序幕
「なあ香里。たとえばだけどさ、この教室に宇宙人が紛れ込んでいたとしよう」
「……いきなりなんなのよ」
「心理テストみたいなもんだ。で、もし宇宙人が俺たち人間に混じって授業を受けていたとしたら、おまえはどうする?」
「どうするって言われてもね。もっと具体的に言ってくれないと」
「具体的?」
「ええ。その宇宙人とやらの姿格好とか」
「人間と同じだ」
「じゃあなにか特技を持ってるとか」
「なにもない」
「じゃあどこからやって来たのかとか」
「地球からやって来た」
「……それのどこが宇宙人なのよ」
「地球人とうりふたつなんだが、宇宙人なんだよ」
「それは地球人そのものってことでしょ……」
「いや、それでも違うんだよ。こいつはどこか違うって、なんとなくだけど感じるんだ。なんていうか、普通の人とは違う、緑色のオーラみたいなもんが滲み出てるんだ」
「カエルみたいな宇宙人なのね……」
「わたしは宇宙人さんとお友達になりたいな〜」
「名雪、おまえには聞いてない。その答えは予想済みだ」
「なんかバカにされてる気分……」
「ま、マスコミに売るのが筋ってもんだろ」
「北川、その答えは十人並みだ。がっかりだな」
「じゃあおまえはどうなんだよ」
「NASAに売る」
「同じじゃねえかよ……」
「それで、結局この質問の意図ってなんなのよ、相沢君?」
それは、まあ、つまるところその宇宙人が俺――相沢祐一であるという例え話なのだった。
俺の周りを囲んでいるこの日常というやつは、平々凡々としていて、そのことには特に異論はないのだが、どうもこの俺の身体、精神の奥深くまではその日常というやつが上手く浸透してくれないのだ。
どこか浮いたような感じ。プールの上のビート板のようにぷかぷかと、波のない水面に俺の心は浮かんでいた。
居心地が悪く、どこか歯がゆい。このままだと、俺だけが他の皆とは違い、この日常という世界から取り残されてしまいそうだ。
時折、悩んだ。悩んで、それだけだった。
これを解消するための答えは知っているのだが、その答えを実行する方法を俺は知らなかった。
頬杖をついて、窓の外を眺めてみた。
今日もまた、真っ白な雪がゆらゆらと降り積もっている。
だから俺は、こんなにも苛立ちばかりが募っていく――――
冬休みが終わり、学校が始まった。
倉田佐祐理が皆の記憶から姿を消して、もうすぐ二週間が経とうとしている。