ティルソン・トーマスのアイヴズ交響曲第2番

タイトル交響曲第2番
作曲家チャールズ・アイヴズ
マイケル・ティルソン・トーマス指揮
コンセルトヘボウ管弦楽団
CDSONY CLASSICAL SB3K87746

マイケル・ティルソン・トーマスの3枚組アイヴズ交響曲全集から。交響曲1番、4番、ホリディーシンフォニーがシカゴ交響楽団。2番、3番がコンセルトヘボウ。その他にシカゴと「宵闇のセントラルパーク」、「答えのない質問(Original版と改訂版)」が入っている。

アイヴズを聴いたのはこのアルバムが初めてであった。Wikipedia等ではアメリカ初の前衛音楽家のように紹介されているアイヴズだが、少なくとも交響曲に限ってはそれほど風変りなものではない。特に1番、2番は古典的と言っても良いくらいに聞こえる。5曲のどれも聴きごたえのある傑作だが、このアルバムを取り出してどれを聴こうかということになるとどうしても4番を聴くことが多くなる。重厚な響きで紡がれる充実した音楽は、初めて聞いたときアメリカにもこんなシリアスな音楽があったのかと認識を改めさせられた。特に終楽章が素晴らしい。不思議な響きから始まり、暴力的なくらいまでパワーが高まった後に、讃美歌"Nearer,My God,To Thee"が引用されて終わるとても感動的な音楽だ。このアルバムには4番で引用されている讃美歌5曲のシカゴ交響合唱団による演奏も収録されていて、讃美歌にあまりなじみのない私には大変ありがたい。

だがここでは交響曲第2番を取り上げる。最近この交響曲の初演者であるレナード・バーンスタインの演奏(ニューヨークフィルとの1987年のライブ、DG 002894791512)を手に入れて、聴き比べることで曲と演奏の魅力を再認識したからだ。

バーンスタインのアイブズは前に「ホリデー・シンフォニー」(SONY SICC1605)を聴いていて、その時はあまり感心しなかった。指揮者の自分なりが過ぎて違和感を感じた。第2番は結構面白く聴けた。古典的で格調の高い第一楽章に対し第2楽章がいかに違うかを明確に対比させた演奏で、あれ2楽章はこんなガーシュインみたいなアメリカ的な音楽だったっけと思わせられる。第3楽章、第4楽章の緩徐部分は思い入れたっぷりに歌わせる。なるほど分かりやすい。しかし一方でこのような演奏は曲の解説を聴いているようで、いかにもアメリカの作曲家がプログラムに沿って作ったような薄さも感じさせられてしまう。

そう思って、ティルソン・トーマスの演奏に戻ると、やはりこっちが本当だと思わせる。この演奏も、バーンスタインの演奏も第1楽章、第2楽章は連続して演奏されていて、楽譜がそうなっているのだろうと思う。ティルソン・トーマスの演奏は楽章の途中で曲想が自然に変わったようにしか感じられない。これに比べるとバーンスタインの演奏は作為的に感じてしまう。演奏全体もかなり速めで、あまり部分に深く沈み込むようなことはない。そうして浮かび上がってくる音楽は、バーンスタインの解析的な演奏より数倍豊かで楽しい。この曲は、指揮者の解釈や思い入れは不要で、いかに音響や、鳴り響く音楽そのものに語らせるかが重要なのだと思う。その意味では、先ほど2番は1番と共に古典的と書いてしまったが、内容的にはマーラーまでの音楽とは本質的に違うのかもわからない。

そう、第4楽章で多少悲劇的な相貌はみせるものの、この曲は全体的にはとても楽しい。アイブズの曲の特徴として世の中に流布している音楽の引用が有るといわれる。この曲の第1楽章では「コロンビア、海の宝石」が第3楽章ではフォスターの「主人は冷たき土の中に(春風)」等が現れるが、引用が多用される第5楽章が特に楽しい。フォスターの「草競馬」や「ロングロングアゴー」「コロンビア・・」がかなり明確に引用されており、その他断片的ではあるが「藁の中の七面鳥(オクラホマミキサー)」や「主人は・・・」も聞こえる。最後は「コロンビア、・・」に起床ラッパが加わって盛り上がる。そういう旋律の引用は何か意味を持たせているとか、それらが持っている力を利用しているとかではなく、コラージュ的な効果で、曲のにぎやかさ、楽しさを増幅させているように思う。妙な不協和音の一発で終った後も、昂揚感がしばらく持続する。

なお、ライナーノートによると3楽章ではベートーベンの第5やワーグナーのトリスタン、"America is beautiful"が引用されているそうだが私は気がついていない。また多くの讃美歌も引用されているらしいがこちらは原曲を知らないので分かりようがない。

初稿2014/3/4