2011年9月29日 第3回社会保障審議会年金部会議事録(一部)

青字は私です。また引用文中の太字も私です。

〇年金課長 資料2についてですけれども、まず、先ほどと同様参考資料1をごらんいただきますと、参考資料1の1ページ目で言いますと、「現在の公的年金制度の課題」の中の?に「長期的な持続可能性に不安」ということで、そこの3つ目の「・」に課題として掲げております。そして、その方向性としては、財政的にも安定させるようにしていくというような方向性の検討課題ということで、「マクロ経済スライドについて」という資料を用意しております。 資料2について御説明をしたいと思います。
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 7ページをごらんいただきますと、一定期間そういったスライドの自動調整を行うことで所得代替率を、現役の手取収入に対する年金の標準的年金額を所得代替率と言っておりますけれども、その率を制度改正当時59%程度であったのを、時間をかけて50%程度にまで下げていくことを想定していたわけですけれども、そういったものが実際はできていない。調整が始まらず、代替率を下げていくという方向ができていないというのが最近の状況であります。
 7ページまでで説明しましたように、16年改正で導入されましたマクロ経済スライド調整方式につきましては、デフレが続く経済環境のもとでは機能を発揮できないという限界があるわけですけれども、それに加えて、8ページ以降ですけれども、現在支給されている年金額について、過去の経緯から、今後調整を検討しなければならない論点がございます。それが8ページの「物価下落時に年金額を減額しなかったことの影響について」ですけれども、実は平成11年〜13年に物価が0.3%、0.7%、0.7%という形で下落をしました。年金の自動物価スライドの規定は従来からございましたので、本来であれば、その法律どおりであれば、毎年物価に応じて年金額は下げるということだったのですけれども、この3年間は特別な法律を出して据え置きをするということをいたしました。
 したがって、現在、実際に支払われる年金額は本来より高い水準になったわけですので、それが12〜14年に起きたものですから、平成16年の改正のときには、この特例的な水準の年金額については解消しなければならないということで、下の方に図がありますけれども、特例水準については、物価や賃金が上がっていって、本来なら年金額を引き上げるような場面においても引き上げない、物価が上昇しても年金額は上げない。ただし、物価が下がったら下げるというルールを決め、一方で、本来水準については、賃金、物価の上昇に応じて一定の伸び幅の調整はするにしても、だんだん上がっていくということで、特例水準は一切引上げを行わないことによって、いずれ本来水準に置き換わっていって、特例水準を解消していくことを法律に規定をしたのですけれども、8ページの下の3行にありますけれども、実は、物価が上がったこともありますが、下がっているのが一般的であったというようなことによって、その差が縮まらずに、23年現在、両者の差が1.7から2.5に拡大をしているという状況になっています。

ここで「本来」という語の意味がすり替わっている。最初の”実際に支払われる年金額は本来より高い水準になった”の「本来」は「物価スライドを適用した場合」を指しているが、一方「本来水準」の方は平成16年改正法で導入された本来水準を指す。前者の方に「現在」という論理的に矛盾する語が附されることにより、「本来水準というのは平成11年度からの3年間に年金を据え置かなかった場合の年金額である」「特例水準というのは該3年間に年金を据え置いたことによる年金額である」という誤ったイメージが与えられてしまう。

 9ページを見ていただきますと、左側が3回物価が下がったけれども据え置いたというのが、12、13、14年の3回です。その後は、前年の物価の下落に応じて特例水準も下げ、本来水準は実際には支給されていませんけれども下がっているということで、1.7%の差があったわけですけれども。右側の方にずっと行きまして、平成17年に物価が0.3下がって、18年に物価が0.3上がったのですけれども、上の物価スライド特例水準の方ですけれども、18年に0.3%、20年に1.4%物価上昇があったのですが、これはルールによって、物価が上がっても年金額は上げませんということで据え置いた。これで本来水準の方は少しずつ上がっていきましたので、だんだん特例水準に迫ってきました。しかし、21年に物価が1.4%下がったのですけれども、法律の規定で、次の10ページに文章で書いていますけれども、前年に比べて物価が下がったとしても、基準年となる年に比べて下がった場合に引下げを行うという規定にしておったものですから、基準年が平成17年でありまして、21年は物価が1.4%下がったのですけれども、基準のところから見ると、まだ0.3上にあるというような形で、前年に比べて物価が下がったのですけれども、22年度は法律どおりの形の処理によって年金額を変えなかった。去年は、物価が0.7下がったことによりまして、基準年に比べると0.4%下がったことになりましたので、今年度の年金額は0.4%の引下げを行ったということで、そういった規定になっている関係上、10ページにありますように拡大をして、現在2.5%の差になっているというような状況です。

ここの説明のしかたはまるで”基準年となる年に比べて下がった場合に引下げを行うという規定”が問題であり、そのために差が広がったかのような言い方である。少し考えるとこれはごく当然の規定であり、本論の方で説明したとおり特例水準は差し引きの物価水準の低下を忠実に反映している。差が広がったのは改定率を計算する規定により改定率が物価低下率以上に低下したからである。ぎりぎり嘘ではないにしろ非常に不適切な説明である。何故このように説明しているかは不明であるが、「改定率の決め方」に批判が向くことを避けようとしたのかも分からない。あるいは物価スライド特例の打ち切りが認められなかった場合に備え、前年に比べて物価が下がった率をそのまま特例水準に反映させるという別案を用意しているつもりかも分からない。しかしこれは只特例水準を下げるだけが目的の意味不明の規定になってしまう。

 そういった問題につきまして、集中検討会議では、団体、報道機関からのヒアリングが行われたわけですけれども、そのときに複数の報道機関から、年金の将来を考えると、デフレに対応する年金の水準の引下げは必要だということがあり、こういったことにつきまして、集中検討会議の幹事委員からも、こういったことをその改革の中で取り組むべきだというような意見があったということがありました。
 12ページをごらんいただきますと、1つ目の〇にありますように、集中検討会議の議論の中で、関係団体から、デフレ経済下で、現行のマクロ経済スライドによる年金財政安定化策は機能を発揮できないので見直すべきという指摘があり、委員からも支持する意見があったということで、厚労省案としても、こういったことについての検討をすることの提示をし、成案の中にも「マクロ経済スライド」について、世代間の公平等の観点から見直しを検討することになったということです。その際に、成案においては、どういうような影響が出るかということで、先ほど、2.5%特例水準との間で差があると申しましたけれども、これを仮に3年間で解消すると、1年当たり0.8〜0.9%程度、これまで物価が一度に下がった、年金額の引下げを行ったのは最大0.9ぐらいでありますけれども、そういったことで3年間かけてやるとすると、毎年0.1兆円程度の公費の縮小になることとか、あと、毎年マクロ経済スライドについても、デフレ下においても発動することにした場合には、さらに加えて、毎年0.1兆円程度の公費の縮小が見込まれるという試算を記載したところです。  なお、物価、賃金の上昇によって年金額が上がっていくのを抑えるということで、毎年0.1兆円程度公費縮小するという効果自体は、もともとの財政計算には織り込まれているわけですけれども、これをデフレの際に下げるという形で具体化するとしたらこうなるというようなことであります。

社会保障改革に関する集中検討会議での報道機関等からの指摘は資料の11ページにあるようにマクロ経済スライドがデフレ化(改定率1以下)では働かない仕組みを見直すべきであるというだけである。にもかかわらずそれに対する厚生労働省側の資料に2.5%を3年間かけて解消する云々の内容を入れることにより。あたかも集中検討会議で物価スライド特例の解消が提案されたかのような錯覚が与えられかねない。

 現行のスライドの自動調整のあり方に関してどういう論点があるかということで、13ページにさまざまな論点を記載しておりますけれども、14ページ以降に、各論点について具体的に記載しておりますので、14ページ以降を使って御説明をしたいと思います。
 まず、自動調整の仕組みが発動していない状況をどう評価するかということですけれども、デフレ経済下において自動調整が発動する仕組みがなく、年金額が引き下げられていないことで、世代間格差が広がっているという指摘があります。それはどういうことかと言いますと、下に図を書いておりますけれども、左側から、下に時系列がありますけれども、Aの時点でスライド調整の発動をして、Cの時点まで調整をしていくということを考えていったとすると、現在の受給者は、白い線に対応する年金を受給し、将来世代はCの高さの年金額を受給することになるわけですけれども、それが、調整時期が遅れ、Bのタイミングで調整を開始して、Eの時期まで調整をするという形になりますと、現在の自給者の給付水準は高まり、将来世代の方は低くなるという形になるというようなことがあるので、そういったことを考えると、自動調整の仕組みについて、機能が発揮できない部分があるので、早く見直しをする必要があるのではないかということがあります。勿論、上の方の〇にありますように、経済が順調な推移となれば、現行の自動調整の仕組みでこういった機能は発揮できるわけですから、まずはそちらの方が大事だというようなことも御指摘としてはあるということでございます。
 15ページをごらんいただきますと、ここまでずっと「マクロ経済スライド」と呼んできたわけですけれども、やっていること自体は、人口構成の変動に伴って年金額のスライドを調整することなわけで、名前を聞くと、マクロ経済の指標で年金額を変えているようにも聞こえるという問題があります。年金額を今後どういうふうに改定していくのかというルールとして、国民の皆さんに説明していく際には、よりふさわしい名前を使った方がいいのではないかと、こういった指摘もいただいているところではあります。
 次に16ページですけれども、スライドの自動調整が発動されてないわけですが、その理由は2つありまして。現在は、まだ特例水準であるということです。本来水準についてはマクロ経済スライドの規定があるわけですが、特例水準は、物価が上がっても上げません、下がったら下げるという規定になっているということですので、第一は、特例水準が解消されてないというようなことで、この状況についてどう考えるか。これは、賃金や物価の上昇に関係なく特例水準は解消することをやることについてどう考えるのか。しかし、これは先ほどの話で言いますと、2.5%の特例水準を何年間かかけて強制的に解消していくということで、物価の変動以上に下げるというようなことをやるという形になります。

特例水準が解消されないのでマクロ経済スライドが発動しないと述べ、転じてマクロ経済スライドを発動させるために物価特例水準を解消すべきだという方向に導こうとしているようだ。しかし本論でものべたようにこれは本末転倒であり、「特例水準が解消されないとマクロ経済スライドが発動しない」という条文を改正する方が自然である。

 2個目の〇に書いてありますのは、先ほど、物価が前年に比べて下がったのに、基準年に比べたら下がってないから下げないということがあったわけですけれども、そういうことがあるがために差が広がっているのがありますから、まずは、そういうところは少なくとも直すべきではないかという論点が、2つ目の〇には記載をしております。
 なお、特例措置を置いて以降の10年間、決算が出ている10年間でどれだけの年金が多く支給されたかということを整理しますと、10年間で約5.1兆円です。なお、21年度は0.8%に差が縮小したところであり、それ以前の決算の数値ですので、22年度は2.2%、23年度は2.5%に拡大をしてしまっていることを考えると、さらに広がっていると、こういった拡大していることの理由が、2つ目の〇にある仕組みのところにあるのではないかということがございます。

前の部分で書いたが、再掲する。
ここの説明のしかたはまるで”基準年となる年に比べて下がった場合に引下げを行うという規定”が問題であり、そのために差が広がったかのような言い方である。少し考えるとこれはごく当然の規定であり、本論の方で説明したとおり特例水準は差し引きの物価水準の低下を忠実に反映している。差が広がったのは改定率を計算する規定により改定率が物価低下率以上に低下したからである。ぎりぎり嘘ではないにしろ非常に不適切な説明である。何故このように説明しているかは不明であるが、「改定率の決め方」に批判が向くことを避けようとしたのかも分からない。あるいは物価スライド特例の打ち切りが認められなかった場合に備え、前年に比べて物価が下がった率をそのまま特例水準に反映させるという別案を用意しているつもりかも分からない。しかしこれは只特例水準を下げるだけが目的の意味不明の規定になってしまう。

以上