花蓮から台北へ

 三日目は自強号(特急列車)に乗って台北に向かいます。8:02発で昨日とは逆に走り、11:25に20分ほど遅れて台北の駅の地下2階に到着しました。駅前には高さ244mの新光摩天展望台が聳えています。三越デパートもこの中にあります。

 私たちはバスで中正紀念堂へ向かいました。白い壁に青い屋根が印象的な高さ70mの建物で中には高さ6.3mの故蒋介石総統のブロンズ像があります。1時間ごとに衛兵の交替式があります。1階で総統の乗っていた車などを見学していた私たちはそのセレモニーに間に合わず、衛兵が最後の足の位置を決めるところでした。

 周囲は89段の石の階段で囲まれていますがこれは総統の存命した年数に因んだものです。もちろんここは彼のお墓ではありません。大陸に戻ることを夢見ていた彼は死んでも帰ることを許されず台湾の地に仮安置されています。広大な中山公園の中には国家戯劇院(国立劇場)と国家音楽廳(国立コンサートホール)が向かい合って立っています。

昼食は市内のレストランでモンゴリアンバーベキューでした。これは焼肉なのですが自分で肉や野菜を器に入れ、醤油やごま油など各種の調味料をかけて調理場に持っていくと調理師さんが大きな丸い鉄板の上で鮮やかな手つきで調理してくれるというわけです。7年前にも淡水で食べたことがあります。

昼食後、今度は革命忠烈祠へ向かいました。ここは国民革命や抗日戦などで犠牲になった約33万の将兵が祭られているところです。日本で言えば靖国神社と言ったところでしょうか。陸・海・空軍などが三ヶ月交替で衛兵に立ち、直立不動で英霊を守っています。本殿の前と門の両脇にそれぞれ2名、合計で4名と隊長が交替するところをはじめから終わりまで見ることができました。

身長180cm体重60kgの儀仗兵が機械仕掛けの人形のように正確に動きます。今回は空軍でしたが暑さの中、まばたきもほとんどなしに身動きせずに1時間立っているのはつらいのではと思ったりしました。ちなみに台湾は徴兵制があります。高校や大学から社会に出るのではなく、一度軍隊を経験してから実社会に入ります。

忠烈祠の衛兵交代の見学を終えて次はいよいよ故宮博物院に向かいます。故宮とは北京の紫禁城のことです。したがってここにある70万点に及ぶ文物はもともと紫禁城にあったものです。

1937年の盧溝橋事件に端を発した日中戦争が激化していく中で貴重な文物を戦禍や略奪から守るべく、安全な四川省や雲南省に大移動をさせたのです。1945年の終戦で南京に戻されたのですが、1948年の国共内戦の激化でその一部を国民政府が政府機関とともに台湾に移動させたのです。残りは北京の故宮博物院に戻されました。

しかしまだ一部は南京の博物院に残されたままになっています。何年か前にその一部が新宿の三越で公開されたのを見学に行きました。台北の故宮博物院は今回で二度目ですが北京の故宮博物院には一度も行ったことがありませんのでぜひ訪ねてみたいと思っています。

ツアーの見学時間は二時間と短いので重点的に興味のあるところを回る必要があります。この建物は4階建てですが4階は喫茶室なので321階と回ります。3階は玉器、彫刻、服飾、珍玩などですが珍玩のコーナーは模様替えの最中で見ることができませんでした。

彫刻のコーナーでは象牙の精緻な彫刻が圧巻です。今では作り方がわからない継ぎ目のない13層の球体「雕象牙透花人物套球」や親子三代にわたって製作されたという「雕象牙四層透花提食盒」などはとても人間業とも思えない作品です。

また玉器のコーナーでは有名な豚の角煮そっくりの「肉形石」や素材の特徴を生かしきったキリギリスが二匹とまっている「翠玉白菜」などもみごとです。またごく普通の一対の白い「玉杯」のまえでガイドさんからこんな話を聞きました。

「小さいほうの玉杯の一部が緑色に変色しているのがわかりますか。これは妻の涙の色です。昔中国の貴族の男性は若いうちに年上の女性と結婚しました。つまり女性にリードしてもらったわけです。しかし男性が一人前になると関心は当然、若い女性に向いていきます。相手にされなくなった妻は涙で玉杯の酒を飲みました。その涙が長年染み付いて色が変わったのです。」

真偽の程はわかりませんがなにやらありそうな話と思いませんか。つぎは2階に参りましょう。2階は陶磁器、絵画のコーナーです。佐藤栄作元首相夫人が寄贈した唐三彩「三彩天王増長天」などがありますが圧巻は汝窯の青磁でしょう。釉薬に瑪瑙の粉を加えているといわれ、世界でも30数点しか残っていません。その内、23点がここにあるのです。中でも素朴な美が重んじられた北宋の代表作「水仙盆」はその価格がジャンボ機一機に相当するといわれるほど高価なものです。

最後は1階です。ここは主に青銅器、甲骨文、殷墟など古い時代のものが展示されています。中国は紀元前2000年前から青銅器の時代を迎えておりさまざまな青銅器が作られました。青銅器は実用的なものからやがて祭器として用いられ権威の象徴となっていきました。それを物語るのは周囲の紋様で帝王を象徴する龍です。故宮博物院の展示物の中でいたるところに見られる五本指の龍は皇帝のみに許された紋様なのです。

故宮博物院を見学の後はお土産店とDFSの店を回ってショッピングです。私はあまり興味がないのでお店の中にあるインターネットのコーナーでインターネットを楽しみました。

DFS台湾は晶華酒店の地下にあるデューティー・フリーのお店で大変広く品数も豊富です。カードや日本円でも買い物ができます。その一角でMACのコンピュータが置いてあったのインターネットを楽しんだというわけです。お店のサイトも日本語でも見られますし、日本のサイトを見ても何も違和感無く快適につながりました。夕食はレストランで湖南料理でした。

 今晩の宿は松江路と長春路の交差点にある六福客桟(The Leofoo)というホテルです。今回のホテルの中では最も古く料金も安いのは前もってインターネットで調べてあったので納得の宿です。妻と息子はCDを買うために夜の街に出て行きましたが私は少し疲れたので部屋で風呂に入ることにしました。