陰キャだった俺の青春リベンジ 慶野由志(角川スニーカー文庫)
ブラック企業で培った社畜力で君と青春をやり直す、タイムリープ青春ラブコメストーリー。
大枠としてはタイムリープものですね。「灰原くんの強くて青春ニューゲーム」と同じく
陰キャで灰色だった高校生活をやり直そうと主人公が奮闘する強くてニューゲームな話になっています。
灰原くんのほうの主人公は逆行してから努力を重ねてスペックそのものを底上げしていましたが
こっちの主人公は元が社会人ということで、社会経験で身に着けた対人スキルによるコミュ力と
ブラック企業で鍛えた鋼のメンタルが最初からあるのが強みですね。勿論努力も欠かしてはいませんが。
この、社畜社会人としては普通だけど高校生としてなら十分凄い、という絶妙なアドバンテージが上手い。
ラストは二度目のタイムリープを経て、二周目、そして一周目の大切な人を救うことに成功。
そしてタイムリープから七年後、メインヒロインの紫条院春華と結婚式を挙げてハッピーエンド。
主人公はブラック企業で身も心もボロボロになって倒れた末、目が覚めたら高校二年生に
タイムリープしていたがゆえに、根暗で灰色だった青春を今度こそやり直さんと決意した元社畜。
前世の高校時代は根暗でオタクというテンプレートのような陰気キャラで、社会人になってからも
暗くて臆病で努力嫌いで、闘わないといけないことからすぐ逃げて、その時に楽な方ばかり選択していたが
そんな自分を心底後悔しているがゆえに、二度目の人生に対するリベンジ精神が強い。
ブラック企業で十二年間働いてきたことから、メンタルはかなり強靭で、コミュ力も問題なしだが
前世(死亡時三十歳)では恋人もおらず童貞だったため、色恋には不慣れ。
料理の腕前は趣味の領域にまで達している(前世では一人暮らしで自炊していたため)。
ヒロインは天真爛漫な級友。サブにマイペースな級友、活発な級友、ツンデレな実妹。
一番のお気に入りは前の世界で就職後に受けた酷いイジメの末に命を絶っている初恋の人、紫条院春華。
長く艶やかな美しい黒髪、宝石のように澄んだ大きな瞳、大和撫子という言葉を体現したような
清楚な佇まいと美貌、更には反則的なプロポーションを有する美少女で
実家は古くからある名家、父親は全国展開する大型書店の社長と、正に現代のお姫様。
しかし、決して自分の容姿や家を鼻にかけず、相手の地位や雰囲気をまったく気にせずに接することが
できる優しさと気さくさの持ち主で、明るく生真面目、少し天然な性格も相まって男子人気は絶大。
ただ、本人にモテている自覚はなく、周囲が牽制しあっていることもあって告白をされたことはない。
特別視されることが多いが、勉強が苦手だったり、休日は寝坊することがあったりとポンコツな面も。
一部の女子から敵視され続けてきたがゆえに大勢の中心に立ち、目立つことが得意ではない。
主人公に紹介してもらったことが切欠で、ライトノベルに嵌ってしまっている。
評価はA。
社畜が高校生時代にタイムリープして青春時代をやり直すとか、今の時代ならではの浪漫である。
いやまあ私ならもう一回勉強や部活、受験とか面倒くさすぎると思ってしまいそうですが
この作品の主人公の場合は後悔の解消というしっかりとしたモチベーションがありましたからね。
しかもそれが好きだった女の子を救い、幸せにするためとなれば応援せざるを得ない。
一方、そんな彼に一途に想いを寄せられている紫条院春華は典型的な箱入りお嬢様といった感じで
そりゃ前の世界でも悪い奴らの食い物にされちゃうわなって感じの良い娘ですが
本編時間軸では主人公がしっかりと悪意から守ったり、成長を促したりしているので一安心。
本筋は青春を良い形でやり直し、好きな女の子とも結ばれての完結と、文句なしのハッピーエンドが素敵でした。
二周目のみならず、一周目の人生にも救いを与え、何故タイムリープが起こったのかという説明もちゃんとあったりと
痒いところにまで手が届く、タイムリープものの物語としては正にひとつの完成形とも言える出来だったかと。