第1幕  1日目




 唐突な展開に頭がついていけず、しばらくの間、祐一は茫然自失としていた。

 ほかの皆も同様なのだろう、誰ひとりとして私語をするものはいない。そんな状況に満足したのか、

「この調子で、今後は私語をつつしんでくださいね」

 と前置きしてから、佐祐理はゆっくりと皆を見回した。

「これは、ゲームです」

 にこにこ顔で説明を続ける。

「ルールは簡単です。反則は一切なし、時間制限もなし。最後の一人になるまで殺しあってください。そして生き残った勝者には、なんと。帰宅の権利をプレゼントしちゃいます」

 ざわり、と一瞬だが教室が騒然となった。

「まあ殺しあいと言っても、永遠の世界なので本当に死ぬわけではありません。だから安心して殺しあってくださいね」

 日本語として間違っているような気がするが、それはそれとして。

 いきなりこんなことを言われて、素直に従うやつなんかいるはずないだろ。というか、これはもしや佐祐理さん独特の冗談というやつだろうか? 佐祐理さんの資金力だったら、どこかの学校の教室一室くらい簡単に借りることができるだろうし。で、鉄板を張り巡らせて監禁したように見せかけ、あとで「あははーっ。ドッキリですよー」とのんきな声で言い放つ。じゅうぶんあり得そうだ。

「殺しあいって、やけに凝ったドッキリだな」

 まさに祐一が言おうとしていた言葉を、ほかの誰かが口にした。七瀬の左隣の席の男子生徒だ。どうやら祐一と思考回路が似ているらしい。

「あははーっ、やですねえ。ドッキリなんかじゃありませんよ、浩平さん」

「はいはい。つまらん冗談はもういいからさ」

 ぞんざいに手をひらひら振る浩平に、いい迷惑です、そうだね茜、浩平だって人のこと言えないよ、うんうん浩平君っていたずらっ子だからね、それはあなたもでしょーがみさき、と前の席の集団が騒ぎ出した。

 佐祐理は、困ったように眉尻を下げた。

「私語はつつしめっていったのに……。あまり聞き分けがないと、こうなりますよ」

 佐祐理はあごをしゃくって舞をうながした。舞はいったん教室を出て、それからけっこうな大きさのスポーツバッグを肩に下げて戻ってきた。佐祐理が満足げにうなずく。

 舞、おまえ完全に尻にしかれてるな。舞は佐祐理の言う通りに、教壇の机にスポーツバッグを乗せ、チャックを開けた。

 教室が、しんとした。

 がたん、と椅子から飛び上がる七瀬。顔を背ける十二単の女性。そして、誰かが悲鳴を上げた。そんな騒ぎは最前列の席から始まり、それは徐々に後ろの席へと伝わって――

 うそだろ……。祐一は目をむいた。

 人が、ひとり。

 横たわって、顔を青ざめさせ、服を赤黒く染めて、いた。

 水瀬秋子。

 秋子さんが、スポーツバッグに入っていた。

「いやあああああああああっ!」

 名雪の絶叫が、騒然となった教室にひときわ響き渡った。

「お母さん、お母さん……!」

 名雪は席から立ち上がり、スポーツバッグに駆け寄った。自分の制服が汚れるのもいとわず、血に濡れた秋子にすがりついた。

「なんで、秋子さんが……」

 意識せず漏らした祐一の言葉に、

「佐祐理たちの計画を妨害しようとしていたので、秋子さんにはご退場ねがったまでです」

 佐祐理が困った顔で答えた。

 冗談、じゃないのか? ドッキリじゃなかったのか?

「け、計画ってなんだよ、佐祐理さん」

「それは秘密です」

 佐祐理はぴんと人差し指を立てて、思わせぶりにほほえんだ。

「だめなんだよ、わたし。お母さんがいないと……」

 秋子の肩をしきりに揺さぶっていた名雪が、涙声でつぶやき出した。

「わたしお父さんの顔は知らないけど、お母さんがいてくれたおかげで寂しくなかった。お母さんがずっと一緒にいてくれたから、わたしはがんばってこれた。なのに、もしお母さんがいなくなったら……」

 うっ、と名雪は嗚咽を漏らし、

「お母さんがいなくなったら、わたしは、もう、ひとりぼっち……」

「なに言ってんだっ! 秋子さんがそんな簡単に死ぬわけないだろ! 仮に死んでたって数分後には生き返ってそうなキャラだろ、秋子さんは!」

 側に寄り添い手を伸ばす祐一に、しかし名雪はその手を払った。

「なんでそんなことが言えるの……? 祐一が奇跡を起こして、お母さんを生き返らせてくれるの?」

 名雪の非難の目つきに、祐一は言葉を詰まらせた。

「無理、だよね……」

 そのまま名雪はうつむいた。重い沈黙がのしかかる。優しく諭すように、祐一は言った。

「なあ名雪。あのときおまえ、俺のこと励ましてくれたじゃないか。一緒に天使人形、探してくれたじゃないか」

「なにそれ……」

 名雪が不思議そうな表情をした。しまった、そういえば今回は栞ルート(バッドエンド直行)に入っていたんだった。

「とにかく、おまえは一人なんかじゃない。秋子さんだって、俺だっているじゃないか」

「……そんなのうそ。だって祐一の目には、あゆちゃんしか映ってないんだもん」

 祐一はハッとした。それから気づいた。そういえば月宮あゆの姿が見えない。教室内に首をめぐらせるが、やはり見当たらない。

「わたし、もう笑えない。もう笑えないよ……」

「……名雪」

 秋子の口元がわずかに動いた。

「お、お母さん!」

 秋子の閉じられていた瞼は、今はうすく開いて、そして名雪の顔に視線を注いでいた。

「ごめんね、名雪……。水瀬家きってのアークデーモンだった私が、あんな小娘に不覚を取ってしまって……」

 見れば、秋子の肩口から腹の部分まで、刀傷のようなななめの線が引かれてあった。おそらく舞がやったのだろう。

「本当に、ごめんね……」

 秋子が糸の切れた人形のように首をがくりと垂らした。

「お母さんお母さん! やだ、やだよ、やだああああああ!」

「名雪さん。いつまでも泣いていないで、席に着いてください」

 ぞっとするほどの冷静な声で佐祐理が言う。

「聞き分けがないとどうなるか、さっき言いましたよね」

 佐祐理がさっと右手を上げる。それに合わせ、舞が剣を構えた。

 祐一は激昂した。

「舞っ! なんでだよ……おまえは魔物を討つ者じゃなかったのかよっ!」

「……ある意味秋子さんも魔物だから」

 有無を言わさず舞は剣を振り下ろした。名雪の右足、ふくらはぎの部分をかすめた。ニーソックスが裂け、わずかに血が飛び散った。

「これは警告。次は、ない」

 舞が凄みを利かせるが、名雪は秋子にすがりついたまま微動だにしない。

 このままじゃ名雪も――そう感じて、祐一が舞と名雪の間に出ようとしたとき。

 それよりもはやく、スポーツバッグに納まっていた秋子が動いた。

 くっ、と秋子が小さくうめいた。

「名雪……。生き残りなさい」

 舞の突き出した剣を腹部に受け、秋子は背後の名雪に顔を向けた。口の端に血をたくさん付着させて、息も絶え絶えで笑いかけた。

「戦って、強くなって、生き残って。そして、あゆちゃんを――」

 その言葉を最後に、秋子の姿はなくなった。言葉通り、無くなっていた。足元から少しずつ透明色に侵食され、胸元にまで達したとき、瞬きする間もなく完全に消えたのだ。

「安心してください。秋子さんは死んだわけではありませんから」

 ころころ笑いながら佐祐理は続けて、

「ちゃんと生きてます。ええ、ちゃんと。どこかの場所、どこかの時代、どこかの世界で……」

 その言葉の意味するところに、祐一は絶句した。それは、命を落とす危険はないにしろ、自分の居た世界に戻れるという保障もないということだから。

「ただ、それだとわかり辛いので、これからはこう呼ばせていただきます。この世界から消えてしまったら『死んだ』、消えてしまった人は『死亡者』、もしくは『脱落者』です」

 佐祐理は、ぽん、と手を叩いて名雪をうながす。

「わかったよ、お母さん……」

 のろのろと名雪が席に戻ろうとする。舞に切られた部分が痛むのだろう、歩くのも辛そうだ。名雪の肩を貸してやる。だけど、かけるべき言葉は見つからなかった。

 席から離れていた何人かも緩慢に動きはじめた。その間、名雪を席に連れていきながら祐一は思考をフル回転させていた。

 どうにかして、ここから逃げ出さなければ。じゃないと、命に関わる。冗談ではなく。

 しかし、どうやって? 少しでも不審な動きを見せれば、舞にバッサリやられる。だいいち運良くこの教室から出られたとして、いったいどんな場所に行き着くんだ? 永遠の世界って、いったいどんなところなんだ?

 ようやく全員が席に着いたとき、教室は異質な雰囲気に包まれていた。誰も口を開かない。

 当然だろう。あんなものを見せられたあとで陽気に私語をするやつなんか……

「センセセンセ、センセー」

 いた。

 三つ編みの子の隣、その席の女の子が陽気に挙手していた。

「ええと……柚木詩子さんですね。佐祐理は先生じゃありませんよ」

「まあまあ。倉田さんって威厳あるし、生徒会長って感じだし」

 佐祐理とは今日はじめて出会ったばかりのはずなのに、いやに馴れ馴れしい口調だ。そういう性格の子なのだろう。傍若無人とも表現できるが。

「それでなんですか、詩子さん」

「えとですね。名雪さん、怪我してます。これからゲームってやつやるみたいですけど、これじゃ不公平じゃありません? ほかのみんなはぴんぴんしてるのに」

 祐一と名雪、二人に向かって詩子は交互にウインクした。

「はあ。それはそうですね」

「ですよね? だから名雪さんの手当てして、治るまでちょっと延期にしません、これ?」

 なるほど。祐一は感心した。時間に余裕ができるのなら、その間にこの場所から脱出する手立てを思いつくかもしれない。詩子はそれを狙っているのだろう。

 あははーっ、と佐祐理は破顔した。

「では名雪さんも殺して公平にしますか?」

 げ、と詩子は顔をしかめた。

「撤回、撤回。やだなあ、もう」

 ぱたぱた手を振って詩子はため息をついた。それで、祐一もため息をついた。

 こうなったら腹をくくるしかない、か。

「ではこれからゲームを始めます。異存ありませんね? ……はい、異存なし、と。あ、そうそう、その前にお知らせがあります」

 佐祐理が、舞によって真っ二つにされた出入り口のドアのほうに手招きした。

「いきなりで恐縮ですけど、みなさんに転校生を紹介します」

 二人、教室に入室してきた。赤を基調とした学校の制服を着た、青髪の女の子。そして金髪でヘアバンドをした女の子。見覚えのない顔だ。どちらも無表情で佐祐理の隣に立つ。

「天沢郁未さんと、鹿沼葉子さんです。これからみなさんと一緒にゲームに参加してもらいます。あははーっ、この二人は要注意ですよ、気をつけてくださいね」

 あいさつもせず、郁未と葉子は各々空いている席に腰を下ろした。興味深げに皆が二人に注目するが、当の二人は素知らぬ顔だ。

「それではおまちかね、ゲーム開始の時間です。三分おきに、出席番号順に名前を呼びますので、呼ばれたら返事して佐祐理のところまで来てください。各自ひとつずつカプセルを渡します。ホイポイカプセルです」

 ホイポイ……なんじゃそら。

「倉田コーポレーションが誇るテクノロジーの粋を集めて作った、お出かけセットです。てっぺんのボタンを押せば、中の物が飛び出します」

 皆の疑問をくみ取ってか、佐祐理が教えてくれた。

「三日分の食料と飲料、この世界の地図、方位磁石、そして武器が入っています。武器はそれぞれ違うものが入ってますので、楽しみにしていてくださいね」

 楽しげに言うが、当然ながら誰も楽しそうな顔をしない。

「カプセルを受け取ったら、教室を出て右、そのまま直進するとこの建物から出られます。そうしたらあとは自由です。好きなようにやってください」

 そう締めくくって、佐祐理が名前を呼び始める。

 祐一の名前が呼ばれたのは、教室の生徒が半分ほどいなくなった頃だった。








 祐一は驚いた。

 ちっこいカプセルを受け取り、さてこれからどうしよう、どこに向かおう、永遠の世界ってどんな景色なんだろな、と思いめぐらせながら廊下を歩き、建物を出た直後。

 祐一は出会ったのだ。てっきり居ないと踏んでいた北川に。

 この建物の出口、その目の前で北川は倒れていた。制服はボロボロ、顔にはいくつものすり傷や切り傷が浮かんでいる。誰かに襲われたのだろうか。

 ごくりと唾を飲み込む。

 ゲームは、もう、始まっている。誰かが、もう、殺しあいを始めている……。

 北川の胸はかすかに上下していた。どうやら生きてはいるらしい。ホッとする。

「おい北川。こんなところで寝てると風邪ひくぞ」

 上体を起こしてやる。往復ビンタをかます。気絶しているのだろう、北川は反応しない。

 それにしても、北川がここで倒れているということは、自分よりも先に教室から出たということだ。しかし北川の名前は呼ばれなかったはずなのだが。

 周囲に注意を向ける。時間帯は夜のようだ。そのため仔細には確認できないが、土の地面から延びた電灯のおかげでこの周辺だけは知れる。森に囲まれているらしい。

 北川を殺った(正確には気絶させた)やつが、この近くに居るかもしれない。

 ――と、いきなり頭上から影が差しこんだ。とっさに祐一は横に転がった。

 直後に轟音が響いた。もくもくと土煙が上がる。北川の悲鳴が聞こえた気がしたが、かまっている余裕はない。土煙で視界が開けない中、祐一はやみくもに走り出した。

「あら。逃げる気?」

 正面から声。すぐさま右に方向転換する。間を置かず背中に衝撃が加わった。こらえきれず、祐一は前のめりにスライディングした。

 土煙が風に流され、ゆっくりと相手の姿があらわになった。

「あんた……いきなりやる気満々かよ」

 さっき紹介されたばかりの転校生が、こちらを見下ろしていた。名前をたしか、天沢郁未。

 頭上から襲いかかってきたところを見ると、おそらく建物の屋根で待ち伏せしていたのだろう。さっき自分が出てきたばかりの建物を横目で観察すると、古ぼけた小屋であることが知れた。想像していたよりも小さなプレハブ小屋。おそらく部屋はいくつもない。

「あんたの仕業か、これは」

 埃まみれとなって倒れ伏す北川を指差す。

「ええ」

 悪びれもなく答えた。

「だって死体を見れば、ほかのみんなも少しはやる気になるでしょ?」

 まだ死んでないぞーという北川の台詞を無視し、郁未が続ける。

「もう殺しあいを始めた人がいるを知れば、みんなだってやる気にならざるを得ないでしょ? 全員が団結して佐祐理や舞を襲ったり、かくれんぼみたいに全員がなにも手出ししないで隠れ続けたり、殺しあいをするよりは……なんて言ってみんな仲良く心中したりなんて、そんなのつまんないじゃない」

「だから北川を殺ったのか」

 まだ殺られてないぞーという北川の台詞を無視し、郁未がうなずく。

「そ。少なくとも北川君を殺した人がみんなの中にいる、それだけでみんなは誰も信用しなくなる。信用できなくなる。クラスメイトでも友達でも、恋人でさえも。だって……」

 くすくすと郁未は笑って、

「だって、北川君を殺したのが誰なのか、そんなのわからないんだもの。自分の恋人が犯人かもしれないんだもの」

「俺がみんなに伝える。あんたの仕業だと」

「できるかしら? キミはここで死んじゃうのに」

 言って、郁未は腕を突き出し、手の平を祐一に向けた。

 その瞬間、祐一は後方に三メートルほどふっ飛んだ。太い木の幹に背中をしたたかに打ちつけ、呼吸が一瞬止まった。

「わかった? これが『不可視の力』」

 郁未がにじり寄ってくる。祐一はポケットにしまっていたカプセルを取り出した。佐祐理さんの話だと、この中に武器が入ってるはず。

 相手は超能力使い。素手では太刀打ちできない! 祈るようにボタンを押し、カプセルを放り投げる。

 ぼわん、と煙を吐き出し、濃緑色のデイパックが現れた。急いで中身を確認する。

 ペットボトル数本、はんごう、米袋、地図、方位磁石、そして。

 やかんのフタ。

 ひょっとしてこれが武器か? 手の平くらいの大きさの、どこからどう見てもやかんのフタだ。湯を沸かすための道具だろうとも思ったが、かんじんのやかん本体のほうが見当たらない。ひょっとしなくても武器らしかった。

「今のあなたの武器じゃ私に手も足も出ないわよ」

 郁未が勝ち誇って言った。たしかに、こんな小さなやかんのフタでは盾の代わりにさえなりそうにない。せめてなべのフタだったら……。佐祐理さんのバカ! 祐一は心で泣いた。

「じゃ、次は本気でいくから」

 すでに郁未は至近距離といってもいいくらいの距離に立っていた。郁未の手の平が、寸分違わず祐一の顔面に照準を合わせる。

 これでは逃げられそうもない。ダメか。終わりか。万事休すか……。

「と、言いたいところだけど」

 郁未が、ちらと横目で小屋のほうを見、おおげさに肩をすくめた。

「ギャラリーが増えてくると私も困るのよね。たくさん殺さなきゃなんないし。そしたらそのぶん、楽しみが減っちゃうし」

 小屋の入り口で、名雪が呆然と立ち尽くしていた。

「じゃあね、祐一君」

 郁未が身をひるがえす。

「おい。俺はあんたのことしゃべるぞ。いいのか」

 言ってから、心の中で舌打ちした。せっかく助かりそうだというのに、自分の意思に反して口調が挑戦的になる。たぶん、くやしかったから。

「ふふ。最初からどうでもいいの、そんなのは」

 郁未は顔だけこちらに向けてくすくす笑った。

「だって、私が手を下さなくてもゲームは勝手に進むからね」

 郁未は神業の素早さで去っていった。

 おおきく息をつく。全身から力が抜け、今さらながら冷や汗が頬を伝った。

「北川……君?」

 名雪が怪我した足を引きずりながら北川に寄り添っていた。祐一もようやく北川の存在を思い出した。急いで倒れ伏したままだった北川の前に立つ。

「へへ。そんな顔するなよ、二人とも」

 北川が鼻の下を指でこすりながら、弱々しく笑った。北川は気づいているのだろう、自分がもう長くはないことに。名雪が無言で北川の手を取った。

 無理やり作った笑みを崩さず、北川は続けた。

「オレは所詮、かませ犬だから。サクラってやつさ。オレが死んでも『残り○○人』のところは変わらないからさ」

 悲しいさがだった。

「最後に一言、いいか?」

 北川が、やっぱり笑って訊いてくる。

「……ああ」

「僕たち、ずっと友達だよね?」

 北川は消えた。

 消えるまで数秒の時間の余裕はあったが、祐一は北川の言葉にうなずけなかった。

 だってゲーム違うし。




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