4月22日「水・エネルギー・食料」
バーチャルウオーターの沖大幹先生がある講演会で水とエネルギーと食料の相関を述べていた。
 すなわち、水は水力発電でエネルギーになり、エネルギーは海水淡水化で水になる。また、水は灌漑に使って食料を生産できるし、食料はバーチャルウオーターで水に置き換えられる。さらに、食料生産にはエネルギーは不可欠であるし、食料はバイオエネルギーの形でエネルギーに代わる。

 水とエネルギーと食料の関係を理解すると、水だけ大切にすることや、エネルギー危機を一意にすることは難しくなる。エネルギー安全保障とともに食料安全保障、水の安全保障を併せて関連付けることが必要になる。

 他との関連の中に水を考える。水は奥行きが深い。



2008年 下水道技術のメッセージ (28) 4月16日「世界水フォーラム」

4月12日に京都市の蹴上インクラインを訪れた。蹴上はケリアゲではなくケアゲと読む。
ここは、琵琶湖疎水が大津から山をくぐって流れ着いたところで、、ここから鴨川まで琵琶湖の水が流れていく。途中には、水位差を利用した日本で最初の蹴上水力発電所がある。  インクラインの途中には岡崎桜回廊十石舟めぐりのイベントがあり、一般客を屋形船に乗せてくれていた。
 早速、列に並んで乗船、30分ほどのミニ船旅を楽しんだ。

 このイベントは、今から5年前の2003年に京都市で開かれた世界水フォーラムの時に始まったもので、その後、毎年桜の季節に開いている。今年は舟を新装して写真のような20人ほどが乗船できる小さな船が2艘で休みなく稼動していた。舟はガラスファイバー製であるが、内装の杉の木の香りが香ばしかった。舟は15分おきに出発している。
   残念ながら桜はほとんど葉桜であったが、水面から見上げる京都の街角はまた一風変わった風情があった。平安神宮の大きな赤い鳥居は舟からも目にはいった。
 舟が橋をくぐるときは屋根が当たってしまうので30cmほど屋根が下がる。これは電動式で屋根を下ろすたびにアルバイトの女性がアナウンスをする。橋の下に入ると一瞬暗闇になるが、通り過ぎるとまた青空が戻る。素敵なアクセントであった。

 なお、このような観光船の場合には乗客に救命胴衣を着用することを義務付けられている。一体どうなるかなと思ったら、乗り場で写真のような黒いベルト上の救命胴衣を配っていた。説明によると、普段はベルト状であるが水に触れると大きく膨らみ、救命胴衣になるという。日本製である。はじめてみた製品であった。
 これなら航空機の救命胴衣にも最適である。機内で救命胴衣を膨らますと機外への脱出時に支障が出るので、実際には救命胴衣を膨らますタイミングが難しい。この点で、水に触れると膨らんで救命胴衣になる発想は驚いた。世界を救う技術となるかもしれない。

 舟が進むと、岸辺や橋の上から街行く人が必ず振り返り、微笑返す。普段は単なる川面であるが観光船があると瞬間に親しみ深くなる。観光船が街と水環境を結び付けている光景をかみ締めた次第であった。

 料金は1000円、京都では数少ない船旅を楽しめるイベントであった。
  それにしても、世界水フォーラムの足跡がこんなところに残っていたとはオドロキであった。来年にはトルコ・イスタンブールで世界水フォーラムが開かれる。



2008年 下水道技術のメッセージ (27) 4月7日「バイオマスガス」
下水道ではバイオマスガスが脚光を浴びている。

 バイオマスガスとは、昔からの消化ガスがあるが、一般に消化ガスには60%くらいのメタンガスが含まれており、残りは二酸化炭素や窒素ガスなどである。硫化水素ガスやシロキサンもそこそこ含まれていて、そのままでは有毒であり、ガスエンジンで燃焼しにくいので、ガス発電やボイラー加熱に使うときには、この両者を除去する必要がある。

 メタンガスの濃度を上げるとガスのカロリーが高まり、エンジン効率が上がる。メタンガス濃度を上げることは消化ガスの二酸化炭素を除去することを意味する。二酸化炭素ガスを除去する方法は色々あるが、スクラバーでアルカリ洗浄や処理水洗浄で炭酸の形で二酸化炭素を消化ガスから分離するのが経済的とされている。
 この方法でメタンガス濃度を80%以上にあげることができる。さらに濃度を濃くするには、高圧を加えた洗浄水中に消化ガスを通過させればよい。こうすると95%以上のメタン濃度のバイオガスが得られ、都市ガス並みの熱量を確保できる。

 もう一つのバイオマスガスは下水汚泥のガス化である。都市ゴミでもガス化溶融炉で生ゴミのガス化が事業化されているが、下水汚泥からも酸素が不足する雰囲気で数百度にして熱分解(乾留)させればメタンガスなどのバイオガスが発生する。この工程は下水道では一般的になっている流動炉を活用できる。この場合には二酸化炭素ガスの発生は少ないが、一酸化炭素ガスや硫化水素ガスなど多くの有害ガスが発生する可能性がある。

   消化ガスは微生物を使ってメタンガスを発生させるから安価であるが時間(数十日)がかかる。消化ガスは生物を扱うので反応時間が長くなり、消化槽の容積は大きく、操作は時間がかかる。ガス化炉は熱分解であるから短時間で(数十分)でメタンガスを発生させられるがプラントが高価になる。しかし、施設の容積は小さく、操作の応答は速い。

 発生したメタンガスをどう利用するかは下水汚泥のバイオマス化の一つのポイントである。最終用途を確保しなければ資源リサイクルは一歩も進まない。この教訓を我々は何度も経験してきた。
 メタンガスの一つの行き着く先はガス発電である。下水処理場内にガスエンジンを設置して、所内用の電力を発電する。その排熱は消化槽加温や建物暖房に使えばよい。発電の方法は、現在はガスエンジンが中心であるが、いずれ燃料電池や都市ガス混合、CNG車燃料などへと波及していくはずである。

 ここでのポイントはガス事業である。下水汚泥由来のメタンガスは、バイオマスとしてはゴミや食品廃棄物に比べて格段に多いが、都市ガス使用量に比べると、バイオマスを全量ガス化したとしてもかなり少ない。したがって、バイオマスガスは電気事業者やガス事業者と連携協調して事業化に取り組むことが望ましい。

 以上、バイオマスガスの考察であった。



2008年 下水道技術のメッセージ (26) 3月31日「桜満開」
今年も桜が満開になった。
 下水道機構の前にある神田川の沿道にも桜が植えてあり、随所に見事な桜が咲き誇っていた。3月28日金曜日の昼休みに桜見物をしたが、そこで写真のような奇妙なものを見つけた。
 桜の幹や神田川のフェンスなど、いたるところにA4ほどの大きさの紙に場所取りの宣言を書いて貼ってある。例えば、「風間組4月6日12時から」とか「坂田組、3月28日夜」、「3月28日水道町町内会花見会場」などでそれぞれ一定の間隔をおいて貼ってある。ていねいにビニールに包んで雨対策を施しているものもある。
「…組」と書いてあるカードが多いがまさかこんなに工務店やヤクザがいるはずはない。一般の人が花見のグループとして宣言しているのだろう。

 貼り方は整然としてあり、川の沿線にある小公園などはほとんど全てのスペースが、この手の場所取りカードで埋め尽くされていた。

 昔から花見の場所取りは新入社員の仕事と決まっていたが、カードを貼るという方法は始めてみた。皆が先にカードを張った人を尊重するし、カードを貼ったら必ず使う。一人で何枚もカードを貼らない。このような暗黙のルールが成り立ってはじめてカード貼り方式が成り立つ。
 考えて見ればいろいろな暗黙のルールは街のいたるところにある。普段は当たり前すぎて気が付かないだけで、皆がそのルールに従って行動している。だから街の秩序は保たれる。
 このあたりは下町風の地域で住宅地の中に中小の印刷業や事務所が点在している。歩いていけるくらいの距離には早稲田大学がある。花見の場所取りにカードが有効な街に、新入社員や新入生は何を感じるであろうか?



2008年 下水道技術のメッセージ (25) 3月22日「新幹線チケット自動販売機」
3月21日朝8時15分頃に有楽町駅北口の新幹線チケット自動販売機で京都までのチケットを買った。その時、事件は起きた。
 料金は1万2千10円だったので2万10円投入したがツリが100円足りない。何度か確かめてみたのだが、やはり100円足りない。まさか自動販売機が壊れているはずはないと思った。私の勘違いかとも思ったが納得いかず、自動販売機についている赤いボタンで駅員を呼んだ。

   するとまもなく駅員が自動販売機の裏から「どうじましたか?」と声をかけてきた。そこで、100円足りないと告げると、すぐに正面に回ってきて、「悪い人がいるんですよ」といいながら返金口の奥に手を入れて100円を取り出してくれた。
 何でも、返金口の奥にガムを貼り付けておき、硬貨が詰まるように仕掛けていたらしい。駅員の口ぶりでは常習のようであった。

 100円を返してもらい、ふと考えてみたら巧みな犯罪であることに気が付いた。一種の犯罪マーケッティングであった。
 この犯罪の巧みなところは次の5点である。
1.注意力の散漫と勘違い。朝の忙しい時間帯で早くチケットを手に入れて次の行動に移りたいと気がせいていることが多い。
2.小額であること。新幹線チケットは高価であるので100円単位のつり銭はあまり気にしないことがある。1000円なら間違いなく気が付くし大問題である。
3.自動販売機の操作が複雑であること。機械に信頼をおいていること。神経を使って入力してやっとチケットを手に入れたら、後はほっとして注意力が散漫になること。機械が間違えるはずはないと思い込むこと。
4.駅員がいないから犯罪が発覚しにくいこと。有楽町北口の窓口は全て無人で駅員の気配はない。したがって犯罪者が硬貨を回収しやすいこと。
5.そして、10円硬貨なら、だれも気にせず、ほとんど発覚しないこと。

 私の場合にはたまたま100円硬貨を釣りにしたので気が付いたが10円硬貨は数えることもしない。相手に負担感を与えずに薄く広くお金を集めるのは、お金儲けの一つの手法。客の行動心理を読み込んだ犯罪であった。
 なお、壊れた窓理論では、このような軽微な犯罪を徹底的に取り締まらなければならない。軽い犯罪が蔓延していくと街は寂れて大きな犯罪の温床になる。



2007年 下水道技術のメッセージ (24) 3月21日「ポンプ工場」
 関西のポンプを製作している工場を見学させていただいた。
 年度末で工場は出荷間近の製品であふれていた。

 その中で、海水淡水化施設のRO膜(逆浸透膜)用の高圧ポンプが目に付いた。ポンプそのものは大きくないが吐出圧5MP(水柱500m)のタービンポンプは中東地域で好評らしい。最近ではポンプの省エネ設計がポイントらしい。
 大型水中ポンプ用の水中電動機も面白い。電動機を床上に置くとシャフトが長くなるので水中電動機を使うが、これを自製していた。普通の電動機ではなく、電動機のコイルが一本一本絶縁されていて完全防水になっている。特殊電動機なので自製するしかないという。
 下水道ポンプ場用の立軸斜流ポンプもあった。これは大きい。シャフトが長いので実際に回転させてバランスを調整するという。立軸斜流ポンプは先行待機型がほとんどで、大型だが全て工場内の大きな水槽で実負荷試験で性能を確認している。

 このようなものづくりの原点をみると日本の底力を感じる。空調もなく粉塵や油まみれの現場で黙々と旋盤を操作する若者がいるし、ポンプ本体の素材を作る鋳物工場の片隅で打ち合わせをしているグループもいた。部品を移動している、作業服を身に着けた若い女性にも出会った。

 オフィスに比べると格段に厳しい環境で働いている皆さんの間を歩いてみて、ふと、下水道の現場を思い出した。下水道管きょの作業や下水処理場の作業はこのポンプ工場と似ているところがある。そこに働いている皆さんにある種の親近感を覚えた。



2007年 下水道技術のメッセージ (23) 3月11日「地域冷暖房」
早稲田大学の理工学研究所、尾島先生の講演を聞いた。
 尾島先生のご専門の一つ、地域冷暖房について、「冷房は熱を捨てること、水を捨てる下水と似ている」、という見識は初めて耳にしたことだった。
 さらに、「下水に熱を捨てる地域冷暖房もある」と話が続き、なるほどと共感した。

 先生は、地域冷暖房のネットワークについても熱っぽく話された。現在散在している東京の地域冷暖房をネットワークで結ぶと、効率のよい大規模な地域冷暖房のネットワークができる。欧米ではかなり戦略的に地域冷暖房間のネットワークが進んでいるらしい。

 大幅な温暖化ガス排出削減を実現しなければならないので、抜本的な施策が求められる。色々な試み、挑戦が必要だ。



2007年 下水道技術のメッセージ (22) 3月6日「エレクトロ・ケミカル・マイグレーション」
LSIのピン(端子)にエレクトロ・ケミカル・マイグレーション現象がおこることがある。長い間、雰囲気の悪い環境にコンピューターを置いておくと、ピンの銀メッキが時間と共に染み出して行き、ピンとピンを短絡してしまう。するとコンピュータは原因不明の誤動作を起こしたり停止したりしてしまう。
 悪いことに、この現象は短絡した時のジュール熱でエレクトロ・ケミカル・マイグレーションの経路を断ち切り、後から調べても誤動作は再現しない。

 犯人が犯行の形跡を消してしまうので、原因が迷宮入りをしてしまう。



2007年 下水道技術のメッセージ (21) 3月2日「ドア」
地下鉄の車両の連結器の上にある連絡ドアの付近にいたときに、若者がドアを開けたまま通り過ぎた。ドアを閉めるように声をかけようと思ったら、いつの間にかドアがひとりでに閉まった。この連絡ドアは電動の自動ドアではない。
 その瞬間に、連絡ドアが自動的に閉まる仕組みになっていることに気が付いた。
 つまり、連絡ドアにはほんのわずかに勾配がつけられていて、ドアが開いていても自重と電車の振動で自動的に閉まってしまうように設計されている。
 だから、このドアは見かけ以上に重い。ドアを開けるときに知らないうちに閉める準備をしているということであった。

 このような仕組みはドアだけでなく安全対策の考えのなかにも織り込まれていることがある。例えば自動車のアクセルぺタルは、踏むとエンジン回転数が上がるが足をどかすとアイドリング回転数に戻る。だから運転中に意識を失ったりすると、ほとんどの場合は車は自動的に止まることになっている。

 このような仕組みは、便利さや安全を設計段階で意図するときにシステムに織り込む。システムが知らないうちに便利になるわけだが、ここに問題がある。利用者が意識しないところで便利になりすぎるとトラブルが起こることがある。安全についても同じ。利用者が設計者の意図を測り知れず、ハイヒールなどでアクセルを踏むと危険度が上がるかもしれない。
 つまり、システムの便利さや安全については、組み込むとともに利用者に伝えることが必要であるということ。連絡ドアの場合には簡単な注意書きがあってもよいと思った。



2007年 下水道技術のメッセージ (20) 2月26日「新聞」
新聞を読まない若者が増えているという。別に新聞を読まなくてもテレビやインターネットで情報は集められるし、新聞を丹念に読んでいるような無駄な時間はないという。
 一方で新聞から離れられない中高年がいる。朝は几帳面に電車で日経を読み、職場では新聞のスクラップに眼を通し、帰りの電車では夕刊フジを愛読している。その合間にNHKのニュースを欠かさず見ている。

 考えてみれば、新聞がこれほど家庭やオフィスに配達されているのは世界で日本だけ。日本の新聞宅配制度が旧態依然の新聞システムを維持している。中高年は古い日本の代表なのだろうか。

 若者は新聞は読まないが旺盛な商品購買意欲がある。特に女性は流行に敏感で、街に氾濫しているフリーペーパーやインターネットで情報を集めて果敢に新商品を手に入れている。「R25」はこのような若者をターゲットにしたフリーペーパーの代表で、雑誌のコストは広告主が負担していることになる。新聞広告に比べて、ターゲットが絞り込めるのと、家に持ち帰ってもう一度読んでくれる期待がある。

 新聞が消える日、それは中高年がインターネットを使いこなす時か?または今の若者が中高年になる時だろうか?



2007年 下水道技術のメッセージ (19) 2月19日「再生紙偽装」
再生紙偽装問題で明らかになったが、再生紙を使ったほうが新品のパルプだけの紙よりコストがかかることがある。
 リサイクルした紙を再び原料で使う場合には古いインクを落としたり、紙以外の不純物を取り除いたりしてコストがかかる。特に、高品質の再生紙を大量に作るときにはエネルギーや薬品を多く使うことがある。

 家庭から出す分別ゴミも似た関係がある。せっかく分別しても、プラスチックだけを集めて再利用すると、そのまま燃やす場合に比べてコストが多くかかる。ゴミを生ゴミや紙類、プラスチック類と一緒に燃やすのがもっともエネルギーを使わないしコストも安い。自治体によっては、せっかく分別した家庭ごみの大部分をコスト削減の理由で一緒に燃やしてしまうところも少なからずあるという。

 リサイクルは資源に優しく、お金も節約できる、と信じたいが、そうでない場合もある。要はケースバイケースで対応していくのがよいだろう。
 ただし、その際、市民に対して偽りや説明不足があってはいけない。ここが重要である。



2007年 下水道技術のメッセージ (18) 2月18日「ウォシュレット」
読売新聞が水危機の連載をしているが2月13日には温水洗浄便座の話があった。
それによると、温水洗浄便座の普及は水の使用量を増やしたらしい。温水洗浄便座は水の使用量が0.8?増える。
 一方、便座そのものは技術革新で最新型だと1回に5.5リットルですむものまである。少し前までは10リットルや8リットルが最小であったから大幅な減少で、温水洗浄の分は十分補えるとしている。

 しかし、記事では温水洗浄便座の待機電力に言及し、資源エネルギー庁の話として温水洗浄便座は使っていない時でも消費される待機電力も含め、家庭の全消費電力の3.9%を占めていると指摘している。

 温水洗浄便器は快適さの見返りとして水も電気も使う。一方で、ウオシュレットは2006年末で2300万台も出荷されている。水と電気を無駄にするのではなく、有効に使うという視点が大切である。



2007年 下水道技術のメッセージ (17) 2月17日「地球温暖化対策」
地球温暖化対策は社会システムやライフスタイルの変更を求めることになるだろう。
ICPPの第四次報告によると、地球温暖化の原因が人為的であることが明らかになった。その上、二酸化炭素排出削減の規模は6%などではなく、半減以上という大きなオーダーですすめなければならない状況であることも明らかになった。
 とすると、省エネや改善では対応できず、社会システムやライフサイクルを変更して応じなければならない状況に来ていると思う。

 振り返ってみれば、先進国の社会システムやライフサイクルは数十年というかなり短い期間でドラスティックに変わってきた。その背景には安価な原油や情報技術の急速な発展があった。そして原油は高止まり、情報技術は成熟した現在、社会システムやライフサイクルの見直しが求められているということになる。

 こうしてみると地球温暖化対策を数十年前の日本に戻すということではなく、これからの日本のありかたとして捕らえ、これからの先進小国のソフトランディングとして捕らえることがポイントであろう。

 例えば、下水道分野では合流式、分流式に続く第三の下水処理方式の開発、サテライト処理場(中間浄化)のような水源創出下水道、嫌気処理だけの汚水処理、ファウリング(詰り)の起こらない膜処理など、社会や技術のイノベーションが考えられる。
 また、水を使わない風呂や洗濯、料理なども考えられる。水を使わないと下水道を否定することになってしまうという危惧が出るかもしれないが、ライフスタイルを根本的に変えるということはこういうこと。その上で下水道の役割を考えることになる。  つまり、下水道そのものを考えるということだろう。

 このような試行錯誤が地球温暖化には必要であると思われる。必死の形相で地球温暖化に対応するというよりも、下水道の近未来を真剣に考え、その結果として地球温暖化も対応していくという姿勢が大切なのかもしれない。 



2007年 下水道技術のメッセージ (16) 2月10日「ヨーロッパ式ロータリー」

もう一つの釧路市の名物はロータリー。
おそらく日本で本格的なヨーロッパスタイルのロータリーはここだけである。

ここは釧路駅から南へ向かう目抜き通りの突き当たりにある幣舞(ヌサマイ)橋のたもとにあり、6本の道路が集まっている。
ヨーロッパスタイルのロータリーだから、ロータリーに入るところに信号機はない。ロータリーの右から車が来ないことを確認できればいつでもロータリーに進入できる。好きな場所でロータリーを抜け出れば好きな方向の道路に出ることができる。初めてのドライバーはきっと面食らうが、慣れれば便利なシステムである。

 おそらく、北海道を開拓した頃にヨーロッパの技術者が自分の国の道路システムを導入したのが、このロータリーの始まりだろう。



2007年 下水道技術のメッセージ (15) 2月5日「災害対応型自動販売機」

釧路市のバス待合室には災害対応型自動販売機が設置してあった。
北海道コカコーラボトラーズが最近協定を結んで設置した。

 この自動販売機には、災害時に非常のメッセージが電光掲示板に表示される。写真では販売機の上部にある緑の文字の電光掲示板が通常は普通のニュースや観光情報を次々と表示している。非常時には、さらに遠隔操作で自動販売機が無料で使えるようになる。

 今後、企業の社会貢献(CSR)が一層求められるなかで、このような手法が増えるに違いない。自動販売機は企業だけのものではなくて、利用者も巻き込んだ公共性をもつ。
 また、災害対応型自動販売機は、「平時に役に立つものは非常時にも役に立つ」を実践する。視点を変えれば、もし非常時に自動販売機が動作しなければ機械を破壊されて飲み物を持ち去られるだろう。

  一つだけ気になるのは、コカコーラボトラーズだけがこの手の自動販売機に力を入れているということである。他のボトラーズは出遅れたのか、他の作戦を考えているのか。  これからの動きを注目している。



2007年 下水道技術のメッセージ (14) 2月2日「生ガキ」
所要があって1月の週末に北海道の釧路に行った。
 そこで、夜に居酒屋で期待のカキを注文した。カキは生牡蠣に限るということで、生ガキを注文したが、店員は「当店では生カキは扱っておりません」という答えが返ってきた。仕方なく焼ガキを注文した。
 同じく、釧路駅近くの和商市場で「ここでカキを食べさせる店はありませんか」と聞いたら、「和商市場ではカキは食べさせないよ」という答えが返ってきた。

 不思議に思って、後でインターネットを調べてみたら、2006年暮れにカキに関する風評被害が多発していたことが分かった。
 生カキは何も日本に限った食べ方ではない。米国でも大々的にある。それに、ノロウイルスは最近出現したウイルスではない。昔からあったはずである。日本だけが風評被害で街から生カキを無くしてしまうとしたら、これは問題である。

 科学的な対応が求められる。



2007年 下水道技術のメッセージ (13) 1月29日「人と防災未来センター」
先週、神戸市にある「人と防災未来センター」を訪れた。最近、リニューアルされたと聞いたので二回目の訪問であった。
 館内のボランティアの方にリニューアルの箇所を聞いたら、5つの精緻なジオラマを案内していただいた。

 阪神淡路大震災直後の混乱の状況をリアルに描いたジオラマをはじめ、2週間後、3ヵ月後、1年後、10年後の被災地の様子をジオラマで表現していた。混乱、避難、復興、再建、そして発展と進んでいく神戸の姿が明確に訴えてくる立派な模型であった。
 ボランティアのおじさんが、最後に強調していたことが印象的だった。「震災前より地域のつながりが強くなった。震災は全てを壊したが新しいものも得られた」

きっと、震災から十数年の時間を経てそう思えるようになったのだろう。



2007年 下水道技術のメッセージ (12) 1月28日「名声・財産・自由」
前回の講演の中で面白い話があった。、先生が学生に対して次の質問をしたそうである。「名声」「財産」「自由」のうち二つだけ選べるとすれば、あなたはどれを選ぶか?
 そこで大部分の学生は「財産」と「自由」を選んだそうである。
 この質問には正答はない。どこに人生の軸足を置くかであり、年代や境遇で大きく異なる。大切なのはその軸足においているとの認識と、残りの選択を知っておくことだろう。
 学生の場合、名声は一番遠くにある。若いうちから名声だけ求めるようではいけない。だが、名声は「誇り」であり「自己実現」につながるものである。

 問題を解く時に答えが一つとは限らない。一つでないことのほうが多い。答えのないこともあるし、答えが変わってしまうこともある。学生がそのことに気づく時、先生の質問の意図が果たされたといえるのではないだろうか。



2007年 下水道技術のメッセージ (11) 1月21日「電気工学」
 先週、東京大学の先生に講演をしていただいた。そのなかで、最近の学生の人気学科は機械と建築であるという話があった。逆に不人気の学科は電気だそうであった。

 建築は個人の業績が後世に残るので人気があるのだろう。機械は、ロボットや自動車など世界に通用する日本の工業技術の分野である。目ざとい学生はこのような日の当たる分野に敏感なのだろう。
 では、電気はなぜ不人気なのだろうか。実は少し前までは電気もITとの関係で人気があった。しかし、ITバブルがはじけ、IT技術の中枢が米国に独占されるようになると電気・電子工学の魅力が低落した。
 これはコモディティ(日用品)化の動向と一致している。ITが一般化してどこでも高性能のパソコンが手に入るようになり、価格競争化してきた。こうなると画期的な技術の出現する機会は少なくなり、学生の興味も離れていく。

 技術が進むと画期的な発展が少なくなって価格競争が激化する。公共事業の行く末みたいで気にかかる。



2007年 下水道技術のメッセージ (10) 1月19日「若者と下水道」
 下水道はPRしにくいという話をよく耳にする。水道は命にかかわるが下水道は直接生命にはかかわらない。見えない、汚いから人は避ける。など、下水道を隠そうとする理由はたくさん出てくる。

 しかし、本当に下水道は日陰の存在なのだろうか。生活者や消費者、市民、読者である下水道利用者は下水道に対していつも否定的な位置づけでいるのだろうか?

 視点を変えて、生活に密着しているインフラとして電気を考えてみると、電気も実はあまり日が当たらない。生活に密着して不可欠なインフラであるにもかかわらずに、人々の目には当たり前のもの、なくては困るが日々の生活で意識せずに浸かっているものの代表格である。

 電気も下水道も建設が終わって成熟したインフラとしては似ている。ただ、下水道は建設直後であるから、まだ建設の勢い、期待が残っているだけ割りきりが少ない。

 となれば、下水道の広報戦略は足元を見直さなければならない。そもそも人々に受け入れがたいことを前提に、下水道のどの部分を伝えてどの部分は伝えないかを選択しなければならない。また、人々に伝えることに意義、意味をもう一度吟味しなければならない。人々が全てに社会インフラを専門家のように知る必要はない。電気やガス、水道に比べて特に下水道が利用者に知っていただきたいものは何か。簡単なようで難しい課題である。しかし、これが第一歩。
前回のコラムに書いたR25を読んで、若者とトイレ、若者と下水道、という関係を考えてみた。



2007年 下水道技術のメッセージ (9) 1月18日「トイレのレバー」
 たびたびで恐縮だが、三度R25の話です。
 毎週木曜日に発行のR25、私は地下鉄有楽町線有楽町駅の乗り場付近においてある棚から入手しているが、昨日はいつもの時間にもかかわらずに残部わずかの売り切れ状態であった。通る人が皆、手にしていく。
 その雑誌に、トイレの話が掲載してあった。
 主旨は、トイレの便器(タンク式)になぜ小と大のレバーがあるのか、という問題提起であった。それぞれオシッコと大便のためにといえばそれまでだが、意外と小のレバーが使われていないらしい。
 小に大のレバーを使うと一年に千円以上の無駄になる。逆に大便に小のレバーを使うと配管が詰まりやすくなる、と解説していた。

 25歳の若者がこのような話題に反応しているのは興味深い。下水道の話はここから始まる。



2007年 下水道技術のメッセージ (7) 1月14日「オフィス床料」
三井不動産会長の岩崎芳史氏の講演の続き。
 ご専門の不動産事情について興味深い話があった。東京の業務用ビルの床料は国際的に高い。最も高いのは丸の内で坪8.5万円くらい。三井不動産が作った六本木ミッドタウンでは坪7.5万円、日本橋で坪5万円くらい。
 これに対して世界で最も繁栄しているニューヨークでは最も高い5番街で坪換算で5万円、ダウンタウンでは2.5万円になる。サンフランシスコでは目抜き通りでも坪1.5万円だそうである。

 これに対して、同じロケーションに建っているホテルの宿泊料金は日本では国際的にかなり安い。東京の高級ホテルでは、帝国ホテルは1泊4万円で泊まれるしホテルニューオータニは2万円から4万円で泊まれる。これに対してニューヨークでは高級ホテルのウォルドルフは泊8万円だ。このホテルは岩崎氏が昨年利用している。昨年、私が泊まった7番街にあるウエリントンホテルもバスタブなしで泊5万円であった。

 岩崎氏の説明によると、業務用ビルは日本が高価格である理由は、そこにいる企業が元気だからだそうである。高い床料を払えるから高いオフィススペースの供給が続くそうで、東京のオフィス空室率は今もって1%と低い。

 これに対して、ホテルが安いのは日本が世界の波に乗り遅れた結果であるらしい。15年前のバブル期は日本は世界で最もすみにくい街であったが、現在は世界で5番目にすみやすい国となってしまった。

 以上の講演を私なりに解釈すると、東京に集まっている企業はまだまだ元気があり発展が期待できる。最近の株価低下は一時的、と読める。一方、ホテル料金が低いのは国際的な観光客や国際会議が少ないため需要がなかなか伸びない環境にある、と感じた。  



2007年 下水道技術のメッセージ (5) 1月9日「二次元バーコード」
正月休みに二次元バーコードの入った個人用名刺を作った。
 会社用名刺はよくあるが、自己PR用の名刺はあまりみられない。しかし、相手に自分のことを知っていただくには個人用名刺が効果的である。自宅のメールアドレスや趣味、特技など、自由にアピールしたいものを書く。

 メールアドレスは二次元バーコード(QRコード)も加えた。QRコードに携帯電話のカメラを合わせて操作するとアドレスが画面に現れる。これでメールの宛名書きが終了、非常に便利である。

 バーコードは、縦棒の一次元バーコードから正方形の二次元バーコードに進化した。この動向はここで終わらない。二次元バーコードの次の段階はICタグになるだろう。 名刺に個人用のICタグをはめ込んで動画や長文を組み込む時代がいずれ訪れるに違いない。



2007年 下水道技術のメッセージ (4) 1月6日「マスク」
東京のある大学病院での話題だが、院内感染を防ぐために、全職員にマスクの着用を義務付けた。

 マスクはせきやくしゃみをしたときに風邪のウイルスを飛び散らすことを防ぐ。風邪はせきと共に飛び出るウイルスを含んだ飛まつで感染する。これを飛まつ感染といい、粘膜をとおして体内に侵入する。

 この病院では全ての職員がマスクをしていたが、一部の者は鼻から下だけマスクで覆って鼻は出しているものもいた。これでは効果は半減ではないか?
 また、患者はもちろん、ほとんどの医師もマスクをしていなかった。風邪のウイルスを撒き散らす可能性があるのは職員だけではない。病院内の全員がマスクを装着しないと効果が少ないだろう。

 なかなか病院のサービス品質を上げるのは難しそうだ。



2007年 下水道技術のメッセージ (3) 1月4日「箱根駅伝」

1月3日に恒例の箱根駅伝を観戦した。若者が全力をふりしぼって駆け抜ける姿は、テレビでは伝わらない臨場感があった。

 結果は駒大の総合優勝で幕を閉じたが、沿道で観戦していてあることに気が付いた。
 沿道では写真にあるように開催者の読売新聞社が応援の小旗を配っていた。この旗の棒の部分が、昔はプラスチックであったが現在は紙製であった。つまり、小旗はもえるごみである。プラスチックの棒では捨てる時に切り離して分別しなければならないから環境に優しいつくりになっている。

 驚いたのは旗の下部に小さく印刷されていた次の注意書きであった。
 「街の美化のため、捨てずにお持ち帰りください。」とあった。その下には左の写真のように「箱根駅伝懸賞実施中」とあった。
 この旗の右下にある応募券部分を切り取り、はがきに貼り付けて読売新聞社に送ると、抽選で箱根ホテル小湧園や横浜ロイヤルパークホテルなどの宿泊券が当たる。
 つまり、駅伝が終わったあと、観衆が小旗を道端に捨てていくことを防ぐための新聞社の工夫であった。
 この工夫には感心した。「ゴミを捨てるな、」というだけでは誰も従わないが、家に持ち帰って懸賞に応募すれば、ゴミはそれぞれの家庭で一般ゴミとして捨てられる。
 もし、読売新聞社が沿道に捨てられたゴミを集めて捨てようとしたら膨大な人手がかかると共に、集めたゴミは産業廃棄物として有料で処分しなければならない。
 一人一人が小旗を持ち帰ることは大した負担にはならないが、新聞社が大量の小旗を処分するには大変な負担がかかる。このしくみを懸賞という魅力で解決していこうという意図がうかがえる。

   これは観客一人一人を活用して問題を解決していこうとするもので、個人と公共との関係に通じる。例えば、震災や水害に関する減災では、災害情報を迅速に、できるだけ広く市民に伝えることにより市民一人一人が自分自身の努力で被害の度合いを減らすものである。基本的な震災対策や水害対策がすむと、次に必要となることは減災であり、市民と共に災害に取り組むことが重視されている。

 ちなみに、「読売新聞社ではこの懸賞で入手した個人情報は新聞の購読のお勧めにも利用させていただきます」、と小さな文字で書かれていた。民間企業は実にしっかりしている。



2007年 下水道技術のメッセージ (2) 1月2日「見える下水道」

この写真は昨年神戸を訪れた時に市内の異人館付近で写したもの。歩道の一部を堀り下げてレンガ積みの古い下水管を市民や観光客に直に見せている。異人館との関連で神戸市の由緒を展示してありおもわずカメラを向けた。
 おしゃれな道端に、さりげなく見える下水道を配置しているのはさすがに神戸市、感心した。他の都市もこのような施設を設置して下水道をアピールして欲しいと思った。

 だが、近づいて下水管をよくみてみると次の写真のように汚水の中身が見当たらない。汚物やコンドーム、割り箸など、いわゆる汚物の中に含まれる汚水のシサ(ゴミ状の固形物)がほとんど見当たらない。
 調べてはいないが、これは雨水管ではないだろうか、と感じた。神戸市は汚水と雨水を別々の下水管で集める分流式が大部分である。

 下水イコール汚水として汚水管を展示するという選択肢もあったかもしれないが、おしゃれな市街地に汚水をそのまま展示するのは具合が悪いと判断したのではないかと思った。
 市民や観光客は、汚水のシサを街の中で眼にしたらどのように感じるだろうか。人の排泄物そのものやコンドームなどを眼にしたらおそらく不快感が最初に現れてブーイングが起こるに違いない。

 下水道を市民や観光客の目に触れるように努力するのは広報部門の仕事だが、程度を超えるとお叱りを受けてしまうという配慮だろう。
 ここに下水道広報の難しさがある。手術のテレビ番組でも皮膚を切り刻む場面や臓器を取り出す場面はお茶の間にはタブーである。全てをありのままに展示することはできない。 北海道で人気の旭山動物園では行動展示といって、日常の動物の生態を動物にできるだけ近い地点から観察できるように工夫して好評をはくしている。しかし、動物の生態の全てを展示しているわけではない。
この問いに対する神戸市の結論は雨水管展示であった。



2007年 下水道技術のメッセージ (1) 1月1日「新年おめでとうございます」
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

  昔、「最後の晩餐」というテレビ番組がありました。人間、死ぬ前に最後に食べたいものは何だろうか、というテーマでした。究極の食事は何だろう、という結構重いテーマでもありました。
 でも、食欲には限りない面もあります。最後の晩餐をたらふく食べて、そのあとにお茶漬けが食べたくなるかもしれません。有形の欲望には限りがないということでしょうか。そこで出てくるのが知識欲です。分からないものを理解する、知らないことを知るということは人生の大きな目標になります。
 この関係は最近の情報開示や知る権利、説明責任ともリンクしています。インターネットやマスメディアがこれほど発展したのは知ることへの欲求や願望の結果と見てもよいでしょう。「吉兆」や「赤福」が大きな打撃を受けたのは商品が悪いのではなくて知らせるべきことを知らせなかったということでした。
 食べるということは他者の命を奪って生きること、知るということは他者の経験や知恵を受け入れて生きること。還暦を迎えて考えてみました。

 平成二十年 元旦



2007年 下水道技術のメッセージ (162) 12月25日「排水基準」
 ある調べものをしていて、日本の排水基準が東南アジア各国より緩いことを知って驚いた。
   よく調べてみると、日本の基準は環境基準の確保から導いているが東南アジア各国の基準はヨーロッパの考えを取り入れており、最新の処理技術を駆使するとどこまで減らせるかを基にしているらしい。

なお、排水基準とは、「特定施設を設置する工場又は事業場から公共用水域に排出される汚水又は廃液等の規制及び地下浸透の規制を行い、公共用水域及び地下水の水質汚濁を防止する目的で定められた項目とその基準」。



2007年 下水道技術のメッセージ (161) 12月22日「家電リサイクル工場」
 ある会合で家電リサイクル工場を見学する機会があった。
 鶴見にある潟eルムという会社の工場で、鞄月ナが100%出資している。
 チリ一つない清潔な工場の敷地に入ると、山積みされたリサイクルの洗濯機に驚かされた。
 最初に入ったのはクーラーのリサイク工場。ベルトコンベアの周りにたくさんの作業員が張り付いて、クーラーの室外機がベルトコンベアを流れるに従い、順に部品をはがされて裸になっていく。
 最後は小さなコンプレッサーと熱交換器だけになり、ばらされて所定の箱に投げ込まれて終わる。

 このリサイクルの工程をみていると、リサイクルに携わる作業員の多さに驚く。たくさんの人が寄ってたかって手作業で分解していく。きっと、作るときには自動化でわずかな人ですんだことだろう。リサイクルするには、色々な型のクーラー、色々な年代のクーラーが流れてくるから、いちいち手作業で対応するしかない。
 作業は腕力を必要とするしほこりが飛び散って過酷な現場で行われている。一昔前の町工場の状態である。つくづく、リサイクルは大変であると感じた。
これが静脈産業っであった。



2007年 下水道技術のメッセージ (160) 12月20日「二酸化炭素削減」
 地球温暖化は喫緊の課題であり、二酸化炭素排出削減の促進が急がれている。
    あるとき、都市ガス関係者の講演を聴いてびっくりした。その人の話によると、燃料を石油からLNGに変えるだけで二酸化炭素の排出が20%以上削減できるという。その理由は、石油を燃やすより天然ガスを燃やしたほうが単位エネルギーあたりの二酸化炭素の排出量が圧倒的に小さいからである。

 二酸化炭素排出削減はコストと並んで燃料を選ぶ際に重要な要素となる。



2007年 下水道技術のメッセージ (159) 12月18日「落葉の処分」
落葉の季節が終わり枯れ木の冬になった。
 落葉は地表に堆積して風化する。ところが地表がコケで覆われている京都の日本庭園では、この落葉がコケの天敵になる。コケの上部を落葉が覆うと光が遮断されてコケは朽ちてしまう。そこで落葉が落ちると箒でコケの上の落葉をはかなければならない。

 一見、静寂な日本庭園のたたずみの中で、眼を凝らして見ると、絶え間なく落ち続ける紅葉と格闘している何人もの作業員がいた。グレーの作業服に身を包んで、木々の陰に隠れて絶えず手を動かして作業をしている人の影に、下水道の現場作業が重ねて見えた。

いつの間にか大量の落葉が片付けら、処分されてあたかも何事もなかったように庭園がたたずむ。都市の下水道となんと似ていることだろうか。
 日本庭園も下水道も毎日姿を変えずに続いているが、その背景にはたゆまない人の手が加わり続けている。この、「人」の存在を知ることが日本庭園や下水道を理解することに通じる。



2007年 下水道技術のメッセージ (158) 12月14日「R25の下水道」
 このコラムの12月9日付けにR25のニュースを書いた。
 毎週木曜日発行で人気沸騰のR25の今週号の17ページに、次のような下水道に関する興味ある記事があった。


 我々のうんちって、トイレでおさらばした後、どうなっているのでしょうか?犬のフンを飼い主が処理しているところはよく見かけますが、我々のは実際どのような処理をされているのかよくわからないですよね。そこで、東京都下水道局の関さんにお話を聞いてみました。
 「東京23区はほぼ100%下水道が普及していて、ウンチは他の生活排水と一緒に、下水道管を通じて各地域の水再生センター(下水処理場)へ流れます」
 なるほど。これは管内に溜まったりしないのですか?
「下水管には傾斜がつけてあります。水が高いほうから低いほうに流れることを「自然流下」といいますが、下水も同じしくみで流れています。ただ、あまり深くなると、建設だけでなく点検や掃除も大変なので、要所に「ポンプ所」を配備して、下水を高いところまで汲み上げています。そこから、再び自然流下で水再生センターに向かうわけです」

   そういうしくみで流れていたとはオドロキです。では、その下水を実際どのように処理しているのか。落合水再生センターにお邪魔し、現場を見せていただきました。
 「まず大きなゴミや土砂を取り除いた後、細かい浮遊物を沈殿・分離させます。次に、ゴミや汚れを食べる微生物が活躍する「反応槽」という池に流し込み、空気とともに6〜8時間ほどかきまぜます。うんちはこの段階で処理されます。この後、徐々に汚泥と上澄みにわかれるので、キレイになった上澄みを塩素消毒して川や海に放流しています」

   意外にも主役は微生物。実は川にある岩のヌメリもそれで、汚れを食べて川を浄化しているのだとか。下水道はこの自然のしくみを取り入れ、水をキレイにしていたわけですね。こんな"小"さな存在が、我々の"大"を処理しているのでした。
  (下元陽/BLOCKBUSTER)

 R25に下水道が掲載されたとはお手柄である。普通の若者はこのように下水道を見ているのかと思った。



2007年 下水道技術のメッセージ (157) 12月13日「紅葉の後」
 晩秋の京都を訪れてみた。
 すでに紅葉は11月下旬に終了して木々の枝は葉が散っていたが、紅葉が地表に堆積して黄色や赤色に覆われている光景に出くわした。まるで地表の紅葉で予想外の華やかさであった。
 紅葉に代わって京都では南天の赤い実が花盛り(?)。四季折々の楽しみ方がある。


2007年 下水道技術のメッセージ (156) 12月10日「柏崎原発と雨水ポンプ場」
東京電力が全ての株主に配布しているパンフレット(中間報告書)の11ページにおいて「新潟県中越地震による柏崎刈羽原子力発電所への影響と対応」の「微量の放射性物質を含む水の海への放出」を説明している。
 この記事によると、本来厳密に放射線管理区域に閉じ込められているはずの使用済み燃料プール(4階)の水が地震でゆすられて溢れ出し、燃料交換機のケーブルや電線管などを経由して放射線非管理区域にある3階の天井部分からもれて、地下1階にある地下排水タンクに流れ込んでしまった。

   ここで重要なことは放射線管理区域と放射線非管理区域とは厳密に分離されていたはずにもかかわらず、ケーブルや電線管を通じて水が漏れてしまったことである。
 実は、このケースは下水道の雨水ポンプ場の構造と酷似している。
 雨水ポンプ場は沈砂池とポンプ室とは分厚いコンクリートの耐水壁で厳密に区分していて、冠水しやすい沈砂池の被害がポンプに及ばないように設計されている。万一、ポンプ室側に雨水が侵入するとポンプ機器が浸水してポンプが停止してしまう。
 ところが、私の経験では、昔、建設後の改良工事で沈砂池とポンプ室の間にケーブルを貫通してしまい、沈砂池が水位上昇したときにポンプ室に雨水が侵入してポンプが停止したことがあった。全く、今回の柏崎原発と同じ誤りであった。

 重要な止水壁に穴を開けてケーブルを通してしまったことは大きな過失であった。しかし、当時はそこまで想像力が働かずに監督員が見過ごしてしまったらしい。
 今では、必ずケーブルや配管類は止水壁を突き破らず、いちど地上階まで立ち上げてからポンプ室側へ配管することになった。

 このような初歩的なことが柏崎原発でも見過ごされていたことに驚きを感じると共に、下水道の現場には、事故こそ起こっていないが止水壁を貫通したケーブルや電線管類がまだたくさん放置されているに違いないと思った。
 大いに心配である。



2007年 下水道技術のメッセージ (155) 12月9日「R25」
 R25という若者向け無料雑誌が話題を呼んでいる。
 読者を25歳男性に設定し、地下鉄の駅やコンビニで山積みにした状態で配布している。  この雑誌はリクルート社で出しており、広告収入で費用をまかなっていて、いわば民放テレビのような営業方法である。このR25が、先週京浜東北線の電車の中吊り広告に掲示されていたのには驚いた。ここは週刊誌の指定席だから、R25も週刊誌並に認知されたということであろうか。

   R25を毎週読んでいる感想としては次の5点である。
 1.ブログ形式。一人称で話しかける文体が多い。あわせて、知っていると得をする、教える・学ぶ風の記事が多い。
 2.薄い。地下鉄の数駅で読みきれるような気分にさせる厚さである。捨てるのも簡単。
 3.無料だが人が手渡さない。山積みで勝手にもって行けという感じがいい。私のような年齢でも手に取れる。
 4.男性週刊誌のようなゴシップやどぎつい写真、記事がない。女性も十分楽しめる中性さがある。
 5.全頁グラビアの読みやすさ、見やすさがいい。

   出版業界のことだからきっと柳の下の二匹目のドジョウをねらう動きが出るに違いない。



2007年 下水道技術のメッセージ (154) 12月6日「オリジン弁当」
最近、赤福や船場吉兆、オリジン弁当など人気食品商品の不祥事が相次いでいる。消費期限の改ざんや材料の再利用など許されることではないが、気になるのは実害の出ていないこと。味が落ちれば売り上げが下がるし、食品が変質すれば大問題になるが、一連の事件で共通しているのは消費者サイドの実害が出ていないこと。信頼だけを裏切っていること。
 消費期限制度が実害を未然に防いでいるのかもしれないが、有名ブランドが相次いで不祥事で決定的な痛手を負っている事実が連なってくると、制度的な問題があるのかもしれない。
 視点を変えるとリスクコミュニケーションの欠落なのだろうか。ブランドという新しい商品価値に対する稚拙な対応が傷を大きくしている。ブランドの背景にある情報開示と説明責任という新しいマネージメントが、伝統的な食品業界を襲っているということだろうか。
 この関係は食品業界にに限らない。生活に密着している水道事業や下水道事業も無関心ではいられない。


2007年 下水道技術のメッセージ (153) 12月3日「LEDの課題」
 LEDの技術的発展は全国にイルミネーションブームを巻き起こしている。
 LEDの出現はイルミネーションにとどまらず、自動車のヘッドライトや街灯、室内照明にも及びつつある。何しろ明るくて省エネで長持ちする。おそらく蛍光灯の出現以上の効果をもたらすことだろう。

 LEDのよいところは多数ある。では欠点は何だろうか。
 例えば点光源なので面的照明が苦手なこと。例えば直流電源が必要なこと。例えば光の柔らかさに欠けること。
 新技術は欠点にも目配せすると新たな課題が見えてくる。これらの課題は今後、技術的に解決されていくだろう。



2007年 下水道技術のメッセージ (152) 12月2日「広島ドリミネーション」
 12月になって、全国各地で鮮やかなイルミネーションが夜の街を飾っている。
 特に、最近は白色発光ダイオード(LED)と青色LEDの普及で演色性が格段に進んだ。

 昔はタングステン電球を使っていたが、現在は影を潜めて全てLEDとなった。LEDの 特徴は以下の通り。
1. 発熱しない。木に優しい。
2. 消費電力が小さい。環境に優しい。
3. 寿命が長い。ライフサイクルコストが小さい。
4. 演色性がよく変化にとんだ演出ができる。
5. 光ファイバーとの組み合わせて線的表示、色彩の変化が表現できる。

 1.2.3.はこれまでもあったが。4.は5.は新らしい。

 先週は、広島市の平和大通り、地元では100m道路と呼んでいる通りで、大規模なイルミネーションのイベント、広島ドリミネーション、を楽しんだ。ここは5月にはフラワーフェスティバルで有名な場所である。
 広い道路の広場に大規模なLEDイルミネーションの数々が所狭しと並んでいて、壮観であった。120万個の電球を使っている。実物大のメリーゴーランドや人物像、縮尺だが御伽噺の西洋のお城など(左の写真)、人が中に入っていける大型イルミネーションが目白押しであった。

 これらの作品は地元企業の協力で作られている。さすがに、中国電力や東洋工業、全日空ホテルなどが力のこもっ作品を提供していた。

 この光景はどこかで見たことがあった思い、考えてみると、これはまさに札幌雪祭りの手法であった。大通りに企業の提供でモニュメントを並べて観光名所にする。この手法であった。これなら雪がなくてもできる。形は違うが神戸ミレニアムも同じ手法。LEDで街が変わるということであった。



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