時の流れを見守る少女
第10話
      「おはよう」
      「おはよう」
      
       騎士誕生祭の翌日、が館の門に向かうと、そこにはすでにが待っていた。早いわね、とが言うと、眠れなくてと苦笑が返ってくる。初任務に胸がいっぱいだったのだろう。
       あらあら、と笑っていると、街のほうからスノウが歩いてくるのが見えた。
      
      「ふぁぁ…。おはよう…」
      「おはよう、スノウ」
      
       スノウもあまり眠れなかったのか、あくびをしていた。二人とも初々しいな、とは目を細める。きっと、他の新騎士団員も似たようなものなのだろう。
      
      「さぁて、と…タルたちは訓練所に行くとか言ってたけど僕らも行ってみるかい?」
      「そうだね、行こう」
      
       スノウの言葉には頷いた。きっと、タルたちも待っているだろう。たちは門をくぐって館に入った。
      
      「お、来たな」
      
       訓練所に入ると、案の定タルたち四人はたちが来るのを待っていた。先輩と話していた彼らは、たちに気づくと、手を振って呼びかける。
      
      「おはよ、スノウに。訓練してもらう?」
      「ああ、訓練しよう」
      「よし、行くぜ!!!!!!」
      
       ジュエルの言葉にスノウは頷く。気合いはたっぷりだ。タルも張り切って声を出した。その様子を見て、騎士団員たちは笑った。
      
      「さあ、誰でもいいぞ。遠慮せずかかってこい!」
      「おっ、さすがにホンモノの騎士はちがうね。思ってたより強そうじゃん。スノウ、びびってないでしょうね?」
      
       ジュエルは冗談混じりにそうスノウに言った。しかし、スノウは冗談とは受け取れなかったようで、眉を潜めた。
      
      「びびる?ばか言わないでくれ。きみはどうしてそう…まあいい。それじゃあ、準備はいいかい?」
      「もちろん」
      「手加減はなしだ。行くぞ!」
      
       の返事を合図に、先輩騎士団員たちが動き出した。たちも応えるように剣を構える。訓練開始だ。は訓練の邪魔にならないように彼らから離れた。
       こちらは6人、向こうは4人と人数的にはこちらが有利だ。しかし、向こうはたちの先輩。人数のハンデを感じさせない実力でたちを押している。たちは必死に対抗しているが、やはり実力の差は見えていた。
       しかし、まったく歯が立たないわけでもなかった。先輩騎士団員の方にも、若干の焦りが見え始めてきたのだ。どうやら、たちの予想外の実力に驚いているらしい。は彼らの様子を見ながらニヤリと笑った。
      
      「…そこまでた!」
      
       先輩の一人が声をあげた。他の騎士団員も剣を納める。たちは、全員膝をついていた。勝負は決まりだ。
      
      「あぁぁぁ悔しー!!!!」
      「あとちょっとだと思ったのにぃ!!」
      
       タルは大声で叫ぶ。ジュエルも、悔しそうにそう言った。口には出さないが、他の4人もとても悔しそうな表情を浮かべていた。
       先輩騎士団員は、多少荒くなった息を整えながら口を開いた。
      
      「お前たちなかなかやるな。今期生の中でもかなり優秀なほうなんじゃないか?」
      「もちろんですよ…!なんたって僕は、卒業生代表なんですから…!」
      
       先輩の言葉にスノウは息を荒げながらもそう答えた。さすがのプライドの高さには笑った。スノウだけでなく、他の皆も、先輩相手にここまで健闘できたことに喜びを感じているようだ。
      
      「はは、頼もしいな。それじゃあお前たち、任務しっかりこなしてこいよ」
      「はい!」
      
       たちは、ありがとうございましたと頭を下げて、その場をあとにした。も騎士団員に軽く会釈をしてたちのあとをついていった。
      
      「さぁ、いよいよ僕らの初任務だね。ま、任務と言ってもこの辺りの海を見回るだけ。楽なものだけど…。みんな、出発しよう」
      「うん」
      「よし、行こう!」
      
       たちは頷き合い、騎士団の港へ歩みを進めた。も後ろからそれについていく。港の哨戒船の近くまで来ると、任務役の騎士団員がこちらに気づいた。
      
      「お疲れ様です!」
      「ご苦労様。哨戒担当者だな?」
      「はい!」
      
       ジュエルが元気よく返事をすると、騎士団員は「いい返事だ」と笑った。
      
      「船は、後ろにあるのを使用してくれ」
      「はい」
      「では、次の二つの仕事から選べ。海であばれている生き物を10体以上倒す。または、ミドルポートまで文書を届ける。もちろん、文書を届けるほうが面倒だ。だが…ここだけの話文書を届けたほうが、カネもかせげる。ま、両方やるというのもアリだし…あせって決めることはない」
      
       騎士団員の話を聞いたスノウは、迷わず選択肢を決めた。スノウなら、選択肢は一つなのだろう。
      
      「もちろん、両方やりますよ。いいよね、みんな」
      「もちろんだ」
      「頑張りましょう」
      
       それはスノウだけでなく、他のみんなも同じだった。ケネスやポーラも強く頷いた。どうやら満場一致のようだ。
      
      「おっ!やる気だな。じゃ、この文書をミドルポートの港にいる仲間に渡してくるんだ。そのついでに海で暴れてるやつらも倒してこい。わかったな?」
      「はい!」
      「よし、行ってこい」
      
       スノウたちは行ってきますと敬礼をする。そして哨戒船に乗り、港を出発した。
       船旅は穏やかなものだった。ラズリル辺りの海域は比較的モンスターが大人しい。10体以上とは少ないのではないかと思ったが、ミドルポートまでの往復にはちょうどいい量だった。ある程度のモンスターを倒しつつ、たちはミドルポートに到着した。
       ミドルポートの港には、ガイエン海上騎士団の装備を身にまとった男がこちらを見て立っていた。恐らく彼に文書を渡せばよいのだろう。
      
      「お疲れ様です。任務を遂行しに来ました」
      「お、文書を届けてくれたか。では、これが報酬だ。また頼むよ」
      「はい、ありがとうございます!」
      
       スノウは騎士団員から報酬を受け取った。騎士団員はその場を去っていく。
       ミドルポートに来たついでに、スノウたちは物資の調達をすることにした。おくすりなどの必需品を買い、武器を鍛えてもらう。町の店を一通り回ってから、船に戻って出港をした。
2011.05.27
