mがつとめるデパートには毎日かならず買い物に行く
食料品も日用品も近所のスーパーでは買わない
化粧をしてパンプスをはいて地下駐車場にくるまを入れる
食料品売り場への通路を急ぐ
ほこりっぽい空気と排気ガスからはやく逃げたい
はやくしないとはやくしないと
mが若い女とつきあっていることは知っている
fのことを何人の従業員が知っているだろうか
ときどき視線を感じて振り向くことがある
それは婦人服売り場だったりおもちゃ売り場だったりする
ああここにmとつきあっている女がいるのだとfは思う
買い物にはmのカード
fのカードは家族カード
mのカードはとっても便利
給料の引き出しも身分証明もこれ一枚
fの買い物だって10%offになる
振り込まれて引き落とされて手に残らない現金
肉と魚と野菜とたまごを
毎日まいにち買って帰ると
冷蔵庫はすでにまんたんである
毎日まいにち奥のものから順番に腐っていく
肉と魚と野菜とたまごは
ひとつひとつビニール袋と包装紙にていねいに包まれていて
どんどんはがしてどんどん捨ててもいくらでもたまっていく
それでも毎日デパートへ行く
奥さんは知らないでしょうけどあたし
ご主人とつきあってるんです
そう思いながら商品を包む女がいる
このデパートの中のどこかにはいる
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