「国民年金」という語のややこしさ

「国民年金」という語が何を指すかというのは多少ややこしいです。その辺の分かりにくさが実は第3号被保険者バッシング等の背景になっているのではないかとこの頃考えています。私が理解している範囲で説明したいと思います。厳密さには欠けるかも分かりませんが根幹のところは正しいはずです。

  1. 「国民年金」が何を指すかは場合により異なる
  2. 「国民年金」と言う語のややこしさについての考察

1.「国民年金」が何を指すかは場合により異なる

「国民年金」がなにを指すかは次の3つのケースでそれぞれ異なります。お分かりでしょうか。

国民年金の保険料

国民年金の保険料は例えば今年度(平成25年度)ですと月15,040円です。保険料として集められたお金は国民年金という財布(年金特別会計国民年金勘定)に入ります(特別会計に関する法律第111条)。つまりこの場合は国民年金という財布の名前と言うことができます。同様に厚生年金の保険料は厚生年金という財布(年金特別会計厚生年金勘定)に入ります。

国民年金の被保険者

普通に考えると国民年金の保険料を納めている人が国民年金の被保険者でしょう。ところが法律上ではそうではなく保険料を納めている人を国民年金の第1号被保険者と言います。厚生年金の保険料を納めている人が第2号被保険者、第2号に扶養されている配偶者(被扶養配偶者)を第3号被保険者と言います。つまり被保険者に対して使われる「国民年金」という語は保険料の場合とは異なるのです。

国民年金の給付

国民年金の給付は現在の制度の分については基礎年金(国民年金法第15条1号から3号)とその他の給付(同条4号)があります。基礎年金は国民全部に給付されるので基礎年金だけを考えると国民年金の被保険者の定義は給付の制度にあわせたと考えることもできるのですが、国民年金の保険料を納付している人のみがもらえる”その他の給付”(寡婦年金、死亡一時金等)等があるので混乱してしまいます。

基礎年金の給付のためのお金はどこから来るかというと国民年金の財布から来るわけではありません。半分は国庫負担ですがあとの半分については国民年金と厚生年金の財布から分担して出しています。これを基礎年金拠出金と言います。基礎年金拠出金は給付に必要なお金の全体を、現在国民年金の保険料を納めている人(第1号被保険者)の数と厚生年金の保険料を納めている人とその被扶養配偶者(第2号、第3号被保険者)の合計の数の比率で分担します(国民年金法第94条の3、特別会計に関する法律第114条)。式で書くと次の通りです。

つまり基礎年金の給付は、国民年金という財布、厚生年金という財布から分担して拠出した基礎年金という財布(基礎年金勘定)から行われるのです。

以上より国民年金が行う給付は国民年金という財布とも国民年金被保険者の定義とも一致していません。

基礎年金制度が始まる昭和61年度以前に既に65歳になっていた人のように改正以前の法律(旧法)で年金が支払われている人がいます。基礎年金勘定からは、基礎年金の給付費の他にそのような旧法適用者への年金のうち基礎年金相当部分も支給します。実際の給付は国民年金勘定、厚生年金勘定等の各財布から行われ、基礎年金勘定からはそれに相当する額が基礎年金交付金として各勘定に移されます。複雑です。

2.「国民年金」と言う語のややこしさについての考察

どうしてこのようにややこしくなっているのでしょうか。第1号、第2号、第3号被保険者というのを止めてそれぞれ国民年金の被保険者、厚生年金の被保険者、厚生年金の被扶養配偶者ではいけないのでしょうか。またその場合例えば国民年金から基礎年金の給付の部分を切り離し基礎年金法を新たに作って給付は基礎年金という制度から行うようにした方がよほどすっきりするように思えます。国民年金の被保険者は基礎年金と国民年金の独自給付をもらう。厚生年金の被保険者は基礎年金と報酬比例部分等の厚生年金の独自給付をもらう。厚生年金の被扶養配偶者は基礎年金のみもらう。ということになります。

第1号というような呼称を決めることの利点というと、法律の条文は書きやすいだろうなということは想像できます。”国民年金の被保険者か被用者年金各法の被保険者、組合員である場合を除く”と書くところを”第七条第一項第一号又は第二号に該当するときを除く”とより簡潔にできます。それ以外の理由は今のところ私には思いつきません。

一方、国民年金保険料納付者は国民年金という財布、厚生年金の被扶養配偶者は厚生年金という財布、とそれぞれ異なる世界の存在であるにもかかわらず、第1号、第3号と番号をつけることで同列にあるように見えてしまいます。このことが、”第1号は保険料を払っているのに第3号は払わないでずるい”という不満が出てくる遠因の一つに思われます。

どこかで整理して欲しいとは思いますが、少なくとも法律の体系上は大改革になります。 当分は国民年金という語の持つねじれを国民一人一人が理解するしかありません。政府、官僚にあってはその理解の普及に努力して欲しいと思います。万が一にも意味のねじれを国民をごまかすのに使用するようなことは無いように願います。安倍首相の”国民総所得”など意味論的ごまかしは平気でやる人たちのようですから。

本稿では煩雑さを避けるために共済年金には触れませんでした。共済年金の場合も厚生年金と同様と考えていただければよろしいです。また掲載した基礎年金拠出金の式はおおよそこのようなものという概算式であり、実際は被保険者期間の月数で考えなければならず、またその場合計算に入れたり入れなかったりいろいろあります。例えば未納者は第一号被保険者の数からは除かれます(国民年金法施行令第11条の3)。つまり国民年金保険料の未納者が増えると、基礎年金拠出金を通じて厚生年金という財布にも影響するということです。

初稿2013/7/24
改訂2013/7/25
●給付の項を修正
修正2013/12/21
●国民年金特別会計法→特別会計に関する法律
改訂2013/12/26
●基礎年金交付金の注追加(ご意見による)