第21話




「朋也くん……」

 風子が朋也の前から立ち去ったあと、今度は渚と春原が姿を見せた。

「……もう集合時間か?」

「いや、まだ十五分経ってないんだけどね」

「さっき、ふぅちゃんの姿が見えたような気がして……」

 それで気になって、戻ってきたようだ。

「なあ。渚、春原」

 朋也は、あずかっている軍資金600点を取り出し、それを三等分に分けた。

「これ、200点ずつ渡しておく」

 渚と春原はきょとんと受け取る。

「これでカードの消耗後、俺だけ600点を使って、星を買うことはできなくなった。ひとりだけ助かるなんてことはなくなった」

 200点では、誰かから星を買うことは難しいだろう。

「条件は、みんな一緒になったってわけだ」

「……どうしたんだよ、岡崎。いきなり」

「俺は、おまえらを信じる。だからおまえらも、俺を信じてくれってことだ」

「朋也くん」

 渚はちょっと怒ったように続ける。

「そんなこと言われなくても、私は朋也くんをずっと信じてましたよ」

「僕だってそうだよ。裏切りなんて考えたこともないよ」

「むしろそのセリフがフラグを立ててそうなんだが」

 だが、今は些細な疑心が命取りになる。

「必要な星はあと3コ。絶対に三人で生き残るぞ」

「はい」

「わかってるって」

 グーとパーのダブル買い占めをうまく使えば、勝って家に帰れるのだ。

 三人は再び散り、その機を待つことにした。








 ギャンブル終了まで、残り時間はもう30分を切っている。

 その間、決着がついてこの場所を去っている生徒は多数に上る。

 今現在、残っているのは40名といったところ。そのうち、20名くらいは星の売買に望みをかけ、言わば勝負の放棄に徹している。

 だから朋也たち三人が生き残るには、まだ勝負を続けている20名弱の生徒から星を奪うしかない。

「朋也くん、15分経ちました」

「対戦相手も少なくなってきたし、急いで勝負したほうがいいんじゃない?」

「……そうだな」

 電光掲示板に表示されているカードの残り枚数は、グー38枚、チョキ15枚、パー37枚。

 そこから、朋也たちが保有している多量のカードを引くと、グー8枚、チョキ10枚、パー3枚。

 これが、朋也たちだけが知ることのできる、ほかの生徒が保有しているカードの情報。

「わたしたち、グーとパーを買い占めてますから、相手のパーがゼロ枚になればグーで必勝できるようになるんですよね」

「僕たちはパーがなくなるまで、さらに待つってこと?」

「いや、あまり待つとチョキの残り枚数もゼロに近づくかもしれない。そうなると勝ちを拾えなくなる」

「じゃあ……」

「ああ。当初の予定どおり、動くぞ」

 決着のときが来た。

 これがおそらく、最終局面。間違いは許されない。

 朋也は素早く周囲を見渡し、手近な対戦相手を捜し出す。

「渚、春原。おまえたちも戦ってくれそうなやつを捜してくれ」

「はいっ」

「任せてよ」

 今、グーで勝負にいけば、8割近くの確率で勝てるのだ。

 そう。戦えばほぼ勝てる。

 一度くらいは運悪く負けても、二戦、三戦とやれば必ず勝ちのほうが多くなる。

 だから、助かる。勝ち残れる。

 朋也はそう確信していたのに。

「どうして……」

 対戦相手が見つからない。

 皆、逃げるように朋也たち三人から離れてしまう。

 これでは、隅で固まっている勝負放棄の生徒たちと変わらない。

「皆さん、なぜ勝負してくれないんでしょう……」

「お、岡崎、もしかして僕たちの戦略、バレてるのか?」

「……いや、おそらく違う」

 朋也は心で舌打ちする。

「俺たちは、タイミングを誤ったのかもな……」

 間違いは許されない。だから、たとえ間違ったとしても、どう取り返すかを考える。

「なあ、見てみろ。勝負できないのは俺たちだけじゃない、ほかのみんなも同じだ」

「えっ……」

 隅に固まっている生徒もそうだが、歩いている生徒も周囲ばかりを窺って、誰かに声をかけようとしない。

「不信感ってやつだな」

「……不信感?」

「みんな、俺たちと同様、ここに至るまでに勝負の騙し合いってやつを見てきたんだ。だから勝負を挑んでくるやつがいても、こいつは自分を騙そうとしてるんじゃないかって疑念を抱くんだ」

「で、ですけど、朋也くん。少し前までは皆さん、普通に勝負していましたよ?」

「そのときはまだ手持ちのカードが多かったんだ。だから勝負に出られた。だけど今は……」

 ほかの生徒たち20名弱が持つカードの総枚数は、21枚。つまりひとり1枚程度にまで減っている。

「自分が1、2枚しかカードを持っていなかったら、そのカードがグーチョキパーのどれなのか、なんらかの方法で知っている生徒がいるかもしれない。そんな疑念を抱くから、勝負を挑んでくる相手を警戒してしまうってわけだ」

「じ、じゃあ、どうするんだよっ」

「落ち着け。連中だってカードを持ったままじゃ勝ち残れないんだ。いつかは戦うしかないんだからな」

「わたしたちは、今度はその機会を待てばいいんですね」

「そうだ。だから二人とも、もうちょっと我慢するぞ」

「はあ〜……」

 春原が疲れたため息をついた。

 朋也も同じ気持ちだ。待つだけの行為が辛いのは、これまでの経験で嫌というほど知っている。

 渚の体調も心配だ。せめて早く勝つことで、この不安を取り除いてやりたい。

 朋也は時計をにらみつけた。

 ギャンブル終了まで、残り18分────




Next