魔弾の王と凍漣の雪姫   川口士(ダッシュエックス文庫)



戦乱の世を舞台に、伝説の時代より続く闇の勢力との戦いが描かれる新たな魔弾の物語。
同作者作「魔弾の王と戦姫」のパラレルワールド作品ですね。前作は物語開始時点で死んでいた主人公の父と
ヒロイン・リュミドラの母が生きていたら、というIFによって世界観が構築されています。
勿論バタフライ効果によって立場や関係が激変しているキャラもいますが、物語の舞台自体は前作通りなので
前作読者にはニヤリとできる作品になっているかと。勿論初見読者でも然程問題はないですが。
ラストは世界に滅びをもたらさんとする女神の降臨を阻止することに成功。
危機を脱した世界で、魔弾の王たる青年は二人の愛しい女性と蒼氷星を見上げるのだったエンド。
ラブコメ的には二人のヒロインと結ばれて終了。フラグが立っていたヒロインは他にもいたようですが…

主人公はブリューヌ王国のアルサス地方を治めるウルスの長男。
山野を駆け猟師たちより狩りを学ぶとともに、弓の扱いに非凡な才を示している。
前戦姫ラーナに弓の技量を認められ、息子に見聞を広めてほしい父の願いもあり、友好政策の一環として
オルミュッツ公国に一年ほど滞在した経験があり、その際に戦姫リュミドラに求婚した過去を持つ。
真面目で責任感が強く、胆力も十分。部下や領民思いでもあり、上に立つ者としての資質はあるのだが
弓手が侮蔑されるブリューヌ王国に所属しているがゆえに大半の同国貴族からの評判は良くない。
普段は気性が激しいほうではないが、色恋には情熱的で、惚れた女性と結ばれるためであるならば
功名を得るために命懸けで戦うことも厭わないという熱くまっすぐな一面も。

ヒロインはツンデレ戦姫、天真爛漫な幼馴染令嬢。
昇格候補に男装の王女、妹分な侍女、マイペースな戦姫、たおやかな戦姫、生真面目ロリ戦姫など。
特に際立ってお気に入りのヒロインはなし。

評価はC。
内容としては、前作同様魔物や周辺勢力との戦いがメインとなる英雄戦記の方向で進みます。
キャラに関しては、前作と違ってリュミドラへの想いゆえに武勲や恋愛に積極的な主人公の男ぶりが良い感じ。
また、メインヒロインに昇格したことで出番と魅力が激増したリュミドラの存在も見逃せません。
両者共に根本的な性格には変わりはないものの、IFならではの変化があるのがよかったですね。
前作で不遇、あるいは出番の少なかったキャラの活躍も楽しめました。
本筋はラスボスが(本領を発揮できなかったとはいえ)神であったこともあり、他の魔弾シリーズよりも
深刻さや絶望感が強かったものの、最終決戦では二人のヒロインとの絆が勝利を掴む鍵になっていたりと
クライマックスの演出は申し分なかったですし、他の戦場で奮闘する仲間たちの描写がしっかりとされていたのも
主人公周りのみで完結しない戦記ものらしさがあって熱かったです。