雨の金津園

篠ひろ子にあったことはないのですが
でもビデオとか雑誌があるから
顔もからだも声も知っています
大粒の雨が降る岐阜県地方
長良川が氾濫して
洪水警報がばんばん流れた
雨の金津園
蝶ネクタイのおにいちゃんたちの傘が派手です
英国屋の篠ひろ子のところへ行って
夫は病気にかかりました
クラミジアというやつです
ミノマイシンが特効薬ですが
感染したわたしには効きません
わたしはミノマイシンが飲めない
女性が感染した場合には自覚症状がないから
篠ひろ子はそのまま稼ぎ続けているのでしょう

夜遅く走る列車がある
等間隔に小さく蛍光燈がともっているのがブルートレイン
音だけが響いて真っ暗な車両が長く続いているのが貨物列車
光の列がきれいに並んでいるのがふつうの電車
このごろでは十二時を過ぎてもふつうの電車が走るようになった
泡姫マンションの窓の下を通って
鉄橋をわたり川をこえ海を抜けて
OLの生活とも泡姫の生活とも無関係に
毎晩まいばん列車は走る
鉄道員も金津園へ行く
五万円あれば英国屋でもおつりがくる
かもしれない

同じ列車の窓の光を別の女も
部屋のカーテンをあけてみつめている
どこでもどんなまちでも
女たちが一仕事終えて部屋に戻ってくる
朝日を知らない泡姫マンションへ
がたんごとん揺れる列車の音に耳をすましている
ほかにはくるまの音が響く
高速道路に面した部屋に住む女もいる
新幹線で出勤したり
昼下がりの岐阜行き特急に乗ったり
メルセデスを転がしてきたりもする
泡姫マンションは最高に豪華で
それでもさらに高いところへ
もっと豪華なところへ
引越しを繰り返す
篠ひろ子はオーナーがパトロンなのですが
どんなマンションに住んでいるのか
金津園評論家もそこまでは知らない


つぎへ
詩集のもくじへ

表紙へ