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 2018年12月の整体
 烏口突起 うこうとっき の謎
 

ヒトの骨格の中でも とりわけ異様な形状で、とても気にかかる骨が

烏口突起 うこうとっき である。


形状そのものも独特であることはもちろん、

その名称も異彩を放って なにやら深遠な いわく が隠されていそうで

医学用語としては 不思議な詩情を発散させる術語である。



烏口突起 うこうとっき とは 以下の図を見てほしい。





これに 頸椎からの神経と動脈と静脈をえがいて ちがう角度から見ると、

左右の烏口突起 うこうとっき は、 以下の図のような位置となる。





肩甲骨のみを取り出して これを 前後から見た図が以下で、

烏口突起 うこうとっき は、肩甲骨の一体となっているのがよくわかる。




烏口突起 うこうとっき は、鳥のくちばしに見えないこともないが L字型の鍵のようにも見える。


そもそも その名称は、

江戸時代に 医学者 杉田玄白がオランダ語のRaavendeksを訳して、

カラスの嘴を意味する 烏喙 という名称に翻訳した所から始まる。

その後 変遷を経て、第2次大戦後、

「喙」という言葉を捨てて「烏口突起」を正式に命名された。


進化的には 烏口突起 うこうとっき は、 もともと 

肩甲骨とは別の独立した骨格である烏口骨 うこうこつ であったとのこと。

つまり進化の過程で 肩甲骨に烏口突起 うこうとっき が付着して一体となったのである。


烏口突起 うこうとっき の謎は、

烏口突起 
うこうとっき
 そのものの形状にもあるが それよりも、

なぜ 肩甲骨に
烏口突起 うこうとっき が付着して一体となったか? である。

肩甲骨に
烏口突起 うこうとっき が付着して一体となることで 

ヒトは どのような優位を獲得したのであろうか?


その謎を解析するために、少々遠回りになるが、

先に、烏口突起 うこうとっき の解剖から理解してみよう。


烏口突起 うこうとっき の解剖 


では 再度 烏口突起 うこうとっき の他の骨格と筋肉の連関性の図を見てみよう。





肩の骨を構成するものは 数えると、

肩甲骨、鎖骨、上腕骨からなり、烏口突起 うこうとっき は、肩甲骨と一体となっている。

上腕骨頭は上腕骨の先端で、肩甲骨の関節窩と組み合い、関節を形成する。

この関節は、図からわかるように 

上腕骨頭の大きなサイズと 浅く小さな関節窩との一見 不釣り合いな組み合わせとなって、

これが 肩関節の不安定性を決定する原因となっている。

もちろん このサイズの不釣り合いが 

逆に 肩の可動域の広域性を実現する根拠となっていることは、いうまでもない。


この肩関節のサイズ問題を解決するために 上腕骨頭と関節窩の周囲には、

関節上腕靭帯や腱板、三角筋などが厳重に包囲して、

肩の安定性が保持されるメカニズムとなっている。

これが 肩関節の特徴である。

さて こうした肩の肩甲骨の一角に

烏口突起
 うこうとっき が ニョキッとくっついて顔を出している。


この 烏口突起 うこうとっき に付着する筋肉群は、以下の通り。

烏口突起に付着する筋肉群 
 上腕二頭筋短頭  じょうわんにとうきんたんとう
 烏口腕筋  うこうわんきん
 小胸筋  しょうきょうきん








小胸筋は、

3つの筋線維がひとつに収束し、烏口突起に付着している。


肩甲骨の動きと小胸筋の動きが、烏口突起を支点として連動して動きをつくっている。

肩甲骨は上肢の挙上にあわせて上方回旋、後傾、外旋する。

小胸筋は下方回旋、前傾、内旋に作用する。


肩甲骨の運動と小胸筋の作用が 相反する形で拮抗しているのである。

こうした意味では 大きく言うと、

背中と肩と胸部の動きが烏口突起を起点として連動している と言っていい。

このため

小胸筋の障害と背部の上部の肩甲骨周囲の障害と連動することが多く。

また 肩関節の障害が 胸部と背部の痛みと深い関連を引き出す。


また

頚部から走行する腕神経叢が烏口突起への付着のすぐ下を走るため

特に 腕を挙上した時に 小胸筋の緊張が 腕神経叢を刺激圧迫して

腕に シビレや麻痺を生み出すことがある。


烏口腕筋は、

上腕筋や上腕二頭筋の補助的な役割をもつが、

肩関節の水平の内転時に 最大の力を発揮し、

特に 後ろ手にして腕をひねるときなどに作用する。


烏口突起 うこうとっき に付着する靭帯群は、以下の通りであるが、

烏口突起 うこうとっき に付着する靭帯群の特徴的なことは、

通常 靭帯とは、

骨格と骨格を関節を介して結合する緩衝機能を主の任務をすることが多いが、

烏口突起 うこうとっき に付着する靭帯群は、

烏口上腕靭帯は、関節を介するものの、

それ以外の3つの、

烏口肩峰靭帯、烏口鎖骨靭帯、肩鎖靭帯 は、関節を介せずに存在し、

なかでも 烏口肩峰靭帯は とりわけ 

靭帯の基本的な役割からは 逸脱した 不思議な感じを与える存在となっている。



烏口突起に付着する靭帯群
 烏口鎖骨靭帯  うこうさこつじんたい
 肩鎖靭帯  かたさじんたい
 烏口上腕靭帯  うこうじょうわんじんたい
 烏口肩峰靭帯  うこうけんぽうじんたい









肩関節を 矢状面で断面から見ると以下の様になっている。

烏口突起と肩峰と烏口肩峰靭帯の位置関係がわかりやすい。





烏口上腕靱帯については、

腱板疎部の構造 棘上筋と肩甲下筋との間は腱板疎部で占められるが,

この部位では烏口上腕靱帯が重要な役割を果たしている.

烏口上腕靱帯は,

烏口突起の基部から下面にかけて付着し,腱板疎部および腱板筋に付着しているが,

その構造は腱性部とは明らかに異なり,

明瞭な靱帯構造を持たず,柔軟性と伸張性に富む。

このため,肩関節の多様な運動に対して

烏口上腕靱帯はその形状を変えながらも,腱板筋上部を押さえる作用を担っている.

 かたや 烏口上腕靱帯は、

上関節上腕靱帯とともに,上腕二頭筋長頭腱の安定化にも寄与する.

上関節上腕靱帯は上腕二頭筋長頭腱をU字型のつり帯のように取り囲んでおり,

やがて遠位部で烏口上腕靱帯と融合する.





 トリの烏口突起はどうなっているのか?


すでに 冒頭でのべたように、

進化的には 烏口突起 うこうとっき は、 もともと 

肩甲骨とは別の独立した骨格である烏口骨 うこうこつ であったとのこと。

つまり進化の過程で

肩甲骨に烏口突起 うこうとっき が付着して一体となったのである。



この進化の過程を トリの骨格を見ることで追及してみよう。

トリは 肩甲骨と烏口突起 うこうとっき が独立して分離している。

下図が トリの全体骨格である。







肩甲骨と烏口骨は完全に分離して、

しかも 烏口骨は大きく太い。

この部分の拡大図が以下である。





さらに 正面から見た図が以下である。





ヒトの烏口突起と比べると 肩甲骨と比してかなりの存在感があるのである。

さらに特徴的なのが、烏口骨が胸骨とがっちり連結していることである。

トリの骨格のもっとトリらしい個性が胸骨である。

胸骨の下面中央には竜骨突起と呼ぶ突出した骨が発達していて、

他の脊椎動物には見られないほど大きくなっている。

これが いわゆる鳩胸をつくるのである。

この竜骨突起こそが、飛翔のために発達した筋肉の付着点となっており、

中空飛翔を可能にするのである。


こうした構造から トリの烏口骨は、

トリの特性を発揮するための重要なカギとなる事が理解できる。


さらに トリの鎖骨もヒトとは、重要な相違点がある。

鎖骨は胸骨から完全に離れ、左右が中央で癒合して前から見るとV字状になっているのである。


鎖骨は肩甲骨、烏口骨とともに triosseal canal と呼ぶ穴を形成し、

この穴を通って胸側にある烏口上筋の腱が上腕骨の上側に停止し

翼を持ち上げる働きをする。

また 大胸筋は上腕骨の下側に停止して翼を打ち下ろす働きをする。

鎖骨は胸腔の前端の支柱として、飛翔の際の翼の上げ下ろしに際してバネのように動いて、

飛翔に重要な役割を発揮する。

つまりは 鎖骨のあるなしが、空を飛ぶ鳥であるかどうかの重要な要素となっている。


こうしたことからわかるように、

ヒトは空を飛翔することがなくなったために

トリで圧倒的な存在感を放っている大きく太い烏口骨が

サイズも小さく、 しかも 肩甲骨の付属のような立場に変化したといえる。


これは ヒトの胸骨が トリにおける胸骨ほどの重要性がなくなった、

事が大きな要因ともいえる。


ただし 胸と肩甲骨を連結するという役割は、

烏口骨と烏口突起に共通し 進化してきたのである。


烏口突起 うこうとっき の謎


ここで 最初の疑問に なんとか解答ができる状況となってきた。

つまり

烏口突起 うこうとっき の謎は、

烏口突起 
うこうとっき
 そのものの形状にもあるが それよりも、

なぜ 肩甲骨に
烏口突起 うこうとっき が付着して一体となったか? である。

肩甲骨に
烏口突起 うこうとっき が付着して一体となることで 

ヒトは どのような優位を獲得したのであろうか?


ずばり その解答は、

ヒトは 2足歩行で地上を歩き、走るのに合理的なように

背中の肩甲骨と胸部を連結する橋となる 烏口突起 うこうとっき の形状と構成し、

トリは 大空を飛翔するのに都合の良いように

胸と腕の多大な負荷を維持できるように 烏口骨を維持してきた。

これが 謎を解く結論なのである。


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