永遠の唄

第16話

ちゃん、学校には行かないの?」
「え」

 歩たちとの決戦が終わり、カノンから連絡が来た翌日。は今日も学校を休んで理緒の見舞いに来ていた。もちろん、無茶したことに対する叱りの言葉は忘れずに口に出して。
 罰としてメロンはお預けにしようかとも思ったが、も食べたかったために持ってきて、二人で仲良く頬張っていた。すると、理緒がそう口を切る。いきなり言われた言葉に、は苦笑してみせた。

「うん…、さすがに決着直後は怪しいかなって。あと、罪悪感でお二人に会いにくくて」
「……嘘や隠し事は、いつか絶対ばれてしまうものなんだよ、ちゃん」
「!」

 は理緒の呟きに肩を震わせた。しかし、すぐに眉を下げて、悲しげに微笑んだ。

「…うん、わかってる。たぶんもう鳴海君は薄々感づいてると思う。だから…、怖くて」

 がブレード・チルドレンであるということが明らかになったとき、歩たちはどんな反応をするのだろうか。色々なことを知っていたのに、知らないふりをしていたことを恨むのだろうか。…敵対、されるのだろうか。次に彼らと出会ったとき、どのように変わってしまうのか。それがどうしようもなく、恐ろしかったのだ。

「…ちゃん」

 名前を呼ばれて、俯いていた顔を上げる。すると、理緒の手が伸びてきて、の頭を撫でた。

「大丈夫、大丈夫だよ。清隆様の弟さんが、ブレード・チルドレンだっていうだけで敵対するような人じゃないってこと、ちゃんが一番よくわかってるでしょ?」
「…うん」
「それに、万が一そんなことがあっても、あたしたちがいる。そうでしょ?」
「うん…」

 だから大丈夫だよ、と理緒は微笑む。理緒に励まされて、もぎこちなく微笑んだ。

「何だか、理緒、お姉さんみたい」
「実際あたしのほうが年上でしょー?」
「そうだっけ?」

 そう言ってからかってやると、理緒はひどいと頬を膨らませた。冗談だよと笑うと、理緒も吹き出す。

「…うん、もう大丈夫そうだね」
「ありがとう、理緒」
「あとは…、カノン君か」
「……うん」

 そう言って、二人は顔を曇らせた。




「え?…あ、アイズ…」

 家に帰ると、家の前にアイズが立っていた。アイズは立ち止まったに近付き、前に立つ。

「大丈夫か」
「…私より、アイズは大丈夫なの…?」

 そう訊ね返すと、彼は顔を曇らせた。やはり、と同じでアイズも親友と対立するのはつらいのだろう。しかも、相手がこちらを殺そうとしているのなら、尚更。
 はそっとアイズの手を握る。そして、彼をまっすぐと見つめた。

「絶対…、絶対カノンを止めよう、ね…」
「ああ…」



 翌日、は久しぶりに学校へ登校した。教室に入ると、すでに席についていた歩がを見て驚いていた。苦笑して挨拶をし、も席に着く。
 それから放課後まで、気まずさから彼とはあまり近づかないようにしていた。そして、その状態のまま二人は新聞部の部室へと向かう。

「あっ!さん!!」

 扉を開けた途端、驚いたひよのが駆け寄ってきた。ただ驚くだけでなく少し怒っているようなその表情に、は思わずきょとんとしてしまった。

さんがよく学校を休んでいたのは知っていましたが、こんなに長かったことはなかったじゃないですか!私心配したんですからね!」

 そう言われて、最後に彼らと会ったのは今里を殺した日だということを思い出した。これだけ長い間姿を消していたら、ひよのに怒られても仕方がない。は眉を下げて謝った。

「心配かけてしまってすみません。仕事が忙しくなっちゃって…」
「…なあ」

 そう言い終わるか終わらないかのうちに、今まで黙っていた歩が唐突に口を開いた。どうしたのだろうかと思い、は彼を見て首を傾げる。

「あんた…もしかして、ブレード・チルドレンか?」
「!」

 歩の言葉には目を見開く。いずれこうなることはわかっていたが、やはり驚かずにはいられなかった。

「え、さんがブレード・チルドレンって、どういうことですか!?」

 ひよのはまったく思いもしなかったようで、そう歩に問った。歩はいや、と言葉を濁らす。

「違うのならいいんだが…、ここ最近、あんたが休む日や俺たちと別行動をする日が事件とかぶってる気がしてな…」
「た、確かに…」

 疑わしくを見る二人に、もうこれ以上は無理だと思い、ゆっくりと深呼吸をした。

「…ええ、そうです、私もブレード・チルドレンの一人…。今まで、隠していてごめんなさい…」
「そうか…」

 申し訳なさそうにぎこちない笑みを浮かべていると、不意に頭の上に何かが乗る感覚がした。自然と俯き気味になっていた顔を上げると、歩が優しげな顔でを見ていて、頭に乗っているのは彼の手だとわかった。

「別に気にしなくていい。俺がブレード・チルドレンと敵対していたから言いにくかったんだろ?」
「そっ、そうですよ!ブレード・チルドレンなんて関係ないです!さんはさんじゃないですか!」

 二人が励ましてくれていることが伝わり、そんなにひどい顔をしていたのだろうかと思う。そして、何だか肩の荷が降りたような気分になって、そんなに緊張していたのかと苦笑した。

「…ありがとうございます」

 そう言うと、そういえばと歩が思い出したように呟いた。

「あんたは他の連中とは知り合いなのか?」
「ええ。アイズは前にも言ったけれど、香介や理緒も私の幼なじみなの」

 それと、と話を続ける。

「今里先生のことも、ごめんなさい。理緒が殺したとき、私もそこにいたから…」
「…いや、もうすぎたことだ」

 そう言われたが、は顔を俯けた。
 彼の知りたかった情報は、まだ言うことはできない。いつか話すときが来るまで、どうか何も訊かないでほしい、そう思った。

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2009.08.13